有給休暇(年次有給休暇)は、労働基準法で定められた労働者の権利であり、心身のリフレッシュや健康維持のために不可欠な制度です。本記事では、有給休暇の付与条件、取得義務、利用方法、そして企業側の注意点について、最新の情報を網羅して解説します。

  1. 有給休暇の基本を知ろう:付与条件と「付与されない」は違法?
    1. 有給休暇が付与される2つの条件と勤続年数ごとの日数
    2. 年5日取得義務化の背景と企業への罰則
    3. 有給休暇が「付与されない」は違法?具体的なケースと対処法
  2. 有給休暇の賢い使い方:副業との両立や「減る」・「復活」の仕組み
    1. 労働者の権利!時季指定権と企業側の時季変更権のルール
    2. 計画的付与制度でスマートに休暇取得
    3. 有給休暇の「減る」・「復活」の仕組み:時効と繰り越し
  3. 企業側の視点:有給休暇の変更権と引当金の基礎知識
    1. 時季変更権の適切な行使とトラブル回避策
    2. 有給休暇管理簿の重要性と法的義務
    3. 有給休暇引当金とは?会計処理の基礎知識
  4. 有給休暇と法定休日の関係、福利厚生としての側面
    1. 有給休暇と法定休日・所定休日の違い
    2. 福利厚生としての有給休暇:取得奨励策
    3. 有給休暇取得率向上のメリットと企業の取り組み事例
  5. 知らないと損!有給休暇に関するよくある疑問をQ&Aで解消
    1. Q1: 有給休暇は半日単位・時間単位で取得できる?
    2. Q2: 退職時に未消化の有給休暇はどうなる?買い取りは可能?
    3. Q3: 有給休暇中に給与は発生する?ボーナスへの影響は?
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: 「有給休暇のない会社」は法的に問題ないのでしょうか?
    2. Q: 有給休暇中に副業をすることは可能ですか?また、会社に知られることはありますか?
    3. Q: 一度取得した有給休暇が「減る」ことや、「復活」することはありますか?
    4. Q: 会社が従業員の有給休暇の取得日を「変更」することはできますか?
    5. Q: 有給休暇は「法定休日」とどう違うのですか?

有給休暇の基本を知ろう:付与条件と「付与されない」は違法?

有給休暇が付与される2つの条件と勤続年数ごとの日数

有給休暇は、すべての労働者に一律に付与されるわけではありません。労働基準法によって、以下の2つの条件を満たした労働者に付与が義務付けられています。

  1. 6ヶ月以上継続して勤務していること: 同じ企業で雇用関係が6ヶ月以上継続している必要があります。この期間は、試用期間や育児休業期間なども含めて計算されます。
  2. 全労働日の8割以上を出勤していること: 6ヶ月の期間において、企業が定めた全労働日の8割以上に出勤していることが条件です。病欠や慶弔休暇などで休んだ場合でも、出勤率が8割を超えていれば付与対象となります。

これらの条件を満たせば、正社員、パート、アルバイトといった雇用形態に関わらず、有給休暇が付与されます。付与される日数は、勤続年数や所定労働時間によって異なりますが、一般的なフルタイム労働者の場合、以下の表のように増加します。

勤続期間 付与日数
6ヶ月 10日
1年6ヶ月 11日
2年6ヶ月 12日
3年6ヶ月 14日
4年6ヶ月 16日
5年6ヶ月 18日
6年6ヶ月以上 20日

例えば、入社から6ヶ月が経過し、その間の出勤率が8割以上であれば、最初の10日の有給休暇が付与されます。短時間労働者(週の所定労働日数が4日以下または週の所定労働時間が30時間未満)の場合、通常の労働者よりも付与日数は少なくなりますが、こちらも条件を満たせば必ず付与される権利があります。

年5日取得義務化の背景と企業への罰則

2019年4月1日より、労働基準法の改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、企業は年間5日の有給休暇を確実に取得させることが義務付けられました。これは、日本の有給休暇取得率が国際的に見て低い水準にあり、過労死やメンタルヘルスの問題が社会課題となっていた背景があります。

「働き方改革」の一環として導入されたこの制度の目的は、労働者の心身のリフレッシュを促し、ワークライフバランスの充実を図ることで、生産性の向上や離職率の低下に繋げることです。企業は、対象となる従業員ごとに有給休暇の取得時季を調整し、年5日以上の取得を確実にする必要があります。具体的には、労働者からの時季指定を尊重しつつ、必要に応じて企業が時季を指定する「時季指定権」を行使するか、労使協定に基づく「計画的付与制度」を活用することになります。

もし企業がこの義務を怠り、年5日の有給休暇を取得させなかった場合、労働基準法違反となり、違反者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性があります。これは、単に取得を促すだけでなく、企業が積極的に取得を管理し、取得させる責任があることを示しています。企業は、有給休暇管理簿の整備や就業規則への明記など、適切な管理体制を構築することが不可欠です。

有給休暇が「付与されない」は違法?具体的なケースと対処法

前述の付与条件(6ヶ月以上の継続勤務と8割以上の出勤)を満たしているにもかかわらず、「有給休暇が付与されない」というケースは、労働基準法違反となります。特に、以下のような慣習や誤解に基づいた運用は違法です。

  • 「試用期間中は有給休暇を付与しない」: 試用期間も継続勤務期間に含まれるため、試用期間が開始から6ヶ月を超え、かつ出勤率が8割以上であれば、有給休暇は発生します。
  • 「パート・アルバイトだから有給休暇はない」: 雇用形態に関わらず、条件を満たせば有給休暇は付与されます。所定労働時間に応じて比例付与される場合もありますが、全く付与されないことはありません。
  • 「正社員ではないから、会社都合で付与日数を減らされる」: 法定の付与日数を下回る日数を付与することはできません。

もし、あなたがこれらの条件を満たしているのに有給休暇が付与されない、あるいは不当に取得を拒否された場合は、以下の対処法を検討してください。

  1. まずは会社に確認・交渉: 人事担当者や上司に対し、労働基準法に基づく権利であることを伝え、付与や取得を求める。
  2. 労働組合に相談: 労働組合がある場合は、団体交渉を通じて解決を図ることが可能です。
  3. 労働基準監督署に相談: 労働基準監督署は、労働基準法に違反する行為を取り締まる行政機関です。相談することで、会社への指導や勧告、さらには送検などの対応をしてもらえる可能性があります。匿名での相談も可能です。

有給休暇は労働者の大切な権利です。知らずに不利益を被ることがないよう、自身の権利について正しく理解し、必要に応じて適切な行動を取ることが重要です。

有給休暇の賢い使い方:副業との両立や「減る」・「復活」の仕組み

労働者の権利!時季指定権と企業側の時季変更権のルール

有給休暇を取得する際の最も基本的な原則は、労働者が希望する時季に休暇を取得できる「時季指定権」を持っていることです。つまり、原則として、いつ有給休暇を取るかは労働者自身が決めることができます。しかし、この権利には例外があります。それが「時季変更権」です。

企業は、労働者が指定した時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、他の時季に変更することができます。この「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、単に忙しいというだけでは認められません。例えば、特定の期間にしかできない業務がある代替要員の確保が著しく困難であるその労働者が休むことで事業全体が著しく停滞するといった、客観的かつ合理的な理由が必要です。過去の判例では、「代わりの労働者を配置できない状況が会社側の努力不足による場合は認められない」といった判断も出ています。

企業が時季変更権を行使する際には、労働者に具体的な理由を説明し、代替日を提案するなど、丁寧な対応が求められます。また、退職を控えている労働者や、時季変更権を行使することで有給休暇が時効消滅してしまうような場合には、原則として時季変更権の行使は認められません。

労働者としては、有給休暇を取得したい日がある場合、できるだけ早めに会社に申請し、会社側の状況も考慮しながら調整することが、円滑な取得に繋がります。企業側も、時季変更権の濫用はトラブルの元となるため、慎重な判断と従業員とのコミュニケーションが不可欠です。

計画的付与制度でスマートに休暇取得

労働者が有給休暇を個別に申請する「時季指定権」とは別に、企業が従業員の有給休暇取得を計画的に進めるための制度が「計画的付与制度」です。この制度は、労使協定を結ぶことで導入が可能となり、付与される有給休暇の日数のうち、5日を除く残りの日数について、企業が取得時季をあらかじめ指定することができます。つまり、年10日付与される場合は5日、年20日付与される場合は15日までが計画的付与の対象となります。

計画的付与制度には、企業と従業員の双方にとってメリットがあります。

  • 企業側のメリット:
    • 有給休暇の取得率を向上させ、法律で定められた年5日取得義務を確実に達成できる。
    • 長期休暇の取得を計画的に促すことで、業務の繁閑に応じた人員配置が可能となり、生産性の向上に繋がる。
    • 従業員が一度にまとめて休暇を取ることで、リフレッシュ効果が高まり、モチベーション維持に貢献できる。
  • 従業員側のメリット:
    • 事前に休暇取得日が決まっているため、旅行や家族とのイベントなどの計画を立てやすい。
    • 周囲に遠慮なく休暇を取得できる雰囲気が醸成される。
    • 有給休暇の未消化を防ぎ、確実に権利を行使できる。

具体例としては、会社全体で夏季休暇や年末年始休暇を数日追加して連休とし、そのうちの一部を有給休暇の計画的付与に充てる、あるいは事業所や部署ごとに交代で休暇期間を設定するといった方法があります。この制度を導入する際は、就業規則への明記と、従業員への周知徹底が重要です。従業員が安心して休暇を取得できる環境整備の一環として、多くの企業で活用が進んでいます。

有給休暇の「減る」・「復活」の仕組み:時効と繰り越し

有給休暇には、その権利が消滅する「時効」と、翌年度に持ち越せる「繰り越し」の仕組みがあります。これを理解することは、労働者にとっても企業にとっても非常に重要です。

まず、有給休暇の時効は2年間です。これは、付与された日から2年が経過すると、その有給休暇は消滅してしまうことを意味します。例えば、2023年4月1日に付与された有給休暇は、2025年3月31日を過ぎると使えなくなります。したがって、せっかく付与された有給休暇を無駄にしないためには、計画的に取得することが大切です。

次に、繰り越しについてです。1年間の間に使いきれなかった有給休暇は、翌年度に限り繰り越すことが可能です。例えば、年間20日が付与され、その年に10日しか消化できなかった場合、残りの10日は翌年に繰り越され、翌年の付与日数(例えば20日)と合わせて合計30日の有給休暇を持つことができます。しかし、繰り越された休暇も時効の対象となります。つまり、繰り越された休暇も付与日から2年が経過すれば消滅するため、翌々年まで繰り越せるわけではありません。

この「減る(時効による消滅)」と「復活(新たな付与と繰り越し)」の仕組みを理解することで、労働者は計画的に休暇を取得しやすくなり、企業は適切な有給休暇の管理を行うことができます。企業は、従業員ごとに有給休暇の付与日、取得状況、残日数、そして時効日を正確に把握し、従業員にも情報提供を行う義務があります。労働者自身も、自身の有給休暇残日数と時効日を定期的に確認し、有効活用する意識を持つことが、心身の健康維持とワークライフバランスの充実に繋がります。

企業側の視点:有給休暇の変更権と引当金の基礎知識

時季変更権の適切な行使とトラブル回避策

企業が従業員の有給休暇申請に対して行使できる「時季変更権」は、事業の円滑な運営を保つための重要な権利ですが、その行使には厳格な条件と配慮が必要です。不適切な行使は、従業員とのトラブルや労働基準法違反に繋がりかねません。

「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、単に人手が足りない、忙しいといった抽象的な理由では認められません。例えば、特定の専門スキルを持つ従業員がその日しか対応できない緊急の業務があるその従業員が休むことで企業の損害が極めて大きくなる代わりの人員をあらゆる努力をしても確保できないといった、客観的かつ合理的な事実に基づいている必要があります。繁忙期であっても、事前に休暇取得を予測し、人員配置や業務計画を見直すなどの努力が企業に求められます。

トラブルを回避するためには、以下の点に留意すべきです。

  • 十分な事前説明: 時季変更権を行使する際は、具体的な理由を丁寧に説明し、従業員の理解を得るよう努める。
  • 代替日の提示: 単に拒否するだけでなく、現実的に取得可能な代替日を複数提示し、従業員と合意形成を図る。
  • 就業規則への明記と周知: 時季変更権の行使条件や手続きについて、就業規則に明確に記載し、従業員に周知しておく。
  • 退職時の対応: 退職前の有給休暇消化については、原則として時季変更権を行使できません。残日数をすべて消化できるよう、計画的な引き継ぎを促すなどの配慮が必要です。

時季変更権は、あくまで例外的な措置であり、従業員の時季指定権を尊重する姿勢が企業には求められます。従業員との良好な関係を維持し、法令遵守の観点からも、適切な運用が不可欠です。

有給休暇管理簿の重要性と法的義務

2019年4月1日の労働基準法改正により、企業は、年10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者について、「有給休暇管理簿」を作成し、3年間保管することが義務付けられました。これは、年5日の有給休暇取得義務を企業が確実に果たしているかを確認するため、また労働者への適切な情報提供を目的としています。

有給休暇管理簿には、以下の項目を正確に記載する必要があります。

  • 労働者氏名: 従業員個人の氏名。
  • 有給休暇付与日: 有給休暇が実際に付与された年月日。
  • 付与日数: 付与された有給休暇の総日数(繰り越し分含む)。
  • 取得時季(取得日): 従業員が有給休暇を取得した具体的な年月日。
  • 取得日数: 取得した有給休暇の日数。
  • 残日数: 現在残っている有給休暇の日数。

この管理簿は、企業が労働者の有給休暇取得状況を正確に把握し、法令遵守の証拠となるだけでなく、労務管理全般の効率化にも繋がります。例えば、未消化日数が多い従業員に対し、計画的な取得を促すなど、積極的な取得促進策を検討する上での基礎情報となります。管理簿の形式は自由であり、紙媒体でも電子データでも構いませんが、いつでも確認・出力できる状態にしておく必要があります。適切な管理簿の作成・保管は、労働基準監督署の調査にも対応できるよう、企業にとって非常に重要な義務です。

有給休暇引当金とは?会計処理の基礎知識

有給休暇引当金とは、従業員が未消化の有給休暇を将来取得する際に発生する賃金支払いの義務に備えて、企業の貸借対照表(バランスシート)に計上される負債(引当金)のことです。これは、従業員がいつでも有給休暇を取得できる権利を持っているため、企業には将来の賃金支払い義務があるという考え方に基づいています。

労働基準法上、有給休暇の買い取りは原則として禁止されていますが、退職時や法定付与日数を超える有給休暇については、企業と従業員の合意があれば買い取りが可能です。この引当金は、このような将来のコストを会計上、当期の費用として認識することで、「費用と収益の対応原則」に従い、企業の財務状況をより正確に反映させるために用いられます。

中小企業においては、有給休暇引当金の計上は義務ではありません。しかし、上場企業や大企業では、一般的に会計基準に基づき計上されることが多いです。計算方法は、未消化の有給休暇日数に、従業員ごとの平均賃金や推定される将来の賃金単価を乗じて算出します。例えば、従業員Aが未消化の有給休暇を10日持っており、その日の平均賃金が1万円であれば、10万円の有給休暇引当金が計上されることになります。

この引当金は、企業の財務健全性を示す指標の一つでもあり、特にM&Aなどの際に企業の潜在的な負債として評価されることがあります。適切な計上は、企業の透明性と信頼性を高める上で重要な会計処理と言えるでしょう。

有給休暇と法定休日の関係、福利厚生としての側面

有給休暇と法定休日・所定休日の違い

有給休暇、法定休日、所定休日はすべて労働者が休む日ですが、それぞれ法的性質と目的が異なります。これらの違いを理解することは、適切な労務管理を行う上で不可欠です。

  • 有給休暇(年次有給休暇):

    労働基準法で定められた「労働者の権利」であり、心身のリフレッシュを目的とした賃金が支払われる休暇です。労働者が本来労働する義務のある日に、その義務を免除されながら賃金を受け取れる日を指します。したがって、もともと労働義務がない休日(法定休日や所定休日)に有給休暇を取得することはできません。

  • 法定休日:

    労働基準法第35条で、企業に少なくとも毎週1回、または4週間に4回以上与えることが義務付けられている休日です。原則として、日曜日など特定の曜日に固定する必要はなく、労働者が週に一度は必ず休めるように設定されます。法定休日に労働させた場合、企業は通常の賃金に加えて35%以上の割増賃金(休日手当)を支払う義務があります。

  • 所定休日:

    法定休日以外で、企業が就業規則等で独自に定めている休日です。例えば、土曜日や祝日、夏季休暇、年末年始休暇などがこれに該当します。所定休日に労働させた場合も、企業は通常の賃金に加えて25%以上の割増賃金(時間外労働手当)を支払う義務があります(週40時間を超える労働の場合)。

つまり、有給休暇は「働くべき日に休む日」であり、法定休日や所定休日は「もともと働く義務がない日」という根本的な違いがあります。労働者がこれらを混同して申請したり、企業が誤った運用をしたりすると、賃金未払いなどのトラブルに発展する可能性があるため、明確な区別が必要です。

福利厚生としての有給休暇:取得奨励策

有給休暇は労働者の権利であり、法令遵守は必須ですが、企業はこれを単なる義務としてではなく、従業員のエンゲージメント向上や定着率改善に繋がる重要な福利厚生と捉えるべきです。積極的な有給休暇取得奨励策は、企業の魅力を高め、優秀な人材の確保にも寄与します。

具体的な取得奨励策としては、以下のようなものが挙げられます。

  • リフレッシュ休暇制度との組み合わせ: 勤続年数に応じて、別途リフレッシュ休暇を付与し、有給休暇と組み合わせて長期休暇を取得しやすい環境を整備する。
  • アニバーサリー休暇(記念日休暇): 誕生日や結婚記念日などに有給休暇の取得を奨励し、個人的なイベントを大切にできる文化を醸成する。
  • 取得目標の設定と進捗の可視化: 部署やチーム単位で有給休暇の取得目標を設定し、定期的に進捗状況を共有することで、取得しやすい雰囲気を作る。
  • 長期連休の推奨: ゴールデンウィーク、夏季休暇、年末年始などに有給休暇を組み合わせることを推奨し、計画的な取得を促す。
  • 時間単位・半日単位有給休暇の導入: 病院受診や子どもの学校行事など、短時間での私用にも対応できるよう、柔軟な取得形態を導入する。

これらの施策は、従業員のストレス軽減やモチベーション向上に直結し、結果として生産性の向上にも繋がります。また、働き方改革を推進する企業に対しては、「働き方改革推進支援助成金」などの制度も活用可能です。助成金を活用することで、有給休暇取得促進のための環境整備にかかる費用の一部を補助してもらえるため、積極的に検討する価値があります。

有給休暇取得率向上のメリットと企業の取り組み事例

有給休暇の取得率向上は、企業にとって単なる法令遵守以上の多くのメリットをもたらします。政府が2025年までに取得率70%を目標に掲げる中、積極的な取得促進は企業の競争力強化に不可欠です。

取得率向上によるメリット:

  • 従業員の心身の健康増進: 十分な休息により、ストレスが軽減され、体調不良やメンタルヘルス不調のリスクが低下します。
  • モチベーション・エンゲージメント向上: 休暇取得が奨励されることで、従業員は会社への信頼感や満足度が高まり、仕事への意欲向上に繋がります。
  • 生産性の向上: リフレッシュした状態で業務に戻ることで、集中力が高まり、効率的かつ質の高い仕事が可能になります。
  • 離職率の低下・人材定着: 働きやすい環境は、優秀な人材の流出を防ぎ、採用コストの削減にも貢献します。
  • 企業イメージの向上: 従業員を大切にする企業姿勢は、採用市場における魅力度を高め、企業ブランドの向上に繋がります。

企業の取り組み事例:

  • 計画的付与制度の積極的活用: 全社一斉休暇や部署ごとのシフト制導入により、取得を「当たり前」の文化にする。
  • ノー残業デーと有給休暇の連動: 定期的なノー残業デーを設け、その前後に有給休暇を推奨することで、短い連休を促す。
  • 上司の率先垂範: 管理職が積極的に有給休暇を取得し、部下も遠慮なく申請できる雰囲気を作る。
  • 取得理由不問の文化: 有給休暇の取得理由を問わず、申請しやすい環境を整える。
  • 福利厚生との組み合わせ: 旅行補助や施設利用割引などと有給休暇を組み合わせ、長期休暇の魅力を高める。

これらの取り組みを通じて、有給休暇は単なる労働者の権利ではなく、企業の持続的な成長を支える重要な戦略的ツールとして機能します。取得率の向上は、従業員と企業双方にWin-Winの関係を築くための鍵となるでしょう。

知らないと損!有給休暇に関するよくある疑問をQ&Aで解消

Q1: 有給休暇は半日単位・時間単位で取得できる?

原則として、有給休暇は1日単位での取得が基本とされています。しかし、従業員の利便性向上や取得促進のため、労使協定を締結することで、半日単位や時間単位での取得も可能となります。

  • 半日単位有給休暇:

    午前の半日、午後の半日といった形で取得できます。例えば、子どもの送迎や役所の手続きなど、半日程度の時間があれば解決する私用に対応しやすくなります。導入している企業も多く、柔軟な働き方をサポートする手段として有効です。

  • 時間単位有給休暇:

    時間単位での取得も可能です。ただし、年間で取得できる時間単位有給休暇は、5日分を上限とすることが労働基準法で定められています。例えば、1日の所定労働時間が8時間の場合、年間最大40時間まで時間単位で取得できます。病院の定期検診や授業参観など、わずかな時間だけ会社を離れたい場合に非常に便利です。

これらを導入するかどうかは企業の判断に委ねられますが、従業員のニーズに応え、有給休暇をより利用しやすい環境を整えることは、従業員満足度向上に大きく貢献します。労使協定を締結する際には、取得のルールや最小単位、申請方法などを明確に定めておくことが重要です。

Q2: 退職時に未消化の有給休暇はどうなる?買い取りは可能?

退職が決まった際、未消化の有給休暇の扱いは多くの労働者が抱える疑問の一つです。

  • 原則は消化:

    退職する労働者は、退職日までに残っている有給休暇をすべて消化する権利があります。この場合、企業は従業員の時季指定権に対し、原則として時季変更権を行使することはできません。なぜなら、退職日以降に有給休暇を取得する機会がなくなるため、時季変更権を行使する意味がないからです。労働者は、残日数を確認し、退職日までの間に計画的に消化することを会社に申し出ることができます。

  • 有給休暇の買い取りは原則禁止、ただし例外も:

    労働基準法上、有給休暇の買い取りは原則として禁止されています。これは、有給休暇が労働者の心身のリフレッシュを目的とした権利であり、お金で解決するべきではないという趣旨があるためです。しかし、以下の例外的なケースにおいては、買い取りが認められることがあります。

    1. 退職時: 退職時に残っている有給休暇について、労使の合意があれば買い取りが可能です。ただし、企業に買い取りの義務はなく、あくまで企業の判断と従業員との合意によります。
    2. 法定付与日数を超える部分: 労働基準法で定められた法定付与日数(最大年20日)を超えて、企業が独自に付与した有給休暇(例: 年25日付与の場合の5日分)については、買い取りが可能です。
    3. 計画的付与制度の対象外部分: 計画的付与制度で対象とならなかった残りの5日分についても、買い取りが可能な場合があります。

    買い取りが行われる場合、その金額は就業規則や労使の合意に基づいて決定されます。買い取りはあくまで例外的な措置であり、有給休暇は本来の目的である「心身のリフレッシュ」のために活用することが最も推奨されます。

Q3: 有給休暇中に給与は発生する?ボーナスへの影響は?

有給休暇を取得した場合、その日に対して給与が支払われるのか、またボーナス(賞与)の査定に影響するのかは、労働者にとって非常に重要な関心事です。

  • 有給休暇中の給与(賃金)について:

    有給休暇は「有給」と名が付く通り、休暇中も賃金が支払われます。労働基準法では、有給休暇中の賃金の計算方法として、以下の3つのうちいずれかを就業規則に定めるよう求めています。

    1. 平均賃金: 過去3ヶ月間の賃金総額をその期間の総日数で割った金額。
    2. 所定労働時間労働した場合の通常の賃金: その日に通常勤務した場合に支払われる賃金。多くの企業がこの方法を採用しています。
    3. 健康保険の標準報酬日額: 健康保険の標準報酬月額を30で割った金額。

    このうち、どの方法を用いるかは企業の就業規則によって定められていますが、多くの場合、通常の出勤日と同じ賃金が支払われるケースが一般的です。有給休暇は「欠勤」とは異なり、賃金が控除されることはありません。

  • ボーナス(賞与)への影響について:

    有給休暇の取得がボーナス(賞与)の査定に直接的にマイナス評価として影響することは、労働基準法で禁止されています。労働基準法第136条では、「使用者は、労働者が年次有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と明記されています。したがって、有給休暇を取得したことのみを理由にボーナスが減額されることは違法です。

    ただし、ボーナスの査定が個人の業績や貢献度に基づいて行われる場合、有給休暇の取得により業務に支障が出た結果、評価期間中の業績が低下したと判断される場合は、間接的に影響する可能性はゼロではありません。しかし、これは有給休暇取得そのものによる不利益な取り扱いとは区別されるべきです。企業は、評価制度を設計する際に、有給休暇取得による不利益が生じないよう十分に配慮し、透明性のある運用を心がける必要があります。