概要: 2023年10月から始まったインボイス制度。領収書や適格請求書(インボイス)に関する疑問にお答えします。適格事業者番号の確認方法や、登録番号がない場合の対応、さらには印紙税や保管期間についても解説します。
インボイス制度とは?領収書と適格請求書(インボイス)の違い
インボイス制度の基本と導入背景
2023年10月1日から施行されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除に関する新しいルールです。
この制度の導入により、請求書や領収書といった書類には、発行事業者の登録番号や適用税率、税率ごとの消費税額などの記載が義務付けられることになりました。
これにより、事業者間の取引における消費税の計算方法や経理業務に大きな変化が求められています。
国税庁の発表によると、2023年6月末時点で約300万の課税事業者のうち、8割を超える256万事業者が適格請求書発行事業者の登録を済ませています。
「領収書」と「適格請求書(インボイス)」、何が違う?
インボイス制度下では、消費税の仕入税額控除を受けるために「適格請求書」、すなわち「インボイス」の保存が必須となります。
従来の領収書は、支払いの事実を証明するものでしたが、インボイスとして機能するためには、特定の記載事項が追加で求められます。
具体的には、発行事業者の登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価の額、そして税率ごとの消費税額または適用税率の記載が不可欠です。
これらの記載がない領収書では、原則として仕入税額控除を受けることができなくなり、受領者側の税負担が増える可能性があります。
インボイス制度が事業者にもたらす影響
インボイス制度の導入は、課税事業者と免税事業者の双方に影響を及ぼしています。
課税事業者にとっては、仕入税額控除の適用条件が厳格化され、経理業務の負担が増加する可能性があります。
また、免税事業者にとっては、取引先が仕入税額控除を受けられないことから、取引の減少や価格交渉を求められるケースが増えるなど、経営に直結する影響も考えられます。
実際、多くの事業者が制度導入による事務負担の増加を実感しており、制度への対応完了は26.8%に留まっています。
IT導入補助金などを活用し、DXを推進しながら対応を進めることが推奨されています。
領収書に記載すべき登録番号とは?適格事業者番号の確認方法
登録番号の重要性と記載箇所
インボイス制度において、消費税の仕入税額控除を受けるためには、領収書に「登録番号」の記載があることが不可欠です。
この登録番号は、適格請求書発行事業者に付与される固有の番号で、法人事業者の場合は「T+法人番号13桁」、個人事業主の場合は納税地を所轄する税務署長から通知されます。
領収書への記載場所について特定の指定はありませんが、発行事業者名と併せて記載することが求められているため、発行事業者名の近くに記載するのが一般的です。
登録番号がない場合、原則として仕入税額控除を受けることができませんので、発行側は正確な記載、受領側は確認が重要です。
登録番号の確認方法:国税庁公表サイトの活用
取引先が適格請求書発行事業者であるか、またその登録番号が正しいかを確認する方法は複数あります。
最も確実なのは、取引先に直接登録番号を尋ねる方法です。
自社が適格請求書発行事業者であることを伝え、登録番号を通知した上で確認するとスムーズでしょう。
また、国税庁が提供する「適格請求書発行事業者公表サイト」を利用すれば、登録番号を入力して検索することで、その番号が有効であるか、どのような事業者が登録しているかを確認できます。
ただし、このサイトでは会社名での検索はできないため、注意が必要です。
インボイス対応領収書・レシートの必須記載事項
領収書やレシートをインボイスとして発行する場合には、以下の6つの事項を記載する必要があります。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨を含む)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)
- 税率ごとに区分した消費税額、または適用税率
これらの情報が一つでも欠けている場合、その領収書はインボイスとは認められず、受領者は仕入税額控除を受けられなくなる可能性があるため、発行時には記載漏れがないよう十分な確認が必要です。
登録番号がない場合(免税事業者)の領収書発行と注意点
免税事業者の領収書発行と仕入税額控除の原則
免税事業者は、消費税の納税義務が免除されているため、適格請求書発行事業者の登録を受けることができません。
したがって、免税事業者が発行する領収書には登録番号が記載されず、インボイスとして認められることはありません。
このため、課税事業者が免税事業者から仕入れを行った場合、その取引にかかる消費税額は原則として仕入税額控除の対象外となります。
これは、免税事業者との取引が多い課税事業者にとって、消費税の負担が増加する原因となり、取引関係に影響を及ぼす可能性があります。
免税事業者との取引における経過措置と影響
インボイス制度の導入による急激な変化を緩和するため、免税事業者との取引については一定の経過措置が設けられています。
具体的には、制度開始から6年間は、免税事業者からの仕入れについても、一定割合の仕入税額控除が認められます。
| 期間 | 仕入税額控除の割合 |
|---|---|
| 2023年10月1日~2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日~2029年9月30日 | 50% |
| 2029年10月1日以降 | 0% |
この経過措置期間を過ぎると、免税事業者からの仕入れは完全に控除対象外となるため、長期的な取引関係の見直しが必要となる場合があります。
免税事業者が課税事業者になるメリット・デメリット
インボイス制度への対応として、免税事業者が課税事業者へ転換するという選択肢もあります。
課税事業者になるメリットとしては、インボイスを発行できるようになり、取引先が仕入税額控除を受けられるため、取引関係の維持・拡大に繋がることが挙げられます。
一方、デメリットは、消費税の納税義務が発生し、消費税の計算や申告といった経理業務の負担が増加することです。
ただし、制度開始から3年間は、売上税額の2割を納税額とする「2割特例」や、消費税の計算を簡略化する「簡易課税制度」などの負担軽減措置も用意されています。
これらの制度を理解し、自社の状況に合った最適な選択をすることが重要です。
手書き領収書・ネット取引における登録番号の扱い
手書き領収書での登録番号記載のポイント
インボイス制度において、手書きの領収書も適格請求書として認められます。
しかし、インボイスの要件を満たすためには、必須記載事項を正確に記入することが非常に重要です。
発行事業者の氏名または名称、登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとの対価の額、そして税率ごとの消費税額または適用税率を漏れなく、かつ誤りなく記載する必要があります。
特に登録番号の記入ミスは仕入税額控除に影響を与えるため、記載時には細心の注意を払い、可能であれば事前に準備したテンプレートを活用するなどして、記載漏れや誤りを防ぐ工夫が求められます。
ネット取引(ECサイト・フリマアプリ)でのインボイス対応
インターネットを介した取引においても、インボイス制度への対応が求められます。
特にECサイト運営者は、購入者に対してインボイスを発行できるシステムを構築する必要があります。
具体的には、購入履歴から登録番号が記載されたインボイスをダウンロードできる機能や、注文確認メールに登録番号を明記するなどの対応が考えられます。
一方、フリマアプリなどの個人間の取引では、出品者の多くが免税事業者であるため、基本的にインボイスの発行対象外となります。
事業者間のネット取引においては、システム上のインボイス対応が今後の取引をスムーズにする鍵となります。
電子インボイスのメリットと導入促進
インボイス制度は、電子データでの適格請求書(電子インボイス)の発行・保存も認めています。
電子インボイスの最大のメリットは、印刷・郵送コストの削減、物理的な保管場所の問題解消、そして経理業務の効率化が期待できる点です。
特に、国際標準規格であるPeppol(ペポル)に準拠した電子インボイスの導入が進められており、異なるシステム間でもスムーズなやり取りが可能になります。
電子帳簿保存法の改正も後押しとなり、インボイス制度への対応を機に電子インボイスの導入を検討することは、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の絶好の機会とも言えるでしょう。
領収書の月またぎ・年度またぎ、印紙税、保管期間まで
月またぎ・年度またぎ領収書の有効性
経費精算などで月をまたいだり、年度をまたいだりして発行される領収書も、適格請求書の要件を満たしていれば問題なく有効です。
インボイス制度において重要視されるのは、「取引年月日」が正確に記載されていることです。
複数の取引を一つの領収書にまとめる場合でも、それぞれの取引内容や取引年月日が明確に特定できるように記載されていれば、仕入税額控除の対象となります。
日付が異なる取引が混在していても、インボイスとして必要な情報が全て網羅されていれば、税務上有効な書類として扱われますのでご安心ください。
領収書と印紙税の関係
5万円以上の金銭または有価証券の受取書には、原則として印紙税の課税対象となります。
このルールは、インボイス制度が導入された後も変更はありません。
つまり、インボイスとして発行される領収書であっても、記載金額が5万円以上であれば、収入印紙を貼付し、消印を行う必要があります。
ただし、電子データで発行される電子インボイス(電子領収書)は、印紙税法上の文書に該当しないため、印紙税は課されません。
この点も、電子インボイスを導入するメリットの一つとして挙げられます。
インボイス制度下での領収書・証拠書類の保管期間
インボイス制度の導入に伴い、適格請求書(領収書を含む)やその他の証拠書類の保管は、これまで以上に重要となります。
これらの書類の保管期間は、法人税法や所得税法に基づき、原則として事業年度終了日の翌日から2ヶ月を経過した日から7年間と定められています。
また、欠損金の繰越がある事業年度については、その繰越期間に応じて10年間(一部9年間)の保管が必要となる場合があります。
電子帳簿保存法の要件を満たせば、電子データでの保管も認められていますので、これを機に書類管理の見直しやデジタル化を検討するのも良いでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: インボイス制度とは具体的に何が変わるのですか?
A: インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、消費税の仕入税額控除を受けるために、売り手が買い手に対して発行する「適格請求書(インボイス)」の保存を義務付ける制度です。これにより、消費税の正確な納税義務が果たされるようになります。
Q: 領収書と適格請求書(インボイス)はどう違うのですか?
A: 適格請求書(インボイス)は、領収書の一種ですが、税務署に登録した適格事業者のみが発行でき、登録番号などの記載が義務付けられています。一方、一般的な領収書は、取引があったことを証明するもので、インボイスの要件を満たしていない場合があります。
Q: 適格事業者番号(登録番号)はどのように確認できますか?
A: 国税庁のウェブサイトにある「適格請求書発行事業者公表サイト」で、相手方の登録番号を検索することができます。また、発行された適格請求書(インボイス)に記載されている番号で確認することも可能です。
Q: 登録番号がない(免税事業者)場合、領収書にどう記載すれば良いですか?
A: 登録番号がない事業者の場合、適格請求書(インボイス)を発行できません。代わりに、従来通りの領収書を発行することになります。ただし、買い手側は、インボイスではない領収書を受け取っても、一定の要件を満たせば仕入税額控除の対象となる場合があります。
Q: 領収書は、何年間保管する必要がありますか?
A: 個人事業主の場合、原則として7年間です。法人であれば、原則として10年間となります。ただし、欠損金を生じた事業年度については、さらに長期間の保管が必要になる場合があります。
