テレワークは、情報通信技術(ICT)を活用し、場所や時間にとらわれずに柔軟に働ける形態として、多くの企業で導入が進んでいます。総務省の調査によると、2023年度の民間企業のテレワーク導入率は約50%に達しており、コロナ禍を経て急速に普及しました。

しかし、その導入・運用には、労務管理やルール作りが不可欠です。本記事では、テレワークを成功させるための労務管理とルール作りのポイントについて、最新の情報を基に解説します。

  1. テレワーク導入で知っておくべき労務管理の基本
    1. テレワークにおける労働時間の把握と課題
    2. 勤怠管理システム導入のメリットと選定ポイント
    3. 「安全配慮義務」と健康管理の重要性
  2. テレワークにおける労働時間管理と有給休暇の取り扱い
    1. 労働時間制度の選択と適切な運用
    2. 休憩・休日・深夜労働の取り扱いと注意点
    3. 有給休暇の取得促進と管理方法
  3. テレワークの労災リスクと厚生労働省の指針
    1. テレワーク中の労災認定基準と具体例
    2. 企業が果たすべき安全配慮義務と証拠保全
    3. 厚生労働省の指針に見るテレワーク労災対策
  4. テレワークのルールブック作成とコミュニケーションの重要性
    1. 就業規則の見直しとルール作りの手順
    2. 最低限決めておくべきルール項目と柔軟な運用
    3. コミュニケーション活性化と一体感の醸成
  5. テレワーク導入事例から学ぶ家賃・経費精算の注意点
    1. テレワークにおける費用負担と手当の考え方
    2. 家賃の一部経費化と税務上の注意点
    3. スムーズな経費精算のためのシステム活用
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: テレワークで特に注意すべき労務管理のポイントは何ですか?
    2. Q: テレワークにおける労働時間管理はどのように行えば良いですか?
    3. Q: テレワーク中の労災認定について、厚生労働省はどのような指針を出していますか?
    4. Q: テレワークのルールブックにはどのような項目を含めるべきですか?
    5. Q: テレワークで発生する家賃や通信費などの経費精算はどうなりますか?

テレワーク導入で知っておくべき労務管理の基本

テレワークにおける労働時間の把握と課題

テレワークにおける労働時間の正確な把握は、企業にとって大きな課題の一つです。オフィス勤務とは異なり、従業員の勤務実態が見えにくいため、「部下の労働時間の把握が難しい」「勤務実態の把握が難しい」「長時間労働になりやすい」といった問題が発生しがちです。

こうした課題に対応するためには、適切な勤怠管理方法の導入が不可欠です。自己申告制やメール・チャットでの報告は手軽に導入できる反面、勤務実態との乖離や不正打刻、記録の確実性に課題が残ります。そのため、客観的で正確な勤怠管理を実現するための工夫が求められます。

特にサービス残業や過重労働を防ぎ、従業員の健康を守るためには、より信頼性の高い管理体制を構築することが重要です。

勤怠管理システム導入のメリットと選定ポイント

労働時間の正確な把握と効率的な管理を実現するには、勤怠管理システムの導入が非常に有効です。勤怠管理システムは、スマートフォンやPCから簡単に打刻できるため、従業員の負担を減らしつつ、リアルタイムでの勤務状況把握を可能にします。さらに、不正打刻防止機能や自動集計機能が備わっているものが多く、管理側の手間を大幅に削減できます。

また、残業時間超過時にアラートを発する機能や、労働基準法などの法改正に自動で対応する機能を持つシステムもあり、法令遵守の面でも大きなメリットがあります。給与計算システムとの連携が可能なものを選べば、業務フロー全体の効率化にも貢献します。システム選定の際は、企業の規模や業務内容に合わせた機能性、操作性、セキュリティ、サポート体制、そして費用対効果を総合的に評価することが重要です。

「安全配慮義務」と健康管理の重要性

企業には、テレワーク環境下においても従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。オフィス勤務時と同様に、長時間労働によるメンタルヘルス不調や身体的な負担(VDT症候群など)のリスクが増大する可能性があります。そのため、企業は従業員の健康管理により一層の注意を払う必要があります。

具体的には、定期的な健康診断の実施はもちろん、ストレスチェックの推奨や、オンラインでの相談窓口の設置などが考えられます。また、適切な休憩取得の奨励や、必要に応じて作業環境整備のための助言・支援も重要です。勤怠管理システムを活用し、従業員の労働時間を客観的に把握することで、過重労働を未然に防ぎ、心身の健康維持に努めることが、企業の責任として求められます。

テレワークにおける労働時間管理と有給休暇の取り扱い

労働時間制度の選択と適切な運用

テレワークにおける労働時間管理は、労働基準法をはじめとする法令遵守が必須です。通常の労働時間制度に加え、テレワークに適した柔軟な労働時間制度の導入を検討することも可能です。例えば、業務の遂行方法や時間配分を従業員に委ねる「裁量労働制」や、事業場外での業務について所定労働時間働いたものとみなす「事業場外みなし労働時間制」、労働者が始業・終業時刻を自由に決定できる「フレックスタイム制」などがあります。

ただし、これらの制度を安易に導入すると、かえって従業員の長時間労働を招いたり、企業が適切な管理責任を果たせなくなるリスクもあります。それぞれの制度には適用要件や運用上の注意点があるため、従業員の業務内容や働き方を十分に考慮し、労使間で合意形成を図った上で、慎重に導入・運用することが不可欠です。

休憩・休日・深夜労働の取り扱いと注意点

テレワーク環境においても、休憩時間、休日、深夜労働に関する労働基準法の規定は適用されます。特に休憩時間は、自宅で働いていると意識が薄れがちになり、連続して作業してしまうことで健康を害するリスクがあります。企業は、従業員に対して適切な休憩取得を促し、その時間を確保させる責任があります。

また、やむを得ず休日や深夜に業務が発生する場合には、法定の割増賃金を支払う義務があります。サービス残業を防止するためにも、従業員がいつ、どれだけ働いたかを正確に記録し、管理することが求められます。勤怠管理システムは、こうした時間外労働や深夜労働を自動で集計し、管理者にアラートを出す機能があるため、法令違反のリスクを軽減し、従業員の健康を守る上で非常に有効なツールとなります。

有給休暇の取得促進と管理方法

テレワーク環境下でも、従業員の心身のリフレッシュやワークライフバランスの維持のために、有給休暇の取得促進は重要です。しかし、在宅勤務だと「いつ休んでも同じ」という意識から、かえって有給休暇の取得が滞るケースも散見されます。企業は、従業員が気兼ねなく有給休暇を取得できるような雰囲気作りと、具体的な仕組みづくりを進める必要があります。

例えば、チーム内での業務分担や情報共有を徹底し、特定の個人に業務が集中しないような体制を構築することが挙げられます。また、勤怠管理システムを活用すれば、従業員ごとの有給休暇残日数を一元管理でき、計画的付与や取得状況の見える化によって、取得漏れを防ぎ、計画的な休暇取得を促すことが可能です。定期的なリマインドや取得促進キャンペーンなども効果的でしょう。

テレワークの労災リスクと厚生労働省の指針

テレワーク中の労災認定基準と具体例

テレワーク中に発生した事故や病気も、一定の条件を満たせば労災の対象となります。労災と認定されるには、「業務遂行性」(業務を行っている最中であること)と「業務起因性」(業務が原因で発生したこと)が認められる必要があります。

例えば、自宅での業務中に資料を取りに行く途中で転倒した場合や、業務のために使用する機器(PCやプリンターなど)を設置中に怪我をした場合などは、労災と認定される可能性があります。また、長時間労働や過重なストレスが原因で発症した精神疾患や脳・心臓疾患も、業務との関連性が認められれば労災認定の対象となり得ます。ただし、私的な行為中の事故(例えば、休憩中に洗濯物を干している際の怪我)は原則として労災とは認められません。

オフィス勤務と比較して、テレワークでは業務と私生活の境界が曖昧になりがちなため、判断が難しくなるケースも少なくありません。

企業が果たすべき安全配慮義務と証拠保全

企業は、テレワークにおいても従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています。万が一、労災が発生した際に、企業がこの義務を果たしていたかどうかが問われます。

具体的には、従業員の作業環境(照明、デスク、椅子、PCなどの貸与)について助言や支援を行う、VDT作業に関するガイドラインに準拠した休憩を促す、といった対策が挙げられます。また、労災発生時には、その事故が業務に起因するものであることを客観的に証明するための証拠が重要となります。PCの稼働ログ、業務日報、上司とのチャット履歴、業務指示書など、業務遂行性や業務起因性を裏付ける記録を日頃から保存しておくことが、企業にとって非常に重要となります。

これらの証拠が不十分な場合、労災認定の判断が難しくなるだけでなく、企業の責任が追及される可能性も出てきます。

厚生労働省の指針に見るテレワーク労災対策

厚生労働省は、テレワークにおける労務管理や労災認定に関する指針を提示しており、企業はこれを参考に労災対策を講じるべきです。例えば、「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」では、テレワークを行う際の労働時間管理、健康安全管理、情報セキュリティなどに関する基本的な考え方が示されています。

これらの指針に基づき、企業は労災リスクを軽減するための具体的な対策を検討する必要があります。具体的には、テレワーク勤務規程に労災に関する事項を明記し、従業員への周知を徹底すること。また、業務中の事故や体調不良が発生した場合の報告・連絡体制を明確にし、迅速に対応できる仕組みを整備することも重要です。自宅での作業環境に関する相談窓口を設け、従業員の不安を解消する取り組みも、労災予防に繋がります。

常に最新の情報を確認し、自社の状況に合わせて適切な対策を講じることが求められます。

テレワークのルールブック作成とコミュニケーションの重要性

就業規則の見直しとルール作りの手順

テレワークを成功させるためには、明確なルール作りが不可欠です。従来の就業規則のままでは、テレワーク特有の状況に対応しきれず、従業員の不満やトラブルの原因となりかねません。

まずは、就業規則にテレワークに関する規定を追加するか、別途「テレワーク勤務規程」などを策定する必要があります。ルール作りの手順としては、以下のステップを踏むのが効果的です。

  1. 目的設定: テレワーク導入の目的を明確にします。
  2. 対象業務・対象者決定: どの業務、誰がテレワークを行うかを定めます。
  3. 就業規則への追加: 在宅勤務に関する規定を就業規則に追加または別規程として定めます。
  4. 労働基準監督署への届出: 必要に応じて届出を行います。
  5. ルール共有: 作成したルールを従業員に周知します。

特に、評価制度、勤務時間、経費負担などのルールは、テレワークの特性に合わせて見直し、明確化することが肝要です。

最低限決めておくべきルール項目と柔軟な運用

テレワークを円滑に進めるためには、以下の項目を最低限決めておくべきです。

  • 労働時間と勤怠の管理方法
  • 就業場所と使用機器の制限
  • 業務報告や連絡のルール
  • セキュリティ対策
  • 費用負担(通信費・備品)や在宅勤務手当の取り扱い
  • 人事評価制度
  • 健康安全管理
  • 情報セキュリティ
  • 連絡体制
  • 情報共有

これらの項目について、従業員とのすり合わせを丁寧に行い、合意形成を図ることが重要です。ルールは一度決めたら終わりではなく、運用しながら定期的に見直し、現場の声や社会情勢の変化を取り入れて改善していく柔軟な姿勢が求められます。特に、テレワークに関する規定が既存の就業規則と矛盾しないよう注意が必要です。

コミュニケーション活性化と一体感の醸成

テレワークが普及する中で、多くの企業が「社内コミュニケーションの減少」や「一体感の醸成が難しい」という課題に直面しています。オフィスで顔を合わせる機会が減ることで、偶発的な情報共有や雑談が失われ、チームの一体感が希薄になる恐れがあります。

この課題を解決するためには、意図的かつ計画的にコミュニケーションを活性化させる施策が必要です。例えば、定期的なオンラインミーティングの実施はもちろん、業務とは関係のない雑談を奨励するバーチャルな「休憩室」や社内SNSの活用などが有効です。また、オンラインランチ会やコーヒーブレイク、年に数回の対面での懇親会など、非公式な交流機会を設けることも、従業員間の連帯感を深める上で重要です。

リーダー層は、積極的にメンバーに声をかけ、日頃から心理的安全性の高いコミュニケーションを意識することで、一体感の醸成に繋がります。

テレワーク導入事例から学ぶ家賃・経費精算の注意点

テレワークにおける費用負担と手当の考え方

テレワークの導入に伴い、従業員が自宅で業務を行うことで発生する通信費や光熱費、備品購入費などの費用負担は、企業にとって重要な検討事項です。これらの費用について、企業がどこまで負担するのか、従業員負担とするのかを明確にする必要があります。

多くの企業では、従業員の負担軽減と公平性の観点から「在宅勤務手当」を支給するケースが増えています。手当の金額設定や支給条件については、各社の財務状況や従業員への配慮を考慮し、明確な基準を設けることが求められます。例えば、一律で月額〇円を支給する方法や、通信費の実費を精算する方法などがあります。いずれの場合も、従業員が不公平感を感じることなく、納得して業務に集中できるような制度設計が重要です。

家賃の一部経費化と税務上の注意点

自宅でテレワークを行う場合、家賃や光熱費の一部を業務経費として計上できるのか、という疑問を持つ方もいるでしょう。個人事業主やフリーランスの場合には一定の基準で経費計上が可能ですが、会社員の場合はその取り扱いが異なります。

会社員が自宅の家賃の一部を会社に請求し、会社がそれを「家賃手当」などの名目で支給する場合、原則として給与所得として課税対象となります。ただし、業務に必要な費用として明確に区分でき、かつ通常の給与に加算して支給されるものであれば、非課税となるケースも存在します。このあたりの税務上の判断は非常に複雑であるため、安易な自己判断は避け、必ず税理士や専門家、または所轄税務署に確認することが重要です。

明確なルールを定めていなければ、従業員との間で認識の齟齬が生じたり、税務調査で指摘を受けたりするリスクがあります。

スムーズな経費精算のためのシステム活用

テレワークの導入により、従業員が立て替える経費の種類が増え、経費精算業務が煩雑化する傾向にあります。例えば、文房具やPC周辺機器、Web会議用の背景ボードなど、オフィス勤務では発生しなかった費用が増加します。

このような状況でスムーズな経費精算を実現するためには、経費精算システムの導入が非常に有効です。経費精算システムを活用することで、従業員はスマートフォンで領収書を撮影するだけで申請が可能となり、ペーパーレス化が推進されます。また、申請から承認までのプロセスが簡素化され、会計システムとの連携によって、経理部門の業務負担も大幅に軽減されます。

システムの導入は、精算漏れの防止や不正の抑制にも繋がり、従業員の利便性向上と業務効率化を両立させることができます。テレワークが常態化する現代において、経費精算システムの活用は、もはや必須のツールと言えるでしょう。