テレワーク中の減給は違法?助成金・税金・義務化の最新情報

コロナ禍を機に急速に普及したテレワークですが、その運用には様々な課題が伴います。特に「テレワークになったら給料が減った」という声を聞くことも少なくありません。果たして、会社の一方的な減給は法的に許されるのでしょうか?

2025年現在、テレワークを巡る制度や法改正、助成金、税金に関する動きは活発です。この記事では、テレワーク中の減給問題から、育児・介護休業法改正による企業の努力義務化、活用できる助成金、そして最新の税制改正まで、テレワークを継続・導入する上で知っておきたい重要な情報を解説します。

テレワーク減給の現状と法的問題

一方的な減給は原則違法

テレワークへの移行を理由に、会社が一方的に従業員の給与を減額することは、原則として違法とされています。

労働契約において、労働者は定められた場所で業務を行う義務を負う一方、使用者は定められた賃金を支払う義務があります。テレワークは、就業場所が自宅に変わっただけであり、労働者が業務を遂行していることに変わりはありません。

そのため、業務内容や責任が全く変わらないにも関わらず、単にテレワークになったという理由だけで給与が減額される場合は、労働基準法や労働契約法に違反する可能性が高いです。

これは、労働条件の不利益変更にあたり、労働者の同意なしには認められないのが一般的です。

減給が認められるケースとその条件

ただし、特定の条件下では減給が認められる可能性もゼロではありません。

一つは、就業規則や雇用契約書に給与減額に関する明確な定めがある場合です。例えば、テレワークの導入に伴い、通勤手当が支給されなくなる代わりに在宅勤務手当が新設されるなど、給与体系全体が見直されるケースです。

この場合でも、全体の給与が実質的に大幅に減額されることは、労働者の合意がない限り困難です。また、減額の理由が合理的であり、労働者に十分な説明と理解が求められます。

もう一つは、業務態度や勤務状況に問題があり、就業規則に定められた懲戒事由に該当し、懲戒処分として減給が行われる場合です。しかし、この場合でも減額には限度があり、労働基準法により1回の減給額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は賃金総額の10分の1までと定められています。

不当な減給への対処法

もし、テレワークを理由とした一方的な減給を会社から提示された場合、まずは冷静に対応することが重要です。

最初に行うべきは、会社に対して減給の具体的な理由や法的根拠について説明を求めることです。就業規則や雇用契約書を確認し、減給に関する規定があるかをチェックしましょう。

それでも納得できない場合や、会社との交渉が困難な場合は、一人で抱え込まずに外部の専門機関に相談することをおすすめします。

具体的には、労働基準監督署の相談窓口、弁護士、あるいは労働組合などが、法的アドバイスや会社との交渉支援を提供してくれます。

不当な減給から身を守るためにも、書面でのやり取りや減給に関する指示など、関連する証拠を保全しておくことが重要です。

テレワーク減給は違法?判断基準と注意点

減給の法的根拠と労働契約

給与は労働契約における最も重要な要素の一つであり、その変更には慎重な手続きが求められます。

労働契約法第8条では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定められており、原則として労働条件の変更には労働者の同意が必要です。

また、同法第9条では、就業規則の変更によって労働者の不利益に労働条件を変更する場合には、原則として労働者の同意がなければその変更は無効とされています。ただし、就業規則の変更が合理的であり、労働者に周知されている場合は、例外的に同意がなくても変更が有効となる可能性があります。

しかし、単にテレワークになったという理由だけで給与を減額することは、この「合理性」が認められるケースは極めて稀であり、法的リスクが高い行為と言えます。

企業が減給を行う際の留意点

企業がテレワークの導入に伴い、給与体系を見直す場合は、労働者の不利益にならないよう細心の注意を払う必要があります。

労働者の個別同意を得るのが基本であり、その同意は自由な意思に基づいたものであることが重要です。強制や不当な圧力を伴う同意は無効とされる可能性があります。

もし、通勤手当の廃止など、一部の手当が減額される場合は、その代替として在宅勤務手当を支給する、通信費や光熱費の一部を補助するなど、労働者の実質的な負担が増えないような配慮が求められます。

さらに、変更内容や理由について、事前に十分な説明を行い、従業員からの質問や懸念に誠実に対応することも企業の重要な義務です。

従業員が取るべき対応ステップ

もし、テレワーク中の減給を会社から通告された場合、従業員は以下のステップで対応を検討しましょう。

  1. 事実確認と情報収集: 減給の理由、根拠となる就業規則や雇用契約書の条項、具体的な減額幅などを書面で確認します。
  2. 会社との交渉: 一方的な減給には同意しない旨を伝え、書面でその意思を表明します。代替案の提案や、減給の撤回を求め、冷静に話し合いを行います。この際、会話内容を記録しておくことも有効です。
  3. 専門機関への相談: 交渉がうまくいかない場合や、会社の対応に疑問を感じる場合は、労働基準監督署、弁護士、あるいは労働組合に相談します。労働基準監督署は無料で相談でき、必要に応じて指導・勧告を行ってくれます。
  4. 証拠の保全: 減給に関する通知書、メール、就業規則、雇用契約書など、関連する全ての書類や記録を保管しておきましょう。

適切な対応を取ることで、不当な減給から自身の権利を守ることができます。

テレワーク導入を支援する助成金・税制活用法

テレワーク導入・促進に関する主な助成金

国や地方自治体は、テレワークの導入や定着を支援するため、多様な助成金・補助金制度を提供しています。2025年度も引き続き、企業の負担を軽減し、柔軟な働き方を促進するための支援が活用可能です。

  • 人材確保等支援助成金(テレワークコース): テレワークを制度として導入・実施し、人材確保や雇用管理改善に効果をあげた中小企業事業主が対象です。テレワーク用の通信機器の導入費用や、就業規則の整備費用などが対象となる場合があります。
  • IT導入補助金2025: 中小企業・小規模事業者のITツール導入を支援する補助金で、テレワークに必要なソフトウェアやクラウドサービス、ハードウェアの一部も対象となることがあります。業務効率化と生産性向上が目的です。
  • 東京都テレワークトータルサポート助成金: 東京都が実施するテレワーク相談窓口やコンサルティングを利用した都内中堅・中小企業等に対し、テレワーク機器導入経費等を助成します。地方自治体独自の支援策も充実しています。
  • その他、各地方自治体による助成金: 静岡県富士市、東京都品川区、東京都足立区など、地域によっては独自のテレワーク関連助成金が設けられています。

これらの助成金は、テレワーク導入にかかる初期費用や運用費用を大きく軽減できるため、積極的に情報を収集し、自社の要件に合うものに申請を検討することが重要です。各制度の申請要件やスケジュールは年度や自治体によって異なるため、最新の情報を確認するようにしましょう。

2025年度税制改正のポイント

2025年度の税制改正では、個人の所得税や住民税に影響を与えるいくつかの変更点があり、テレワークを行う個人にとっても無関係ではありません。

  • 給与所得控除の見直し: 給与所得控除の最低保障額が引き上げられることにより、一定の給与収入がある層の所得税負担が軽減される見込みです。これは、テレワークによる収入形態の変化(例えば、在宅勤務手当など)も考慮に入れ、個人の手取り額に影響を与える可能性があります。
  • 「年収の壁」の引き上げ: 扶養控除等に関する所得要件が大幅に見直され、実質的に「103万円の壁」が「123万円の壁」に引き上げられる予定です。これは、主に配偶者控除や扶養控除を受ける側の労働者に影響します。テレワークで柔軟に働けるようになり、収入が増加した場合でも、扶養親族の対象から外れることなく働きやすくなることが期待されます。

これらの税制改正は、個人の働き方や世帯収入の計画に大きな影響を与えるため、自身の状況に合わせて税務署や税理士に相談することをお勧めします。

企業が活用すべき税制優遇措置

テレワーク導入に伴う企業の投資も、税制上の優遇措置の対象となる場合があります。IT導入補助金のような制度を利用してITツールを導入する際だけでなく、通常の事業運営においても、テレワーク関連の経費は適切に処理することで節税につながります。

例えば、テレワーク環境整備のために購入したパソコン、モニター、ソフトウェア、通信機器などの費用は、減価償却費として損金算入が可能です。また、従業員に支給する在宅勤務手当や通信費補助なども、一定の要件を満たせば福利厚生費として計上できます。

これらの経費を適切に計上するためには、証拠書類の保管や税務上の要件の理解が不可欠です。

不明な点があれば、税理士や専門家に相談し、最大限に税制優遇措置を活用することで、企業のテレワーク導入コストを抑え、持続可能な運用体制を構築することができるでしょう。

テレワーク義務化の動向と企業・個人の準備

育児・介護のためのテレワーク努力義務化

働き方改革の一環として、2025年4月1日より育児・介護休業法が改正され、企業には「3歳未満の子を養育する労働者」および「要介護状態の対象家族を介護する労働者」に対し、テレワークを選択できるような措置を講じることが努力義務となります。

これは、仕事と育児・介護の両立を支援し、多様な働き方を可能にすることを目的としています。「在宅勤務等」には、自宅だけでなく、サテライトオフィスなど、就業規則で定める場所での勤務も含まれます。

ただし、全ての従業員にテレワークが義務付けられるわけではありません。テレワークが困難な業務に従事する従業員に対して、職種変更や配置転換までが義務付けられているわけではない点には注意が必要です。

企業は、対象となる従業員が働きやすい環境を整備するための努力が求められます。

企業が取り組むべき準備と体制整備

育児・介護休業法の改正に対応し、企業はテレワーク制度の導入または既存制度の見直しを進める必要があります。具体的な準備と体制整備のポイントは以下の通りです。

  • 就業規則の改定: テレワークに関する規定を明確にし、対象者、申請手続き、労働時間管理、費用負担などを盛り込みます。
  • ITインフラの整備: セキュアな通信環境、ビデオ会議システム、業務管理ツールなど、テレワークに必要なIT環境を整備します。
  • セキュリティ対策: テレワーク環境での情報漏洩リスクを最小限に抑えるため、セキュリティガイドラインの策定と従業員への教育を徹底します。
  • 評価制度の見直し: テレワークでも公平な評価が行えるよう、成果主義を導入するなど、評価基準や方法を見直します。
  • コミュニケーション支援: チーム内の円滑なコミュニケーションを促すツールや、定期的なオンラインミーティングの実施など、孤立を防ぐための施策を講じます。

これらの準備は、従業員満足度の向上だけでなく、企業の生産性向上にも寄与します。

個人が備えるべきこととメリット

テレワークの選択肢が広がることで、個人はより柔軟な働き方を選択できるようになります。これに伴い、個人が備えるべきことと、得られるメリットを理解しておくことが重要です。

個人が備えるべきこと:

  • 自己管理能力: 自分でタイムマネジメントを行い、仕事とプライベートの境界線を明確にする能力が求められます。
  • コミュニケーションスキル: 対面が少ない分、オンラインでの明確なコミュニケーションや報連相のスキルが重要になります。
  • ITリテラシー: 必要なITツールを使いこなし、セキュリティ意識を持つことが不可欠です。
  • 快適な執務環境: 生産性を維持できる自宅内のワークスペースを確保する必要があります。

得られるメリット:

  • ワークライフバランスの向上: 通勤時間の削減により、育児・介護や自己啓発、プライベートな時間に充てることができます。
  • ストレス軽減: 満員電車や職場の人間関係によるストレスが軽減され、心身の健康維持に繋がります。
  • 生産性向上: 集中できる環境で業務に取り組むことで、生産性が向上する可能性があります。

企業と個人が協力し、柔軟な働き方を最大限に活かすことで、双方にとってメリットのある環境を築くことができます。

テレワークガイドラインと円滑な運用に向けて

テレワーク実施率の現状と課題

コロナ禍をきっかけに一気に普及したテレワークですが、その実施率はその後、変動を見せています。

2020年5月には緊急事態宣言によりテレワーク実施率が56.4%まで上昇しましたが、その後は低下し、2024年3月調査では17.0%となっています。

別の調査では、2021年10月時点で32.2%だった実施率が、2024年には23%と微減しているものの、コロナ禍以前(2019年12月:10.3%)と比較すると依然として高い水準を維持しています。

業種別・地域別の実施率:

  • 高い業種: 情報通信業、学術研究・専門技術サービス業、金融業・保険業
  • 低い業種: 医療・介護・福祉、宿泊業・飲食サービス業、運輸業・郵便業
  • 地域別: 三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)を含む地域で実施率が高い傾向

実施率低下の要因としては、コロナ禍の収束に伴う出社回帰の動きが挙げられますが、テレワーク経験者の多くは継続的な実施を希望しており、仕事探しにおいてもテレワークの可否を重視する傾向が見られます。このことから、テレワークへのニーズは依然として高いことが分かります。

厚生労働省ガイドラインの活用

厚生労働省は、テレワークを適切に導入・運用するための「テレワークガイドライン」を策定しており、企業はこのガイドラインを参考にすることが推奨されます。

ガイドラインでは、労働時間管理、情報セキュリティ、費用負担、健康確保など、テレワーク導入にあたって企業が考慮すべき具体的な事項が詳細に示されています。

例えば、労働時間については、みなし労働時間制の適用条件や、時間外労働の取り扱いについて解説されています。また、セキュリティ対策として、VPNの利用やデバイスの管理、従業員への情報セキュリティ教育の重要性も指摘されています。

ガイドラインに沿って制度を構築することで、法的なリスクを回避し、従業員が安心して働ける環境を整備することができます。企業の規模や業態に合わせて、ガイドラインの内容を柔軟に取り入れましょう。

持続可能なテレワーク環境の構築

一時的な対策ではない、持続可能なテレワーク環境を構築するためには、単なる制度導入以上の取り組みが求められます。

まず、コミュニケーション不足の解消が重要です。定期的なオンライン会議の実施、チャットツールの活用、雑談の機会を設けるバーチャルオフィスツールの導入など、意識的なコミュニケーション促進策が必要です。

次に、労働時間管理と過重労働の防止です。テレワークは仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちであるため、労働時間の適切な記録、休憩時間の確保、夜間・休日の業務指示の抑制など、健康的な働き方を支援する仕組みが不可欠です。

さらに、従業員のメンタルヘルスサポートも忘れてはなりません。定期的なアンケート調査や面談を通じて、ストレス状況を把握し、必要に応じて専門家によるカウンセリングサービスを提供することも検討すべきでしょう。

オフィス出社と組み合わせたハイブリッドワークの推進も、テレワークのメリットを享受しつつ、課題を解決する有効な手段となります。多様な働き方に対応し続けることで、企業は優秀な人材を惹きつけ、競争力を維持することができるでしょう。