1. 賞与は社会保険料・税金にどう影響?令和7年以降も知っておきたい基本
  2. 賞与にかかる社会保険料の基本
    1. 標準賞与額とは?計算の基本ルール
    2. 社会保険料率の具体例と負担の割合
    3. 社会保険料が免除されるケースと注意点
  3. 賞与にかかる税金(所得税)の仕組み
    1. 賞与所得税の計算方法と源泉徴収税率
    2. 社会保険料控除で税負担を軽減する
    3. 令和7年税制改正が賞与の手取りに与える影響
  4. 社会保険料・税金負担を抑えるための賞与の考え方
    1. 賞与の手取り額を最大化するための基礎知識
    2. 家族の社会保険料を支払うことのメリット
    3. 年間の支給回数を検討する戦略
  5. 賞与を給与に上乗せするメリット・デメリット
    1. 賞与から給与へのシフトで変わる社会保険料
    2. 所得税・住民税への影響とその注意点
    3. 従業員満足度と企業の経営戦略
  6. 労災保険料・労働保険料と賞与の関係
    1. 労働保険料(雇用保険・労災保険)の基本
    2. 賞与が雇用保険料に与える影響
    3. 労災保険料は賞与にかからない?
  7. まとめ
  8. よくある質問
    1. Q: 賞与にかかる社会保険料は、毎月の給与の社会保険料と計算方法が異なりますか?
    2. Q: 賞与から所得税はどのように計算されますか?
    3. Q: 賞与を給与に上乗せするメリットは何ですか?
    4. Q: 令和7年以降、賞与に関する社会保険料の料率や制度に変更はありますか?
    5. Q: 労災保険料や労働保険料は賞与からも徴収されますか?

賞与は社会保険料・税金にどう影響?令和7年以降も知っておきたい基本

夏のボーナスや年末の賞与は、私たちの生活を豊かにしてくれる嬉しい収入です。しかし、その賞与からも、毎月の給与と同様に社会保険料や税金が控除されていることをご存じでしょうか?

特に令和7年(2025年)以降の税制改正なども踏まえ、賞与が社会保険料や税金にどのように影響するのかを理解することは、賢く手取りを増やす上で非常に重要です。

この記事では、賞与にかかる社会保険料と税金の基本的な仕組みを、具体的な例を交えながらわかりやすく解説します。ぜひ、ご自身の賞与明細を確認する際の参考にしてください。

賞与にかかる社会保険料の基本

賞与から控除される社会保険料は、将来の安心を支える大切なものです。健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料の4種類が主な対象となります。これらの保険料は、賞与の支給額に基づいて計算されますが、その計算には「標準賞与額」という概念が用いられます。

標準賞与額とは?計算の基本ルール

賞与にかかる社会保険料の計算では、まず「標準賞与額」を算出します。これは、支給された賞与の総額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額です。例えば、賞与が505,800円だった場合、標準賞与額は505,000円となります。

ただし、標準賞与額には上限があり、1回の支給につき150万円と定められています。たとえ200万円の賞与が支給されたとしても、社会保険料の計算対象となる標準賞与額は150万円が上限となります。この標準賞与額に、それぞれの保険料率を掛けて、控除される社会保険料が決定されるのです。

主な社会保険料率の目安としては、厚生年金保険料率が18.3%(2017年以降固定)、健康保険料率・介護保険料率・雇用保険料率は加入している健康保険組合や事業所の業種、年度によって変動します。

社会保険料率の具体例と負担の割合

社会保険料率は加入している健康保険組合によって異なりますが、多くの企業が加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)を例に見てみましょう。東京都所在の事業所の場合、健康保険料と介護保険料を合わせた保険料率は約11.58%です(40歳以上の従業員の場合)。このうち、従業員が負担するのはその半額となります。

また、雇用保険料率は業種によって異なりますが、一般の事業では労働者負担分が0.6%です。これらを合わせると、例えば標準賞与額が50万円の場合、従業員が負担する社会保険料の目安は以下のようになります。

  • 厚生年金保険料: 500,000円 × 18.3% ÷ 2 = 45,750円
  • 健康保険料・介護保険料: 500,000円 × 11.58% ÷ 2 = 28,950円
  • 雇用保険料: 500,000円 × 0.6% = 3,000円

合計約77,700円が、賞与から社会保険料として控除されることになります。これはあくまで目安であり、保険料率は毎年見直されますので、最新の情報はご自身の加入している健康保険組合や会社の担当部署に確認することが大切です。

社会保険料が免除されるケースと注意点

原則として賞与には社会保険料がかかりますが、一部例外的に免除されるケースもあります。

  • 退職する従業員への賞与: 退職日によって社会保険料の対象とならない場合があります。例えば、月末退職の場合、その月の社会保険料は発生しますが、月の途中で退職した場合は発生しないなど、細かいルールがあります。
  • 産前産後休業・育児休業中の従業員への賞与: 健康保険や厚生年金保険の保険料は、申請をすることで免除されます。これは、休業中の経済的負担を軽減するための措置です。ただし、雇用保険料や所得税はかかる場合がありますので注意が必要です。

また、賞与が年に4回以上支給される場合、その賞与は「毎月の給与」と同様に扱われることがあります。この場合、標準賞与額ではなく、標準報酬月額を基準に社会保険料が算定されることになり、通常の賞与とは計算方法が異なります。このようなケースに該当する場合は、会社の担当部署に確認することをおすすめします。

賞与にかかる税金(所得税)の仕組み

賞与は、社会保険料が控除された後、さらに所得税が源泉徴収されます。この所得税の計算は、毎月の給与とは少し異なる独自のルールに基づいて行われます。手取り額を左右する重要な要素なので、その仕組みを理解しておきましょう。

賞与所得税の計算方法と源泉徴収税率

賞与から控除される所得税は、以下の計算式に基づきます。

所得税額 = (賞与支給額 – 社会保険料) × 源泉徴収税率

ここで重要なのが「源泉徴収税率」です。この税率は一律ではなく、主に以下の要素によって決定されます。

  • 賞与支給月の前月の給与額: 前月の給与額が多いほど、賞与にかかる税率も高くなる傾向があります。
  • 社会保険料控除後の賞与額: 社会保険料が控除された後の金額を基準に税率が適用されます。
  • 扶養親族等の数: 扶養している家族が多いほど、税負担が軽減されるように税率が調整されます。

国税庁が公表している「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」にこれらの情報を当てはめて税率を特定します。ただし、前月の給与がない場合や、賞与が前月の給与の10倍を超える場合など、計算方法が通常と異なるケースもありますので、詳細は給与明細や会社の担当部署に確認しましょう。

社会保険料控除で税負担を軽減する

支払った社会保険料は、所得税や住民税を計算する際に「社会保険料控除」として所得から差し引くことができます。これは、課税される所得金額を減らし、結果的に税負担を軽減する効果があります。

この控除の大きな特徴は、控除額に上限が定められていない点です。支払った社会保険料の全額が控除の対象となります。

控除の対象となるのは、従業員本人や、生計を一にする配偶者、その他の親族のために支払った社会保険料です。例えば、国民年金保険料を支払っている配偶者の分をあなたが負担した場合も、社会保険料控除の対象として申告することができます。会社員の場合、この社会保険料控除は年末調整で手続きが行われるため、特別な確定申告は不要です。

賞与から控除された社会保険料もこの控除の対象となるため、翌年の所得税や住民税の負担軽減につながります。

令和7年税制改正が賞与の手取りに与える影響

令和7年度(2025年度)の税制改正では、所得税における「年収の壁」の見直しや、給与所得控除と基礎控除の拡大が予定されています。これは、納税者の税負担を軽減することを目的としたものです。

給与所得控除と基礎控除が拡大されることで、所得税の計算における非課税枠が広がります。つまり、同じ所得を得ていても、課税対象となる所得額が減少し、結果として所得税額が少なくなる可能性があります。これにより、賞与を含めた年間の手取り額が増えることが期待されます。

特に、これまでの「年収の壁」を意識して就業調整を行っていた方にとっては、より柔軟な働き方を選択しやすくなるかもしれません。これらの改正は、私たちの収入、特に賞与の手取り額に良い影響を与える可能性を秘めていますので、今後の動向に注目しましょう。

社会保険料・税金負担を抑えるための賞与の考え方

賞与の手取り額を少しでも増やしたいと考えるのは自然なことです。社会保険料や税金の仕組みを理解することで、賢く負担を抑えるためのいくつかの考え方があります。ここでは、具体的なアプローチについて見ていきましょう。

賞与の手取り額を最大化するための基礎知識

賞与の手取り額を増やすためには、まず社会保険料控除を最大限に活用することが重要です。支払った社会保険料は全額所得控除の対象となるため、年末調整時に忘れずに申告しましょう。特に、生計を一つにする家族の国民年金保険料などをあなたが支払っている場合、それも控除の対象となります。

また、賞与そのものの支払い方ではありませんが、所得全体に対する税負担を軽減する他の制度も活用できます。例えば、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)は、将来への備えをしつつ、所得税や住民税の負担を軽減できる税制優遇制度です。iDeCoは掛金が全額所得控除の対象となり、賞与で得た資金の一部を充てることで、節税効果を高めることができます。

これらの制度をうまく組み合わせることで、実質的な手取り額を増やし、将来に向けた資産形成も同時に進めることが可能です。

家族の社会保険料を支払うことのメリット

社会保険料控除は、従業員本人やその扶養家族が支払った社会保険料だけでなく、「生計を一にする」配偶者や親族の社会保険料をあなたが支払った場合にも適用されます。

例えば、専業主婦(主夫)の配偶者が国民年金保険料を支払っている場合や、アルバイト収入のある学生のお子さんが国民健康保険料を支払っている場合、あなたがそれらを一括して支払うことで、あなた自身の所得から控除され、税負担を軽減することができます。

これは、家族全体の家計における節税対策として非常に有効です。年末調整の際には、家族の社会保険料の支払い証明書を提出することを忘れないようにしましょう。これにより、課税所得が減少し、所得税だけでなく翌年の住民税も安くなるメリットを享受できます。

年間の支給回数を検討する戦略

通常、賞与は年に1~3回程度支給されることが多いですが、年4回以上支給される賞与は、社会保険料の計算方法が毎月の給与と同様に扱われる特殊なルールがあります。

この場合、賞与ではなく「標準報酬月額」を基準に社会保険料が算定されることになります。標準報酬月額は、基本給の他に通勤手当や住宅手当なども含めた報酬の月額を一定の幅で区分したものです。標準賞与額には150万円の上限がありますが、標準報酬月額には上限があります(健康保険は139万円、厚生年金は65万円)。

年間の支給回数を変えることで、標準賞与額の上限に達しやすい高額な賞与の場合、社会保険料の総額が変わってくる可能性があります。例えば、一度に多額の賞与を支給するよりも、年4回以上に分けて支給する方が、社会保険料の総額が少なくなるケースも考えられます。

ただし、これは企業の報酬制度や従業員の福利厚生に大きく関わる部分であり、個人の希望だけで変更できるものではありません。しかし、このような仕組みがあることを知っておくことで、企業の報酬設計を理解する一助となるでしょう。

賞与を給与に上乗せするメリット・デメリット

「賞与」としてまとまった金額を受け取るのではなく、「毎月の給与」に上乗せして受け取った場合、社会保険料や税金にどのような違いが生じるのでしょうか。従業員と企業の双方にとって、メリットとデメリットが存在します。

賞与から給与へのシフトで変わる社会保険料

賞与として支給される場合、社会保険料は「標準賞与額」を基に計算され、1回の支給につき150万円という上限が設けられています。一方、毎月の給与に上乗せして支給される場合、社会保険料は「標準報酬月額」を基に計算されます。

標準報酬月額にも上限(健康保険139万円、厚生年金65万円)がありますが、この上限額は標準賞与額の150万円とは異なるため、年間の社会保険料総額が変わる可能性があります。

例えば、高額な賞与を受け取る従業員の場合、標準賞与額の上限150万円を超えた部分には社会保険料がかかりません。しかし、これを給与に分散すると、毎月の標準報酬月額が上がり、結果的に年間で支払う社会保険料の総額が増加することも考えられます。企業側から見ても、社会保険料の会社負担分が増減するため、慎重な検討が必要です。

所得税・住民税への影響とその注意点

賞与を給与に上乗せすることで、所得税の源泉徴収額も変動します。毎月の給与額が増えることで、適用される所得税率が高くなり、源泉徴収される所得税額がその都度増える可能性があります。

賞与は、前月の給与額に基づいて源泉徴収税率が決まるため、一時的に高額な税金が引かれるように感じることがありますが、年間でみると税負担の総額は大きく変わらないこともあります。しかし、月々の手取り額の変動は大きくなるでしょう。

住民税に関しては、前年の所得に基づいて計算されるため、賞与を給与に上乗せした年の翌年度の住民税額に影響します。高額な賞与を毎月の給与に分散することで、月々の住民税負担が上がるように感じられるかもしれません。いずれにせよ、年間の所得総額に対する税負担という視点で考えることが重要です。

従業員満足度と企業の経営戦略

賞与を給与に上乗せするかどうかは、単に社会保険料や税金の問題だけでなく、従業員の満足度や企業の経営戦略にも関わります。

  • 従業員満足度:
    • 毎月安定した収入を望む従業員: 給与に上乗せすることで、月々の生活設計が立てやすくなります。
    • インセンティブとしてまとまった賞与を期待する従業員: 賞与が分散されることに不満を感じる可能性があります。
  • 企業の経営戦略:
    • キャッシュフロー管理: 賞与は企業の業績に応じて変動させやすい柔軟な人件費ですが、給与に組み込むと固定費となり、業績悪化時に調整が難しくなるリスクがあります。
    • モチベーション向上: 高額な賞与は従業員のモチベーション向上や優秀な人材の確保に繋がることもあります。

どちらの支払い方が良いかは、企業の業種、規模、経営状況、そして従業員のニーズによって異なります。慎重な検討と、従業員への十分な説明が求められるでしょう。

労災保険料・労働保険料と賞与の関係

賞与にかかる社会保険料や税金についてはよく話題になりますが、「労働保険料」についてはどうでしょうか。労働保険は、雇用保険と労災保険の二つを合わせた総称であり、これらも賞与と無関係ではありません。しかし、その性質はそれぞれ異なります。

労働保険料(雇用保険・労災保険)の基本

労働保険は、労働者の生活の安定や福祉の向上を目的とした公的保険制度です。主に「雇用保険」と「労災保険」の二つで構成されています。

  • 雇用保険: 労働者が失業した場合の生活保障や、育児・介護休業中の給付、スキルアップ支援などを目的としています。保険料は、事業主と労働者の双方が負担します。
  • 労災保険: 労働者が業務中や通勤中に怪我や病気、死亡した場合に、本人や遺族に保険給付を行うことを目的としています。保険料は、全額事業主が負担します。

これらの保険料は、原則として賃金総額(基本給、手当、賞与など)を基に計算されますが、従業員の負担の有無には違いがあります。賞与がこれらの保険料にどのように影響するかを見ていきましょう。

賞与が雇用保険料に与える影響

雇用保険料は、賞与に対しても計算の対象となります。つまり、賞与を受け取った場合、その賞与額にも雇用保険料が課せられます。雇用保険料率は、事業の種類によって異なりますが、一般の事業では労働者負担分が0.6%(2024年度の例)です。

例えば、賞与が50万円の場合、従業員が負担する雇用保険料は500,000円 × 0.6% = 3,000円となります。この金額は、賞与明細から他の社会保険料とともに控除されます。雇用保険料には標準賞与額のような上限はなく、支給された賞与の全額が計算の対象となるため、賞与額が大きいほど、控除される雇用保険料も大きくなります。

雇用保険は、もしもの時の失業給付や、育児休業給付など、労働者の生活を支える重要な役割を担っています。そのため、賞与からも適切に保険料が徴収される仕組みになっています。

労災保険料は賞与にかからない?

労災保険料は、賃金総額(賞与を含む)を算定基礎として計算されます。したがって、賞与も労災保険料の計算対象となります。

しかし、労災保険料の最も大きな特徴は、その全額を事業主が負担するという点です。従業員が労災保険料を負担することはありませんので、賞与明細書を見ても、労災保険料が従業員の負担として控除されている項目は見当たらないはずです。

これは、労災保険が「使用者責任」の原則に基づき、事業主が労働者の安全配慮義務を負うことから、その費用も事業主が負担するという考え方に基づいています。そのため、従業員は意識することなく、労災保険による保護を受けることができます。

賞与は、労働保険料の計算にも関わっていますが、雇用保険料は従業員負担分があり、労災保険料は全額事業主負担であるという違いを理解しておくことが大切です。