概要: セクハラとパワハラは、職場でよく見られるハラスメントですが、その定義と内容は異なります。本記事では、それぞれの定義、具体的な事例、そして被害を受けた際の訴え方や慰謝料について詳しく解説します。コンプライアンス意識を高め、健全な職場環境を作るためのヒントも提供します。
職場で働く上で、誰もが安心して業務に取り組める環境は不可欠です。しかし残念ながら、セクハラやパワハラといったハラスメントは未だに多くの職場で発生しており、深刻な問題となっています。これらの行為は、被害者の精神的健康やキャリアに大きな影響を与えるだけでなく、企業全体の生産性やブランドイメージをも損ないかねません。
今回は、セクハラとパワハラの違いを明確にし、具体的な事例や被害に遭った際の対処法、さらにはその他のハラスメントにも触れながら、健全な職場環境を築くために私たちに何ができるのかを解説していきます。
セクハラとパワハラの定義と明確な違いを解説
セクハラの定義と具体的な行動様式
セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、「職場において行われる、従業員の意に反する性的な言動」を指します。重要なのは、言動を受けた側の感じ方や、平均的な一般人の感覚が判断基準となる点です。加害者にその意図がなかったとしても、受け手が不快に感じればセクハラと認定される可能性があります。
具体的な行動様式は多岐にわたります。例えば、以下のような行為がセクハラに該当する場合があります。
- 性的な冗談やからかい、冷やかし
- 不必要な身体的接触(肩や腰に触れる、抱きつくなど)
- 性的な関係の強要や誘い
- わいせつな画像や動画を見せる、送る
- 容姿や服装に対する不適切なコメント
- プライベートな性的な質問や話題の持ち出し
- セクハラを理由とした解雇や降格といった不利益な取り扱い(対価型セクハラ)
- 性的な言動により職場の環境を害すること(環境型セクハラ)
これらの行為は、被害者の尊厳を傷つけ、職務への集中を妨げ、最終的には退職に追い込むなど、深刻な影響をもたらします。セクハラは性別を問わず発生しうるものであり、被害者は男性である場合や、同性間でのハラスメントも存在します。性的指向や性自認に関する言動も、ハラスメントの対象となり得ることが認識されつつあります。
パワハラの定義と3つの要件
パワハラ(パワーハラスメント)とは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」を指します。厚生労働省が定義するこのパワハラには、以下の3つの要素をすべて満たす必要があります。
- 優位性を背景とした言動であること
上司から部下への行為はもちろん、同僚間や、知識・経験の差など、関係性の中で優位性を持つ者が行う言動も含まれます。集団によるものも該当します。 - 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
業務上の指導や注意はパワハラではありません。しかし、その方法や程度が業務上必要性を逸脱し、客観的に見て不当な言動である場合、パワハラと判断されます。 - 労働者の就業環境が害されること
言動によって労働者が身体的・精神的な苦痛を感じ、その結果として仕事に支障をきたすなど、職場の環境が悪化した場合を指します。
パワハラは、上司から部下への行為が代表的ですが、先輩から後輩、同僚間、さらには部下から上司へのハラスメントも状況によっては該当し得ます。例えば、部下たちが結託して上司を無視したり、過剰な要求をしたりするケースもこれに該当する可能性があります。職場のハラスメントに関する実態調査(厚生労働省「令和5年度」)でも、過去3年間に企業に寄せられた相談のうち、「パワハラ」が64.2%と最も多く、依然として深刻な問題であることがうかがえます。
両者の根本的な違いと対象範囲
セクハラとパワハラは、どちらも職場のハラスメントですが、その根本的な違いは「目的・性質」と「優位性の捉え方」にあります。
- セクハラは、その名の通り「性的」な言動が核心にあります。性的な興味や欲望、あるいは性差別的な考えが背景にあることが多いです。対象は主に「個人の性」に向けられ、被害者の性的な尊厳を傷つける行為です。
- パワハラは、「優越的な関係」を背景にした「業務上の範囲を超えた」言動であり、目的は業務の妨害、嫌がらせ、精神的苦痛の付与など、多岐にわたります。性的な要素は含まれず、対象は「職務遂行や人間関係」に向けられます。
優位性の捉え方においても違いがあります。セクハラでは、加害者と被害者の間に「性的関係における優位性」が存在するかどうかが重要になりますが、性的言動自体が問題とされるため、必ずしも職位上の上下関係が絶対ではありません。一方、パワハラでは「職務上の地位」「人間関係」「専門知識や経験」といった、組織内での「優越的な関係性」が前提となります。
これらの違いを理解することは、自身や周囲で発生したハラスメントを見極め、適切に対応するための第一歩となります。どちらのハラスメントも、被害者にとって計り知れない苦痛をもたらし、健全な職場環境を著しく阻害するものです。
セクハラ・パワハラの具体的な事例とコンプライアンスの重要性
セクハラの多様な具体例と被害者の心理
セクハラの事例は、直接的な身体的接触だけでなく、多様な形で現れます。以下にその一部を挙げます。
- 言葉によるセクハラ: 容姿への不適切なコメント(「可愛いね」「もっと色気を出したら?」)、性的な冗談、私生活における性的な関係に関する質問(「彼氏/彼女はいるの?」「今夜は一人?」)、職場でアダルトビデオの話題を出すなど。
- 行動によるセクハラ: 不必要な身体的接触(肩を抱く、頭をなでる、腰に手を回すなど)、性的な目線でじっと見つめる、飲み会で無理やり隣に座らせる、個室で二人きりになろうとするなど。
- 視覚によるセクハラ: わいせつな画像や動画を見せる、送る、アダルト雑誌を置く、性的な内容のポスターやカレンダーを貼るなど。
- 環境型セクハラ: 職場全体で性的な話題が飛び交い、不快な思いをしながら働かなければならない環境、セクハラの被害を訴えても真剣に取り合ってもらえない雰囲気など。
これらの行為を受けた被害者は、精神的な苦痛、羞恥心、怒り、不安といった複雑な感情を抱えます。職場で居場所を失ったように感じ、仕事へのモチベーションが著しく低下し、集中力も散漫になります。さらには、不眠や食欲不振、うつ病などの心身の健康問題を引き起こすことも少なくありません。退職を余儀なくされるケースも多く、その後のキャリア形成にも大きな影響を与えます。被害者が声を上げにくいのは、二次被害への恐れ、加害者との関係悪化への懸念、あるいは「大したことではない」と矮小化されることへの不安があるからです。
パワハラの類型と見過ごされがちな行動
パワハラは、厚生労働省が定める6つの類型に分類されます。これらの類型を知ることで、多様なパワハラの形態を認識することができます。
- 身体的な攻撃: 殴る、蹴る、物を投げつけるなど。
- 精神的な攻撃: 大声での叱責、人格否定、侮辱、脅迫、長時間の吊るし上げなど。
- 人間関係からの切り離し: 無視、仲間外し、必要な情報共有をしない、隔離など。
- 過大な要求: 新人には不可能なノルマや業務量を課す、残業を強要する、私的な業務を押し付けるなど。
- 過小な要求: 能力や経験に見合わない単純作業のみをさせる、雑用しか与えない、仕事を与えないなど。
- 個の侵害: 私生活への過度な干渉(交際相手、家族関係など)、病歴や出身に関する嘲笑、性的指向や性自認に関する不適切な発言など。
この中で特に見過ごされがちなのが、「過小な要求」や「個の侵害」です。仕事を与えないことや、能力に見合わない単純作業しかさせないことは、一見すると楽に見えるかもしれませんが、本人の成長機会を奪い、精神的に追い詰める行為です。また、業務と無関係な私生活への干渉は、個人の尊厳を著しく損ないます。
パワハラの加害者側は、指導や注意のつもりであったり、「業務の範囲内」と主張したりすることが少なくありません。しかし、その言動が客観的に見て不当であり、被害者の就業環境を害していると判断されれば、パワハラに該当します。連合が公表した「2024年の労働相談報告」でも、「パワハラ・嫌がらせ」に関する相談が10年連続で最多となっており、職場における根深い問題であることが示されています。
企業に求められるハラスメント対策と事例
企業にとってハラスメント対策は、単なる法令遵守の義務に留まらず、健全な企業文化の醸成、従業員のエンゲージメント向上、優秀な人材の確保、そして企業のレピュテーション維持に直結する重要な経営戦略です。ハラスメントが不法行為と認定された場合、加害者だけでなく、その従業員を雇用していた企業も使用者責任を負う可能性があります。
企業に求められる具体的な対策は以下の通りです。
- 明確な方針の表明と周知: ハラスメントを許さないという企業の姿勢を明確にし、就業規則に防止規定を盛り込み、全従業員に周知徹底します。
- 相談窓口の設置と周知: 従業員が安心して相談できる窓口(社内・社外)を設置し、その存在と利用方法を定期的に周知します。匿名での相談も可能とするなど、相談しやすい環境を整えることが重要です。
- 研修の実施: 全従業員に対し、ハラスメントの種類、定義、事例、防止策、相談窓口などに関する研修を定期的に実施します。管理職層にはより専門的な研修が必要です。
- 迅速かつ適切な対応: 相談があった場合には、プライバシーに配慮しつつ、迅速かつ公正な事実確認(調査)を行い、被害者・加害者双方への適切な措置を講じます。再発防止策も徹底します。
- 再発防止策の徹底: 加害者への懲戒処分だけでなく、組織全体での改善策を検討し、実行します。ハラスメントを誘発するような企業風土の改善も視野に入れるべきです。
近年、2025年の法改正により、カスハラ(カスタマーハラスメント)や就活ハラスメントについても企業の対策が義務化されるなど、ハラスメント対策は社会全体で強化されています。企業は常に最新の情報を把握し、従業員が安心して働ける環境を提供するための努力を惜しんではなりません。
セクハラ・パワハラ被害に遭ったら?訴える際のステップと慰謝料
ハラスメント被害時の初動対応と証拠収集
もしセクハラやパワハラの被害に遭ってしまったら、何よりもまず「一人で抱え込まないこと」が大切です。そして、その後の対応のために、できるだけ早い段階から証拠を収集することが極めて重要になります。
具体的な初動対応と証拠収集の方法は以下の通りです。
- 記録を残す: 発生した日時、場所、具体的な言動の内容、加害者の氏名、目撃者の有無などを、できるだけ詳細にメモに残します。記憶が鮮明なうちに記録することが重要です。日記形式でも構いません。
- 具体的な証拠の収集:
- 音声データ: ハラスメントが行われている最中に録音する(スマホの録音機能など)。
- メールやメッセージ: 加害者からの不適切なメール、SNSメッセージ、チャット履歴などを保存する。
- 写真や動画: 不適切な貼り紙や物が置かれている場合など。
- 診断書: ハラスメントによる心身の不調で病院を受診した場合、医師の診断書を取得する。
- 物的証拠: 壊されたもの、不適切なプレゼントなど。
- 拒否の意思を明確にする: 不快な言動に対しては、可能であればその場で「やめてください」「不快です」と明確に意思表示することも証拠の一つとなり得ます。後から記録する際に、「いつ、どのように拒否したか」も記しておきましょう。
- 周囲に相談する: 信頼できる同僚、友人、家族などに状況を話し、客観的な意見や精神的なサポートを得ることも重要です。その際に、証拠の保管を依頼することも有効です。
証拠は多ければ多いほど、また客観的であればあるほど、ハラスメントの事実を立証する際に有利になります。たとえ小さなことでも、繰り返し記録を残すことが将来の法的措置や会社への訴えに繋がる可能性があります。
社内外の相談窓口の活用と法的措置の検討
証拠を収集したら、次に適切な相談窓口に連絡を取りましょう。相談先は大きく分けて社内と社外があります。
社内窓口
- ハラスメント相談窓口/人事部: 多くの企業にはハラスメント専門の相談窓口や人事部が設置されています。匿名での相談が可能な場合も多いので、まずはここを利用するのが一般的です。
- 産業医/産業カウンセラー: 心身の不調がある場合は、産業医や産業カウンセラーに相談し、専門的なサポートを受けることもできます。
- 直属の上司や信頼できる上長: ハラスメントの加害者ではない、信頼できる上司がいれば、相談してみるのも良いでしょう。
社内窓口を利用するメリットは、会社が主体となって調査・対応を行い、職場環境の改善や加害者への処分が期待できる点です。しかし、会社が適切に対応しない場合や、加害者が経営層に近い人物である場合など、社内での解決が難しいケースもあります。
社外窓口
- 労働局(総合労働相談コーナー): 地域の労働局に設置されており、ハラスメントに関する相談や、必要であればあっせんなどの紛争解決援助を受けることができます。無料で利用可能です。
- 弁護士: 法律の専門家である弁護士は、法的なアドバイスを提供し、加害者や企業に対する慰謝料請求や損害賠償請求の手続きを代行してくれます。最終的な法的措置を検討する際には不可欠な存在です。
- 社会保険労務士: 労働問題の専門家であり、企業との交渉や、労働基準監督署への相談、就業規則の見直しに関するアドバイスなどを提供します。
- 法テラス: 経済的に余裕がない方を対象に、無料の法律相談や弁護士費用の立替えなどを行っています。
社外の専門機関に相談することで、客観的な視点からのアドバイスや、より強い法的根拠に基づいた解決策を探ることができます。ハラスメントが明確な不法行為であると判断されれば、民事訴訟による慰謝料請求も選択肢に入ってきます。
慰謝料請求の可能性と不法行為責任
ハラスメントが不法行為(民法709条)と認定された場合、被害者は加害者に対して精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。さらに、ハラスメントがあったことを知りながら、あるいは知り得たにもかかわらず適切な措置を講じなかった場合、そのハラスメントが職務遂行上のものであった場合、企業も使用者責任(民法715条)や安全配慮義務違反(労働契約法5条)を問われ、加害者とともに連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。
慰謝料の金額は、事案の悪質性、ハラスメントの期間、被害の程度(精神的・肉体的苦痛、治療期間など)、加害者や企業の対応、被害者の年齢や社会的地位など、様々な要素を総合的に考慮して決定されます。一般的に、ハラスメントの慰謝料相場は数十万円から数百万円と幅広く、個々の事案によって大きく異なります。
慰謝料請求の手順としては、以下の流れが考えられます。
- 示談交渉: 弁護士を介して加害者や企業と話し合い、示談による解決を目指します。
- あっせん: 労働局のあっせん制度を利用し、第三者を交えて話し合いを進めます。
- 民事訴訟: 示談やあっせんで解決しない場合、地方裁判所等に損害賠償請求訴訟を提起します。
これらの手続きを進める上では、収集した証拠が非常に重要になります。弁護士と相談し、自身の状況と証拠に基づいて、どのような法的措置が最も適切かを判断することが、被害回復への道筋となります。企業がハラスメント防止規定を整備し、従業員に周知することは、このような法的なリスクを軽減するためにも極めて重要です。
セクハラ・パワハラ以外のハラスメント(モラハラ、マタハラ)との関連性
多様化するハラスメントの現状と法改正の動き
セクハラやパワハラが職場の代表的なハラスメントとして認識されていますが、現代社会ではさらに多様な形態のハラスメントが顕在化しています。モラルハラスメント(モラハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)などはその典型であり、さらに近年ではカスタマーハラスメント(カスハラ)や就活ハラスメントなど、外部からのハラスメントも深刻な問題として浮上しています。
厚生労働省の「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に企業に寄せられたハラスメント相談のうち、「パワハラ」が64.2%、「セクハラ」が39.5%に次いで「カスハラ」が27.9%を占めています。これは、ハラスメント問題が職場内部だけでなく、外部との関係においても対策が不可欠であることを示唆しています。
このような状況を受け、法改正の動きも活発です。特に注目すべきは、2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法により、カスハラ対策が企業に義務化されること、そして就活ハラスメントについても対策が義務化されることです。これにより、企業は従業員を守る責任範囲を広げ、より包括的なハラスメント対策を講じることが求められるようになります。社会全体のハラスメントに対する意識と、法的・制度的対応は、年々強化されていると言えるでしょう。
マタハラ・パタハラ・ケアハラ:育児・介護と職場の問題
ライフイベントに関わるハラスメントは、個人のキャリアを大きく左右し、少子高齢化が進む日本社会において、企業の人材定着にも直結する喫緊の課題です。
- マタニティハラスメント(マタハラ):
妊娠・出産・育児休業などの制度利用に対して、職場で不利益な取り扱いをしたり、嫌がらせを行ったりする行為です。具体的には、「妊娠したら辞めてもらう」「育休を取るなら降格」「つわりで仕事ができないのは甘え」といった発言や、制度利用を理由とした配置転換、減給などが該当します。これは、女性のキャリア継続を阻む大きな要因となり、少子化対策にも逆行する行為です。 - パタニティハラスメント(パタハラ):
男性従業員の育児休業取得や、育児のための時短勤務などの制度利用に対して行われるハラスメントです。「男のくせに育休なんて」「育児は女性の仕事」といった性別役割分業意識に基づく発言や、育休取得を理由とした不当な評価、業務の剥奪などが該当します。男性の育児参加を阻害し、家庭と仕事の両立を困難にさせます。 - ケアハラスメント(ケアハラ):
従業員が家族の介護のために介護休業や短時間勤務制度を利用することに対して行われるハラスメントです。「介護で休むなんて無責任」「介護があるなら転職しろ」といった言動や、介護を理由とした降格、不当な評価などが該当します。高齢化社会において、介護離職は大きな社会問題となっており、ケアハラの防止は介護と仕事の両立支援に不可欠です。
これらのハラスメントは、従業員が人生の重要な局面を迎える際に、その立場を利用して精神的・物理的な圧力をかけるものであり、個人の尊厳を傷つけ、労働意欲を著しく低下させます。企業には、これらの制度の利用を奨励し、ハラスメントを許さない明確な方針を示すことが求められます。
カスハラ・就活ハラスメント:外部からのハラスメント対策
近年、特に深刻化しているのが、顧客や取引先、あるいは就職活動中の学生といった「外部の人間」から従業員や就活生に対して行われるハラスメントです。
- カスタマーハラスメント(カスハラ):
顧客などからの言動で、社会通念上許容される範囲を超えた要求やクレームにより、労働者の就業環境が害されることです。土下座の強要、暴言、暴力、理不尽な長時間拘束、執拗な性的言動などが含まれます。従業員は顧客の対応という名目でこれらの行為に耐えざるを得ない状況に陥りやすく、精神的な負担は非常に大きいです。小売業、サービス業、医療機関などで特に問題視されており、2025年の法改正により、企業にはカスハラ対策が義務付けられます。具体的には、相談対応体制の整備、被害者への配慮、行為者への毅然とした対応などが求められるでしょう。 - 就活ハラスメント:
インターンシップや採用選考の過程で、企業の人事担当者や社員が、優越的な地位を利用して、就職活動中の学生に対して行うハラスメントです。性的な誘い、プライベートへの過度な干渉、人格否定、圧迫面接の範疇を超える威圧的な言動などが含まれます。学生は内定をちらつかされたり、不利になることを恐れたりして、声を上げにくい立場にあります。これもまた、2025年の法改正で企業に対策が義務化されることになります。企業は、公正な採用活動を行うだけでなく、就活生の人権を尊重し、ハラスメントから守る責任を負うことになります。
これらの外部からのハラスメントは、従業員の心身の健康を害するだけでなく、企業の信頼性や人材採用にも悪影響を及ぼします。企業は、従業員や就活生を守るための具体的なガイドラインを策定し、毅然とした対応を取る体制を構築することが急務となっています。
セクハラ・パワハラ問題の解決に向けた企業・個人ができること
企業が取り組むべき予防策と体制整備
セクハラやパワハラのない健全な職場環境を築くためには、企業が主体となり、包括的かつ継続的な予防策と体制整備を行うことが不可欠です。単に規則を設けるだけでなく、それが組織文化として根付くよう、多角的なアプローチが求められます。
まず、最も重要なのは「ハラスメントは決して許さない」という企業の強い姿勢を明確に表明し、全従業員に周知徹底することです。就業規則には、ハラスメントの定義、禁止事項、懲戒規定、相談窓口の連絡先などを具体的に明記し、誰もがアクセスできる状態にしておくべきです。
次に、従業員向けの研修を定期的に実施することが効果的です。研修では、ハラスメントの種類や定義、具体的な事例だけでなく、加害者になりうる行動の認識、被害者への影響、そして「ハラスメントはなぜいけないのか」という本質的な理解を深める内容が必要です。特に管理職層に対しては、ハラスメント防止義務や、相談を受けた際の適切な対応方法に関する専門的な研修を義務付けるべきです。これにより、ハラスメントへの感度を高め、組織全体の意識改革を促します。
さらに、相談窓口の設置と機能強化は欠かせません。従業員が安心して相談できる独立した窓口(社外の専門機関も含む)を複数設け、匿名での相談も可能とするなど、相談しやすい環境を整備します。相談を受けた際には、プライバシーに最大限配慮しつつ、迅速かつ公正な事実確認を行い、被害者・加害者双方への適切な措置を講じる体制を確立することが重要です。再発防止策も徹底し、加害者への厳正な処分だけでなく、組織全体の課題として改善に取り組む姿勢が求められます。
風通しの良い組織文化を醸成することも、ハラスメント予防に繋がります。定期的な従業員満足度調査や意見交換の場を設け、従業員の声に耳を傾けることで、ハラスメントの芽を早期に摘むことができます。ハラスメント対策は、企業の法令遵守だけでなく、従業員のエンゲージメントを高め、生産性を向上させるための重要な投資であると捉えるべきです。
個人が身を守るための意識と行動
企業による対策が進められる一方で、個人も自身の身を守るための意識を持ち、適切な行動を取ることが重要です。ハラスメントの被害者とならないため、また、ハラスメントの加害者とならないための心構えが必要です。
まず、ハラスメントは許される行為ではないという認識をしっかりと持つことです。不快な言動や不合理な要求に対しては、一人で抱え込まず、毅然とした態度で「やめてください」「不快です」と明確に意思表示する勇気を持つことが大切です。もちろん、状況によってはその場で意思表示が難しい場合もあるでしょう。そのような時は、後で信頼できる人に相談する準備をしておきましょう。
次に、日頃から「記録を取る習慣」をつけることです。ハラスメントの被害に遭った際には、いつ、どこで、誰に、どのような言動があったのか、どのように感じたのかを具体的にメモに残しておくことが、後に相談したり、法的措置を検討したりする際の強力な証拠となります。メールやチャットの履歴、録音データ、診断書なども有効な証拠となりえます。証拠がないと、事実関係の立証が困難になる場合が多いため、些細なことでも記録する習慣を身につけておくことが重要です。
そして、もし被害に遭ってしまったら、一人で抱え込まずに、すぐに信頼できる人に相談することです。社内のハラスメント相談窓口、人事部、産業医、あるいは社外の労働局、弁護士、社会保険労務士など、頼れる専門家はたくさんいます。相談することで、客観的なアドバイスが得られ、適切な対処法を見つけることができます。相談は、精神的な負担を軽減し、問題解決への第一歩となります。
また、自身が加害者とならないよう、「相手がどう感じるか」という想像力を持つことも重要です。自身の言動が相手を不快にさせないか、業務上必要かつ相当な範囲を超えていないかを常に自問自答し、相手の個性やプライベートを尊重する姿勢を心がけましょう。多様な価値観が共存する現代社会において、一人ひとりが他者への配慮と尊重を実践することで、ハラスメントの発生自体を防ぐことができます。
ハラスメントのない健全な職場環境のために
セクハラやパワハラをはじめとするあらゆるハラスメントのない健全な職場環境は、単なる理想ではなく、現代企業にとって不可欠な条件です。そのためには、企業と個人の双方が責任と意識を持ち、継続的に努力していくことが求められます。
企業は、法規制の遵守にとどまらず、ハラスメント防止を経営戦略の一環として位置づけ、積極的に予防策を講じ、発生時には迅速かつ公正に対応する責任があります。これは、従業員の心身の健康を守り、安心して働ける環境を提供することで、従業員エンゲージメントの向上、生産性の向上、優秀な人材の定着に繋がり、ひいては企業の持続的な成長を支える基盤となります。ハラスメントを放置する企業は、社会的な信用を失い、人材流出や法的リスクに直面するでしょう。
一方で、私たち個人も、ハラスメントに対する意識を常に高く持ち続ける必要があります。自身の言動が他者にどのような影響を与えるかを常に考え、多様な価値観を持つ同僚を尊重する姿勢が重要です。もしハラスメントの現場を目撃したら、見て見ぬふりをせず、勇気を持って適切な行動を起こす「傍観者にならない」意識も大切です。例えば、被害者をサポートしたり、会社や専門機関に報告したりすることで、問題解決の一助となることができます。
連合の報告が示すように、「パワハラ・嫌がらせ」に関する相談が10年連続で最多である現状は、ハラスメント問題が依然として根深く、社会全体の課題であることを浮き彫りにしています。この事実を踏まえ、企業は予防策を強化し、個人はハラスメントに対する正しい知識と行動力を身につけることで、誰もが自分らしく、いきいきと働ける職場環境を共に創造していく必要があります。
まとめ
よくある質問
Q: セクハラとパワハラの最も大きな違いは何ですか?
A: セクハラは、性的な言動によって相手を不快にさせたり、職務上の不利益を与えたりする行為です。一方、パワハラは、優位な立場を利用して、業務の適正な範囲を超えて、人格や尊厳を傷つける言動を行うことです。つまり、セクハラは「性的な要素」が、パワハラは「優位な立場と業務への影響」が主な違いとなります。
Q: セクハラ・パワハラを訴える場合、どのような証拠が必要になりますか?
A: 証拠としては、加害者の言動を記録したメモや録音、メールやSNSのやり取り、目撃者の証言などが有効です。また、被害によって生じた精神的な苦痛を証明するために、医師の診断書なども役立ちます。
Q: セクハラ・パワハラで慰謝料は請求できますか?
A: はい、セクハラやパワハラによって精神的な苦痛を受けた場合、加害者や所属する企業に対して慰謝料を請求できる可能性があります。請求額は、ハラスメントの悪質性や被害の程度によって異なります。
Q: モラハラやマタハラとは、セクハラ・パワハラとどう違いますか?
A: モラハラ(モラルハラスメント)は、言葉や態度で精神的に攻撃し、相手の人格を否定する行為を指し、パワハラに含まれる場合もあります。マタハラ(マタニティハラスメント)は、妊娠・出産・育児休業などを理由とした不利益な扱いを指し、パワハラの一種とみなされます。
Q: 男性から男性へのセクハラ(同性間セクハラ)も対象になりますか?
A: はい、セクハラは性別に関わらず、同性間でも発生します。男性から男性へのセクハラも、性的な言動によって相手を不快にさせたり、職務上の不利益を与えたりするものであれば、セクハラとして該当します。