退職届の基本フォーマットとは?

退職届は、あなたが会社を辞めるという意思を正式に伝えるための重要な書類です。退職願とは異なり、一度提出し受理されると原則として撤回できないため、その作成には細心の注意を払う必要があります。

ここでは、退職届を作成する上での基本的なフォーマットと、それぞれの項目に何を書くべきかを具体的に解説します。

用紙・筆記用具の選び方

退職届に使用する用紙は、白無地の便箋(B5またはA4サイズ)が一般的です。ビジネスシーンでの利用にふさわしい、シンプルなデザインを選びましょう。罫線が入っていても問題ありませんが、派手なものは避けるべきです。会社によってはA4サイズを推奨している場合もあるため、迷ったらA4を選ぶと良いでしょう。

筆記用具は、黒のボールペンまたは万年筆を使用してください。インクが消えるタイプのボールペンや鉛筆は、書類の信頼性を損なう可能性があるため、絶対に使用しないでください。正式な書類は、時間の経過で内容が変わらないことが重要です。丁寧に、かつはっきりと文字が書ける筆記用具を選びましょう。

これらの選択は、書類の見た目だけでなく、あなたの退職に対する真摯な姿勢を示すことにも繋がります。細部にまで気を配ることで、円満退職に向けた第一歩を踏み出せるでしょう。

書式と基本的な記載事項

退職届の書式は縦書きが一般的ですが、横書きでも法的な問題はありません。ただし、手書きで作成する場合は、より丁寧な印象を与える縦書きが推奨されます。一般的な退職届の記載事項は以下の通りです。

  • タイトル: 用紙の中央よりやや上に「退職届」と記載します。
  • 書き出し: 右下に「私儀」(わたくしぎ)と記載し、本文に入ります。これは「私事ではございますが」という意味の謙譲語です。
  • 退職理由: 自己都合退職の場合は「一身上の都合により」と記載します。詳細な理由を書類に書く必要はありません。口頭で説明すれば十分です。
  • 退職日: 会社と合意した確定した退職日を記載します。
  • 日付: 退職届を提出する日付を記載します。
  • 所属・氏名: 所属部署名とご自身の氏名を記載し、その横に捺印します。シャチハタではなく、朱肉を使う認印や実印を使用しましょう。
  • 宛名: 会社の代表者名(役職名も含む)を記載します。例:「株式会社〇〇 代表取締役社長 △△ △△様」といった形です。

これらの項目を漏れなく、正確に記載することが非常に重要です。特に日付や氏名、捺印の忘れがないか、提出前にしっかり確認しましょう。

退職理由の書き方と注意点

退職届における退職理由は、自己都合と会社都合で書き方が大きく異なります。一般的に、自己都合退職の場合は、詳細な理由を記載する必要はありません。ほとんどの場合、「一身上の都合により」と記載するだけで十分です。

これは、個人のプライベートな事情が退職理由である場合が多いため、書類上で細かく説明する必要がないというビジネスマナーに基づいています。もし、上司や人事から口頭で理由を尋ねられた場合には、差し支えない範囲で具体的に説明すれば問題ありません。

一方で、会社都合退職の場合には注意が必要です。例えば、会社の倒産、リストラ、退職勧奨など、会社側の都合で退職する場合は、具体的な理由を記載する必要があります。例として、「貴社、退職勧奨に伴い」といった記載が考えられます。

会社都合退職であることを明確に記載しないと、失業手当の給付期間や金額、あるいは国民健康保険料の軽減などに影響が出る可能性があります。ご自身の退職理由が会社都合である場合は、必ず具体的な内容を記載し、不利にならないようにしましょう。

Word・Excel・PDFで作成する場合の注意点

現代では、退職届をパソコンで作成し、印刷して提出することが一般的になりました。WordやPDF形式のテンプレートがインターネット上に多数公開されており、これらを活用することで、手軽にプロフェッショナルな退職届を作成できます。

しかし、PCで作成する場合でも、いくつかの注意点があります。ここでは、テンプレートの選び方から印刷時の確認事項までを解説します。

テンプレート活用のメリットと選び方

WordやPDFのテンプレートを利用する最大のメリットは、時間と手間を大幅に削減できる点です。一から書式を整える必要がなく、必要な情報を入力するだけで、ビジネス文書としての体裁が整った退職届が完成します。また、誤字脱字の修正も容易で、手書きよりも美しい仕上がりを期待できるでしょう。

テンプレートを選ぶ際は、以下のポイントに注目してください。

  • 信頼性: 法務関係のWebサイトや、大手転職サイトなどが提供しているテンプレートは信頼性が高いです。
  • 最新情報: 法改正や社会情勢の変化に対応しているか確認しましょう。
  • シンプルさ: 複雑な装飾がなく、ビジネス文書としてふさわしいシンプルなデザインを選びましょう。縦書き・横書き、A4・B5サイズなど、様々なフォーマットがあるため、ご自身の状況に合わせて選択してください。

テンプレートをダウンロードしたら、まずは内容をよく確認し、ご自身の状況に合わせて文面を調整することが重要です。特に、退職理由や退職日などの個人情報は、必ず正確に記載してください。

PC作成でも守るべきマナー

PCで退職届を作成する場合でも、手書きの場合と同様の丁寧さとマナーが求められます。単に文字を打ち込めば良いというわけではありません。以下の点に注意し、書類としての品格を保ちましょう。

  • フォント: 明朝体やゴシック体など、ビジネス文書として一般的なフォントを選びましょう。特殊なフォントや装飾的なフォントは避けてください。
  • 文字サイズ: 本文は10.5pt~12pt程度が読みやすいでしょう。タイトルは本文よりやや大きく設定し、視認性を高めます。
  • 余白: 上下左右に適切な余白を確保し、全体としてバランスの取れたレイアウトを心がけましょう。余白が少なすぎると窮屈な印象を与えてしまいます。
  • インデント: 書き出しの「私儀」や本文の段落分けには、適切なインデント(字下げ)を設定し、読みやすさに配慮しましょう。

これらの細かな配慮が、PC作成の退職届にも誠実な印象を与えます。提出する前に、一度プリントアウトして全体的なバランスを確認することをおすすめします。

印刷時のチェックポイント

PCで作成した退職届も、最終的には印刷して提出することになります。印刷する際には、以下の点を必ず確認し、不備のない状態で提出できるようにしましょう。

  • 用紙の品質: 白無地のきれいなコピー用紙を使用してください。使い古した用紙や、裏面に別の印刷がされている用紙は避けるべきです。
  • 印刷の品質: インクがかすれていないか、文字がぼやけていないかを確認しましょう。プリンターのインク残量が少ない場合は、補充してから印刷してください。
  • 誤字脱字の最終確認: 印刷前に必ず最終的な誤字脱字チェックを行いましょう。Wordなどの校正機能だけでなく、ご自身の目で隅々まで確認することが重要です。特に、日付、氏名、会社名、役職名などは念入りに確認してください。
  • 捺印忘れ: 印刷後、署名欄にご自身の氏名を記入し、必ず捺印してください。PCで作成する場合でも、印鑑は実物を使用することが求められます。

複数枚印刷しておくと、万が一書き損じや捺印ミスがあっても、すぐに新しいものに差し替えられるため安心です。完璧な状態で提出できるよう、最後の確認を怠らないようにしましょう。

手書きで退職届を作成する際のポイント

「手書きの退職届は誠意が伝わりやすい」という意見も根強く、特に中小企業や伝統的な企業文化を持つ会社では、手書きが好まれるケースもあります。PC作成が主流の現代において、あえて手書きを選ぶことで、より丁寧な印象を与えることができるでしょう。

ここでは、手書きで退職届を作成する際の具体的なポイントを解説します。

手書きならではの誠意の伝え方

手書きの退職届は、作成に手間と時間がかかる分、受け取る側に対してあなたの退職に対する真剣な姿勢や誠意をより強く伝えることができます。これは、特に直属の上司や人事が、社員一人ひとりのことを大切に考えている会社において、プラスに作用する可能性が高いでしょう。

しかし、単に手書きであれば良いというわけではありません。文字が乱れていたり、誤字脱字が多かったりすると、かえってネガティブな印象を与えてしまうこともあります。手書きで誠意を伝えるためには、丁寧で読みやすい文字で、心を込めて書くことが最も重要です。

もしあなたの会社が、ビジネス文書は全てPC作成が基本という文化であれば、手書きに固執する必要はありません。会社の文化や慣習を考慮し、最も適切な方法を選択することが賢明です。手書きを選ぶ場合は、その手間を惜しまない「誠意」を表現できるよう努めましょう。

書式と書き方の基本ルール

手書きで退職届を作成する場合も、基本的な書式や記載事項はPC作成の場合と全く同じです。白無地の便箋(B5またはA4サイズ)を使用し、黒のボールペンまたは万年筆で丁寧に記入します。縦書きがより丁寧な印象を与えるため、手書きの場合は縦書きを選択すると良いでしょう。

各項目を記載する際のポイントは以下の通りです。

  • タイトル「退職届」: 便箋の中央よりやや上の位置に、少し大きめの文字で丁寧に書きます。
  • 「私儀」: タイトルから一段下がった右端に書きます。
  • 本文: 「一身上の都合により」などの退職理由、確定した退職日、提出日を続けます。文字の大きさや行間が均一になるよう、定規などで薄く線を引いてから書くと、より美しく仕上がります。
  • 氏名と捺印: ご自身の氏名を記入した後、氏名の右横に丁寧に捺印します。印鑑が傾いたり、かすれたりしないよう注意しましょう。
  • 宛名: 会社の代表者名を役職名を含めて正確に記載します。

一度書いてしまうと修正が難しい手書きだからこそ、下書きをしたり、別の用紙で練習したりするなどの準備をしてから、本番に臨むことをおすすめします。

誤字脱字への対処法

手書きの退職届で最も避けたいのが、誤字脱字です。一度書いてしまった誤字脱字を修正液や修正テープで直すのは、正式なビジネス文書としてはマナー違反とされています。修正した箇所がある書類は、受け取る側に不信感や不注意な印象を与えかねません。

もし誤字脱字をしてしまった場合は、潔く新しい便箋に最初から書き直すのが原則です。面倒に感じるかもしれませんが、完璧な状態の書類を提出することで、あなたの誠実さが伝わります。

書き損じを避けるための対策として、以下のことを実践してみてください。

  • 下書きをする: まずは鉛筆で薄く下書きをしてから、その上をボールペンでなぞると良いでしょう。書き終わったら、きれいに消しゴムで消し去ります。
  • 練習する: 本番の前に、別の紙で何度か練習し、文字のバランスや配置を確認しましょう。
  • 集中して書く: 途中で集中力が途切れないよう、静かな環境で、時間に余裕を持って作成しましょう。

完璧な退職届を作成するための手間を惜しまないことが、円満退職への大切なステップとなります。

会社指定のフォーマットがある場合の対応

退職届の作成にあたっては、まず会社の就業規則を確認することが非常に重要です。会社によっては、独自のフォーマットや提出方法が定められている場合があります。これらを見落としてしまうと、円滑な退職手続きを妨げる原因となることもあります。

ここでは、会社指定のフォーマットがある場合の対応方法と、指定がない場合の賢い選択について解説します。

就業規則の確認の重要性

退職届を提出する前に、必ず会社の就業規則を確認しましょう。就業規則には、退職に関する規定が明記されており、退職届の提出期限や提出方法、指定のフォーマットの有無などが記載されていることが一般的です。

例えば、「退職希望日の1ヶ月前までに退職届を提出すること」という規定がある場合、この期限を過ぎてしまうと、会社側があなたの退職希望日を受け入れられない可能性があります。また、会社によっては、所定の用紙に記入するよう指示している場合もあります。

就業規則は、社内の規定が記載された重要な文書であり、従業員はそれに従う義務があります。もし就業規則の所在が分からない場合は、人事部や上司に問い合わせて確認するようにしましょう。就業規則を確認することは、円満退職に向けた最初の、そして最も重要なステップです。

確認を怠ると、退職手続きがスムーズに進まないだけでなく、場合によってはトラブルに発展する可能性もあるため、十分注意してください。

指定フォーマット提出時の注意点

もし会社に指定の退職届フォーマットがある場合は、必ずそのフォーマットを使用し、会社の指示に従って記入・提出してください。自己流のフォーマットで提出すると、会社側が再提出を求める可能性があり、手続きが二度手間になったり、スムーズな引き継ぎに支障が出たりすることがあります。

指定フォーマットを使用する際の注意点は以下の通りです。

  • 記入漏れがないか確認: フォーマットの全ての項目を正確に記入しましょう。特に、退職日や氏名、捺印欄は忘れずに。
  • 指示厳守: 記入方法や提出先(人事部、直属の上司など)について、会社から特別な指示があれば、それに厳格に従いましょう。
  • 原本提出: コピーではなく、必ず原本を提出してください。
  • 不明点の確認: フォーマットの記入方法や内容で不明な点があれば、自己判断せず、人事部や上司に確認しましょう。

会社指定のフォーマットは、退職手続きを円滑に進めるためのものであり、それに従うことで、あなた自身の退職もスムーズになります。会社のルールを尊重し、正確に対応しましょう。

指定がない場合の賢い選択

会社の就業規則を確認しても、特に指定のフォーマットや提出方法が明記されていない場合もあります。そのような場合は、一般的なビジネスマナーに則った退職届を作成することになります。

この場合、PCで作成するWordやPDFのテンプレートを活用するか、手書きで作成するかの選択肢があります。

  • PC作成: 迅速かつきれいに作成したい場合は、インターネット上で公開されている信頼性の高いWordまたはPDFのテンプレートを利用するのがおすすめです。ビジネス文書として体裁が整っており、誤字脱字の修正も容易です。
  • 手書き: より丁寧さや誠意を伝えたい場合は、手書きも良い選択肢です。特に、中小企業や伝統的な企業文化を持つ会社では、手書きが好意的に受け止められることもあります。ただし、誤字脱字なく丁寧に書くことが大前提です。

どちらの形式を選ぶにしても、この記事で解説した基本的なフォーマット(用紙、筆記用具、記載事項、封筒の書き方など)を遵守することが重要です。ご自身の状況や会社の雰囲気、そしてあなたが伝えたい印象を考慮して、最適な選択をしてください。

退職届作成でよくある疑問を解決!

退職届の作成は、人生における大きな節目の一つであり、多くの人が不安や疑問を抱くものです。ここでは、退職届に関するよくある疑問とその解決策をまとめました。これらの情報を参考に、安心して退職届を提出しましょう。

提出期限とタイミング

退職届の提出期限は、会社の就業規則に明確に定められている場合がほとんどです。多くの場合、「退職希望日の1ヶ月前まで」と規定されていますが、会社によっては2週間前や2ヶ月前など異なることもあります。必ずご自身の会社の就業規則を確認し、それに従いましょう。

提出のタイミングとしては、直属の上司に退職の意向を伝えた後、上司と相談して退職日が確定してからが適切です。意向を伝える前に退職届を一方的に提出すると、トラブルの原因になる可能性があります。まずは口頭で相談し、会社の承認を得てから正式な書類を提出する流れがスムーズです。

法律上は2週間前までに申し出れば退職できますが、円満退職のためには、会社の規定に従い、引き継ぎ期間などを考慮した余裕のあるタイミングで提出することが重要です。早めに意思を伝え、計画的に手続きを進めましょう。

封筒の書き方と入れ方

退職届は、裸のまま提出するのではなく、封筒に入れて提出するのがマナーです。封筒の書き方と、退職届の入れ方にも決まりがあります。

まず、封筒は白無地の封筒(郵便番号枠なし)を使用します。退職届がA4サイズであれば長形3号、B5サイズであれば長形4号が適しています。

次に、封筒の書き方です。

  • 表面: 封筒の中央より少し上に、大きめの文字で「退職届」と記載します。
  • 裏面: 封筒の左下に、ご自身の所属部署名と氏名を記載します。

最後に、退職届の封入方法です。便箋は三つ折りにし、封筒の裏面(氏名が書いてある側)から、便箋の右上端が封筒の入口側に来るように入れます。これは、受け取った人が封筒から取り出した際に、すぐに「退職届」のタイトルが目に入るようにするためです。封を閉じる場合は、封筒の口に「〆」マークを書きます。のり付けは必須ではありませんが、より丁寧な印象を与えます。

提出後の撤回は可能か?

退職届は、会社に提出し受理されると、原則として撤回することはできません。これは、退職届が「退職の意思表示」であり、その意思表示が相手方に到達し、効力が発生するためです。一度成立した契約は、原則として一方的に破棄できないという法的な考えに基づいています。

しかし、全く撤回できないわけではありません。会社側との合意が得られれば、例外的に撤回が認められるケースもあります。例えば、家庭の事情が急変した、別の転職先の内定が取り消された、会社から強く慰留された、などの状況で、会社が退職を撤回することに同意すれば、退職を回避できる可能性はあります。

ただし、これはあくまで会社側の温情によるものであり、権利として主張できるものではないことを理解しておくべきです。したがって、退職届を提出する際は、ご自身の退職意思が固く、後悔がないか最終確認をすることが何よりも重要です。安易な気持ちで提出することなく、十分に熟慮してから行動に移しましょう。