概要: 退職届の書き方には、意外と知られていないルールや迷いがちなポイントが多数存在します。本記事では、退職届の基本から、私事、六曜、連名、誤字、書体、行間、裏面、ローマ字といった細部まで、誰でも迷わず書けるように徹底的に解説します。
退職は人生の大きな節目。新しいステージへ向かう喜びの半面、現在の会社との円満な別れをどうすれば良いか、不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
特に「退職届」は、会社との雇用契約を正式に終了させるための重要な書類です。その書き方一つで、スムーズな退職プロセスにつながるか、あるいは余計なトラブルを引き起こすか、結果が大きく変わることもあります。
この記事では、退職届の基本的なルールから、多くの人が迷いがちな細かいポイントまで、最新かつ正確な情報をもとに徹底的に解説します。これを読めば、自信を持って退職届を提出し、円満な形で次のキャリアへと進むことができるでしょう。
退職届の基本ルール:いつ、誰に、どう渡す?
いつ提出すべき?法律と就業規則のバランス
退職の意思を会社に伝える際、いつ退職届を提出すべきか迷う方は少なくありません。まず知っておきたいのは、法律上の規定と会社の就業規則の2つが存在するという点です。
民法では、雇用期間の定めのない契約の場合、「退職の2週間前までに申し出れば退職が可能」と定められています。これは、会社の就業規則よりも優先される強行法規であり、法的にはこの期間を守れば退職できます。
しかし、多くの企業では、就業規則で退職希望日の1ヶ月〜2ヶ月前までに申し出るよう定めているのが一般的です。円満な退職を目指すのであれば、この就業規則の規定に従うことが強く推奨されます。退職の意思を固めたら、まずは直属の上司に口頭で相談し、承認を得てから正式な退職日を決定し、退職届を提出する流れが望ましいとされています。
場合によっては、3ヶ月前くらいに退職の意思表示をすることで、会社側も後任の確保や引き継ぎ準備をスムーズに進められ、より円満な退職につながるでしょう。法律と就業規則、双方のバランスを考慮し、最もスマートなタイミングを見計らいましょう。
誰に、どこに提出する?適切な提出先を見極める
退職届は、誰に、そしてどこに提出するのが適切なのでしょうか。原則として、あなたの直属の上司に提出するのが基本です。
普段から業務の指示を受けている人物に直接手渡すことで、スムーズに話を進めることができます。もし直属の上司が長期不在であったり、何らかの理由で直接渡せない場合は、その上の上司や人事部、あるいは総務部に提出することになります。
ただし、会社によっては「人事部に直接提出する」など、提出先が明確に指定されている場合がありますので、事前に会社の就業規則や社内規定を確認することが大切です。勝手な判断で提出先を間違えると、手続きが遅れたり、不要なトラブルの原因となったりする可能性もあります。
また、退職届を提出する前に、まずは口頭で上司に退職の意思を伝え、承諾を得てから正式な書類を提出するという手順を踏むことが、社会人としてのマナーであり、円満退職への第一歩です。このプロセスを大切にしましょう。
スマートな渡し方と封筒のマナー
退職届を提出する際は、単に書類を渡すだけでなく、その渡し方や封筒に関するマナーも重要です。まず、退職届は白無地の封筒(郵便番号枠なし)に入れましょう。
封筒の表面中央には「退職届」と縦書きで記載し、裏面の左下にはあなたの所属部署と氏名を記載します。手渡しの場合、封はしなくても構いませんが、フタは折っておくのが丁寧です。郵送する場合は、封をして「〆」マークを書くのが一般的です。
提出のタイミングは、直属の上司に直接手渡しが基本です。周囲に人がいない会議室や人目につかない場所で、改めて退職の意思とこれまでの感謝の言葉を添えて渡すと良いでしょう。感情的にならず、落ち着いた態度で臨むことが大切です。
また、会社によっては「退職願」ではなく「退職届」の提出を求められることもあります。退職願は「退職を願い出る」書類であり、承認される前なら撤回も可能ですが、退職届は「退職を届け出る」書類であり、原則として撤回はできません。この違いを理解した上で、適切な書類を提出するようにしましょう。
迷いがちな退職届の書き方:例文からレイアウトまで
必須項目とテンプレートで失敗しない
退職届を作成するにあたり、記載すべき必須項目は決まっています。これらの項目を漏れなく、かつ正確に記入することが非常に重要です。まず、用紙の一番上には大きく「退職届」と表題を記載します。
本文の書き出しは、通常1行目の下部に「私儀(わたくしぎ)」または「私事」と記載するのが一般的です。続いて、退職理由を記載しますが、自己都合の場合は「一身上の都合により」と簡潔にまとめるのがマナーであり、具体的な理由は詳細に書く必要はありません。
次に、上司と合意した正式な退職日を記入します。これは会社との話し合いで決定した日付である必要があります。そして、書類を提出する日付を記載します。書類の末尾には、あなたの正式な所属部署名と氏名をフルネームで記入し、シャチハタ以外の印鑑で捺印しましょう。
最後に、宛名として会社の正式名称と代表者の役職名、氏名を記載します(例:「〇〇株式会社 代表取締役社長 〇〇〇〇殿」)。これらの項目を順序よく記載することで、形式に沿った退職届が完成します。
「一身上の都合」でOK!退職理由の書き方
退職届において、最も迷いがちなのが「退職理由」の書き方かもしれません。しかし、自己都合による退職の場合、基本的には「一身上の都合により」と記載すれば問題ありません。これは、個人の私的な理由による退職全般を指す包括的な表現であり、具体的な理由(例:給料が安い、人間関係が悪い、新しい仕事が見つかったなど)を詳細に書く必要はありません。
むしろ、詳細を書きすぎると、後で不要な詮索やトラブルに発展する可能性もあるため、避けるべきです。
もし会社都合による退職の場合は、会社から指定された書式に記入するか、あるいは具体的な理由を記載することもありますが、これはあくまで例外的なケースです。多くの従業員の場合、「一身上の都合により」という定型句で十分であることを覚えておきましょう。
退職届は、会社に退職を正式に届け出るための書類であり、あなたの個人的な事情を説明する場ではありません。簡潔かつ明確に、社会人としてのマナーを守って記載することが求められます。
PC作成?手書き?用紙と筆記用具の選び方
退職届を作成する際、手書きかPC作成か、そしてどのような用紙や筆記用具を選ぶべきかという疑問もよく聞かれます。伝統的には手書きがより丁寧とされてきましたが、最近では会社によってはPC作成も認められるケースが増えています。しかし、念のため事前に会社のルールを確認しておくのが賢明です。
もしPC作成が可能であっても、最終的な署名と捺印は手書きで行うのが一般的です。
使用する用紙は、A4またはB5サイズの白い便箋が適切です。罫線があっても構いませんが、シンプルなデザインのものを選びましょう。色付きの紙やキャラクターものなどは避けるべきです。筆記用具は、黒のボールペンまたは万年筆を使用してください。特に注意したいのは、摩擦で消えるボールペン(フリクションペンなど)は絶対に使用しないことです。
重要書類である退職届が、意図せず消えてしまうリスクがあるためです。誤字脱字があった場合は、修正テープや修正液を使わず、新しい用紙に書き直すのが最も確実です。二重線と訂正印での修正も可能ではありますが、トラブル回避のためにも書き直しを推奨します。
退職届にまつわる素朴な疑問:私事、六曜、連名、誤字は?
「私事」と「私儀」どっちが正しい?
退職届の書き出しでよく見かける「私事(わたくしごと)」と「私儀(わたくしぎ)」という表現。どちらを使えば良いのか迷う方もいらっしゃるでしょう。結論から言うと、どちらを使用しても問題はありません。どちらも「私に関する事柄ですが」という意味合いを持つ謙譲語であり、ビジネス文書において個人の都合や事柄を述べる際に用いられます。
ただし、厳密には「私儀」の方がよりかしこまった、丁寧な表現とされています。ビジネスシーンにおける公的な文書として、より格式を重んじるのであれば「私儀」を選ぶのが無難でしょう。もちろん、「私事」を使ったからといってマナー違反になるわけではありませんが、より丁寧な印象を与えたい場合は「私儀」を選ぶのがおすすめです。
いずれにしても、本文の1行目の下部に記載し、全体のバランスを見て配置することが大切です。
六曜(大安など)は気にするべき?連名でもいい?
退職届を提出する日付や、退職日を決める際に「大安」「仏滅」といった六曜を気にするべきか、という疑問を持つ方もいるかもしれません。しかし、退職届はビジネス上の公的な書類であり、個人的な都合や縁起を担ぐ必要はありません。六曜は日本の伝統的な暦注の一つですが、現代のビジネスシーンにおいては考慮に入れるべきものではないと認識されています。
あくまでも、会社との合意や就業規則に基づいて、合理的な日付を記載しましょう。
また、同僚と一緒に退職する場合に「連名で退職届を提出しても良いのか」という質問も稀に聞かれますが、これは絶対に避けましょう。退職届は、個人と会社との雇用契約を終了させるための重要な書類であり、個人の意思を明確に伝えるものです。連名で提出すると、誰の意思表示であるかが曖昧になり、法的な効力にも影響を及しかねません。
必ず一人一枚、個人の退職届を作成し、提出してください。
誤字脱字の対処法と書き直しルール
退職届は重要な書類であるため、誤字脱字は厳禁です。もし誤字脱字をしてしまった場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。最も確実で推奨される方法は、新しい用紙にすべて書き直すことです。
修正テープや修正液の使用は、公的な文書では認められないのが一般的であり、書類の信頼性を損なう行為と見なされます。
しかし、もしどうしても書き直しが難しい場合や、軽微な誤りであれば、二重線で誤った箇所を消し、その上に訂正印を押して、正しい文字を書き加える方法が「可能性としては」あります。ただし、この修正方法が会社に認められるかどうかはケースバイケースであり、事前に人事部などに確認することが不可欠です。無断で修正を行うと、かえって会社側に不信感を与えかねません。
トラブルを避けるためにも、作成時には細心の注意を払い、万が一間違えてしまった場合は、躊躇なく最初から書き直すことを強くおすすめします。
退職届の細部まで!行間、書体、裏面、ローマ字の活用
読みやすいレイアウトのコツ:行間と書体
退職届の本文を美しく、かつ読みやすく仕上げるためには、行間や書体といったレイアウトの細部にまで気を配ることが重要です。手書きの場合は、罫線のある便箋を選ぶことで、文字の大きさを揃えやすくなり、自然と整った印象になります。
行間は詰めすぎず、かといって広すぎず、適度な余白を意識することで、内容が頭に入りやすくなります。一文字一文字を丁寧に書き、全体的に整然とした配置を心がけましょう。
PCで作成する場合、書体(フォント)は明朝体やゴシック体など、ビジネス文書にふさわしい一般的なものを選択しましょう。特殊なデザインフォントや装飾的なフォントは避けるべきです。文字サイズは10.5pt~12pt程度が一般的で、本文と表題、宛名などで適宜サイズを変えてメリハリをつけると良いでしょう。
行間も、Wordなどの文書作成ソフトであれば「行送り」を調整して、視覚的に心地よいバランスに設定してください。最終的には、内容がきちんと伝わること、そして見た目がスマートであることが大切です。
封筒の裏面、氏名表記の注意点
退職届を封筒に入れる際、表面だけでなく裏面の記載にも注意が必要です。封筒の裏面には、左下にあなたの所属部署名と氏名を記載します。これにより、誰からの書類であるかが一目で分かり、会社側が適切な処理を行う上でも重要です。
部署名も氏名も、正式名称を略さずにフルネームで記入しましょう。
例えば、「〇〇部 〇〇課 〇〇〇〇」といった形式です。この際、封筒の表と裏で名前の表記が異なるといった誤字脱字がないか、再度確認する習慣をつけましょう。手渡しの場合、封筒に封をする必要はありませんが、フタの部分は軽く折り畳んでおくのがマナーです。
郵送する場合は、内容物が落ちないようにしっかりと封をして、封じ目に「〆」と書くことを忘れないでください。これらの細かな配慮が、あなたの退職における丁寧な印象を形作ります。
英語やローマ字で書くケースはある?
基本的に、日本国内の企業に提出する退職届は、日本語で記載するのが一般的であり、推奨されています。退職届は法的な効力を持つ重要な文書であるため、明確かつ正確な意思表示が求められるからです。
しかし、稀に外資系企業や国際的な環境の企業で働いている場合、英語やローマ字で退職届の提出が必要になるケースも考えられます。
もし、そのような特殊な状況に置かれた場合は、まずは会社の就業規則や人事部の担当者に、英語での提出が可能か、または指定されたフォーマットがあるかを確認してください。通常は、会社が指定する書式に従うのが最も確実です。もし指定がない場合でも、専門家のアドバイスを仰ぐか、一般的な英文の退職届の例文を参考に、正式なビジネスレターの形式で作成することが重要です。
自己判断で英語表記にするのではなく、必ず会社側の指示を仰ぐようにしましょう。
退職届で差がつく!「雑」な対応にならないための最終チェック
提出前のダブルチェックリスト
退職届は、あなたの会社への最後の公式なメッセージとも言える重要な書類です。提出する前に、以下の項目をダブルチェックし、「雑」な対応と見なされないよう細心の注意を払いましょう。
- 日付の確認: 提出日と退職希望日(会社と合意済みの正式な日付)は正確ですか?
- 氏名・所属の確認: あなたの氏名と所属部署は正式名称でフルネームで記載されていますか?
- 捺印の確認: シャチハタ以外の印鑑で、鮮明に捺印されていますか?
- 宛名の確認: 会社の正式名称と代表者の役職名・氏名は正確ですか?「殿」も忘れずに。
- 退職理由: 自己都合の場合「一身上の都合により」と簡潔に書かれていますか?
- 誤字脱字: 全ての文字に誤りはありませんか?修正箇所はありませんか?
- 用紙・筆記用具: 白いA4/B5用紙、黒のボールペン/万年筆を使用していますか?
- 封筒: 白無地で「退職届」と正しく記載されていますか?裏面の氏名も忘れずに。
これらの項目を一つずつ丁寧に確認することで、不備のない完璧な退職届を提出できます。
退職願との違いを理解する重要性
退職届を提出するにあたり、最も重要なのが「退職願」との違いを正しく理解することです。
項目 | 退職願 | 退職届 |
---|---|---|
目的 | 退職の意思表示、会社への願い出 | 退職の確定を届け出る |
法的性質 | 合意解約の申し入れ | 一方的な意思表示(撤回不可が原則) |
撤回可否 | 会社が承認する前であれば撤回可能 | 原則として撤回できない |
提出時期 | 退職を希望する段階 | 退職が合意・確定した後 |
このように、両者は性質が大きく異なります。退職願は、会社側が「願い」を受け入れるかどうかの意思決定を伴いますが、退職届は退職が確定した後に「届け出る」一方的な意思表示です。一度退職届を提出してしまうと、原則として撤回はできません。そのため、退職の意思が固まっていない段階で安易に退職届を提出しないよう注意が必要です。また、役員や公務員が職を辞する際に用いる「辞表」は、会社員には基本的に無関係です。
円満退職のためのプラスαの配慮
退職届の提出は手続きの一部に過ぎません。円満な退職を実現するためには、書類以外の部分でもプラスαの配慮をすることが大切です。最も重要なのは、退職の意思を固めたら、まずは直属の上司に口頭で相談することです。
これにより、上司は心の準備ができ、後任の選定や引き継ぎ計画の立案に着手しやすくなります。
口頭での相談なく、いきなり退職届を突きつけるような行為は、上司や会社に不信感を与え、円満退職から遠ざかる可能性が高いでしょう。また、退職日までの間は、業務の引き継ぎを責任をもって丁寧に行うことも重要です。後任者がスムーズに業務に移行できるよう、資料作成や説明に努めましょう。
そして、退職の際には、これまでの感謝の気持ちを伝える言葉を添えることで、良好な人間関係を維持したまま次のステップに進むことができます。あなたの未来のキャリアにおいても、退職時の振る舞いは意外なところで影響を与えるものです。最後までプロフェッショナルな対応を心がけましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 退職届はいつまでに提出するのが一般的ですか?
A: 一般的には、就業規則で定められた期間(例:1ヶ月前、2週間前)までに提出します。不明な場合は、直属の上司や人事担当者に確認しましょう。
Q: 退職届の「私事」とは具体的にどのような意味ですか?
A: 「私事」とは、個人的な都合による退職であることを示す言葉です。会社都合ではなく、自分の意思で退職する場合に使用します。
Q: 退職届に「六曜」は記載する必要はありますか?
A: いいえ、退職届に六曜を記載する必要は全くありません。単なる個人的な迷信であり、ビジネス文書としては不要です。
Q: 退職届の連名や裏面、ローマ字表記は必要ですか?
A: 連名での提出は一般的ではありません。裏面も基本的には記載不要ですが、会社によっては指定がある場合もあります。ローマ字表記も同様に、特別な理由がない限り不要です。
Q: 退職届で「雑」な印象を与えないためにはどうすれば良いですか?
A: 丁寧な言葉遣いを心がけ、誤字脱字がないか、レイアウトや行間が整っているかなど、細部まで確認することが大切です。手書きの場合は、崩しすぎない行書体などがおすすめです。