理想の職場環境とは、単に「働きやすい」だけでなく、日々の業務に「働きがい」を感じられる場所ではないでしょうか。

近年、多くの企業で「働き方改革」が進められる中、この二つの要素の重要性が改めて注目されています。

しかし、「働きがい」と「働きやすさ」は似ているようで、その意味合いや企業への影響は大きく異なります。

本記事では、この二つの概念の根本的な違いを深掘りし、どのように両立させて理想の職場環境を実現していくかについて、多角的な視点から解説します。

  1. 「働きがい」と「働きやすさ」の根本的な違いとは?
    1. 外発的要因と内発的要因の明確化
    2. 「衛生要因」と「動機付け要因」という視点
    3. なぜ両方の理解が重要なのか?
  2. 「やりがい」との関係性:3つのキーワードを深掘り
    1. 仕事の意義と貢献実感
    2. 成長と達成感が生み出す好循環
    3. 主体性と裁量が生むオーナーシップ
  3. エンゲージメント向上に不可欠な「働きがい」と「働きやすさ」
    1. エンゲージメントの定義と重要性
    2. 両者のバランスがエンゲージメントを高める
    3. 具体的な施策でエンゲージメントを育む
  4. 両立のヒント:プラチナ世代が語る理想の職場環境
    1. 経験が語る「働きがい」の本質
    2. 「働きやすさ」への新たな期待
    3. 世代を超えた価値観の融合と共創
  5. 厚労省も推進する「働き方改革」が目指すもの
    1. 「働きやすさ」向上のための政策基盤
    2. 「働きがい」への波及効果と課題
    3. 持続可能な社会と企業の未来へ
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 「働きがい」と「働きやすさ」の最も大きな違いは何ですか?
    2. Q: 「やりがい」は「働きがい」とどう違いますか?
    3. Q: ワーク・エンゲージメントとは具体的にどのような状態を指しますか?
    4. Q: 「働きがい」と「働きやすさ」を両立させるためには、どのようなことが重要ですか?
    5. Q: 厚生労働省が推進する「働き方改革」は、「働きがい」と「働きやすさ」にどのように貢献しますか?

「働きがい」と「働きやすさ」の根本的な違いとは?

「働きがい」と「働きやすさ」は、従業員の満足度やエンゲージメントを高める上で不可欠な要素ですが、その性質は大きく異なります。前者は内発的な動機に、後者は外発的な環境要因に強く紐付いています。

外発的要因と内発的要因の明確化

まず、「働きやすさ」とは、従業員が身体的・精神的に負担なく、安心して業務に取り組める環境を指します。これは主に、労働時間、休日、給与などの労働条件、育児・介護支援といった福利厚生、ハラスメントのない良好な人間関係、快適なオフィス設備といった外発的な要因で構成されます。

例えば、適切な労働時間で残業が少なく、有給休暇も取得しやすい、住宅手当や社員食堂が充実している、そしてテレワークやフレックスタイム制度といった柔軟な働き方が導入されている企業は、「働きやすい」と言えるでしょう。厚労省が推進する「働き方改革」の中心的テーマは、まさにこの「働きやすさ」の向上にあります。

一方で、「働きがい」は、仕事そのものから得られる満足感や達成感、成長実感を指します。これは、自分の仕事が社会や組織にどのように貢献しているかという仕事の意義や貢献実感、スキルアップや目標達成による成長・達成感、そして、与えられた業務に主体的に取り組むことのできる裁量や主体性など、従業員の内面から湧き上がる意欲や価値観によって育まれる内発的な要因です。

つまり、オフィスがどんなにきれいで福利厚生が充実していても、仕事内容に興味が持てなかったり、自分の成長を感じられなかったりすれば、「働きがい」は感じにくいでしょう。

「衛生要因」と「動機付け要因」という視点

心理学者のフレデリック・ハーズバーグは、仕事における満足度と不満足度に関する「二要因理論」を提唱しました。この理論は、「働きやすさ」と「働きがい」の違いを理解する上で非常に示唆に富んでいます。

ハーズバーグは、「働きやすさ」を「衛生要因」と定義しました。衛生要因とは、これが不十分であると従業員の不満を引き起こすものの、満たされたとしても積極的に満足度を高めるには至らない要因を指します。具体的には、給与、労働条件、会社のポリシー、対人関係などがこれに該当します。これらが改善されることで不満は解消されますが、「積極的にこの仕事がしたい!」という意欲に直結するわけではありません。

対照的に、「働きがい」は「動機付け要因」に相当します。動機付け要因とは、満たされると従業員の仕事への満足度やモチベーションを劇的に向上させる要因です。達成感、承認、責任、昇進、仕事そのものへの興味などがこれに当たります。これらの要因は、従業員が仕事に内発的な価値を見出し、自発的に努力し、成長しようとする原動力となります。

したがって、従業員のエンゲージメントを真に高め、長期的なパフォーマンスを引き出すためには、不満を解消する「働きやすさ」の提供はもちろんのこと、さらに一歩進んで「働きがい」という動機付け要因へのアプローチが不可欠なのです。

なぜ両方の理解が重要なのか?

「働きやすさ」と「働きがい」は、どちらか一方だけでは理想の職場環境とは言えません。両者が高いレベルでバランス良く両立している状態が、従業員にとっても企業にとっても最良の結果をもたらします。

例えば、どんなに優れた労働条件や充実した福利厚生が提供され、「働きやすい」環境が整っていても、仕事内容に意義を感じられなかったり、成長の機会がなければ、従業員は次第にモチベーションを失い、エンゲージメントは低下するでしょう。結果として、離職率の増加や生産性の低下につながりかねません。これは、ハーズバーグの理論で言う「衛生要因」が満たされても「動機付け要因」が不足している状態です。

逆に、仕事に大きな「働きがい」を感じていたとしても、長時間労働が常態化していたり、不公正な評価制度がまかり通っていたりする「働きにくい」環境では、従業員は心身の健康を損ない、いずれは働き続けることが困難になります。情熱だけでは、健全な労働環境を維持することはできません。

このように、「働きがい」と「働きやすさ」は車の両輪のような関係にあります。片方だけが優れていても、もう片方が不足していれば、組織はスムーズに進むことができません。両方をバランス良く向上させることで、従業員は仕事に誇りを持ち、安心して長く働き続けることができ、企業は高い生産性と持続的な成長を実現できるのです。

「やりがい」との関係性:3つのキーワードを深掘り

「働きがい」を構成する要素をさらに深く掘り下げると、具体的な3つのキーワードが浮かび上がってきます。これらは、従業員が自身の仕事に内発的な価値を見出し、情熱を持って取り組むための重要なファクターです。

仕事の意義と貢献実感

「働きがい」の核心にあるのは、自分の仕事が単なる作業ではなく、何らかの意味や価値を持っていると感じられることです。これは「仕事の意義」と「貢献実感」として現れます。

自分の業務が、顧客の問題解決につながったり、社会に良い影響を与えたり、あるいは組織の目標達成に不可欠な役割を担っていると認識できる時、従業員は強いモチベーションを感じます。例えば、医療従事者が患者の回復に貢献する喜び、エンジニアが開発したシステムが多くの人々の生活を便利にする実感、営業担当者が顧客の課題解決を支援する満足感などがこれにあたります。

企業は、従業員に対して単に業務内容を指示するだけでなく、その仕事がなぜ必要なのか、誰にどのような価値を提供しているのかを明確に伝える努力が必要です。成功事例の共有、顧客からの感謝の言葉のフィードバック、経営層からのビジョンや戦略の説明などを通じて、従業員が自身の仕事の広がりや影響力を理解できるよう支援することが、貢献実感の醸成に繋がります。

成長と達成感が生み出す好循環

人は、新しい知識やスキルを習得し、課題を乗り越えることで成長を実感する生き物です。この成長実感と、それに伴う目標達成感は、「働きがい」を育む強力な原動力となります。

仕事を通じて新たなスキルが身についたり、困難なプロジェクトを成功させたり、設定した目標をクリアしたりする経験は、従業員の自信とモチベーションを大きく向上させます。この達成感は、さらなる挑戦への意欲を生み出し、好循環を生み出します。

企業は、従業員が継続的に成長できる機会を提供することが重要です。具体的には、体系的な教育・研修制度の充実、資格取得支援、社内での異動や挑戦的なプロジェクトへのアサイン、メンター制度の導入などが挙げられます。上司は、部下の小さな成功にも目を向け、適切なフィードバックと承認を与えることで、成長と達成感を意識的に育む役割を果たすべきです。

主体性と裁量が生むオーナーシップ

自分の仕事に「働きがい」を感じるためには、単に指示されたことをこなすだけでなく、自分自身の意思で考え、行動し、決定できる「主体性」や「裁量」が不可欠です。

従業員に一定の裁量権が与えられ、自身のアイデアや工夫を業務に反映できる環境では、彼らはその仕事に対してオーナーシップを感じやすくなります。「これは自分の仕事だ」という当事者意識が芽生えることで、責任感が向上し、より創造的で質の高いアウトプットを生み出すことにつながります。マイクロマネジメントが横行する職場では、従業員の主体性は阻害され、単なる作業員としての意識しか芽生えません。

経営層や管理職は、従業員を信頼し、権限を委譲する文化を醸成する必要があります。具体的な目標や期待する成果を明確にした上で、その達成プロセスにおいては従業員自身の判断や方法を尊重することが重要です。失敗を恐れずに挑戦できる心理的安全性の高い環境を整えることで、従業員は自信を持って主体的に仕事に取り組むことができ、結果的に組織全体のパフォーマンス向上にも繋がります。

エンゲージメント向上に不可欠な「働きがい」と「働きやすさ」

従業員の企業への貢献意欲や定着率を大きく左右する「エンゲージメント」。その向上には、「働きがい」と「働きやすさ」の両輪が欠かせません。これら二つの要素が揃って初めて、真に従業員が会社に深くコミットし、その能力を最大限に発揮できる状態が生まれます。

エンゲージメントの定義と重要性

「エンゲージメント」という言葉は、主に二つの側面で語られます。一つは「従業員エンゲージメント」で、企業と従業員との間の心理的な絆や信頼関係、組織への貢献意欲を指します。もう一つは「ワークエンゲージメント」で、仕事に対する活力(活き活きとしていること)、熱意(仕事に誇りや挑戦を感じること)、没頭(仕事に集中し、時間を忘れること)といった、個人が仕事にポジティブに関わる心理状態を指します。

これらのエンゲージメントが高い従業員は、単に与えられた業務をこなすだけでなく、自律的に考え、行動し、より良い成果を追求します。結果として、企業の生産性向上離職率の低下顧客満足度の向上、ひいては業績アップに直結することが多くの調査で示されています。

実際、「働きがいがある」と回答した人の48.0%が「会社の業績が上がっている」と回答したという調査結果からも、エンゲージメントと企業成長の密接な関連性が明らかです。高いエンゲージメントは、従業員の心身の健康にも良い影響を与え、組織全体の活力を高めます。

両者のバランスがエンゲージメントを高める

エンゲージメントを最大化するためには、「働きがい」と「働きやすさ」のどちらか一方だけでは不十分であり、両者が高いレベルでバランスしている状態が不可欠です。まるで車の両輪のように、どちらか一方でも欠ければ、組織は前に進むことができません。

例えば、最新のオフィス環境や手厚い福利厚生が整っていても、仕事内容に意義を感じられず、成長の機会もなければ、従業員は組織に対する愛着や貢献意欲を失い、エンゲージメントは低下します。これは、環境面での「働きやすさ」は満たされても、内発的な「働きがい」が不足している状態です。

逆に、仕事に強い「やりがい」や「使命感」を感じていても、長時間労働が常態化していたり、ハラスメントが横行するような「働きにくい」環境では、従業員は疲弊し、心身の健康を損なうリスクが高まります。結果として、いくら意欲があっても働き続けることが困難になり、最終的には離職に繋がってしまいます。

従業員が企業に心から信頼を寄せ、自分の仕事に情熱を注ぎ込めるようになるには、安心して働ける土台(働きやすさ)と、意味のある挑戦ができる機会(働きがい)の両方が必要不可欠なのです。これら二つが相互に作用し合うことで、真に従業員のエンゲージメントは高まります。

具体的な施策でエンゲージメントを育む

「働きがい」と「働きやすさ」を両立させ、エンゲージメントを向上させるためには、多角的な視点からの具体的な施策が必要です。企業は、以下の項目をバランス良く推進することで、従業員が長く、そして意欲的に働ける環境を築き上げることができます。

  • 職場環境の改善:
    • 物理的・心理的な快適性を高めるオフィスの整備(清潔さ、設備、適切な休憩スペースなど)
    • ワークライフバランスを推進し、柔軟な働き方を導入(テレワーク、フレックスタイム、時短勤務など)
    • 福利厚生制度の見直し・充実(健康サポート、育児・介護支援、住宅手当など)
  • 人事制度の見直し:
    • 公正で透明性のある評価・報酬制度の整備(努力と成果が正当に評価される仕組み)
    • 従業員の成長を支援する教育・研修制度の充実(スキルアップ、キャリア開発支援)
  • コミュニケーションの活性化:
    • 心理的安全性を確保し、オープンな意見交換ができる環境づくり(活発な意見交換、傾聴の姿勢)
    • 経営陣と従業員間の信頼関係の構築(定期的な対話、ビジョンの共有)
  • 仕事の意義・価値の伝達:
    • 仕事の意義や社会への貢献について、明確に説明する(顧客の声の共有、企業ミッションの浸透)
    • 従業員の意見を積極的に聞き、尊重する姿勢を示す(ボトムアップ提案制度など)

これらの取り組みを継続的に行うことで、従業員は自身の仕事と組織に対して強い愛着と貢献意欲を抱くようになり、結果として高いエンゲージメントが育まれていくでしょう。サイボウズが「100人100通りの働き方」を掲げ、多様な働き方を推奨しているのは、まさにこの「働きやすさ」と「働きがい」の多様なニーズに応え、エンゲージメントを高めるための優れた事例と言えます。

両立のヒント:プラチナ世代が語る理想の職場環境

現代の職場環境を考える上で、多様な世代の視点を取り入れることは不可欠です。特に、長年の経験を持つ「プラチナ世代」(概ね60歳以上)の従業員が語る「働きがい」と「働きやすさ」は、これからの企業が目指すべき理想のヒントに満ちています。

経験が語る「働きがい」の本質

プラチナ世代の従業員は、多くのキャリア経験を通じて、真の「働きがい」がどこにあるのかを深く理解しています。彼らにとっての働きがいは、単なる給与や役職といった外発的な報酬だけではありません。むしろ、自身の長年の知識やスキルが組織や社会に貢献できること、後進の育成を通じて次世代に経験を伝えられること、そして、新しい挑戦を通じて自身の可能性を再発見できることに大きな価値を見出します。

例えば、若手社員が直面する課題に対して、自身の豊富な経験から的確なアドバイスを与え、その成長を間近で見守ることに喜びを感じるベテランは少なくありません。また、長年培った専門性を活かして、特定のプロジェクトや新規事業の立ち上げに参画し、新たな価値創造に貢献することも、彼らにとっての重要な働きがいとなります。彼らは、自分の存在が組織にとって依然として必要とされているという「貢献実感」や「承認」を特に重視する傾向にあります。

企業は、プラチナ世代の持つ豊富な知見や経験を単なるコストではなく、貴重な人的資本として捉え、彼らが活躍できる場を積極的に提供することが、組織全体の生産性向上にも繋がります。

「働きやすさ」への新たな期待

プラチナ世代にとっての「働きやすさ」は、若年層とは異なる側面を持ちます。定年延長やセカンドキャリアを考える上で、彼らは自身の健康状態への配慮や、ライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を強く求めます。

具体的には、体力的な負担を軽減するための時短勤務や短日数勤務、自宅での業務を可能にするテレワーク制度の導入は、彼らが長く活躍し続けるための重要な要素となります。また、健康診断の充実や、病気や介護といったライフイベントに対応できる柔軟な休暇制度なども、安心して働き続ける上での不可欠なサポートと言えるでしょう。

さらに、オフィス環境においても、長時間座っていても疲れにくい椅子や、視力に配慮した照明、あるいは移動の負担を減らすための効率的なレイアウトなど、細やかな配慮が求められます。このような「働きやすさ」の整備は、プラチナ世代だけでなく、全ての従業員にとって快適で持続可能な職場環境を作り出すことにも繋がります。

企業が多様な働き方を許容し、個々の従業員のライフステージに合わせた選択肢を提供することは、有能なベテラン人材の流出を防ぎ、組織の知識継承と安定稼働に貢献します。

世代を超えた価値観の融合と共創

プラチナ世代が持つ「働きがい」と「働きやすさ」への期待は、決して特定の世代に限定されるものではありません。むしろ、彼らの経験に基づく視点は、企業が多世代が共存する理想的な職場環境を築く上での貴重な示唆を与えます。

プラチナ世代の持つ深い知識や経験が、若手世代の新しい発想やデジタルスキルと融合することで、組織に新たなイノベーションと生産性向上をもたらすことが期待されます。たとえば、ベテランが持つ業界の知見と、若手が持つ最新技術の知見を組み合わせたプロジェクトチームは、単独の世代では生み出せない価値を創造する可能性を秘めています。

企業は、世代間のコミュニケーションを促進し、互いの価値観を尊重し合える文化を醸成することが重要です。メンター制度やクロスファンクショナルチームの推進など、意識的に世代間の交流機会を設けることで、異なる視点からの学び合いが深まります。このような多世代共創の職場は、誰もが自身の「働きがい」を見出し、かつ「働きやすい」と感じられる、より包容力のある組織へと進化していくでしょう。

多様な働き方を許容し、個々の従業員が自身のライフステージに合わせてキャリアを継続できる環境は、結果的にすべての世代の従業員にとって、より魅力的で持続可能な職場となり得ます。

厚労省も推進する「働き方改革」が目指すもの

日本社会が直面する少子高齢化や労働力人口の減少といった課題に対応するため、厚生労働省が強力に推進しているのが「働き方改革」です。この取り組みは、単に労働時間を短縮するだけでなく、多様な人々がその能力を最大限に発揮できるような社会の実現を目指しています。

「働きやすさ」向上のための政策基盤

厚労省が主導する「働き方改革」の中心的テーマは、まさに「働きやすさ」の向上にあります。これは、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保を三本柱としています。

具体的には、時間外労働の上限規制の導入による長時間労働の抑制、テレワークやフレックスタイム制度、時短勤務といった柔軟な働き方の推進、そして同一労働同一賃金の原則に基づく非正規雇用労働者の待遇改善などが挙げられます。これらの政策は、労働基準法などの法整備を通じて、企業が従業員の労働環境を改善するための具体的な枠組みを提供しています。

「働き方改革」は、従業員がワークライフバランスを実現し、心身ともに健康で安心して働ける環境を整備することを目的としています。この「働きやすさ」の基盤が整うことで、初めて従業員は仕事に集中し、自己の能力を発揮できる土台が構築されるのです。

「働きがい」への波及効果と課題

「働き方改革」によって「働きやすさ」が向上することは、「働きがい」の向上にも間接的に良い影響を与えます。例えば、長時間労働が是正され、十分な休息が取れるようになれば、従業員は心身ともにリフレッシュされ、仕事への集中力や意欲が高まることが期待できます。また、柔軟な働き方が可能になれば、個人のライフスタイルに合わせたキャリア形成がしやすくなり、仕事と私生活の調和からくる満足感も増すでしょう。

しかし、「働き方改革」の制度導入だけでは、「働きがい」が自然に生まれるわけではありません。例えば、時短勤務が可能になっても、業務量が減らずにプレッシャーが増したり、裁量権が縮小されてしまったりすれば、かえって「働きがい」が損なわれる可能性もあります。制度の導入だけでなく、その運用方法や企業文化の変革が伴わなければ、真の「働きがい」には繋がりません。

したがって、企業は「働き方改革」によって得られた「働きやすさ」を土台として、さらに一歩進んで、仕事の意義の明確化、従業員の成長支援、主体性や裁量権の付与といった「働きがい」を直接的に高める施策を戦略的に組み合わせる必要があります。

持続可能な社会と企業の未来へ

厚労省が推進する「働き方改革」は、単なる労働環境の改善に留まらず、日本社会全体の持続可能性を高めるための重要な国家戦略です。少子高齢化による労働力人口の減少という社会課題に対し、多様な人材がその能力を最大限に発揮し、長く活躍できる社会の実現を目指しています。

企業にとって、「働きがい」と「働きやすさ」の両立は、優秀な人材の確保と定着、ひいては企業の持続的な成長と競争力強化に不可欠な要素です。従業員が健康で安心して働ける環境(働きやすさ)が整備され、かつ自身の仕事に誇りや価値を見出せる(働きがい)職場であれば、彼らは企業に対して強いロイヤルティと高いエンゲージメントを持ち、自主的に生産性の向上やイノベーションの創出に貢献するでしょう。

「働き方改革」は、従業員と企業双方にとって、より良い未来を築くための機会を提供しています。企業がこの機会を最大限に活かし、「働きがい」と「働きやすさ」をバランス良く追求することで、変化の激しい現代社会においても持続的に発展し、社会全体に貢献していくことができるはずです。