育児休業の取得を阻む「取れない」状況の背景

制度の存在を知らない、あるいは誤解しているケース

「育児休業は女性だけのものでしょう?」「パートだから無理だよね?」――残念ながら、このような誤解や制度に関する情報不足から、本来取得できるはずの育児休業を諦めてしまうケースが少なくありません。しかし、育児休業は法律によって定められた、子を養育するすべての労働者に与えられた権利です。

参考情報にもある通り、育児休業は男女問わず、子どもが1歳未満(一定の条件を満たせば最長2歳)であれば取得可能です。さらに、正社員だけでなく、派遣社員やパート・アルバイトの方も、一定の条件を満たせば取得できる制度です。会社に独自の育児休業制度がなくても、法律上の取得要件を満たしていれば、休業は認められます。会社には、法律で定められた制度について従業員に周知する義務があるため、まずはご自身の権利を正しく理解することから始めましょう。

企業側の理解不足や人手不足の圧力

育児休業が法律上の権利であるにもかかわらず、企業側がその認識を欠いている、あるいは「人手不足だから」といった理由で取得を渋るケースも散見されます。特に中小企業においては、限られた人員で業務を回しているため、一人でも休業すると業務に支障が出るという事情があるのも事実でしょう。

しかし、どのような事情があったとしても、会社が育児休業の取得を拒否することはできません。これは育児・介護休業法によって明確に定められています。もし「人手が足りないから無理」「業務に支障が出る」といった理由で会社から難色を示された場合は、それが不当な要求であることを認識し、諦めずに適切な窓口に相談することが重要です。会社には、従業員の育児休業取得に協力する義務があり、代替人員の確保や業務配分の見直しなど、必要な対応を取る責任があります。

職場の雰囲気や同僚への遠慮

制度が整っていたとしても、職場の雰囲気が取得を阻む要因となることもあります。「前例がないから」「同僚に迷惑をかけたくない」といった心理的なハードルは、特に育児休業の取得者が少ない職場では顕著です。特に男性の場合、「男性が育児休業を取るなんて」という古い慣習や価値観が残っている職場も少なくありません。

参考情報によると、2023年度の男性の育児休業取得率は30.1%でしたが、女性の84.1%と比較すると依然として低い水準にあります(2024年度には40.5%に上昇したとの報告もありますが、それでも女性よりはかなり低いです)。これは制度の利用が進んでいる一方で、職場の心理的なハードルがまだ高いことを示唆しています。こうした状況を打破するためには、個人の意識だけでなく、会社全体で育児休業を当たり前のものとして受け入れる文化を醸成していくことが不可欠です。遠慮せず、権利を行使する姿勢が、やがて職場の文化を変える一歩となるでしょう。

育児休業を取りにくい会社の実態とハラスメント

制度の形骸化と実質的な拒否

企業によっては、育児休業制度は存在するものの、実際には取得させないような運用をしている場合があります。例えば、「まずは有給休暇を消化してほしい」「業務の引き継ぎが完了しないと認められない」といった理由を付けて、実質的に育児休業の開始を遅らせたり、断念させようとしたりするケースです。

法律では、育児休業の申し出は原則として開始予定日の1ヶ月前までと定められており、会社は正当な理由なくこれを拒否することはできません。例え就業規則に育児休業に関する規定がなかったとしても、法律で認められた権利です。もし会社から不当な理由で取得を拒否された場合は、それは「制度の形骸化」というより、むしろ法律違反に該当する可能性が高いと言えるでしょう。このような状況に直面したら、泣き寝入りせずに対応を検討することが重要です。

パタハラ・マタハラの具体例

育児休業の申し出をきっかけに、従業員が不利益な扱いを受けたり、嫌がらせを受けたりするハラスメントは「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)」や「マタハラ(マタニティ・ハラスメント)」と呼ばれ、厳しく禁止されています。具体的には、以下のような行為が該当します。

  • 育児休業を申し出たことを理由に、降格、減給、不当な配置転換を行う。
  • 「男のくせに育児休業なんて」「責任感がない」といった発言で精神的苦痛を与える。
  • 育児休業取得後に、昇進・昇格の機会を不当に奪う。
  • 退職を促したり、退職を強要したりする。

これらのハラスメントは、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、企業のイメージや生産性にも悪影響を及ぼします。もし心当たりのある場合は、ためらわずに公的機関へ相談してください。参考情報にもある通り、労働局の「雇用環境・均等部(室)」などが相談窓口となります。

違法性とその場合の対処法

育児休業の取得拒否やパタハラ・マタハラは、いずれも育児・介護休業法に違反する行為であり、許されるものではありません。もし会社から不当な扱いを受けた場合、以下のステップで対処を検討しましょう。

  1. 証拠の記録: ハラスメントや不当な扱いの内容、日時、場所、発言者、目撃者などを詳細に記録します。メールや書面、会話の録音なども有効な証拠となります。
  2. 会社への相談: まずは会社の相談窓口(人事部、ハラスメント相談窓口など)に相談します。これにより、会社が状況を把握し、改善を促すきっかけとなることがあります。
  3. 外部機関への相談: 会社内で解決しない場合は、労働局の「雇用環境・均等部(室)」や弁護士などの専門機関に相談します。これらの機関は、法的なアドバイスや、会社への指導・あっせんなどの支援を提供してくれます。

ご自身の権利を守るためにも、適切な対処法を知り、毅然とした態度で臨むことが大切です。

育児休業が取得できない場合の代替案や知っておくべきこと

休業要件と対象外となるケースの再確認

育児休業は労働者の権利ですが、取得にはいくつかの条件があります。まずはご自身がこれらの条件を満たしているか、今一度確認してみましょう。

主な条件としては、雇用保険の被保険者であること、休業開始日前の2年間に賃金支払い基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上あること、休業期間中に一定以上の賃金が支払われていないことなどがあります。また、有期雇用労働者の場合は、「育児休業を申し出る時点で、子どもが1歳6か月に達する日までに労働契約が更新され、期間満了とならないことが明らかでないこと」が条件となります。

一方で、労使協定で定められた場合に限り、育児休業の対象外となるケースも存在します。具体的には、入社1年未満の労働者、申請日から1年以内に雇用関係が終了する予定の労働者、週の所定労働日数が2日以下の労働者などが挙げられます。ご自身の契約内容や会社の労使協定を確認し、もし対象外となる場合でも、会社との交渉や他の選択肢を検討することが重要です。

育児短時間勤務制度や年次有給休暇の活用

「育児休業は難しいけれど、育児のために時間が必要」という場合、育児短時間勤務制度や年次有給休暇の活用も有効な選択肢です。育児短時間勤務制度は、子どもが3歳になるまで、1日の所定労働時間を原則6時間とする制度で、多くの企業で導入されています。

また、子どもの急な病気や予防接種などの際には、子の看護休暇を利用できます。年次有給休暇も、育児のための時間確保に活用できるでしょう。これらの制度は育児休業とは異なり、勤務を継続しながら育児と両立できるため、キャリアの中断を避けたい方や、完全に休業することが難しい場合に特に有効です。

さらに、2025年4月と10月に施行される育児・介護休業法の改正では、子の年齢に応じた柔軟な働き方の実現が推進される予定です。これにより、短時間勤務やテレワークなど、より多様な働き方が選択できるようになることが期待されます。

育児休業給付金以外の経済的支援

育児休業期間中の家計を支える上で欠かせないのが「育児休業給付金」です。参考情報にもある通り、休業開始から180日間は休業開始時賃金日額の67%相当額、181日目以降は50%相当額が支給されます。この給付金は、雇用保険から支給されるもので、申請は原則として2ヶ月ごとに行います。申請期限を過ぎても、時効(申請期限の翌日から2年間)までであれば申請可能ですので、もし手続きが遅れても諦めずに申請しましょう。

育児休業給付金以外にも、自治体によっては独自の子育て支援制度や手当を設けている場合があります。例えば、児童手当、医療費助成、保育サービスの補助などです。また、健康保険から出産育児一時金や出産手当金が支給されることもあります。これらの給付金や手当を最大限に活用することで、育児休業中の経済的な不安を軽減し、安心して育児に専念できる環境を整えることができます。ご自身の居住地の自治体ウェブサイトや、社会保険の窓口などで情報を収集することをおすすめします。

会社への効果的な伝え方:取引先へのメール例文も紹介

早めの相談と書面での申し出の重要性

育児休業の取得をスムーズに進めるためには、会社への早めの相談が何よりも大切です。育児・介護休業法では、原則として開始予定日の1ヶ月前までに申し出ることが定められていますが、できるだけ早く(妊娠が分かった時点など)上司や人事担当者に意向を伝えておくことで、会社側も業務の引き継ぎや人員配置などの準備期間を確保できます。

また、申し出は書面で行うことが推奨されています。書面で提出することで、口頭での伝達ミスを防ぎ、後々のトラブル防止にも繋がります。会社の指定する書式や方法(書面、FAX、メールなど)を確認し、必要事項(休業開始・終了予定日、子どもとの続柄など)を記載した書類を提出しましょう。これは「言った言わない」の水掛け論を防ぎ、万が一の際に自身の権利を主張するための重要な証拠となります。

建設的な話し合いのための準備

育児休業の取得を伝える際は、単に「取ります」と宣言するだけでなく、会社との建設的な話し合いを意識することが重要です。そのためには、いくつかの準備をしておくと良いでしょう。

まず、自身の担当業務について、休業期間中の引き継ぎ案や、復帰後の働き方(短時間勤務希望など)について、具体的に考えておくことです。これにより、会社側も具体的な対策を検討しやすくなります。また、育児休業が労働者の権利であるという認識を持ちつつも、会社の状況への配慮を示すことで、より円滑なコミュニケーションが期待できます。人手不足などの懸念を共有しつつも、あくまで権利行使であることを毅然と伝えましょう。もし話し合いが難航する場合は、参考情報にもあるように、公的な相談窓口の活用も視野に入れておくことが大切です。

取引先への配慮とメール例文

育児休業の取得は、社内だけでなく、取引先にも影響を及ぼす可能性があります。休業に入る前に、取引先への丁寧な連絡と、適切な引き継ぎを行うことが、ビジネス関係を円滑に保つ上で非常に重要です。後任者の紹介、連絡先の共有、緊急時の対応方法などを明確に伝えましょう。

以下に、取引先へのメール例文を紹介します。状況に合わせて適宜修正してご活用ください。

件名:育児休業取得のご連絡(〇〇株式会社 〇〇)

拝啓

貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

私事で大変恐縮ですが、この度、〇月〇日より〇月〇日まで育児休業を取得させていただくことになりました。
育児休業期間中は、皆様にご不便をおかけすることもあるかと存じますが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。

私の業務につきましては、後任の〇〇(氏名)が担当させていただきます。
〇〇は現在、私と一緒に業務を進めており、円滑な引き継ぎが完了しております。
何かご不明な点がございましたら、お手数ですが以下の連絡先までご連絡いただけますと幸いです。

後任者氏名 〇〇 〇〇(〇〇部に所属しております)
電話番号 XXX-XXXX-XXXX
メールアドレス xxxx@example.com
復帰後も、一層精進してまいりますので、今後とも変わらぬご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。 敬具 署名: 〇〇株式会社 〇〇部 〇〇 電話番号:XXX-XXXX-XXXX メールアドレス:xxxx@example.com

育児休業取得後の評価への影響と心構え

不当な評価を防ぐための知識

育児休業を取得したことによって、職場復帰後の評価やキャリアに悪影響が出るのではないかと不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、育児・介護休業法では、育児休業取得を理由とした不利益な取り扱いを明確に禁止しています。これは、昇進・昇格、賞与の査定、配置転換など、あらゆる面において適用されます。

もし、育児休業後に正当な理由なく昇進が見送られたり、明らかに不当な評価を受けたりした場合は、それは違法な措置である可能性が高いです。会社の評価制度や昇進基準を事前に確認し、自身の評価が不当だと感じた場合は、決して黙り込まず、社内の相談窓口や労働局などの外部機関に相談しましょう。自身の権利を守るための知識と行動が、不当な評価を防ぐ第一歩となります。

職場復帰後のキャリアプランと柔軟な働き方

育児休業からの職場復帰は、新たな生活サイクルが始まる大きな転機です。復帰後のキャリアプランを明確にし、必要に応じて会社と柔軟な働き方について相談することも大切です。例えば、子どもが小さいうちは短時間勤務制度を利用したり、在宅勤務やフレックスタイム制を活用したりすることで、育児と仕事の両立を図ることができます。

2025年4月と10月に施行される育児・介護休業法の改正では、「子の年齢に応じた柔軟な働き方」がさらに推進される予定です。これにより、より多様な選択肢が広がり、個々のライフステージに合わせた働き方がしやすくなるでしょう。キャリアのブランクを不安に感じる必要はありません。育児で培ったスキル(タイムマネジメント、マルチタスク能力、問題解決能力など)は、ビジネスシーンでも大いに役立つはずです。復帰後も情報収集を怠らず、自身のキャリア形成に積極的に取り組みましょう。

ポジティブなロールモデルとしての心構え

育児休業を取得し、仕事と育児を両立させることは、決して容易なことばかりではありません。しかし、その経験はあなた自身の成長に繋がるだけでなく、周囲にもポジティブな影響を与える可能性を秘めています。特に男性が育児休業を取得し、活躍することは、職場の意識改革を促し、多様な働き方が認められる文化を醸成する上で非常に重要な役割を果たします。

参考情報にもある通り、男性の育児休業取得率は年々増加傾向にあります。あなたは、この新しい時代の流れを牽引するロールモデルとなり得るのです。自身の経験を通じて、他の同僚が育児休業を取得しやすい雰囲気を作り出すことにも貢献できます。育児休業は、「仕事と家庭生活の両立を支援するための大切な制度」です。自身の権利を堂々と行使し、その経験を糧に、仕事も育児も充実させていくという前向きな心構えで臨みましょう。