「確定申告」と聞くと、複雑そう、自分には関係ない、と感じる方も多いかもしれません。しかし、会社員や年金受給者であっても、特定の条件に当てはまると確定申告の義務が発生します。

本記事では、確定申告が必要になる「いくらから」という基準を徹底解説。さらに、令和7年・8年分の最新の申告時期や、申告を怠った場合のペナルティ、そして令和5年分の申告がまだ間に合うかどうかのポイントまで、分かりやすくご紹介します。

ご自身の状況に照らし合わせながら、確定申告に関する疑問を解消し、適切な手続きを進めるための参考にしてください。

確定申告の義務が生じるのはいくらから?条件を徹底解説

確定申告は、1年間の所得にかかる税金を計算し、税務署に申告・納税する大切な手続きです。義務が生じる基準は、個人の職業や収入源によって多岐にわたります。ここでは、主要なケース別に、確定申告が必要となる所得の基準を詳しく見ていきましょう。

個人事業主・フリーランスの所得基準

個人事業主やフリーランスの場合、確定申告が必要となるのは、年間の所得(収入から必要経費を差し引いた額)が95万円を超える場合が原則です。これは、2025年分の確定申告から基礎控除額が見直され、所得95万円以下であれば基礎控除を差し引いた課税所得がゼロになるためです。

例えば、年間売上が200万円あり、必要経費が50万円だった場合、所得は150万円(200万円 – 50万円)となります。この150万円は95万円を超えるため、確定申告が義務となります。事業所得以外にも、複数の所得がある場合は合算して判断する必要があるため、ご自身の所得状況を正確に把握することが重要です。日々の売上や経費をしっかりと記録し、正しい所得計算ができるように準備を進めましょう。

給与所得者・年金受給者の所得基準

会社員や公的年金受給者の方も、以下の条件に該当する場合は確定申告が必要です。

  • 給与所得者:
    • 給与収入が2,000万円を超える場合。
    • 副業などの所得が年間20万円を超える場合。
    • 年の途中で退職し、年末調整を受けていない場合。
  • 年金受給者:
    • 公的年金以外の雑所得や給与所得が年間20万円を超える場合。
    • 公的年金収入のみで年間の収入が400万円以下であれば原則不要ですが、それ以外の所得があれば確定申告が必要です。

特に、副業ブームの現代において、給与所得者でも副業の所得が20万円を超えると確定申告が必要になるケースが増えています。例えば、Webライティングやプログラミング、ハンドメイド品の販売などで得た利益も、所得と見なされます。また、2025年度税制改正により、配偶者控除が適用される合計所得金額の上限が58万円(給与収入換算で123万円)に引き上げられるなど、控除額に変更がある点も押さえておきましょう。

その他の所得における申告義務

上記の主要なケース以外にも、様々な所得において確定申告の義務が生じる場合があります。

  • 一時所得: 生命保険の満期金や懸賞金などで、特別控除後の所得が一定額を超える場合。
  • 配当金・FX・仮想通貨の利益: これらの取引で得た利益が一定額を超える場合や、複数の証券会社・取引所を利用している場合。
  • 個人年金を受給している場合: 公的年金とは異なり、個人で契約した年金も所得と見なされます。
  • 株取引で一定の利益がある場合: 特定口座(源泉徴収あり)以外の口座を利用している場合や、複数の口座間で損益通算を行う場合など。
  • 不動産所得・譲渡所得がある場合: 不動産の賃貸収入や売却益などがある場合。

これらの所得は、種類や金額によって申告の要否が細かく規定されています。ご自身の収入源を多角的に確認し、一つでも当てはまる可能性がある場合は、早めに税務署や税理士に相談することをお勧めします。特に投資関連の所得は、計算が複雑になる傾向があるため注意が必要です。

【年度別】令和7年・8年分の確定申告時期はいつからいつまで?

確定申告には明確な提出期限が設けられています。期限を過ぎてしまうと、ペナルティが発生する可能性もあるため、正確な申告期間を把握し、余裕をもって準備を進めることが非常に重要です。ここでは、最新の令和7年・8年分の主要な税目の確定申告期間について解説します。

令和7年分の所得税等の申告期間

令和7年分(2025年分の所得)の所得税および復興特別所得税の確定申告期間は、2026年2月16日(月)から2026年3月16日(月)までと定められています。

この期間中に、前年1月1日から12月31日までの所得を計算し、必要書類を添付して税務署に提出する必要があります。特に、提出期限が土日祝日にあたる場合は、翌平日が期限となるのが原則ですが、上記期間は既にそのルールが反映されています。期限直前は税務署やe-Taxのシステムが混雑しやすいため、早めの準備と申告を心がけましょう。必要書類の準備や計算に時間がかかることも考慮し、年明けから少しずつ準備を始めるのが賢明です。

令和7年分のその他の税目の申告期間

所得税以外にも、確定申告が必要となる税目があります。令和7年分における主要な税目の申告期間は以下の通りです。

  • 令和7年分の贈与税の確定申告: 2026年2月2日(月)から2026年3月16日(月)まで
  • 令和7年分の消費税および地方消費税の確定申告(個人事業者): 2026年3月31日(火)まで

贈与税は、個人から財産を無償で受け取った場合に発生する税金で、相続税の補完的な役割を担っています。消費税は、個人事業主で課税事業者となる場合に申告・納税が必要です。これらの税目は所得税とは申告期間が異なる場合があるため、ご自身の納税義務に応じて、それぞれの期限を正確に把握しておくことが不可欠です。複数の税目を申告する必要がある方は、特に注意してスケジュール管理を行いましょう。

還付申告の特例と注意点

確定申告の中には、「還付申告」と呼ばれる手続きもあります。これは、源泉徴収などで納めすぎた税金を国から還してもらうための申告です。還付申告には、通常の確定申告期間とは異なるルールが適用されます。

具体的には、還付申告は、確定申告期間とは関係なく、翌年1月1日から5年間いつでも可能です。例えば、令和5年分の所得で医療費控除や住宅ローン控除(初年度)の適用を受けることで税金が還付される場合、令和6年1月1日から令和10年12月31日までの間であれば、いつでも申告することができます。

この特例を知らずに、還付を受けられるにもかかわらず申告を諦めてしまうケースも少なくありません。ご自身が医療費控除や寄付金控除、住宅ローン控除などの対象になるかを確認し、もし還付申告の対象となる場合は、忘れずに手続きを行いましょう。過去の年分であっても、還付申告の期限内であれば対応可能です。

確定申告をしなければならない人を具体例で理解しよう

「確定申告が必要」と言われても、自分に当てはまるかどうかわかりにくいと感じる方もいるでしょう。ここでは、具体的なケースを挙げて、どのような人が確定申告の義務を負うのかを分かりやすく解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら確認してみましょう。

副業サラリーマンのケース

会社員として働いている方でも、副業で収入を得ている場合は注意が必要です。給与所得や退職所得以外の所得の合計額が年間20万円を超える場合は、確定申告が義務となります。

例えば、本業の給与収入が400万円の会社員Aさんが、平日の夜や週末にWebライティングの副業を行い、年間で30万円の収入を得たとします。この副業にかかった経費が5万円であれば、副業による所得は25万円(30万円 – 5万円)となります。この25万円は20万円を超えるため、Aさんは確定申告をしなければなりません。たとえ本業で年末調整を受けていても、副業所得が20万円を超えた場合は必ず申告が必要です。副業を始めたばかりの方や、複数の副業をしている方は特に、年間所得の合計が20万円を超えていないか定期的に確認しましょう。

複数の収入源を持つ個人のケース

複数の収入源がある場合、確定申告の義務が生じる可能性が高まります。特に、年金受給者やフリーランスで複数の仕事を掛け持ちしている方は注意が必要です。

例えば、公的年金収入が年間300万円の年金受給者Bさんが、他にパートタイムで年間15万円の給与収入、さらに自宅の空き部屋を貸して年間10万円の不動産収入を得ていたとします。公的年金収入は400万円以下なので、これだけなら確定申告は不要ですが、公的年金以外の所得(パート給与15万円+不動産収入10万円=25万円)が年間20万円を超えているため、Bさんは確定申告が必要です。このように、一見確定申告が不要に見える状況でも、複数の収入源を合算すると義務が生じるケースは少なくありません。全ての収入を漏れなく把握し、正確な所得を計算することが重要です。

投資や一時的な高額所得があった人

株取引、FX、仮想通貨などの投資活動で利益を得た場合や、一時的な高額所得があった場合も、確定申告が必要になることがあります。

例として、会社員Cさんが仮想通貨取引で年間50万円の利益を得たとします。この50万円は「雑所得」に分類され、給与所得以外の所得が20万円を超えるため、Cさんは確定申告が必要です。また、生命保険の満期保険金を受け取った場合や、懸賞金などで一時的に高額な所得を得た場合も、「一時所得」として申告が必要になることがあります。一時所得には特別控除50万円がありますが、これを超える利益が出た場合は申告が必要です。ただし、特定口座(源泉徴収あり)を利用している株式取引の利益は、原則として確定申告が不要です。しかし、複数の証券会社で取引していて損益通算を行いたい場合などは、確定申告が必要になります。ご自身の投資状況や、その他一時的な所得の有無をしっかりと確認しましょう。

確定申告をしないとどうなる?ペナルティとリスク

確定申告は国民の義務であり、申告が必要な人がこれを怠った場合、様々なペナルティが課せられる可能性があります。単に「忘れていただけ」という言い訳は通用しません。ここでは、確定申告をしないことで生じる具体的なペナルティやリスクについて解説します。

無申告加算税と延滞税

確定申告の義務があるにもかかわらず期限までに申告しなかった場合、まず課せられるのが「無申告加算税」です。これは、本来納めるべき税額に対して、税務署からの指摘で申告した場合は原則として15%(50万円を超える部分は20%)が加算されます。

しかし、自主的に期限後申告を行った場合は、加算税が5%に軽減されることがあります。さらに、本来納めるべき税金を期限までに納付しなかった場合には「延滞税」も発生します。延滞税は、納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて計算され、その税率は利息に相当します。滞納期間が長くなればなるほど、延滞税の負担は大きくなります。これらの加算税や延滞税は、本来納めるべき税金に上乗せされるため、最終的に支払う税金の総額が大幅に増えてしまうリスクがあります。

青色申告特別控除等の優遇措置の喪失

個人事業主やフリーランスの方で、青色申告の承認を受けている場合、期限内に確定申告を行わないと大きな不利益を被ることがあります。

青色申告では、要件を満たせば65万円または10万円の「青色申告特別控除」を受けることができます。しかし、期限内に申告書を提出しなかった場合、この特別控除は適用されません。また、青色申告の大きなメリットである「純損失の繰越控除」(事業で赤字が出た場合、その赤字を翌年以降3年間繰り越して、将来の所得と相殺できる制度)も利用できなくなってしまいます。これにより、本来であれば納税額を減らすことができたはずの優遇措置を全て失ってしまうことになります。これは、事業の経営において非常に大きな損失となりうるため、青色申告を選択している事業者は特に、期限厳守が求められます。

住民税や社会保険料への影響

確定申告は所得税だけでなく、住民税や国民健康保険料などの計算基礎にもなります。確定申告を怠ると、これらの公的な費用にも悪影響が及ぶ可能性があります。

確定申告によって申告された所得情報は、地方自治体にも通知され、それに基づいて住民税の額が決定されます。申告をしないと、自治体はあなたの正確な所得を把握できず、過少に所得を認定され、本来受けられるはずの住民税の軽減措置や非課税措置が適用されない場合があります。また、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料は、前年の所得に基づいて計算されるため、無申告だと適正な保険料が算出されず、最悪の場合、高額な保険料が請求されたり、所得が不明なために国保料の軽減措置が受けられなかったりするリスクがあります。さらに、所得証明書が必要となる行政サービス(保育料の減免申請、公営住宅の入居申請など)も、正確な所得情報がなければ利用できなくなる可能性があります。

令和5年分の確定申告、まだ間に合う?確認すべきポイント

令和5年分の所得税の確定申告期間は原則として2024年2月16日から3月15日まででした。しかし、期限を過ぎてしまったからといって、もう何もできないというわけではありません。状況によってはまだ対応できる場合があります。ここでは、期限後になってしまった場合の対処法や、今一度確認すべきポイントを解説します。

期限後申告の可否と手続き

所得税の確定申告は、たとえ期限を過ぎてしまっても「期限後申告」として提出することが可能です。しかし、先述の通り、期限後申告には無申告加算税や延滞税といったペナルティが課せられるリスクがあります。ただし、税務署からの指摘を受ける前に自主的に申告を行うことで、無申告加算税の税率が軽減される場合があります。

具体的には、税務調査などの前に自主的に期限後申告を行えば、原則として無申告加算税は5%に軽減されます。もし、まだ申告すべき書類が手元に揃っている場合は、速やかに確定申告書を作成し、提出しましょう。その際、所轄の税務署に連絡し、期限後申告である旨を伝えた上で、指示に従って手続きを進めるのが確実です。不明な点があれば、税務署の窓口や電話相談を利用することをお勧めします。

還付申告の可能性と手続き

確定申告の期限は過ぎてしまいましたが、もしあなたが「払いすぎた税金を取り戻す」ための還付申告の対象であるならば、まだ間に合います。

還付申告は、原則として対象となる年の翌年1月1日から5年間いつでも提出することができます。例えば、令和5年分の所得(2023年分の所得)で、以下のケースに該当する場合は還付申告が可能です。

  • 多額の医療費を支払い、医療費控除の対象となる場合。
  • 年末調整で適用しきれなかったふるさと納税(寄付金控除)がある場合。
  • 住宅ローン控除を初めて適用する場合(2年目以降は年末調整で対応可能なこともあります)。
  • 災害や盗難などで損害を受け、雑損控除の対象となる場合。

これらの控除によって所得税が還付される見込みがある場合は、今からでも令和5年分の還付申告書を作成・提出することができます。忘れずに確認し、適切な手続きを行いましょう。

申告内容の誤りがあった場合の対応

すでに確定申告を済ませたものの、申告内容に誤りがあったことに後から気づいた場合でも、適切な対応をすれば問題ありません。税額を間違えて申告した場合、以下の2つの手続きがあります。

  1. 更正の請求: 税額を多く申告してしまった場合に、正しい税額に訂正し、払いすぎた税金の還付を求める手続きです。原則として、法定申告期限から5年以内に行うことができます。
  2. 修正申告: 税額を少なく申告してしまった場合に、正しい税額に訂正し、不足している税額を納める手続きです。この場合も、不足分の税金に加えて延滞税などが課せられる可能性がありますが、税務署から指摘を受ける前に自主的に修正申告を行うことで、加算税が軽減されることがあります。

いずれの場合も、誤りに気づいたら速やかに対応することが重要です。不明な点があれば、管轄の税務署や税理士に相談し、適切な手続き方法を確認しましょう。正しい申告を行うことで、将来的な税務リスクを回避し、安心して納税義務を果たすことができます。