概要: 源泉徴収票とは、給与や報酬からあらかじめ差し引かれた税額を証明する書類です。発行義務の有無、発行時期、個人事業主やアルバイトの場合など、気になる疑問を分かりやすく解説します。
源泉徴収票とは?発行義務と役割を理解しよう
源泉徴収票の基本:収入と税金の証明書
「源泉徴収票」は、会社員やパート・アルバイトとして働くすべての人にとって、非常に重要な書類です。
これは、1年間に会社から支払われた給与・賞与・各種手当といった収入の総額や、そこから差し引かれた社会保険料、生命保険料などの各種控除額、そして最終的に国に納められた所得税額(源泉徴収税額)が詳細に記載された公的な証明書です。
会社は、従業員が支払うべき所得税を毎月の給与から天引き(源泉徴収)し、従業員に代わって国に納める義務があります。源泉徴収票は、この一連のプロセスが適切に行われたことを証明し、従業員にとっては自身の収入と納税状況を正確に把握するための唯一の公的な書類となります。
たとえば、年末調整によって還付金があった場合や、逆に不足税額を徴収された場合なども、この源泉徴収票を見れば一目瞭然です。
複雑に感じるかもしれませんが、あなたの1年間の働きに対する報酬と、それにかかる税金の「成績表」のようなものだと考えると良いでしょう。
この書類があるからこそ、私たちは自身の所得に関する正確な記録を持ち、さまざまな手続きに活用することができるのです。
会社に課される源泉徴収票の発行義務とは
会社(給与支払者)には、従業員に対して源泉徴収票を発行する法的な義務があります。これは、正社員だけでなく、パート・アルバイト、年の途中で退職した人を含め、給与を支払ったすべての従業員が対象となります。
この義務は所得税法第226条に明確に定められており、もし会社がこの義務を怠った場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。これは、源泉徴収票が個人の納税証明としてだけでなく、税務署や市区町村が税金を適切に徴収・管理するために不可欠な書類であるためです。
会社は、従業員から受け取った扶養控除等申告書などの情報をもとに、正確な源泉徴収票を作成し、決められた時期までに交付しなければなりません。
この義務を果たすことは、会社が税法を遵守し、従業員への説明責任を果たす上で非常に重要です。
もしあなたが給与を受け取っているにもかかわらず源泉徴収票が発行されない場合は、会社に発行を依頼する権利があります。会社が正当な理由なく発行を拒否するようであれば、税務署に相談することも可能です。
なぜ源泉徴収票が必要なの?その多岐にわたる役割
源泉徴収票は単に「給与と税金の証明書」というだけでなく、私たちの日常生活の様々な場面でその提出が求められる、非常に汎用性の高い書類です。
主な役割としては、まず確定申告を行う際に必要となります。年末調整で処理しきれない医療費控除や寄付金控除(ふるさと納税)などを申告する場合、源泉徴収票に記載された情報が確定申告書の作成に不可欠です。
また、転職する際には、新しい職場で年末調整を行うために、前職の源泉徴収票を提出する必要があります。これは、その年のすべての収入を合算して正確な税額を計算するためです。
さらに、住宅ローンや自動車ローンの審査、クレジットカードの作成など、金融機関から収入証明を求められる際にも源泉徴収票が有効です。保育園の入園申請や、賃貸物件の契約時など、あなたの支払能力を証明する公的な書類としても幅広く利用されます。
このように、源泉徴収票は自身の納税状況を証明するだけでなく、さまざまな公的手続きや私的な契約において、あなたの「収入の根拠」を示す重要な役割を担っているのです。
紛失すると再発行の手間がかかるため、受け取ったら大切に保管することをおすすめします。
源泉徴収票の発行時期と「いつからいつまで」の期間
年末調整後の発行時期:年間の税金確定報告
源泉徴収票が最も一般的に発行されるタイミングは、年末調整が完了した後です。
年末調整は通常11月から12月にかけて行われ、これによって最終的な所得税額が確定します。
この確定した情報に基づいて、会社は従業員一人ひとりの源泉徴収票を作成し、一般的には12月下旬から翌年の1月末までの間に交付されます。
この源泉徴収票は、その年の1月1日から12月31日までの1年間の収入と税金の記録をまとめたもので、その年におけるあなたの「最終的な所得税額の確定報告書」としての役割を果たします。
例えば、年末調整によって払いすぎた税金が還付される場合(還付金)や、逆に不足していた税金が徴収される場合も、この源泉徴収票を見ればその結果を確認することができます。
もし1月末を過ぎても源泉徴収票が交付されない場合は、経理担当者に確認を求めるようにしましょう。これは、その後の確定申告や各種手続きに影響を及ぼす可能性があるためです。
年の途中での退職・転職時の発行ルール
年の途中で会社を退職したり、転職したりした場合も、源泉徴収票は必ず発行されます。
この場合、会社は退職した日から1ヶ月以内に源泉徴収票を退職者に交付する義務があります。
なぜなら、転職先で年末調整を受けるためには、前職の源泉徴収票が不可欠だからです。転職先の会社は、あなたのその年の全ての収入(前職と現職の合算)を把握して年末調整を行う必要があります。
例えば、10月に退職して11月に転職した場合、新しい会社は年末調整を行う際に、前職の源泉徴収票がなければ正確な税額を計算できません。
もし退職後1ヶ月を過ぎても源泉徴収票が届かない場合は、速やかに前の会社に連絡し、発行を依頼しましょう。
スムーズな転職活動のためにも、また適切な納税のためにも、この発行タイミングは非常に重要です。万が一、紛失してしまった場合も、再発行を依頼することが可能ですので、焦らず対応してください。
従業員からの依頼時の発行:急な収入証明が必要な場面
年末調整後や退職時だけでなく、従業員が特定の目的で源泉徴収票を必要とする場合にも、会社は発行義務を負います。
これは、例えば住宅ローンや自動車ローンの審査を受ける際、あるいは保育園の入園申請、賃貸契約の更新時など、急に収入を証明する書類の提出を求められるケースが考えられます。
このような場合、従業員は会社に源泉徴収票の再発行を依頼することができます。会社は、従業員からの正当な依頼があった場合、速やかにこれに応じる必要があります。
通常は、経理部や総務部に連絡し、再発行の申請書を提出するか、口頭で依頼する形となります。
会社によっては発行までに数日~1週間程度かかることもあるため、必要となる期日が迫っている場合は、早めに依頼するようにしましょう。
多くの場合、再発行に手数料はかかりませんが、会社の規定によっては有料となるケースも稀にありますので、事前に確認しておくと安心です。
源泉徴収票は、公的な信頼性が非常に高いため、様々な場面であなたの経済力を証明する「切り札」として活用できるのです。
個人事業主・アルバイト・退職・転職…ケース別源泉徴収票の疑問
アルバイト・パートでも源泉徴収票はもらえる?
「アルバイトやパートだから源泉徴収票は関係ない」と思っている方もいるかもしれませんが、それは間違いです。
結論から言うと、アルバイトやパートとして給与を得ている人も、会社から源泉徴収票をもらう権利があり、会社には発行義務があります。
所得税法上、「給与」が支払われている限り、雇用形態(正社員、契約社員、パート、アルバイトなど)に関わらず、源泉徴収の対象となり、その結果として源泉徴収票が発行されます。
たとえ年間の給与収入が少なく、所得税を源泉徴収されていない場合(例えば、月88,000円未満で扶養控除等申告書を提出しているケースなど)でも、「支払金額」が記載された源泉徴収票は発行されます。
これは、住民税の計算の基礎となる給与支払報告書の一部としても機能するためです。
例えば、年末調整を受けず複数のアルバイト先から給与を得ている場合や、年間の所得が一定額を超えそうな場合は、確定申告が必要になることもあります。その際、各アルバイト先から発行された源泉徴収票が必須となりますので、忘れずに受け取り、保管しておきましょう。
退職・転職時の複数枚の源泉徴収票の取り扱い
年の途中で退職・転職を経験した場合、その年は複数の会社から源泉徴収票を受け取ることになります。
例えば、A社を3月に退職し、B社に4月から入社した場合、あなたはA社から退職後1ヶ月以内に源泉徴収票を受け取り、年末にはB社からも源泉徴収票を受け取ることになります。
この場合、最終的に在籍している会社(上記の例ではB社)で年末調整を行う際に、前職(A社)の源泉徴収票を提出する必要があります。
これは、年間を通じたすべての収入を合算し、正確な所得税額を計算するために不可欠だからです。もし提出しなかった場合、前職の分の所得が未申告となり、本来よりも少ない所得税で年末調整が行われてしまうため、後日税務署から追徴課税を求められる可能性があります。
また、年の途中で2回以上転職した場合や、最終的な勤務先で年末調整ができない場合(例えば、年末までに退職し、次の会社に就職していないケース)は、ご自身で確定申告を行う必要があります。この際も、すべての源泉徴収票を集めて申告することになりますので、発行された源泉徴収票は全て大切に保管しておきましょう。
個人事業主には源泉徴収票はない?報酬と支払調書
会社員やアルバイトには源泉徴収票が発行されますが、個人事業主には原則として源泉徴収票は発行されません。
個人事業主は会社と雇用契約を結んでいるわけではなく、業務委託契約などに基づいて「報酬」を受け取ります。
この報酬に対して、特定の業務(原稿料、講演料、デザイン料など)の場合、支払元が所得税を源泉徴収することがあります。
しかし、その際に発行されるのは源泉徴収票ではなく、「支払調書(給与所得の源泉徴収票とは異なる)」という書類です。
支払調書は、誰に、いつ、いくら支払ったか、そして源泉徴収した税額はいくらかを支払側が税務署に報告するための書類であり、原則として個人事業主本人に交付する義務はありません。
ただし、多くの支払元は、個人事業主の確定申告の便宜を図るために支払調書を交付しています。
個人事業主は、この支払調書や自分で記録した帳簿をもとに、自身の売上や経費を計算し、確定申告を行うことになります。
したがって、個人事業主として活動している方は、会社員とは異なる税務処理が必要であることを理解し、日々の帳簿付けをしっかりと行うことが重要です。
源泉徴収票0円の場合の発行義務と注意点
源泉徴収税額が0円でも発行義務はある?
源泉徴収票に記載される「源泉徴収税額」が0円になっている場合でも、会社には源泉徴収票を発行する義務があります。
この「源泉徴収税額0円」とは、例えば年間の給与収入が非常に低い場合(例:年収103万円以下で扶養控除等申告書を提出している場合)や、各種控除(社会保険料控除、生命保険料控除、扶養控除など)が大きすぎて所得税がかからない場合に発生します。
所得税がかからないからといって、源泉徴収票が不要になるわけではありません。
源泉徴収票は、所得税の証明だけでなく、「支払金額(年間の総支給額)」や「給与所得控除後の金額」、「社会保険料等の金額」といった、あなたの収入に関する重要な情報が記載されています。
これらの情報は、地方税である住民税の計算の基礎となる「給与支払報告書」としても市区町村に提出されるため、会社は税額が0円であっても、すべての従業員に対して源泉徴収票を作成し、交付しなければなりません。
たとえ所得税を納めていなくても、公的な収入証明として活用できる場面は多いため、0円の場合でも必ず受け取り、保管しておくようにしましょう。
「支払金額」が0円の場合の源泉徴収票
源泉徴収票の「支払金額」欄が0円となるケースは非常に稀ですが、理論上は存在し得ます。
これは、例えば年の途中で従業員として在籍はしていたものの、一度も給与の支払いがなかった場合、あるいは休職期間が長く、給与の支払いがなかった期間のみがその年における在籍期間であった場合などが考えられます。
このような状況でも、会社は給与支払者としての義務を果たすため、原則として源泉徴収票を作成する義務があります。
ただし、実際に「給与の支払い実績」が全くない場合は、源泉徴収義務そのものが発生しないため、結果として源泉徴収票が発行されないこともあります。
重要なのは、「給与の支払いがあったかどうか」という点です。もし少しでも給与が支払われていれば、たとえ少額であっても「支払金額」が記載された源泉徴収票が発行されます。
「支払金額」が0円の源泉徴収票は、通常、確定申告などに利用されることはほとんどありませんが、自身の就労履歴を証明する書類として、あるいは会社が適正に処理を行った証拠として意味を持つことがあります。もし不明な点があれば、会社の経理担当者に直接問い合わせて確認するのが確実です。
源泉徴収票0円でも確定申告が必要なケース
源泉徴収票の源泉徴収税額が0円であっても、確定申告が必要、あるいは確定申告をした方が良いケースがあります。
最も一般的なのは、還付申告をしたい場合です。
例えば、以下のような控除を受けることで、税金が還付される可能性があります。
- 医療費控除: 年間の医療費が一定額を超えた場合
- 寄付金控除(ふるさと納税): 確定申告のワンストップ特例制度を利用しない場合
- 雑損控除: 災害や盗難などで損害を受けた場合
- 住宅ローン控除: 住宅ローン控除の適用を受ける初年度
これらの控除は年末調整では適用できないため、ご自身で確定申告を行うことで、すでに納めた税金(源泉徴収税額が0円でも、社会保険料などが控除されているため、控除額によっては所得税が発生している場合があります)が還付される可能性があります。
また、フリーランスとしての所得など、給与所得以外の所得がある場合で、それが20万円を超えている場合も確定申告が必要です。この場合、給与所得は0円であっても、別の所得に対して税金が発生するためです。
源泉徴収票が0円だからといって確定申告が不要だと決めつけず、自身の状況に合わせて必要性を判断することが重要です。
源泉徴収票の保管期間と年末調整との関係
会社(源泉徴収義務者)の保管義務と関連書類
会社(源泉徴収義務者)には、源泉徴収票そのものを保管する義務や特定の保管期間は定められていません。
これは、原則として源泉徴収票の原本は従業員に交付し、一部は税務署や市区町村に提出するため、会社の手元には残らないからです。
しかし、源泉徴収票を作成するための基礎となる関連書類、例えば「源泉徴収簿」や「給与所得者の扶養控除等申告書」、「保険料控除申告書兼配偶者特別控除申告書」などについては、法律で7年間の保管が義務付けられています。
これらの書類は、税務調査があった際に、源泉徴収票の記載内容が適切であったかを証明するために必要となります。
会社は、これらの重要書類を紛失しないよう厳重に管理し、いつでも税務署からの提出要求に応じられる状態にしておく必要があります。個人情報保護の観点からも、適切な管理体制を構築することが求められます。
したがって、会社は源泉徴収票そのものの保管よりも、その根拠となる書類の保管に重点を置いていると理解しておくと良いでしょう。
従業員が源泉徴収票を保管すべき理由と推奨期間
会社とは異なり、従業員個人に源泉徴収票の保管を義務付ける法律はありません。
しかし、様々な理由から従業員自身が源泉徴収票を大切に保管しておくことを強くお勧めします。
主な保管理由としては、以下の点が挙げられます。
- 確定申告: 医療費控除や寄付金控除などで還付申告をする場合、源泉徴収票が必須です。
- 転職時: 新しい会社で年末調整を受けるために、前職の源泉徴収票が必要になります。
- ローン審査: 住宅ローン、自動車ローン、カードローンなどの申し込み時に、収入証明として提出を求められることがあります。
- 公的手続き: 保育園の入園申請、賃貸契約、奨学金の申請などで収入証明が必要になることがあります。
- 自身の収入把握: 家計管理や将来設計のために、自身の正確な収入状況を把握するのに役立ちます。
推奨される保管期間としては、少なくとも1年から5年程度と考えておくと安心です。特に住宅ローン控除などを受ける場合は、複数年度分の提出が必要となることもあります。
紛失してしまった場合でも、会社に再発行を依頼できますが、手間や時間がかかるため、受け取ったらすぐにファイルなどに整理して保管する習慣をつけるのが賢明です。
源泉徴収票がないと困る!年末調整・確定申告への影響
源泉徴収票は、年末調整や確定申告において極めて重要な書類であり、これがないと手続きがスムーズに進まない、あるいは全くできなくなる可能性があります。
例えば、転職先で年末調整を受ける際に前職の源泉徴収票を提出できない場合、現職の会社ではその年の全収入を合算した正確な年末調整ができなくなります。結果として、本来より少ない所得で年末調整が行われ、後日税務署から追加で税金を納めるよう指示(追徴課税)されるリスクがあります。
また、ご自身で確定申告を行う場合、源泉徴収票がないと給与所得の正確な金額がわからず、申告書を作成することができません。
医療費控除やふるさと納税の寄付金控除など、還付申告を考えている方にとっては、還付金を受け取る機会を逃してしまうことにも繋がります。
最悪の場合、税務署から問い合わせがあった際に、収入の証明ができず、税務上の問題に発展する可能性もゼロではありません。
もし紛失してしまった場合は、速やかに前の勤務先や現在の勤務先の経理担当者に連絡し、再発行を依頼しましょう。
手続きを円滑に進め、余計なトラブルを避けるためにも、源泉徴収票は受け取ったらすぐに内容を確認し、大切に保管することが何よりも重要です。
まとめ
よくある質問
Q: 源泉徴収票とは何ですか?
A: 源泉徴収票とは、給与や報酬からあらかじめ差し引かれた所得税額や社会保険料などを証明する書類です。会社員の場合は年末調整、フリーランスの場合は確定申告の際に必要となります。
Q: 源泉徴収票はいつからいつまで発行されますか?
A: 一般的に、源泉徴収票は前年1月1日から12月31日までの1年間の所得を対象として、翌年の1月頃に発行されます。年末調整が終わった後に会社から受け取ることが多いです。
Q: 個人事業主でも源泉徴収票は発行されますか?
A: 個人事業主は、給与所得者とは異なり、自分で確定申告を行います。そのため、給与明細や領収書などを保管し、ご自身で所得税額を計算する必要があります。ただし、クライアントから報酬を受け取る際に、源泉徴収をされた場合は、その証明として「支払調書」が発行されることがあります。これは源泉徴収票とは異なります。
Q: アルバイトやパートでも源泉徴収票は発行されますか?
A: はい、アルバイトやパートでも、一定の条件(年間の給与収入が103万円を超えるなど)を満たす場合、源泉徴収票が発行されます。年末調整の対象になる場合もありますし、確定申告が必要になる場合もあります。
Q: 退職後や転職した場合、源泉徴収票はどうなりますか?
A: 退職した場合、通常は退職した年の12月末までに、あるいは退職後速やかに、勤務先から源泉徴収票が発行されます。転職した場合も、前の職場からは退職時に源泉徴収票を受け取り、新しい職場での年末調整や確定申告の際に提出することになります。