昇給で変わる?標準報酬月額と保険料、法人税減税の最新情報2025

2025年は、企業の昇給施策や従業員の家計に大きな影響を与える様々な法改正や制度変更が予定されています。標準報酬月額の改定、社会保険料率の変動、さらには法人税制の見直しなど、多岐にわたる変更点を正確に理解し、適切に対応することが求められます。
本記事では、昇給を検討する企業、そして昇給を期待する従業員の皆様が知っておくべき最新情報を網羅し、読みやすいブログ形式でお届けします。

昇給によって変動する標準報酬月額とは

標準報酬月額の基本的な仕組みと算定プロセス

昇給は喜ばしいニュースですが、それに伴い社会保険料にも変化が生じます。この変化の中心にあるのが「標準報酬月額」です。標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の保険料を計算するために、給与を一定の幅で区分した等級のこと。毎年7月に企業が提出する「算定基礎届」に基づき、4月から6月の3ヶ月間の平均報酬月額から決定されます。
この新しい標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの1年間適用されるのが原則です。つまり、昇給によって給与が増えれば、この標準報酬月額の等級も上がり、結果として社会保険料の負担額も変動する可能性があるのです。この仕組みを理解することは、昇給による手取り額の変化を予測し、適切なライフプランを立てる上で非常に重要となります。

昇給がもたらす標準報酬月額への影響

昇給が決定され、実際に給与が上がると、ほとんどの場合、標準報酬月額にも影響が出ます。特に、定時決定(算定基礎届による毎年9月の改定)の時期以外に大幅な昇給があった場合は、「随時改定」として、直近3ヶ月の平均報酬に基づいて標準報酬月額が見直されることがあります。これにより、昇給の翌月からは、新しい標準報酬月額に基づいた社会保険料が適用されることになります。
例えば、基本給が大きく上がった場合、これまでより高い等級に区分され、健康保険料や厚生年金保険料の会社負担分と個人負担分が増加します。これは従業員にとっては手取り額の減少、企業にとっては人件費増を意味するため、昇給の検討時には社会保険料の変動も考慮に入れる必要があります。

厚生年金保険料の標準報酬月額上限の将来的な引き上げ

2025年以降、特に注目すべきは厚生年金保険料の標準報酬月額の上限引き上げに関する動向です。現在の厚生年金保険料率は2017年9月以降18.3%で固定されていますが、将来的に高所得者層の保険料負担が増加する見込みです。
具体的には、2027年9月には現在の65万円から68万円へ2028年9月には71万円へ、そして2029年9月には75万円まで段階的に上限が引き上げられる予定です。これは、少子高齢化が進む中で公的年金制度を維持するための財源確保策の一環と考えられます。企業としても、将来的に高所得の従業員に対する人件費負担がさらに増加する可能性があるため、長期的な視点での給与体系の見直しや人件費予算の策定が求められます。

昇給時に知っておきたい保険料の計算と適用時期

健康保険料・介護保険料の最新改定情報

昇給時に最も気になるのが、健康保険料や介護保険料がどのように変わるかではないでしょうか。2025年には、これらの保険料率にいくつかの改定が予定されています。特に、協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率は、2025年3月分(4月納付分)から改定されることが決まっています。
地域によって料率の引き上げ・引き下げは異なりますが、例えば東京都では健康保険料率が現在の9.98%から9.91%へわずかながら引き下げられる見込みです。また、介護保険料率も2024年度の1.6%から1.59%へと引き下げられる予定です。これらの変更は、標準報酬月額と合わせて保険料の算出に直接影響するため、従業員の手取り額や企業の社会保険料負担額に影響を与えます。

厚生年金保険料は固定だが高所得者は注意

厚生年金保険料については、2017年9月以降、保険料率が18.3%で固定されており、2025年に変更はありません。この率は企業と従業員で折半して負担します。そのため、標準報酬月額が同じであれば、保険料率は変わらないため、負担額も変わりません。
しかし、前述の通り、2027年9月以降、標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられることが決定しています。これは、高所得者層にとっては実質的な保険料負担増となることを意味します。現在の報酬月額が既に上限に近い方、あるいは昇給により上限を超える可能性のある方は、将来的な年金保険料の増加を念頭に置く必要があります。企業側も、優秀な人材への報酬を検討する際に、社会保険料の増加分まで見越した人件費計画を立てることが重要です。

雇用保険料の引き下げと年収の壁の見直し

社会保険料の中で、雇用保険料についても注目すべき変更があります。2025年4月以降、雇用保険料率が引き下げられる見込みです。これは、企業と従業員双方にとって負担軽減につながる朗報と言えるでしょう。雇用保険料は、失業給付や育児休業給付などの財源となるもので、料率が引き下げられれば、昇給による手取り額の減少を一部緩和する効果も期待できます。
また、パート労働者などの社会保険適用拡大に関連して、長年の課題であった「年収の壁」の見直しが進められています。特に月額賃金8万8,000円以上(年収106万円以上)という厚生年金適用要件が撤廃される方向で調整が進んでおり、これが実現すれば、より多くのパート労働者が厚生年金に加入できるようになります。企業は、今後の制度変更を見据え、パート従業員の働き方や給与体系を柔軟に見直す準備が必要となるでしょう。

昇給を後押しする法人税減税と補助金の可能性

中小企業に朗報!法人税軽減税率の延長

2025年度の税制改正において、中小企業の経営を力強く後押しする重要な変更点があります。それが、中小企業向けの法人税軽減税率15%の2年間延長です。通常、法人税率は規模によって異なりますが、資本金1億円以下の法人については、所得のうち年間800万円以下の部分に対する税率が15%に軽減されています。
この措置が延長されることで、多くの企業が資金を設備投資や人材育成、そして従業員の昇給に充てる余裕が生まれると期待されます。昇給は従業員のモチベーション向上に直結し、企業の競争力強化にも繋がるため、この税制優遇は昇給を検討する企業にとって非常に大きな追い風となるでしょう。

成長意欲を刺激する税制優遇策の拡充

政府は企業の成長と投資を促進するため、様々な税制優遇策を講じています。その一つが「中小企業経営強化税制」の拡充です。これは、認定された経営力向上計画に基づき、機械装置などを取得した場合に即時償却または税額控除が選択できる制度で、成長意欲の高い中小企業の設備投資を強力にサポートします。設備投資が進めば生産性向上に繋がり、結果として従業員への還元、つまり昇給の原資を確保しやすくなります。
また、地方創生を目的とした「企業版ふるさと納税」も2028年3月31日まで適用期限が延長されます。これは、地方自治体の特定のプロジェクトに寄付を行うことで、税制上の優遇措置を受けられる制度です。一方で、デジタル投資関連の税制として注目された「5G導入促進税制」および「DX投資促進税制」は、2025年3月31日をもって廃止される予定であるため、これらの制度を活用していた企業は注意が必要です。

昇給と企業経営、新たな税負担の可能性

昇給は企業の魅力を高め、優秀な人材の確保・定着に不可欠ですが、人件費の増加という側面もあります。上記の法人税減税策は、企業の負担を軽減し、昇給の余力を生み出す可能性があります。しかし、一方で、防衛力強化のための財源確保として、「防衛特別法人税(仮称)」が創設される予定であることも忘れてはなりません。この新たな税負担が企業経営にどの程度影響を与えるかは、今後の詳細な制度設計を注視する必要があります。
企業は、税制優遇策を最大限に活用しつつ、将来的な税負担の可能性も踏まえた上で、戦略的な人件費計画と昇給制度を構築していくことが求められます。昇給を単なる支出と捉えるのではなく、企業成長への投資として位置づけ、従業員のエンゲージメント向上と生産性向上に繋げていく視点が重要です。

昇給とみなし残業代・復職時調整の注意点

昇給時に見直すべきみなし残業代の計算

昇給は従業員のモチベーション向上に繋がりますが、特に「みなし残業代(固定残業代)」制度を導入している企業では、その計算方法に注意が必要です。みなし残業代は、基本給などと合わせて支払われることが多く、所定労働時間を超える残業に対して支払われる賃金の一部をあらかじめ定額で支給するものです。昇給により基本給が上がると、このみなし残業代の計算基礎となる金額も変動する可能性があります。
もし、みなし残業代の設定が適切に見直されない場合、実態として残業時間が増えたり、基本給が上がった結果、みなし残業代が割増賃金の一部として不適切と判断されたりするリスクがあります。これにより、未払い残業代が発生する可能性も否定できません。昇給時には、みなし残業代の計算方法や含まれる時間数、そしてそれが最低賃金や割増賃金の要件を満たしているかを再度確認し、必要に応じて就業規則や給与規程を改定し、従業員への周知を徹底することが不可欠です。

育児・介護休業からの復職時の給与調整

2025年4月から順次施行される育児・介護休業法の改正は、従業員の働き方、特に復職時の給与計算に大きな影響を与えます。育児休業からの復職時には、短時間勤務制度の利用や、元のポジションに戻れないことによる給与の変動が生じることがあります。社会保険料の計算において、育児休業等終了時報酬月額変更届を提出することで、休業期間中の給与低下を反映した低い標準報酬月額が適用され、社会保険料の負担が軽減される特例があります。
しかし、もし復職後すぐに昇給があった場合、この特例がどのように影響するかを慎重に確認する必要があります。昇給によって給与が上昇すれば、再度標準報酬月額が変更され、社会保険料が増加する可能性があります。企業は、育児や介護と仕事の両立を支援する観点からも、復職時の給与体系、社会保険料の調整について、従業員への丁寧な説明と適切な手続きを行うことが求められます。

「年収の壁」撤廃に向けた動向と昇給への影響

参考情報にもあった「年収の壁」の見直しは、昇給や働き方において非常に重要なポイントです。特にパート労働者の社会保険適用拡大に関連し、月額賃金8万8,000円以上(年収106万円以上)という厚生年金適用要件が撤廃される方向で調整が進められています。これが実現すれば、これまで「壁」を意識して労働時間を調整していた従業員が、より長く働くことを選択できるようになり、結果として昇給やキャリアアップの機会が増える可能性があります。
企業にとっては、パート従業員の社会保険加入が拡大することで社会保険料負担が増加する側面もありますが、一方で優秀な人材の定着や確保に繋がり、組織全体の生産性向上に貢献すると期待できます。この変更は、従業員と企業の双方にとって、働き方や給与制度のあり方を再考する大きな契機となるでしょう。

昇給における年齢制限の有無と将来的な展望

昇給における年齢制限の現代的な解釈

かつての日本企業では、年功序列型賃金体系が主流であり、年齢や勤続年数に応じて自動的に昇給する制度が一般的でした。しかし、現代においては、「昇給に年齢制限がある」という考え方は一般的ではありません。労働者の能力や実績、企業の業績、市場の賃金水準などが昇給の判断基準となり、年齢そのものが直接的な制限要因となるケースは稀です。
多くの企業では、従業員のパフォーマンス評価やスキル習得度に基づいて昇給を決定する「成果主義」や「能力主義」が導入されています。これは、若い世代の早期抜擢や、経験豊富なベテランが継続的に貢献することへの正当な評価を可能にします。高齢者の雇用継続も進む中で、年齢に関わらず、企業への貢献度に応じて公正に評価し、昇給を検討することが、多様な人材が活躍できる職場環境を作る上で不可欠と言えるでしょう。

成果主義・能力主義への移行と昇給の評価基準

グローバル化やテクノロジーの進化に伴い、多くの企業が従来の年功序列型から、成果主義や能力主義に基づいた昇給制度へと移行を進めています。これは、従業員一人ひとりの「アウトプット」や「習得スキル」、そして「企業目標への貢献度」をより重視する考え方です。昇給は、年齢ではなく、明確な目標設定に対する達成度、新たなスキルの習得、あるいはチームや組織への具体的な貢献といった多角的な視点から評価されるようになります。
従業員にとっては、年齢に関わらず自身の努力や成果が直接昇給に繋がりやすくなるため、キャリア形成に対するモチベーションを高める効果が期待できます。企業側も、優秀な人材の確保と育成を効果的に行い、組織全体の生産性向上に繋げる上で、公正かつ透明性のある評価基準に基づく昇給制度の構築が極めて重要となります。

2025年以降の給与制度と人材戦略の未来予測

2025年以降も、給与制度を取り巻く環境は絶えず変化していくと予測されます。社会保険制度における厚生年金標準報酬月額の上限引き上げ「年収の壁」の見直し、そして育児・介護休業法の改正は、従業員の働き方や企業の給与体系に継続的な影響を与え続けるでしょう。
企業は、これらの制度変更に適切に対応しつつ、多様な働き方を許容し、従業員が長期的に活躍できる魅力的な給与制度を構築していく必要があります。単に基本給を上げるだけでなく、業績連動型賞与、スキル手当、福利厚生の充実など、様々なインセンティブを組み合わせることで、従業員のエンゲージメントを高め、企業の持続的な成長を支える人材戦略を練ることが求められます。昇給は単なる給与の増加ではなく、企業と従業員の関係を深め、未来を切り拓く重要な投資であるという認識が、今後ますます重要になるでしょう。