概要: 育児休業を取得する際に気になる、保険料の免除や給付金の制度について解説します。いくらもらえるのか、いつから受け取れるのか、そしてローン審査や住民税への影響まで、知っておくべき情報を網羅しました。
育児休業中の保険料は本当に免除される?
免除される社会保険料とその期間
育児休業期間中は、家計の負担を軽減するため、健康保険料、介護保険料、そして厚生年金保険料が免除される制度があります。
この免除は、被保険者である従業員だけでなく、事業主(会社)が負担する分も対象となるため、経済的なメリットは非常に大きいと言えるでしょう。
免除期間は原則として、育児休業を開始した日の属する月から、終了した日の翌日が属する月の前月までとなります。
さらに、2022年10月1日からは制度が拡充され、育児休業を開始した月のうちに14日以上育児休業を取得した場合も、その月の月額保険料が免除の対象となりました。例えば、月末に育児休業を開始し、その月内に14日以上休業すれば、その月の保険料も免除されることになります。
育児休業期間中に会社から給与が支払われるケースもありますが、一定の条件を満たせば、給与が支払われていても保険料免除を受けられる場合がありますので、会社の担当者にご確認ください。
賞与にかかる保険料免除の条件と注意点
月々の社会保険料だけでなく、賞与(ボーナス)にかかる社会保険料も育児休業中に免除されることがあります。
賞与にかかる保険料が免除されるのは、「賞与を支払った月の末日を含んだ連続した1か月を超える育児休業等を取得した場合」です。
例えば、賞与支給日が6月10日で、その月の末日である6月30日を含む期間で、連続して1か月以上の育児休業を取得していれば、その賞与に対する社会保険料は免除の対象となります。
ただし、育児休業の終了日が月末や月初にあたる場合、免除期間の扱いは複雑になることがあります。
特に、短期間の育児休業や、育児休業を分割して取得する場合には、免除期間の計算が重要となるため、事前に会社の社会保険担当者としっかり確認し、制度を最大限に活用できるよう計画を立てることをお勧めします。
免除を受けるための手続きとポイント
育児休業中の社会保険料免除は、自動的に適用されるわけではありません。
必ず事業主(会社)が、従業員の代わりに日本年金機構へ「育児休業等取得者申出書」を提出する必要があります。
この手続きが行われないと、免除の対象となっても保険料が差し引かれてしまう可能性があるので注意が必要です。育児休業に入る前に、会社と免除手続きについてしっかりと話し合い、確実に申請してもらうようにしましょう。
また、申請手続きは会社側が行いますが、従業員自身も、育児休業の取得時期や期間を会社に正確に伝えることが重要です。
育児休業終了後には、会社が「育児休業等取得者終了届」を提出することで、免除が終了します。スムーズな免除適用と終了のためにも、会社との密な連携がカギとなります。
不明な点があれば、会社の担当部署や日本年金機構の窓口に相談し、正確な情報を得るようにしましょう。
育児休業給付金(育休手当)の受給額といつから受け取れる?
育児休業給付金の計算方法と将来の改正
育児休業給付金、通称「育休手当」は、育児休業中の所得を保障してくれる心強い制度です。
支給額は原則として、休業開始時賃金日額に支給日数と67%をかけた金額で計算されます。より具体的には、休業開始前の賃金月額の約3分の2が目安となります。
例えば、月給30万円の方が育児休業を取得した場合、約20万円程度が支給されることになります。ただし、育児休業給付金には上限額と下限額が設けられているため、給料が高い方や低い方でも一定の範囲に収まるよう調整されます。
さらに、嬉しいニュースとして、2025年4月1日からは「出生後休業支援給付金」が創設される予定です。
これにより、育児休業給付金と合わせて「休業開始時賃金日額×支給日数×80%」が支給され、社会保険料が免除されることを考慮すると、実質的に手取りベースで10割相当になることが目指されています。これは、育児休業中の経済的負担を大幅に軽減する画期的な改正と言えるでしょう。
支給要件と期間:いつからいつまで受け取れる?
育児休業給付金を受け取るためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
主な要件は以下の通りです。
- 雇用保険に加入していること。
- 育児休業開始前の2年間に、月11日以上就業した月が12ヶ月以上あること。
- 育児休業中の就業日数が、月10日以下であること(または就業時間が80時間以下であること)。
- 育児休業中の賃金が、休業開始時の賃金月額の80%未満であること。
支給期間は、原則として子供が1歳の誕生日の前々日までとなります。
ただし、保育所に入所できないなどの一定の要件を満たす場合は、最長で2歳まで延長が可能です。夫婦交代で育児休業を取得する「パパ・ママ育休プラス」などの制度を活用すれば、さらに柔軟な取得も可能になります。
なお、出産後すぐに取得する「産後休業期間」(出生日の翌日から8週間)は健康保険からの出産手当金の対象となり、育児休業給付金の対象外となりますので注意しましょう。
申請手続きの流れとスムーズに受け取るコツ
育児休業給付金の申請手続きは、会社を通じて行われることが一般的です。
まず、育児休業を取得する従業員が会社に申し出を行い、会社がハローワークへ「育児休業等取得者申出書」を提出することから始まります。
この申出書により、受給資格の確認が行われます。受給資格が確認された後、所定の支給申請期間内に、再度会社を通じて「育児休業給付金支給申請書」と添付書類を提出することで、給付金が支給されます。
スムーズに給付金を受け取るためのコツは、何よりも早めの準備と会社との綿密な連携です。
- 育児休業の取得時期が決まったら、すぐに会社の担当部署(人事部など)に相談し、必要な書類や手続きのスケジュールを確認しましょう。
- 必要書類(住民票、母子手帳の写しなど)を事前に準備しておくことも大切です。
- 会社によっては、従業員が行うべき手続きと会社が行う手続きを明確に指示してくれる場合が多いので、指示に従い漏れなく対応しましょう。
給付金は、申請から受給まである程度の時間がかかりますので、余裕を持った計画が重要です。
育児休業中に利用できるその他の支援制度(家賃補助など)
会社の福利厚生や自治体の支援制度
育児休業中は、給付金や保険料免除といった公的制度に加え、勤務先の会社の福利厚生や地方自治体が独自に提供している支援制度も活用できる場合があります。
会社の福利厚生としては、育児休業中の従業員を対象とした家賃補助、特別手当、短時間勤務制度の拡充、ベビーシッター利用補助などが挙げられます。これらの制度は企業によって大きく異なるため、就業規則や福利厚生の案内を確認するか、直接人事部に問い合わせてみましょう。
また、お住まいの市区町村でも、子育て世帯を対象とした様々な支援を行っています。例えば、ベビーシッター利用料の割引券配布、一時預かり保育の費用補助、子育てに関する相談窓口の設置、親子イベントの開催などがあります。
これらの情報は、自治体のウェブサイトや広報誌で確認できるほか、役所の窓口で「子育て支援パンフレット」などをもらうと、利用できる制度を一覧で把握しやすいでしょう。利用可能な支援を積極的に調べて活用することで、育児休業中の生活をより豊かに、安心して送ることができます。
住宅ローン控除や医療費控除との関係
育児休業中は、収入が減少することから、所得税や住民税の納税額にも影響が出ます。
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けている場合、控除額は所得税額から差し引かれるため、所得税額が少なくなると、控除の恩恵も相対的に小さく感じられるかもしれません。しかし、控除制度自体は継続して適用されますので、復職後の所得回復によって再び恩恵を受けられます。
医療費控除についても、その年に支払った医療費が一定額を超えた場合に、所得から差し引かれる制度ですが、こちらも所得額が少なくなれば、控除額による節税効果は減少します。
ただし、育児休業給付金は非課税所得であるため、医療費控除の計算における総所得金額等には含まれません。
育児休業中の家族の医療費や出産にかかった費用をまとめて申告することで、控除を受けられる可能性もありますので、医療費の領収書はきちんと保管しておくことが重要です。確定申告の際には、これらの控除がどのように適用されるか、税務署や税理士に相談することをお勧めします。
所得税・住民税に関する配慮と優遇措置
育児休業期間中に受け取る育児休業給付金は、所得税・住民税ともに非課税所得です。
つまり、給付金には税金がかからず、所得として扱われないため、翌年の税金計算に影響しません。これは、育児休業中の家計を支える上で非常に大きな優遇措置と言えるでしょう。
また、配偶者控除や扶養控除など、家族の所得状況に応じて受けられる控除もあります。
もし配偶者が育児休業を取得し、所得が減少した場合は、もう一方の配偶者が配偶者控除の対象となるなど、家族全体での節税対策を見直す良い機会にもなります。
住民税については、前年の所得に基づいて計算されるため、育児休業を取得した初年度は、育休前の高い所得に対して課税されることになります。このため、育休中の収入減少とのギャップに戸惑う方も少なくありません。
しかし、一時的な納税が困難な場合は、お住まいの市区町村に申し出ることで徴収猶予を受けられる場合がありますので、役所の税務担当窓口に相談してみましょう。
育児休業がローン審査に与える影響と対策
住宅ローン審査における育児休業期間の影響
育児休業中に住宅ローンを組む、あるいは既存のローン借り換えを検討している場合、その審査に育児休業が影響を与える可能性を理解しておく必要があります。
金融機関はローン審査において、申込者の安定した収入を重視します。育児休業中は、育児休業給付金が支給されるものの、通常の給与と比較して収入が減少するため、一時的に返済能力が低下していると見なされることがあります。
特に、育児休業中に申し込む場合は、休業前の所得だけでなく、復職後の収入見込みや、夫婦合算での収入、将来のキャリアプランなども審査の対象となります。
金融機関によっては、育児休業中の申込者に対して、通常の審査基準とは異なる対応を取る場合や、融資額を抑えたり、審査をより慎重に行ったりするケースもあります。そのため、育児休業中のローン申請は、休業前や復職後に申請するよりも、不利になる可能性があることを念頭に置いておくべきでしょう。
育児休業中の収入減少と返済計画
育児休業給付金により、実質手取りベースで約8割の収入が得られるとしても、月々の収入が減少することは避けられません。
住宅ローンの返済は長期にわたるため、この一時的な収入減少が返済計画に与える影響を十分にシミュレーションしておくことが不可欠です。無理のない返済計画を立てるためには、以下の点を検討しましょう。
- 頭金の準備: 頭金を多めに用意することで、借入額を減らし、月々の返済負担を軽減できます。
- 貯蓄の確保: 育児休業中の生活費や、万一の際に備えるための十分な貯蓄を確保しておくことが安心につながります。
- 返済計画の見直し: 金利タイプ(変動金利か固定金利か)や返済期間、ボーナス払いの有無など、ご自身のライフプランに合った返済計画を検討しましょう。
- 夫婦合算の収入: 夫婦で協力して返済していくことを前提に、合算収入でローンを組む場合は、育児休業による収入減がどのように影響するかを把握しておく必要があります。
無理な借り入れは避け、将来の家計状況を見据えた堅実な計画を立てることが重要です。
審査対策と金融機関への相談ポイント
育児休業中に住宅ローンを検討する際には、いくつかの対策を講じることで、審査をスムーズに進めることが可能です。
最も理想的なのは、育児休業に入る前に住宅ローンの審査を済ませておくことです。休業前の安定した収入実績が評価されやすいため、有利に審査を進められる可能性が高まります。
もし育児休業中に申し込む場合は、金融機関に対し、以下の情報を具体的に伝えるようにしましょう。
- 復職の意思と時期: 育児休業後に職場に復帰する明確な意思と、具体的な復職予定時期を伝えることで、将来の安定収入をアピールできます。
- 会社の制度: 育児休業後の短時間勤務制度や育児手当など、会社が提供する育児支援制度があれば、それらを説明することで、復職後の働きやすさや収入安定性を示すことができます。
- 今後のキャリアプラン: 長期的な視点でのキャリアプランを伝えることで、長期的な返済能力をアピールすることも有効です。
複数の金融機関に相談し、育児休業中の申込者に対する柔軟な対応や、育児休業期間中の返済プランなど、各社の特徴を比較検討することも重要です。
また、団体信用生命保険(団信)の加入条件も確認し、万一の備えについても把握しておきましょう。
知っておきたい!育児休業と翌年の住民税について
育児休業中の住民税の仕組み
育児休業中の社会保険料は免除されますが、住民税については少し複雑な仕組みを理解しておく必要があります。
住民税は、毎年1月1日時点で住所がある市区町村に、前年1月1日から12月31日までの所得に基づいて課税されます。そのため、育児休業を取得した年であっても、その前年の所得が高ければ、育休中の収入が大幅に減っていても、住民税の支払いが発生します。
例えば、2024年中に育児休業を取得した場合、2024年の住民税は2023年の所得に基づいて計算されます。もし2023年にフルタイムでしっかり働いていれば、その分の所得に対する住民税は、育休中の2024年も支払う必要があるのです。
一方で、育児休業給付金は非課税所得であるため、住民税の課税対象にはなりません。つまり、給付金を受け取っても、その金額が翌年の住民税額に影響することはないのでご安心ください。
この「前年の所得に課税される」という住民税の仕組みが、育児休業中の家計に思わぬ負担を与えることがあるため、事前の理解と準備が非常に重要となります。
翌年の住民税が家計に与える影響
育児休業を取得すると、その期間の収入は減少します。
これにより、育児休業期間中の所得が大幅に減少するため、翌年の住民税は減額される傾向にあります。これは、前年所得に応じて課税されるため、所得が少なければ税金も少なくなるという自然な流れです。
しかし、育児休業を開始した初年度は、前年の高い所得に基づいて計算された住民税を支払う必要があり、これが家計に一時的な負担となることがあります。
給与からの天引き(特別徴収)で住民税を支払っていた方は、育児休業に入ると給与の支払いがなくなるか、大幅に減少するため、自分で納付書を使って支払う「普通徴収」に切り替わるケースがほとんどです。
この場合、年に数回に分けて送付される納付書で、自分で金融機関やコンビニエンスストアなどで支払うことになります。自分で税金を納めることに慣れていない方は、支払い忘れや金額の確認不足に注意が必要です。
社会保険料免除と住民税支払いのバランスを考慮し、育児休業中の資金計画を立てておくことが、安心して育児に専念するためのポイントとなります。
住民税の支払いに向けた対策と相談窓口
育児休業中の住民税支払いによる経済的負担を軽減するためには、いくつかの対策を講じることが有効です。
まず、育児休業に入る前に、翌年に支払うことになる住民税の金額を概算でシミュレーションし、その分の資金をあらかじめ準備しておくことが最も確実な対策です。
住民税額は、前年の課税所得から計算されるため、会社の給与明細や源泉徴収票を確認すれば、ある程度の目安を把握できます。
万が一、育児休業中に住民税の一括納付や分割納付が困難になった場合は、決して放置せず、お住まいの市区町村の税務担当窓口に早めに相談しましょう。
自治体によっては、以下のような対応をしてくれる場合があります。
- 徴収猶予制度: 一時的に住民税の支払いを猶予してくれる制度です。収入の減少など、やむを得ない事情がある場合に利用できることがあります。
- 分割納付の相談: 一度に支払うのが難しい場合に、納税額を複数回に分けて支払う相談に応じてくれることがあります。
窓口では、ご自身の状況を詳しく説明し、どのような支援が受けられるかを確認してください。事前に相談することで、延滞金が発生したり、催促を受けるといった事態を避けることができます。
まとめ
よくある質問
Q: 育児休業中の健康保険料・年金保険料は全額免除になりますか?
A: はい、育児休業期間中は、被保険者負担分の健康保険料および厚生年金保険料が免除されます。ただし、雇用保険料は免除されません。
Q: 育児休業給付金(育休手当)は、いつからいくらもらえるのでしょうか?
A: 育児休業給付金は、原則として休業開始から1ヶ月ごとに支給されます。支給額は、休業開始時の賃金日額の67%(延長期間中は50%)に、休業日数(上限20日)を乗じて計算されます。ただし、上限額・下限額があります。
Q: 育児休業中に家賃補助などの支援はありますか?
A: 自治体によっては、低所得者向けの住居確保給付金など、家賃補助に類する支援制度があります。公務員の方も、所属する自治体の条例等で家賃補助制度が設けられている場合があります。詳細は各自治体の窓口にご確認ください。
Q: 育児休業を取得すると、住宅ローンなどの審査に影響はありますか?
A: 育児休業中は収入が減少するため、ローン審査に影響が出る可能性があります。しかし、休業期間中の所得証明や復帰後の収入見込みなどを提示することで、審査を通過できる場合もあります。事前に金融機関に相談することをおすすめします。
Q: 育児休業翌年の住民税はどうなりますか?
A: 育児休業期間中は所得税がかからないため、翌年の住民税が免除されるわけではありません。前年の所得に対して住民税は課税されます。ただし、育児休業給付金は所得税の対象外です。