概要: 「退職金はある会社でもらえない会社もある」そんな疑問を解消!退職金制度の有無、企業年金や共済制度といった種類、そして被雇用者、組合、公務員、契約社員、職種別の違いまで、退職金に関する基本を分かりやすく解説します。
退職金制度の有無:会社によってどう違う?
退職金制度は、長年にわたる従業員の貢献に報い、老後の生活を支える重要な仕組みです。しかし、近年その実施状況や内容には大きな変化が見られます。自身の勤める会社に退職金制度があるのか、どのような内容なのかを正確に把握することは、将来設計において非常に重要です。
退職金制度の実施状況と減少傾向
残念ながら、退職金制度を導入している企業の割合は、過去に比べて減少傾向にあります。2023年の調査では、退職金制度がある企業は全体の約74.9%にとどまり、これは2008年時点と比較すると低下しています。この背景には、低金利環境が長引き、企業が退職金の財源を安定的に確保することが難しくなっている経済状況が挙げられます。また、退職金の平均額自体も年々減少しており、特に大学・大学院卒の平均退職金額は、2018年と比較して減少しています。物価上昇を考慮すると、実質的な退職給付水準は過去8年間で約12%も減少したという分析もあり、退職金だけで老後が安泰とは言えない時代になっていることを示唆しています。
退職金制度の「ある・なし」がもたらす影響
企業に退職金制度があるかないかは、従業員にとってはもちろん、企業側にとっても大きな影響があります。従業員にとっては、老後の生活資金計画を立てる上での重要な柱の一つが失われることになり、心理的な安心感が異なります。退職金がない場合、従業員はiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)などを活用して、より積極的に自助努力で老後資金を準備する必要が出てきます。一方、企業側にとっては、退職金制度は優秀な人材を惹きつけ、定着させるための魅力的な福利厚生の一つです。制度がないと、特に競合他社に制度がある場合、採用競争力で劣る可能性があります。また、従業員のモチベーションやエンゲージメントにも影響を与えかねないため、企業は退職金制度の代替となるようなインセンティブや福利厚生の充実を検討する必要があります。
企業規模や業種による違い
退職金の相場は、企業の規模や属する業種によって大きく異なります。一般的に、従業員数1,000人以上の大企業の方が、中小企業と比較して退職金が高額になる傾向が顕著です。例えば、大企業で大学・大学院卒が定年近くまで勤務した場合、退職金が2,000万円を超えるケースも珍しくありません。対して、中小企業では、大卒で約1,092万円、高卒で約994万円(2022年度データ)と、大企業の半分程度の水準となることもあります。業種別に見ると、「金融業、保険業」や「運輸業、郵便業」、「建設業」などは退職金水準が高い傾向にありますが、「医療、福祉」や「宿泊業、飲食サービス業」などは比較的低い傾向が見られます。これは、各業界の収益性や人件費にかける方針の違い、また定着率の差などが影響していると考えられます。自身の働く業界や企業規模が、退職金の有無や金額に大きく影響することを理解しておくことが重要です。
退職金制度の種類:企業年金や共済制度とは?
退職金制度と一口に言っても、その仕組みは一つではありません。企業が導入している制度によって、受け取れる金額や運用方法、さらには将来設計におけるリスクの所在が大きく変わってきます。主に「一時金」として支給されるものと、「企業年金」として受け取るものに大別され、企業年金もいくつかの種類があります。
確定給付企業年金(DB)の特徴とメリット・デメリット
確定給付企業年金(DB: Defined Benefit)は、あらかじめ将来支払われる給付額が規約で決められている企業年金制度です。企業が掛金を拠出し、その掛金を運用する責任も企業が負います。従業員は、運用状況に関わらず、勤続年数や給与水準に基づいて定められた給付を受け取れるため、将来の受取額が比較的安定しているというメリットがあります。これは従業員にとっては大きな安心材料となります。しかし、企業にとっては、運用が悪化した場合に不足分を補填する義務があるため、財政リスクが高いというデメリットがあります。近年は低金利環境下での運用難から、新規導入が減少したり、他の制度への移行を検討したりする企業が増えています。
確定拠出年金(DC)の特徴とメリット・デメリット
確定拠出年金(DC: Defined Contribution)は、企業が拠出する掛金があらかじめ決められており、その掛金を加入者である従業員自身が運用する制度です。運用成果が直接将来の年金額に反映されるため、運用がうまくいけば多くの年金を受け取れる可能性がある一方で、運用に失敗すれば元本割れのリスクもあります。この制度の大きなメリットは、運用責任が従業員にあるため企業側のリスクが少ないこと、そしてポータビリティがあることです。つまり、転職や退職時にこれまでの積立金を個人型確定拠出年金(iDeCo)に移換したり、転職先の企業型DCに持ち越したりすることが可能です。これにより、キャリアパスが多様化する現代において、より柔軟な資産形成が可能となります。ただし、運用知識が必要になる点がデメリットとも言えます。
その他の退職金制度や併用パターン
上記二つの主要な企業年金以外にも、様々な退職金制度が存在します。かつては多くの企業で導入されていた厚生年金基金は、確定給付型の企業年金の一つでしたが、財政悪化により新規設立はできなくなり、多くの基金が確定給付企業年金や確定拠出年金に移行・解散しています。また、特に中小企業では、国が支援する中小企業退職金共済制度(中退共)を導入しているケースも多く見られます。これは企業が掛金を拠出し、国が運営する制度で、中小企業の退職金制度の普及を促進しています。さらに、多くの企業では企業型DCとDBを併用して導入し、従業員がより柔軟に退職金を受け取れる選択肢を提供しています。例えば、一定額はDBで安定的に保障しつつ、上乗せ部分をDCで従業員が運用するといった形です。自身の勤務先の制度がどのタイプに属するのか、しっかりと確認することが大切です。
退職金をもらえるのはどんな人?被雇用者、組合員、公務員
退職金は、全ての勤労者が一律に受け取れるものではありません。雇用形態、勤務先の種類、勤続年数、退職理由など、様々な条件によってその有無や金額が大きく変わってきます。自分がどのような場合に退職金を受け取れるのか、あるいは受け取れないのかを理解することは、将来のライフプランを立てる上で非常に重要です。
一般的な被雇用者の退職金受給条件
一般的な民間企業の「被雇用者」の場合、退職金制度の対象となるのは、原則として正社員(無期雇用労働者)がほとんどです。退職金の支給条件は、企業の就業規則や退職金規定に明記されており、主に以下の要素が考慮されます。
- 勤続年数:多くの企業では、一定の勤続年数(例:3年以上)を満たさないと退職金が支給されない規定があります。勤続年数が長いほど、支給額が増加する傾向にあります。
- 退職理由:自己都合退職よりも、会社都合退職(定年退職、リストラなど)の方が支給額が高くなるのが一般的です。懲戒解雇の場合は、退職金が支給されないこともあります。
- 役職・給与:役職や退職時の給与水準も、退職金の算定基準となることがあります。
これらの条件は企業によって異なるため、自身の会社の規定を確認することが不可欠です。近年は退職金制度自体がない企業も増えているため、入社前に確認することも重要です。
公務員の退職金制度
公務員(国家公務員、地方公務員)には、民間企業の退職金に相当する「退職手当」制度があります。公務員の退職手当は、国家公務員退職手当法や地方公務員退職手当条例に基づいて支給され、民間企業と比較して制度の安定性が高いという特徴があります。支給額は、勤続年数、退職時の俸給(給与)額、退職理由(定年退職、勧奨退職、自己都合退職など)に応じて算定されます。例えば、定年退職の場合、勤続20年以上の公務員は高額な退職手当を受け取ることが一般的です。かつては恩給制度がありましたが、現在は退職手当制度が主流となっています。公務員は民間企業のような景気変動による制度変更のリスクが少なく、安心して老後設計ができるというメリットがあると言えるでしょう。
組合員(特定の業界団体)の退職金制度
特定の業界団体や協同組合に所属する「組合員」の場合も、独自の退職金制度が存在することがあります。例えば、農業協同組合(JA)や漁業協同組合、生活協同組合などの職員は、それぞれの組織の規定に基づいた退職金や退職手当を受け取ることが可能です。これらの制度は、組合員の相互扶助の精神に基づいていることが多く、組合員の長期的な安定を目的としています。また、中小企業が連携して加入する「中小企業退職金共済制度(中退共)」も、ある意味で組合的な要素を持つ制度と言えます。企業が中退共の掛金を納付することで、従業員は退職時に共済から退職金を受け取れる仕組みです。これらの制度は、個別の企業単独で退職金制度を設けるのが難しい場合に、業界全体や国の支援を活用して従業員の老後資金を確保する有効な手段となっています。自身の勤務先がどのような団体に加盟しているかを確認してみるのも良いでしょう。
契約社員や職種別で退職金はどうなる?
一口に「働く人」と言っても、その働き方や職種は多岐にわたります。正社員が退職金制度の恩恵を受けることが多い一方で、契約社員やパートタイム労働者、あるいは特定の職種では、退職金の有無やその水準が大きく異なることがあります。自身の雇用形態や職種が退職金にどう影響するのかを知ることは、キャリアプランを考える上で非常に重要です。
雇用形態による退職金の違い:正社員と非正規雇用
日本の企業における退職金制度は、長らく正社員(無期雇用労働者)を主な対象としてきました。しかし、近年増加している契約社員やパート・アルバイトといった非正規雇用労働者の場合、退職金制度の対象外であることがほとんどです。企業が退職金規定で「正社員のみに支給する」と定めているケースが多いためです。ただし、近年は「同一労働同一賃金」の原則が浸透しつつあり、正社員と非正規雇用労働者との間で不合理な待遇差をなくす動きが進んでいます。これにより、例えば長期雇用される契約社員に対して、正社員と同様の貢献度であれば退職金制度を適用すべきだという議論も出てきています。現状ではまだ少数派ですが、将来的には非正規雇用でも一定の条件を満たせば退職金が支給されるケースが増える可能性も考えられます。ご自身の雇用契約書や就業規則をよく確認し、不明な点があれば人事担当者に問い合わせることが賢明です。
職種・学歴・勤続年数と退職金の関係
退職金の金額は、雇用形態だけでなく、職種、学歴、そして最も大きな影響を与える勤続年数によって大きく変動します。参考情報でも触れたように、業種別では「金融業、保険業」や「運輸業、郵便業」、「建設業」といった特定の職種が集まる業界で、退職金の水準が高い傾向にあります。これは、これらの業界の特性や、求められる専門性、賃金水準などが影響していると考えられます。学歴も影響し、一般的に大卒・大学院卒の方が高卒・専門学校卒よりも退職金が高額になる傾向が見られます。そして何より、勤続年数は退職金の算定において非常に重要な要素です。多くの企業では、勤続年数が長くなるほど退職金の単価が上がったり、支給率が増加したりする仕組みを採用しています。例えば、勤続10年と20年では、年数が2倍になっても退職金は約3倍になることもあり、長く勤めることのメリットは大きいと言えるでしょう。
専門職やフリーランスにおける退職金準備
企業に雇用される働き方以外に、専門職(医師、弁護士、公認会計士など)として独立開業したり、フリーランスとして働く人々も増えています。これらの働き方を選択した場合、残念ながら会社から退職金が支給される制度はありません。そのため、自身の老後資金はすべて自己責任で準備する必要があります。具体的な準備方法としては、
- iDeCo(個人型確定拠出年金):掛金が全額所得控除の対象となり、運用益も非課税、受取時も税制優遇があるなど、強力な税制メリットを享受できます。
- NISA(少額投資非課税制度):投資で得た利益が非課税になる制度で、iDeCoと並んで老後資金準備の強力な味方となります。
- 小規模企業共済:個人事業主や小規模企業の経営者のための退職金制度で、掛金は全額所得控除の対象となります。
- 個人年金保険:生命保険会社が提供する個人年金を利用し、老後の年金準備を行う方法です。
などを活用することが考えられます。会社に退職金制度がない場合や、独立を考えている場合は、早めにこれらの自助努力による資産形成を始めることが賢明です。
退職金制度を理解して、将来設計に役立てよう
退職金制度は、私たちの老後生活を支える重要な要素でありながら、その仕組みは複雑で、変化も激しい分野です。制度の有無、種類、そして金額に影響を与える要因を正しく理解することは、将来のライフプランを着実に立てる上で不可欠です。漠然とした不安を抱えるのではなく、具体的な行動に移すための第一歩を踏み出しましょう。
自身の勤務先の制度を確認する重要性
まず、最も重要なのは、ご自身の勤務先がどのような退職金制度を導入しているのかを正確に把握することです。就業規則や退職金規程は、人事部や総務部に問い合わせれば開示されるはずです。特に確認すべきポイントは以下の通りです。
- 退職金制度の有無
- 退職金制度の種類(確定給付企業年金DB、確定拠出年金DC、一時金など)
- 支給されるための勤続年数やその他の条件
- 退職理由(自己都合、会社都合、定年)による支給額の違い
- 企業型DCの場合、運用商品の選択肢や手数料
これらの情報を知ることで、退職金を老後資金計画にどのように組み込むか、あるいは不足分をどのように補うかを具体的に検討できるようになります。不明な点があれば、遠慮なく人事担当者に質問し、疑問を解消しておくことが大切です。
老後資金形成のための自助努力
仮に勤務先に退職金制度がない場合や、あっても金額が心もとないと感じる場合、またはより豊かな老後を送りたいと願うのであれば、自助努力による資産形成が不可欠です。政府も「資産所得倍増プラン」を掲げるなど、個人の資産形成を後押しする動きが活発です。活用すべき代表的な制度としては、
- iDeCo(個人型確定拠出年金):税制優遇が非常に大きく、老後資金形成の柱となり得ます。
- NISA(少額投資非課税制度):投資で得た利益が非課税になる制度で、柔軟な資産運用が可能です。
- 個人年金保険:金融機関が提供する個人年金は、計画的な貯蓄を促します。
などがあります。これらの制度を自身のライフプランやリスク許容度に合わせて適切に活用することで、退職金だけに頼らない、盤石な老後資金基盤を築くことができます。早めに情報収集を開始し、専門家のアドバイスも参考にしながら、具体的な行動計画を立てることをお勧めします。
退職金制度の今後の変化と情報収集の必要性
退職金制度は、経済状況や企業の経営戦略、政府の方針などによって常に変化しています。近年では、成果主義型のポイント制の導入や、運用責任が従業員に移る確定拠出年金(DC)への移行が進むなど、制度設計はより多様化しています。また、政府は企業に対して老後資金形成支援の強化を求めており、今後も企業年金制度の拡充や見直しが進む可能性が高いでしょう。こうした変化の波に乗り遅れないためにも、継続的な情報収集が不可欠です。ニュースや経済情報にアンテナを張り、自身の勤務先の制度変更にも注意を払いましょう。退職金制度を深く理解し、それを取り巻く環境の変化に対応することで、私たちはより安心して将来を迎えられるようになります。自身の将来は、自分自身で守り、育てていく意識を持つことが、これからの時代には求められます。
まとめ
よくある質問
Q: 退職金制度がない会社は増えていますか?
A: はい、近年では退職金制度を廃止する企業や、確定拠出年金(企業型DC)などの新しい制度へ移行する企業が増加傾向にあります。
Q: 企業年金と退職金は同じものですか?
A: 企業年金は退職金制度の一部として、または退職金に代わるものとして導入されている場合があります。企業年金には確定給付型と確定拠出型があります。
Q: 公務員(国家公務員)の退職金はどうなりますか?
A: 国家公務員には退職手当制度があり、勤続年数や俸給によって支給額が計算されます。これは国の制度として定められています。
Q: 契約社員でも退職金はもらえますか?
A: 原則として、契約社員は期間の定めのある雇用契約のため、退職金制度の対象外となる場合が多いです。ただし、就業規則で定められている場合や、実質的に無期雇用に近い働き方をしている場合は対象となる可能性もあります。
Q: 退職金制度の有無を調べるにはどうしたらいいですか?
A: 会社の就業規則や労働条件通知書を確認するのが最も確実です。不明な場合は、人事部や総務部に問い合わせるのが良いでしょう。