概要: 2025年4月の法改正に向けて、就業規則と36協定の基本、記載例、違い、そして改正による注意点を分かりやすく解説します。残業時間の上限規制についても具体的に触れ、企業が準備すべきことをまとめました。
【2025年4月改正対応】就業規則と36協定の基本と違いを徹底解説
職場のルールブックである「就業規則」と、残業を適法化するための「36協定」。企業を経営する上で、これら二つの存在は不可欠ですが、その役割や法的な効力、そして具体的な内容は大きく異なります。
特に2025年4月からは、育児・介護休業法をはじめとする複数の法令で改正が施行され、就業規則の見直しや36協定の変更が必要となるケースが増えています。
本記事では、2025年4月施行の法改正に対応できるよう、就業規則と36協定の基本から両者の違い、そして企業が注意すべきポイントを徹底的に解説します。
就業規則と36協定とは?それぞれの役割を理解しよう
就業規則の基本とその重要性
就業規則は、企業における労働時間、賃金、休暇、服務規律など、従業員が職場で働く上での基本的なルールを定めたものです。まさに「職場の憲法」とも言える存在で、労働者と会社間のトラブルを未然に防ぎ、透明性のある職場環境を構築するために不可欠です。
労働基準法第89条により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。これに違反すると罰則の対象となるため、必ず作成・届出を行わなければなりません。
就業規則は、単にルールを明文化するだけでなく、従業員が安心して働ける基盤を提供します。例えば、2025年4月からの育児・介護休業法の改正で、子の看護休暇や所定外労働の制限の対象が拡大されることになりますが、これらを就業規則に明確に記載することで、従業員は安心して制度を利用できるだけでなく、企業も法改正への対応を適切に果たしていることを示すことができます。
労働契約の内容が就業規則の基準に達しない場合は、その部分は無効となり、就業規則の基準が適用されるという効力も持つため、その内容は非常に重要です。</
36協定の基本とその必要性
「36協定」は、正式名称を「時間外・休日労働に関する協定届」といい、労働基準法で定められた法定労働時間(原則として1日8時間、週40時間)を超えて労働者に対し残業や休日労働をさせる場合に、労使間で締結し、労働基準監督署に届け出る必要がある協定です。
この協定がなければ、法定労働時間を超える労働は原則として違法となり、企業は労働基準法違反として罰則の対象となります。そのため、業務上の必要性から時間外労働が発生する可能性がある企業にとって、36協定は必須の書類と言えます。
しかし、36協定はあくまで「時間外労働を適法に行うための免罰効果」を持つものであり、36協定があるからといって、企業が一方的に時間外労働を従業員に命じられるわけではありません。時間外労働を命じるためには、就業規則や労働契約において時間外労働に関する規定が定められている必要があります。
特に、2024年4月1日からは、これまで猶予期間があった建設業、運送業、医師などの一部業種・業務にも時間外労働の上限規制が全面的に適用されるようになったため、これらの業種では36協定の適切な運用と厳格な労働時間管理がより一層重要となっています。
なぜ両者が企業にとって不可欠なのか
就業規則と36協定は、企業が法を遵守し、健全な事業活動を継続するために欠かせない二つの柱です。これらなくして、現代の企業経営は成り立ちません。
就業規則は、職場の秩序を保ち、従業員が安心して働ける環境を整備するための土台となります。労働条件を明確にし、従業員の権利と義務を定めることで、労使間の信頼関係を築き、不要なトラブルを防ぐ役割を果たします。従業員は自分の労働条件や会社のルールを理解し、企業も公平な基準に基づいて運営することができます。
一方、36協定は、業務上の必要に応じて時間外労働や休日労働が発生する際に、それが法的に許容される範囲内であることを担保するための重要な手続きです。これにより、企業は繁忙期などにおいて柔軟な人員配置や労働時間の調整が可能となります。しかし、その運用には厳格な上限規制があり、過重労働による従業員の健康被害を防ぐ重要な役割も担っています。
特に、2025年4月からの育児・介護休業法の改正や、36協定における上限規制の適用拡大など、法改正が頻繁に行われる現代において、これらを適切に更新し、運用することは、企業が法的リスクを回避し、従業員のエンゲージメントを高める上で極めて重要です。</
就業規則と36協定の記載内容と具体例
就業規則に定めるべき主要項目
就業規則には、労働基準法第89条で定められた「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」があります。絶対的必要記載事項は必ず記載しなければならない項目で、主に以下の内容が含まれます。
- 労働時間、休憩時間、休日、休暇に関する事項
- 賃金の決定・計算・支払方法、締切日、支払日、昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
これに加え、育児・介護休業、表彰や制裁、服務規律などに関する事項は「相対的必要記載事項」として、企業で制度を設ける場合に記載が必要です。
例えば、2025年4月からの改正では、以下のような具体的な変更点を就業規則に盛り込む必要があります。
- 「子の看護休暇」の対象を小学校3年生修了前まで拡大し、「子の看護等休暇」に改称
- 「所定外労働の制限(残業免除)」の対象を小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に拡大
- 介護休暇について、勤続6ヶ月未満の労働者を除外できる要件の撤廃
これらの変更は、従業員が仕事と家庭を両立しやすくなる環境を整える上で、企業が明確に示すべき重要なルールとなります。
36協定で明記すべき事項と特別条項
36協定届には、時間外労働をさせる業務の種類、対象となる労働者の数、1日・1ヶ月・1年の延長できる時間、休日労働をさせる日などが具体的に記載されなければなりません。これらの事項は、企業がどの範囲で時間外労働をさせるかを労使間で合意し、明確にするために重要です。
最も重要なのは、時間外労働の上限規制です。原則として、時間外労働は月45時間、年360時間が上限とされています。
しかし、臨時的な特別の事情がある場合には「特別条項」を設けることが可能です。この場合でも、上限は年720時間以内、単月100時間未満、かつ2〜6ヶ月の複数月平均で80時間以内という厳しい規制が適用されます。
具体例として、2024年4月1日から時間外労働の上限規制が適用された運送業(自動車運転者)の場合、以下のような特例が設けられています。
- 1ヶ月の拘束時間は原則293時間
- 労使協定により1年のうち6ヶ月まで月320時間まで延長可能
- 年間総拘束時間は3,516時間以内
これらの具体的な数値や条件を正確に36協定に記載し、労使間で合意することが、法的な遵守と従業員の健康保護のために不可欠です。</
最新の法改正が及ぼす具体的な影響
2025年4月からの法改正は、主に育児・介護休業法の分野で多岐にわたり、就業規則に大きな影響を与えます。
就業規則においては、前述の「子の看護等休暇」や「所定外労働の制限」の対象拡大に加え、以下のような点が反映される必要があります。
- 3歳未満の子を養育する労働者へのテレワーク導入の努力義務化:企業はテレワーク制度の導入を検討し、就業規則に盛り込むことが望まれます。
- 介護に直面した労働者に対する企業からの個別の周知や意向確認の義務付け:介護の申し出があった従業員に対して、企業が積極的に情報提供を行い、支援する体制を整える必要があります。
これらの義務は、単に制度を設けるだけでなく、実際に従業員が利用できるような体制整備まで求められることを意味します。
36協定に関しては、運送業や建設業など、これまで猶予期間があった業種への上限規制の適用が本格化したことを受け、これらの業種では協定内容の厳格な見直しと、実際の労働時間の管理体制の強化が必須となります。企業は、これらの法改正によって従業員の働き方がどう変わるかを具体的に想定し、就業規則や36協定を単なる書面としてではなく、実態に即した「生きたルール」として運用していく必要があります。
意外と知らない?就業規則と36協定の「違い」とは
目的と対象の違い
就業規則と36協定は、ともに労働に関するルールを定めるものですが、その目的と対象には明確な違いがあります。
就業規則の主な目的は、労働時間、賃金、休暇、服務規律など、職場で働く上での基本的な労働条件や秩序を定めることです。これは、企業における労働契約の基準となり、職場全体の公平性と透明性を確保するための広範なルールブックです。対象となるのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場の全労働者であり、企業で働く全ての従業員に適用されます。
一方、36協定の目的は、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合に、それが法的に適法であると認められるための根拠を提供することです。この協定がなければ、法定労働時間を超える労働は原則として違法となります。対象となるのは、時間外労働や休日労働をする可能性のある労働者に限定され、その範囲も36協定で具体的に定める必要があります。
法的効力と役割の違い
両者の法的効力と役割にも大きな違いがあります。
就業規則は、労働契約の内容と異なる場合、就業規則が労働者に有利な場合はその内容が優先されるなど、労働契約に直接的な影響を与える効力を持っています。労働者は就業規則で定められた服務規律や指示命令に従う義務が生じ、企業は就業規則を通じて、従業員に職場のルールを守らせる役割を担います。
対して36協定は、法定労働時間を超える労働を「適法」とするための免罰効果を持つものですが、これ自体が労働者に時間外労働を義務付けたり、規律を守らせたりする効力はありません。時間外労働の命令は、就業規則や労働契約にその旨の定めがある場合に、その定めに従って行われる必要があります。つまり、36協定はあくまで時間外労働を可能にする「許可証」であり、労働者に対する直接的な拘束力は就業規則や労働契約に基づくものです。
義務付けられている企業と運用上の注意点
どちらの文書も企業に義務付けられる場合がありますが、その条件と運用上の注意点が異なります。
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場において、作成し、労働基準監督署長に届け出ることが法律で義務付けられています。作成後も、従業員への周知義務があり、内容を変更する際も意見聴取や届出といった手続きが必要です。法改正に対応するため、定期的な見直しが不可欠です。
36協定は、法定労働時間を超えて労働者に時間外労働や休日労働をさせる場合に限り、労使で協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられます。従業員数が10人未満の企業であっても、時間外労働をさせる場合は36協定が必要です。就業規則とは異なり、36協定は有効期間を定める必要があり、通常は1年間で、毎年更新・届出が必要です。どちらも労働基準監督署への届出義務がある点で共通しますが、その性質と運用の頻度には明確な違いがあることを理解しておくことが重要です。
36協定における「60時間超」や「80時間」の注意点
時間外労働の上限規制の基本
36協定を締結して時間外労働をさせる場合でも、その時間には厳格な上限が設けられています。労働基準法では、原則として時間外労働は月45時間、年360時間が上限とされています。
しかし、臨時的な特別の事情がある場合には、労使で合意の上、「特別条項付き36協定」を締結することで、例外的に上限を超えて時間外労働をさせることが可能です。この特別条項を設けた場合でも、以下の厳しい規制が課せられます。
- 年720時間以内
- 単月100時間未満
- 2ヶ月から6ヶ月の複数月平均で80時間以内
これらの上限を超えて労働させた場合、企業には労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があり、企業の社会的信用を大きく損なうことにもつながります。したがって、上限規制の遵守は企業にとって最重要課題の一つです。
「60時間超」の割増賃金率とリスク
時間外労働が月60時間を超えた場合、その超えた時間に対する割増賃金率は、通常の賃金の50%以上となります(法定の割増賃金率は25%)。
この制度は、もともと大企業には2010年4月1日から適用されていましたが、中小企業においても2023年4月1日からは適用されています。つまり、現在では全ての企業において、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増賃金の支払い義務があります。
例えば、月60時間を超える時間外労働が10時間あった場合、その10時間分の賃金は通常の1.5倍で支払う必要があります。この割増賃金率の引き上げは、企業のコスト増大につながるだけでなく、長時間労働を抑制し、従業員の健康を守るための重要な措置です。
企業は、この制度を正しく理解し、給与計算を適切に行うことはもちろん、月60時間を超える時間外労働が発生しないよう、業務体制の見直しや効率化を進めることが求められます。違反が発覚すれば、未払い賃金の請求や行政指導など、様々なリスクに直面することになります。
「2〜6ヶ月平均80時間以内」と健康確保
特別条項付き36協定で許容される上限の中で、特に注意すべきは「単月100時間未満、かつ2ヶ月から6ヶ月の複数月平均で80時間以内」という規制です。
この「月80時間」という基準は、過労死ラインとして広く知られており、これを超える長時間労働は従業員の心身の健康に重大なリスクをもたらす可能性があります。そのため、企業は単に法律上の上限を守るだけでなく、従業員の健康と安全を最優先に考える必要があります。
労働安全衛生法では、時間外労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積がある労働者から申し出があった場合、企業は医師による面接指導を受けさせる義務があります。これは、過重労働による健康障害を未然に防ぐための重要なセーフティネットです。
企業は、定期的な労働時間管理の徹底、業務量の見直し、有給休暇の取得促進、産業医との連携強化などを通じて、従業員の健康確保に努めるべきでしょう。長時間労働が慢性化している場合は、根本的な原因を特定し、業務改善や人員増強などの対策を講じることが、企業の持続的な成長にも繋がります。
【2025年4月以降】就業規則・36協定改正で注意すべきポイント
育児・介護休業法改正への対応
2025年4月からの育児・介護休業法改正は、従業員の働きやすさ向上や仕事と家庭の両立支援を強化する内容であり、就業規則に多大な影響を与えます。企業は以下の変更点を漏れなく就業規則に反映させ、従業員に周知することが必須です。
- 子の看護休暇の対象拡大:これまで小学校就学前までだった「子の看護休暇」の対象が小学校3年生修了前までに拡大され、名称も「子の看護等休暇」に改称されます。
- 所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大:3歳未満の子を養育する労働者から、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に拡大されます。
- 介護休暇の要件緩和:介護休暇について、週の所定労働日数が2日以下、または勤続6ヶ月未満の労働者を除外できるという規定のうち、勤続6ヶ月未満の労働者を除外する要件が撤廃されます。
- テレワーク導入の努力義務化:3歳未満の子を養育する労働者へのテレワーク導入が努力義務となります。
- 介護に直面した労働者への個別周知・意向確認義務:企業は介護に直面した労働者に対し、個別の周知や意向確認が義務付けられます。
これらの改正は、単に制度を設けるだけでなく、実際に従業員が利用できるような体制整備まで求められることを意味します。
36協定における業種別適用拡大の再確認
2024年4月1日からは、**建設業、運送業、医師**といったこれまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていた業種・業務に対しても、原則として月45時間・年360時間の上限規制が適用されるようになりました。2025年4月時点ではすでに施行済みですが、改めて自社の36協定が最新の法改正に準拠しているかを確認することが重要です。
特に**運送業(自動車運転者)**においては、1ヶ月の拘束時間は原則293時間、労使協定により1年のうち6ヶ月まで月320時間まで延長可能ですが、年間総拘束時間は3,516時間以内という特例上限が設けられています。
これらの業種に該当する企業は、自社の36協定の内容が適切か、特別条項の適用状況に問題がないかを直ちに確認し、必要であれば協定内容を見直す必要があります。単に協定を更新するだけでなく、実際の労働時間管理体制の強化や、ドライバーの休息時間の確保、業務効率化の推進など、実効性のある対策を講じることが不可欠です。違反には罰則が科される可能性もあるため、早急な対応が求められます。
新たな給付金制度の活用と周知
今回の改正では、育児と仕事の両立を支援するための新たな給付金制度も創設され、従業員の福利厚生向上と定着に貢献します。企業はこれらの制度を積極的に従業員に周知し、活用を促すことが重要です。
- 出生後休業支援給付金:子の出生直後に夫婦双方が14日以上の育児休業を取得した場合、最大28日間、育児休業給付と合わせて給付率80%(手取りの10割相当)が支給されます。これは、男性育休の取得を強力に後押しするものです。
- 育児時短就業給付金:2歳未満の子を養育するために短時間勤務を行った場合、時短勤務中の賃金の10%を支給するというものです。
これらの新たな給付金制度は、従業員が育児休業や短時間勤務を取得しやすくするインセンティブとなります。企業は、就業規則にこれらの制度に関する記載を追加したり、社内説明会を開催したりするなど、情報提供を徹底することで、従業員のエンゲージメント向上や優秀な人材の定着につなげることができます。
これらの制度を積極的に活用し、従業員が仕事と家庭を無理なく両立できる環境を整備することが、企業の持続的な成長の鍵となるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 就業規則と36協定は、それぞれどのような目的で作成されますか?
A: 就業規則は、労働時間、賃金、退職など、労働条件や職場のルールを定めたものです。一方、36協定は、法定労働時間を超えて労働させる場合に、労使間で締結する協定であり、残業を可能にするための根拠となります。
Q: 就業規則と36協定の記載内容に違いはありますか?
A: はい、就業規則はより広範な労働条件を規定するのに対し、36協定は残業時間の上限や特別条項の有無など、時間外労働に関する事項に特化しています。36協定の内容は就業規則の労働時間に関する規定と整合性が取れている必要があります。
Q: 36協定で「60時間超」や「80時間」の残業をさせる場合、どのような注意が必要ですか?
A: 36協定で週60時間を超える残業をさせる場合(中小企業は2024年3月31日まで猶予)、年間の総残業時間の上限や、法定の休暇取得義務など、特別な配慮が必要です。80時間超となる場合も同様に、従業員の健康確保のための措置が求められます。
Q: 2025年4月からの改正で、就業規則や36協定にどのような変更が必要ですか?
A: 2025年4月からは、中小企業においても時間外労働の上限規制が原則適用されます。これに伴い、36協定の内容や、就業規則の残業に関する規定を、新しい上限に適合させる必要があります。また、年次有給休暇の取得義務の強化なども影響します。
Q: 就業規則と36協定のどちらか一方だけ作成すれば良いですか?
A: いいえ、両方とも作成・届出が必要です。就業規則は労働基準監督署への届出義務があり、36協定も労働基準監督署への届出が義務付けられています。どちらか一方だけでは、法律上の要件を満たさない可能性があります。