概要: NTTグループ各社、NTTコムウェア、NTT東日本、NTT西日本、NTTドコモ、NTTデータ、NRI、そしてルネサスエレクトロニクスにおける定期昇給の現状について解説します。会社ごとの昇給制度や、昇給停止・見送りの背景についても触れていきます。
NTTグループ各社の定期昇給の全体像
NTTグループ各社は、日本の情報通信業界を牽引する巨大企業群ですが、その定期昇給の事情は一様ではありません。近年、優秀な人材の獲得と定着を目指し、グループ全体で採用戦略や人事給与制度の大きな見直しが進められています。
特に注目すべきは、年功序列的な要素から成果や専門性を重視する制度への移行です。これにより、社員一人ひとりのキャリア形成や働きがいにも大きな影響を与えています。
グループ全体の戦略的給与改定
NTTグループは、将来を見据えた人材戦略の一環として、2026年4月入社者から採用給の引き上げを発表しています。これは、大学卒の標準的なケースで基本給が30万円以上、住宅補助費を含めると34万円以上という高水準です。さらに、特定の専門性を持つ人材に対しては、より高い報酬での採用も積極的に行う方針を示しており、業界内での競争力を高めようとしています。
この動きを支えるのが、2023年4月に導入された「専門性を軸とした人事給与制度」です。この制度では、従来の年次・年数といった要素を廃止し、社員が獲得した専門性と、それを業務でどれだけ発揮しているかによって昇給・昇格を決定します。
社員が自律的にキャリアを形成し、多様な働き方を実現することを支援するものであり、グループ全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で不可欠な、高度なスキルを持つ人材の育成と定着を狙っています。
グループ各社の平均年収と昇給傾向
NTTグループ各社の平均年収は、その事業内容や規模によって大きな差があります。例えば、NTTドコモは2024年3月期で平均年収約870万円と通信業界でも高い水準を維持しています。一方、NTT西日本では2024年度の平均年収が1,000万円を超えるなど、日本の平均年収を大きく上回る企業も存在します。
NTT東日本は平均年収約660万円、NTTコムウェアは約620万円(平均年齢31歳)となっており、グループ内でも幅広い年収レンジが見られます。また、グループ外ながらNTTとの関係性が深い野村総合研究所(NRI)に至っては、2025年3月期の平均年収が1,322万円と、コンサルティング業界の中でも突出した水準です。
昇給の傾向も多様で、NTTドコモのように成果主義を徹底し、個人の頑張りが役職や年収に直結する企業がある一方で、NTT東日本・西日本のように、かつての年功序列的な要素を残しつつ、近年では評価制度の見直しにより定量的な結果や専門性で評価される仕組みへと移行している企業もあります。
初任給に見る競争力強化の動き
優秀な学生を獲得するための競争が激化する中、NTTグループ各社は初任給の引き上げにも積極的です。例えば、NTTドコモでは2025年入社の学部卒の初任給が304,290円(住宅補助費含む)となる予定です。
NTT東日本では2025年4月入社の大学卒で340,200円(住宅補助費含む)、NTT西日本では大学卒で312,940円(住宅補助費含む)と、それぞれ高水準の初任給を設定しています。NTTコムウェアも2025年入社の大学卒で314,900円(住宅補助費含む)です。
特に注目されるのが、野村総合研究所(NRI)の初任給で、2026年新卒採用では修士了で364,500円(住宅手当含む)、大学卒で336,500円(住宅手当含む)と、非常に高い水準を提示しています。これらの初任給引き上げは、新卒市場での競争力を高め、将来のグループを支える優秀な若手人材を早期に囲い込むための戦略的な動きと言えるでしょう。
NTTコムウェア・NTT東日本・NTT西日本の昇給制度
NTTグループの中でも中核を担うNTTコムウェア、NTT東日本、NTT西日本は、それぞれ異なる昇給制度を持ちながらも、時代の変化に合わせて制度の見直しを進めています。安定した事業基盤を持つこれらの企業では、昇給の仕組みにも特徴が見られます。
NTTコムウェアのグレード制度と昇給
NTTコムウェアの平均年収は、2025年9月時点の登録者データによると約620万円(平均年齢31歳)とされています。同社では、「グレード制度」が昇給の核となっています。これは、社員のスキルや責任範囲に応じて設定された複数のグレードがあり、役職をまたぐようなグレードアップが実現すると、それに伴って大きく昇給するという仕組みです。
年1回の昇給機会があり、その昇給額は個人の評価に応じて決定されます。つまり、日々の業務における成果や貢献度が直接的な昇給額に反映されるため、社員は目標達成に向けてモチベーションを維持しやすい環境と言えるでしょう。
初任給については、2025年入社の大学卒で314,900円(住宅補助費含む)と、グループ内でも競争力のある水準を提示しており、優秀な新卒人材の確保にも力を入れています。
NTT東日本・NTT西日本の年功序列と成果主義の融合
NTT東日本とNTT西日本は、かつては年功序列の色合いが濃い昇給制度を持つ企業として知られていました。しかし、近年では制度の見直しが進み、成果主義の要素がより強く取り入れられています。特にNTT西日本では、2024年度の平均年収が1,000万円を超えるなど高水準であり、中には30代後半で1,000万円に到達する社員もいるとのことです。
NTT東日本の平均年収は約660万円(2025年9月時点)ですが、こちらも着実な昇給が期待できる環境です。評価制度の変更により、定量的な結果だけでなく、個人の専門性も重視されるようになり、社員のスキルアップや貢献度がより直接的に昇給に結びつくようになっています。
初任給も競争力があり、NTT東日本では2025年4月入社の大学卒で340,200円(住宅補助費含む)、NTT西日本では新卒1年目の大学卒で312,940円(住宅補助費含む)と、優秀な人材を引きつけるための投資を惜しまない姿勢が見て取れます。
地域通信会社における昇給の安定性
NTT東日本とNTT西日本は、日本国内の地域通信インフラを支えるという、極めて安定した事業基盤を持っています。この安定性は、社員の昇給制度にも反映されており、長期的に見て着実な昇給が期待できる環境と言えるでしょう。特にライフプランを立てる上で、昇給の見通しが立てやすい点は大きな魅力となります。
一方で、最近の評価制度の変更は、これまでの「安定」に「成果」という要素をどのように融合させていくかという課題も提示しています。社員は、単に年数を重ねるだけでなく、自らの専門性を高め、具体的な成果を出すことが、より大きな昇給につながることを意識する必要があります。
若手からベテランまで、キャリアパスが比較的明確であり、地域に根差した貢献をしたいと考える人材にとっては、非常に魅力的な職場であると言えるでしょう。
NTTドコモ、NTTデータ、NRIの昇給事情
NTTグループの中でも、通信事業、システムインテグレーション、コンサルティングと、異なる分野で事業を展開するNTTドコモ、NSD(NTTデータシステム技術)、そしてグループ外ながら緊密な関係を持つ野村総合研究所(NRI)は、それぞれ特徴的な昇給事情を持っています。特にNRIは、業界屈指の年収水準で知られています。
NTTドコモの成果主義と高水準年収
NTTドコモは、モバイル通信事業におけるリーディングカンパニーであり、その年収水準は通信業界でも群を抜いています。2024年3月期のデータでは、平均年収は約870万円とされており、高い報酬が魅力です。
同社の昇給制度は、成果主義が色濃く反映されています。個人の頑張りやプロジェクトでの成果が、役職や年収にダイレクトに結びつくキャリアパスが明確に用意されているため、高いモチベーションを持って業務に取り組むことができます。
初任給も競争力があり、2024年入社の学部卒の初任給は30万円以上、2025年入社では住宅補助費を含め304,290円と、優秀な人材確保への積極的な姿勢が見られます。成果に応じて大きくキャリアアップしたいと考える人にとっては、非常に魅力的な企業です。
NSD(NTTデータシステム技術)の昇給実態
NSD(NTTデータシステム技術)は、NTTデータグループの一員としてシステム開発などを手掛けていますが、昇給事情については他のNTTグループ企業とは異なる実態が指摘されています。情報によると、昇給額は「雀の涙」とも評されるほど少なく、年間2,000円程度という声もあります。
また、グレードごとに基本給の上限が設けられているため、ある程度の年次や役職に達すると、基本給での大幅な昇給は難しくなる傾向があるようです。このため、収入の調整は主に賞与で行われていると考えられます。
2024年4月実績では、大学卒で135名が採用されていますが、具体的な初任給の金額に関する情報は確認できませんでした。昇給額が少ない分、社員は賞与やプロジェクトへの貢献度、あるいは福利厚生や働きがいといった非金銭的な報酬に、より価値を見出す必要があるかもしれません。
NRI(野村総合研究所)の圧倒的な年収と専門性評価
野村総合研究所(NRI)は、NTTグループ外ですが、日本を代表する大手シンクタンク・コンサルティングファームであり、その年収水準は業界内でもトップクラスです。2025年3月期のデータでは、平均年収は1,322万円(平均年齢39.9歳)と、極めて高い水準を誇ります。
昇給制度としては、シニアアソシエイトまでは比較的年功序列に近い形で昇進・昇給が期待できる傾向がありますが、それ以降は個人の成果や評価がより強く反映されます。特に、評価次第で賞与が大きく変動するため、個人のパフォーマンスが収入に直結します。
2023年には人事制度が改定され、専門性に応じた評価がさらに強化されており、高度な知見を持つ人材が正当に評価される仕組みが整っています。2026年新卒採用の初任給は、修士了で364,500円(住宅手当含む)、大学卒で336,500円(住宅手当含む)と、他社を凌駕する水準であり、優秀な人材を引きつける強力なインセンティブとなっています。
ルネサスエレクトロニクスにおける昇給・見送り
NTTグループではありませんが、日本を代表する半導体メーカーであるルネサスエレクトロニクスの昇給事情は、日本企業がグローバル企業へと変革する過程で生じる課題を象徴しています。特に、2024年の定期昇給見送りのニュースは、多くの従業員に影響を与えました。
ルネサスにおける定期昇給の半年延期
ルネサスエレクトロニクスでは、2024年4月に予定されていた定期昇給が半年延期されることが報じられました。これは、同社がグローバル企業への変革を進める中で、人員削減と並行して行われた施策の一環とされています。
伝統的な日本企業の賃金体系から、より柔軟で成果に連動したグローバルスタンダードの報酬制度への移行期にあり、このような一時的な昇給見送りは、その変革に伴うコストコントロールや制度変更の準備期間と解釈することができます。従業員にとっては厳しい決定ですが、企業の長期的な競争力強化のための判断とも言えるでしょう。
この決定は、景気変動や市場環境に左右されやすい半導体業界の特性と、企業のグローバル戦略が複合的に影響した結果と考えられます。
「Pay for Performance」原則への移行
ルネサスエレクトロニクスは、「Pay for Performance」という考え方に基づき、会社業績と個人の評価に連動した報酬制度を運用しています。これは、グローバル企業として世界市場で競争力を維持していくために不可欠な要素であり、個人の貢献度が直接的に報酬に反映される仕組みです。
定期昇給の延期も、この「Pay for Performance」の原則に基づき、会社の業績状況や市場環境を考慮した上での判断と推測されます。つまり、会社全体としてのパフォーマンスが芳しくない時期には、昇給が見送られる可能性があることを示しています。
このような制度は、従業員に常に高いパフォーマンスを求め、企業の成長に貢献することを促しますが、同時に個人の評価が直接収入に影響するため、安定性を求める社員にとっては大きなプレッシャーとなる可能性もあります。
新卒初任給引き上げと在籍社員への影響
ルネサスエレクトロニクスでは、定期昇給の延期があった一方で、26卒の初任給が25卒よりも学部卒等で5万円引き上げられるという情報もあります。これは、優秀な新卒人材を確保するための競争が激化する中で、他社に引けを取らない報酬水準を示す必要があるという企業の判断が働いたものです。
しかし、懸念されるのは、この新卒初任給の引き上げが、在籍社員の基本給に同様に反映されるかどうかは未確定であるという点です。新卒の待遇改善と、長年会社を支えてきた既存社員の待遇改善のバランスは、多くの企業にとって大きな課題となります。
グローバル化に伴う報酬制度の変革期においては、企業は外部環境への適応と内部の公平性の維持という、二つの難しい課題に直面することになります。在籍社員のモチベーション維持のためには、透明性のある説明と、将来に向けた明確なキャリアパスの提示が不可欠でしょう。
定期昇給と会社業績・個人の評価の関係性
現代の企業における定期昇給は、もはや単なる年功序列の慣例ではありません。会社の業績や個人のパフォーマンス、さらには市場の競争状況など、多様な要素が複雑に絡み合いながら決定されます。NTTグループ各社の事例からも、この関係性の変化が明確に見て取れます。
会社業績が昇給に与える影響
会社の業績は、定期昇給の可否や昇給額に直接的な影響を与えます。例えば、ルネサスエレクトロニクスの事例では、市場環境の悪化やグローバル戦略の転換期において、定期昇給が半年延期され、人員削減も同時に行われました。これは、業績の変動が賃金制度に直接反映される典型的な例と言えるでしょう。
一方で、好業績を維持している企業、例えばNRIやNTT西日本などは、高い平均年収や競争力のある初任給を提示することで、優秀な人材の確保と定着を図っています。NTTグループ全体で採用給を引き上げる方針も、グループ全体の安定した事業基盤と将来性を見据えた投資であり、業績の裏付けがあってこそ可能な判断です。
企業が持続的に成長し、高い競争力を維持するためには、賃金制度が業績と連動することは自然な流れであり、社員も自身の働きが会社の業績にどう貢献するかを意識することが重要になっています。
個人の評価が昇給額を左右する時代へ
NTTグループが導入した「専門性を軸とした人事給与制度」に象徴されるように、年功序列から個人の成果や専門性に基づいた評価へのシフトは、もはや業界全体の大きな潮流です。NTTドコモ、NTTコムウェア、NRI、ルネサスエレクトロニクスなど、多くの企業で個人の評価が昇給額や賞与に直接的に影響する仕組みが導入されています。
これにより、社員は自身のスキルアップや業務での具体的な成果創出に、より一層力を入れるよう促されます。例えば、NTTコムウェアでは年1回の昇給額が個人評価に応じて決まり、NRIでは評価次第で賞与が大きく変動します。
NSDのような企業で昇給額が少ないとされる場合でも、評価制度の透明性や公正性は社員のモチベーションに大きく関わります。個人の努力や貢献が正当に評価され、それが昇給やキャリアアップに結びつく制度設計が、優秀な人材の確保と育成には不可欠です。
多様化する昇給制度とキャリアパス
NTTグループ各社の事例からわかるように、現代の昇給制度は非常に多様化しています。かつての年功序列型から、ドコモのような徹底した成果主義、コムウェアのようなグレード制、そしてNTTグループ全体で推進される専門性評価など、企業ごとの特性や戦略に応じた様々な制度が存在します。
この多様化は、社員にとって自身のキャリアパスを選択する上で、より多くの選択肢があることを意味します。安定を重視するのか、高い成果に応じて高収入を目指すのか、専門性を極めて評価されたいのかなど、自身の価値観に合った企業や制度を選ぶことが可能になります。
企業側も、優秀な人材を引き付け、定着させるために、それぞれのビジネスモデルや企業文化に合った魅力的な昇給制度を設計し、社員が主体的にスキルアップし、企業成長に貢献できる環境を提供することが求められています。
まとめ
よくある質問
Q: NTTグループ全体の昇給は一律ですか?
A: NTTグループ全体で一律の昇給制度というよりは、傘下の各社(NTTコムウェア、NTT東日本、NTT西日本、NTTドコモなど)がそれぞれ独自の昇給制度を設けている場合が多いです。そのため、昇給の時期や金額は会社によって異なります。
Q: NTTコムウェアの定期昇給について教えてください。
A: NTTコムウェアにおける定期昇給の詳細は、公式な発表を注視する必要がありますが、一般的には年1回の定期昇給が実施される傾向にあります。個人の業績評価や会社の業績が反映されると考えられます。
Q: ルネサスエレクトロニクスの昇給見送りとは具体的にどういうことですか?
A: ルネサスエレクトロニクスにおいて「昇給見送り」や「昇給停止」といった言葉が出てくる場合、それは通常、一時的に定期昇給が実施されない、あるいは昇給額が据え置かれる状況を指します。これは、会社の業績不振や経済状況の悪化などが背景にあることが多いです。
Q: NTTデータやNRIの昇給はどのような基準で行われますか?
A: NTTデータやNRI(野村総合研究所)のような大手IT企業では、一般的に年1回の定期昇給が実施されます。昇給額は、個人のパフォーマンス評価、勤続年数、そして会社の業績や人事評価制度に基づいて決定されることが一般的です。
Q: 定期昇給以外に昇給する機会はありますか?
A: 定期昇給以外にも、昇進・昇格に伴う昇給や、特別な功績を上げた場合の臨時昇給など、企業によっては昇給の機会が設けられています。個人のスキルアップや成果が評価されることで、昇給に繋がる可能性があります。