概要: かつて日本の雇用慣行の象徴であった終身雇用。日立、富士通、三菱商事、ユニクロ、楽天、リクルート、レゾナック、NTT、NRIといった有名企業は、終身雇用をどう捉え、実践しているのでしょうか。本記事では、終身雇用を続ける企業の例とその背景、そしてこれからの働き方について解説します。
「終身雇用」は、日本型雇用システムの一つとして長年定着してきましたが、近年では「終身雇用は崩壊した」という声も聞かれます。しかし、最新の動向を見ると、終身雇用は依然として多くの企業で維持されており、その在り方も変化しているようです。
終身雇用とは?その意味と現代における捉え方
日本型雇用システムの根幹としての終身雇用
終身雇用とは、企業が倒産しない限り、正社員を定年まで雇用し続ける慣行を指します。これは、高度経済成長期に広く普及し、年功序列賃金制度や新卒一括採用と並んで、日本型雇用システムの根幹を成す要素として位置づけられてきました。
この制度は、従業員に長期的な雇用の安定と生活の保障をもたらし、企業側には従業員の高い帰属意識と長期的な人材育成を可能にするというメリットがありました。
現代においては、「終身雇用は崩壊した」という言説が広まる一方で、実際には依然として多くの企業で維持されている実態があります。厚生労働省の資料(2016年時点)によると、若い頃に入社して同一企業に勤め続けている従業員の割合は、大卒で約5割、高卒で約3割に達しており、これは1995年以降低下傾向にあるものの、決して少なくない割合を示しています。また、ある調査では、終身雇用を支持する割合が約9割で過去最高となったという報告もあり、従業員側の意識は必ずしも「終身雇用不要」一辺倒ではないことが伺えます。
データで見る終身雇用の現状と割合
終身雇用を巡る議論は活発ですが、実際のデータを見ると、その現状は一様ではありません。前述の通り、長期勤続者の割合は依然として高いものの、その傾向には変化が見られます。
特に、企業規模によって終身雇用の普及度合いには差があることが指摘されています。2016年のデータでは、大企業における従業員の38.9%が終身雇用であるとされており、これは決して低い数字ではありません。しかし、中小企業においては、経営基盤の規模や市場の変化への対応力などから、大企業ほど終身雇用が普及していないという見方もあります。
終身雇用の維持は、経済状況や企業の業種、規模によって大きく左右されるため、一概に「崩壊」と断じることはできません。むしろ、その形態や適用範囲が多様化し、企業や従業員がそれぞれの状況に合わせて選択する時代へと移行していると考えるのが現実的でしょう。
終身雇用がもたらすメリットとデメリット
終身雇用制度は、多くのメリットとデメリットを内包しています。
従業員側の主なメリットとしては、まず生活の安定が挙げられます。定年までの安定した雇用と収入が見込めるため、住宅ローンなどの長期的な生活設計が立てやすくなります。また、心理的な安心感から、仕事に集中しやすくなるという効果も期待できます。
一方、企業側のメリットとしては、長期的な人材育成が可能になる点が大きいでしょう。企業は社員を長期視点で育成し、会社の理念を浸透させ、熟練した人材を確保することができます。また、従業員の企業への帰属意識の向上にもつながり、「自分は組織の一員である」という意識が、主体的な業務遂行を促します。さらに、新卒一括採用を基本とするため、中途採用に比べて採用コストを抑えられる場合もあります。
しかし、デメリットも存在します。従業員側から見れば、キャリア選択の自由度が制限されたり、市場価値に見合ったスキルアップが滞ったりするリスクがあります。企業側にとっては、年功序列賃金と結びついた場合、人件費の高騰が経営を圧迫する要因となり、組織の硬直化や多様な人材確保の困難さにつながる可能性も指摘されています。
終身雇用を続ける企業はいる?注目すべき代表例
伝統的な大企業が維持する終身雇用の実態
「終身雇用は終わった」という言説が広がる中でも、依然として多くの大企業、特に日本の伝統的な産業においては、終身雇用を堅持しているか、それに近い雇用形態を維持しているケースが少なくありません。
代表的な例としては、トヨタ自動車やパナソニックといった製造業の大手企業、あるいは三菱UFJ銀行などの金融機関が挙げられます。これらの企業は、長年にわたる安定経営と、熟練技術の継承や強固な組織文化の維持を重視する傾向があります。
終身雇用を維持する主な理由としては、第一に、長期的な視点での人材育成が挙げられます。製造業では、高度な専門技術やノウハウをOJTを通じて長期間かけて継承していく必要があり、頻繁な人材流動は不利に働きます。金融機関もまた、顧客との長期的な信頼関係構築や、リスク管理といった知識の蓄積が重要です。第二に、従業員の企業へのロイヤルティ(忠誠心)を高めることで、組織の一体感を保ち、離職率を低く抑える効果が期待できます。これは、企業の安定した成長基盤を支える上で不可欠な要素と言えるでしょう。
変わりゆく終身雇用の形:ハイブリッド型雇用
現代社会の急速な変化に対応するため、かつての完全な終身雇用とは異なる、柔軟な「ハイブリッド型雇用」を導入する企業も増えています。
これは、終身雇用のメリットである雇用の安定性を保ちつつ、成果主義やジョブ型人事制度の要素を部分的に取り入れることで、従業員のパフォーマンス向上や多様な働き方への対応を目指すものです。例えば、一部のIT企業やサービス業では、定年までの雇用を保証しつつも、個人の成果に応じた報酬制度を導入したり、社内公募制度を通じてキャリア形成の選択肢を増やしたりする動きが見られます。
具体的な制度としては、定期的なキャリア面談の実施、社員が自身の希望する部署や職種に応募できる「社内公募制度」、そして時代の変化に対応するための「リスキリング(学び直し)支援」とセットでの長期雇用などが挙げられます。これにより、企業は従業員のエンゲージメントを維持しつつ、変化の激しいビジネス環境にも適応できる柔軟な組織体制を構築しようとしています。
中小企業における終身雇用の現実
大企業では終身雇用が一定程度維持されている一方で、中小企業においてはその普及度合いは大きく異なります。参考情報にもある通り、「大企業では従業員の38.9%が終身雇用であった(2016年)というデータもあり、中小企業ではそれほど普及していないという見方もあります。」
中小企業で終身雇用が難しい主な理由としては、経営体力の差が挙げられます。大企業に比べて経済変動の影響を受けやすく、長期にわたる雇用保障や年功序列型賃金の維持が困難な場合があります。また、市場の変化への対応力も問われ、事業環境の急激な変化に際して、人員配置の柔軟性が求められることも少なくありません。
しかし、全ての中小企業で終身雇用が皆無というわけではありません。地域に密着した老舗企業や、特定の専門技術を持つニッチな分野の中小企業では、熟練工の確保や技術継承のために、終身雇用に近い制度を維持しているケースもあります。これらの企業では、独自の福利厚生やアットホームな職場環境を提供することで、従業員の定着を図る努力が行われています。
大手企業が終身雇用を見直す背景とは?
日本経済の低成長化とグローバル競争の激化
大手企業が終身雇用制度の見直しを進める背景には、日本経済の構造的な変化と、激化するグローバル競争が深く関わっています。参考情報が示す通り、「バブル崩壊以降の低成長時代が続き、終身雇用の維持が経済的に困難になりました。」これは、企業が以前のような規模で売上や利益を伸ばすことが難しくなり、固定費である人件費の負担が重くのしかかるようになったことを意味します。
また、「国際競争力の強化が求められる中で、成果主義やジョブ型人事など、より柔軟な人事制度を導入する企業が増えています。」という点も重要です。世界市場で戦うためには、スピード感のある意思決定、専門性の高い人材の確保、そしてパフォーマンスに応じた適正な報酬体系が不可欠となります。終身雇用と年功序列がセットになった従来の制度では、これらのニーズに応えるのが難しくなってきているのです。
このような状況下で、企業は人件費の効率化を図り、より生産性の高い組織へと変革していく必要に迫られています。
多様な働き方へのニーズと人口構造の変化
企業が終身雇用を見直すもう一つの大きな要因は、従業員の価値観の多様化と、日本社会全体の人口構造の変化です。参考情報にあるように、「従業員の価値観が多様化し、キャリアアップや柔軟な働き方を求める声が高まっています。」かつてのように会社に全てを捧げる働き方ではなく、ワークライフバランスを重視したり、副業・兼業を通じて自身のスキルを高めたり、異なるキャリアを追求したりする従業員が増えています。
同時に、「少子高齢化による労働力不足は、人員の柔軟な配置が難しい終身雇用制度の維持を難しくしています。」という問題も深刻です。労働人口の減少は、企業が新しい人材を確保することを困難にし、一方で既存社員の高齢化が進むことで、年功賃金による人件費の高騰が企業負担となっています。
特に、団塊ジュニア世代が高齢期に入ることで、人件費の負担はますます増大すると予想されており、企業はより効率的で持続可能な人事制度への転換を急いでいます。
「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への移行
終身雇用制度の見直しは、日本の雇用システムが「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へと移行する大きな流れと連動しています。参考情報にも明記されている通り、「職務内容や専門性に基づいたジョブ型人事への移行も進んでいます。」
メンバーシップ型雇用は、職務内容を限定せず、企業内での異動や育成を通じて長期雇用を前提とする日本独特の雇用形態でした。これに対し、ジョブ型雇用は、職務内容、責任、求められるスキルを明確にし、それに基づいて評価・報酬を決定する欧米型の雇用システムです。
大手企業がジョブ型への移行を進める目的は多岐にわたります。最も重要なのは、専門性の高い人材を確保し、その能力を最大限に引き出すことで、組織全体の生産性を向上させることです。また、グローバル企業として国際標準の人事制度に合わせることも目的の一つです。具体的には、「新卒一括採用から「ダイバーシティ採用」へ」の転換や、「キャリア開発支援の強化」、「成果主義を取り入れた人事評価」などが挙げられます。これらの変化は、企業がより柔軟で、かつ成果にコミットできる組織を目指していることの証と言えるでしょう。
それでも終身雇用を維持する企業の強み
安定した組織と高い従業員ロイヤルティ
終身雇用制度を維持する企業は、揺るぎない組織の安定性と、従業員の高いロイヤルティというかけがえのない強みを持っています。参考情報にあるように、「従業員は定年まで安定した雇用と収入が見込めるため、生活が安定し、心理的な安心感を得られます。住宅ローンのような長期的な生活設計も立てやすくなります。」このような安心感は、従業員の離職率を低く抑え、組織内の人材が長期にわたって安定して定着することを可能にします。
さらに、「企業への信頼感を深め、「自分は組織の一員である」という帰属意識が高まります。これにより、主体的に業務に取り組む姿勢が育まれます。」という点も大きなメリットです。従業員は企業に深くコミットし、単なる労働力としてではなく、組織の成長に貢献しようとする意識を強く持ちます。これにより、企業は長期的な視点での事業運営が可能となり、目先の利益にとらわれずに、研究開発や新たな市場開拓といった将来への投資を進めることができるのです。
熟練した技術・ノウハウの継承と蓄積
終身雇用制度がもたらす最大の強みの一つは、熟練した技術やノウハウの確実な継承と蓄積です。参考情報でも、「企業は長期的な視点で計画的に人材を育成できます。会社の理念を浸透させ、熟練した人材を確保することが可能です。」と述べられています。
長期間にわたって同一企業で働くことで、従業員は深い専門知識や高度なスキルを身につけ、それが組織全体の財産となっていきます。特に、製造業における職人技や、特定の業界に特化したサービスノウハウなど、一朝一夕には習得できない技術の継承には、終身雇用が非常に有効です。
ベテラン社員から若手社員へのOJT(On-the-Job Training)や、社内研修を通じた知識・経験の継承がスムーズに行われるため、企業独自の文化や技術力が揺るぎなく醸成されます。これは、他社との差別化を図り、競争優位性を確立する上で極めて重要な要素となります。
採用・育成コストの効率性とブランディング
終身雇用は、採用・育成コストの面でも効率性をもたらし、企業の強力なブランディングにもつながります。参考情報にある通り、「新卒一括採用を基本とするため、中途採用に比べて採用コストを抑えられる場合があります。」という点は見逃せません。
安定した雇用を前提とした新卒一括採用は、企業が一度に多くの優秀な人材を効率的に確保できる体制を構築できます。また、長期雇用を前提とした育成プログラムにより、外部の研修機関に頼ることなく、自社内で必要なスキルや知識を計画的に従業員に身につけさせることが可能です。
さらに、「終身雇用」という言葉自体が、特に新卒学生にとって非常に魅力的な就職先としてのブランドイメージを確立します。将来への不安が少ない安定した企業として認識されることで、優秀な人材の獲得競争において優位に立つことができるのです。加えて、従業員の定着率が高いことは、社会的な信頼性を高め、企業の良好なイメージを構築する上でも大きなメリットとなります。
これからの「働く」を考える:終身雇用との付き合い方
従業員に求められる「自律的なキャリア形成」
終身雇用が依然として存在する企業で働く従業員であっても、これからの時代においては、「自律的なキャリア形成」の意識を持つことが不可欠です。企業にキャリアの全てを任せるのではなく、自身のスキルや市場価値を常に意識し、能動的にキャリアをデザインしていく姿勢が求められます。
具体的には、企業内の異動や新しいプロジェクトへの挑戦を積極的に行い、自身のスキルセットを常に更新していく努力が重要です。また、外部の学習機会を活用したり、場合によっては副業を通じて新たな経験を積んだりすることで、自身の専門性を高め、市場価値を向上させることも有効です。
企業が提供する「キャリア開発支援の強化」などの制度を最大限に活用し、自身の成長機会を能動的に創出していくことが、これからの終身雇用環境で働く従業員にとって成功の鍵となるでしょう。
企業に求められる「柔軟な人事制度の設計」
終身雇用は完全に過去の制度となったわけではありませんが、参考情報が示す通り、「その在り方は変化していくと考えられます。企業には、時代の変化に対応した人事制度の見直しが求められています。」これは、終身雇用の持つメリットを活かしつつ、デメリットを克服し、多様な働き方に対応できる柔軟な制度を構築するということです。
企業は、画一的な雇用形態ではなく、従業員のライフステージや価値観の変化に対応できるような制度設計を目指すべきです。例えば、定年延長制度や選択定年制の導入、兼業・副業の容認、あるいはジョブ型とメンバーシップ型のハイブリッド型人事制度など、様々な選択肢が考えられます。
参考情報でも述べられているように、「企業は、終身雇用のメリットを活かしつつ、デメリットを克服し、多様な働き方に対応できる柔軟な人事制度を構築していくことが求められます。」このような柔軟なアプローチは、優秀な人材の確保と定着、そして企業の持続的な成長に不可欠となります。
未来の雇用モデル:終身雇用の「進化」と共存
これからの雇用モデルは、終身雇用が完全に消滅するのではなく、その形を「進化」させ、他の雇用形態と共存していく可能性が高いと考えられます。参考情報が指摘するように、「新卒一括採用から「ダイバーシティ採用」へ」の転換や、「「メンバーシップ型人事」から「ジョブ型人事」へ」の移行、そして「成果主義を取り入れた人事評価」の導入は、その進化の方向性を示しています。
企業は、正社員以外の契約社員、専門職、フリーランスといった多様な雇用形態との連携を強化することで、組織全体の柔軟性を高めることができます。また、「人的資本経営」という視点、つまり従業員をコストではなく、長期的な企業価値向上のための「投資対象」として捉え、育成・活用する考え方が重要になります。
終身雇用は、日本経済の成長を支えてきた重要な雇用慣行ですが、社会情勢の変化とともにその形を変えつつあります。企業と従業員が、それぞれの役割と責任を明確にし、変化する環境に適応しながら共に成長できる、新たな雇用関係を構築していくことが、未来の「働く」を考える上で最も重要な課題となるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 終身雇用とは具体的にどのような雇用形態ですか?
A: 終身雇用とは、原則として定年まで企業が従業員を雇用し続けるという慣行です。転勤や配置転換はあるものの、原則として解雇されることはありません。
Q: 日立製作所は終身雇用を続けていますか?
A: 日立製作所は、かつて終身雇用を基本としていましたが、近年では多様な働き方を取り入れる方向へと変化しており、従来の終身雇用とは異なる制度になっています。
Q: 富士通や三菱商事も終身雇用を廃止しましたか?
A: 富士通や三菱商事も、時代の変化に合わせて雇用制度の見直しを行っています。ただし、従業員のキャリア支援や長期的な育成に注力する姿勢は維持されています。
Q: ユニクロや楽天は終身雇用を採用していますか?
A: ユニクロ(ファーストリテイリング)や楽天は、成果主義やジョブ型雇用といった要素を強く打ち出しており、伝統的な終身雇用のイメージとは異なります。
Q: 今でも終身雇用を続ける企業はありますか?
A: 伝統的な意味での終身雇用を維持している企業は減少傾向にありますが、従業員の長期的な育成や安定雇用を重視する企業は存在します。例えば、一部のインフラ系企業や、特定の専門職を長く育成する企業などに見られます。