概要: OJT(On-the-Job Training)は、実践を通してスキルを習得させる効果的な人材育成手法です。本記事では、OJTの目的から、実践的なスケジュールの作成方法、チェックリストや日報の活用法、そしてOJTを成功させるためのポイントまでを網羅的に解説します。
OJTとは?目的とメリットを理解しよう
OJTの基本概念と重要性
OJT(On-the-Job Training)は、新入社員や異動者に対し、実際の職場環境で仕事を通じて必要な知識やスキルを習得させる実践的な人材育成手法です。座学中心のOff-JT(Off-the-Job Training)とは異なり、具体的な業務をこなしながら、先輩や上司からの直接指導やフィードバックを受けることで、理論と実践を結びつけ、即戦力化を促進します。このOJTは、単に「仕事を教える」だけでなく、企業の文化や価値観を伝え、組織への適応を促す重要な役割も担っています。
効果的なOJTには、計画性のあるスケジュールの作成が不可欠です。場当たり的な指導では、習得内容に偏りが生じたり、トレーナーによる指導のばらつきが発生し、学習効果が低下する可能性があります。実際に、厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、2022年度時点で計画的なOJTを正社員に対して実施した事業所は60.2%であり、その重要性は広く認識されています。
しかし、一方でOJTトレーナーの指導のばらつきに課題を感じている企業が49.7%にものぼるという調査結果もあり、いかに体系的なOJTを設計するかが問われています。OJTは、企業が持続的に成長するために欠かせない、実践的な教育投資の一つと言えるでしょう。
OJTの主な目的
OJTの最大の目的は、新入社員や異動者が、早期に業務に必要な知識やスキルを習得し、自律的に業務を遂行できる即戦力となることです。これは単に「作業ができるようになる」ことを意味するのではなく、業務の背景や目的を理解し、応用力や問題解決能力を身につけることを含みます。具体的には、以下の3つの側面が主な目的として挙げられます。
- 実践的なスキル習得: 実際の業務を通じて、座学だけでは得られない生きた知識やノウハウを身につけます。例えば、お客様対応のロールプレイングよりも、実際のクレーム対応を経験する方が、より深い学びが得られます。
- 組織へのスムーズな適応: 職場の雰囲気、企業文化、人間関係、暗黙のルールなどを肌で感じ、組織の一員としての自覚を育みます。これにより、エンゲージメントの向上にも繋がります。
- 自律性と主体性の醸成: 指導者のもとで経験を積む中で、自ら課題を見つけ、解決策を検討する思考力を養います。これにより、指示待ちではなく、自ら行動できる人材へと成長を促します。
これらの目的を明確にすることで、OJT全体の方向性が定まり、トレーナーも対象者も共通のゴールに向かって効果的に取り組むことができるようになります。
OJTがもたらす企業と個人のメリット
OJTは、企業と対象者双方にとって多大なメリットをもたらします。
まず、企業側のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 即戦力化の促進: 実際の業務に直結した指導を行うため、新入社員が早期に戦力となり、生産性向上に貢献します。
- 教育コストの削減: 大規模な研修施設や外部講師を必要とせず、日常業務の中で教育が行えるため、教育にかかる直接的なコストを抑えられます。
- 企業のノウハウ継承: 経験豊富なベテラン社員が持つ暗黙知や業務のコツを直接伝えることで、企業の貴重なノウハウが次世代に継承されます。
- 組織力の強化: 指導者(トレーナー)も育成を通じて自身のスキルを見直し、リーダーシップを発揮する機会を得るため、組織全体のパフォーマンス向上に繋がります。
- 離職率の低下: 手厚いOJTは、新入社員の不安を軽減し、職場への定着を促す効果があります。
次に、対象者側のメリットは以下の通りです。
- 実践的なスキルと知識の習得: 現場で実際に手を動かしながら学ぶため、知識が定着しやすく、応用力が身につきます。
- 早期の成長実感: 自分の成長を日々実感できるため、モチベーションの維持・向上に繋がります。
- 良好な人間関係の構築: 指導者との密なコミュニケーションを通じて、信頼関係を築きやすくなります。
- 不安の軽減: 不明点や疑問点をすぐに質問できる環境があるため、業務への不安が軽減されます。
これらのメリットを最大化するためには、計画的なOJTスケジュールの作成が不可欠です。
OJTスケジュールの作成ステップ
目標設定の重要性とSMARTの法則
効果的なOJTスケジュールを作成する上で、最も重要なのが「目標設定」です。何を目指してOJTを進めるのかが不明確だと、指導も学習も場当たり的になり、最終的な成果に結びつきません。OJTを通じて達成したい目標は、単に「仕事を覚える」といった漠然としたものではなく、具体的かつ測定可能な形で設定することが肝要です。
ここで役立つのが、目標設定のフレームワークであるSMARTの法則です。
- S (Specific:具体的に): 誰が、何を、どのようにするのか、行動を具体的に設定します。「お客様対応ができるようになる」ではなく、「顧客からの問い合わせに対し、マニュアルを参照せず適切に回答できるようになる」のように具体化します。
- M (Measurable:測定可能に): 目標達成度を客観的に測れる指標を含めます。「良い報告書が書ける」ではなく、「週次報告書を月間3回以上、期日までに提出し、指摘事項が2点以下になる」のように数値化します。
- A (Achievable:達成可能に): 対象者の能力や期間を考慮し、現実的に達成可能な目標を設定します。高すぎるとモチベーションが低下し、低すぎると成長に繋がりません。
- R (Relevant:関連性がある): 組織の目標や本人のキャリアパスと関連性の高い目標を設定します。業務への意義を見出しやすくなります。
- T (Time-bound:期限を明確に): いつまでに達成するのか、明確な期限を設定します。「3ヶ月後までに」「半年後までに」といった具体的な期日を設けることで、計画性が高まります。
このSMARTの法則に基づいて中長期・短期の成長目標を明確にすることで、OJTの全体像が見え、対象者も指導者も共通認識を持って取り組めるようになります。
具体的な教育内容と期間の設定
目標が明確になったら、次にその目標を達成するために必要な「教育内容」と「期間」を具体的に設定していきます。このステップでは、業務を細分化し、習得すべき知識やスキルを洗い出す作業が中心となります。
まずは、対象者が担当する業務を洗い出し、それぞれの業務を遂行するために必要な知識、スキル、態度などをリストアップします。例えば、営業職であれば「製品知識の習得」「顧客へのヒアリング力」「提案資料作成スキル」「クロージングテクニック」などが考えられます。これらを習得難易度や業務の重要度に応じて順序付けを行い、段階的にステップアップできるような教育項目を設定します。
次に、各教育項目について、どのくらいの期間で習得させるかを具体的に定めます。新入社員の配属後1ヶ月目は基礎知識の習得、2ヶ月目は実務同行、3ヶ月目から一部業務の担当、といった具体的な期間設定が必要です。OJT計画書には、以下のような項目を記載すると良いでしょう。
育成項目 | 期間 | 目標(例) |
---|---|---|
企業理念・組織構造の理解 | 配属1週目 | 当社の事業内容と部署の役割を説明できる |
社内システム操作 | 配属2週目 | 基幹システムでのデータ入力、参照を一人で行える |
電話応対・来客対応 | 配属1ヶ月目 | 一般的な電話応対、来客対応をマニュアル参照なしで行える |
営業資料作成 | 配属2ヶ月目 | テンプレートを用いて提案資料を作成できる |
顧客訪問同行 | 配属3ヶ月目~ | 商談の流れを理解し、議事録を作成できる |
期間設定は、対象者の習熟度や業務内容の複雑さによって柔軟に調整できるよう、余裕を持たせつつも明確なデッドラインを設けることがポイントです。
効果的な指導・評価方法の選定
OJTの成功には、適切な「指導方法」と「評価方法」の選定が不可欠です。どんなに良い計画を立てても、その実行方法が不適切であれば期待する効果は得られません。
指導方法としては、対象者の学習スタイルや習得内容に合わせて様々なアプローチを組み合わせることが有効です。
- 現場同行・OJT担当者による実演: 最も基本的な方法。先輩社員の仕事ぶりを間近で見て学ぶことで、具体的な手順や判断基準を肌で感じられます。
- ロールプレイング: 特に顧客対応やプレゼンテーションスキルなど、対人スキルを磨くのに適しています。実践前にシミュレーションすることで、自信をつけ、本番でのパフォーマンス向上に繋がります。
- ケーススタディ: 実際の業務で発生した事例を共有し、どのように問題解決を行ったかを議論することで、応用力や思考力を養います。
- 課題付与とレビュー: 具体的な業務課題を与え、それに対するアウトプットを評価・フィードバックすることで、主体的な学習を促します。
- 座学と実践の組み合わせ: 専門知識などは座学でインプットし、その知識を現場でアウトプットする機会を設けることで、知識の定着を図ります。
評価方法については、OJTの成果を客観的に測定できる基準を設定することが重要です。単に「頑張ったか」ではなく、「何ができるようになったか」を具体的に評価できるよう、評価基準と評価方法を明確にします。例えば、理解度テスト、スキルチェック、ロールプレイングの結果、実技テスト、作成した資料の品質チェックなどが挙げられます。
特に、カークパトリックの4段階評価モデル(反応、学習、行動、結果)を参考に、OJTの多角的な効果測定を行うことで、単なる知識の習得だけでなく、実際の業務における行動変容や組織への貢献度までを評価することができます。評価は定期的に行い、対象者の成長を把握し、必要に応じてOJT計画を見直すための重要な情報となります。
OJTチェックリスト・日報の活用方法
OJTチェックリストの役割と作り方
OJTを計画的かつ漏れなく進めるために不可欠なツールが、OJTチェックリストです。チェックリストは、対象者が習得すべき業務内容やスキルを一覧化し、その習得度合いを可視化する役割を果たします。これにより、指導者は指導の抜け漏れを防ぎ、対象者は自分の成長を客観的に把握できるようになります。
OJTチェックリストを作成する際は、まずOJT計画書で定めた「育成項目」を細分化し、具体的なタスクやスキルとして落とし込むことが重要です。
例えば、「顧客対応」という育成項目であれば、以下のように細分化できます。
- 電話応対マナーの習得
- お客様からの問い合わせ内容のヒアリング
- マニュアルを用いた回答
- 担当部署への正確な引き継ぎ
- クレーム対応の初期対応
これらの項目ごとに、「説明できる」「一人でできる(確認が必要)」「一人でできる(確認不要)」といった習熟度を示す評価軸を設定し、習得日やトレーナーのサイン欄を設けることで、進捗状況をリアルタイムで管理できます。
チェックリストの活用により、指導内容の標準化が図られ、トレーナーごとの指導のばらつきを抑制する効果も期待できます。また、OJT期間終了時には、チェックリストを基に最終的な習熟度を評価し、次のステップへの移行や今後の育成課題を明確にする資料としても役立ちます。定期的にチェックリストを見直し、業務内容の変化に合わせて更新していくことで、常に最新かつ最適なOJTを実現することができます。
日報によるOJTの進捗管理
OJT期間中の日々の進捗を管理し、対象者と指導者のコミュニケーションを促進する上で、OJT日報は非常に有効なツールです。日報は単なる業務報告書ではなく、対象者の学習内容、課題、気づき、そして指導者のフィードバックを記録する重要な役割を担います。
日報に記載すべき主な項目は以下の通りです。
- 実施した業務内容: その日に取り組んだ業務の具体的内容を簡潔に記述します。
- 学んだこと・気づき: 業務を通じて新たに得た知識、スキル、発見などを記述します。
- 課題・疑問点: 業務や学習で躓いた点、不明な点を具体的に記述します。これは指導者がフィードバックする上で最も重要な情報源となります。
- 明日(今後)の目標: 翌日以降に取り組むべきことや、解決したい課題を記述します。
対象者が日報を記入した後、指導者はその内容を確認し、具体的なフィードバックを返します。疑問点には分かりやすく回答し、学びに繋がる示唆を与え、必要に応じて翌日の業務内容を調整します。これにより、対象者は毎日自分の成長を振り返り、課題を明確にしながら学習を進めることができます。
日報を毎日継続して記録することで、OJT期間全体の進捗状況が「見える化」され、万が一遅れが生じた場合でも早期に発見し、対策を講じることが可能になります。また、日報の記録は、対象者の評価や今後の人材育成計画を立案する上での貴重なデータとしても活用できます。
フィードバックの質を高める日報活用術
日報を効果的なOJTツールとして最大限に活用するためには、質の高いフィードバックが不可欠です。日報は、指導者が対象者の学習状況を把握し、的確なアドバイスを送るための「対話のきっかけ」と捉えることができます。
フィードバックを行う際のポイントは以下の通りです。
- タイムリーなフィードバック: 日報が提出されたら、できるだけ早く内容を確認し、その日のうちにフィードバックを返すように心がけましょう。時間が経つと、対象者の記憶が曖昧になり、学習効果が薄れてしまいます。
- 具体的に褒め、具体的に改善点を指摘する: 「よくやった」だけでなく、「〇〇の資料作成で、グラフの使い方が非常に分かりやすかった」のように具体的に評価します。改善点も「もっと頑張れ」ではなく、「〇〇の業務では、△△の点に注意すると、よりスムーズに進められるよ」と具体的な行動に繋がるアドバイスを提供します。
- 質問を投げかけ、考えさせる: 日報の課題や気づきに対して、「なぜそう感じたの?」「もし〇〇だったらどうする?」といった質問を投げかけることで、対象者自身が深く考え、解決策を見出す力を養うことができます。
- ポジティブな言葉遣いを心がける: 成長を促すためのフィードバックは、常にポジティブなトーンで行いましょう。対象者のモチベーションを維持し、次への意欲を高めることが重要です。
- 必要に応じて対面での対話に繋げる: 日報のやり取りだけでは伝えきれないニュアンスや、デリケートな課題がある場合は、別途時間を設けて対面でじっくりと話し合う機会を設けることも大切です。
これらの日報活用術を実践することで、OJT期間中の一方的な指導ではなく、対象者との双方向のコミュニケーションを活性化させ、より深く、効果的な学習を促すことが可能になります。
OJTを体系化し、定着させるためのポイント
OJT計画書の具体的な活用法
OJTを成功させるためには、その「計画書」が単なる書面で終わらず、現場で生きたツールとして機能することが重要です。作成したOJT計画書は、OJT期間を通じて以下の具体的な場面で活用しましょう。
- OJT開始時のオリエンテーション: 対象者とトレーナーがOJTの目的、期間、目標、評価方法などを共有する際に活用します。特に、育成目標をSMARTの法則に基づき具体的に設定し、対象者自身が「何をいつまでに達成すべきか」を明確に理解することが、主体的な学習意欲を引き出す第一歩です。
- 週間・月間スケジュールの作成基盤: OJT計画書で定めた育成項目と期間を基に、より詳細な週間・月間スケジュールを作成します。これにより、日々の業務とOJTのバランスを取りながら、計画通りに進められます。
- 定期的な進捗確認・面談: 計画書に記載された育成目標や評価基準を用いて、定期的に対象者の習熟度を確認し、面談を実施します。進捗が順調か、遅れがあるか、あるいは新たな課題が発生していないかなどを確認し、必要に応じて計画の見直しを行います。
- 評価基準として: OJT期間終了時の最終評価の際、計画書に明記された評価基準と評価方法に基づいて客観的な評価を行います。カークパトリックの4段階評価モデル(反応、学習、行動、結果)などを参考に、理解度テスト、スキルチェック、作成資料の品質チェックといった多様な測定方法を組み合わせ、多角的に成果を測定します。
- トレーナー間の情報共有: 複数のトレーナーでOJTを担当する場合、計画書は指導内容の統一や情報共有の基盤となります。
このように、OJT計画書を「羅針盤」として活用することで、OJTが場当たり的になるのを防ぎ、着実な人材育成を実現できます。
トレーナー育成と指導の標準化
参考情報にもあるように、「OJTトレーナーの指導のばらつき」は多くの企業が抱える課題であり、OJTの効果を低下させる大きな要因となります。この課題を解決し、OJTを体系化するためには、トレーナー育成と指導の標準化が不可欠です。
まず、OJTトレーナーには、単に業務知識が豊富であるだけでなく、「教えるスキル」と「人を見るスキル」が求められます。
- 教えるスキル: 業務内容を分かりやすく説明する、質問に的確に答える、段階的に教える、といった指導技術です。
- 人を見るスキル: 対象者の学習スタイル、性格、モチベーションレベルを把握し、それぞれに合わせたアプローチで指導する能力です。
これらのスキルを向上させるために、企業はOJTトレーナー向けの研修を定期的に実施すべきです。研修では、効果的なフィードバックの仕方、コーチングスキル、OJT計画書の読み込み方、評価のポイントなどを具体的に学ぶ機会を提供します。
次に、指導の標準化を図るためには、OJTマニュアルや指導ガイドラインの作成が有効です。
OJTマニュアルには、OJTの基本方針、各育成項目の指導ポイント、よくある質問とその回答、フィードバックの例文、OJT日報の記入方法などが盛り込まれます。これにより、トレーナーは共通の認識を持って指導にあたることができ、指導品質のばらつきを抑制できます。
さらに、定期的なトレーナーミーティングを実施し、成功事例の共有や課題解決に向けた議論を行うことで、トレーナー自身の成長を促し、組織全体のOJTレベルを向上させることができます。
継続的な評価と改善サイクルの確立
OJTは一度実施して終わりではありません。より効果的な人材育成へと繋げるためには、継続的な評価と改善のサイクルを確立することが極めて重要です。このサイクルを回すことで、OJTプログラム自体の質を高め、組織の成長に貢献し続けることができます。
OJTの効果測定は、以下の多角的な視点で行うことが推奨されています。
- 反応(Reaction): OJTに対する対象者やトレーナーの満足度や感想。「OJTは役立ったか」「トレーナーの指導は適切だったか」などをアンケートで調査します。
- 学習(Learning): 対象者がOJTを通じてどの程度の知識やスキルを習得したか。理解度テスト、スキルチェック、実技テストなどで測定します。
- 行動(Behavior): 習得した知識やスキルが、実際の業務行動にどう反映されたか。ロールプレイング、業務日誌、上司や同僚からの観察評価などで確認します。
- 結果(Results): OJTの実施が、組織の業績や生産性向上、離職率低下といった具体的な成果にどう繋がったか。これは長期的な視点で追跡調査が必要です。
これらの測定結果を基に、OJTプログラムのどこに問題があったのか、何が効果的だったのかを詳細に分析します。例えば、特定の教育項目での習得度が低い場合は、指導方法や期間を見直す必要がありますし、トレーナーの指導にばらつきがある場合は、トレーナー研修の強化が求められます。
分析結果を基に、OJT計画書やマニュアル、トレーナー研修の内容を改善し、次回のOJTに反映させます。このPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を継続的に回すことで、OJTプログラムは常に最適化され、組織にとって最も効果的な人材育成手法へと進化していくでしょう。
OJT成功事例とよくある失敗談
OJT成功企業の共通点
OJTを成功させている企業には、いくつかの共通点が見られます。これらの共通点を参考にすることで、自社のOJTプログラムをより効果的なものへと改善できるでしょう。
- 明確な目標設定と計画性: 成功している企業は、OJTの開始前に、対象者の具体的な成長目標をSMARTの法則に基づいて設定し、それを達成するための計画書を詳細に作成しています。この計画書は単なる書類ではなく、OJT期間中の「羅針盤」として機能し、対象者とトレーナーの間で常に共有されています。
- 質の高いトレーナー育成とサポート体制: OJTの成否はトレーナーの力量に大きく左右されます。成功企業では、OJTトレーナーに対して、業務知識だけでなく「教えるスキル」や「コーチングスキル」に関する研修を定期的に実施し、育成に注力しています。また、トレーナーが抱える課題を共有し、解決策を検討する場(トレーナーミーティングなど)を設け、孤立させないサポート体制を構築しています。
- 継続的なフィードバックと対話: 日報や定期面談を通じて、対象者へのタイムリーかつ具体的なフィードバックを欠かしません。ポジティブな面を具体的に褒め、改善点も建設的に伝えることで、対象者のモチベーションを維持し、自律的な成長を促します。双方向のコミュニケーションを重視し、対象者の不安や疑問を早期に解消する努力をしています。
- 柔軟な計画の見直しと改善: OJT計画は一度作成したら終わりではありません。対象者の習得度や業務の状況に合わせて、計画を柔軟に見直し、修正する体制が整っています。効果測定の結果を次のOJTに活かすPDCAサイクルが確立されており、常にプログラムの最適化を図っています。
これらの要素が複合的に機能することで、OJTは単なる業務指導を超え、社員の成長と組織力の強化に貢献する強力なツールとなります。
OJTで陥りがちな失敗パターン
多くの企業がOJTの重要性を認識し実施している一方で、期待した効果が得られず、失敗に終わってしまうケースも少なくありません。よくある失敗パターンを把握しておくことで、事前にリスクを回避し、より効果的なOJTを目指すことができます。
- 計画の不備と場当たり的な指導: 最も多い失敗は、OJT計画書を十分に作成せず、場当たり的な指導になってしまうことです。「とりあえず隣に座って仕事を見せておけばいい」という考えでは、指導内容に抜け漏れが生じたり、トレーナーの属人性が高まり、対象者が均等な教育を受けられません。
- トレーナーの負担過多とスキル不足: OJTトレーナーに十分な研修やサポートがないまま指導を任せてしまうと、トレーナー自身の業務負担が増大し、指導の質が低下します。また、「教えるスキル」が不足しているため、業務知識はあっても効果的に教えられない、フィードバックが抽象的で伝わらない、といった問題が発生します。参考情報にある「指導のばらつきに課題を感じる企業が49.7%」というデータは、この課題を如実に示しています。
- 一方的な情報伝達とフィードバック不足: 指導者が一方的に業務内容を伝えるだけで、対象者の理解度や疑問点を把握しようとしないケースです。また、日報の確認や定期面談が形骸化し、適切なフィードバックが行われないと、対象者は自分の成長を実感できず、モチベーションが低下してしまいます。
- 評価基準の曖昧さ: OJT期間終了時の評価が、トレーナーの主観に左右されたり、明確な基準がないために「何ができるようになったのか」が客観的に判断できないことがあります。これにより、対象者も納得感が得られず、次のステップへの移行や今後の育成課題も不明確になります。
これらの失敗パターンは、OJTの目的が不明確であったり、体系化されていない場合に発生しやすい傾向があります。
失敗から学ぶ改善策
OJTでよくある失敗パターンを認識したら、それをいかに改善し、成功へと導くかが重要です。以下の改善策を参考に、自社のOJTプログラムを見直してみましょう。
- OJT計画書の徹底的な作成と共有: まずはSMARTの法則に基づいた具体的な目標設定から始め、育成項目、期間、指導方法、評価方法を網羅したOJT計画書を詳細に作成します。そして、OJT開始前に必ず対象者とトレーナーで計画書の内容を共有し、共通認識を持つことが重要です。進捗管理のためにチェックリストや日報も活用しましょう。
- OJTトレーナーへの投資とサポート強化: トレーナーはOJTの要です。業務知識だけでなく、教育スキル(教え方、コーチング、フィードバック)を向上させるための研修を定期的に実施しましょう。また、トレーナー同士が情報交換し、悩みを共有できる場を設けることで、負担を軽減し、指導の質を底上げすることができます。人事部や育成担当部署がトレーナーを積極的にサポートする体制も不可欠です。
- 双方向コミュニケーションの促進: 一方的な指導ではなく、対象者からの質問や意見を引き出すよう働きかけましょう。日報は単なる報告ツールではなく、指導者と対象者の対話のきっかけと捉え、タイムリーで建設的なフィードバックを心がけます。定期的な1on1面談も実施し、対象者の不安や悩みを傾聴する時間を持つことで、信頼関係を築き、モチベーションを維持できます。
- 客観的な評価基準の導入とフィードバック: OJTの効果測定には、カークパトリックの4段階評価モデルなどを参考に、理解度テスト、スキルチェック、実務での行動観察など複数の手法を組み合わせ、客観的な評価基準を設けましょう。その結果を対象者に具体的にフィードバックし、何ができて何が課題なのかを明確に伝えることで、今後の成長に繋げることができます。評価結果をOJT計画の見直しに活用するPDCAサイクルを回すことも重要です。
これらの改善策を継続的に実施することで、OJTは形骸化せず、企業の人材育成において強力な役割を果たし続けることができます。
まとめ
よくある質問
Q: OJTの主な目的は何ですか?
A: OJTの主な目的は、実務を通して即戦力となるスキルや知識を習得させることです。これにより、新入社員の早期立ち上がりや、部署全体の生産性向上を目指します。
Q: OJTスケジュール作成で最初にすべきことは?
A: OJTスケジュール作成の第一歩は、育成目標(何をできるようになってほしいか)と、その目標達成に必要なスキル・知識を明確にすることです。それらを洗い出した上で、段階的に学習内容を落とし込んでいきます。
Q: OJTチェックリストはどのように活用できますか?
A: OJTチェックリストは、学習項目が計画通りに進んでいるか、 trainee(研修生)が理解しているかを確認するために使用します。進捗管理や、習得度の可視化に役立ちます。
Q: OJT日報のフォーマットに決まった形はありますか?
A: OJT日報に厳密なフォーマットはありませんが、 trainees(研修生)がその日の業務内容、学んだこと、疑問点などを記録し、トレーナーがフィードバックできるように項目を設定するのが一般的です。
Q: OJTを体系化するメリットは何ですか?
A: OJTを体系化することで、育成の質が均一化され、担当者によるバラつきを防ぐことができます。また、過去の成功事例やノウハウを蓄積・共有しやすくなり、継続的な改善に繋がります。