MBOとは?M&A、LBOとの違いやメリット・デメリットを徹底解説

ビジネスの世界には様々なM&Aの手法がありますが、中でも「MBO」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。

MBOは、企業の経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得する独特なM&A手法です。
本記事では、MBOの基本的な仕組みから、M&AやLBOとの違い、そしてそのメリット・デメリット、さらには成功のためのポイントまで、網羅的に解説していきます。

MBOへの理解を深め、企業経営や投資判断に役立てていきましょう。

MBO(マネジメント・バイアウト)の基本を理解しよう

MBOとは?その定義と基本的な仕組み

MBO(マネジメント・バイアウト)とは、企業の経営陣が自社の株式を既存株主から買い取り、経営権を取得するM&Aの手法です。

簡単に言えば、会社を一番よく知る経営陣が「自分たちの手で会社を買い取る」という行為になります。
これは、外部の企業や投資家が買収する一般的なM&Aとは一線を画します。

MBOでは、多くの場合、経営陣が資金調達のために特別目的会社(SPC)を設立し、そのSPCを通じて対象会社の株式を買い取ります。
これにより、対象会社は非公開化され、経営陣が独立した立場で経営を推進できるようになります。

事業の継続を前提としているため、従業員や取引先にも比較的受け入れられやすい特徴があります。

MBOを行う主な目的

MBOが選択される背景には、様々な戦略的な目的があります。主な目的としては、以下の点が挙げられます。

  • 経営体制の見直し: 経営陣が独立した経営を実現し、株主の意向に左右されずに長期的な視点での経営戦略を実行したい場合にMBOが選択されます。
  • 上場廃止: 上場企業がMBOを行う最大の目的の一つは、株式の非公開化です。上場企業として求められる短期的な利益追求のプレッシャーや、開示義務、株主対応の負担から解放されることで、より自由で柔軟な経営判断が可能になります。
  • 事業承継: 中小企業においては、後継者へのスムーズな事業承継の手段としてMBOが活用されることがあります。これにより、社内の人材が経営を引き継ぎ、事業の継続性を高めることができます。
  • 敵対的買収の防止: 外部からの敵対的な買収の脅威に直面した場合、経営陣が主導してMBOを行うことで、会社を守る防衛策としても機能します。

これらの目的を達成するために、MBOは非常に有効な手段となり得ます。

MBOにおける資金調達の選択肢

MBOを成功させる上で不可欠なのが、買収資金の調達です。多額の資金が必要となるため、複数の選択肢が検討されます。

まず、経営陣個人の資産が一部充当されることもありますが、多くの場合、それだけでは足りません。
そのため、金融機関からの融資が主要な資金源となります。銀行などの金融機関は、買収対象企業の将来のキャッシュフローや資産を担保に融資を行います。

また、投資ファンド、特にMBOを専門とするファンドからの出資も重要な選択肢です。これらのファンドは、資金提供だけでなく、MBO後の企業価値向上に向けた経営支援も行うことがあります。

MBOの規模や対象企業の財務状況に応じて、これらの資金調達方法を組み合わせるのが一般的です。
特別目的会社(SPC)を設立し、そのSPCが金融機関やファンドから資金を調達し、対象会社の株式を買い取るスキームがよく用いられます。

MBOとM&A、LBOの違いを明確にする

M&AにおけるMBOの位置づけ

MBOは、M&A(Merger And Acquisition:企業の合併・買収)という広範なカテゴリーの中に含まれる、特定の手法の一つです。
M&Aは、企業が成長戦略の一環として、他社の経営権を取得したり、複数の企業を統合したりする行為全般を指します。

これに対し、MBOは「誰が買収するのか」という点に大きな特徴があります。
一般的なM&Aでは、外部の企業や第三者投資家が買収主体となることが多いですが、MBOではあくまで対象企業の「経営陣」が主体となって自社の株式を買い取ります。

このため、MBOはM&Aの中でも特に「インサイダーバイアウト」と呼ばれることもあります。
経営陣が事業の継続を前提に対象会社の株式を購入するため、事業への深い理解とコミットメントが最初から存在するという点が、他のM&A手法との大きな違いと言えるでしょう。

LBOとの根本的な相違点

MBOと並んでよく聞かれるのがLBO(Leveraged Buyout:レバレッジド・バイアウト)です。
両者はしばしば組み合わせて実行されることもありますが、それぞれ異なる特徴と目的を持っています。

LBOは、買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に、金融機関などから多額の融資を受けて買収資金を調達する手法です。
「レバレッジ(てこ)」という言葉が示す通り、少ない自己資金で大きな買収を実現できる点が最大の特徴です。

一方、MBOは「誰が買収するか」(経営陣)に焦点を当てた概念です。
MBOの資金調達においてLBOの手法を用いることは可能であり、実際に多くのMBOでLBOが組み合わされます。
つまり、MBOは「買収主体」を指し、LBOは「資金調達方法」を指すと理解すると分かりやすいでしょう。

LBOは、買収後の負債負担が大きくなるため、対象企業の安定したキャッシュフローが不可欠となります。

比較表で理解を深める

MBO、M&A、LBOの違いを整理するために、以下の比較表をご覧ください。

項目 MBO (Management Buyout) M&A (Merger And Acquisition) LBO (Leveraged Buyout)
定義 経営陣が自社の株式を買い取る手法 企業の合併・買収全般 対象企業の資産等を担保に多額の借入で買収する手法
買収主体 対象企業の経営陣 外部の企業、投資家など 外部の投資家、ファンドなど
資金調達の特徴 経営陣の自己資金、金融機関・ファンドからの融資・出資(LBOと組み合わせることも多い) 買収主体の自己資金、株式交換、借入など様々 買収対象企業の資産・キャッシュフローを担保とした借入が主体
主な目的 独立した経営、上場廃止、事業承継、敵対的買収防止 事業拡大、新規事業参入、シナジー効果、市場シェア拡大 投資リターン最大化、効率的な企業買収
M&Aにおける位置づけ M&Aの一種 包括的な概念 M&Aの資金調達手法の一つ

この表からわかるように、MBOは「誰が」買収するかに焦点を当てた特殊なM&Aであり、その資金調達に「LBO」の手法が用いられることがある、という関係性です。

MBOのメリット・デメリット:企業価値向上とリスク

MBOがもたらす企業価値向上の可能性

MBOには、企業価値を大きく向上させる潜在的なメリットがあります。

まず、経営陣が株主となることで、第三者の株主の意見に左右されず、独立した経営判断が可能になります。
これにより、短期的な利益追求に縛られることなく、長期的な視点での戦略的な投資や事業再編に集中できるようになります。
例えば、研究開発への先行投資や、大胆な構造改革も実行しやすくなるでしょう。

また、経営陣が事業を継続するため、従業員や取引先からの理解を得やすく、事業の安定的な継続が期待できます。
これは、事業承継型のMBOで特に顕著です。
さらに、株主構成がシンプルになることで意思決定のスピードが向上し、変化の激しい市場環境にも迅速に対応できるようになります。

外部からの敵対的買収を防ぐ効果もMBOの大きなメリットであり、安定した経営環境の確保に寄与します。

MBOに潜む潜在的なリスクと注意点

MBOには多くのメリットがある一方で、潜在的なリスクと注意点も存在します。

最も大きなリスクの一つは、既存株主との利害対立です。
買収価格や条件を巡って、経営陣と既存株主の間で意見の対立が生じる可能性があります。
特に公開買い付け(TOB)の価格設定は、公正性が厳しく問われるため、慎重な検討が必要です。

また、多額の買収資金を調達する必要があるため、資金調達の難しさも課題となります。
特に上場企業の場合、上場廃止に伴い、株式市場からの直接的な資金調達の選択肢が狭まることになります。
中小企業でMBOを行う場合、SPC(特別目的会社)を設立して金融機関から資金調達し、その借入金が対象会社に残るスキームが一般的ですが、これにより資金繰りが悪化するリスクも考慮しなければなりません。

さらに、MBO後も経営陣や経営方針が大きく変わらない場合、期待したほどの効果が得られない可能性もあります。
MBOはあくまで手段であり、その後の経営戦略こそが企業価値向上の鍵を握ります。

リスクを最小限に抑えるための対策

MBOのリスクを最小限に抑え、メリットを最大限に引き出すためには、いくつかの重要な対策が求められます。

まず、透明性の高いコミュニケーションが不可欠です。
既存株主や従業員、取引先に対して、MBOの目的、メリット、買収価格の妥当性などを丁寧に説明し、理解と協力を得ることが成功の鍵となります。
特に、買収価格については、公正な価値評価に基づいていることを明確にする必要があります。

次に、綿密な資金調達計画を策定することです。
無理のない返済計画を立て、複数の金融機関や投資ファンドと交渉し、最も有利な条件を引き出すことが重要になります。
金利変動リスクなど、借入金に関するリスクもしっかりと評価し、対応策を準備しておくべきです。

また、MBO後の明確な成長戦略を事前に描いておくことも大切です。
非公開化によって得られる自由度を活かし、どのように企業価値を向上させるのか、具体的なロードマップを示すことで、MBOの意義を高め、関与者の信頼を得ることができます。

MBOの代表的な事例と成功のポイント

日本におけるMBOの動向と背景

近年、日本企業の間でMBOが増加傾向にあり、その背景には複数の要因があります。

2023年の日本企業が関与したM&A件数は4015件と前年比で減少しましたが、MBO件数は93件となり、過去10年間で最多を記録しました。
これは、M&A市場全体の動向とは異なるMBO特有の事情が影響していることを示唆しています。

MBO増加の背景としては、まず東京証券取引所の市場再編や、資本コスト・株価を意識した経営の実現に向けた要請により、上場企業にとっての負担が増加し、非公開化を選択する企業が増えている点が挙げられます。
また、近年強まるアクティビスト投資家(物言う株主)からの要求に対抗するため、MBOを選択し、経営の独立性を確保するケースも増加しています。

さらに、多くの企業で株価純資産倍率(PBR)が1倍を割っており、株価が割安なため、経営陣が株式を取得しやすい状況もMBO増加を後押ししています。
2023年には、大正製薬ホールディングス(約7,100億円)など、大型のMBO案件も複数発表され、買付総額は過去最高を記録しました。

成功事例に学ぶMBOの戦略

MBOの成功事例から学ぶべき点は多くあります。
例えば、前述の大正製薬ホールディングスのMBOは、同族経営の安定化と中長期的な企業価値向上のために実行されました。
短期的な株主の圧力から解放され、再成長に向けた投資や構造改革を加速させることを目的としています。

このような大型MBOの成功要因には、以下の点が共通して見られます。

  • 明確な目的設定: なぜMBOが必要なのか、MBO後にどのような企業を目指すのか、その目的が明確であること。
  • 既存株主への丁寧な説明: 公正な買収価格を提示し、MBOの正当性や将来性を既存株主へ丁寧に説明し、理解を得る努力を惜しまないこと。
  • 強力な経営陣のコミットメント: MBOを主導する経営陣の強い意志と、MBO後の経営に対する具体的なビジョンがあること。
  • 適切な資金調達スキーム: 買収規模に見合った最適な資金調達源とスキームを構築し、MBO後の財務健全性を保つこと。

成功事例は、単に資金を集めるだけでなく、戦略的な思考とステークホルダーとの良好な関係構築が不可欠であることを示しています。

MBOを成功に導くための主要な要素

MBOを単なる資本取引で終わらせず、企業の持続的な成長と発展に繋げるためには、いくつかの重要な要素を抑える必要があります。

最も重要なのは、MBO後の成長戦略を具体的に描くことです。
非公開化によって得られた経営の自由度をどのように活かし、既存事業の強化、新規事業の展開、M&Aによるシナジー創出など、明確な戦略がなければ、MBOは単なる借金増加に終わる可能性もあります。

次に、適切なバリュエーション(企業価値評価)と買収価格の決定です。
株主との利害対立を避けるためにも、第三者の専門家による客観的で公正な企業価値評価が不可欠です。
これにより、既存株主にとっても納得感のある買収価格を設定できます。

また、経営陣とMBOを支援する投資ファンドや金融機関との良好なパートナーシップも成功の鍵です。
資金提供者としての役割だけでなく、MBO後の経営改善や戦略実行において、建設的なアドバイスやサポートを受けられる関係性を築くことが重要です。

MBOを成功させるためのDD(デューデリジェンス)と専門家活用

デューデリジェンス(DD)の重要性

MBOを成功させる上で、デューデリジェンス(DD)は極めて重要なプロセスです。

DDとは、買収対象企業のリスクと価値を詳細に調査・評価することを指します。
MBOの場合、経営陣は自社のことを最もよく知っているはずですが、それでも客観的な視点からの詳細な調査は欠かせません。

具体的には、以下のような様々な分野のDDが実施されます。

  • 財務DD: 企業の財務状況(収益性、キャッシュフロー、バランスシート)を詳細に分析し、隠れた負債や将来のリスクを洗い出します。
  • 法務DD: 訴訟リスク、契約関係、コンプライアンス体制などを調査し、法的なリスクを評価します。
  • ビジネスDD: 業界動向、市場シェア、競合優位性、将来性などを分析し、事業計画の妥当性を検証します。

これらのDDを通じて、買収価格の妥当性を裏付け、MBO後の経営計画におけるリスクを事前に把握し、対策を講じることが可能になります。
不測の事態を防ぎ、安定した経営基盤を築くためにも、DDは徹底して行うべきです。

専門家活用がMBOにもたらすメリット

MBOは非常に複雑なプロセスであり、法律、会計、税務、金融など多岐にわたる専門知識が必要です。
そのため、MBOを成功させるためには、各分野の専門家を積極的に活用することが不可欠です。

具体的には、以下のような専門家がMBOプロセスを強力にサポートします。

  • FA(フィナンシャルアドバイザー): MBO全体の戦略立案、バリュエーション、資金調達の交渉支援などを担当します。
  • 弁護士: 株式譲渡契約や資金調達契約の法務審査、独占禁止法関連の規制対応などを担います。
  • 会計士・税理士: 財務DDの実施、税務上の最適化、MBO後の会計処理アドバイスなどを行います。

これらの専門家は、複雑な手続きを円滑に進めるだけでなく、経営陣が気づかない潜在的なリスクを発見し、適切なアドバイスを提供することで、MBOを成功に導く確率を高めます。
また、外部の専門家が関与することで、MBOプロセスの公正性・透明性を確保し、既存株主からの信頼を得やすくなるメリットもあります。

MBOにおける資金調達とパートナー選びのポイント

MBOの成否を分ける重要な要素の一つが、適切な資金調達と、そのパートナー選びです。

資金調達においては、金融機関からの融資だけでなく、MBO専門の投資ファンドからの出資も重要な選択肢となります。
これらのファンドは、単なる資金提供者としてだけでなく、MBO後の経営改善や企業価値向上に向けた戦略的なパートナーとして機能することが期待できます。

パートナーを選ぶ際には、以下の点を考慮すると良いでしょう。

  • MBOの実績と専門性: MBO案件に豊富な経験と実績を持つファンドや金融機関を選ぶことで、プロセスの円滑な進行と的確なアドバイスが期待できます。
  • 経営への関与度と方向性: 資金提供者がMBO後の経営にどの程度関与したいのか、その方向性が経営陣のビジョンと合致しているかを確認することが重要です。
  • 長期的な視点: 単なる短期的なリターン追求ではなく、対象企業の長期的な成長を支援してくれるパートナーを選ぶことが望ましいです。

適切な資金調達戦略と信頼できるパートナーとの協業は、MBOを成功に導き、その後の企業成長を加速させるための強力な推進力となるでしょう。