BNOパスポートとは? 基本情報と歴史的背景

BNO(British National Overseas)パスポートは、香港が1997年に中国に返還される前の歴史的な背景を持つ特別な渡航文書です。イギリス政府が、香港の主権移譲に際して、希望する香港住民に提供したもので、そのステータスは現代においても多くの人々の人生に影響を与え続けています。

BNOパスポートの誕生と目的

BNOパスポートは、1997年6月30日以前に香港がイギリスから中国へ返還されるにあたり、将来に不安を感じる香港住民のために英国政府が発行を開始した身分証明書兼渡航文書です。これは、香港の主権がイギリスから中国へ移管される際に、イギリスとの特別な関係を維持したいと願う人々に向けた措置として位置づけられました。

当初、BNOステータスを持つ者は、自動的にイギリス市民権や永住権を得ることはできませんでした。しかし、イギリスへの渡航時にはビザなしで最大6ヶ月間滞在できる資格があり、ある程度の自由な移動が保証されていました。このパスポートは、返還後の香港住民が、一定の期間、英国と繋がる身分を示す重要な手段となり、その後の人生設計において大きな意味を持つことになります。

しかし、就労や長期滞在には別途ビザが必要となるため、完全にイギリス市民と同等の権利が得られるわけではありませんでした。あくまでも、香港の未来が不透明な中で、住民が安心感を得るための一時的な措置としての側面が強かったと言えるでしょう。

BNOステータスの特徴と継承

BNOステータスの最も重要な特徴の一つは、その発行対象が1997年6月30日以前にBNOステータスとして登録された香港の住民に限定されている点です。この日付以降に生まれた香港人は、たとえBNOパスポートを持つ親から生まれたとしても、新たにBNOステータスを取得することはできません。さらに、BNOステータスは親から子へと自動的に継承されるものではなく、一度失効した後に再取得することはできません。

ただし、既にBNOステータスを保有している場合、期限切れのBNOパスポートであっても更新して維持し続けることが可能です。これは、一度取得したBNOステータスが、その人の生涯にわたって有効であることを意味します。そのため、もし過去にBNOパスポートを所持していた経験がある場合、失効していてもそのステータスは生きている可能性が高く、更新手続きを行うことで再び有効なパスポートを手にすることができます。

この継承不可の原則は、BNOが特定の歴史的背景を持つ世代に限定されたものであることを明確に示しており、現代の香港の若年層がこのパスポートの恩恵を直接受けることが難しい理由となっています。

BNOビザ制度(「5+1」ルート)の登場

BNOパスポートの歴史的意義は、2020年1月31日以降にイギリス政府が導入したBNOビザ制度(通称「5+1」ルート)によって大きく変化しました。この制度は、BNOステータスを持つ香港人およびその扶養家族に対し、イギリスでの長期滞在や最終的な市民権取得を可能にする画期的なものです。

申請資格は、18歳以上で有効なBNOステータスを持つ者、またはその扶養家族に与えられ、モバイルアプリからの申請も可能になるなど、申請の利便性も考慮されています。このビザ制度を利用することで、申請者はイギリスに5年間適法に滞在することができ、その後に永住権(ILR)を申請する資格を得ます。さらに、永住権取得後1年が経過すると、イギリス国籍の登録が可能となり、最終的にはイギリス市民となる道が開かれます。

制度開始から2021年末時点で、約98,000件のビザが海外申請者に対して許可され、約104,000件が申請されたというデータからも、この制度への関心の高さが伺えます。専門業者によると、今後1年以内に約20万人がこの特別ビザを申し込むと見られており、多くの香港人にとってイギリスへの新たな生活の道が開かれました。申請料金以外にも移住には多額の費用がかかる可能性があるため、事前の計画が非常に重要です。

【年代別】97年以前生まれ・60〜80年代生まれのBNO取得条件

BNOパスポートは、特定の歴史的背景を持つ香港住民に限定されたものであり、その取得条件は「いつ生まれたか」よりも「いつBNOステータスに登録されたか」に重点が置かれています。しかし、結果として特定の年代の人々が資格を持つ傾向にあります。ここでは、主に1997年以前に生まれた方々、特に60〜80年代に生まれた方のBNO取得条件について詳しく解説します。

1997年6月30日以前生まれのBNO取得条件

BNOパスポートの取得資格は、1997年6月30日までにBNOステータスとして登録された香港の住民であることにあります。この条件を満たしていれば、現在有効なBNOパスポートを持っていなくても、そのステータスは保持されており、パスポートの更新申請を行うことができます。

この「1997年6月30日以前」という基準は、香港がイギリスから中国に返還された時期と密接に関わっています。そのため、この時期以前に生まれた香港人の多くは、当時の状況下でBNOステータスに登録する機会があったため、結果としてBNOパスポートを申請・所持できる資格を持っていると考えられます。

たとえ長年BNOパスポートの更新をしていなかったとしても、一度登録されていればそのステータスは生涯有効です。したがって、もしご自身が1997年以前生まれで、かつてBNOステータスに登録された記憶がある場合、再度申請を試みる価値は十分にあります。

60〜80年代生まれのBNOパスポート資格

1960年代から1980年代にかけて香港で生まれた人々は、まさに香港の主権移譲を経験した世代であり、BNOパスポートの主要な対象者と言えます。この年代に生まれた香港人の多くは、1997年6月30日までにBNOステータスとして登録する機会があり、実際に登録を済ませていたケースが多いとされています。

そのため、ご自身が60〜80年代生まれで、かつてのBNOステータス登録条件を満たしていれば、BNOパスポートを申請または更新して所持することが可能です。この世代は、香港の比較的安定した経済成長期に育ち、返還前の混乱と返還後の変化を直接経験しているため、BNOパスポートの存在が精神的な安心感や、万一の際の選択肢として重要視されてきました。

特に、BNOビザ制度の導入以降、この世代の多くがイギリスへの移住を検討するきっかけとなっており、BNOパスポートが持つ価値は再認識されています。若年層が新たにBNOステータスを取得できない中で、この年代の資格保有者は、改めてその重要性を理解し、更新手続きを検討することが推奨されます。

未登録者のBNOステータス確認方法

「自分はBNOパスポートを持っていた記憶がない、あるいはステータスがあるかどうかわからない」という方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。BNOパスポートの申請には、必ずしも過去または現在のBNOパスポートの提出が必須ではありません。

イギリス内務省(Home Office)は、申請者のBNOステータスを独自のデータベースで確認する能力を持っています。これは、過去の登録記録やその他の関連情報を参照して、その人がBNOステータスを保有しているかどうかを判断することを意味します。

したがって、もしご自身がBNOステータスを保有している可能性があると感じる場合は、まずはイギリス政府の公式ウェブサイトを通じてオンライン申請を開始してみることをお勧めします。申請プロセスの中で、必要に応じて内務省がステータスの確認を行い、結果が通知されることになります。不明な点があれば、公式ウェブサイトのガイドラインを参照するか、専門の移民コンサルタントに相談することも有効な手段です。

BNO申請に必要な書類:卒業証明書や出生証明書について

BNOパスポートの申請は、オンラインで行うことができ、英国政府の公式ウェブサイトが主な窓口となります。申請プロセスでは、本人確認、居住歴、そして過去のBNOステータスを証明するための様々な書類が求められます。ここでは、卒業証明書や出生証明書を含む、主要な必要書類について詳しく見ていきましょう。

BNOパスポート申請の基本要件

BNOパスポートの申請を始める上で、最も基本的な要件は、申請者が1997年6月30日以前にBNOステータスとして登録された香港住民であることです。このステータスを証明するために、多くの場合、過去に発行されたBNOパスポートの提出が求められます。しかし、先述の通り、パスポートが手元にない場合でも、英国内務省が内部の記録でステータスを確認することが可能です。

申請の際は、有効な香港IDカードや、現在の居住地を証明する書類も必須となります。これらの書類は、申請者が本人であることを確認し、過去または現在の香港との繋がりを示すために重要です。オンライン申請が主流であるため、これらの書類をスキャンしてアップロードする準備が必要となります。

英国内務省のウェブサイトには、必要な書類のリストと、それぞれの書類に求められる条件(例:有効期限、言語など)が詳細に記載されていますので、申請前に必ず確認することが大切です。

本人確認と居住歴を証明する書類

BNOパスポート申請において、本人確認と香港での居住歴を証明する書類は非常に重要です。これには以下のようなものが含まれます。

  • 出生証明書: 申請者の氏名、生年月日、出生地を証明する基本中の基本となる書類です。
  • 結婚証明書: 既婚者の場合、配偶者との関係を証明するために必要となることがあります。
  • 旧パスポート: 過去に所持していたBNOパスポートはもちろん、その他の国籍のパスポートも本人確認に役立ちます。
  • 香港IDカード: 香港の住民であることを示す最も直接的な書類です。
  • 過去の香港居住を示す書類: 住民票、公共料金の請求書、銀行の取引明細書など、香港での居住歴を証明できるものが有効です。

また、卒業証明書や学校の成績証明書は、香港での教育歴を通じて居住歴を間接的に証明する際に役立つ場合があります。特に、若い頃に香港で教育を受けたことを示す証拠として提出を求められることがあります。全ての書類は英語または公式な翻訳が求められる場合があるため、準備には十分な時間を確保しましょう。

写真とその他補足書類

BNOパスポートの申請には、デジタル写真も必須です。この写真は、イギリス政府が定める最新のパスポート写真規定に厳密に沿っている必要があります。具体的には、背景の色、顔の向き、表情、眼鏡の有無などが細かく指定されています。不備があると申請が遅延する原因となるため、専門の写真スタジオで撮影するか、規定をよく読んで自分で撮影する際は細心の注意を払いましょう。

その他にも、オンライン申請時には署名サンプルが必要となり、これは電子的に提供されることがほとんどです。場合によっては、英国内務省から追加で特定の書類の提出を求められることもあります。例えば、申請者の現在の職業を証明する書類や、扶養家族がいる場合の家族関係を証明する書類などです。

申請費用も発生しますので、支払い方法や料金についても事前に確認しておくことが重要です。不明な点や、準備に不安を感じる場合は、公式ウェブサイトのQ&Aを確認したり、専門の移民コンサルタントに相談したりすることをおすすめします。

BNO取得のメリット・デメリットと注意点

BNOパスポートを保有することは、特に2020年のBNOビザ制度導入以降、その価値が大きく高まりました。しかし、全てのパスポートや身分証明書と同様に、メリットだけでなくデメリットや留意すべき点も存在します。ここでは、BNOパスポートを持つことの利点と、それに伴う潜在的な課題について詳しく見ていきましょう。

BNOパスポート保持のメリット

BNOパスポートを保有する最大のメリットは、何といってもイギリスへの入国が比較的容易であることです。BNOパスポートがあれば、ビザなしで最大6ヶ月間イギリスに滞在できるため、短期的な訪問や観光、ビジネス目的での渡航がスムーズに行えます。

しかし、BNOの価値を飛躍的に高めたのは、2020年に導入されたBNOビザ制度(「5+1」ルート)です。この制度により、BNOパスポート保持者は、扶養家族とともにイギリスでの長期滞在や、最終的にはイギリス市民権の取得を目指す道が開かれました。これにより、イギリスの質の高い教育、充実した医療、そして安定した社会保障制度を利用できる可能性が生まれます。

参考情報にあるように、制度開始から2021年末までに約98,000件のビザが許可され、さらに多くの申請が見込まれていることからも、多くの香港人がこのメリットを享受し、イギリスへの移住を選択していることが伺えます。

BNOパスポート取得のデメリットと費用

BNOパスポートの取得、そしてBNOビザ制度を利用したイギリスへの移住には、いくつかのデメリットや経済的負担が伴います。まず、パスポート自体の申請費用が発生します。さらに、BNOビザを申請する場合には、申請費用が高額になることに加え、イギリスの国民健康サービス(NHS)を利用するための「移民健康負担金(Immigration Health Surcharge: IHS)」の支払いも義務付けられます。

イギリスへ移住するとなると、航空券代、引っ越し費用、そしてイギリスでの生活費や居住費も考慮に入れる必要があります。特にロンドンなどの都市部では家賃が高額であるため、移住計画の際にはこれらの経済的負担を十分に計算しておく必要があります。経済的な準備なしに移住を決断することは、後に大きな困難を招く可能性があります。

また、中国政府がBNOパスポートを巡る対応について、2021年1月31日以降、有効な渡航書類および身分証明書として認めない方針を示している点も、利用上のデメリットとして挙げられます。

中国政府の対応と今後の注意点

BNOパスポートの利用にあたり、最も注意すべき点の一つが、中国政府の対応です。2021年1月31日以降、中国政府はBNOパスポートを有効な渡航書類および身分証明書として認めない方針を表明しました。これにより、BNOパスポートを所持して香港と中国本土間を移動する際に、混乱や不便が生じる可能性があります。

具体的には、香港国際空港などでBNOパスポートを使用して出入国しようとすると、問題が発生するケースが報告されています。中国政府は、香港住民に対しては香港特別行政区のパスポートやIDカードを使用することを求めており、BNOパスポートは「二重国籍」と見なされることを避ける意図があるとされています。

したがって、BNOパスポートを保有している方は、香港や中国本土への渡航を計画する際には、自身のパスポートやIDカードの選択について細心の注意を払う必要があります。最新の情報は常に変動する可能性があるため、イギリス政府や香港政府の公式発表、そして信頼できるニュースソースを通じて、状況を定期的に確認することが極めて重要です。

BNO申請手続きの流れとよくある質問

BNOパスポートの申請手続きは、英国政府の公式ウェブサイトを通じてオンラインで行うのが一般的です。複雑に感じるかもしれませんが、段階を踏んで進めれば問題なく完了できます。ここでは、申請の具体的な流れと、よく寄せられる質問について詳しく解説します。

BNOパスポート申請のステップバイステップ

BNOパスポートの申請は、以下のステップで進めることができます。

  1. オンライン申請の開始: 英国政府の公式ウェブサイト(GOV.UK)にアクセスし、「Overseas British passport applications」のセクションから申請を開始します。初めての申請か、更新か、といった質問に答えて進みます。
  2. 個人情報の入力: 氏名、生年月日、出生地、現在の住所、過去のBNOパスポート情報(あれば)など、詳細な個人情報を入力します。
  3. デジタル写真のアップロード: 英国のパスポート写真規定に沿ったデジタル写真をアップロードします。
  4. 必要書類のアップロード/郵送: 出生証明書、香港IDカード、住所証明など、求められる書類をスキャンしてアップロードします。場合によっては、オリジナルの書類を郵送で提出する必要があるため、指示に注意深く従ってください。
  5. 申請費用の支払い: クレジットカードまたはデビットカードで申請費用を支払います。
  6. 申請の送信と追跡: 全てのステップが完了したら申請を送信し、提供される参照番号を使って申請状況をオンラインで追跡することができます。

申請プロセス全体を通して、正確な情報を提供し、指示に厳密に従うことが重要です。不明な点があれば、すぐに公式ウェブサイトで確認するようにしましょう。

よくある質問:再申請やステータス確認について

BNOパスポートの申請に関して、多くの人が抱える疑問点をまとめました。

  • Q: 昔BNOを持っていたが失効している。どうすれば良い?

    A: 期限切れのBNOパスポートであっても、あなたのBNOステータスは失効していません。パスポート自体は更新して維持し続けることが可能です。オンラインで更新申請を行ってください。

  • Q: BNOステータスがあるか分からない。昔BNOパスポートを持っていたかどうかも定かでない。

    A: 過去にBNOパスポートを所持していなくても、英国内務省があなたのBNOステータスを独自に確認することができます。申請プロセス中に、内務省が内部記録を照会し、資格の有無を判断します。まずはオンラインで申請を開始してみましょう。

  • Q: BNOビザとBNOパスポートは違うものか?

    A: はい、異なります。BNOパスポートは英国政府が発行する渡航文書であり、あなたのBNOステータスを証明するものです。一方、BNOビザは、そのBNOステータスを持つ人がイギリスに長期滞在し、最終的に永住権や市民権を得るための「滞在許可」を指します。BNOパスポートはBNOビザを申請するための前提条件の一つです。

申請時の注意点と専門家への相談

BNOパスポートの申請にあたっては、いくつかの重要な注意点があります。

  • 書類不備: 提出書類に不備があると、審査が遅延したり、最悪の場合申請が却下されたりする可能性があります。必要な書類を正確に準備し、全て揃っているかを確認しましょう。
  • 情報の一貫性: 申請フォームに入力する情報と提出書類の情報が一致していることを確認してください。氏名のスペル、生年月日など、細かな点にも注意が必要です。
  • 最新情報の確認: 英国政府の移民政策やBNO関連の規則は、時として変更されることがあります。申請を行う際は、必ず英国政府の公式ウェブサイトで最新の情報を確認するようにしてください。

特に、英語での手続きに不安がある場合や、自身のケースが複雑であると感じる場合は、専門の移民コンサルタントや弁護士に相談することを強くお勧めします。専門家は、申請プロセスのサポートだけでなく、個別の状況に応じた的確なアドバイスを提供してくれるでしょう。費用はかかりますが、申請の成功率を高め、トラブルを避ける上で非常に有効な手段です。