概要: 多くの会社で設けられている副業禁止規定。その背景や禁止される具体的な行為、違反した場合のリスクについて解説します。さらに、規定を理解した上で、会社との信頼関係を損なわずに賢く副業と付き合う方法まで網羅します。
なぜ会社は副業を禁止するのか?その背景を理解しよう
副業を取り巻く現状と企業の姿勢
近年、私たちの働き方は大きく変化しています。物価上昇や将来への不安から、会社員の間で副業への関心はますます高まっています。しかし、「会社の副業禁止規定に抵触しないか」と不安を感じる方も少なくないでしょう。
現在の日本企業では、副業を容認する動きが着実に進んでいます。2023年10月の調査では、企業の副業容認率は60.9%に達し、2021年調査から5.9ポイント上昇しました。また、2025年6月時点の調査でも、正社員の副業・兼業を認めている企業は55.2%と半数を超えています。
さらに注目すべきは、現在副業を禁止している企業の約18.8%が、今後解禁に向けて制度整備を進めている点です。これは、副業が当たり前になる時代が目前に迫っていることを示唆しています。一方で、実際に副業をしている会社員の割合は2024年1月調査で8.4%とまだ少数派であり、企業側の意識変化と従業員側の行動にはギャップがあるのが現状です。
企業が副業を禁止する主な理由
では、なぜ多くの企業は副業を禁止したり、制限したりするのでしょうか。その背景には、企業が抱える合理的な懸念があります。最も大きな理由は、本業への支障です。副業による労働時間の増加や、従業員の疲労蓄積が、結果的に本業のパフォーマンス低下や生産性悪化につながることを懸念しています。
次に、労務管理の困難さが挙げられます。従業員が複数の会社で働く場合、労働時間の正確な把握や健康管理が複雑になり、企業側の負担が増大します。また、情報漏洩のリスクも無視できません。従業員が本業で得た機密情報や顧客情報を、意図せず副業先で利用・漏洩してしまう恐れがあります。
さらに、会社の信用失墜も重要な理由です。副業の内容が反社会的であったり、会社の評判を損なうものであったりした場合、企業のブランドイメージに悪影響を及ぼしかねません。これらの懸念から、多くの企業は従業員を守り、事業を安定させるために副業を制限せざるを得ない状況にあります。
副業解禁の流れと今後の展望
政府が推進する「働き方改革」や「多様な働き方」の動きは、企業における副業規定の見直しを後押ししています。労働力人口の減少や、優秀な人材の確保が企業の喫緊の課題となる中で、副業を認めることで従業員のスキルアップを促し、エンゲージメントを高めようとする企業も増えています。
副業は、従業員にとっては収入源の多様化だけでなく、自身のスキルアップやキャリア形成の機会となり得ます。例えば、本業では得られない知識や経験を副業を通じて習得し、それを本業に還元することも可能です。このようなポジティブな側面に着目し、制度設計を進める企業が今後さらに増えていくでしょう。
副業解禁は、企業と従業員双方にとってメリットがあるWin-Winの関係を築く可能性を秘めています。しかし、そのためには企業が明確なガイドラインを設け、従業員がそのルールを遵守することが不可欠です。今後、副業は特別な働き方ではなく、選択肢の一つとして一般化していくことが予想されます。
「副業禁止」に該当する行為とは?具体例で確認
就業規則で定められた「NG行為」のパターン
多くの企業が副業を禁止または制限している背景には、就業規則という明確なルールが存在します。この規則に違反する行為は、原則としてNG行為とみなされ、最悪の場合、懲戒処分の対象となる可能性があります。具体的には、以下のような行為がこれに該当します。
最も基本的なNG行為は、本業の就業時間中に副業を行うことです。就業時間は会社との雇用契約に基づき、会社の業務に専念する義務があるため、この時間に他の業務を行うことは重大な契約違反となります。休憩時間であっても、会社の施設内で副業を行うことは好ましくありません。
次に、競合他社で副業を行うことも厳しく制限されます。これは「競業避止義務」という考え方に基づき、自社のノウハウや顧客情報が競合他社に流出するリスクがあるためです。また、会社の信用を害する副業、例えば反社会的活動や会社の評判を著しく低下させるような内容の副業も、企業イメージを守るために禁止されています。
知らずに違反してしまう!?情報漏洩と本業への支障
意図せず副業禁止規定に抵触してしまうケースもあります。特に注意が必要なのが、情報漏洩のリスクです。本業で得た機密情報や顧客情報を副業先で利用したり、SNSなどで安易に発信したりすることは、重大な違反行為であり、損害賠償請求に発展する可能性もあります。たとえ悪意がなくても、情報の取り扱いには細心の注意を払うべきです。
また、副業が原因で本業に支障をきたすケースもNG行為とみなされます。例えば、副業による長時間労働で疲労が蓄積し、本業のパフォーマンスが著しく低下したり、遅刻や欠勤が増えたりする場合です。このような状況は、企業が副業を禁止する主要な理由の一つであり、従業員が本業への貢献義務を果たしていないと判断されることがあります。
副業はあくまで本業の延長線上ではなく、独立した活動として、本業に悪影響を与えない範囲で行うのが大原則です。自分の体調管理はもちろん、本業に迷惑をかけないよう、仕事の効率化や時間管理を徹底することが求められます。
ケーススタディ:これは副業?判断に迷う具体例
副業の線引きは曖昧で、何が「副業」に該当するのか判断に迷うこともあります。例えば、フリマアプリでの不用品販売は、多くの場合、一時的な収入として問題視されにくいでしょう。しかし、継続的に商品を仕入れて転売を繰り返す場合は、事業活動とみなされ、副業と判断される可能性があります。
また、ブログ運営やアフィリエイトも、直接的な労働時間が発生しないケースが多く、比較的認められやすい副業と言えます。ただし、これも内容や規模によっては「事業」と判断されることがあるため注意が必要です。例えば、会社の機密情報を用いてブログを運営したり、会社の評判を損なう内容を投稿したりすれば、当然NG行為となります。
一方、投資・資産運用(株式投資、FX、不動産投資など)は、事業活動とはみなされにくく、本業に影響を与えにくいとされています。また、アンケートサイトやポイントサイトの利用など、スキマ時間で手軽に取り組めるものも、基本的に副業とみなされないことが多いでしょう。しかし、最終的な判断は会社の就業規則とその解釈によるため、曖昧な場合は確認が重要です。
副業禁止規定を破るとどうなる?リスクとペナルティ
発覚の経路と懲戒処分の種類
副業禁止規定を破った場合、その事実が会社に知られる経路はいくつかあります。最も多いのは、副業による所得が増え、住民税の金額から会社の人事・経理担当者に気づかれるケースです。その他にも、SNSでの情報発信、同僚からの密告、顧客からの通報など、予期せぬ形で発覚する可能性があります。
副業が発覚した場合、会社は就業規則に基づいて処分を検討します。ペナルティの重さは、違反の内容や会社への影響度によって異なりますが、まずは注意指導が行われるのが一般的です。しかし、悪質性や会社への損害が大きい場合は、より重い懲戒処分が科せられることになります。
懲戒処分の種類は、減給、出勤停止、降格、そして最も重い解雇まで多岐にわたります。例えば、本業の就業時間中に副業を行っていたり、会社の機密情報を漏洩させたりした場合は、解雇される可能性が非常に高まります。副業によって得られるわずかな収入と比較して、失うものの大きさを十分に理解しておく必要があります。
会社への損害賠償請求の可能性
副業禁止規定違反が、単なる就業規則違反に留まらず、会社に具体的な損害を与えた場合、会社から損害賠償請求を受ける可能性もゼロではありません。特に、競合他社で副業を行い、自社の顧客や技術、ノウハウが流出した場合、その損害額は計り知れないものとなるでしょう。
情報漏洩によって会社の信用が失墜したり、営業秘密が奪われたりした場合は、会社の収益に直接的な影響を与えます。この場合、会社は被った損害を回復するため、法的な手段に訴えることが考えられます。損害賠償額は、流出した情報の価値や会社の被った損失の規模によって大きく変動するため、個人の力では到底賄いきれない金額になることもあり得ます。
また、副業の内容が反社会的であったり、会社の評判を著しく損なうものであったりした場合も、間接的ではありますが会社に損害を与えることになります。例えば、従業員が夜の飲食店で副業をしており、その事実が公になり会社のイメージが損なわれた場合などが考えられます。このようなリスクも考慮し、副業の内容は慎重に選ぶ必要があります。
キャリアへの長期的な影響
副業禁止規定違反によるペナルティは、単なる一時的な処分に留まらず、長期的なキャリア形成に深刻な影響を及ぼす可能性があります。もし解雇処分となってしまった場合、その職歴は今後の転職活動において大きなマイナス要因となります。多くの企業は、採用選考の際に候補者の経歴を詳細に確認するため、懲戒解雇の事実は隠し通すことが困難です。
一度失った会社からの信頼を取り戻すことは非常に難しいでしょう。たとえ解雇に至らなかったとしても、懲戒処分を受けたという事実は人事記録として残り、今後の昇進やキャリアパスに影響を及ぼす可能性があります。会社からの評価が下がり、重要なプロジェクトから外されたり、望まない部署への異動を命じられたりすることもあり得ます。
また、自身のモラルや倫理観に疑問符が付けられることで、自己評価の低下や精神的な負担を抱えることにもつながりかねません。副業は自身のスキルアップや収入増を目指すポジティブな活動であるはずです。しかし、会社のルールを無視した結果、その後のキャリア全体を棒に振ってしまうような事態は、何としても避けなければなりません。
知っておきたい!副業禁止規定のグレーゾーンと注意点
「副業とみなされにくい」活動の範囲
副業禁止規定がある会社に勤めていても、すべての「お金を稼ぐ活動」が禁止されているわけではありません。法律上、本業の労働時間外の活動は原則として自由であり、会社に迷惑をかけない範囲であれば問題視されにくい活動も存在します。これらが、いわゆる「グレーゾーン」に当たる活動です。
例えば、株式投資、FX、不動産投資などの投資・資産運用は、一般的に事業活動とはみなされにくく、本業に影響を与えにくいとされています。これらは本人が直接労働を提供するものではなく、資本運用による収入と解釈されるためです。ただし、投資のために本業がおろそかになったり、会社で情報収集をしたりする行為は避けるべきです。
また、メルカリなどのフリマアプリでの不用品販売も、一時的な収入であれば問題視されないことが多いでしょう。しかし、継続的に転売目的で商品を仕入れ・販売している場合は、「事業」とみなされる可能性があります。自身の知識や経験を活かしたブログ運営やアフィリエイトも、直接的な労働時間が発生しないケースが多く、比較的認められやすい傾向にあります。スキマ時間で手軽に取り組めるアンケートサイトやポイントサイトも、副業とみなされにくい活動と言えるでしょう。
就業規則の確認と自己責任の原則
「グレーゾーン」の活動であっても、最終的な判断は会社の就業規則とその解釈に委ねられます。そのため、副業を検討する上で最も重要なのは、勤め先の就業規則を必ず確認することです。副業禁止規定の有無はもちろん、その内容や具体的な制限事項を把握しておく必要があります。曖昧な表現や解釈に迷う点があれば、人事に匿名で相談するなど、慎重な対応が求められます。
たとえ就業規則に明確な規定がなくても、「本業に支障をきたさない」「会社の信用を損なわない」「情報漏洩のリスクがない」という自己責任の原則を忘れてはなりません。これらの原則を破る行為は、就業規則の有無にかかわらず、会社との信頼関係を損ねる原因となります。
また、法律上は労働時間外の活動が自由とされていても、雇用契約に基づく就業規則は有効です。副業によって会社に何らかの損害を与えた場合、それが就業規則違反でなかったとしても、民事上の責任を問われる可能性も考慮しておくべきです。安易な判断はせず、リスクを理解した上で行動することが肝要です。
税金と住民税からの発覚リスク
副業が発覚するリスクとして、しばしば挙げられるのが税金、特に住民税からの情報漏洩です。副業による所得が年間20万円を超えた場合、確定申告が必要です。この際、住民税の納付方法を「特別徴収」(給与から天引き)から「普通徴収」(自分で納付)に切り替えないと、本業の会社に副業による所得分の住民税額が通知され、そこから副業が発覚する可能性があります。
会社は通常、従業員の住民税を給与から天引き(特別徴収)しています。副業による所得が合算されて住民税額が増加すると、会社は「なぜこの従業員の住民税が高いのか?」と疑問に感じ、副業の事実を把握するきっかけになることがあります。そのため、確定申告時には住民税の徴収方法を慎重に選択することが重要です。
住民税に関する知識不足は、意図せず副業発覚のリスクを高めてしまいます。副業で得た所得は、きちんと税務処理を行うだけでなく、会社のルールと税制の両面から発覚リスクを管理する必要があります。税理士や税務署に相談し、適切な手続きを踏むことで、不必要なトラブルを避けることができます。
副業禁止でも諦めない!会社と良好な関係を築く方法
まずは会社規定を正しく理解する
副業への意欲があるにもかかわらず、会社の副業禁止規定に直面すると、「諦めるしかないのか…」と感じるかもしれません。しかし、まずは諦める前に、勤め先の副業規定を正しく、そして深く理解することが第一歩です。就業規則を改めて確認し、何が許され、何が禁止されているのかを具体的に把握しましょう。
規定が曖昧な場合や、自分の考えている副業がそれに該当するかどうか不安な場合は、人事部や上司に相談することも有効な手段です。ただし、いきなり「副業をしたい」と伝えるのではなく、まずは「会社の副業に関する規定について詳しく知りたい」といった形で、一般的な情報収集としてアプローチするのが賢明です。匿名での相談窓口があれば活用するのも良いでしょう。
会社が副業を禁止する理由(本業への支障、情報漏洩など)を理解することで、自分が検討している副業が、その懸念材料に抵触しないかを客観的に判断できるようになります。現在の多くの企業で副業解禁の動きがあるため、会社自体が規定の見直しを検討している可能性もあります。会社の現状と方針を把握することが、良好な関係を築くためのスタートラインです。
本業に支障を出さない時間管理術
副業禁止規定があってもなくても、副業を行う上で最も重要なのは、本業に一切支障を出さないことです。これが守られないと、会社からの信頼を失い、最悪の場合、処分を受けることになりかねません。副業で失敗する人の多くは、準備不足や焦り、そして時間管理の失敗が共通しています。
副業を検討する際は、まず自分のライフスタイルを見直し、どの時間帯にどれくらいの時間を副業に充てられるかを具体的に計画しましょう。疲労を蓄積させず、本業のパフォーマンスを維持できる範囲で活動することが鉄則です。例えば、通勤時間や休日の一部など、スキマ時間を有効活用できる副業を選ぶのも一つの手です。
効率的な時間管理には、タスクの優先順位付けや、集中できる環境作りが欠かせません。また、無理なスケジュールは禁物です。副業はあくまでプラスアルファの活動であり、本業を疎かにしてまで行うものではありません。現実的な目標を設定し、計画的に取り組むことで、本業との両立を図り、会社との良好な関係を維持することができます。
会社公認の「副業」を模索する
直接的な副業が難しい場合でも、別の形で自身のスキルアップや収入増を模索する方法はあります。一つは、社内公募制度や兼業・副業制度を会社が導入しているか確認することです。最近では、自社の社員が別の部署や子会社で副業的に働く「社内副業」を認める企業も増えています。これは、会社が社員の多様な働き方やスキルアップを支援する姿勢の表れです。
もし会社がこのような制度を持っていなくても、自分のスキルや経験を本業に活かせる形で会社に貢献することを検討してみましょう。例えば、本業の業務範囲外で、自分の得意な分野を活かして社内プロジェクトに参加したり、部署横断的な業務改善に貢献したりすることも可能です。これは「副業」とは異なりますが、自身の市場価値を高め、結果的に会社からの評価や報酬アップにつながる可能性があります。
会社に「この社員は多様なスキルを持ち、意欲が高い」と認識されることで、将来的に副業解禁の議論が持ち上がった際に、その推進役となれるかもしれません。会社と対立するのではなく、会社とWIN-WINの関係を築く視点を持つことが重要です。自身の成長が会社の成長にもつながるような提案をすることで、副業への理解を深めるきっかけとなるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 副業禁止規定で「バイト」は一般的に禁止されますか?
A: はい、多くの会社でアルバイトは「労働」とみなされ、副業禁止規定に該当します。ただし、会社の許可を得られる場合もありますので、就業規則を確認しましょう。
Q: 業務委託や自営業も副業禁止の対象になりますか?
A: はい、業務委託や自営業も、会社の利益相反や就業時間外の活動による影響が懸念されるため、副業禁止の対象となる場合があります。こちらも就業規則の確認が必要です。
Q: パチンコやギャンブル、ギフト券の売買は副業とみなされますか?
A: これらは直接的な労働や事業収入とは異なりますが、会社の信用を損なう行為や、本業に支障をきたす可能性があると判断されれば、懲戒処分の対象となる場合があります。特に、反復継続して収益を得る行為は注意が必要です。
Q: PayPayなどのキャッシュレス決済での収入は副業になりますか?
A: PayPayなどで得た収入が、フリマアプリでの不用品販売など、一時的なものであれば問題ないことが多いです。しかし、反復継続して物品を販売し、継続的な利益を得る場合は、副業とみなされる可能性があります。
Q: ボランティア活動やその謝礼、現物支給はどう扱われますか?
A: ボランティア活動自体は原則禁止されませんが、謝礼が発生する場合や、現物支給で経済的な利益があると判断される場合は、副業とみなされることがあります。活動内容や報酬について、事前に会社に確認することをおすすめします。