時間外労働と休日労働、何が違う?基本を理解しよう

法定労働時間と時間外労働の定義

日本の労働基準法では、労働時間の上限が明確に定められています。
原則として、労働時間は1日8時間、週40時間を超えてはならないとされています。
これが「法定労働時間」です。
この法定労働時間を超えて従業員に労働させた場合、それは「時間外労働」、いわゆる「残業」とみなされます。

時間外労働をさせる場合、後述する三六協定の締結と届出が必須となります。
また、時間外労働に対しては、通常の賃金に加えて割増賃金を支払う義務があります。
その割増率は、原則として25%以上と定められており、たとえば時給1000円の従業員が時間外労働をした場合、1時間あたり1250円以上を支払う必要があります。
これは労働者の健康と生活を守るための重要なルールであり、企業は厳守しなければなりません。

法定休日と休日労働の定義

労働基準法では、使用者に対し、少なくとも毎週1日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えることを義務付けています。
この法律によって与えられた休日を「法定休日」と呼びます。
例えば、多くの企業では日曜日を法定休日と定めていることが多いでしょう。

この法定休日に労働させることを「休日労働」と言います。
休日労働をさせる場合も、時間外労働と同様に三六協定の締結と届出が必要です。
休日労働に対する割増賃金率は、時間外労働よりも高く、35%以上と定められています。
法定休日以外の休日に労働させた場合は「法定外休日労働」と呼ばれ、週40時間を超えていれば時間外労働として25%以上の割増賃金の対象となりますが、法定休日労働とは区別されます。

両者の違いと留意点

時間外労働と休日労働の最も大きな違いは、その割増賃金率と、適用される上限規制の考え方にあります。
時間外労働が原則25%以上の割増であるのに対し、休日労働は35%以上の割増となります。
これは、労働者の休息をより強く保障するという法の趣旨が反映されています。

また、時間外労働には、後述する月45時間、年360時間という具体的な上限規制が適用されますが、休日労働はこの時間外労働の上限規制の対象外です。
ただし、特別条項付き三六協定で上限を延長する場合、時間外労働と休日労働の合計時間で月100時間未満、かつ2ヶ月から6ヶ月の平均が80時間以内という規制が適用されます。
企業は、これらの違いを正しく理解し、従業員の労働時間を適切に管理することが、法令遵守と従業員の健康維持のために不可欠です。

三六協定とは?押印は必要?協定書の作成と注意点

三六協定の役割と法的根拠

「三六協定」という言葉は、労働基準法第36条に由来します。
この協定は、企業が従業員に法定労働時間を超えて働かせたり(時間外労働)、法定休日に働かせたりする場合に、必ず締結しなければならない労使間の合意です。
労働基準法は、労働者の健康と生活を守るため、労働時間に厳格な制限を設けていますが、事業運営上やむを得ずこれを超える労働が必要となる場合に、一定の条件のもとでそれを可能にするのが三六協定の役割です。

もしこの協定を結ばずに法定労働時間を超える労働や法定休日労働をさせた場合、企業は労働基準法違反となり、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となります。
したがって、三六協定は単なる事務手続きではなく、企業が適法に事業活動を行うための重要な法的義務と言えるでしょう。

協定書の作成と届出のプロセス

三六協定を締結するためには、まず事業主と労働者の代表者との間で協議を行う必要があります。
労働者の代表者とは、労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を指します。
過半数代表者は、企業側から指名するのではなく、労働者側の自由な意思に基づいて選出されなければなりません。

協定書には、時間外労働や休日労働をさせる業務の種類、対象となる労働者の数、1日・1ヶ月・1年あたりの時間外労働の上限時間、休日労働をさせる休日、有効期間などを具体的に記載します。
この協定書が完成したら、所轄の労働基準監督署に届け出ることが法律で義務付けられています。
届け出て初めて、三六協定は法的な効力を持ちます。

押印の有無と電子申請の活用

これまで、三六協定届には事業主と労働者代表の押印が必要とされていました。
しかし、働き方改革の一環として、行政手続きの簡素化が進められ、2021年4月1日からは三六協定届への押印は不要となりました。
これにより、協定書の作成・提出にかかる手間が軽減され、よりスムーズな手続きが可能になっています。

また、現在は厚生労働省の「e-Gov」などのシステムを利用して、三六協定届を電子申請することも可能です。
電子申請を活用すれば、労働基準監督署に出向くことなく、オンラインで手続きを完了できるため、企業の負担をさらに軽減できます。
協定を締結し、届け出た後は、その内容を従業員に周知することも企業の義務であることを忘れてはなりません。
職場の見やすい場所に掲示したり、書面で配布したりするなど、従業員がいつでも確認できるようにしましょう。

時間外労働の上限規制とは?改正のポイントと制限の考え方

原則的な上限規制の詳細

働き方改革関連法により、時間外労働には罰則付きの上限規制が設けられました。
これは、過労死や過重労働による健康障害を防止し、労働者のワークライフバランスを改善するための非常に重要な改正点です。
原則として、時間外労働は月45時間、かつ年360時間を超えることはできません。

この原則は、労働者一人ひとりの健康を守るための基準として設定されており、企業はこの上限を厳守する義務があります。
もしこの上限を超えて労働させた場合、企業は労働基準法違反として罰則の対象となる可能性があります。
全ての労働者にとってこの上限が守られるよう、企業は適切な労働時間管理システムの導入や、業務プロセスの見直しを積極的に行う必要があります。

特別条項付き協定の条件と限界

事業運営上、突発的な業務の増加や緊急対応など、「臨時的な特別の事情」がある場合には、原則の上限を超えて時間外労働をさせることが認められる「特別条項付き三六協定」を締結することができます。
ただし、この特別条項にも厳格な上限が設けられています。

主な制限は以下の通りです。

  • 年間の時間外労働は720時間以内であること。
  • 時間外労働と休日労働の合計が、月100時間未満であること。
  • 時間外労働と休日労働の合計が、2ヶ月から6ヶ月の平均で80時間以内であること。
  • 月45時間を超えることができるのは、年6ヶ月までであること。

これらの上限は、いかなる場合でも超えることは許されません。
もしこれらの上限を超過した場合、企業は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という重い罰則が科される可能性があります。
「臨時的な特別の事情」とは、あくまで予測できない、一時的な事情に限られるため、恒常的な業務量増加を理由とすることは認められません。

割増賃金率の変更と特例措置

働き方改革では、割増賃金率に関する変更も重要なポイントです。
これまで、大企業と中小企業とで差が設けられていた月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が、2023年4月からは中小企業でも50%以上に引き上げられました
これにより、全ての企業で長時間労働に対するコストが増加し、長時間労働の抑制をさらに促す効果が期待されています。

一方で、一部の業種には、時間外労働の上限規制の適用が猶予されたり、特例措置が設けられたりしています。
例えば、自動車運転業務や建設業、医師などについては、業務の特殊性から一定期間、適用が猶予されており、順次新たな規制が導入される予定です。
企業は、自社の業種がこれらの特例に該当するかどうかを確認し、今後の法改正の動向にも注意を払う必要があります。
これらの改正は、労働者の健康確保と生産性向上の両立を目指すものです。

時間外労働が上限を超えた場合:企業と労働者の対応

企業が負う法的責任と罰則

時間外労働が法定の上限規制を超過した場合、企業は重大な法的責任を負うことになります。
前述の通り、労働基準法違反として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。
これは企業経営にとって非常に大きなリスクであり、刑事罰だけでなく、社会的な信頼の失墜にも繋がります。

また、上限を超えた時間外労働は、従業員の心身の健康を著しく損なう危険性があります。
もし過重労働が原因で従業員が健康障害を発症したり、最悪の場合、過労死に至ったりした際には、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を問われる可能性もあります。
このような事態は、企業の存続にも関わるほどの打撃となるため、経営者は時間外労働の上限規制を厳守し、労働時間管理を徹底する責任があります。

労働者の健康への影響と相談窓口

長時間労働は、労働者の健康に深刻な影響を及ぼします。
肉体的な疲労の蓄積はもちろんのこと、睡眠不足による集中力の低下や判断力の鈍化、さらには高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクを高めます。
また、精神的なストレスも大きく、うつ病などの精神疾患を引き起こす原因ともなり、最悪の場合は過労死や過労自殺といった悲劇に繋がることもあります。

もしご自身や職場の同僚が長時間労働に苦しんでいると感じたら、一人で抱え込まず、適切な相談窓口を利用することが重要です。
具体的な相談窓口としては、労働基準監督署(総合労働相談コーナー)、社内の産業医保健師人事担当者、あるいは労働組合などが挙げられます。
外部の専門機関としては、地域の精神保健福祉センターや弁護士なども相談に応じてくれます。
労働者が自身を守るためにも、これらの情報を知っておくことが大切です。

適切な労働時間管理と是正措置

時間外労働の上限規制を遵守し、従業員の健康を守るためには、企業による適切な労働時間管理と、必要に応じた是正措置が不可欠です。
まず、労働時間の客観的な記録は必須です。タイムカードや入退室記録、PCログなどを用いて、実際の労働時間を正確に把握することが重要です。
自己申告のみに頼るのではなく、実態との乖離がないか定期的に確認しましょう。

もし時間外労働が恒常的に発生している部署がある場合は、その原因を究明し、業務プロセスの見直し、人員配置の適正化、ITツールの導入による効率化などを図る必要があります。
また、従業員が有給休暇を積極的に取得できるような雰囲気作りや、ノー残業デーの導入、定時退社を奨励する施策なども有効です。
これらの取り組みを通じて、企業文化全体で長時間労働を是正し、生産性の高い働き方へと転換していくことが求められています。

くるみん認定で働き方改革を推進!時間外労働との関係性

くるみん認定の概要とメリット

「くるみん認定」とは、次世代育成支援対策推進法に基づき、従業員の子育てをサポートするための行動計画を策定し、一定の基準を満たした企業が厚生労働大臣から認定を受けることができる制度です。
この認定マークは、コウノトリのイラストが目印で、子育てサポートに積極的な企業であることの証となります。

くるみん認定を取得することには、企業にとって数多くのメリットがあります。
まず、企業のイメージアップに繋がり、社会的な評価が高まります。
これは、特に新卒採用や中途採用において、優秀な人材を獲得するための強力なアピールポイントとなります。
さらに、日本政策金融公庫からの低利率融資や、公共調達における加点評価など、経済的な優遇措置も受けられる場合があります。
従業員にとっても、安心して子育てと仕事が両立できる職場環境が整備されるため、モチベーション向上や定着率の改善にも寄与します。

認定基準における労働時間要件

くるみん認定の取得基準は、単に育児休業の取得率が高いだけでなく、従業員の「働き方」全般、特に労働時間についても厳格な要件を設けています。
これは、子育て支援だけでなく、従業員が健康的に働ける環境を整備することが、次世代育成支援の基盤となるという考えに基づいています。

主な労働時間に関する基準(2024年7月現在、一部抜粋)は以下の通りです。

  • 計画期間終了事業年度において、労働者一人当たりの時間外労働時間が各月45時間未満であること。
  • 計画期間終了事業年度において、月平均の法定時間外労働60時間以上の労働者がいないこと。

特に「各月45時間未満」という基準は、時間外労働の上限規制の原則である月45時間を厳格に守ることを求めています。
つまり、くるみん認定を目指す企業は、法定の最低限度だけでなく、より積極的に時間外労働の削減に取り組み、従業員の負担軽減を図る必要があるのです。
くるみん認定は、子育て支援だけでなく、適切な労働時間管理を通じた働き方改革の推進も企業に促しています。

プラチナ・トライくるみん、プラス認定と今後の改正

くるみん認定には、企業の取り組みのレベルに応じていくつかの種類があります。
基本的な「くるみんマーク」に加え、より高い水準を満たした企業には「プラチナくるみんマーク」が与えられます。
また、これから子育て支援に取り組む企業が、まずは最初の一歩として取得できる「トライくるみんマーク」も導入されています。
例えば、男性従業員の育児休業取得率の基準は、トライくるみんでは10%以上、くるみんでは30%以上、プラチナくるみんでは50%以上(または育児目的休暇と合わせて50%以上)と段階的に厳しくなります。

さらに、不妊治療と仕事との両立を支援する企業を評価する「プラス認定」もあり、多様な働き方への支援が求められています。
くるみん認定の基準は、社会情勢の変化に合わせて定期的に見直されており、2025年4月1日からは男性の育児休業取得促進に関する基準がさらに強化される予定です。
企業は、これらの最新情報を常に把握し、自社の取り組みを継続的に改善していくことで、持続可能で魅力的な職場環境を構築し、真の働き方改革を推進していくことが期待されています。