副業禁止の会社が増加?その理由と知っておくべきこと

近年、働き方の多様化が進む中で、副業を容認する企業が増加傾向にある一方で、依然として副業を禁止する企業も存在します。
本記事では、副業禁止の企業が増加している背景にある理由や、副業を検討する上で知っておくべきことについて、最新の情報を基に解説します。

なぜ多くの企業が副業を禁止するのか?その背景に迫る

本業への影響と労務管理の懸念

企業が副業を禁止する最も大きな理由の一つは、従業員の本業への支障を懸念するためです。副業による長時間労働や、それによって生じる疲労が、本業における生産性の低下やミス増加につながることを企業は恐れています。
特に、集中力を要する業務や安全に関わる業務に従事する従業員の場合、副業によるわずかな体調不良や集中力の欠如が、重大な事故や損害を引き起こす可能性も否定できません。企業としては、従業員の健康と安全、そして業務品質を維持するために、副業を制限せざるを得ないという側面があります。

また、従業員が複数の雇用主のもとで働くことで、総労働時間の把握が極めて困難になります。日本の労働基準法では、労働時間の上限規制や休憩、休日に関する規定が厳格に定められており、企業は従業員の安全配慮義務を負っています。
副業によって、この労働時間管理が複雑化すると、企業は法的な責任を問われるリスクが高まります。例えば、過労による健康被害が発生した場合、本業の企業が責任を負う可能性もあるため、労務管理の難しさが副業禁止の大きな要因となっているのです。

企業秘密の保護と人材流出のリスク

副業を認めることによる情報漏洩リスクも、企業が副業に慎重な姿勢を見せる重要な理由です。企業秘密や顧客情報、独自の技術ノウハウといった機密情報が、副業を通じて外部に漏れることは、企業の競争力に直接的なダメージを与えます。
特に、同業他社での副業や、競合となりうる事業での活動は、情報の意図しない流出だけでなく、意図的な競業避止義務違反に繋がる可能性もあります。企業は多大なコストと時間をかけて開発した技術や情報を守るために、副業を厳しく制限しようとします。

さらに、副業を通じて従業員が新たなスキルや人脈を築き、それが独立や競合他社への転職へと繋がり、結果として人材が流出するリスクも無視できません。企業は育成に投資した優秀な人材を失うことを避けたいと考え、副業を禁止することでこの流出を防ごうとするのです。
経団連の調査では、副業容認の動きが加速しているものの、同時に人材流出への懸念も指摘されており、企業にとってはこのリスクと副業のメリットを天秤にかける難しい判断が求められています。

市場の変化と企業の現状認識

近年、働き方の多様化や政府の推進もあり、副業を容認する企業は着実に増加しています。経団連の2022年調査によると、自社社員の副業・兼業を「認めている」または「認める予定」と回答した企業の割合は70.5%に達しており、特に大企業では83.9%と高い数字を示しています。
しかしながら、Dodaの2023年8月時点の調査では、依然として47.5%の企業が副業を禁止していると回答しており、約半数の企業は副業に対して慎重な姿勢を崩していません。この背景には、上述した本業への支障や情報漏洩リスクといった具体的な懸念に対する、企業の体制や管理能力の差があります。

副業容認の動きは、厚生労働省が公表・改定した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」や「モデル就業規則」の影響が大きいとされていますが、これらのガイドラインは「原則容認」を打ち出しつつも、企業が副業を禁止できる合理的な理由も示しています。
つまり、企業は一律に副業を禁止するのではなく、自社の状況やリスクを鑑みながら判断しているのが現状です。市場全体は副業容認へと向かっていますが、個々の企業においては、まだ多くのハードルが存在し、そのハードルを乗り越えるための体制構築が追いついていない企業も少なくないと言えるでしょう。

副業禁止規定はどこまで有効?法律との関連性を解説

副業禁止規定の法的根拠と限界

企業が就業規則で副業を禁止する際の主な法的根拠は、労働契約に内在する「誠実義務」と「専念義務」に基づきます。これは、労働者が勤務時間内外を問わず、会社の利益を害する行為を慎み、本業に最大限の努力を払うべきであるという考え方です。
しかし、日本国憲法で保障されている「職業選択の自由」や、個人の私生活の自由を考慮すると、企業が従業員の副業を一方的に、かつ全面的に禁止することは原則として認められません。裁判所も、副業が本業に具体的な支障を及したり、企業の正当な利益を侵害したりしない限り、過度な制限は無効とする傾向にあります。

副業が問題となる具体的なケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 本業の労働時間と副業の時間が重なる場合
  • 副業によって本業の遂行に著しい支障が出る場合(疲労困憊など)
  • 企業の機密情報が漏洩する恐れがある場合
  • 企業の名誉や信用を著しく損なう行為の場合
  • 本業と競業関係にある副業を行う場合

これらの条件に該当しない限り、企業が従業員の副業を禁止することは、法的にも難しいとされています。

判例から見る副業許可の基準

過去の多くの裁判例では、従業員の副業が企業の「正当な利益を侵害しているか否か」という点が、副業禁止規定の有効性を判断する上での重要な基準となっています。例えば、有名な「日本電信電話公社事件(兼業許可申請拒否事件)」では、公務員(国家公務員法による副業禁止)とは異なり、一般企業の従業員には原則として兼業の自由が認められるとされました。
具体的に、副業が認められないとされるのは、例えば同業他社で働き、企業のノウハウや顧客情報を利用して利益を得るような競業行為や、本業の顧客を副業に引き抜くような行為です。これらは明確に企業に損害を与えるため、懲戒処分の対象となり得ます。

一方で、週末に個人的なブログを執筆して広告収入を得たり、趣味の延長でハンドメイド商品を販売したりするなど、本業への影響が軽微で、企業秘密に触れることのない副業であれば、企業がこれを禁止することは極めて困難です。
重要なのは、企業が具体的な損害やリスクを証明できるかどうかにあり、単なる「副業をしている」という事実だけで従業員を処分することは、法的に有効とは認められにくいのが現状です。

厚生労働省のガイドラインと企業の姿勢

厚生労働省は、労働者の多様な働き方を支援し、個人のスキルアップや収入増加を促進するため、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表し、企業に対して原則として副業・兼業を認める方向で就業規則を整備するよう強く推奨しています。
また、かつて副業禁止規定が含まれていた「モデル就業規則」からも、その規定が削除され、副業・兼業に関する規定が新たに設けられました。これは、社会全体として副業を容認する方向へと大きく舵を切ったことを示しています。

ガイドラインでは、企業が副業を禁止または制限できる場合を限定的に示しており、具体的には以下の4つのケースが挙げられています。

  1. 労務提供上の支障がある場合(長時間労働による過労など)
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により企業の利益を害する場合

これらの指針に沿って、多くの企業が副業規定の見直しを進めています。企業は、一律の禁止ではなく、ガイドラインを参考にしながら、具体的なリスク管理の視点から副業を判断することが求められる時代になっていると言えるでしょう。

「副業禁止」と記載がない場合、どうなる?

就業規則に明記がない場合の解釈

会社の就業規則に「副業禁止」という明確な規定が設けられていない場合、従業員は原則として副業を行っても問題ないと解釈されることが一般的です。これは、副業を一律に禁止する法律が存在しないため、企業が就業規則で明示的に制限していない限り、従業員の職業選択の自由が優先されるという考え方に基づきます。
つまり、禁止規定がないということは、会社が従業員の副業に対してある程度の自由を認めている、あるいは黙認している状態と捉えることができます。しかし、だからといって完全に自由にどんな副業でも行えるわけではありません。

労働契約には、就業規則に明記されていなくても、従業員が会社に対して負うべき「誠実義務」や「専念義務」、そして「競業避止義務」といった基本的な義務が内在しています。これらは、企業が従業員から提供される労働力に対して、一定の信頼と期待を寄せていることの裏返しとも言えます。
したがって、たとえ就業規則に副業禁止の記載がなくても、これらの義務に反するような副業(例:本業に著しい支障が出る、情報漏洩のリスクがある、同業他社での勤務など)は、後に会社とのトラブルの原因となる可能性が十分にあります。

黙示の了解と潜在的なリスク

就業規則に副業禁止の記載がない場合でも、過去の社内慣習や企業の文化として、副業が暗黙的に禁止されている、あるいは奨励されていない雰囲気があるケースは少なくありません。このような状況で無断で副業を始めた場合、たとえ禁止規定がなくても、人間関係の悪化や評価への影響といった潜在的なリスクを抱えることになります。
会社に副業が発覚した場合、たとえ懲戒処分の対象とならなくても、会社からの信頼を失い、重要なプロジェクトから外されたり、昇進・昇給に影響が出たりする可能性も考えられます。これは、企業が従業員に対して「本業に集中してほしい」という期待を抱いているためです。

副業が発覚する主なきっかけの一つとして、住民税の増加が挙げられます。副業で一定の所得を得ると、住民税の金額が増加し、会社の給与計算担当者が異変に気づくことがあります。特に、副業所得が年間20万円を超えると確定申告が必要になり、住民税の徴収方法によっては会社に副業が知られる可能性が高まります。
そのため、就業規則に明記がないからといって、完全に安心できるわけではなく、常に会社との関係性や潜在的なリスクを考慮に入れる必要があります。

会社への確認は必須?その進め方

就業規則に副業禁止の明記がない場合であっても、事前に会社へ確認することが、最もリスクの少ない賢明な対応と言えます。これにより、後々のトラブルを未然に防ぎ、会社との良好な関係を維持することができます。
確認の際には、単に「副業をしても良いか」と尋ねるのではなく、どのような副業を考えているのか、それが本業にどのような影響を与える可能性があるのかを具体的に説明できるように準備しておきましょう。例えば、以下の点を明確に伝えることが有効です。

  • 副業は就業時間外に行うこと
  • 同業他社ではないこと
  • 企業の機密情報に触れないこと
  • 本業に支障が出ない範囲で活動すること

可能であれば、書面で副業の許可を得ることが理想的です。口頭での確認だけでは、後で「言った、言わない」のトラブルに発展する可能性があります。
もし、会社が副業に消極的な雰囲気があり、確認しづらい場合は、税務上の処理(住民税の普通徴収への切り替えなど)を適切に行い、会社に発覚しにくい形で進める必要はあります。しかし、これはあくまでリスクを「低減」するものであり、リスクを「ゼロ」にするものではないことを理解しておくべきです。常に慎重な姿勢を保つことが大切です。

副業禁止の会社で働く際の注意点と対策

就業規則の徹底的な確認と申請手続き

副業を検討する上で、まず最も重要となるのが、自身の会社の就業規則を徹底的に確認することです。副業に関する規定は会社によって大きく異なり、「原則禁止」「許可制」「一部容認」など多岐にわたります。
もし就業規則で副業が「原則禁止」と明記されている場合、無許可で副業を行うことは懲戒処分の対象となる可能性が極めて高いです。最悪の場合、解雇につながるケースもあるため、絶対に規則を無視してはいけません。

「許可制」の場合は、会社所定の手続きに従って、必ず正式な許可を得てから副業を開始しましょう。申請時には、副業の内容、想定される労働時間、収入、本業への影響度合いなどを具体的に記述し、会社が判断しやすい情報を提供することが求められます。
多くの企業では、申請書に副業の開始日や終了日、業務内容、勤務先(相手方)情報などを記入する欄が設けられています。透明性を持って手続きを進めることで、会社からの信頼を得やすくなります。

情報漏洩と利益相反の回避策

副業を行う上で最も注意すべき点の一つが、情報漏洩のリスクです。本業で得た機密情報(顧客データ、開発中の製品情報、営業戦略など)を副業で利用したり、意図せず漏らしたりすることは、会社の利益を著しく害する行為であり、法的責任を問われる可能性があります。
特に、本業と競合する事業での副業は、利益相反とみなされ、企業の信用を損ねるだけでなく、懲戒処分の対象となります。同業他社での勤務や、本業の技術やノウハウをそのまま利用するような副業は絶対に避けるべきです。

副業を行う際には、本業に関する情報を一切持ち出さない、話さない、利用しないことを徹底しましょう。また、副業先での発言やSNSでの情報発信が、間接的に本業の会社の信用を損ねる可能性も考慮し、常にプロフェッショナルとしての意識を持つことが重要です。
万が一、情報漏洩や利益相反の疑いをかけられた場合、その影響は甚大です。日頃から細心の注意を払い、本業と副業の間に明確な境界線を引くことが求められます。

労働時間と健康管理の自己責任

副業は収入増加やスキルアップの機会をもたらしますが、その一方で、長時間労働による過労や健康への悪影響というリスクも伴います。本業に加えて副業を行うことで、総労働時間が長くなり、疲労が蓄積しやすくなるため、自身の健康管理は自己責任において厳格に行う必要があります。
副業による無理が原因で体調を崩し、本業を休んだり、業務パフォーマンスが著しく低下したりすれば、会社から副業を問題視されるだけでなく、自身のキャリアにも悪影響を及しかねません。
適切な休息と睡眠時間を確保し、本業に支障が出ない範囲で副業に取り組むことが大前提です。

また、副業で所得が発生した場合、税金に関する知識も不可欠です。副業所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要となり、これ怠ると追徴課税の対象となります。
さらに、住民税の徴収方法にも注意が必要です。副業分の住民税が給与所得と合算されて会社に通知される「特別徴収」の場合、会社に副業が発覚する可能性が高まります。これを避けるためには、確定申告の際に副業分の住民税を「普通徴収」に切り替える手続きを忘れないようにしましょう。税務上の適切な処理は、副業を円滑に進める上で避けて通れない重要な対策です。

賢く副業と付き合うためのヒント

副業選びのポイントとメリット

賢く副業と付き合うためには、自身のスキルや経験を最大限に活かせる副業を選ぶことが重要です。単に収入を増やすだけでなく、自己成長やキャリアアップに繋がる副業であれば、モチベーションを高く維持しやすくなります。
例えば、本業で培ったITスキルを活かしてWebサイト制作やプログラミングを請け負ったり、語学力を活かして翻訳や通訳の仕事を引き受けたりすることは、市場価値を高める良い機会となります。また、趣味や特技を活かしたハンドメイド作品の販売やブログ運営なども、新たな収入源となり得ます。

副業を選ぶ際は、将来的に独立を視野に入れているのか、単なる収入補填なのか、スキルアップを目指すのかなど、明確な目的を持つことが大切です。目的がはっきりしていれば、どのような副業が自分に合っているかを見極めやすくなります。
副業を通じて得られる新たな知識や経験、人脈は、本業だけでは得られない貴重な財産となるでしょう。これらを本業に還元することで、相乗効果を生み出し、自身のキャリア全体を豊かにする可能性も秘めています。

本業とのバランスを保つための工夫

副業を成功させる上で最も重要なのは、本業に支障が出ないよう、ワークライフバランスを保つことです。副業の労働時間は、休日や本業後の余暇時間を有効活用する範囲に留め、決して無理のない計画を立てることが大前提となります。
具体的な工夫としては、以下のような点が挙げられます。

  • スケジュール管理ツールを活用し、本業と副業の時間を明確に区別する。
  • 特定の曜日に副業の時間帯を固定するなど、ルーティン化する。
  • 副業の依頼は、自身のキャパシティを考慮し、無理なく引き受けられる範囲に限定する。
  • 疲労が溜まる前に休息を取る、質の良い睡眠を確保するなど、健康管理を徹底する。

副業がストレスや疲労の原因となり、本業のパフォーマンスが低下するようでは本末転倒です。自身の体調やメンタルヘルスを最優先し、時には副業の量を調整したり、一時的に休止したりする柔軟性も持ち合わせることが大切です。
また、家族やパートナーがいる場合は、副業に対する理解を得ておくことも、円滑な両立のための重要な要素となります。

税務と法務の正しい知識

副業を始めるにあたっては、税金と法律に関する正しい知識を事前に身につけておくことが不可欠です。適切な税務処理を行わないと、後で追徴課税などの問題が生じる可能性があります。
副業で得た所得(年間20万円超)は、原則として確定申告が必要です。所得の種類(事業所得、雑所得など)によって、計上できる経費や税額控除の種類が異なるため、自身の副業がどの所得に該当するのかを正確に把握しておくことが重要です。

特に、住民税については注意が必要です。副業分の住民税が会社の給与から天引きされる「特別徴収」となると、会社に副業が発覚する大きな要因となります。これを避けるためには、確定申告の際に副業分の住民税を「普通徴収」に切り替える手続きを忘れないようにしましょう。
また、副業で業務委託契約などを締結する際には、契約内容を十分に確認し、不利な条件ではないか、著作権や知的財産権の取り扱いが適切かなどをチェックすることも重要です。必要に応じて、税理士や弁護士といった専門家に相談することも検討すべきです。
正しい知識と適切な準備は、副業を安心して継続し、最大限のメリットを享受するための基盤となります。