知っておきたい企業年金：退職金や厚生年金との違い、加入メリットを徹底解説

知っておきたい企業年金：退職金や厚生年金との違い、加入メリットを徹底解説

「老後の資金、どうしよう…」と漠然とした不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
会社勤めの方なら、「企業年金」や「退職金」といった言葉を耳にする機会もあるかもしれません。

でも、これらが公的年金である「厚生年金」とどう違うのか、具体的にどんなメリットがあるのか、実はよくわからないという方もいらっしゃるでしょう。
この記事では、企業年金を退職金や厚生年金と比較しながら、その種類や加入メリット、さらには「もし制度がない場合」の選択肢まで、わかりやすく徹底解説します。

企業年金とは？退職金や厚生年金との違いを理解しよう

そもそも企業年金って何？公的年金との違い

企業年金とは、その名の通り「企業」が独自に設ける年金制度のことです。これは、国が運営する公的年金（国民年金や厚生年金）に「上乗せ」される形で、従業員の老後の生活をサポートするために導入されています。私的年金制度の一つとして位置づけられ、企業と従業員の双方がメリットを享受できる仕組みです。公的年金が全ての国民にとって最低限の生活を保障する基盤であるのに対し、企業年金はより豊かな老後を送るための「＋α」の備えとなります。

具体的には、将来受け取る年金額が確定している「確定給付企業年金（DB）」と、掛金を自分で運用して将来の受取額が変わる「企業型確定拠出年金（DC）」の二種類が主流です。どちらも、企業が従業員の退職後の生活を考慮して設計する、重要な福利厚生制度と言えるでしょう。厚生労働省の調査によると、なんと**74.9%の企業が何らかの退職金制度を導入**しており、企業年金もその有力な選択肢となっています。

退職金（一時金）との決定的な違いとそれぞれの魅力

企業年金と混同されやすいものに「退職金（退職一時金）」があります。どちらも退職後に受け取るお金ですが、その受け取り方と性質には大きな違いがあります。退職金は、一般的に勤続年数や役職などに基づいて計算され、退職時に「一時金」としてまとめて支給されるのが特徴です。まとまった金額を一度に受け取れるため、住宅ローンの返済や新しい事業の立ち上げ資金、旅行費用など、自由な使い道があるのが魅力と言えます。

一方、企業年金は「年金」という名の通り、原則として退職後から一定期間、あるいは生涯にわたって定期的に受け取ることが可能です。これにより、老後の生活資金を計画的に確保し、長期的な安心感を得ることができます。退職金（一時金）は、受け取り時に「退職所得控除」という税制優遇が適用されるメリットがあります。企業年金も受け取り方によっては税制優遇がありますが、まとまったお金を一度に受け取るか、分割して受け取るか、という点で、個人のライフプランや税制上のメリットを考慮して選択することが大切です。

厚生年金との関係性：公的年金に「上乗せ」される仕組み

厚生年金は、会社員や公務員などが加入する公的年金制度で、日本に住む20歳以上の国民全員が加入する国民年金（基礎年金）に上乗せされる形で給付されます。これは国が運営する制度であり、加入は義務です。現役世代が保険料を支払い、高齢者を支える「賦課方式」という仕組みで成り立っています。企業年金は、この厚生年金の上にさらに積み立てられる「二階建て」や「三階建て」の年金制度と考えると分かりやすいでしょう。

つまり、企業年金は厚生年金のような公的保障とは異なり、企業が従業員のために自主的に提供する「私的」な制度です。これにより、厚生年金だけでは不足しがちな老後の生活資金を補填し、より安定した経済状況を築くことを目指します。厚生年金と企業年金は互いに独立した制度ですが、両者を組み合わせることで、退職後の経済的な安心感が格段に高まります。自分の会社がどのような企業年金制度を導入しているかを知ることは、将来のマネープランを考える上で非常に重要です。

企業年金の種類とそれぞれの特徴（iDeCo、DB、DC、中退共など）

確定給付型（DB）と確定拠出型（DC）：二大主流の企業年金

企業年金には大きく分けて二つの種類があります。一つは「確定給付企業年金（DB：Defined Benefit）」で、これは将来受け取る年金額があらかじめ定められている制度です。従業員にとっては、将来の受け取り額が明確なため、老後の生活設計が立てやすいという大きなメリットがあります。運用リスクは企業側が負うため、仮に運用がうまくいかなくても、企業が不足分を補填してくれます。安定志向の方には安心感のある制度と言えるでしょう。

もう一つは「企業型確定拠出年金（DC：Defined Contribution）」です。こちらは企業が掛金を拠出し、加入者である従業員自身がその掛金を運用します。運用成果によって将来の受取額が変動するため、元本割れのリスクはありますが、運用益が非課税になる、掛金が所得控除の対象になるなどの税制上のメリットが大きいのが特徴です。また、転職や退職の際に資産を持ち運べる「ポータビリティ」がある点も魅力です。DCの掛金には月額上限（原則55,000円、他の企業年金併用時は27,500円）がありますが、自分の運用次第で将来の資産を大きく増やせる可能性があります。

iDeCoと中退共：企業年金がない場合の強い味方

「うちの会社には企業年金制度がない…」とがっかりする必要はありません。企業年金がない場合でも、老後資金を準備するための強力な制度がいくつか存在します。その代表格が「iDeCo（個人型確定拠出年金）」と「中小企業退職金共済（中退共）」です。iDeCoは、個人が任意で加入できる確定拠出年金制度で、企業型DCと同様に掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税になるなど、税制上のメリットが非常に大きいのが特徴です。2023年10月には年金掛金の上限額が引き上げられるなど、制度拡充も進んでいます。ただし、原則60歳まで引き出せない点には注意が必要です。

中退共は、中小企業が単独で退職金制度を設けるのが難しい場合に、国が支援する制度です。企業が掛金を拠出し、それが従業員の退職金として積み立てられます。掛金は損金または必要経費として全額非課税となる上、国の助成を受けられる場合もあります。これにより、中小企業の従業員も退職金制度の恩恵を受けることができます。これらの制度を上手に活用することで、企業年金の有無にかかわらず、計画的な老後資金の準備を進めることが可能です。

小規模企業共済とは？個人事業主や経営者向けの選択肢

企業年金や退職金制度は主に会社員向けの制度ですが、個人事業主や小規模企業の経営者の方も老後の備えが必要です。そうした方々のための心強い制度が「小規模企業共済」です。これは国の機関が運営する積立型の退職金制度で、個人事業主や法人の役員など、小規模事業者のための「退職金」や「廃業後の生活資金」として活用できます。最大のメリットは、掛金が全額所得控除の対象となるため、大きな節税効果が期待できる点です。

例えば、毎月7万円（年間84万円）を積み立てた場合、その84万円が所得から控除されるため、所得税や住民税を大幅に軽減できます。これは、事業所得が多い方にとっては非常に魅力的な制度と言えるでしょう。加入期間が12ヶ月未満での任意解約は掛け捨てになることや、20年未満での任意解約は元本割れのリスクがあるなど、いくつか注意点もありますが、計画的に長く積み立てることで、事業の引退後も安定した生活を送るための強力な支えとなります。老後の資金準備は、会社員だけでなく、全ての働く人にとって重要な課題です。

企業年金は誰が払う？加入メリットと、ない場合の選択肢

企業年金の掛金負担者：企業が拠出するメリットとは

企業年金の掛金を誰が負担するかは、制度の種類によって異なりますが、多くの場合、企業が掛金の一部または全部を拠出します。特に確定給付企業年金（DB）では、企業が掛金を拠出し、運用責任も負います。企業型確定拠出年金（DC）においても、掛金は基本的に企業が拠出する形が一般的です。従業員が自分のお金を拠出する「マッチング拠出」という仕組みもありますが、これは企業の掛金に上乗せする形で、あくまで任意です。

企業が掛金を負担する最大のメリットは、従業員の福利厚生の充実です。これにより、優秀な人材の確保や定着に貢献できるだけでなく、従業員のモチベーション向上にもつながります。また、企業にとっては拠出した掛金が損金算入できるため、法人税の節税効果も期待できます。従業員にとっては、自分でお金を出すことなく老後資金が積み立てられていくため、経済的な負担を軽減しつつ将来への備えができるという大きなメリットがあります。まさに、企業と従業員双方にとって「Win-Win」の関係を築ける制度と言えるでしょう。

加入者が享受できる税制優遇と老後資金形成のメリット

企業年金、特に確定拠出年金（企業型DCやiDeCo）に加入することで、私たちは様々な税制優遇のメリットを享受できます。まず、最も大きいのは掛金が全額所得控除の対象となる点です。例えば、毎月2万円（年間24万円）を積み立てた場合、その24万円が所得から差し引かれるため、所得税や住民税が軽減されます。これは、毎年の手取り額が増えることと同じ効果があると言えるでしょう。

さらに、運用によって得られた利益（運用益）は非課税となります。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、企業型DCやiDeCoではこの税金がかからないため、効率的に資産を増やすことができます。そして、最終的に年金や一時金として受け取る際にも、公的年金等控除や退職所得控除といった税制優遇が適用されます。これらの税制メリットを最大限に活用することで、私たちが自力で老後資金を形成するよりもはるかに有利に、効率的に資産を増やしていくことが可能です。老後の生活設計を考える上で、この税制優遇は絶対に無視できないポイントです。

企業年金がない場合の対策：iDeCoやその他の積立

もしあなたの会社に企業年金制度がない、あるいは企業年金だけでは不安だという場合でも、老後資金を準備するための選択肢は豊富にあります。前述の「iDeCo（個人型確定拠出年金）」は、企業年金がない方にとって非常に強力な味方です。個人で掛金を拠出し、税制優遇を受けながら資産運用ができるため、ぜひ活用を検討したい制度です。特に、ご自身で積極的に運用したい方や、節税効果を重視する方には最適と言えるでしょう。

また、NISA（少額投資非課税制度）も有力な選択肢です。iDeCoと同様に運用益が非課税となる制度ですが、原則60歳まで引き出せないiDeCoとは異なり、比較的自由に資金を引き出すことが可能です。他にも、個人年金保険や財形貯蓄、そして通常の証券口座での投資信託の積立など、様々な方法で老後資金を準備することができます。大切なのは、自分のライフプランやリスク許容度に合わせて、最適な方法を選び、計画的に積立を続けることです。企業年金がない場合でも、これらの制度を賢く利用することで、将来の不安を大きく軽減できるはずです。

企業年金に入っているか確認する方法と、入るべきかの判断基準

自分の会社の企業年金制度を確認する方法

「私の会社には企業年金ってあるのかな？」そう思ったら、まずは確認してみましょう。企業年金制度の有無やその内容は、以下の方法で調べることができます。最も確実なのは、会社の就業規則や賃金規程を確認することです。これらの書類には、退職金制度や企業年金制度に関する規定が明記されているのが一般的です。もし手元になければ、人事部や総務部に問い合わせてみましょう。

また、給与明細も手がかりになることがあります。企業型確定拠出年金（DC）に加入している場合、掛金が給与明細に記載されていることがあります。さらに、年金制度に関する説明会が開催されたり、制度概要をまとめた資料が配布されたりすることもありますので、社内のお知らせにもアンテナを張っておくと良いでしょう。もし制度について不明な点があれば、遠慮なく人事担当者や社会保険労務士などの専門家に質問することが大切です。自分の将来に関わる大切な情報ですから、積極的に確認する姿勢が重要です。

企業年金に「入るべきか」を判断するためのチェックポイント

企業年金への加入は、多くの場合、会社の福利厚生として提供されるため、任意で「入るべきか」を判断する機会は少ないかもしれません。しかし、特に企業型確定拠出年金（DC）でマッチング拠出（従業員が追加で掛金を拠出する制度）を利用する場合や、iDeCoを併用するかどうかを判断する際には、いくつかのチェックポイントがあります。まず、自分の老後資金目標を明確にすること。公的年金と企業年金でどのくらいカバーできそうか、不足分はいくらかを把握しましょう。

次に、リスク許容度と投資意欲を考えます。確定給付企業年金（DB）は企業が運用リスクを負うため安定していますが、確定拠出年金（DCやiDeCo）は自分で運用商品を選び、リスクも自分で負うことになります。投資の知識を学び、積極的に運用して資産を増やしたいか、それとも元本保証に近い形で着実に積み立てたいか、自分の性格と向き合いましょう。また、資金の流動性も重要です。iDeCoは原則60歳まで引き出せないため、途中でまとまったお金が必要になる可能性がある場合は、別の選択肢（NISAなど）も検討する必要があります。これらの要素を総合的に判断し、自分にとって最適な老後資金計画を立てることが大切です。

転職・退職時の注意点：資産のポータビリティと手続き

企業年金に加入している場合、転職や退職の際にはいくつかの注意点があります。特に企業型確定拠出年金（DC）に加入している方は、積み立てた資産がどうなるのかを確認する必要があります。企業型DCには「ポータビリティ（資産の持ち運び）」という特徴があり、転職先の企業に企業型DC制度があれば、積み立てた資産を移管することができます。また、転職先に制度がない場合や個人事業主になる場合は、iDeCoに移管することも可能です。この手続きを忘れてしまうと、資産が自動的に「国民年金基金連合会」に移管され、手数料だけがかかる「自動移換」状態になってしまうことがあるため注意が必要です。

確定給付企業年金（DB）の場合は、転職先の制度に引き継がれることは稀で、多くの場合、退職時に一時金として受け取るか、将来年金として受け取る権利を維持することになります。企業によって対応が異なるため、退職時には必ず人事部や年金担当者に確認し、必要な手続きを漏れなく行うことが重要です。自分の大切な老後資金を守るためにも、転職や退職を検討し始めたら、早めに企業年金制度に関する情報を集め、手続きについて調べておくことを強くお勧めします。

派遣社員やパートも対象？企業年金の加入条件と注意点

企業年金の加入対象者：正社員以外の働き方はどうなる？

企業年金は、一般的に正社員を対象として設計されていることが多い制度です。しかし、近年では働き方の多様化に伴い、派遣社員やパートタイマー、契約社員といった非正規雇用の従業員も、一定の条件を満たせば企業年金の加入対象となるケースが増えています。特に、社会保険（厚生年金保険・健康保険）の適用対象となるような、「フルタイムに近い勤務」をしている非正規社員は、企業年金制度の対象となる可能性が高いと言えるでしょう。

具体的には、労働時間や勤務日数、雇用期間などによって加入資格が定められています。例えば、企業型確定拠出年金（DC）の場合、厚生年金に加入していることが条件となることが多く、その上で企業の規約によって対象者が決められます。正社員だけでなく、多くの従業員が老後の備えができるよう、企業の福利厚生制度は進化しつつあります。自分の雇用形態で加入できるのかどうか、まずは会社の就業規則や人事部に確認してみることが第一歩です。

勤務形態による違いと、制度の適用に関する注意点

派遣社員やパートの方が企業年金に加入できるかどうかは、勤務先の企業や派遣会社の制度設計に大きく依存します。例えば、派遣社員の場合、実際に働いている「派遣先企業」ではなく、雇用主である「派遣元企業」の福利厚生制度が適用されるのが原則です。そのため、派遣元企業に企業年金制度があるかどうか、そしてその制度の加入対象者に自分が含まれているかを確認する必要があります。

パートタイマーの場合も、正社員と比較して勤務時間が短い、あるいは契約期間に定めがあるといった理由から、企業年金の加入対象外とされているケースも依然として存在します。重要な注意点としては、加入対象となるための「労働時間」や「勤続年数」などの具体的な条件が企業ごとに異なるため、ご自身の雇用契約書や就業規則をよく読み込むことです。また、不明な点は人事担当者や派遣会社の担当者に直接問い合わせて、正確な情報を得るようにしましょう。自身の勤務形態で加入できる制度があるかどうかを知ることは、将来の資産形成計画を立てる上で非常に大切です。

派遣社員やパートでも老後資金を準備するヒント

もし、残念ながら勤務先の企業年金制度に加入できなかったとしても、老後資金を準備するための道は閉ざされていません。派遣社員やパートの方でも利用できる、有効な資産形成手段は数多くあります。最もおすすめなのは、前述した「iDeCo（個人型確定拠出年金）」です。厚生年金に加入していれば、iDeCoに加入して自分で掛金を拠出し、税制優遇を受けながら老後資金を準備することができます。

また、非課税で投資ができる「NISA（少額投資非課税制度）」も非常に有効な選択肢です。iDeCoのように60歳まで資金がロックされないため、必要に応じて引き出すことも可能であり、柔軟な資産形成ができます。さらに、積立型の投資信託や、定期預金、個人年金保険なども検討できます。大切なのは、毎月少額でも良いので、「継続して積み立てていく」ことです。これらの制度を上手に活用し、自分自身の力で着実に老後資金を準備していくことで、将来への不安を軽減し、経済的な安心感を高めることができるでしょう。