概要: 「残業代」の基本から、酪農、NPO法人、グループホーム、グランドスタッフ、業務委託など、様々な働き方における残業代事情を解説します。零細企業や会社によって異なる残業代の現状や、業務手当といった関連用語についても触れ、あなたの疑問を解消します。
【徹底解説】「残業代」の疑問を解決!零細企業からNPOまで
働き方改革が進む現代において、「残業代」に関する知識は、企業で働く全ての人、そして経営者にとって不可欠です。
特に、資金や人員に限りがある零細企業やNPO法人では、「うちは関係ない」「経営が厳しいから」といった誤解から、残業代の未払いや不適切な運用が見られることも少なくありません。
しかし、企業規模や形態にかかわらず、労働基準法は全ての労働者に適用され、残業代の適正な支払いは義務付けられています。
この記事では、残業代の基本的な計算方法から、中小企業における最新の法改正、そして未払い残業代のリスクと対策まで、ゼロから分かりやすく解説します。
あなたの「残業代」に対する疑問を解消し、安心して働ける環境、そして健全な企業運営を実現するための一助となれば幸いです。
「残業代」とは?基本を理解しよう
残業代の基本的な計算式と基礎賃金
残業代は、労働者が所定労働時間(会社で定められた労働時間)を超えて働いた場合に支払われる賃金です。
基本的な計算式は、「1時間あたりの基礎賃金 × 割増率 × 残業時間」で算出されます。
この計算において最も重要となるのが「1時間あたりの基礎賃金」です。月給制の場合、これは「月給 ÷ 月平均所定労働時間」で計算されます。
例えば、月給30万円で月平均所定労働時間が160時間の場合、1時間あたりの基礎賃金は1,875円となります。年俸制の場合も同様に「年俸 ÷ 12ヶ月 ÷ 月平均所定労働時間」で計算されます。
ここで注意が必要なのは、この「基礎賃金」には原則としてすべての手当が含まれるという点です。ただし、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当(実費に応じて支給されるもの)、臨時に支払われる賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金など、一部の手当は、その実態に応じて基礎賃金から除外できる場合があります。
これらの手当が除外されるかどうかは、就業規則や賃金規程に明記され、その実態が伴っているかどうかが問われます。誤って基礎賃金に含めなかった場合、未払い残業代が発生するリスクがあるため、正確な理解が求められます。
残業の種類と割増賃金率を徹底解説
残業代の計算において、次に重要となるのが「割増率」です。労働基準法では、残業の種類に応じて異なる割増率が定められています。
主な残業の種類とその割増率は以下の通りです。
- 法定内残業: 所定労働時間を超えるが、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)内の残業です。この場合、割増は発生せず、通常の時給で支払われます。
- 法定外残業: 法定労働時間を超える残業です。原則として25%増しの割増率が適用されます。
- 月60時間超の法定外残業: 1ヶ月あたり60時間を超える法定外残業には、50%増し以上の割増率が適用されます。この規定は2023年4月1日より、中小企業にも適用されました。
- 休日労働: 法定休日(週1回または4週4日)に労働した場合です。原則として35%増しの割増率が適用されます。所定休日(法定休日ではない会社独自の休日)の労働は、法定労働時間を超えれば法定外残業として25%増し、そうでなければ割増なしとなります。
- 深夜労働: 午後10時から午前5時までの間に労働した場合です。原則として25%増しの割増率が適用されます。
さらに、これらが複合する場合、割増率は加算されます。例えば、時間外労働が深夜に及んだ場合は50%増し(25% + 25%)、休日労働が深夜に及んだ場合は60%増し(35% + 25%)となります。
これらの割増率は、労働者の健康と生活を守るために法律で厳格に定められています。企業はこれらの規定を遵守し、適正な残業代を支払う義務があります。
中小企業に義務化された「月60時間超残業」の割増率
2019年4月から施行された働き方改革関連法は、労働者の長時間労働是正を目的としています。この法律は当初、大企業に先行して適用されていましたが、2023年4月1日からは、中小企業においても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率50%以上が義務付けられました。
以前は、中小企業における月60時間を超える時間外労働の割増率は25%でしたが、この改正により大企業と同水準の50%に引き上げられました。これは、中小企業においても労働者の健康確保が強く求められるようになったことを意味します。
この変更は、中小企業の経営者にとって大きな影響を与えます。例えば、従業員が月に70時間の時間外労働を行った場合、60時間までの残業には25%の割増率が適用されますが、超過した10時間には50%の割増率が適用されることになります。
中小企業が取るべき対応としては、まず労働時間の適正な把握が必須です。タイムカードや勤怠管理システムを導入し、正確な労働時間を記録する必要があります。次に、就業規則を改正し、この新しい割増賃金率を明確に記載することが求められます。
さらに、根本的な解決策として、業務効率化による労働時間の削減が重要です。残業の事前許可制の導入、ノー残業デーの設定、ITツールの活用などが考えられます。労働時間を削減できれば、企業側のコスト負担も軽減され、従業員のエンゲージメント向上にも繋がるでしょう。必要に応じて、労使協定の締結も検討すべきです。
知っておきたい!職種別・雇用形態別「残業代」事情
NPO法人も例外ではない!労働基準法の適用範囲
「NPO法人だから、残業代の支払い義務はないのでは?」といった誤解を抱いている方は少なくありません。しかし、これは明確な誤りです。
NPO法人も、営利法人である一般企業と同様に労働基準法の適用を受けます。
NPO法人で働く従業員(有給の職員やパート・アルバイト)は、労働基準法上の「労働者」と見なされるため、法定労働時間を超えて働いた場合には、残業代を支払う義務が生じます。
NPO法人の活動は社会貢献を目的としているため、従業員も「ボランティア精神」で働いているという意識が強い場合があります。しかし、それは残業代の支払い義務を免れる理由にはなりません。労働の実態がある限り、労働者として保護されるべき権利が保障されるのです。
ただし、NPO法人と対等な立場で業務を委託している業務委託先の個人や事業者については、労働者には該当しません。彼らは指揮命令関係になく、自身の裁量で業務を遂行し、成果に対して報酬を得る立場だからです。この労働者と業務委託の線引きは非常に重要であり、曖昧な場合は注意が必要です。
NPO法人も、就業規則の整備、労働時間の適正な管理、給与計算の正確性など、労働基準法に則った労務管理が求められます。財源が限られているNPO法人であっても、法律を遵守し、従業員が安心して働ける環境を整備することが、長期的な活動の継続にも繋がります。
零細企業での「サービス残業」は許されない
日本の企業の大半を占める零細企業(小規模企業)においても、残業代の支払い義務は他の大企業や中小企業と何ら変わりありません。
労働基準法は企業の規模にかかわらず一律に適用されるため、零細企業だからといって残業代を支払わなくて良いという特例はありません。
しかし、零細企業では、経営者が残業代に関する法的な認識が低いケースや、労働時間の管理が杜撰になりがちなケースが散見されます。例えば、タイムカードの記録を故意に切り捨てる、始業前の準備時間や終業後の片付け時間を労働時間として認めない、休憩時間を長めに設定し、その時間も労働させているといった不適切な運用が見られます。
これらは「サービス残業」として、明確な労働基準法違反にあたります。
零細企業でサービス残業が横行すると、従業員のモチベーション低下や不信感につながり、優秀な人材の離職リスクを高めます。また、もし従業員から未払い残業代の請求があった場合、過去に遡って多額の残業代と遅延損害金、さらには付加金の支払いを命じられる可能性があり、企業の存続を脅かす事態に発展することもあります。
零細企業こそ、労働時間の適正な把握と、法に基づいた残業代の支払いを徹底する必要があります。勤怠管理システムの導入が難しい場合でも、手書きの出勤簿や日報、業務メールなどを活用し、客観的な労働時間記録を残すことが重要です。
「管理監督者」の残業代は?深夜手当の注意点
「管理監督者」という言葉を聞くと、「残業代が出ない人」と認識している方が多いかもしれません。確かに、労働基準法において、管理監督者は、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されます。そのため、時間外労働や休日労働に対する割増賃金は原則として発生しません。
しかし、ここで重要な注意点があります。管理監督者であっても、深夜労働(午後10時から午前5時までの労働)に対する割増賃金は支払う必要があります。
これは、深夜労働が労働者の健康に与える影響が大きいため、労働基準法が例外なく保護しているからです。
では、「管理監督者」とは具体的にどのような人を指すのでしょうか。労働基準法上の管理監督者とは、職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇の実態などから総合的に判断されます。
- 経営者と一体的な立場で事業運営に参画していること
- 出退勤の自由があるなど、労働時間の規制を受けない立場にあること
- その地位にふさわしい賃金(基本給、役職手当等)が支払われていること
といった要件を満たす必要があります。単に「部長」や「店長」といった肩書きがあるだけで管理監督者と認められるわけではありません。名ばかり管理職は、残業代未払いの大きなリスクとなるため、企業は実態を正確に把握し、適正な運用を行う必要があります。
管理監督者に該当するかどうか曖昧な場合は、専門家である弁護士や社会保険労務士に相談することをおすすめします。
「残業代」に関するよくある誤解と注意点
「みなし残業(固定残業代)」制度の落とし穴
近年、「みなし残業」や「固定残業代」といった制度を導入する企業が増えています。これは、あらかじめ一定の残業時間分を給与に含めて支払う制度であり、残業代計算の手間を省く目的や、給与を高く見せる効果があるため、企業側にも求職者側にも一見魅力的に映るかもしれません。
しかし、この制度には大きな落とし穴が存在します。「みなし残業」制度を導入している場合でも、予定された残業時間(固定残業代として支払われている時間)を超えて労働した場合は、その超過分に対して別途残業代を支払う義務があります。
例えば、「月20時間分の固定残業代を含む」と契約している従業員が、実際に月30時間残業した場合、超過した10時間分の残業代は別途支払われなければなりません。
また、この制度を導入する際には、いくつかの厳格な要件を満たす必要があります。具体的には、
- 固定残業代が何時間分の時間外労働に対応するのか
- 固定残業代が基本給とは明確に区別して支払われていること
- 固定残業代を超える残業が発生した場合に、別途残業代を支払う旨が明記されていること
などが、雇用契約書や就業規則に明確に記載されている必要があります。これらの要件を満たさない場合、固定残業代が無効とみなされ、全額が未払い残業代として請求されるリスクがあります。
企業側は、この制度を正しく理解し運用すること、従業員側も自身の労働時間が固定残業時間を超えていないか、常に確認することが重要です。
勤怠記録はなぜ重要?証拠収集の重要性
残業代の計算や請求において、最も重要な要素の一つが「勤怠記録」、つまり労働時間を客観的に証明する資料です。
企業側にとっても、従業員側にとっても、正確な勤怠記録はトラブルを未然に防ぎ、万が一の事態に備えるための生命線となります。
企業は労働基準法に基づき、従業員の労働時間を適正に把握する義務があります。タイムカード、ICカード、指紋認証、PCログオン・ログオフ履歴、勤怠管理システムなど、客観的な記録を残す仕組みを導入することが求められます。
これらの記録は、単に残業代を計算するためだけでなく、従業員の健康状態の管理や、働き方改革における労働時間削減目標の達成度を確認するためにも不可欠です。
一方、従業員側が未払い残業代を請求する際には、自身の労働時間を証明する「証拠」が必要不可欠です。具体的な証拠となり得るものとしては、
- タイムカードのコピー、勤怠管理システムのデータ
- 業務日報、日報、手書きのメモ(始業・終業時刻を記録したもの)
- 業務上のメールやチャット履歴(送受信時刻が記録されているもの)
- 会社のPCのログオン・ログオフ履歴
- 会社の入退室記録、セキュリティゲートの通過記録
- 同僚からの証言、音声記録、写真
などが挙げられます。これらの証拠は、会社との交渉や労働基準監督署への申告、さらには訴訟に至った際に、未払い残業代の事実と金額を客観的に裏付ける根拠となります。日頃から自身の労働時間を記録する習慣をつけ、可能な範囲で証拠を収集しておくことが、自身の権利を守る上で極めて重要です。
未払い残業代が企業にもたらすリスクと代償
「残業代を払わないくらい、大した問題ではないだろう」と安易に考えている経営者がいるとすれば、それは大きな間違いです。
未払い残業代は、企業に甚大なリスクと代償をもたらす可能性があります。そのリスクは、金銭的なものに留まらず、企業の存続に関わるものまで多岐にわたります。
まず、最も直接的なリスクは「訴訟リスク」です。労働者から未払い残業代の支払いを求める訴訟を起こされた場合、企業は多大な時間と費用をかけて対応しなければなりません。
次に、「金銭的リスク」が挙げられます。未払い残業代が認められた場合、企業は未払い額に加え、遅延損害金(退職済みの場合は年14.6%)の支払いを命じられます。さらに、悪質なケースでは、裁判所が未払い残業代と同額の「付加金」の支払いを命じることもあり、最大で未払い額の2倍を支払う事態に発展する可能性があります。これは、零細企業やNPO法人にとっては致命的なダメージとなり得ます。
加えて、「信用失墜リスク」も無視できません。未払い残業代問題が明るみに出れば、企業のイメージは著しく低下し、採用活動への悪影響、取引先からの信頼喪失、顧客離れなど、広範囲にわたる悪影響が予想されます。
最後に、「人材流出リスク」です。残業代の未払いは、従業員の不満を爆発させ、組織への不信感を募らせる大きな原因となります。優秀な人材ほど、待遇への不満から離職する可能性が高く、結果として企業の競争力低下に直結します。
企業規模にかかわらず、残業代の請求権は労働基準法で保障されています。これらのリスクを避けるためにも、企業は適正な勤怠管理と残業代の支払いを徹底し、健全な労務環境を構築する責任があります。
「残業代」の代わりに?「業務手当」や「類語」について
様々な「手当」と残業代の関連性
給与明細には、基本給の他に様々な「手当」が記載されていることがよくあります。役職手当、住宅手当、家族手当、通勤手当、調整手当など、その種類は多岐にわたります。
これらの手当が残業代の計算にどのように影響するのか、正確に理解しておくことは非常に重要です。
前述の通り、残業代を計算する際の「1時間あたりの基礎賃金」には、原則として全ての賃金が含まれます。しかし、一部の手当は、その実態に応じて基礎賃金から除外できる場合があります。
労働基準法で除外が認められている手当には、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当(実費に応じて支給されるもの)、臨時に支払われる賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金などがあります。
これらの手当が基礎賃金から除外されるためには、その手当の趣旨や支給条件が明確であり、個人的な事情や生活を補助する目的で支払われていると客観的に判断できる必要があります。例えば、家族手当は扶養家族の有無や人数に応じて支給されるもの、通勤手当は通勤距離や手段に応じて実費を補填するものが該当します。
一方で、営業手当や役職手当など、労働の対価として支払われる性格が強い手当は、原則として基礎賃金に含まれます。手当の名目がどうであれ、その実態が残業代の一部であると判断される可能性もあるため、企業は就業規則や賃金規程において、手当の定義と残業代との関連性を明確に記載することが求められます。
曖昧な手当の運用は、未払い残業代の温床となるリスクがあるため、注意が必要です。
「業務手当」は残業代の代替になるか?
「業務手当」や「職務手当」といった名目で支給される手当を目にすることがあります。
これらが残業代の代わりに支払われていると認識しているケースも少なくありませんが、この点についても注意が必要です。
結論から言うと、単に「業務手当」という名目で支給されているだけでは、その手当が残業代の代替とみなされることはありません。
手当を残業代として有効とみなすためには、「みなし残業(固定残業代)」制度と同様に、いくつかの厳格な要件を満たす必要があります。
具体的には、
- 支給される手当の中に、時間外労働の対価として支払われる部分が明確に区分されていること。
- その時間外労働の対価として支払われる部分が、何時間分の時間外労働に対応するのかが明確に示されていること。
- その時間数を超えて残業した場合に、別途残業代が支払われる旨が明確にされていること。
これらの要件が、雇用契約書や就業規則、給与明細などで明確に示されていない場合、いくら「業務手当」という名目で支給されていても、それは基本給の一部とみなされ、別途残業代を全額支払う義務が生じます。
例えば、「業務手当5万円」とだけ記載された給与明細の場合、この5万円が何時間分の残業代に相当するのかが不明確であれば、その手当は残業代とは認められません。その上で、別途法定の残業代が計算され、未払いとして請求されるリスクがあるのです。
企業は、あいまいな名目の手当で残業代を代替しようとするのではなく、労働時間に応じた適正な残業代を計算・支払い、給与明細も明確に表示することが求められます。
「代替休暇制度」の活用とその注意点
働き方改革関連法の施行により、中小企業にも月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%以上と義務付けられました。
この高率の割増賃金の代わりに、企業は労働者に有給休暇を付与する「代替休暇制度」の導入を検討することが可能です。
代替休暇制度とは、月60時間を超える時間外労働を行った労働者に対し、割増賃金の一部(25%に相当する部分)の支払いに代えて、有給の休暇を付与する制度です。残りの25%(通常の賃金部分+25%)は、通常通り残業代として支払われます。
この制度は、労働者の健康維持を促進し、長時間労働を抑制する目的があります。企業にとっては、一時的なキャッシュアウトを抑えつつ、従業員のワークライフバランス向上に貢献できるというメリットがあります。
ただし、代替休暇制度の導入には以下の点に注意が必要です。
- 労使協定の締結: 代替休暇を導入するには、労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定(労使協定)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
- 労働者の意向: 代替休暇を付与するか、割増賃金として支払うかは、労働者の意向を尊重して決められる必要があります。労働者に休暇の取得を強制することはできません。
- 取得期限: 代替休暇の取得期限は、当該時間外労働が行われた賃金計算期間の次の賃金計算期間中に与えるものとされています(例:3月分の残業なら、4月中に取得)。
- 時間単位での取得: 代替休暇は、半日または1日単位で与えることが基本ですが、労働者の健康確保を図る観点から、時間単位での取得も認められる場合があります。
代替休暇制度は、柔軟な働き方を促進する有効な手段となり得ますが、制度設計と運用には細心の注意を払い、労働基準法に則って適切に実施することが不可欠です。
あなたの「残業代」は適正?専門家への相談も視野に
まずは自分で残業代を計算してみよう
「私の残業代、本当にこれで合っているのかな?」と疑問を感じたら、まずはご自身で計算してみることをお勧めします。自分で計算することで、未払い残業代の有無や、その金額の目安を把握することができます。
残業代の計算は、以下のステップで進められます。
- 1時間あたりの基礎賃金を算出する:
- 月給制の場合:(月給 - 除外される手当) ÷ 月平均所定労働時間
- 年俸制の場合:(年俸 ÷ 12ヶ月 - 除外される手当) ÷ 月平均所定労働時間
月給や年俸から除外される手当(通勤手当、家族手当など)を正確に把握することがポイントです。月平均所定労働時間は、通常、就業規則に記載されていますが、不明な場合は「(365日 – 年間休日) × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月」などで概算することも可能です。
- 残業時間を正確に把握する:
タイムカード、業務日報、PCのログ履歴、業務メールの送受信記録など、客観的な証拠に基づいて、法定外残業、休日労働、深夜労働それぞれの時間を正確に計算します。サービス残業をしている場合は、その時間も忘れずに含めましょう。
- 割増率を適用して計算する:
それぞれの残業時間に、法定の割増率(法定外残業25%、月60時間超残業50%以上、休日労働35%、深夜労働25%)を適用して残業代を算出します。
例:1時間あたりの基礎賃金1,875円、法定外残業20時間の場合
1,875円 × 1.25 (25%増し) × 20時間 = 46,875円
この計算を通じて、ご自身の残業代が適正に支払われているかどうかの判断材料が得られます。もし、会社の計算と大きな乖離がある場合は、次のステップに進む準備ができたと言えるでしょう。
会社との交渉前に準備すべきこと
自分で残業代を計算し、未払いの可能性があると判断した場合、まずは会社と直接交渉することを検討するでしょう。しかし、感情的に話し合うのではなく、冷静かつ客観的な事実に基づいて交渉を進めることが成功の鍵となります。
会社との交渉に臨む前に、以下の準備を徹底しましょう。
- 証拠の徹底的な収集:
残業代請求の成否は、いかに客観的な証拠を提示できるかにかかっています。前述のタイムカード、業務日報、メール、PCログ、入退室記録などに加え、給与明細(基礎賃金や手当の項目確認)、雇用契約書、就業規則(所定労働時間、残業に関する規定確認)なども揃えておきましょう。
可能であれば、証拠をコピーしたり、スクリーンショットを撮ったりして、手元に保管しておくことが重要です。
- 正確な残業代の計算:
収集した証拠に基づき、未払い残業代の総額を正確に計算し、金額を明確にしておきます。計算過程も示せるように準備しておくと、会社側の理解を得やすくなります。
- 会社への請求書作成:
具体的な請求内容(未払い残業代の期間、金額、内訳)を記載した書面を作成します。内容証明郵便で送付すれば、請求した事実と内容が公的に証明され、交渉が膠着した場合の証拠にもなります。
- 交渉のシナリオを想定する:
会社がすぐに支払いを認めるケースもあれば、金額に異議を唱えるケース、あるいは全く取り合わないケースも考えられます。どのような反応があった場合にどう対応するか、いくつかのシナリオを想定しておくと冷静に対応できます。
これらの準備をしっかり行うことで、会社との交渉を有利に進め、自身の権利を守る可能性を高めることができます。
弁護士・社会保険労務士に相談するメリット
会社との交渉がうまくいかない場合や、そもそも自分一人で交渉を進めるのが不安な場合は、迷わず専門家への相談を検討すべきです。
未払い残業代問題において相談できる専門家は、主に弁護士と社会保険労務士の2種類が挙げられます。
弁護士に相談するメリット:
- 代理交渉・訴訟手続き: 弁護士は法律の専門家であり、労働者の代理人として会社と交渉することができます。会社が交渉に応じない場合や、合意に至らない場合には、労働審判や訴訟などの法的手続きを代理で行うことが可能です。
- 付加金の請求: 弁護士は、未払い残業代だけでなく、悪質なケースで裁判所から命じられる付加金の請求も視野に入れて対応できます。
- 時効の管理: 残業代の請求権には時効(原則3年、当面の間は2年)があるため、時効中断の手続きなど、法的な側面からサポートを受けることができます。
- 多角的な法的アドバイス: 残業代問題だけでなく、解雇問題やパワハラなど、関連する他の労働問題も含めて総合的な法的アドバイスが得られます。
社会保険労務士に相談するメリット:
- 労働基準監督署への申告: 社会保険労務士は、労働基準法の専門家として、労働基準監督署への申告手続きをサポートできます。労働基準監督署は、会社に是正勧告や指導を行うことができます。
- 労使紛争のあっせん: 個別労働紛争解決制度(あっせん制度)を利用する際のサポートも行います。あっせんは、裁判よりも簡易な手続きで解決を目指す方法です。
- 労務管理の改善アドバイス(企業側): 企業側の視点では、社会保険労務士は就業規則の作成・変更、勤怠管理システムの導入支援、適切な残業代計算方法の指導など、未払い残業代を発生させないための労務管理体制構築に関するアドバイスを提供できます。
どちらの専門家を選ぶべきかは、問題の状況(交渉段階か、法的措置を視野に入れているかなど)によって異なります。初回無料相談を利用するなどして、まずは現状を説明し、最適な専門家のアドバイスを受けることから始めるのが賢明です。
専門家の力を借りることで、精神的な負担を軽減し、より確実に、そして迅速に問題解決へと導くことができるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 「残業代」とは具体的にどのようなものですか?
A: 法定労働時間を超えて働いた場合に支払われる賃金のことです。割増賃金率が定められています。
Q: 酪農やNPO法人、グループホームなど、業種によって残業代の扱いは変わりますか?
A: 業種自体で残業代の有無が決まるわけではありません。ただし、零細企業や非営利団体などでは、企業規模や経営状況、就業規則によって残業代の支払いや計算方法に違いが生じることがあります。
Q: 「業務委託」の場合、残業代は発生しますか?
A: 「業務委託」は雇用契約ではなく請負契約に該当するため、原則として残業代は発生しません。ただし、実態が雇用契約に近い場合は、残業代が認められるケースもあります。
Q: 「業務手当」とは何ですか?残業代とは違うのですか?
A: 「業務手当」は、職務内容や責任の度合いに応じて支払われる手当であり、残業代とは異なります。残業代はあくまで法定労働時間を超えた分の対価です。
Q: 「残業代」の支払いが少ない、または支払われない場合、どうすれば良いですか?
A: まずは会社の就業規則を確認し、労働基準監督署や弁護士、社会保険労務士などの専門機関に相談することをおすすめします。