概要: 就業規則は企業の根幹をなす重要なルールブックです。本記事では、必ず記載すべき絶対的記載事項から、会社の個性を表現できる相対的記載事項、そして近年注目される解雇事由や新たな記載例までを網羅的に解説します。就業規則作成の疑問を解消し、より良い職場環境の実現を目指しましょう。
就業規則は、企業と従業員の関係を円滑にし、安心して働ける職場環境を築くための羅針盤です。常時10人以上の労働者を使用する事業場には、その作成・届出が法律で義務付けられています。
しかし、「何を書けばいいのか」「どこまで詳しく書けばいいのか」と悩む担当者の方も少なくないでしょう。就業規則には、法律で必ず記載が求められる「絶対的記載事項」と、企業が制度として設けた場合に記載が必要となる「相対的記載事項」があります。
本記事では、これら二つの記載事項の具体的な内容に加え、トラブルになりやすい「解雇事由」の明確化、さらには近年の労働環境の変化に対応した記載事項まで、就業規則作成のポイントを徹底的に解説します。貴社の就業規則を見直すきっかけにしてください。
就業規則に必ず記載すべき「絶対的記載事項」とは?
就業規則の作成において、まず押さえるべきは「絶対的記載事項」です。これは労働基準法によって、すべての事業場で必ず記載しなければならないと定められている項目であり、労働者の基本的な労働条件や権利に直結するため、その内容は極めて重要です。
これらの項目を漏れなく、かつ具体的に記載することで、労使間の無用なトラブルを未然に防ぎ、透明性の高い職場環境を構築することができます。単に箇条書きにするだけでなく、誰が読んでも理解できる明確な表現を心がけることが大切です。
労働時間・休日・休暇の明確化
従業員の労働時間、休憩、休日、休暇は、彼らの生活の基盤となる最も重要な情報です。就業規則には、以下の事項を詳細に記載する必要があります。これには、始業時刻、終業時刻、休憩時間の長さとその与え方、週や年間の休日日数、年次有給休暇の付与条件と取得方法などが含まれます。
特に、変形労働時間制やフレックスタイム制、シフト制などを導入している場合は、その運用ルールを具体的に明記しなければなりません。交代制勤務の場合は、就業時転換に関する事項、つまりシフト変更のルールや通知方法なども明確に定めることが重要です。これにより、従業員は自身の働き方を正確に把握し、安心して業務に集中することができます。曖昧な記載は、労働時間に関する認識のずれや、残業代計算の誤りなど、後々のトラブルの温床となりかねません。
例えば、「休憩時間は原則として正午から1時間とする。ただし、業務の都合により時間を変更することがある」といった規定は、変更の条件や範囲が不明確なため、従業員の不信感を招く可能性があります。変更の際の事前通知義務や、従業員への配慮事項などを加えることで、より丁寧で公平な運用を示すことができます。
賃金規程の肝!計算方法から昇給まで
賃金に関する規定は、就業規則の中でも特に従業員の関心が高く、同時にトラブルに発展しやすい項目です。そのため、賃金の決定方法、計算方法、支払方法、締切日、支払日、そして昇給に関する事項を、誰にでも分かりやすく詳細に記載する必要があります。
基本給、各種手当(通勤手当、住宅手当、役職手当など)、そしてそれらの計算基準や支給条件を明確にしましょう。特に重要なのは、法定時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働に対する割増賃金率です。これらの割増率を具体的に記載することで、従業員は自身の労働に対する対価を正確に理解できます。例えば、「時間外労働の割増率は、労働基準法第37条に基づき、25%とする」といった具体的な記述が必要です。
また、賞与や退職金制度がある場合は、それらが相対的記載事項として別途詳細に定められることになりますが、賃金規程のセクションでその存在に触れておくことも有効です。賃金は従業員の生活を直接支えるものであり、その透明性は企業への信頼を築く上で不可欠です。不明瞭な点は、常に質問を受け付け、丁寧に説明する体制も整えておくべきでしょう。
退職・解雇に関する重要事項
退職および解雇に関する事項も、就業規則に必ず記載しなければならない絶対的記載事項です。従業員が安心して働くためには、退職の意思表示の仕方、退職願の提出期限、退職までの手続きが明確である必要があります。例えば、「退職を希望する者は、退職希望日の1ヶ月前までに、所定の退職届を提出しなければならない」といった具体的な期間を定めることで、会社側も後任の手配などの準備を進めることができます。
一方で、会社都合による解雇についても、その事由と手続きを具体的に定めることが非常に重要です。解雇は従業員の生活に甚大な影響を与えるため、その正当性が厳しく問われます。そのため、就業規則には「どのような場合に解雇となるのか」を詳細に記載し、解雇の有効性を争う際の中心的な根拠となります。例えば、懲戒解雇の事由として、「会社の重要な機密情報を外部に漏洩した場合」や「長期間にわたる無断欠勤」などを挙げることができます。
これらの記載は、単に企業の権利を主張するだけでなく、従業員に会社のルールを理解させ、予期せぬ解雇を回避するための指針を与える役割も果たします。また、解雇手続きの透明性を確保し、不当解雇のリスクを軽減するためにも不可欠です。
「相対的記載事項」で会社の個性を出す!具体例と注意点
就業規則における「相対的記載事項」とは、企業が独自の制度や福利厚生を設けた場合に、その内容を必ず記載しなければならない項目を指します。絶対的記載事項が法律で一律に義務付けられているのに対し、相対的記載事項は企業の裁量と個性を反映させる部分と言えるでしょう。
これらの項目を充実させることで、従業員満足度の向上や優秀な人材の獲得に繋がり、企業の魅力度を高めることができます。しかし、一度定めたら必ず適用され、後から不利益に変更する際には従業員の同意が必要となる場合もあるため、慎重な検討が必要です。
福利厚生や手当で魅力的な職場に
従業員の生活をサポートし、モチベーションを高めるための福利厚生や各種手当は、相対的記載事項の中でも特に企業の個性を際立たせる部分です。退職手当制度がある場合は、その支給条件、計算方法、支払時期などを詳細に定めます。賞与やインセンティブなどの臨時の賃金についても、支給基準や評価方法を明確にすることで、従業員の働きがいを高めることができます。
また、通勤手当、住宅手当、家族手当、資格手当といった法定外の各種手当を設ける場合は、その支給条件や金額、計算方法を具体的に記載する必要があります。食事補助、作業用品の支給、社宅の提供など、費用負担に関する事項も同様です。
例えば、近年注目される従業員持株会、財形貯蓄制度、企業型DC(確定拠出年金)なども、相対的記載事項として位置づけられ、その規程を明記することで、従業員の長期的な資産形成を支援する企業の姿勢を示すことができます。これらの制度は、企業の採用競争力にも直結するため、自社の理念や従業員のニーズに合わせて積極的に検討すべき項目です。
従業員の成長を支える制度の明記
従業員の成長をサポートし、安全で健康な職場環境を維持するための制度も、相対的記載事項として就業規則に盛り込むべき重要な項目です。具体的には、職業訓練に関する事項がこれに該当します。新人研修、OJT、外部セミナー受講支援、資格取得奨励金制度など、企業が従業員のスキルアップやキャリア形成のためにどのような機会を提供しているのかを明記することで、従業員は自身の成長パスを描きやすくなります。
また、安全及び衛生に関する事項も、従業員の健康と安全を守る上で不可欠です。これには、危険作業時の注意喚起、安全衛生委員会での取り組み、健康診断の受診義務とその費用負担、ストレスチェック制度、メンタルヘルスに関する相談窓口などが含まれます。特に、近年は過重労働による健康障害やハラスメント問題が深刻化しているため、予防策や対応方針を明確にすることは、企業の社会的責任を果たす上でも極めて重要です。
災害補償や業務外の傷病に対する扶助制度(例:傷病手当金の上乗せ支給、見舞金)も、従業員が万が一の時に安心して治療に専念できる環境を整える上で有効です。これらの制度は、従業員が企業から大切にされていると感じる重要な要素となり、エンゲージメントの向上にも繋がります。
規律と秩序を保つ表彰・制裁
職場の規律と秩序を維持し、従業員のモチベーションを適切に管理するためには、表彰制度と制裁制度に関する事項も就業規則に明確に記載する必要があります。これらは相対的記載事項に該当します。
表彰に関する事項としては、模範となる行動や顕著な功績を上げた従業員をどのように評価し、どのような形で報いるのかを定めます。例えば、永年勤続表彰、業績優秀者表彰、改善提案表彰など、その種類、基準、表彰方法(賞状、賞金、特別休暇など)を具体的に記載することで、従業員は自身の努力が正当に評価されることを期待し、より一層意欲的に業務に取り組むことができます。表彰制度は、企業の文化を醸成し、望ましい行動を奨励する上で非常に強力なツールとなります。
一方で、制裁に関する事項は、会社の規律に違反した場合や職務懈怠があった場合に、どのような処分が下されるのかを明確にするものです。労働基準法で定められている懲戒の種類(譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇など)と、それぞれどのような行為が対象となるのかを具体的に記載します。例えば、「無断欠勤が連続3日以上に及んだ場合、出勤停止処分とすることがある」といった規定です。
制裁事由は、客観的かつ具体的に定め、その適用に際しては公平性と透明性が確保されるように、弁明の機会を与えるなどの手続きについても明記することが望ましいです。これにより、従業員はどのような行動が問題となるのかを理解し、不適切な行動を抑止するとともに、不当な処分を防ぐ役割も果たします。
解雇事由の明確化が重要!就業規則で定めるべきこと
解雇は、従業員の生活に大きな影響を与える行為であり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、権利の濫用として無効となります。そのため、就業規則において解雇事由を明確かつ具体的に定めることは、労使トラブルを避ける上で極めて重要です。
解雇に関する裁判例では、就業規則に定められた解雇事由への該当性が中心的な争点となることが多いため、どのような場合に解雇の可能性があるのかを、誰が見ても理解できるよう具体的に記載する必要があります。これにより、従業員は自らの行動が解雇に繋がりうるリスクを認識し、企業側も法的な正当性を確保することができます。
「客観的合理性」と「社会通念上の相当性」
解雇の有効性を判断する上で、労働契約法第16条に定められている「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当と認められるか」という二つの基準が非常に重要となります。これは、単に就業規則に解雇事由が記載されていれば良いというわけではなく、その事由が客観的な事実に基づいているか、そしてその解雇が社会一般の常識に照らして妥当な判断であるかが問われることを意味します。
例えば、従業員の能力不足を理由に解雇する場合でも、単に「能力が低い」という主観的な評価だけでは客観的合理性を欠きます。具体的にどのような業務で、どの程度の成果が期待されていたのか、それに対して実際にどのような成果しか出なかったのかをデータや記録に基づいて示す必要があります。さらに、能力向上のための教育や指導、配置転換などの努力を会社側が行ったかどうかも問われます。
「社会通念上の相当性」とは、解雇が最後の手段として適切であったか、他に選択肢はなかったか、という観点です。例えば、従業員の軽微な規律違反で即座に解雇とすることは、社会通念上相当とは認められにくいでしょう。違反の内容、回数、反省の有無、会社への影響などを総合的に考慮し、懲戒処分の中でも最も重い解雇が妥当であったかを判断します。
就業規則に解雇事由を定める際には、これらの判断基準を意識し、安易な解雇に繋がらないよう、慎重かつ具体的な表現を用いることが求められます。
具体的な解雇事由の例と注意点
就業規則に記載すべき解雇事由は多岐にわたりますが、代表的なものとして以下の例が挙げられます。これらの事由を定める際には、あいまいな表現を避け、具体的にどのような状況が解雇に該当するのかを明確にすることが重要です。
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労働者の労務提供の不能による解雇:
病気や怪我などにより長期にわたり就業が困難となった場合などが該当します。この際、休職制度の有無やその期間、治療見込みなどを考慮し、安易な解雇とならないよう注意が必要です。「医師の診断書等により、業務遂行能力が回復する見込みがないと判断された場合」など、客観的な判断基準を設けることが望ましいです。 -
能力不足、成績不良、勤務態度不良、適格性欠如による解雇:
職務遂行能力が著しく劣り、改善の見込みがない場合、あるいは会社の指示命令に一貫して従わないなどの勤務態度不良が常態化している場合がこれに当たります。ただし、裁判例では「体系的な教育・指導が行われなかった場合は、解雇が無効と判断されることもあります」と示されているように、会社側が改善のための具体的な指導や機会提供を十分に行ったかが重要です。指導記録を残すなど、プロセスを明確化しておくことが不可欠です。 -
職場規律違反、職務懈怠による解雇:
会社の秩序を著しく乱す行為(例:ハラスメント、情報漏洩、無断欠勤)や、職務を怠った場合などが該当します。これらの事由も、違反の重大性、反復性、会社への影響などを総合的に考慮し、他の懲戒処分では対応できないほど悪質である場合に限定すべきです。 -
経営上の必要性による解雇(整理解雇):
会社の経営状況が悪化し、人員削減が不可避な場合などが該当します。整理解雇の場合、「人員削減の必要性」「解雇回避努力の実施」「人選の合理性」「手続の妥当性」という4つの要素(いわゆる整理解雇の4要件)が厳しく問われるため、就業規則にその旨を記載するだけでなく、実際の運用に際しては細心の注意が必要です。 -
ユニオンショップ協定による解雇:
特定の労働組合への加入が義務付けられており、組合から脱退した場合に解雇となる協定に基づくものです。これは特定の状況にのみ適用される特殊なケースです。
これらの解雇事由を定める際は、具体的な行為内容や発生頻度、会社への影響度などを考慮し、過度に広範な解釈を許さないよう、明確な言葉で表現することが求められます。また、いかなる解雇においても、従業員への弁明の機会を与えるなど、適正な手続きを踏むことが必須です。
不当解雇を防ぐためのポイント
解雇は企業にとって最終的な手段であり、その判断が不適切であれば、従業員からの訴訟リスクや企業の社会的信用の失墜に直結します。不当解雇のリスクを回避し、適正な解雇を行うためには、就業規則への明確な記載だけでなく、日々の運用における丁寧なプロセスが不可欠です。
最も重要なポイントの一つは、「体系的な教育・指導の記録」です。特に能力不足や勤務態度不良を理由とする解雇の場合、企業が従業員に対して、問題点を具体的に指摘し、改善のための具体的な指導や研修、機会提供をどの程度行ったか、そしてその結果がどうであったかを客観的に記録しておく必要があります。指導内容、指導日、指導担当者、従業員の反応、その後の改善状況などを時系列で記録に残すことで、解雇の客観的合理性を担保する強力な証拠となります。
次に、「改善のための十分な機会提供」です。一度の失敗や短期的な成果不足で即座に解雇とするのではなく、改善のための具体的な目標設定と、その達成に向けたサポート体制を構築することが求められます。配置転換や業務内容の見直しなども、解雇回避努力の一環として検討すべきです。
さらに、解雇を検討する際には、「従業員への弁明の機会」を必ず与えるべきです。懲戒委員会などを開催し、従業員本人から状況説明を聞くことで、誤解や事実誤認を防ぎ、公平な判断を下すことができます。このプロセスも記録に残すことが重要です。
これらのプロセスを就業規則に具体的に盛り込むことで、従業員は解雇に至るまでのステップを理解し、企業側も法的な要件を満たした適正な手続きを踏むことができるようになります。万が一トラブルになった際も、これらの記録が企業の正当性を証明する上で決定的な役割を果たすでしょう。
研修・健康診断・スマホ利用など、近年のトレンドを反映した記載事項
労働環境や社会情勢は常に変化しています。働き方改革、デジタル化の進展、健康経営への意識の高まりなど、企業を取り巻く環境は多様化し、それに伴い就業規則に記載すべき事項も変化しています。
「その他、すべての労働者に適用される事項」という相対的記載事項の枠組みを活用し、これらの新たな課題に対応したルールを就業規則に盛り込むことは、企業が持続的に成長し、従業員が安心して働ける環境を整備する上で不可欠です。既存の就業規則が、現代の働き方に合致しているか、定期的に見直しを行うことが重要です。
変化する労働環境への対応
近年、特に大きく変化したのが、テレワークやリモートワークといった多様な働き方です。これらを導入する企業は、就業規則にその具体的なルールを明記する必要があります。例えば、テレワークの対象者、勤務場所、労働時間の管理方法、通信費や光熱費などの費用負担、情報セキュリティ対策、緊急時の連絡体制などを詳細に定めるべきでしょう。
また、従業員の副業・兼業を認める企業も増えています。副業を認める場合は、その条件(例:本業に支障をきたさない範囲、秘密保持義務の遵守、競合企業での副業禁止など)、事前申請の義務、労働時間の管理方法などを就業規則に明確に記載することで、トラブルを未然に防ぎます。副業を禁止する場合も、その旨と禁止の理由を明記し、従業員に周知することが大切です。
さらに、ハラスメント防止への取り組みも強化されています。セクハラ、パワハラはもちろん、近年ではカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応も重要視されています。ハラスメントの定義、発生時の相談窓口、調査手順、懲戒処分、再発防止策などを具体的に記載することで、従業員が安心して相談できる環境を整え、健全な職場環境を維持することができます。
これらの事項を適切に盛り込むことで、企業は変化する社会のニーズに応え、従業員が安心して能力を発揮できる職場を提供することができます。同時に、企業自身のコンプライアンス強化にも繋がります。
デジタル化と情報セキュリティ
企業のデジタル化が進むにつれて、情報セキュリティに関するリスクも増大しています。そのため、就業規則には、会社支給のPC、スマートフォン、タブレットなどの情報通信機器の利用ルールを明確に定める必要があります。これには、私的利用の制限、パスワード管理の徹底、セキュリティソフトの導入、不正アクセス防止策、紛失・盗難時の対応などが含まれます。
特に、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の利用に関しては、業務時間内外を問わず、情報漏洩や企業イメージの毀損に繋がるリスクがあるため、従業員向けに具体的なガイドラインを設けることが重要です。企業秘密の漏洩、個人情報の不用意な公開、顧客や取引先に関する情報の書き込みの禁止、誹謗中傷の禁止など、具体例を挙げて注意喚起を行うべきでしょう。
情報セキュリティに関する規定は、単なる禁止事項の羅列ではなく、従業員一人ひとりが情報セキュリティ意識を高め、責任ある行動を取るための指針として機能するように記載することが望ましいです。違反があった場合の懲戒処分の対象となることも明記し、情報漏洩やサイバー攻撃から企業を守るための具体的な行動規範を示すことが、現代の就業規則には求められています。
また、業務用クラウドサービスの利用ルールや、BYOD(私物デバイスの業務利用)を認める場合のセキュリティ対策なども、企業の実態に合わせて盛り込む必要があります。これらの規定を明確にすることで、デジタル環境下での業務遂行におけるリスクを低減し、企業資産と従業員のプライバシー保護の両立を図ることができます。
従業員の健康とキャリア形成
従業員の健康維持とキャリア形成は、企業の持続的な成長に不可欠な要素です。就業規則には、安全及び衛生に関する事項として、定期健康診断の受診義務とその費用負担に関する規定を明確に設ける必要があります。単に義務とするだけでなく、受診を促すための体制整備や、健康診断結果に基づく保健指導の実施についても触れることが望ましいです。
近年では、メンタルヘルスケアの重要性が高まっており、ストレスチェック制度の実施義務とその結果に基づく医師面談、社内外の相談窓口の設置、ハラスメント防止対策と連携した心の健康づくりに関する規定も積極的に盛り込むべきです。従業員が精神的な不調を感じた際に、安心して相談できる仕組みが就業規則に明記されていることは、企業の責任を果たす上で非常に重要です。
また、職業訓練に関する事項として、従業員のキャリア形成を支援するための制度も記載しましょう。これには、業務上必要な知識やスキルの習得を目的とした研修制度、自己啓発支援(例:資格取得費用の補助、語学学習支援)、キャリアコンサルティングの機会提供などが含まれます。従業員が自身のキャリアパスを描き、目標達成に向けて努力できる環境を提供することは、従業員エンゲージメントの向上だけでなく、企業の生産性向上にも繋がります。
これらの健康とキャリア形成に関する規定は、従業員が安心して長く働ける環境を整備するための企業メッセージとして機能します。企業は、単に労働力を提供してもらうだけでなく、従業員一人ひとりの成長と幸福を支援するパートナーであるという姿勢を示すことが求められます。
就業規則作成でよくある疑問:数字の全角・半角、用語の「及び」と「および」
就業規則を作成する際、その内容だけでなく、表記の統一性も非常に重要です。法律文書としての性質を持つ就業規則は、誤解を招かないよう、一貫したルールに基づいて記述されるべきです。特に、数字の全角・半角の使い分けや、接続詞「及び」と「および」のような表現の揺れは、細部ではありますが、文書全体の信頼性や読みやすさに大きく影響します。
これらの疑問に適切に対応することで、従業員が内容を正確に理解しやすくなるだけでなく、将来的な規則の解釈に関するトラブルを未然に防ぐことにも繋がります。以下では、就業規則作成時によくある表記上の疑問点と、その解決策について解説します。
数字表記の統一性
就業規則における数字表記は、全角と半角のどちらを使用すべきか、多くの人が悩むポイントです。結論から言えば、どちらか一方に統一して使用するのが望ましいとされています。一般的には、横書きの文書では半角数字が視認性が高く、すっきりと見えるため、半角で統一されるケースが多いです。
例えば、「10日」「10時間」「2024年4月1日」といった日付や時間、人数、金額などは、すべて半角数字で統一します。全角数字と半角数字が混在すると、文書全体に統一感がなくなり、視覚的に読みにくくなるだけでなく、時に誤読の原因となる可能性もあります。特に、金額や日付など、正確性が求められる箇所では、表記の揺れは厳禁です。
表や箇条書きの中で数字を用いる場合も同様に、統一されたルールを適用することが重要です。もし、既に存在する他の社内文書(例:契約書、規定集)で特定の表記ルールが定められている場合は、それに準拠することで、社内文書全体の一貫性を保つことができます。就業規則の作成前に、社内で表記ルールを明確に定めておくことが、後の修正や追加作業の手間を省く上でも有効です。
用語の選択と表現の揺れ
「及び」と「および」、「又は」と「または」のような接続詞の選択も、就業規則作成時のよくある疑問です。これらの用語も、どちらか一方に統一して使用するのが基本原則です。一般的に、法令文書や公式文書では「及び」「又は」といった漢字表記が用いられることが多いですが、読みやすさを重視して「および」「または」といったひらがな表記を採用する企業も増えています。
重要なのは、文書全体で一貫した表記を保つことです。例えば、「第一条及び第二条」と書いた後に「第三条および第四条」と続けてしまうと、読者に違和感を与え、文書の信頼性を損なう可能性があります。また、「従業員」「社員」「職員」といった類似の用語についても、定義を明確にし、いずれか一つに統一して使用することが望ましいでしょう。
専門用語を使用する際は、従業員がその意味を正確に理解できるよう、必要に応じて注釈を加えたり、平易な言葉で言い換えたりする工夫も求められます。例えば、「法定外休日」や「所定労働時間」といった用語は、労働基準法に馴染みのない従業員には分かりにくい場合があります。このような場合は、簡潔な説明を付記することで、理解を助けることができます。
就業規則は、法律の最低基準を下回る規定は無効となるため、法令用語を正しく理解し使用することも不可欠です。しかし、その上で、従業員が日常的に参照する文書として、分かりやすさを追求する姿勢が求められます。
分かりやすさを追求する工夫
就業規則は、単に法律の要件を満たしていれば良いというものではありません。実際に従業員が「読みやすく」「理解しやすい」文書であることが、その実効性を高める上で非常に重要です。作成した就業規則は、労働者に周知しなければならない(掲示、備え付け、書面交付など)とされており、周知の義務を果たすためにも、分かりやすさは不可欠です。
まず、平易な言葉遣いを心がけましょう。法律用語や専門用語を多用しすぎると、従業員は内容を読み解くのに苦労し、結局は就業規則を読まなくなってしまう可能性があります。難しい言葉を使う場合は、カッコ書きで簡単な説明を加えるなどの工夫を凝らします。
次に、段落構成や見出しの工夫です。適切な箇所で改行を入れ、短い段落で構成することで、視覚的に読みやすくなります。また、本記事のように具体的な見出しを多く設定し、箇条書きや番号付きリスト(
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