退職金や401k(確定拠出年金)の受給は、長年働いたことへの報酬であり、老後の生活設計において重要な資金源となります。しかし、その受給方法や税制は複雑であり、個々の状況によって手取り額が大きく変動します。特に、60歳や65歳といった節目での受給ポイントや、税制面での影響について理解しておくことが、損をしないための鍵となります。本記事では、退職金・401kの年数別相場、60歳・65歳受給のポイント、そして近年の税制改正について解説します。

  1. 退職金・401k、勤続年数による受給額の変動とは?
    1. 退職金制度の基本的な仕組みと企業ごとの違い
    2. 401k(確定拠出年金)の加入期間と受給開始年齢の原則
    3. 勤続年数が受給額に与える影響
  2. 勤続7年~40年:年代別退職金・401kの相場をチェック!
    1. 大卒・高卒で異なる退職金の目安
    2. 中小企業と大企業の退職金相場の違い
    3. 401kの積立額は運用状況と加入期間が鍵
  3. 60歳と65歳、受給時期で退職金・401kはどう変わる?
    1. 定年延長と退職金の支給タイミング
    2. 401kの受給開始年齢を繰り下げるメリット・デメリット
    3. 税制面から見る60歳・65歳受給の注意点
  4. 自己都合退職でも退職金・401kはもらえる?
    1. 自己都合退職時の退職金支給条件
    2. 401kは退職理由に関わらず受給可能
    3. 退職理由が税金に与える影響
  5. 退職金・401k、受給方法を賢く選択するコツ
    1. 一時金・年金・併用:それぞれの受給方法の特徴
    2. 税制改正と自身のライフプランを考慮した受給計画
    3. 専門家への相談とシミュレーションの活用
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 退職金や401kの相場は、勤続年数によってどのように変わりますか?
    2. Q: 勤続7年で退職する場合、退職金や401kはいくらくらいもらえますか?
    3. Q: 60歳と65歳で退職金・401kを受給する場合、金額に差はありますか?
    4. Q: 自己都合で退職した場合でも、退職金や401kはもらえますか?
    5. Q: 退職金・401kの受給方法にはどのような選択肢がありますか?

退職金・401k、勤続年数による受給額の変動とは?

近年、働き方が多様化し、終身雇用を前提とした従来の退職金制度から、労働市場の流動性を高めるための見直しが進められています。退職金と401kは、老後の生活資金を支える重要な柱ですが、その仕組みや勤続年数が受給額に与える影響は大きく異なります。

退職金制度の基本的な仕組みと企業ごとの違い

退職金制度は、企業が独自に設ける福利厚生制度の一つであり、その有無、支給額、支給時期、そして計算方法は各企業によって大きく異なります。かつては多くの企業で「退職金規定」が整備されていましたが、近年では退職金制度を設けていない企業も増えています。また、従来の退職金制度は勤続年数が長くなるほど支給額が増える設計が一般的でしたが、労働市場の流動性に対応するため、早期退職優遇制度の導入や、勤続年数以外の要素(例えば、役職や業績貢献度)を重視する制度への移行も進んでいます。

転職を検討する際は、希望する企業の退職金制度の有無はもちろん、勤続年数や退職理由(自己都合、会社都合など)による支給条件、計算方法を事前に確認しておくことが非常に重要です。特に、中小企業の場合、国の支援制度である中小企業退職金共済制度(中退共制度)を活用しているケースも多いため、制度内容をしっかりと把握しましょう。企業によっては、退職金制度を導入せず、その分を給与や賞与に上乗せしている場合もありますので、トータルでの報酬を比較検討することが賢明です。

401k(確定拠出年金)の加入期間と受給開始年齢の原則

401k(確定拠出年金)は、企業型DCと個人型DC(iDeCo)の2種類があり、自分で運用商品を選んで掛金を拠出し、原則として60歳から受給できる私的年金制度です。しかし、60歳で受給を開始するには、加入期間が10年以上あることが条件となります。この「加入期間」とは、企業型DCの加入者期間とiDeCoの加入者期間を合算した期間を指します。

もし加入期間が10年に満たない場合、受給開始年齢は加入期間に応じて段階的に繰り下げられます。例えば、加入期間が8年以上10年未満の場合は61歳から、6年以上8年未満の場合は62歳からといった具合です。最長で65歳まで受給開始が繰り下がるケースもあります。これは、老後の資産形成を目的とした制度であるため、短期間の加入で安易に受給されることを防ぐためのルールと言えます。401kは転職時もポータビリティが確保されており、転職先の企業型DCへの移換やiDeCoへの移行が可能です。これにより、勤続年数に関わらず、生涯を通じて資産形成を継続できる点が大きなメリットです。

勤続年数が受給額に与える影響

退職金と401kでは、勤続年数が受給額に与える影響のメカニズムが異なります。退職金の場合、多くの企業では勤続年数が長ければ長いほど、支給額が増加する設計となっています。これは、長年の功労に報いるという意味合いが強く、例えば勤続20年未満と20年以上で支給率が変わるケースや、勤続30年以上でさらに上乗せがあるといった規定が見られます。特に、自己都合退職の場合には勤続年数が短いと退職金が支給されない、あるいは大幅に減額される企業も少なくありません。

一方、401kにおいては、勤続年数(すなわち加入期間)の長さは、直接的な支給額決定要素というよりも、運用による資産増加の機会に大きく影響します。加入期間が長ければ長いほど、複利効果や市場の変動を乗り越える時間が与えられ、より大きな資産を築ける可能性が高まります。例えば、毎月同額を拠出したとしても、20年間運用するのと40年間運用するのとでは、最終的な受取額に大きな差が生まれます。若いうちから長く加入し、継続的に積み立て・運用を続けることが、401kのメリットを最大限に活かす鍵となります。

勤続7年~40年:年代別退職金・401kの相場をチェック!

退職金や401kの受取額は、個人の勤続年数や企業規模、退職理由、そして運用状況によって大きく変動します。ここでは、それぞれの状況に応じた相場の目安と、401kの積立額を左右する要因について見ていきましょう。

大卒・高卒で異なる退職金の目安

退職金の相場は、学歴や企業規模によって大きく異なります。厚生労働省の調査(「就労条件総合調査」)などによると、勤続年数20年以上で定年退職した場合の大学卒の平均退職金は、約1,896万円(2018年調査)というデータがあります。一方、高卒の場合では、同条件でも大学卒より低くなる傾向が見られます。これは、初任給の違いや、勤続年数に伴う昇進・昇給のスピード、役職手当などが退職金計算の基礎となる場合が多いためです。

また、退職理由によっても相場は変動します。会社都合退職(企業の倒産やリストラなど)の場合、自己都合退職よりも割増で支給されることが一般的です。例えば、大企業・大学卒・総合職・会社都合退職の場合、勤続30年で約1,649万円というデータもありますが、これはあくまで一例であり、個別の企業規定によります。退職金の金額は企業の業績や方針にも左右されるため、あくまで「目安」として捉えることが重要です。

中小企業と大企業の退職金相場の違い

退職金の相場は、企業規模によっても大きく差が出ます。一般的に、大企業の方が中小企業に比べて退職金支給額が高い傾向にあります。これは、大企業の方が経営基盤が安定しており、退職金制度も手厚い傾向にあるためです。しかし、中小企業でも退職金制度を設けているところは多く、特に中小企業退職金共済制度(中退共制度)を利用している企業は少なくありません。

中退共制度は、中小企業が国の制度を利用して従業員の退職金準備を行うもので、企業が掛金を拠出し、従業員は退職時に中退共から直接退職金を受け取ります。この制度を活用している場合、企業規模に関わらず、安定した退職金が期待できます。ただし、中退共制度の退職金は、企業が独自に設ける制度に比べて金額が控えめであるケースが多いのも実情です。自身の勤める企業がどのような制度を導入しているか、具体的な支給額の試算を確認することが大切です。

401kの積立額は運用状況と加入期間が鍵

401kは「退職金」というよりも「個人が積み立て・運用する私的年金」であるため、一概に「相場」という概念は当てはまりません。積立額は、主に以下の3つの要素によって大きく変動します。

  1. 掛金の額: 毎月拠出する金額が多ければ多いほど、最終的な積立額は増加します。企業型DCの場合は企業が掛金を拠出しますが、マッチング拠出制度を利用すれば、従業員自身も上乗せして掛金を拠出できます。iDeCoは全額自己負担です。
  2. 加入期間: 前述の通り、加入期間が長ければ長いほど、運用による複利効果を享受できる期間が長くなり、資産を大きく増やす可能性が高まります。
  3. 運用利回り: 選択した運用商品の利回りによって、資産の増え方は大きく変わります。元本確保型商品(定期預金など)はリスクが低い反面、リターンも小さいですが、投資信託などのリスク性商品は、高いリターンを期待できる一方でリスクも伴います。

例えば、月に2万円を拠出し、年利3%で30年間運用した場合と、20年間運用した場合では、最終的な受取額に数百万円単位の差が生じます。401kは自己責任での運用が求められるため、自身のリスク許容度と目標とする資産額に応じて、適切な運用商品を選ぶことが非常に重要です。定期的に運用状況を確認し、必要に応じてポートフォリオを見直すなど、積極的に関与することで、より多くの資産形成が期待できます。

60歳と65歳、受給時期で退職金・401kはどう変わる?

退職金や401kは、原則として60歳以降に受給可能となりますが、近年は定年延長や継続雇用制度の導入により、65歳まで働き続けるケースが増えています。受給時期を60歳にするか65歳にするか、あるいはそれ以降にするかによって、手取り額や老後の資金計画に大きな影響が出ます。特に税制面での考慮が不可欠です。

定年延長と退職金の支給タイミング

日本の企業では、高年齢者雇用安定法の改正に伴い、65歳までの雇用確保が義務付けられています。これを受けて、多くの企業で定年年齢の引き上げ(60歳から65歳へなど)や、定年後の継続雇用制度が導入されています。これにより、退職金の支給タイミングも変化するケースが増えています。従来の制度では「定年退職時=60歳」で退職金が支給されることが一般的でしたが、定年が65歳に延長された企業では、退職金の支給も65歳まで繰り下げられることがあります。

この変化は、従業員のライフプランに大きな影響を与えます。例えば、60歳時点で住宅ローンの完済や、子どもの教育費の目処を立てるために退職金を充てる計画をしていた場合、支給が65歳まで繰り下がることで資金計画の見直しが必要となります。一方で、長く働き続けることで退職金の支給額が増える可能性もありますが、その間の生活費の確保や、60歳から65歳までの期間の収入がどのように変化するかを考慮する必要があります。企業によっては、60歳到達時に「役職定年」として給与が下がったり、一度退職金を支給し、再雇用時に新たな退職金制度を設けるケースもありますので、自身の会社の規定を事前に確認しておくことが重要です。

401kの受給開始年齢を繰り下げるメリット・デメリット

401k(確定拠出年金)は、原則60歳から受給可能ですが、最長75歳まで受給開始を繰り下げることができます。この「運用継続」の選択には、以下のようなメリットとデメリットがあります。

  • メリット:
    • 運用益の期待: 60歳以降も運用を継続することで、複利効果によりさらに資産を増やす可能性があります。特に、市場の成長が期待できる時期であれば、積極的に運用を継続する価値は大きいです。
    • 資産寿命の延伸: 受給を遅らせることで、老後資金全体としての資産寿命を延ばすことができます。公的年金受給開始までの「つなぎ」としても有効です。
  • デメリット:
    • 市場リスク: 運用を継続するということは、市場の変動リスクにさらされ続けるということです。受給直前に市場が暴落した場合、受取額が減少するリスクがあります。
    • 税負担の増加: 年金形式で受給する場合、公的年金等控除が適用されますが、公的年金と合わせて受給額が増えると、所得税や住民税の負担が大きくなる可能性があります。また、社会保険料の計算にも影響する場合があります。
    • 「9年ルール」への注意: 後述しますが、退職金と401kの一時金を別々に受け取る場合、税制上の優遇措置(退職所得控除)が制限される「9年ルール」が2026年から導入されるため、受給時期の調整がより複雑になります。

これらのメリット・デメリットを比較し、自身の健康状態、他の金融資産の状況、必要な生活費などを総合的に考慮して、最適な受給開始時期を検討することが大切です。

税制面から見る60歳・65歳受給の注意点

退職金や401kの受給時期を検討する上で、税制面での考慮は不可欠です。特に、近年の税制改正の動きには注意が必要です。

  • 退職所得控除の見直し議論:
    近年、退職所得控除の制度が、勤続年数が長いほど控除額が大きくなる現行制度について、働き方の多様化に対応していないとの指摘があり、見直しが議論されています。将来的に控除額が変更される可能性もゼロではありません。
  • 「9年ルール」の導入(2026年~):
    最も重要な変更点の一つが、2026年1月1日以降に適用される「9年ルール」です。これは、確定拠出年金(DC)の一時金と、勤務先から支給される退職一時金(退職金)を異なる時期に受け取る場合の税制に関するものです。現行の「4年ルール」では、退職金を受け取ってから5年目以降にDC一時金を受け取れば、それぞれの退職所得控除が適用され、税負担を軽減できました。しかし、2026年からは、DC一時金と退職一時金それぞれについて、「その前19年以内」に他の退職手当等の支払いを受けていない場合にのみ退職所得控除が満額適用されることになります。具体的には、以前に退職金を受け取っていた場合、そこから9年以内にDC一時金を受け取ると、退職所得控除額が大きく減額され、税負担が増える可能性があります。このルール変更により、退職金と401kの受給時期の調整は、これまで以上に慎重なシシミュレーションと計画が必要となります。
  • 必要書類の保管期間延長:
    税制改正とは異なりますが、退職所得の受給に関する申告書の保存期間が7年から10年に延長されました。これは、将来的な税計算や税務調査に対応するためであり、これらの書類を大切に保管する義務があることを意味します。

これらの税制変更点を踏まえ、自身のライフプランや他の所得との兼ね合いを考慮しながら、最適な受給時期と受給方法を検討することが、手取り額を最大化するための鍵となります。

自己都合退職でも退職金・401kはもらえる?

退職金の支給は、退職理由(自己都合、会社都合など)によって大きく影響を受けることがあります。しかし、401k(確定拠出年金)は基本的に退職理由に左右されません。ここでは、それぞれの制度における自己都合退職時の取り扱いについて解説します。

自己都合退職時の退職金支給条件

退職金制度は企業が独自に定めるため、自己都合退職の場合の取り扱いは会社規定によって大きく異なります。多くの企業では、自己都合退職の場合、会社都合退職に比べて支給額が減額されたり、特定の勤続年数を満たしていないと支給されなかったりするケースが一般的です。例えば、以下のような規定が設けられていることがあります。

  • 勤続年数による制限: 「勤続3年未満の自己都合退職者には退職金を支給しない」といった規定。これは、短期での退職を防ぐ目的や、企業への貢献度が低いとみなされるためです。
  • 支給率の減額: 会社都合退職であれば勤続年数に応じた満額が支給されるところを、自己都合退職の場合は「〇〇%減額」といった形で計算されることがあります。
  • 特定の期間での支給対象外: 試用期間中の退職や、入社後まもない期間での退職は、退職金制度の対象外となることがあります。

自己都合退職を考えている場合は、就業規則や退職金規定を事前に確認し、自身の勤続年数と退職理由でどの程度の退職金がもらえるのか、あるいは全くもらえないのかを把握しておくことが重要です。不明な点があれば、人事部や労務担当者に相談することをおすすめします。確認を怠ると、予期せぬ退職金なしの状況に陥り、退職後の生活資金計画に大きな影響を与える可能性があります。

401kは退職理由に関わらず受給可能

401k(確定拠出年金)は、退職金とは異なり、個人の資産として積み立てられたものです。そのため、自己都合退職であろうと、会社都合退職であろうと、退職理由にかかわらず受給権が失われることはありません。ただし、受給開始には、原則として60歳以上であり、かつ加入期間が10年以上という条件を満たす必要があります。

退職後、すぐに受給開始年齢に達していない場合や、引き続き運用を続けたい場合は、以下のいずれかの手続きが必要になります。

  • 企業型DCからiDeCoへの移換: 退職後、勤務先の企業型DCの加入者資格を失うため、ご自身の判断でiDeCo(個人型確定拠出年金)へ積立金(運用指図者の場合は運用資産)を移換し、運用を継続することができます。
  • 運用指図者への変更: iDeCoへの移換手続きを行わない場合、自動的に「運用指図者」となり、新規の掛金拠出はできなくなりますが、これまでの積立金を運用し続けることは可能です。ただし、一定期間内に手続きを行わないと、国民年金基金連合会に自動移管され、管理手数料が発生したり、運用ができない期間が発生したりするデメリットがあります。

どちらの選択をするにしても、退職後、速やかに手続きを行うことが重要です。これにより、退職理由に左右されずに、ご自身の老後資産を着実に守り、育てていくことができます。

退職理由が税金に与える影響

退職所得控除の計算においては、退職理由(自己都合か会社都合か)が直接的に影響を与えることはありません。退職所得控除額は、基本的に勤続年数によって決まります。具体的には、勤続年数20年以下であれば「40万円 × 勤続年数」、20年超であれば「800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)」で計算されます。つまり、勤続年数が同じであれば、自己都合退職でも会社都合退職でも、控除額は同じです。

しかし、退職理由が「退職金の支給額自体」に影響を与える可能性はあります。前述の通り、多くの企業では自己都合退職の場合、会社都合退職に比べて退職金が減額される傾向にあります。支給される退職金が少なければ、その分退職所得控除を使い切れない可能性があり、結果として「税負担が重くなる」というよりも「元々もらえる退職金が少ないために手取りも少なくなる」という状況になりがちです。また、会社都合退職の場合、失業給付の受給期間が長くなる、給付制限がないなどのメリットもあります。退職後の生活設計を総合的に考える際には、退職金と税金だけでなく、失業給付などの公的制度も考慮に入れる必要があります。

退職金・401k、受給方法を賢く選択するコツ

退職金や401kは、受け取り方によって税金や社会保険料の負担、そして最終的な手取り額が大きく変わります。自身のライフプランや将来の必要資金を考慮し、賢く受給方法を選択することが、損をしないための重要なポイントとなります。ここでは、主な受給方法と、その選択のコツについて解説します。

一時金・年金・併用:それぞれの受給方法の特徴

401k(確定拠出年金)の受給方法は、大きく分けて「一時金」「年金」「一時金と年金の併用」の3種類があります。退職金は一時金で支給されるのが一般的ですが、企業によっては分割払いの制度を設けている場合もあります。それぞれの特徴を理解し、自身の状況に合わせて選択することが重要です。

  • 一時金で受け取る場合:
    • メリット: 「退職所得」として扱われ、退職所得控除が適用されます。この控除額が非常に大きいため、多くのケースで税負担を大幅に軽減できる、あるいは非課税となる可能性が高いです。また、まとめて現金を手に入れられるため、大きな支出(住宅ローンの完済、リフォーム費用、旅行など)に充てやすいという利点もあります。
    • デメリット: 一度に大きな金額を受け取るため、その後の運用益の機会を失います。また、受け取った資金を自己管理する能力が求められ、安易な消費や投資で使い果たしてしまうリスクも存在します。
  • 年金で受け取る場合:
    • メリット: 「雑所得」として扱われ、公的年金等控除が適用されます。受け取りながら残りの資産を運用し続けるため、市場の状況が良ければ、受取総額を増やす可能性があります。また、計画的に毎月(または毎年)一定額を受け取ることで、長期的な生活費の確保に役立ちます。
    • デメリット: 公的年金等控除額は退職所得控除に比べて小さいため、場合によっては一時金よりも税負担が大きくなる可能性があります。公的年金と合わせて所得が増えることで、社会保険料の負担が増加したり、高額療養費制度の自己負担限度額に影響したりする可能性も考慮が必要です。また、運用を継続するため、市場変動リスクを負い続けることになります。
  • 一時金と年金の併用:
    バランスの取れた選択肢として、一部を一時金で受け取り、残りを年金で運用しながら受け取る方法です。例えば、まとまった資金が必要な部分を一時金で確保し、残りを年金として長期的に運用益を得ながら生活費に充てるといった活用が可能です。税制上のメリットと長期的な資産形成のバランスを取る上で有効な選択肢となります。

税制改正と自身のライフプランを考慮した受給計画

退職金・401kの受給計画を立てる上で、税制改正の動向とご自身のライフプランを総合的に考慮することが不可欠です。特に、2026年からの「9年ルール」導入は、退職一時金と401k一時金の受給時期を慎重に検討する必要があることを示しています。例えば、定年退職で退職金を受け取った後、すぐに401kを一時金で受け取ると、退職所得控除の重複適用が制限され、税負担が増える可能性があります。

自身のライフプランを考慮する際には、以下の点を具体的に洗い出しましょう。

  • 将来の必要資金:
    住宅ローンの残債、子どもの教育費、リフォーム費用、海外旅行費用、医療費、介護費用など、将来発生しうる大きな支出を具体的に見積もります。
  • 他の金融資産:
    預貯金、株式、投資信託、不動産など、他の金融資産の状況を把握し、退職金・401kの資金と合わせて、老後の生活資金全体をどう配分するかを考えます。
  • 公的年金との兼ね合い:
    公的年金の受給開始時期と受給額を考慮し、年金収入だけでは不足する部分を退職金・401kでどう補うかを計画します。特に、年金形式で受け取る場合は、公的年金との合計額が税金や社会保険料にどう影響するかをシミュレーションすることが重要です。

これらの要素を詳細に検討することで、税負担を最小限に抑えつつ、ご自身のライフプランに合った最適な受給計画を立てることができます。

専門家への相談とシミュレーションの活用

退職金や401kの受給方法は非常に複雑であり、個々の状況によって最適な選択が異なります。税制改正の動向も常に変化するため、ご自身だけで最適な判断を下すのは難しい場合があります。そこで、ファイナンシャルプランナー(FP)などの専門家に相談することを強くおすすめします。

FPは、ご自身の資産状況、家族構成、ライフプラン、リスク許容度などを総合的に分析し、退職金や401kの最適な受給方法、運用戦略、税制上のアドバイスなど、具体的なプランを提案してくれます。また、多くのFPは、受給額や税負担を詳細に試算できるシミュレーションツールを所有しており、一時金で受け取った場合、年金で受け取った場合、併用した場合など、複数のシナリオで比較検討することが可能です。専門家のアドバイスを活用することで、複雑な制度や税制を理解し、将来にわたって後悔のない賢い選択をすることができます。退職は人生の大きな転機ですので、早めに専門家と連携し、しっかりとした準備を進めましょう。