1. 「怖い」「せこい」と感じる?固定残業代の仕組みを理解しよう
    1. 固定残業代とは?その基本的な仕組み
    2. なぜ固定残業代制度が増えているのか?
    3. 固定残業代と通常残業代、どう違う?
  2. 固定残業代の「損」を避ける!超過分の支払いと請求について
    1. 固定残業代を超過した場合、追加で支払われるべき理由
    2. 未払い残業代が発生しやすいケースとその見分け方
    3. 未払い残業代を請求する具体的なステップ
  3. 固定残業代で損しないための注意点と確認すべきポイント
    1. 雇用契約時・入社前に必ずチェックすべきこと
    2. 給与明細で確認すべき項目とチェックポイント
    3. 最低賃金割れや不適切な金額設定を見抜く方法
  4. 固定残業代の相場は?月ごとの労働時間から見る実態
    1. 一般的な固定残業時間の設定とその背景
    2. 企業規模や業界による設定時間の違い
    3. 「36協定」と固定残業代の関連性
  5. 固定残業代に関する疑問を解決!よくある質問と回答
    1. Q1: 固定残業代は途中で変更されることはある?
    2. Q2: 営業手当や役職手当に固定残業代が含まれていると言われたら?
    3. Q3: 退職後に未払い残業代を請求することはできる?
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 固定残業代の「怖い」「せこい」といったイメージはどこからくるのでしょうか?
    2. Q: 固定残業代で損をしないためには、どのような点に注意すれば良いですか?
    3. Q: 固定残業代の超過分が支払われない場合、請求は可能ですか?
    4. Q: 固定残業代の月ごとの相場は、おおよそどれくらいですか?
    5. Q: 固定残業代について、さらに詳しい情報を知りたい場合、どこで調べられますか?

「怖い」「せこい」と感じる?固定残業代の仕組みを理解しよう

固定残業代とは?その基本的な仕組み

「固定残業代」や「みなし残業代」という言葉を聞いて、漠然とした不安や不信感を抱いた経験はありませんか?この制度は、毎月の給与に、あらかじめ定められた一定時間分の残業代を「見込み」として含めて支払う仕組みです。

企業側から見れば、給与計算の事務負担を軽減できるメリットがあります。また、従業員側にとっては、残業時間が少ない月でも一定の収入が保証されるという側面も存在します。

しかし、この制度が正しく運用されていない場合、思わぬ「落とし穴」にはまってしまうことがあります。たとえば、実際には固定残業時間をはるかに超えて残業しているのに、追加の残業代が支払われない、あるいは基本給が不当に低く設定されているといったケースです。

このような状況を避けるためには、まず固定残業代制度の基本的な構造を理解することが不可欠です。制度のメリットだけでなく、潜在的なデメリットやリスクを正しく認識することで、不当な労働環境から自身を守ることができます。

なぜ固定残業代制度が増えているのか?

近年、この固定残業代制度を導入する企業が急速に増加しています。実際、定額残業手当(固定残業制度)の実施率は、2010年の7.7%から2023年には23.3%へと大幅に増加しているというデータがあります。

企業が固定残業代制度を導入する背景には、いくつかの要因が考えられます。一つは、給与計算の簡素化です。毎月変動する残業時間を個別に計算する手間を省き、人事業務の効率化を図る目的があります。

また、求職者に対して給与額を魅力的に見せる戦略としても利用されることがあります。基本給に加えて「固定残業代〇円」と明記することで、総支給額が高く見え、優秀な人材の確保に繋がると期待する企業も少なくありません。

さらに、一定の残業時間を給与に含めることで、残業時間管理の意識を従業員に促し、業務効率化を期待する側面もあります。しかし、制度の目的が何であれ、その運用が法律に則っていなければ、企業にとっても従業員にとっても大きなリスクとなり得ます。制度導入の増加と比例して、トラブルも増えているのが現状です。

固定残業代と通常残業代、どう違う?

固定残業代と通常残業代は、どちらも残業に対する対価である点は同じですが、その性質は大きく異なります。通常残業代は、実際に働いた残業時間に応じて支払われる、いわば「働いた分だけ」の対価です。

一方、固定残業代は「あらかじめ一定時間分の残業を想定して、その分の賃金を給与に含めて支払う」ものです。たとえば、「固定残業代として月30時間分、5万円」と定められている場合、たとえその月の残業時間が10時間だったとしても、5万円は支払われます。これは従業員にとってはメリットと言えるでしょう。

しかし、その月の残業時間が30時間を超えて40時間になった場合、超過分の10時間に対する残業代は追加で支払われるのが法的な義務です。もしこれが支払われなければ、それは明確な未払い残業代となります。

この「超過分の支払いの有無」こそが、固定残業代制度を理解する上で最も重要なポイントの一つです。固定残業代が支払われているからといって、無制限に残業をしても追加賃金が発生しないと誤解していると、気づかないうちに大きな損をしてしまう可能性があります。

固定残業代の「損」を避ける!超過分の支払いと請求について

固定残業代を超過した場合、追加で支払われるべき理由

固定残業代制度は、あくまで「一定時間分の残業」に対する事前支払いです。そのため、契約で定められた固定残業時間を実際に超えて労働した場合、その超過分に対する残業代は、別途、法定の割増賃金として支払われなければなりません

これを支払わないことは、労働基準法違反にあたります。労働基準法は、労働者が法定労働時間を超えて労働した場合、企業が割増賃金を支払うことを義務付けており、固定残業代制度はこの原則を免除するものではありません。

企業が「固定残業代を払っているから、どれだけ残業しても追加の支払いは不要」という説明をするケースがありますが、これは完全に誤った解釈です。契約書や就業規則に明記された固定残業時間を一歩でも超えれば、その瞬間から追加の残業代が発生する権利が労働者にはあります。

特に注意が必要なのは、固定残業代を支払っているにもかかわらず、タイムカードの打刻をさせない、あるいはサービス残業を強いるような企業です。このような行為は重大な法令違反であり、労働者は自身の権利を主張し、適切な対価を求めるべきです。

未払い残業代が発生しやすいケースとその見分け方

固定残業代制度の下で未払い残業代が発生しやすいケースはいくつかあります。最も典型的なのは、従業員自身が「固定残業代に含まれているから、いくら残業しても追加で給料は増えない」と誤解している場合です。

また、給与明細に「残業代込み」や「各種手当」とだけ記載され、固定残業代が基本給や他の手当と明確に区分されていない場合も注意が必要です。このような曖昧な表示は、固定残業代として認められない可能性があり、結果として未払い残業代が発生しているとみなされることがあります。

さらに、実際には毎月の残業時間が固定残業時間を大幅に超えているにもかかわらず、給与が増えない、あるいは残業申請をしても却下されるといったケースも、未払い残業代の典型的な兆候です。

自身の労働実態と給与明細を照らし合わせ、「自分の月の残業時間は何時間で、何時間分が固定残業代として支払われているのか」「それを超えた分が追加で支払われているか」を常に確認することが、未払い残業代を見分ける重要なポイントとなります。

未払い残業代を請求する具体的なステップ

もし、固定残業代制度の下で未払い残業代が発生していると感じたら、諦めずに請求手続きを進めることが重要です。具体的なステップは以下の通りです。

  1. 残業代の正確な計算: まず、本来支払われるべき残業代を正確に計算します。これには、基本給、固定残業代、実際の残業時間、深夜・休日・時間外の各種割増率などを考慮する必要があります。複雑な場合は専門家の助けを借りるのが賢明です。
  2. 証拠の収集: 未払い残業代を請求する上で最も重要なのは「証拠」です。タイムカード、業務日報、出退勤記録のあるPCログ、会社のメールやLINEのやり取り、上司からの指示書など、実際の労働時間を証明できるものを可能な限り集めましょう。
  3. 会社への直接交渉: 証拠を基に、まずは会社に対して未払い残業代の支払いを直接交渉します。内容証明郵便などで請求書を送付し、記録を残すことが重要です。
  4. 労働基準監督署への申告: 直接交渉が難しい場合や会社が対応に応じない場合は、労働基準監督署に相談・申告することも可能です。監督署は企業への行政指導や勧告を行うことができます。
  5. 弁護士への相談・依頼: 残業代の計算が複雑、会社との交渉がうまくいかない、あるいは法的な手続きが必要となる場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士は、労働基準法の専門知識に基づいた的確なアドバイスを提供し、会社との交渉や裁判手続きを代理で行ってくれます。最新の判例動向も踏まえ、あなたの権利を最大限に守る有利な解決を目指すことができるでしょう。

固定残業代で損しないための注意点と確認すべきポイント

雇用契約時・入社前に必ずチェックすべきこと

固定残業代制度のある企業に入社を検討する際、または現職で制度について確認する際、最も重要なのは雇用契約書や就業規則の記載内容を徹底的に確認することです。固定残業代に関する事項は、これらの書面に明確に記載されている必要があります。

具体的には、以下の点を重点的にチェックしましょう。

  • 固定残業代の明記: 固定残業代が給与のどの部分に該当するのか、他の手当(営業手当、役職手当など)とは明確に区分されているかを確認してください。「手当の中に残業代が含まれる」といった不明瞭な記載は、後々トラブルの原因となることがあります。
  • 固定残業時間と金額: 何時間分の残業に対して、いくらの固定残業代が支払われるのかが具体的に明記されているかを確認します。
  • 超過分の支払いに関する規定: 固定残業時間を超えて労働した場合に、その超過分がどのように計算され、支払われるのかについても必ず確認が必要です。これが明記されていない場合、後から追加請求を拒否されるリスクがあります。

これらの情報が不明瞭な場合や、口頭での説明と書面での記載内容が異なる場合は、入社前に必ず会社に問い合わせ、疑問点を解消しておくべきです。曖昧なまま入社すると、後悔することになりかねません。

給与明細で確認すべき項目とチェックポイント

入社後も、毎月の給与明細を定期的に確認することが、固定残業代制度で損をしないための重要な習慣です。給与明細からは、多くの重要な情報を読み取ることができます。

まず、固定残業代が基本給や他の手当と明確に区分して記載されているかをチェックしてください。たとえば、「基本給」と「固定残業手当」が別項目で計上されているのが理想的です。もし「諸手当」のように一括で記載されている場合は、会社に内訳を確認しましょう。

次に、自身の実際の残業時間と、給与明細に記載されている固定残業時間、そして超過分の残業代が正しく反映されているかを照らし合わせます。もし、固定残業時間を超えて残業したにもかかわらず、時間外手当として追加の支払いが計上されていない場合は、未払い残業代が発生している可能性が高いです。

また、基本給が最低賃金を下回っていないかも確認しましょう。固定残業代を含めて最低賃金をクリアしているように見えても、固定残業代を除いた基本給部分で最低賃金を下回っているケースがあります。これは違法ですので、注意が必要です。

最低賃金割れや不適切な金額設定を見抜く方法

固定残業代制度は、労働基準法の原則に則って運用されなければなりません。特に「最低賃金割れ」と「労働実態との乖離」には注意が必要です。

まず、最低賃金割れがないかを確認する方法です。固定残業代を含んだ総支給額ではなく、固定残業代を除いた「基本給」を時間給に換算し、それがお住まいの地域の最低賃金を下回っていないかをチェックしてください。最低賃金は毎年改定されるため、最新の情報を確認することが大切です。

計算式:(基本給)÷(1ヶ月の所定労働時間)≧(地域の最低賃金)

次に、固定残業代の金額設定が、実際の労働時間や労働内容とかけ離れていないかを確認します。例えば、「固定残業代5時間分として10万円」といった、明らかに不自然な高額設定は、実質的に基本給をごまかすための手段とみなされ、固定残業代として無効とされる可能性があります。

さらに、時間外労働が月60時間を超える場合、割増率が50%以上(中小企業は2023年4月1日から適用)に引き上げられます。深夜労働や休日労働についても、それぞれ別途の割増賃金が加算される必要があります。これらの割増率が正しく適用されているかどうかも、不適切な金額設定を見抜く上で重要なポイントとなります。

固定残業代の相場は?月ごとの労働時間から見る実態

一般的な固定残業時間の設定とその背景

固定残業代制度における、1ヶ月あたりの固定残業時間の設定には一定の傾向が見られます。近年の調査によると、定額残業手当で設定されている1ヶ月あたりの時間数は、「30時間」が最も多く37.7%、「20時間」が14.8%となっています。

これらを合わせると、多くの企業で1日あたり1〜1.5時間程度の残業時間と対応する残業代が設定されているケースが多いと考えられます。これは、法定労働時間(1日8時間)に加えて、常態的な残業をある程度見込んでいる実態を示しています。

このような設定の背景には、企業が業務の実態に合わせて残業をある程度前提とする一方で、無制限な残業を抑制し、労働時間管理の目安としたいという意図があります。また、労働者にとっても、一定の残業が発生しても給与が変動しない安心感があるため、両者のニーズが合致する形で普及している側面もあるでしょう。

しかし、この設定時間数が自身の実際の残業時間と大きく乖離している場合は注意が必要です。たとえ30時間分の固定残業代が支払われていても、毎月40時間、50時間と残業しているなら、その超過分は請求すべき未払い残業代となります。

企業規模や業界による設定時間の違い

固定残業時間の設定は、一概に全国一律というわけではありません。企業規模や業界の特性によって、その設定時間や金額に違いが見られることがあります。

たとえば、IT業界のベンチャー企業やクリエイティブ業界など、プロジェクトベースで業務が進み、納期直前などに残業が集中しやすい業界では、比較的長めの固定残業時間が設定される傾向があるかもしれません。これは、個々の裁量に任せる働き方が多く、労働時間の管理が難しいという実態が背景にあると考えられます。

一方で、製造業やサービス業など、シフト制勤務や明確な業務フローがある業界では、残業時間が予測しやすく、固定残業時間も比較的短めに設定されたり、そもそも固定残業代制度を導入していない企業も多く存在します。

また、大企業と中小企業でも違いが見られることがあります。中小企業では、人手不足を補うために、従業員一人当たりの業務量が多くなりがちで、結果として固定残業時間が長めに設定されるケースも考えられます。

求人情報などで固定残業代制度が提示された際には、自分の応募する企業や業界の一般的な働き方と照らし合わせ、その設定が妥当であるかを検討することが重要です。</

「36協定」と固定残業代の関連性

企業が従業員に法定労働時間を超える残業や休日労働を命じるためには、労働基準法に基づき「36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)」を労働者代表との間で締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。これは、固定残業代制度が導入されている企業でも例外ではありません。

つまり、たとえ固定残業代が給与に含まれていても、36協定が締結・届出されていなければ、企業は従業員に法的に残業を命じることはできません。もし36協定が締結されていない状態で残業をさせ、その対価として固定残業代を支払っていたとしても、その固定残業代の有効性が裁判で否定される可能性もあります。

36協定には、延長できる労働時間の上限が定められています(原則として月45時間、年360時間)。この上限を超えて残業をさせることは原則として違法であり、特別条項を設けても、年間の上限は720時間、単月で100時間未満など、厳しい規制があります。

固定残業代制度を利用して残業を命じる企業で働く際は、その企業が適切に36協定を締結し、かつ残業時間の上限を守っているかどうかも確認すべき重要なポイントとなります。

固定残業代に関する疑問を解決!よくある質問と回答

Q1: 固定残業代は途中で変更されることはある?

固定残業代に関する事項は、雇用契約書や就業規則に明記された労働条件の一部です。そのため、原則として、労働者の合意なく、企業が一方的に固定残業制度を廃止したり、減額したりすることは法的に困難です

労働条件の変更は、労働契約法により、労働者と企業の合意に基づいて行われるのが原則とされています。もし企業が一方的に固定残業代を減額しようとした場合、それは不利益変更にあたり、無効となる可能性が高いです。

ただし、社会情勢の変化や経営状況の悪化など、合理的な理由がある場合は、就業規則の変更によって労働条件が変更される可能性もあります。その場合でも、変更内容の合理性や、労働者への十分な説明と周知、意見聴取の手続きなどが求められます。

もし、会社から固定残業代の変更を打診された場合は、その理由や変更内容をよく確認し、納得できない場合は安易に同意せず、労働組合や労働基準監督署、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

Q2: 営業手当や役職手当に固定残業代が含まれていると言われたら?

「営業手当の中に残業代が含まれている」「役職手当が固定残業代も兼ねている」といった説明をされるケースがあります。しかし、労働基準法では、固定残業代が基本給や他の手当と明確に区分されて記載されていることを求めています。

つまり、単に「営業手当」や「役職手当」という名目で支払われる手当の中に、残業代が含まれていると口頭で言われたとしても、給与明細や雇用契約書において「固定残業代として〇時間分、〇円」のように具体的に明記されていなければ、それは固定残業代とは認められない可能性が高いです。

裁判例においても、手当に残業代が含まれていると認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

  1. 通常の労働時間の賃金部分と時間外労働の割増賃金部分が明確に区分できること。
  2. 労働契約や就業規則などで、どの手当のどの部分が時間外労働等の対価として支払われるものか、その計算方法が明確であること。

もし、あなたの給与明細にそのような明確な記載がなく、具体的な残業代の内訳が不明瞭な場合は、会社に詳細な説明を求めましょう。説明が不十分な場合や納得できない場合は、未払い残業代が発生している可能性も視野に入れ、専門家への相談を検討してください。

Q3: 退職後に未払い残業代を請求することはできる?

はい、退職後であっても、企業に対して未払い残業代を請求することは可能です。退職したからといって、過去の未払い賃金に対する権利が消滅するわけではありません。

ただし、未払い残業代には時効があります。現在の労働基準法では、賃金請求権の時効は原則として3年と定められています(当面は経過措置として3年ですが、将来的には5年に延長される可能性があります)。つまり、未払い賃金が発生した時点から3年が経過すると、その期間の賃金は請求できなくなる可能性があります。

退職後に請求を行う場合、在職中に比べて証拠の収集が難しくなることがあります。タイムカードや業務日報などの労働記録にアクセスできなくなる可能性があるため、もし未払い残業代の疑いがある場合は、在職中から証拠を集めておくことが非常に重要です。

退職後の請求は、会社との交渉も在職中以上に難航するケースが少なくありません。そのため、弁護士のような専門家に相談し、適切な手続きや交渉を依頼することをお勧めします。時効が迫っている場合は、特に迅速な行動が求められます。