OJTとは?目的と効果を理解する

OJTの定義と重要性

OJT(On-the-Job Training:オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は、「実務を通じて知識やスキルを習得させる」、非常に効果的な人材育成手法です。

職場の上司や先輩が、部下や後輩に対し、実際の仕事を通して必要な知識・技術・技能・態度などを直接指導・教育することで、即戦力化を促します。

単なる「仕事をさせる」こととは異なり、計画的な指導と評価が不可欠であり、これがOJTの成否を分けます。

厚生労働省の「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」にも、職業訓練の質向上のためのプロセスが示されており、これはOJTの質を高める上でも大いに参考になります。

実践的な学びの場として、OJTは多くの企業で人材育成の核として位置づけられています。

OJTの主な目的

OJTには、以下のような多岐にわたる目的があります。

  • 実践的なスキルと知識の習得: 実際の業務で必要なスキルを、机上の空論ではなく直接体験を通じて身につけさせます。
  • 早期の戦力化: 新入社員や異動者が、より早く組織の一員として貢献できるよう、具体的な業務能力を育成します。
  • 企業文化や社内ルールの浸透: 業務を通じて、その企業ならではの仕事の進め方や価値観を自然と理解させます。
  • モチベーションの向上と定着率の改善: 指導者との関係構築や、自身の成長実感を通じて、従業員の仕事への意欲を高め、離職率の低下にも寄与します。
  • 個々の能力に合わせた育成: 個人の進捗や理解度に合わせて、柔軟に指導内容やペースを調整できる点もOJTの大きな利点です。

これらの目的を明確に設定し、指導者と受講者間で共有することが、OJT成功への第一歩となります。

OJTがもたらす効果

OJTを適切に実施することで、企業と従業員双方に大きな効果が期待できます。

厚生労働省の調査によると、OJTがうまくいっており、職場の生産性が向上している企業では、以下のような取り組みが重視されています。

  1. 実践を重視し、経験させる: 実際に手を動かし、試行錯誤する機会を多く提供します。
  2. 仕事のやり方を見せる: 口頭説明だけでなく、指導者自身が模範を示し、具体的な手順を提示します。
  3. 相談や助言を行う: 困ったときにすぐに相談できる環境を整え、的確なアドバイスを与えます。

これらの取り組みにより、従業員は自信を持って業務に取り組めるようになり、組織全体の生産性向上に直結します。

また、指導者と受講者のコミュニケーションが密になることで、良好な人間関係が築かれ、組織の活性化にも貢献します。

結果として、従業員のエンゲージメントが高まり、企業全体の競争力強化につながるでしょう。

(出典:厚生労働省の調査結果)

OJTの段階別進め方と各フェーズでのゴール設定

導入期のOJT:基本的な知識と業務への慣れ

OJTの導入期は、受講者が新しい環境や業務にスムーズに適応し、基本的な土台を築くための非常に重要なフェーズです。

この段階では、主に以下の目標を設定します。

  • 会社の理念、組織体制、主要なサービス・製品の理解
  • 職場のルール、マナー、安全衛生に関する基礎知識の習得
  • 基本的なPC操作、情報共有ツールの使用方法など、業務遂行に必要なツール・システムの習得
  • 担当する部署の役割と、自身の業務が全体の中でどのような位置づけにあるかを理解する

具体的な進め方としては、まずはオリエンテーションを通じて組織全体像を伝え、その後、指導者が「仕事のやり方を見せる」ことに重点を置きます。

例としては、資料作成の基本的な手順、社内システムの初期操作、電話応対のロールプレイングなど、簡単で具体的な業務から始め、少しずつ難易度を上げていくことが効果的です。

この期間は、受講者が「分からないことを聞きやすい」雰囲気作りが何よりも大切です。

成長期のOJT:実践と応用力の習得

導入期を終え、基本的な知識と業務の流れを理解した受講者は、OJTの成長期へと進みます。

このフェーズのゴールは、「自力で業務を遂行し、問題解決の糸口を見つけられるようになること」です。

厚生労働省の調査でも、OJTがうまくいっている企業では「実践を重視し、経験させる」ことが重要視されているとあります。

指導者は、受講者により複雑なタスクや、複数の要素が絡む業務を任せ、積極的に経験を積ませることが求められます。

例えば、簡単な顧客対応から担当顧客を持つ、定型業務に加えて簡易な資料作成を依頼する、といった具合です。

受講者が壁にぶつかった際には、すぐに答えを教えるのではなく、「相談や助言を行う」ことに徹し、自分で考える機会を奪わないように配慮します。

「なぜこの方法を選んだのか?」「他にどんな選択肢があるか?」といった問いかけを通じて、受講者の思考力を養い、応用力を高めていきます。

(出典:厚生労働省の調査結果)

自立期のOJT:課題解決能力と自律性の育成

OJTの最終段階である自立期では、受講者が自ら課題を発見し、解決策を立案・実行できる「自律したプロフェッショナル」へと成長することをゴールとします。

この段階では、指導者はより高度な業務や、プロジェクトの一部を任せることで、受講者の責任感と主体性を引き出します。

例えば、特定の顧客を担当して一連の業務を任せる、小規模な社内プロジェクトのリーダーを経験させる、後輩のOJTに一部関わらせる、といった機会を提供します。

受講者自身が目標を設定し、その達成に向けた計画を立て、自ら進捗を管理する能力を養うことが重要です。

指導者は、受講者の提案やアイデアを尊重し、必要に応じて戦略的な助言や方向性の提示を行います。

「この状況で一番重要な課題は何だと思う?」「その解決策を実行する上で、どんなリスクが考えられる?」といった質問を通じて、より広い視野で物事を捉える力を育成します。

最終的には、指導者がいなくても高いパフォーマンスを発揮できる人材へと育成することを目指します。

OJTで指導する際の具体的な技法と実践例

効果的なティーチングとコーチング

OJTにおける指導には、情報を伝える「ティーチング」と、相手の能力を引き出す「コーチング」の両方が不可欠です。

ティーチングでは、具体的な業務手順や知識を「仕事のやり方を見せる」形で明確に伝えます。

例えば、新しいシステムの操作方法を教える際は、指導者が実際に画面を操作しながら手順を説明し、その後受講者に同じ操作をさせ、疑問点をその場で解消します。

一方、コーチングは、受講者が自ら考え、行動する力を育むために重要です。

例えば、ある業務で課題が発生した際、「どうすれば解決できると思う?」、「この状況で他にどんな選択肢が考えられる?」といった質問を投げかけます。

これにより、受講者は問題解決能力や主体性を養うことができます。

適切なタイミングでティーチングとコーチングを使い分けることで、受講者の学習効果を最大化できるでしょう。

(出典:厚生労働省の調査結果を参考に構成)

フィードバックの質を高める工夫

OJTの効果を最大化するためには、「評価とフィードバック」が非常に重要です。

フィードバックは単に評価を伝えるだけでなく、受講者の成長を促すための具体的な助言であることが求められます。

具体的なフィードバックの工夫としては、以下の点が挙げられます。

  • 具体的かつ客観的に: 「もっと頑張って」ではなく、「先日の資料作成で、グラフの色使いがとても見やすかった。その一方で、数字の根拠をもっと明確にすると、さらに説得力が増すだろう」のように具体例を挙げます。
  • タイムリーに: 業務が終わった直後や、課題が発生したその場でフィードバックを行うことで、記憶が新しいうちに改善点を認識させることができます。
  • ポジティブな面も伝える: 改善点だけでなく、受講者ができたことや成長した点も積極的に伝えることで、モチベーションを維持させます。
  • 双方向の対話: フィードバックは一方的に伝えるだけでなく、受講者からの意見や感想も聞くことで、理解度を深め、納得感を高めます。

定期的な1on1ミーティングなどを活用し、計画的にフィードバックの機会を設けることが、受講者の成長を加速させます。

OJTをサポートするツールとリソース

OJTの質を高めるためには、厚生労働省が提供する様々なツールやガイドラインを積極的に活用することが有効です。

主なツールとリソースは以下の通りです。

  • 民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン: OJTの計画立案から実施、評価までのプロセスを体系的に構築する上で役立ちます。
  • 職業能力評価基準: 業種・職種ごとに必要な職業能力を明確化し、OJTの目標設定や進捗管理、評価の具体的な基準として活用できます。「職業能力評価シート」はダウンロードして利用可能です。
  • OJTコミュニケーションシート: 指導者と受講者の間で、OJTの目的や内容、進捗状況を共有し、効果的なコミュニケーションを促進するためのツールです。
  • 人材開発支援助成金: OJTを含む人材育成の取り組みを支援する制度で、計画届の提出など一定の要件を満たせば、訓練経費や賃金の一部が助成されます。

これらの公的リソースを活用することで、場当たり的ではない、より戦略的かつ効果的なOJTを推進することが可能になります。

(出典:厚生労働省の関連ガイドラインと支援)

OJTの効果を最大化する職場全体の連携

経営層のコミットメントと計画性

OJTの成功には、経営層の強いコミットメントと、組織全体での計画的な取り組みが不可欠です。

OJTは単なる現場任せの教育ではなく、企業の将来を担う人材を育成する重要な戦略と位置づける必要があります。

経営層は、OJTの目的や目標を明確に示し、必要な予算や人員を確保する役割を担います。

また、「育成目標、期間、内容、評価方法などを明確にした計画」を立て、組織全体で共有することが重要です。

この計画には、Off-JT(職場外研修)との連携や、指導者育成の仕組みなども盛り込むべきです。

経営層がOJTの重要性を理解し、積極的に推進することで、指導者も受講者も安心して育成に取り組める環境が生まれます。

(出典:厚生労働省のOJT推進における留意点)

指導者育成とサポート体制

OJTの質は、指導者のスキルに大きく左右されます。そのため、指導者となる上司や先輩社員の育成とサポート体制の構築が非常に重要です。

指導者には、業務知識だけでなく、教えるスキル(ティーチング)、引き出すスキル(コーチング)、そして受講者の意欲を引き出すコミュニケーションスキルが求められます。

具体的な取り組みとしては、以下のようなものが考えられます。

  • 指導者向け研修の実施: 厚生労働省の「職業訓練サービスガイドライン研修」なども参考に、指導法やフィードバックの方法を学ぶ機会を提供します。
  • メンター制度の導入: 指導者自身の相談相手となるメンターを配置し、悩みや課題を共有できる場を設けます。
  • 情報共有とベストプラクティスの共有: 指導者同士が定期的に集まり、OJTの進捗や成功事例、課題などを共有する場を設けることで、組織全体の指導レベルを底上げします。

指導者が自信を持ってOJTに取り組めるよう、企業全体で支援することが、育成効果の向上につながります。

Off-JTとの連携と相乗効果

OJTは実践的なスキル習得に優れていますが、体系的な知識や専門性の高い分野については、Off-JT(Off-the-Job Training:職場外研修)と組み合わせることで、より効果的な人材育成が可能になります。

Off-JTは、集合研修や外部セミナー、eラーニングなど、職場を離れて学ぶ形式の訓練です。

例えば、業務で必要な専門知識や業界動向、またはマネジメントスキルや論理的思考力といった汎用的な能力は、Off-JTで体系的に学ぶことが効率的です。

そして、Off-JTで得た知識やスキルをOJTで実際の業務に応用し、実践の中で定着させることで、学習効果を最大化できます。

Off-JTとOJTをバランスよく組み合わせた研修計画を立てることで、従業員はより深く、幅広いスキルを習得し、企業の成長に貢献できる人材へと育つでしょう。

(出典:厚生労働省のOJT推進における留意点)

OJTの成果を測定する月報の活用法

目標設定と進捗管理の重要性

OJTを成功させるためには、具体的な目標設定と、その目標に対する進捗を可視化する管理が不可欠です。

目標は、「〇月までに、〇〇の業務を一人で完遂できる」のように、期間と達成基準を明確に設定することが重要です。

厚生労働省の「職業能力評価基準」や「OJTコミュニケーションシート」を活用すれば、業種・職種ごとの能力基準に沿って、具体的な目標設定がしやすくなります。

進捗管理は、指導者と受講者間で定期的に行い、目標達成度合いを確認します。

これにより、受講者は自身の成長を実感し、モチベーションを維持できます。

また、指導者にとっても、指導内容の調整や今後の育成計画の見直しに役立つ貴重な情報となります。

目標設定と進捗管理は、OJTの計画性を保ち、効果的な指導を継続するための羅針盤となります。

(出典:厚生労働省の関連ガイドラインと支援)

月報による定期的な振り返り

OJTの成果を測定する具体的な方法の一つとして、「月報」の活用が挙げられます。

月報は、受講者が1ヶ月間の業務内容、OJTで学んだこと、達成できた目標、そして次に取り組むべき課題などを記入するものです。

月報の項目例:

項目 内容
今月の目標 月初に設定した個人目標
達成できたこと 目標達成度、具体的な業務成果、成長した点
課題・反省点 難しかったこと、改善が必要な点、未達成の目標
指導者への質問 不明点、相談したいこと
来月の目標 次に取り組むべき目標

指導者はこの月報を確認し、フィードバックを行うことで、受講者とのコミュニケーションを深めます。

この定期的な振り返りは、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を回す上で非常に有効であり、OJTの質を着実に向上させていきます。

成果の評価と次なる育成計画への反映

月報や定期的な面談を通じて蓄積された情報は、OJTの成果を評価し、その後の育成計画に反映させるための重要な材料となります。

OJTの最終的な評価は、設定した目標に対する達成度、習得したスキルレベル、業務への貢献度などを総合的に判断します。

この評価は、受講者の人事評価や昇進、配置転換などのキャリアプランにも影響を与える可能性があります。

評価の際には、「職業能力評価基準」のような客観的な指標を活用することで、より公平で納得感のある評価が可能となります。

OJTの成果を踏まえ、受講者のさらなる成長のために、どのようなOff-JTが必要か、あるいは次のステップとしてどのような業務経験を積ませるべきかといった次なる育成計画を具体的に立てていきます。

この一連のプロセスを通じて、OJTは単なる研修ではなく、企業の戦略的な人材育成システムとして機能するようになるでしょう。

(出典:厚生労働省の関連ガイドラインと支援)