AWS (Amazon Web Services) は、クラウドコンピューティングの世界への第一歩を踏み出す方々にとって、その広範なサービスを無料で試せる「無料利用枠」を提供しています。

しかし、その仕組みや適用条件を正確に理解しないまま利用すると、意図せず課金が発生してしまうリスクも潜んでいます。

本記事では、AWS無料利用枠の最新情報に基づき、その賢い使い方を解説し、安心してクラウドの恩恵を享受できるようサポートします。

AWS無料利用枠の基本:6ヶ月間と750時間とは?

無料利用枠の種類と対象サービス

AWS無料利用枠は、新規のお客様がAWSのサービスを体験・学習できる機会を提供する制度です。

従来の制度では、大きく分けて以下の3つの種類がありました。

  • 12ヶ月間無料枠: AWSアカウント作成から12ヶ月間、特定のサービスを一定量まで無料で利用できます。
  • 常時無料枠(無期限無料枠): 一部のサービスでは、利用回数や容量に制限がありますが、期間の制限なく無料で利用できます。
  • 無料トライアル: 特定のサービスを最初に利用した日から始まる短期間の無料トライアルです。

例えば、従来の12ヶ月間無料枠では、Amazon EC2 (仮想サーバー) のt2.microまたはt3.microインスタンスを月750時間まで、Amazon S3 (オブジェクトストレージ) を5GBまで無料で利用可能でした。

これらの主要サービスには、刷新後のクレジット制の下でも引き続き何らかの無料枠が適用されるものも含まれています。

出典: 参考情報

2025年7月からの新制度:クレジット制への移行

AWS無料利用枠の制度は、2025年7月15日より刷新されました。

従来の「12ヶ月間無料枠」は終了し、新規アカウント向けにクレジット制の新しい無料プランが導入されています。

この新しい無料プランでは、アカウント作成時に最大6ヶ月間、合計200ドル相当のAWSクレジットが付与されます。

このクレジットは、AWSの幅広いサービスで利用可能ですが、一部制限があるため注意が必要です。

この変更は、AWSがユーザーにサービスをより柔軟に試してもらうための施策であり、利用者はクレジットを自身のニーズに合わせて活用できるようになります。

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新無料プラン利用時の注意点と制限

新しい無料プランを利用する際には、いくつかの重要な注意点があります。

まず、付与されたクレジットを使い切るか、またはアカウント作成から6ヶ月が経過すると、アカウントは自動的に閉鎖されます。

閉鎖後90日以内であれば、有料プランへアップグレードすることでデータやリソースを復元できますが、それを過ぎると全データが削除されてしまうため、重要なデータは必ずバックアップを取っておきましょう。

また、AWS Organizationsに参加すると、無料プランのアカウントは自動的に有料プランへ移行し、無料枠の制限が解除されるため、意図せず従量課金が発生する可能性があります。

さらに、AWS Marketplaceや一部のサービスは、無料プランでは利用できない制限もあるため、事前に確認が必要です。

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AWS無料期間の確認方法と終了時期の目安

現在の無料利用状況の把握

AWS無料利用枠を賢く活用するためには、常に自身の利用状況を把握しておくことが不可欠です。

AWSマネジメントコンソールにログインし、「請求とコスト管理」のダッシュボードにアクセスすることで、現在の無料利用枠の使用状況を確認できます。

ここでは、各サービスがどれだけ無料枠を消費しているか、無料枠を超過しているかどうかが一目で分かります。

具体的な項目としては、サービス別、使用タイプ別、リージョン別に利用量とそれに対応する費用が表示されるため、どこでコストが発生しているのかを詳細に把握することができます。

特に、無料枠を超過した部分については課金対象となるため、定期的なチェックが予期せぬ請求を防ぐ鍵となります。

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無料利用枠の残量と有効期限の確認

「請求とコスト管理」のダッシュボード内には、「無料利用枠」というセクションがあり、そこで各サービスの無料枠の残量や有効期限を詳細に確認できます。

例えば、EC2の無料利用枠であれば、月750時間の残り時間や、S3の無料利用枠であれば5GBのストレージのうち何GBを使用しているかが具体的に表示されます。

新しいクレジット制の無料プランを利用している場合は、付与された200ドル相当のクレジット残高と、アカウント作成から6ヶ月間の有効期限が明記されます。

これにより、いつまでにどの程度のサービスを無料で利用できるのかを明確に把握し、計画的にリソースを使い切ることができます。

常にこれらの情報を確認し、余裕を持った利用計画を立てることが重要です。

予期せぬ課金を防ぐためのアラート設定

無料利用枠の残量が少なくなったり、課金が発生するしきい値に近づいたりした際に、自動で通知を受け取る設定をしておくことは非常に重要です。

これには、AWSの提供するAWS Budgetsというサービスが役立ちます。

AWS Budgetsでは、月額のコスト上限を設定し、そのしきい値を超えた際に、設定したメールアドレスに通知を送るように設定できます。

これにより、予算オーバーを未然に防ぎ、安心してAWSのサービスを利用できます。

さらに、Amazon CloudWatchを利用すれば、特定のAWSリソースの使用量(例: EC2インスタンスの稼働時間やS3のデータ転送量)をモニタリングし、異常な使用を検知して自動通知することも可能です。

これらのアラート機能を活用することで、無料枠を超過したことによる予期せぬ課金を効果的に防ぐことができます。

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無料期間終了後に知っておくべきこと

無料枠を超えた場合の自動課金

AWSの無料利用枠は非常に魅力的ですが、その上限を超えた場合、自動的に従量課金制の料金が発生することを理解しておく必要があります。

例えば、Amazon EC2のt2.microインスタンスを月750時間以上稼働させた場合、超過した時間に対しては通常の料金が課金されます。

Amazon S3でも、5GBの標準ストレージを超過したり、GET/PUTリクエスト数が上限を超えたりすると、その分が自動的に請求されます。

このような課金は、月末にまとめて請求されることが多いため、日々の利用状況を意識していないと、突然高額な請求書が届いて驚くことになりかねません。

前述のAWS BudgetsやCloudWatchを活用したアラート設定は、この自動課金から身を守るための重要な手段となります。

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リソースの確実な停止と削除の重要性

AWSのリソースは、たとえ使用していなくても「稼働状態」である限り料金が発生し続けるものが多いです。

そのため、プロジェクトが終了したり、テストが完了したりして不要になったリソースは、確実に停止または削除する習慣を身につけることが極めて重要です。

例えば、Amazon EC2インスタンスを停止しただけでは、ストレージ(EBSボリューム)に対する課金は継続しますし、関連するIPアドレスにも料金が発生する場合があります。

完全に費用を発生させないためには、インスタンス自体を「終了」(Terminate)し、EBSボリュームも削除する必要があります。

S3バケットやRDSデータベースも同様で、使用しないものは削除することで、予期せぬ課金を防ぐことができます。

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AWS Organizations利用時の注意点

複数のAWSアカウントを効率的に管理するためにAWS Organizationsを利用している場合、無料利用枠の扱いに特別な注意が必要です。

AWS Organizationsでは、組織内の全てのアカウントの使用量が集約され、その合計に対して無料利用枠が適用されます。

これは、あるアカウントで無料枠を使い切ると、組織内の他のアカウントの無料枠も消費されたとみなされる可能性があることを意味します。

さらに、新しい無料プランのアカウントがAWS Organizationsに参加すると、自動的に有料プランへ移行し、無料枠の制限が解除される(=従量課金が発生する可能性あり)ため、意図せず課金が発生するリスクが高まります。

組織全体での利用状況を把握し、無料枠の適用ルールを正しく理解した上で利用することが不可欠です。

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AWS無料利用枠を最大限に活用するコツ

対象リージョンとサービスタイプの確認

AWSの無料利用枠は、全てのサービスやリージョンで無条件に適用されるわけではありません。

特定のサービス、特定のインスタンスタイプ、そして特定のリージョンに限定される場合があるため、利用を開始する前に必ず確認が必要です。

例えば、Amazon EC2では、t2.microまたはt3.microインスタンスが無料利用枠の対象となりますが、これら以外のインスタンスタイプを選択するとすぐに課金対象となります。

また、無料枠が適用されるOS(オペレーティングシステム)も限られている場合があります。

多くの無料利用枠は「バージニア北部 (us-east-1)」のような特定のリージョンで最大限に利用できる傾向があるため、利用したいサービスが希望のリージョンで無料枠の対象となっているかを公式サイトで確認することが重要です。

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プロジェクト計画とリソース設計

AWS無料利用枠を最大限に活用するためには、事前にプロジェクトの規模と必要なリソースを計画し、無料枠の範囲内で収まるように設計することが重要です。

例えば、Amazon EC2の月750時間という無料枠は、1台のt2.microインスタンスを1ヶ月間フル稼働させるのに相当します。

しかし、同時に複数のインスタンスを起動したり、より高性能なインスタンスタイプを選んだりすると、すぐにこの時間を超過して課金が発生します。

また、Amazon S3で動画や画像を頻繁にやり取りするようなアプリケーションを構築する場合、GETリクエスト20,000回やPUTリクエスト2,000回という制限に早期に到達する可能性があります。

学習用途や小規模なテスト環境として利用する際は、常に無料枠の制限を意識し、それに合わせたリソース選択を心がけましょう。

常に最新情報をチェックする

AWSの無料利用枠の制度は、ユーザーエクスペリエンスの向上やサービスの拡充に伴い、定期的に更新される可能性があります。

本記事でも触れた2025年7月15日からのクレジット制への刷新は、その代表的な例です。

このような変更は、無料利用の範囲や条件に大きな影響を与えるため、AWSの公式発表や最新のドキュメントを定期的に確認することが極めて重要です。

古い情報に基づいてサービスを利用し続けると、意図しない課金や、最新の無料枠を最大限に活用できないといった機会損失につながる可能性があります。

AWS公式ブログや「AWS無料利用枠」の公式ページを定期的に訪れ、常に最新の情報を把握する習慣をつけましょう。

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AWS無料期間後も安心!代替案と賢い利用法

コスト管理と予算設定の徹底

無料期間が終了し、本格的にAWSを利用する段階に入ったら、より厳格なコスト管理と予算設定が必須となります。

無料期間中に設定したAWS Budgetsは、引き続き積極的に活用し、サービスごとの予算や月額全体の予算を細かく設定しましょう。

予算のしきい値を設定し、それを超えそうになった際に自動でアラート通知を受け取ることで、予期せぬ高額請求を防ぐことができます。

また、毎月の請求書(Billing)を詳細に確認する習慣をつけることも大切です。

請求コンソールでは、サービス別、リージョン別、タグ別に費用を分析できるため、どのリソースがどれだけのコストを生み出しているのかを正確に把握し、無駄な支出がないかをチェックするのに役立ちます。

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不要なリソースの棚卸しと最適化

AWSの利用コストを抑えるためには、定期的な「棚卸し」とリソースの最適化が非常に効果的です。

例えば、利用頻度の低いAmazon EC2インスタンスは停止するか、場合によっては完全に削除することを検討しましょう。

Amazon S3に保存されているデータについても、アクセス頻度に応じてストレージクラスを最適化できます。例えば、あまりアクセスしないデータはS3 Standard-IA (低頻度アクセス)S3 Glacier (アーカイブ)に移行することで、大幅なコスト削減が可能です。

利用していないEBSボリュームやRDSスナップショットなども、課金の対象となることがあるため、定期的に見直し、不要なものは削除することが重要です。

常に「このリソースは本当に必要か、最適な構成になっているか」という視点を持つことが、賢い利用法へとつながります。

AWSの割引モデルと節約プランの活用

長期的な利用が見込まれるAWSリソースについては、様々な割引モデルや節約プランを積極的に活用することで、コストを大幅に削減できます。

代表的なものとして、リザーブドインスタンス (RI)Saving Plansがあります。

リザーブドインスタンスは、EC2やRDSなどの特定のサービスで、1年または3年の利用をコミットすることで、オンデマンド料金と比較して最大75%もの割引が適用される制度です。

一方、Saving Plansはより柔軟な割引モデルで、時間あたりの利用量(ドル)をコミットすることで、EC2、Fargate、Lambdaのコンピューティングリソースで割引が適用されます。

これらのプランは、無料期間終了後にAWSを本格的に利用する際に、コスト効率を最大化するための強力な味方となります。自身の利用パターンに合わせて最適なプランを選択しましょう。