概要: 近年、テレワークを終了する企業が増加傾向にあります。しかし、有名企業ではテレワークを継続する動きも見られ、その判断の分かれ目が注目されています。本記事では、テレワーク廃止が招く社員の離職リスクや、導入しない企業の理由、そして今後のテレワークの割合について解説します。
テレワーク終了企業の末路?出社回帰のリアルと社員の反応
コロナ禍を経て急速に普及したテレワークですが、近年、出社回帰を進める企業が増加しています。しかし、その動きは必ずしもスムーズに進んでいるわけではなく、企業側と従業員側で認識のずれが生じているケースも少なくありません。
本記事では、テレワーク終了企業の現状と背景、そして従業員のリアルな反応を探りながら、今後の働き方について考察します。
テレワーク終了企業の増加とその背景
テレワーク実施率の現状と傾向
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、多くの企業がテレワークを導入しました。しかし、感染症法上の位置づけが5類に移行したことなどを受け、現在ではその流れに変化が見られます。
2024年4月時点の調査では、テレワークを全く実施していない、あるいは実施予定がないと回答した企業の割合は22.6%に増加しました。これはコロナ禍の時期(2020年4月~2022年)と比較して、実に10ポイントも増えていることを示しています。
特に中小企業でのテレワーク実施率の低下が顕著で、100名以下の企業では9.4%、101~1,000名の企業では13.4%に減少しています。テレワークが一時的な措置であったと考える企業にとっては、出社回帰は自然な流れなのかもしれません。
このようなデータを見ると、テレワークが一部の企業にとっては過去のものになりつつある現状が浮き彫りになります。しかし、なぜ多くの企業が出社回帰の道を選び、その背景にはどのような理由があるのでしょうか。
企業が出社回帰を選ぶ主な理由
企業がテレワークを廃止・縮小する背景には、いくつかの共通した課題認識が存在します。最も頻繁に挙げられるのが、コミュニケーション不足の解消です。
対面でのコミュニケーションが減少することで、情報共有や意思決定がスムーズに進みにくい、偶発的な雑談から生まれるアイデアが失われる、といった課題が指摘されています。また、チームワークの低下やイノベーションの鈍化につながるという生産性・イノベーション低下への懸念も大きな理由です。
さらに、人事評価が難しかったり、従業員の業務状況を把握しづらいといった労務管理・評価の難しさも理由に挙げられます。コロナ禍の期間、多くの企業が試行錯誤を重ねましたが、完全な解決策を見出せずにいたケースも少なくありません。
最後に、テレワークを「感染症対策としての一時的措置」と位置付けていた企業も多く、5類移行に伴い本来の働き方へと戻す動きも活発化しています。これらの複合的な要因が、多くの企業を「出社回帰」へと向かわせているのです。
大規模企業と中小企業の動向の違い
テレワークの実施状況は、企業の規模によっても大きな違いが見られます。中小企業での実施率低下が顕著である一方で、大規模企業(1,001名以上)では、むしろテレワーク実施率が増加傾向にあることが示されています。
実際、2024年1月時点で大規模企業では29.4%がテレワークを実施しており、これは中小企業と比較して高い水準です。この差異が生まれる背景には、大規模企業がテレワークのインフラ投資や多様な働き方への対応力に優れている点が挙げられます。
また、大規模企業は優秀な人材を惹きつけ、定着させるためのブランディング戦略として、柔軟な働き方を維持する傾向があります。一方で中小企業では、ITインフラの整備コスト、セキュリティ対策への懸念、そして業務特性上、完全なテレワークが難しいケースも多く見られます。
さらに、経営者の価値観が強く反映されやすいことも、中小企業の動向に影響を与えているでしょう。このように、企業の規模によってテレワークへの戦略や対応が異なり、今後の働き方の多様化を示唆しています。
有名企業はなぜテレワークを継続するのか
従業員エンゲージメントと採用競争力
出社回帰の波がある中でも、多くの有名企業や先進的な企業はテレワークやハイブリッドワークを継続しています。その大きな理由の一つは、従業員エンゲージメントの向上と採用競争力の維持にあります。
働き方の柔軟性を提供することは、従業員のワークライフバランスを向上させ、仕事への満足度を高めることに直結します。これにより、従業員のエンゲージメントが高まり、結果として生産性の向上にも寄与すると考えられています。特に、優秀な人材を獲得し続けるためには、柔軟な働き方の選択肢は不可欠な要素です。
テレワークを継続する企業は、「従業員を大切にする企業」「働きやすさを提供する企業」としてポジティブなブランドイメージを構築できます。これは、特にIT業界など、人材獲得競争が激しい分野において、他の企業との差別化を図る上で極めて重要な戦略となっています。
従業員の健康やウェルビーイングへの配慮は、現代の企業経営において欠かせない要素であり、テレワークはその実現を支援する強力なツールとなり得るのです。
生産性向上とイノベーションの促進
テレワーク継続企業の多くは、テレワークが必ずしも生産性を低下させるものではなく、むしろ向上させる可能性を秘めていると考えています。通勤時間が削減されることで、従業員は仕事やプライベートの時間を有効活用できるようになり、集中できる環境で業務に取り組むことができます。
また、デジタルツールやクラウドサービスの積極的な活用により、地理的な制約を超えた効率的なコラボレーションが可能になっています。イノベーションは必ずしも対面からのみ生まれるものではなく、多様な働き方や異なる視点から新しい発想が生まれることもあります。
有名企業は、従業員が最もパフォーマンスを発揮できる働き方を模索し、柔軟な選択肢を提供することで、創造性やイノベーションを促進しようと努めています。個々人が最適な環境で働くことで、結果的に組織全体の生産性や競争力が高まるという考え方です。
このような企業は、テレワークを単なる感染症対策ではなく、持続的な成長のための戦略的な働き方と位置づけていると言えるでしょう。
オフィス戦略とコスト削減効果
テレワークの継続は、企業のオフィス戦略にも大きな影響を与えています。多くの企業は、オフィスを単なる執務スペースとしてではなく、コラボレーション、交流、文化形成のための場として再定義しています。
大規模な本社オフィスを維持するのではなく、サテライトオフィスやコワーキングスペースを積極的に活用したり、本社オフィスをより創造的な活動に特化した空間へと改修したりする動きが見られます。このオフィス面積の最適化は、賃料や維持費といった固定コストの大幅な削減にもつながります。
削減されたコストは、従業員の福利厚生、研究開発、人材育成など、他の戦略的な投資に振り向けられることもあります。つまり、テレワークは単に働く場所を分散させるだけでなく、企業の不動産戦略と密接に結びつき、経営効率を高める手段としても機能しているのです。
柔軟な働き方と賢明なオフィス戦略を融合させることで、企業はよりスリムで効率的な経営体制を築き、持続的な成長を実現しようとしていると言えるでしょう。</
テレワーク廃止の現実:社員の離職リスク
働き方変化への従業員の強い反応
企業が出社回帰を決定することは、従業員にとって重大な働き方の変化を意味します。この変化は、従業員の意識や行動に大きな影響を及ぼし、企業にとって無視できないリスクを生み出す可能性があります。
ある調査では、テレワーク廃止による働き方の変化が、約4割もの従業員に影響を及ぼし、退職や時短勤務希望者の増加を招く可能性があると指摘されています。特に日本生産性本部の調査では、テレワークを望む従業員の16.4%が、もしテレワークが廃止された場合に退職を検討すると回答しています。
これは、企業にとって優秀な人材の流出リスクを明確に示す数字であり、単なる「社員のわがまま」として片付けることはできません。現代において「働き方」は、もはや福利厚生の一つではなく、企業を選ぶ上での重要な基準となっています。
働き方の自由度が高い企業への転職を検討する従業員が増えることは、企業の人材戦略に大きな影響を与えるでしょう。従業員のニーズと企業の方向性のギャップが、深刻な問題を引き起こす可能性があるのです。
ワークライフバランスの崩壊とキャリアの岐路
テレワークによって多くの従業員が享受していた、ワークライフバランスの向上は、出社回帰によって崩れるリスクがあります。通勤時間の復活、自宅での業務とプライベートの区切りが曖昧になることなどが、その要因です。
特に、育児や介護を抱える従業員にとって、テレワークは両立支援の重要なツールでした。その廃止は、育児や介護との両立を困難にし、キャリアを諦めて離職を選択するケースや、時短勤務に切り替える従業員の増加を招く懸念があります。
これは個人のキャリア形成だけでなく、企業全体の多様性を損なう可能性もはらんでいます。女性活躍推進やダイバーシティ&インクルージョンを掲げる企業にとって、テレワーク廃止は逆行する動きとなりかねません。
従業員が自身のライフステージとキャリアを天秤にかけるような状況は、企業が長期的に優秀な人材を確保し、組織の活力を維持する上で、大きな課題となるでしょう。
ストレス増加とエンゲージメントの低下
出社頻度が増えたことによる従業員のストレス増加も、深刻な問題として浮上しています。ある調査結果では、約8割の大企業社員が「ストレス増加」を感じていると報告されており、これは出社回帰がもたらす負の側面を浮き彫りにしています。
通勤による身体的・精神的負担、オフィス環境への再適応、人間関係の変化などが、ストレスの主な原因と考えられます。ストレスは、従業員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすだけでなく、仕事へのモチベーションやエンゲージメントの低下に直結します。
エンゲージメントの低下は、生産性の低下、離職率の増加、さらには企業文化の悪化といった形で企業全体に波及する可能性があります。従業員がストレスを抱えながら業務に取り組むことは、長期的に見て企業にとって大きな損失です。
企業は、出社回帰を進めるにあたり、従業員のストレス軽減策やメンタルヘルスサポートの強化など、細やかな配慮が求められるでしょう。従業員の満足度と企業の生産性を両立させるための、慎重なアプローチが不可欠です。
テレワークを導入しない企業の思惑
対面コミュニケーション重視の文化
テレワークを導入しない、あるいは積極的に出社回帰を進める企業には、独自の思惑や企業文化が深く根付いています。その一つが、対面コミュニケーションを極めて重視する企業文化です。
このような企業では、「顔を合わせること」が単なる情報共有の手段ではなく、チームの一体感を醸成し、企業への帰属意識を高める上で不可欠だと考えられています。非言語コミュニケーションの重要性や、偶発的な会話から生まれるアイデアを尊重する傾向が強いでしょう。
特に、新入社員のオンボーディングやOJT(On-the-Job Training)においては、対面での指導や交流が学習効果を高めると信じられています。オフィスに集まることで、自然と先輩社員から学び、企業の文化や価値観を肌で感じ取ることができるというわけです。
経営者やリーダー層に、対面でのコミュニケーションこそが最高のパフォーマンスを引き出すという信念が強く存在する場合、テレワークの導入は難しい選択肢となることが多いでしょう。</
労務管理・セキュリティへの懸念
テレワークを導入しないもう一つの大きな理由は、労務管理の難しさとセキュリティへの懸念です。オフィス以外の場所で働く従業員の勤怠管理や労働時間を正確に把握することは、企業にとって大きな課題となります。
特に、日本の労働基準法に則った厳密な管理体制を維持するためには、新たなシステム導入や運用ルールの整備が必要となり、これらに対応できない、あるいはコストをかけたくないという企業も少なくありません。また、情報漏洩リスクやデータセキュリティに対する懸念も根強いです。
従業員が自宅のネットワークや個人のデバイスを使用することによるセキュリティホール、機密情報の取り扱いに関する不安など、懸念材料は多岐にわたります。ITインフラの投資やセキュリティ対策のコスト負担は、特に中小企業にとっては大きなハードルとなるでしょう。
「従業員の働く姿が見えないこと」への不安や、「監視の目が行き届かない」ことによる生産性低下への懸念も、テレワーク導入を躊躇させる要因となっています。
業界・業務特性による制約
すべての業界や業務がテレワークに適しているわけではありません。業界や業務特性による制約も、テレワークを導入しない企業が多く存在する理由の一つです。
例えば、製造業、医療、サービス業、小売業、建設業など、物理的な作業や顧客との対面が必須となる業種では、従業員の出社が不可欠です。工場での生産ライン、病院での患者対応、店舗での接客、建設現場での作業など、テレワークでは代替できない業務が多く存在します。
また、機密情報を厳重に取り扱う金融機関や研究機関などでは、情報セキュリティ上の理由から、特定の業務においてはオフィスでの作業が義務付けられている場合もあります。これらの業務においては、テレワークが業務効率や品質に悪影響を及ぼす可能性が高いため、導入が見送られる傾向にあります。
このように、企業の事業内容や業務フローそのものがテレワークに適さない場合、どんなに柔軟な働き方を推進したいと考えても、その実現は極めて困難となります。企業はそれぞれの実情に合わせて、最適な働き方を模索していると言えるでしょう。
テレワークの今後:2025年以降の割合予測
ハイブリッドワークへの移行と期待
完全な出社回帰が進む企業がある一方で、多くの企業がアフターコロナの新しい働き方として注目しているのが、ハイブリッドワークです。これは、出社と在宅勤務を組み合わせることで、それぞれの利点を享受しようとするアプローチです。
エン・ジャパンの調査では、従業員の63%が週3日以上の出社を理想と回答しており、これは完全な在宅勤務でも完全な出社でもない、バランスの取れた働き方を求めていることを示しています。ハイブリッドワークは、対面でのコミュニケーションの機会を確保しつつ、従業員に柔軟な働き方を提供できるため、生産性と柔軟性の両立に大きな期待が寄せられています。
オフィスをコラボレーションやチームビルディングの場として活用し、集中したい業務は自宅で行うなど、従業員が自律的に働く場所を選択できる点が魅力です。これにより、従業員の満足度向上だけでなく、企業のオフィス運営コストの最適化にもつながる可能性があります。
今後は、このハイブリッドワークが多様な企業で導入され、主流の働き方として定着していくと予測されます。
企業に求められる柔軟な働き方戦略
2025年以降、企業にはより一層、柔軟な働き方戦略の構築が求められるようになるでしょう。一律のテレワーク廃止や出社義務化ではなく、部署や個人の業務内容、ライフスタイルに合わせた多様な選択肢を提供することが重要となります。
具体的には、コアタイムのないフレックスタイム制、曜日や日数を選択できるハイブリッド勤務、サテライトオフィスやコワーキングスペースの活用などが挙げられます。これらの柔軟な働き方を支えるためには、デジタルコミュニケーションツールの導入やクラウドサービスの活用など、ITインフラの整備が不可欠です。
また、従業員のエンゲージメントを高めるためには、働き方だけでなく、企業の文化そのものを見直す機会でもあります。従業員が安心して、自身の能力を最大限に発揮できるような信頼関係を構築し、心理的安全性の高い職場環境を醸成することが求められます。
「働く場所」だけでなく「働き方」そのものを従業員と共にデザインしていく姿勢が、これからの企業に求められる重要な戦略となるでしょう。
将来の働き方トレンドと予測
テレワークは一時的なブームではなく、2025年以降も様々な形で社会に定着し続けると予測されます。技術の進化、特にVR/ARやメタバースといった次世代テクノロジーの発展は、リモートワークの可能性をさらに広げるでしょう。
これらの技術が普及すれば、物理的な距離を超えて、より没入感のあるコラボレーションやコミュニケーションが実現し、自宅にいながらにしてオフィスにいるかのような体験が可能になるかもしれません。また、少子高齢化による労働人口の減少が進む日本では、人材確保の観点からも、柔軟な働き方の提供は企業にとって不可欠な要素となります。
企業は、優秀な人材を引きつけ、定着させるために、従業員のニーズに応じた多様な働き方を常に模索し続ける必要があります。従業員の満足度と企業の生産性を両立させる最適な解を見つけることが、将来の企業成長の鍵を握るでしょう。
テレワークの今後を予測する上で重要なのは、企業が変化を恐れず、常に最適な働き方を追求し続ける姿勢です。未来の働き方は、企業と従業員が共に創り上げていくものとなるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: テレワークを終了する企業が増えているのはなぜですか?
A: コミュニケーション不足、生産性の低下、チームワークの維持の難しさ、セキュリティリスクなどが理由として挙げられます。また、経営層の考え方の変化や、コロナ禍の収束なども影響しています。
Q: 有名企業はなぜテレワークを継続できるのですか?
A: 従業員のエンゲージメント向上、優秀な人材の確保、多様な働き方の実現、ITインフラの整備、柔軟なマネジメント体制などが要因として考えられます。企業文化やビジョンとの合致も重要です。
Q: テレワークを廃止したら、社員は本当に辞めてしまうのでしょうか?
A: 多くの場合、週5出社に戻すなどの急激な廃止は、社員の不満や離職につながるリスクが高いです。特に、テレワークを前提に転職してきた社員や、柔軟な働き方を求める社員にとっては、大きな退職理由となり得ます。
Q: テレワークを導入しない企業にはどのような理由がありますか?
A: 業種や職種による適性の問題、情報漏洩のリスク、対面でのコミュニケーションや教育の必要性、社内文化の維持、IT投資への抵抗感などが考えられます。また、既存の業務フローを変えにくいという側面もあります。
Q: 2025年以降、テレワークの割合はどうなると予測されていますか?
A: コロナ禍のような急激な普及は落ち着くものの、ハイブリッドワーク(出社とテレワークの組み合わせ)が主流になると予測されています。企業や業界、個人の意向によって割合は変動するでしょう。論文などでも、今後の動向が分析されています。