1. OJTで「疲れる」「辛い」と感じる主な原因
    1. 時間不足と業務量の増加が引き起こす疲弊
    2. 指導者の育成不足と体制の不備が招く戸惑い
    3. OJTトレーナーへの負荷集中と計画のズレによるストレス
  2. OJTで「つきっきり」「付き合う」のが負担になる理由
    1. OJT担当者の心身の疲弊と集中力の低下
    2. 業務効率の低下と生産性への影響
    3. 期待値のギャップとコミュニケーションの課題
  3. OJTが「苦手」「向いてない」と感じる人の特徴と対策
    1. 教えることへの苦手意識やスキル言語化の難しさ
    2. 完璧主義や過度な責任感が引き起こすプレッシャー
    3. 対策としてのスキルアップ支援と組織的サポート
  4. OJTで注意したいハラスメントやネグレクトのリスク
    1. 指導を逸脱したパワーハラスメントのリスク
    2. 教育放棄(ネグレクト)の問題とその影響
    3. ハラスメント・ネグレクトを避けるための環境整備
  5. OJTを乗り越え、成長につなげるための具体的なステップ
    1. 計画的なOJTの設計と目標設定で迷いをなくす
    2. OJTトレーナーの育成と組織的サポート体制の強化
    3. 公的支援制度の活用と継続的な改善サイクル
  6. まとめ
  7. よくある質問
    1. Q: OJTで「疲れる」「辛い」と感じてしまうのは、具体的にどんな理由がありますか?
    2. Q: OJTで「つきっきり」や「付き合う」ことが負担になるのはなぜですか?
    3. Q: OJTが「苦手」「向いてない」と感じる人には、どのような特徴がありますか?
    4. Q: OJTで起こりうるハラスメントやネグレクトには、どのようなものがありますか?
    5. Q: OJTの悩みを乗り越え、成長につなげるためには、どのような注意点がありますか?

OJTで「疲れる」「辛い」と感じる主な原因

OJT(On-the-Job Training)は、新入社員の即戦力化や既存社員のスキルアップに欠かせない育成手法です。しかし、多くの企業やOJT担当者が「辛い」「疲れる」といった悩みを抱えているのが実情です。

なぜOJTが負担となってしまうのでしょうか。その主な原因を見ていきましょう。

時間不足と業務量の増加が引き起こす疲弊

OJTが「辛い」「疲れる」と感じる最も大きな原因の一つは、担当者の業務負担が増加し、新人教育に十分な時間を確保できないことです。人手不足や既存業務の量が増える中で、OJT担当者は自分の仕事をこなしながら、新人の指導にも当たらなければなりません。

厚生労働省の「令和4年度 能力開発基本調査」によると、人材育成に関する課題として「人材育成を行う時間がない」と回答した事業所はなんと45.3%にものぼります。このデータからも、多くの企業でOJTに割く時間の確保が困難であることがうかがえます。

十分な時間を割けないことで、指導は中途半端になりがちで、新人は十分に成長できず、OJT担当者も成果が見えにくいことから精神的な疲弊を感じやすくなります。質の高いOJTを行うには、時間的な余裕と計画的な取り組みが不可欠なのです。

指導者の育成不足と体制の不備が招く戸惑い

OJTの負担を大きくするもう一つの要因は、指導する人材の不足や育成体制の不備です。多くの企業で「指導する人材が不足している」という課題が深刻化しており、OJT担当者が十分な準備やスキルを持たないまま教育を任されるケースが少なくありません。

「どうやって教えれば良いのか」「どこまで教えるべきか」といった明確なガイドラインがないままOJTが進められると、担当者は手探り状態になり、大きなストレスを感じます。また、OJTトレーナー向けの研修が不足していると、指導スキルやフィードバックの仕方にばらつきが生じ、育成効果にも差が出てしまいます。

社内での教育体制が整っていないことは、OJT担当者を孤立させ、モチベーションの低下にもつながりかねません。適切な指導方法や育成計画の共有は、OJTを成功させるための重要な鍵となります。

OJTトレーナーへの負荷集中と計画のズレによるストレス

特定のOJTトレーナーに育成の負荷が集中することも、大きな負担の原因です。一人の担当者が複数人の新人を同時に抱えたり、自身の業務と並行してOJTに多くの時間を割かなければならない状況は珍しくありません。これにより、個々のトレーナーの業務負担が極端に大きくなり、肉体的にも精神的にも追い詰められることがあります。

また、OJTが計画通りに進まないことも、ストレスの原因となります。新人の理解度や習熟スピードが想定と異なったり、現場の状況が変化したりすることで、当初立てた育成計画が崩れてしまうことはよくあります。

計画の遅れは、OJT担当者に「目標達成できないのではないか」という焦りやプレッシャーを与え、疲弊を加速させます。質のばらつきや計画のズレは、OJT担当者だけでなく、新人にとっても不安要素となり、結果的に組織全体の生産性にも影響を与えかねません。

出典:厚生労働省

OJTで「つきっきり」「付き合う」のが負担になる理由

OJTでは、新人が業務に慣れるまで「つきっきり」で指導したり、「付き合って」隣で作業を教えたりする場面が多くあります。しかし、この「つきっきり」の指導が、担当者にとって大きな負担となることがあります。

なぜ、手厚い指導が逆に負担となるのでしょうか。

OJT担当者の心身の疲弊と集中力の低下

新人に「つきっきり」で指導するということは、常に新人の動向に気を配り、質問に答え、フィードバックを与え続けることを意味します。この状態が長時間続くと、OJT担当者は精神的に非常に疲弊してしまいます。

自分の業務を進める時間がない、休憩時間も新人の対応で削られてしまう、といった状況は日常茶飯事です。これにより、OJT担当者は慢性的な疲労感やストレスを抱えやすくなります。また、常に気を張っている状態では、自身の業務への集中力も低下し、ミスを誘発する可能性も高まります。

身体的な疲労と精神的な負担が重なることで、OJT担当者のエンゲージメントも低下し、最悪の場合、心身の健康を損ねる事態に陥ることもあります。

業務効率の低下と生産性への影響

OJT担当者が新人に「つきっきり」になることで、当然ながら自身の業務を進める時間が大幅に減少します。これは個人の業務効率の低下だけでなく、部署全体の生産性にも影響を与えかねません。

担当者自身が抱えている業務が滞り、納期が遅れたり、他のメンバーに負担が集中したりといった問題が発生することもあります。特に繁忙期においては、「つきっきり」の指導が既存業務の足かせとなり、部署全体のパフォーマンスを低下させるリスクがあります。

企業としては、新人の育成も重要ですが、既存業務の効率を維持することも不可欠です。OJT担当者が自分の業務と指導のバランスを適切に取れるよう、組織的なサポート体制が求められます。

期待値のギャップとコミュニケーションの課題

OJTにおける「つきっきり」指導は、新人側とOJT担当者側の間で期待値のギャップを生むことがあります。新人は手厚い指導や質問しやすい環境を期待する一方で、OJT担当者は自分の業務もあるため、常に隣にいられるわけではありません。

このギャップが、新人の「質問しにくい雰囲気」や、OJT担当者の「常に監視されているようなプレッシャー」につながることがあります。また、新人が過度に依存してしまい、自律的な問題解決能力が育ちにくいという課題も生じかねません。

適切な距離感を保ちながら、効果的なコミュニケーションを確立することは、OJT成功の鍵です。例えば、質問の時間を設ける、週次で進捗を確認するなどのルールを設けることで、双方の負担を軽減しつつ、質の高い指導を目指すことができます。

OJTが「苦手」「向いてない」と感じる人の特徴と対策

OJT担当者の中には、「自分はOJTが苦手だ」「教えることに向いていない」と感じる人もいます。これは、担当者自身の性格やスキル、あるいは組織のサポート体制に起因することが少なくありません。

ここでは、そうした特徴と、その対策について考えてみましょう。

教えることへの苦手意識やスキル言語化の難しさ

OJTが苦手だと感じる人の特徴として、まず「教えることへの苦手意識」が挙げられます。自身のスキルや経験を言語化して他者に伝えるのが得意でない、人前で話すのが苦手、といったタイプです。

長年の経験で培った「感覚的なスキル」は、無意識のうちに行っていることが多いため、それを論理的に分解し、ステップバイステップで説明するのは非常に難しい作業です。また、新人のレベルに合わせて説明の仕方を変える、相手の理解度を確認しながら進める、といった教育スキルが不足している場合もあります。

こうした苦手意識は、自信の喪失にもつながり、OJT担当者自身のモチベーションを低下させてしまいます。教えること自体は訓練で習得できるスキルであるため、適切な研修やロールプレイングの機会を提供することが重要です。

完璧主義や過度な責任感が引き起こすプレッシャー

もう一つの特徴として、完璧主義であったり、責任感が非常に強い人がOJTを苦手だと感じやすい傾向があります。新人の成長を全て自分の責任と捉えすぎ、「自分がしっかり教えないと」というプレッシャーを過度に感じてしまうためです。

新人がなかなか業務を習得できないと、自分の指導方法が悪かったのではないか、と自責の念にかられてしまいます。また、失敗を恐れるあまり、新人に任せる範囲を限定したり、細かすぎる指導になったりして、結果的に新人の自律性を阻害してしまうこともあります。

完璧を目指すことは素晴らしいことですが、OJTにおいては適度な「見守り」や「任せる勇気」も必要です。OJT担当者は「新人の成長は担当者一人の責任ではない」という認識を持つことが大切です。

対策としてのスキルアップ支援と組織的サポート

OJTが苦手だと感じる担当者をサポートするためには、具体的な対策が不可欠です。まず、OJTトレーナー向けの研修を充実させることが重要です。

この研修では、指導の基本原則、効果的なフィードバックの方法、コミュニケーションスキル、そしてハラスメント防止に関する知識などを習得します。厚生労働省が提供する「職業能力評価基準」や「OJTコミュニケーションシート」といったツールを活用することも有効です。

さらに、組織的なサポート体制も欠かせません。例えば、複数担当制を導入して一人のトレーナーに負荷が集中するのを避けたり、教育専任者を配置してOJTトレーナーの相談役になったりすることも考えられます。定期的な面談でOJT担当者の悩みを聞き、必要に応じてサポートを行うことで、孤立感を解消し、安心して指導に取り組める環境を整えることができます。

出典:厚生労働省

OJTで注意したいハラスメントやネグレクトのリスク

OJTは新人の成長を促す貴重な機会ですが、指導と称してハラスメントが行われたり、あるいは必要な教育がなされずに放置される「ネグレクト」が発生するリスクも潜んでいます。これらは新人の成長を阻害するだけでなく、組織の健全性にも深刻な影響を与えます。

OJTにおけるハラスメントとネグレクトのリスク、そしてその回避策について見ていきましょう。

指導を逸脱したパワーハラスメントのリスク

OJTの現場では、指導の名のもとにパワーハラスメントが発生するリスクがあります。例えば、以下のような行為が該当します。

  • 新人の能力や人格を否定するような言葉を浴びせる
  • 業務とは無関係な私的な雑務を強要する
  • 過度な叱責や威圧的な態度で精神的に追い詰める
  • 特定の業務を一人に押し付け、他の指導をしない

これらは単なる指導の範疇を超え、新人の尊厳を傷つけ、精神的な苦痛を与える行為です。OJT担当者は指導する立場にあるため、無意識のうちに新人にプレッシャーを与えてしまうこともあります。指導の目的は新人の成長であり、決して新人をコントロールしたり、優位な立場を利用して不当な扱いをすることではありません。

企業は、指導とハラスメントの線引きを明確にし、全従業員に周知徹底することが求められます。

教育放棄(ネグレクト)の問題とその影響

ハラスメントとは反対に、OJT担当者が新人を放置し、必要な教育やサポートを提供しない「ネグレクト」(教育放棄)も大きな問題です。忙しさを理由に新人にまともに接しない、質問されても適当にあしらう、必要な情報を与えない、といったケースがこれに当たります。

「見て覚えろ」という指導方法も、その程度によってはネグレクトとみなされることがあります。新人は放置されることで、業務への理解が深まらず、適切なスキルを習得できません。孤立感や不安を抱え、最悪の場合、早期離職につながる可能性もあります。

ネグレクトは、新人の成長機会を奪うだけでなく、組織全体としての人材育成の停滞を引き起こします。OJTは単なる「見習い期間」ではなく、体系的な教育期間として位置づけるべきです。

ハラスメント・ネグレクトを避けるための環境整備

OJTにおけるハラスメントやネグレクトのリスクを避けるためには、組織全体での環境整備が不可欠です。まず、明確なOJTマニュアルや指導基準を作成し、OJT担当者全員に共有することが重要です。

また、ハラスメント防止研修を定期的に実施し、指導における注意点や適切なコミュニケーション方法について学ぶ機会を提供します。新入社員に対しては、OJTの進め方や相談窓口について事前に情報提供し、安心して働ける環境を整えることが求められます。

さらに、人事担当者などが定期的に新人と面談を行い、OJTの進捗状況や悩みを聞き取ることで、早期に課題を発見し、解決につなげることができます。新人が安心して声を上げられるような、風通しの良い組織文化を醸成していくことが何よりも大切です。

OJTを乗り越え、成長につなげるための具体的なステップ

OJTで抱える様々な悩みや負担は、個々の担当者だけの問題ではなく、組織全体で取り組むべき課題です。ここでは、OJTを効果的に乗り越え、新人の成長、ひいては組織の成長につなげるための具体的なステップを紹介します。

計画的なOJTの設計と目標設定で迷いをなくす

OJTを成功させる最初のステップは、具体的で計画的なOJTの設計と目標設定です。OJTが曖昧なまま始まってしまうと、指導者も新人も何を目指せば良いのか分からず、迷いや不安が生じます。

まず、育成計画書を作成し、OJTの目的、目標、アクションプラン、評価方法などを明確にしましょう。新人がいつまでに何をできるようになるのか、具体的なスキルや知識をリストアップし、それに合わせた学習ステップを設定します。厚生労働省が提供する「職業能力評価基準」や「OJTコミュニケーションシート」を活用することで、指導内容の標準化や進捗管理が格段にスムーズになります。

これらのツールを活用し、OJT開始前に新人とも目標を共有することで、双方のモチベーション向上にもつながります。

出典:厚生労働省

OJTトレーナーの育成と組織的サポート体制の強化

OJTの質を高めるためには、OJTトレーナーへの継続的なサポートと育成が不可欠です。OJT担当者向けの研修を実施し、指導スキルやコミュニケーション能力の向上を図ることで、OJTの質のばらつきを抑えることができます。

また、トレーナーへの負荷集中を避けるため、複数担当制や教育専任者の配置も有効な選択肢です。チーム全体で新人育成に関わる体制を構築したり、OJT担当者の業務量を見直したりすることで、一人ひとりの負担を軽減し、より質の高い指導に集中できる環境を整えられます。

さらに、OJTトレーナーが抱える悩みを共有し、解決策を共に考えるための定期的なミーティングやメンター制度の導入も効果的です。組織として「OJT担当者を孤立させない」という強い意志を示すことが重要です。

公的支援制度の活用と継続的な改善サイクル

OJTの質を高めるためには、公的な支援制度の積極的な活用も非常に有効です。厚生労働省は、企業の人材育成を支援するための様々な助成金制度を設けています。

例えば、「人材開発支援助成金」の「人への投資促進コース」では、OJTやOff-JTにかかる費用や賃金の一部を助成しており、企業の経済的負担を軽減しながら質の高い研修機会を提供することが可能です。また、「認定実習併用職業訓練」のように、OJTとOff-JTを組み合わせた実践的な訓練も推奨されています。

これらの制度を賢く利用し、OJT担当者の育成や研修に投資することで、より効果的な人材育成が期待できます。OJTは一度行ったら終わりではなく、定期的なフィードバックと改善を繰り返すことで、常にその質を高めていく継続的な取り組みであるべきです。

出典:厚生労働省、中小企業庁、政府広報オンライン