【企業事例】働き方改革は進む？NTTグループ・NHK・Googleなどの取り組み

なぜ今「働き方改革」が重要視されるのか

社会情勢の変化と企業の対応

現代社会は、少子高齢化による労働人口の減少、グローバル競争の激化、そして新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる価値観の変化など、企業を取り巻く環境が大きく変化しています。こうした中で、企業は持続的な成長を実現するために、従来の画一的な働き方を見直し、従業員一人ひとりが最大限のパフォーマンスを発揮できるような環境を整備する必要に迫られています。

働き方改革は単なる労働時間の短縮ではなく、生産性向上、多様な人材の確保、そして企業価値の向上に直結する経営戦略として位置づけられています。従業員のウェルビーイングを重視する企業が増え、その結果として企業ブランド力も向上するという好循環も生まれています。企業が社会の変化に適応し、柔軟な姿勢を示すことが、優秀な人材を引きつけ、競争力を高める上で不可欠となっています。

従業員のエンゲージメント向上と生産性

働き方改革は、従業員のエンゲージメント（仕事への意欲や貢献意欲）を向上させる上で不可欠です。柔軟な働き方やキャリアパスの選択肢が増えることで、従業員は仕事と私生活のバランスを取りやすくなり、ストレス軽減にもつながります。結果として、仕事に対するモチベーションが高まり、創造性や生産性の向上に寄与します。

例えば、リモートワークやフレックスタイム制度の導入により、通勤ストレスが軽減され、自己裁量で業務を進める時間が増えることで、従業員はより集中して質の高い仕事に取り組めるようになります。企業側も、従業員の満足度が高まることで、離職率の低下や優秀な人材の定着というメリットを享受できます。従業員が「この会社で働き続けたい」と感じる環境作りが、企業の持続的成長の基盤となります。

多様な人材の確保と定着

現代の企業が競争力を維持するためには、性別、年齢、国籍、障がいの有無などに関わらず、多様なバックグラウンドを持つ人材を積極的に採用し、彼らが活躍できる環境を整えることが不可欠です。働き方改革は、育児や介護と仕事を両立したい人、地方への移住を希望する人、副業を通じてスキルアップしたい人など、多様なニーズに応えることで、これまでリーチできなかった優秀な人材を獲得する強力な手段となります。

例えば、NTTグループが導入した「リモートスタンダード」制度のように、全国どこからでも働ける環境を提供することは、地方在住の優秀な人材や、転勤が難しい家族を持つ人材の獲得に貢献します。多様な働き方を許容することで、企業の採用競争力が高まり、結果としてイノベーションを促進し、新たなビジネスチャンスを生み出す土壌が育まれます。

NTTグループの多様な働き方改革：NTTデータ、NTTコムウェア、東西日本

柔軟な制度設計とリモートワーク推進

NTTグループは、従業員一人ひとりがその能力を最大限に発揮できるよう、「個々に応じた多様な働き方」への対応を重視し、先進的な制度設計を行っています。具体的には、フレキシブルな勤務が可能なフレックスタイム制度や、働く場所を選ばないリモートワーク制度が広く導入されています。さらに、個人の専門性を活かすジョブ型人事制度、グループ内でのスキルアップを促進する社内ダブルワーク制度、さらには自己成長と貢献の機会を広げる社外副業（兼業）制度なども整備されており、従業員が自律的にキャリアを形成できる環境を提供しています。

これらの制度は、多様なライフスタイルに対応し、従業員のエンゲージメント向上に大きく貢献しています。特に2022年7月からは、日本全国どこからでもリモートワークが可能となる「リモートスタンダード」制度を導入し、働く場所の自由度を大幅に高めました。

数値目標と具体的な成果

NTTグループは、働き方改革の成果を定量的に測定し、改善に繋げています。特に注目すべきは、前述の「リモートスタンダード」制度により、転勤や単身赴任を伴わない働き方が飛躍的に拡大したことです。

この制度の導入後、2023年度のリモートワーク率は驚異的な63.2%に達しており、場所にとらわれない働き方が定着していることを示しています。また、NTTデータグループでは、2023年度以降、組織別に総労働時間平均目標を設定し、前年度より8時間／人・年の改善を達成しました。

これは、単に制度を導入するだけでなく、数値目標を掲げて効率化と生産性向上を着実に進めている証拠と言えるでしょう。具体的な目標設定と進捗管理が、改革を実効性のあるものにしています。

育児・介護支援とダイバーシティ

NTTグループは、育児や介護と仕事の両立支援にも力を入れています。多様な人材が長期的に活躍できる企業文化を醸成するため、ダイバーシティセミナーを定期的に実施し、理解促進を図っています。また、実際に育児や介護を経験しながら働く社員の事例紹介や、育児・介護に直面した社員向けのハンドブックや動画の提供を通じて、情報提供と精神的なサポートを充実させています。

これらの取り組みの結果、NTTグループ全体の男性育児休業取得率は、2022年度には128.5％という高い水準を達成しています。これは、男性の育児参加を積極的に支援し、性別に関わらず誰もが安心してキャリアを継続できる環境を整備していることを明確に示しています。育児や介護といったライフイベントに直面してもキャリアを諦めることなく、個々人が能力を発揮し続けられるよう、企業が包括的にサポートする体制が構築されています。

NHK・NRI・Google：先進企業の働き方改革事例

NHK：公共放送としての取り組み

公共放送を担うNHKは、その公共性の高さから、いち早く働き方改革に着手してきました。特に注目されるのは、制作現場における労働環境の改善です。2018年からは、テレビドラマ収録におけるスタジオ撮影を原則として日勤のみに制限することで、長時間労働の是正に取り組んでいます。これは、クリエイティブな仕事においても、従業員の健康とワークライフバランスを重視する姿勢を示す画期的な取り組みです。

また、NHKの「クローズアップ現代」などの番組では、最低賃金の引き上げが地方の女性の低賃金問題に与える影響や、非正規雇用に偏りがちな女性の働き方など、社会全体の働き方に関する課題を深く掘り下げて報道しており、社会への問題提起と意識改革にも貢献しています。自社の改革と同時に、社会全体への働きかけを行うことで、より広範な影響力を発揮しています。

Google：テクノロジーと創造性を育む文化

Googleは、従業員の創造性と生産性を最大限に引き出すための働き方を追求してきました。その象徴的な制度の一つが「20%ルール」です。これは、業務時間の20%を自分が個人的に取り組みたいプロジェクトや社内ベンチャーに充てられる制度で、多くの革新的な製品やサービスがここから生まれています。この自由な発想を尊重する文化が、Googleの成長を支えてきました。

また、スプレッドシート、ハングアウト、ドライブといった自社開発のクラウドツールを最大限に活用し、高度なリアルタイムコラボレーションを実現しています。これにより、従業員は場所や時間にとらわれずに効率的に連携し、プロジェクトを推進することが可能です。テクノロジーを自社の働き方改革にも応用することで、Googleは常に時代の先を行く柔軟で効率的な働き方を実践しています。

Google：女性活躍推進とハイブリッドワークの進化

Googleは、多様性を重視する企業文化のもと、特に女性の活躍支援にも力を入れてきました。2014年から続く「Women Will」プロジェクトは、テクノロジーを活用して女性の働き方を支援することから始まり、現在ではすべての労働者と経営者を対象に、柔軟で効率的な働き方を提案しています。このプロジェクトは、性別に関わらず誰もが働きやすい環境を創出することを目指しています。

しかし、近年、Googleは働き方に関する方針を一部変更しています。パンデミック中のフルリモートワークから、オフィスへの出勤を重視するハイブリッドワーク・ポリシーを厳格化しました。パフォーマンスレビューに出社率が含まれるようになり、フルタイムでのリモートワークは特別な状況のみ考慮される方針に転換し、最適な働き方を模索し続けています。これは、環境変化に応じた柔軟な戦略転換の例とも言えます。

建設・金融業界にも広がる：五洋建設・ゴールドマンサックスの挑戦

建設業界の変革：五洋建設の挑戦

長時間労働が常態化しがちだった建設業界においても、働き方改革の波は確実に押し寄せています。五洋建設のような企業も、その一翼を担っています。建設現場特有の課題、例えば天候による工期の遅延や突発的なトラブル対応など、予測困難な要素が多い中で、労働時間の適正化や生産性向上は喫緊の課題です。

ICT技術の導入による施工管理の効率化、BIM/CIM（Building Information Modeling/Construction Information Modeling）を活用した設計・施工プロセスの改善、あるいは週休二日制の推進といった取り組みが進められています。これらの改革は、若手技術者の確保や女性技術者の活躍を促し、業界全体のイメージ向上と持続可能な成長に貢献しています。

金融業界の変革：ゴールドマンサックスの挑戦

高負荷な業務と長時間労働が当たり前とされてきた金融業界も、働き方改革の必要性を認識し、変革に乗り出しています。ゴールドマン・サックスのようなグローバル金融機関も例外ではありません。彼らは、従業員のワークライフバランスの改善とウェルビーイング向上に注力しています。

具体的には、テクノロジーを活用した業務の自動化や効率化を進め、不必要な残業の削減を目指しています。また、従業員のキャリア形成支援や、メンタルヘルスサポートの充実も図られています。こうした取り組みは、特に若手社員の定着率向上や、多様なバックグラウンドを持つ人材の獲得に繋がり、変化の激しい金融市場において競争力を維持するための重要な戦略となっています。

業界横断的な広がりと共通課題

働き方改革は、NTTグループやGoogleのようなIT・サービス業から、NHKのような公共放送、そして建設・金融といった伝統的な業界へと、その裾野を広げています。それぞれの業界が抱える固有の課題に対応しつつも、共通して見られるのは、労働時間の適正化、生産性の向上、そして多様な人材の確保と定着を目指すという点です。

テクノロジーの活用による業務効率化、柔軟な勤務形態の導入、育児・介護支援の拡充、そして何よりも企業文化の変革が、どの業界においても成功の鍵を握っています。業界間の事例を共有し、良いプラクティスを学び合うことで、日本全体の働き方がより良い方向へと進化していくことが期待されます。

働き方改革の未来と課題：ゴンのように広がる可能性

テクノロジーがもたらす変化

働き方改革の未来において、テクノロジーは中心的な役割を担い続けます。AI、RPA（Robotic Process Automation）、クラウドコンピューティング、メタバースといった技術は、これまでの働き方の常識を根底から覆す可能性を秘めています。例えば、RPAは定型業務を自動化し、従業員はより創造的で付加価値の高い業務に集中できるようになります。

AIはデータ分析や意思決定をサポートし、生産性を飛躍的に向上させるでしょう。また、VR/AR技術の発展は、リモートワークにおけるコラボレーションの質を高め、まるで同じ空間にいるかのような没入感のある体験を提供するかもしれません。これにより、働く場所や時間の制約はさらに緩和され、個人と組織のパフォーマンスは最大化されるでしょう。

企業文化の変革とリーダーシップ

働き方改革が単なる制度導入に終わらず、真に定着するためには、企業文化の抜本的な変革が不可欠です。トップダウンによる強力なリーダーシップのもと、従業員一人ひとりが新しい働き方を主体的に受け入れ、実践するマインドセットを醸成する必要があります。例えば、リモートワークを導入しても、上司が部下の勤務状況を過度に監視したり、対面でのコミュニケーションを過度に重視したりする文化が残っていては、その効果は半減してしまいます。

従業員の自律性を尊重し、成果で評価する文化への移行、そしてオープンで心理的安全性の高いコミュニケーションを奨励することが重要です。経営層は、変革のビジョンを明確に示し、従業員の不安を払拭しながら、新しい文化を育む責任があります。

持続可能な働き方への展望

働き方改革の最終的な目標は、企業が持続的に成長し、同時に従業員一人ひとりが心身ともに健康で充実したキャリアを送れるようにすることです。これは、「ウェルビーイング経営」という概念にも通じます。例えば、人気アニメ『HUNTER×HUNTER』の主人公ゴンのように、無限の可能性や柔軟性を持って、従業員が自身のポテンシャルを最大限に発揮し、仕事を通じて自己実現できるような働き方が理想的です。

そのためには、労働時間の適正化や休暇取得の促進といった基本的な取り組みに加え、従業員のスキルアップ支援、キャリアパスの多様化、メンタルヘルスケアの充実など、多角的なアプローチが求められます。企業は、短期的な利益だけでなく、長期的な視点に立ち、人と組織の持続可能な成長を見据えた働き方改革を推進していく必要があります。