概要: OJTでの「良くない」経験や、担当者・新人の余裕のなさ、怒られたり放置されたりする状況について解説します。OJTの悪い例から学び、より良い実践のためのヒントを得ましょう。
OJT(On-the-Job Training)は、新入社員や配置転換された社員を即戦力へと育てるための、非常に効果的な人材育成手法です。厚生労働省の「能力開発基本調査」(令和5年度)によると、日本国内の多くの事業所、なんと6割以上(63.2%)が計画的なOJTを実施していると報告されています。
しかし、中には「あれ?OJTってこんなものなのかな?」と疑問を感じたり、「全然成長できていない気がする…」と不安になったりする人もいるかもしれません。このブログ記事では、そんなOJTに関する「あるある」な悩みに焦点を当て、その原因と解決策を深掘りしていきます。もしかしたら、あなたの「あれ?」も、この記事で解決できるヒントが見つかるかもしれません。
OJTでよく聞く「良くない」と感じる瞬間
OJTの意義と現状のおさらい
OJTは「日常の業務に就きながら行われる教育訓練」と定義され、実務を通じて知識、スキル、態度を習得させることを目的としています。その最大のメリットは、即戦力の育成、業務効率化、教育コストの削減、職場内の関係構築、そして個別指導の実現です。多くの企業がその効果を認識し、計画的に取り入れています。しかし、統計上は計画的に実施されているとされていても、現場レベルでは「これで本当に良いのだろうか?」と感じる瞬間があるのも事実です。特に、新入社員にとっては、初めての環境での戸惑いや不安が、OJTの質に大きく影響されることがあります。
理想的なOJTは、新人が安心して質問でき、積極的に業務に取り組める環境を提供することにあります。公的データが示す普及率とは裏腹に、個々の企業や部署、そして指導担当者によって、OJTの実態には大きな差が生まれているのが現状と言えるでしょう。
「これ、本当にOJT?」と感じる指導不足
OJTの効果は、指導者の力量や意欲に大きく依存します。そのため、指導者によって内容にばらつきが生じたり、指導が属人的になったりするリスクがあります。例えば、「今日は何をするの?」「何を教えてもらえるんだろう?」と毎日手探り状態だったり、質問しても「自分で考えて」の一点張りだったり……。これは、指導者が忙しすぎて十分な時間を確保できていない場合や、そもそも指導者自身がOJTに関する研修を受けておらず、指導スキルが不足していることが背景にあるかもしれません。
厚生労働省の指摘にもあるように、指導者の負担増加はOJTの大きなデメリットの一つです。指導者が指導に十分な時間を割けない場合、育成が中途半端になり、結果として新人は「放置されている」と感じてしまいます。これでは、OJT本来の目的である即戦力育成どころか、新人のモチベーション低下にもつながりかねません。
新人が感じる「見放された感」とその背景
OJTが計画的ではなく、場当たり的な指導になりがちな場合、新人は「自分がどう成長すればいいのか分からない」という不安を抱きやすくなります。特に、体系的な知識や業務全体の流れを学ぶ機会が少ないと、「点」の知識ばかりが増えて、それがどうつながるのか理解できません。さらに、指導役とのコミュニケーションが不足していると、職場に溶け込めず、孤立感を感じてしまうこともあります。これは、OJTが指導者だけの責任だと捉えられ、職場全体で新人を育成する協力体制が不足している場合に顕著です。
人間関係の構築はOJTのメリットの一つとされていますが、指導役と育成対象者の間に十分な対話がなければ、そのメリットも活かされません。新人が業務内容だけでなく、職場の文化や人間関係についても安心して相談できるような環境がなければ、結果的に「見放された」と感じてしまい、早期離職につながるリスクもはらんでいます。
「余裕がない」OJT担当者、放置される新人…
OJT担当者の「心と時間のゆとり」問題
OJT担当者は、自身の通常業務をこなしながら新人の指導も行うため、必然的に業務負担が増大します。この負担は、担当者の心理的な余裕を奪い、指導の質に影響を与えかねません。特に、指導方法に関する研修を受けていない場合、担当者は自身の経験や勘に頼りがちになり、指導内容が属人的になります。これでは、新人は指導担当者によって成長度合いが大きく変わってしまうという不公平感を感じるかもしれません。
「能力開発基本調査」でOJTの実施率が高いとはいえ、その内容までが適切であるかは別問題です。もしOJT担当者が「時間がない」「どう教えればいいか分からない」と感じているのであれば、それは個人の問題ではなく、企業としてOJT担当者の業務量を見直し、指導者育成の機会を提供すべきだというサインです。
新人が成長できない「放置」の実態
育成計画の曖昧化は、新人を「放置」状態にしてしまう主要な原因の一つです。「今日のタスクはこれ」と指示されるだけで、その業務の目的や全体像、最終的なゴールが共有されないままでは、新人は言われたことだけをこなす受け身な姿勢になりがちです。また、教える内容や手順が標準化されておらず、マニュアルやチェックリストもない場合、指導担当者ごとに教え方が異なったり、重要なポイントが抜け落ちたりすることも。これは、指導のばらつきや属人化を防ぐための対策が不十分である証拠です。
新人が自ら積極的に学ぼうとしても、何から手を付けていいか分からない、どこまで質問して良いか分からないという状況は、成長機会を奪ってしまいます。「見て盗め」という文化は、体系的な知識習得には限界があるため、現代のOJTでは避けるべき実態と言えるでしょう。
職場全体でOJTを「他人事」にする空気
OJTは指導役個人の責任と思われがちですが、実際には職場全体で新人を育成する体制が不可欠です。しかし、忙しい部署では、OJT担当者以外の社員は新人の指導に積極的に関わろうとせず、結果として「指導役任せ」の雰囲気が生まれることがあります。また、OJT担当者の指導への貢献が適切に評価されない制度も、指導の質が低下する要因となり得ます。指導担当者が自身の評価につながらないと感じれば、モチベーションの維持は困難になるでしょう。
理想的な職場環境では、OJT担当者が一時的に席を外していても、他のメンバーが新人の質問に答えたり、助言を与えたりすることができます。職場全体の協力体制が不足していると、新人は指導担当者がいない時に孤立し、質問の機会を失ってしまいます。OJTはチーム全体の「未来への投資」であり、その意識の欠如はOJTの失敗に直結します。
OJTで「怒られる」「覚えられない」はなぜ?
怒られるのは「期待値のズレ」が原因?
新人が「怒られた」と感じる状況の多くは、指導者と新人の間での期待値のズレが原因です。OJTの目的や具体的な目標が明確に共有されていない場合、新人は何を目指し、何をいつまでに習得すべきかを正確に理解できません。指導者は「これくらいはできるはず」と思っていても、新人はその期待に応えられず、結果として叱責される、という悪循環に陥ります。特に、失敗に対するフィードバックが、原因を共に探る建設的なものではなく、単なる感情的な叱責になってしまうと、新人は萎縮し、自ら学ぶ意欲を失ってしまいます。
計画の策定段階で具体的な目標設定が不足していると、こうしたミスコミュニケーションが生じやすくなります。指導者は、新人の現状のスキルレベルを把握し、一歩ずつ達成可能な目標を設定し、それを新人と共有する努力が不可欠です。
「覚えられない」は教え方の問題?
新人が「覚えられない」と感じるのは、単に新人の能力不足だけではなく、教え方に問題があるケースも少なくありません。例えば、業務の手順が複雑にもかかわらず、口頭での説明のみでマニュアルやチェックリストがない、または一度に多くの情報を詰め込みすぎる、といった状況です。指導者が指導方法に関する研修を受けていない場合、効率的かつ体系的な教え方ができていない可能性が高まります。
また、実務中心のOJTだけでは、業務の背景にある理論や体系的な知識の習得には限界があります。この場合、Off-JT(集合研修)との併用が効果的とされています。OJTは実践的なスキルを磨く場ですが、その土台となる知識がなければ、応用が利きにくく、結果として「覚えられない」という感覚に陥りやすくなります。
フィードバックが「一方通行」になっていませんか?
OJTにおいて、定期的なフィードバックは新人の成長を促す上で不可欠です。しかし、そのフィードバックが指導者から新人への「一方通行」になっていないでしょうか? 評価や改善点を伝えるだけでなく、新人が自身の意見や疑問を安心して伝えられる双方向のコミュニケーションが重要です。失敗を厳しく叱責するのではなく、なぜ失敗したのか、どうすれば改善できるのかを共に考え、次へと活かす姿勢が求められます。
フィードバックの際には、具体的な行動とその結果、そして期待される行動を明確に伝えることが大切です。また、新人が自己評価を行う機会を設け、指導者との認識のズレがないかを確認することも有効です。定期的な面談や進捗確認の場を設けることで、新人の成長を客観的に把握し、適切なアドバイスを与えることができます。
OJTの「悪い例」から学ぶ、失敗しないためのポイント
まずは「目的」を共有し「計画」を立てる
OJTを成功させるための最も重要な第一歩は、その目的を明確にし、育成対象者、指導役、そして企業全体で共有することです。何のためにOJTを行うのか、新人に何を期待し、どう成長してほしいのかを具体的に言語化しましょう。そして、その目的に基づき、「Plan-Do-Check-Action」のサイクルを取り入れた具体的な育成計画を策定することが不可欠です。計画には、目標設定、内容、手順、評価基準などを盛り込み、新人が何をすべきか、何を目指すべきかが一目でわかるようにすることが大切です。
計画が曖昧だと、指導も場当たり的になり、新人も不安を抱えやすくなります。事前にロードマップを示すことで、新人は自身の進捗を把握しやすくなり、主体的に学習に取り組むことができるようになります。
「教える人」を育てることの重要性
OJTの効果は指導者の力量に左右されるため、指導役となる社員への教育は必須です。具体的には、効果的な指導方法、適切なフィードバックの仕方、新人のモチベーション管理、コミュニケーションスキルなどに関する研修を実施することが推奨されます。また、教える内容や手順を標準化し、マニュアルやチェックリストを作成することで、指導のばらつきを減らし、属人化を防ぐことができます。
指導者自身が「どのように教えれば新人が理解しやすいか」を理解していれば、より質の高いOJTが提供できます。これは、OJT担当者の負担を軽減し、彼らの自信にもつながります。指導者の育成は、企業全体の人材育成レベルを高めるための重要な投資と言えるでしょう。
「チーム全体」で新人を受け入れ、定期的に振り返る
OJTは指導役だけの責任ではありません。職場全体で新人の育成をサポートする体制を構築することが重要です。他のメンバーも新人の質問に積極的に答えたり、困っている様子があれば声をかけたりするような、温かい雰囲気作りが求められます。さらに、育成対象者に対し、定期的にフィードバックを行い、評価や改善点を共有する場を設けることが成長を促します。
失敗に対するフィードバックは、厳しく叱責するのではなく、原因を共に探し、今後の改善策を一緒に考える姿勢が大切です。必要に応じて、OJTでは習得しにくい体系的な知識やスキルは、Off-JT(集合研修)と組み合わせることで、より効果的な人材育成が可能になります。チーム全体での定期的な振り返りにより、OJT計画のPDCAサイクルを回し、常に改善していく意識を持ちましょう。
夢オチ?OJTガチャ?現実に起こるOJTの落とし穴
OJTガチャ「あたり」「はずれ」の正体
「OJTガチャ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。これは、OJTの指導者の質や、その指導方法が属人的であるために、新人の成長が「担当者次第」になってしまう現状を揶揄する言葉です。「あたり」を引けば素晴らしい指導を受けられるが、「はずれ」だと放置されたり、適切な指導を受けられなかったりする。これは、個人の運の問題ではなく、企業のOJT制度や指導者育成の仕組みに課題があることを示唆しています。
指導者の力量に依存しすぎるOJTは、結果的に組織全体の育成能力の平準化を妨げます。企業は、OJTが属人化しないよう、指導者の育成やマニュアル化を進めることで、全ての新人が一定水準以上の指導を受けられる環境を整備する責任があります。
「うちの会社は大丈夫?」派遣社員へのOJT義務
意外と見落とされがちなのが、派遣社員へのOJTです。労働者派遣法改正により、派遣先企業は派遣社員に対しても、自社の従業員と同様の教育訓練を提供する義務があります。これには、業務に必要なOJTも含まれます。派遣元(派遣会社)が研修を行う場合や、派遣社員が既にスキルを有している場合を除き、派遣先企業は自社の社員と同等の教育訓練を行う必要があるのです。
もしあなたの会社で派遣社員のOJTが不十分だと感じたら、それは法的義務に反している可能性もある、という認識を持つべきです。全ての働く人々に対し、等しく成長の機会を提供することが、企業としての責任であり、ひいては組織全体の生産性向上にもつながります。
OJTを「コスト」で終わらせないための視点
OJTは、単なる教育コストではなく、企業にとって未来への投資です。即戦力育成による業務効率化、社内コミュニケーションの活性化、教育コスト削減といった多くのメリットがあるにも関わらず、その効果を最大限に引き出せていない企業も少なくありません。もし自社のOJTに「あれ?」と感じる点があれば、それは改善のチャンスです。
国もOJTを支援しており、例えば「人材開発支援助成金」といった制度があります。OJT付き訓練や、Off-JTとOJTを組み合わせた訓練なども対象となる場合がありますので、活用を検討するのも良いでしょう。OJTの落とし穴に気づき、それを乗り越えることで、企業は持続的な成長を実現し、新人も安心して活躍できる未来へとつながります。
(参考:厚生労働省「能力開発基本調査」、労働者派遣法)
まとめ
よくある質問
Q: OJTで「良くない」と感じる具体的な状況は?
A: 担当者の知識不足、教えることへの意欲のなさ、一方的な指示、質問しにくい雰囲気、放置される、などがあります。
Q: OJT担当者が「余裕がない」のはなぜ?
A: 自身の業務に追われている、育成経験がない、新人をどう指導すべきか分からない、といった理由が考えられます。
Q: OJTで「怒られる」「覚えられない」のは誰のせい?
A: どちらか一方のせいとは限りません。新人の学習スタイルや理解度、担当者の指導方法や伝え方、両方の要因が絡み合っていることが多いです。
Q: OJTの「悪い例」から学ぶことは?
A: 具体的な失敗例を知ることで、同様の過ちを避けるための準備ができ、より効果的な指導方法や学習方法を模索できます。
Q: 「OJTガチャ」「夢オチ」とは?
A: 「OJTガチャ」は、配属されるOJT担当者によって育成の質が大きく左右される状況を指します。「夢オチ」は、OJTでの出来事が現実ではなかった、というような皮肉を込めた表現です。
