「慶弔休暇(けいちょうきゅうか)」は、従業員の結婚や出産、近親者の不幸といった慶事(お祝い事)や弔事(お悔やみ事)の際に取得できる休暇のことです。

多くの企業で福利厚生の一環として導入されていますが、法律で定められた休暇ではないため、取得できないケースや、その理由について疑問を持つ方もいるかもしれません。

本記事では、慶弔休暇に関する最新の正確な情報や、取得できない場合の理由、そして正しい知識について解説します。安心して休暇を取得できるよう、ぜひ最後までお読みください。

慶弔休暇とは?基本的なルールを理解しよう

慶弔休暇は法律で義務ではない「特別休暇」

慶弔休暇は、労働基準法などの法律で定められた休暇ではありません。これは、企業が任意で設ける「法定外休暇」または「特別休暇」に分類されるものです。

しかし、従業員のワークライフバランスを支える重要な制度として、多くの企業で導入が進んでいます。

厚生労働省の調査によると、2018年には90.7%、2021年には94.9%の企業が慶弔休暇を導入していると報告されています。さらに、中小企業においても2023年には86%の導入率と、非常に普及している制度と言えるでしょう。

このように高い導入率を誇る一方で、法律上の義務ではないという点は、慶弔休暇の取得条件や運用を理解する上で非常に重要になります。企業ごとにそのルールが異なるため、必ず就業規則を確認することが求められます。

有給か無給か?企業による賃金規定の違い

慶弔休暇が有給(賃金が支払われる)か無給(賃金が支払われない)かは、企業によって大きく異なります。この点も、慶弔休暇が法律で義務付けられていない「特別休暇」であることに起因します。

2021年の調査では、慶弔休暇制度を導入している企業のうち、81.3%が「賃金の全額が支給される(有給)」と回答しており、多くの場合で有給休暇として扱われる傾向があります。

一方で、10.8%の企業は「無給」と回答しており、制度があっても賃金が発生しないケースも存在します。</特に「子の結婚休暇」については、有給とする企業の割合が他の事由よりも低い傾向が見られます。

そのため、休暇を申請する前に、自身の会社の就業規則を確認し、慶弔休暇が有給なのか無給なのか、そして対象事由ごとの賃金規定はどうなっているのかを把握しておくことが不可欠です。これにより、安心して休暇を利用できるだけでなく、予期せぬトラブルを防ぐことができます。

慶弔休暇と忌引き休暇、その他の特別休暇との関係性

「慶弔休暇」は、慶事(結婚、出産など)と弔事(近親者の不幸)の両方を包括する広範な特別休暇の総称です。その中で、「忌引き休暇」は特に弔事、すなわち通夜や葬儀への参列のために取得する休暇を指します。

多くの企業では、忌引き休暇を慶弔休暇の一部として位置づけており、就業規則上は「慶弔休暇(忌引きを含む)」といった形で規定されていることが多いでしょう。</

慶弔休暇の付与日数は、事由や親族との関係性によって細かく定められています。例えば、配偶者の死亡時は7〜10日程度、父母の死亡時は5〜7日程度、兄弟姉妹の死亡時は2〜3日程度が一般的な目安とされていますが、これも企業によって異なります。

申請の際には、会社所定の申請書に必要事項を記入し、場合によっては会葬礼状や死亡診断書、結婚証明書などの証明書の提出を求められることもあります。これらの申請方法や必要な書類についても、必ず就業規則で確認し、正確な手続きを踏むようにしましょう。

慶弔休暇がもらえない・休めないケースとその理由

最も多い理由:法律上の義務がないため

慶弔休暇が「もらえない」「休めない」と感じる最も根本的な理由は、この休暇が法律によって義務付けられていない「法定外休暇」である点にあります。

労働基準法では年次有給休暇の付与が義務付けられていますが、慶弔休暇については企業が任意で導入する福利厚生制度です。そのため、会社が慶弔休暇制度を設けていない場合、法的には何ら問題がないということになります。

もしあなたの会社の就業規則に慶弔休暇に関する規定が一切記載されていないのであれば、残念ながら慶弔休暇を取得することはできません。この場合、有給休暇の取得を検討するか、会社と個別に相談して特別の配慮を求めるしかありません。

したがって、入社時や人事制度変更時には、就業規則をしっかりと確認し、慶弔休暇の有無やその詳細を把握しておくことが重要です。制度がない場合は、会社が従業員を大切にする文化を持っているかどうかの指標の一つにもなり得るでしょう。

就業規則の適用範囲と非正規雇用者の問題

慶弔休暇制度が会社にあるにもかかわらず取得できないケースとして、就業規則で定められた適用条件に合致しない場合があります。

例えば、正社員には適用されるが、契約社員、パート・アルバイトといった非正規雇用者には適用されない、あるいは適用条件が異なるという規定を設けている企業も存在します。近年では同一労働同一賃金の観点から非正規雇用者への適用も進む傾向にありますが、まだ多くの企業で差があるのが現状です。

また、入社したばかりの「試用期間中」の社員に対しては、慶弔休暇を与えない旨を就業規則に定めている場合もあります。これは、企業の慣習や制度運用上の都合によるものですが、従業員にとっては不利益と感じられることもあります。

さらに、慶弔休暇の対象となる親族の範囲や事由が限定されているケースも考えられます。例えば、「兄弟姉妹の結婚には慶弔休暇を認めない」といった規定は珍しくありません。自身の状況が就業規則の規定に合致するかを細部まで確認することが、休暇取得の第一歩となります。

「対象事由外」と「申請不備」による取得不可

慶弔休暇の取得が認められない理由には、「対象事由外」であることと、「申請不備」があることも挙げられます。

まず「対象事由外」とは、就業規則に定められた慶弔休暇の取得条件に、自身の状況が当てはまらない場合を指します。例えば、結婚や死亡の対象親族が就業規則の範囲外であったり、友人の結婚や遠縁の親戚の不幸など、会社が定めている範囲を超えているケースです。

多くの企業では、本人の結婚、配偶者・父母・子の死亡といった近親者の事由に限定されており、友人や同僚の慶弔には適用されないことが一般的です。この場合、自身の有給休暇を使用するか、上司に相談して別の方法を検討する必要があります。

次に「申請不備」ですが、慶弔休暇の申請は通常、会社所定の申請書に必要事項を記入し、上長へ提出する手順を踏みます。この際に、申請書の記入漏れ、提出期限の遅れ、あるいは会社が求める証明書類(会葬礼状のコピー、死亡診断書のコピー、婚姻届受理証明書など)の提出ができないといった不備があると、休暇の承認が得られないことがあります。

トラブルを避けるためにも、就業規則に記載された申請方法や必要書類を事前に確認し、漏れなく準備することが大切です。

「ズル休み」や「バレる」リスクについて

虚偽申請のリスクと会社の対応

慶弔休暇の虚偽申請は、非常に大きなリスクを伴う行為であり、決して行ってはいけません。例えば、実際には存在しない親族の不幸を偽ったり、結婚式を装って私的な旅行に行ったりする行為は、会社への重大な背信行為とみなされます。

虚偽申請が発覚した場合、就業規則に基づき懲戒処分の対象となる可能性が極めて高いです。具体的には、減給、出勤停止、さらには懲戒解雇といった重い処分が下されることもあります。一度失った会社からの信頼を取り戻すことは非常に困難であり、職場での人間関係にも悪影響を及ぼします。

会社によっては、慶弔休暇の申請時に証明書の提出を義務付けている場合もあります。特に弔事の場合、会葬礼状や死亡診断書のコピー、慶事の場合も結婚証明書や母子手帳のコピーなどを提出させることがあります。これらの書類を偽造することは、さらに深刻な事態を招きかねません。

企業が福利厚生として提供している休暇制度を悪用することは、自身のキャリアだけでなく、会社の制度そのものに対する信頼を損なう行為であることを認識し、誠実な対応を心がけましょう。

なぜ虚偽申請をしてしまうのか?

慶弔休暇を虚偽申請してしまう背景には、様々な要因が考えられます。

まず、会社の慶弔休暇制度を十分に理解していないというケースがあります。自分の状況が休暇の対象になると思い込み、深く考えずに申請してしまうことがあります。また、制度はあるものの、取得しにくい職場環境や雰囲気が原因となることもあります。

次に、業務の多忙さや人員不足から、真に休暇が必要な状況でも「休むと周囲に迷惑がかかる」という罪悪感を抱き、正直に申請することをためらう場合があります。その結果、「どうせ休めないなら…」という思いから、やむを得ず嘘をついてしまうことも考えられます。

さらに、個人のプライベートな事情でどうしても休みが必要だが、会社にその理由を伝えたくない、あるいは伝えにくいと感じる場合も、安易な虚偽申請に走ってしまうことがあります。例えば、友人の結婚式が対象外だと知りつつ、親族の結婚と偽るようなケースです。

しかし、どのような理由であれ、虚偽申請は最終的に自分自身を苦しめることになります。まずは就業規則を正確に理解し、必要であれば人事担当者や上司に相談するなど、正しい方法で休暇を検討することが重要です。

正しい情報開示とコミュニケーションの重要性

慶弔休暇を適切に取得し、不要なリスクを避けるためには、会社との正しい情報開示とコミュニケーションが不可欠です。

まず、休暇が必要となった場合は、速やかに就業規則を確認し、自身の状況が慶弔休暇の対象となるか、必要な日数は何日か、有給か無給か、そして申請に必要な書類は何かを把握しましょう。不明な点があれば、迷わず人事部門や直属の上司に相談してください。

正直に状況を説明し、必要な情報を開示することで、会社側も適切な対応を検討することができます。もし慶弔休暇の対象外であっても、年次有給休暇の取得を勧められたり、業務調整のサポートを受けられたりするなど、別の解決策が見つかる可能性があります。

また、休暇取得前に業務の引継ぎを徹底し、周囲への配慮を示すことも重要です。これにより、「会社に迷惑をかけずに休む」という信頼関係を構築できます。誠実な姿勢で臨むことは、自身の職業人としての評価を高め、将来的なキャリアにも良い影響をもたらします。

どんなに休暇が必要な状況であっても、ルールを逸脱した行動は避け、オープンなコミュニケーションを通じて問題解決を図ることが、最も賢明な選択と言えるでしょう。

慶弔休暇の「備考」欄に書くべきこと、注意点

「備考」欄は簡潔かつ明確に

慶弔休暇の申請書には、「備考」欄が設けられていることがあります。この欄には、休暇の取得理由や連絡先など、上司や人事が判断する上で必要な情報を簡潔かつ明確に記入するようにしましょう。

具体的には、弔事の場合は「〇月〇日 故〇〇(続柄)の葬儀参列のため」、慶事の場合は「〇月〇日 自身の結婚式のため」といったように、具体的な事由と日付を記載します。また、休暇中の連絡先や、緊急時の対応について誰に引き継いだかなどを追記することも、スムーズな承認に繋がります。

ただし、プライベートな詳細すぎる情報や感情的な内容は避けるべきです。あくまで会社が休暇を承認するために必要な情報に留め、ビジネスライクな記述を心がけましょう。

備考欄の記載は、会社側が状況を正確に把握し、業務への影響を最小限に抑えるための重要な情報源となります。不足なく、しかし無駄なく記載することが、円滑な休暇取得に繋がるでしょう。

必要な証明書類の準備と提出

慶弔休暇の申請時には、事由を証明する書類の提出を求められる場合があります。これは、虚偽申請を防ぎ、適正な制度運用を行うために必要なプロセスです。会社によって求める書類は異なりますが、一般的には以下のようなものが挙げられます。

  • 弔事の場合:
    会葬礼状のコピー、死亡診断書のコピー、火葬許可証のコピーなど、故人との関係性や死亡日を証明できるもの。
  • 慶事の場合:
    結婚証明書のコピー、婚姻届受理証明書のコピー、母子手帳のコピー(出産の場合)など、慶事の事実を証明できるもの。

これらの書類は、休暇申請時に合わせて提出できるよう、事前に準備しておくことが大切です。特に弔事の場合は、急な出来事であり、準備が難しい場合もあります。その際は、まずは口頭で上司に報告し、後日速やかに提出する旨を伝えるなど、会社との連絡を密にしましょう。

必要な書類をきちんと提出することは、会社からの信頼を得る上でも重要です。就業規則で定められた書類を正確に揃え、期限内に提出するように努めましょう。

連絡と引継ぎの徹底

慶弔休暇に限らず、長期の休暇を取得する際には、事前の連絡と業務の引継ぎを徹底することが非常に重要です。特に急を要する弔事の場合でも、可能な範囲で最低限の連絡は行うべきです。

まず、休暇取得の意志を上司に伝え、申請書を提出します。その際、休暇期間中、業務が滞りなく進むように、担当業務の進捗状況、緊急時の連絡先、代行者、顧客への連絡状況などを詳細にまとめた資料を作成し、関係者に共有しましょう。

メール設定で不在通知をオンにする、携帯電話を常に持ち歩き緊急時には対応できるようにしておく(ただし、無理のない範囲で)、といった配慮も大切です。これにより、休暇中の会社への影響を最小限に抑え、周囲の協力を得やすくなります。

適切な連絡と引継ぎは、円滑な業務遂行だけでなく、職場のメンバーとの信頼関係を維持・強化するためにも不可欠です。

休暇明けもスムーズに業務に戻れるよう、休暇に入る前にできる限りの準備をしておくことを心がけましょう。

慶弔休暇の取得例:自分の結婚式、友人・大学・学校の場合

自分の結婚式の場合:日数と申請のポイント

自分の結婚式は、慶弔休暇の中でも最も重視される慶事の一つです。多くの企業では、本人結婚の場合に最も長い日数の慶弔休暇を付与する傾向にあります。

具体的な日数は企業によって異なりますが、一般的には5~7日程度が付与されることが多いでしょう。これは、結婚式準備、式典当日、新婚旅行、そして転居などの手続き期間を考慮した日数です。

申請のポイントとしては、まず結婚が決まったらなるべく早く上司や人事部門に報告し、就業規則で定められた申請期間や必要書類を確認することです。結婚式の予定が決まり次第、具体的な休暇期間を会社と相談し、業務の引継ぎ計画を立てましょう。

特に、新婚旅行を兼ねて長期休暇を希望する場合は、会社の繁忙期を避ける、業務調整に最大限協力するなど、会社への配慮を示すことが重要です。婚姻届受理証明書や結婚式の招待状の控えなど、証明書類の準備も忘れないようにしましょう。

友人・知人の慶弔時の扱い

友人や知人の慶弔の場合、残念ながら多くの企業の慶弔休暇制度では対象外となることがほとんどです。慶弔休暇は、通常、本人や配偶者、父母、子、兄弟姉妹、祖父母など、法律上または血縁上の近親者に限定される傾向が強いからです。

友人の結婚式への参列や、知人の不幸による通夜・葬儀への参列のために休暇が必要な場合は、慶弔休暇ではなく、自身の年次有給休暇を利用するのが一般的です。有給休暇は、取得理由を問われないため、このような私的な事由での利用に適しています。

ただし、一部の企業では、独自の福利厚生として「友人・知人」に適用される特別休暇を設けている場合もあります。例えば、長く勤めている社員への特典として、ごく限定的な日数で認められるケースもないわけではありません。

もし友人・知人の慶弔で休暇が必要になった場合は、まずは就業規則でご自身の会社の規定を確認し、慶弔休暇の対象外であれば、有給休暇の取得を検討し、上司に相談するようにしましょう。

大学・学校関係の慶弔:対象となるケースと例外

「大学・学校関係の慶弔」と一口に言っても、その状況によって慶弔休暇の適用は異なります。大前提として、慶弔休暇は「労働者」が取得できる制度であることを理解しておく必要があります。

もしあなたが学生で、自身の大学や学校関係者が亡くなった場合(例えば教授や学友の家族など)に休む必要がある場合、これは企業が定める慶弔休暇の対象ではありません。この場合は、学校の規定を確認するか、学務課に相談して欠席の扱いについて確認する必要があります。

一方で、会社員として働いているあなたが、会社関係者、特に職場の同僚や取引先の慶弔に出席する必要がある場合も、原則として慶弔休暇の対象とはなりません。これは社内規定で特別な定めがない限り、通常の業務時間外に対応することが期待されるか、有給休暇の使用が推奨されるケースが多いです。

例外的に、あなたのお子さんが通う学校の行事や慶弔で、慶弔休暇が適用される可能性もゼロではありません。例えば、学校での重要な発表会や卒業式に「子の慶事」として短時間取得が認められたり、PTA役員としての活動に特別休暇が適用されたりする場合がありますが、これも会社独自の判断によります。

結局のところ、どのケースにおいても、まずは自身の会社の就業規則を詳細に確認し、不明点は人事部門に問い合わせることが最も確実な方法です。