MBO(マネジメント・バイアウト)の基礎知識と成功の秘訣

近年、企業の経営戦略の一つとして注目度が高まっているMBO(マネジメント・バイアウト)。
経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を取得することで、より主体的な経営を目指す手法です。

2023年には過去最高の件数と市場規模を記録するなど、その動向はますます活発化しています。
本記事では、MBOの基本的な仕組みから、成功のための秘訣、そして資金調達やファンド活用まで、MBOに関する最新かつ正確な情報をお届けします。

MBOを検討されている経営者の方、企業の将来像に関心のある方は、ぜひご一読ください。

MBOとは?その仕組みと目的を理解しよう

MBOの基本的な定義と流れ

MBO(Management Buyout)とは、企業の経営陣や幹部が、その会社の株式を現在の株主から買い取り、経営権を取得するM&A(合併・買収)の一種です。MBOが実施される際、通常は買収の受け皿となる特別目的会社(SPC)が設立され、このSPCが金融機関からの借入れや投資ファンドからの出資を原資として、既存株主から株式を買い取ります。

この一連のプロセスを通じて、経営陣は自社のオーナーとなり、より主体的な経営判断や迅速な意思決定が可能になります。従来の株主構成が大きく変わり、経営陣の意向が経営にダイレクトに反映されるようになるのが特徴です。

特に、短期的な株主からのプレッシャーから解放され、中長期的な視点での企業価値向上を目指せる点が、MBOの大きな魅力と言えるでしょう。最終的には、SPCと買収対象会社が合併し、新たな経営体制のもとで事業が推進されていきます。

MBOの主な目的とメリット

MBOが実施される主な目的は多岐にわたりますが、中心となるのは経営体制の見直しと強化です。経営陣がオーナーとなることで、以下のような様々なメリットが生まれます。

  • 上場廃止による経営の自由度向上: 短期的な利益追求のプレッシャーから解放され、中長期的な視点での経営戦略や事業再編が可能になります。
  • 事業承継の円滑化: 後継者不足に悩む中小企業などにおいて、現経営陣に事業を承継させる有力な手段となります。
  • TOB(株式公開買付け)の回避: 敵対的な買収提案があった場合に、経営陣が自ら買収することで、会社の独立性を保つことができます。
  • ノンコア事業の独立: 親会社が事業ポートフォリオを見直し、中核事業に集中するために、収益性の低いノンコア事業をMBOで切り離し、独立させるケースも増えています。
  • 企業価値向上へのコミットメント: 経営陣が自らリスクを負って株式を取得することで、より一層、企業価値向上へのコミットメントが強まります。

これらの目的達成を通じて、企業は新たな成長フェーズへと移行することが期待されます。

MBOが注目される背景と近年の動向

近年、日本国内でMBOが急増しており、その背景には複数の要因があります。
2023年には、MBOの件数が93件と過去最高を記録し、市場規模も1兆1,000億円を超え、2020年の3,050億円を大きく上回りました。特に2023年11月には、大正製薬ホールディングスやベネッセホールディングスなどがMBOを発表し、市場が大きく動きました。

この増加の背景には、以下のような要因が挙げられます。

  • 東京証券取引所の市場再編と資本効率改善要請: 東証が上場維持基準を厳格化し、資本コストや株価を意識した経営を企業に要請したことで、上場負担が増加し、非公開化を選択する企業が増加しました。
  • アクティビスト投資家の圧力: 企業に対して積極的な経営改善を求めるアクティビスト(物言う株主)の動きが強まっており、これに対抗する手段としてMBOが選択されるケースがあります。
  • 株価純資産倍率(PBR)の低さ: 多くの企業でPBRが1倍を割れており、株価が割安なため、経営陣が株式を取得しやすい状況が続いています。
  • 親子上場解消: コーポレートガバナンス・コードの改訂や投資家からの圧力により、親子上場を解消する目的でMBOが活用されるケースが増加しています。
  • 金融政策の動向: 金利上昇が近づいているため、買収資金コストが低い間にMBOを実行しようとする動きも見られます。

これらの要因が複合的に絡み合い、MBOは企業の経営戦略としてますます重要な位置を占めるようになっています。

MBOにおける評価基準と算出方法

企業価値評価の重要性とアプローチ

MBOにおいて最も重要なプロセスのひとつが、買収対象企業の企業価値を公正に評価し、株式取得価格を決定することです。適切な企業価値評価は、既存株主への説明責任を果たすだけでなく、MBO後の財務健全性や経営計画の妥当性を担保するためにも不可欠です。

企業価値評価には、大きく分けていくつかの主要なアプローチがあります。MBOでは、買収後に想定される事業計画や収益力を反映させる必要があるため、将来のキャッシュフローを重視した評価手法がよく用いられます。一方で、市場性のある企業であれば、客観的な市場価格も重要な参考指標となります。

評価結果は、MBOの成否を左右するだけでなく、既存株主、特に少数株主の納得を得るための根拠となります。そのため、評価プロセスは透明性を確保し、客観的な視点から実施されることが強く求められます。

DCF法、市場株価法、類似会社比較法など

MBOにおける企業価値評価では、複数の手法を組み合わせて多角的に分析することが一般的です。

  1. DCF法(Discounted Cash Flow法):
    企業の将来予測されるフリーキャッシュフローを適切な割引率で現在価値に換算する手法です。MBO後の経営改善や成長戦略が織り込まれやすいため、非公開化後の企業価値を見込む上で重要な指標となります。ただし、将来予測の精度に結果が左右されるため、慎重な計画と分析が求められます。
  2. 市場株価法:
    上場企業の場合に用いられる手法で、過去一定期間の市場株価の平均値などを参考に企業価値を算出します。MBOでは、公開買い付け(TOB)の形式を取ることが多く、TOB価格は市場株価に一定のプレミアムを上乗せして設定されるのが通例です。
  3. 類似会社比較法(マルチプル法):
    上場している類似企業の株価収益率(PER)やEBITDA倍率(EV/EBITDA)などの財務指標を用いて、評価対象企業の企業価値を算出します。客観性があり、広く用いられる手法ですが、完全に類似する企業を見つけるのが難しい場合もあります。
  4. 純資産法:
    企業の貸借対照表上の純資産額を基に評価する手法です。企業の保有資産が評価の中心となるため、資産価値の高い企業や、将来の収益予測が困難な場合に補完的に用いられることがあります。

これらの手法を単独で用いるのではなく、それぞれのメリット・デメリットを考慮し、複数の手法を併用して評価の妥当性を検証することが重要です。

公正な評価がMBO成功に不可欠な理由

公正な企業価値評価は、MBOを成功させる上で極めて重要な要素です。その理由は以下の通りです。

  • 株主との合意形成:
    MBOは既存株主から株式を買い取る行為であるため、適正な価格で株主の納得を得ることが不可欠です。不当に低い価格では株主からの反発を招き、MBOが頓挫する可能性があります。
  • 少数株主保護:
    特に少数株主に対しては、MBOが彼らの保有する株式の売却機会を奪うことになるため、公平かつ透明性の高い評価と価格提示が求められます。公正な評価が行われない場合、株主が訴訟を起こすリスクも存在します。
  • 経営陣の信認維持:
    経営陣が自社の株式を買い取るMBOは、情報格差が生じやすい取引です。そのため、経営陣が会社の情報を独占し、不当に低い価格で買収しようとしていると見なされないよう、独立した第三者機関による評価や公正性意見書(Fairness Opinion)の取得が推奨されます。
  • 資金調達の妥当性:
    多額の資金が必要となるMBOでは、金融機関や投資ファンドからの資金調達が不可欠です。彼らも評価の妥当性を厳しく審査するため、公正な企業価値評価は資金提供者の信頼を得る上でも重要となります。
  • MBO後の企業価値向上:
    過剰な買収価格はMBO後の財務状況を悪化させ、経営の足かせとなる可能性があります。適正な評価に基づいた買収は、MBO後の企業価値向上に向けた健全な出発点となります。

このように、公正な評価はMBOプロセスの信頼性を高め、円滑な実施とMBO後の持続的な成長を可能にするための土台となります。

MBOの実施にかかる費用と資金調達

MBOに必要な費用の内訳

MBOを実施するには、多額の費用が必要となります。これらの費用は大きく分けて「株式取得費用」と「MBO関連費用」に分類されます。

  1. 株式取得費用:
    これはMBO費用の大部分を占めるもので、既存株主から株式を買い取るための資金です。企業価値評価に基づいて算出された株価に、一定のプレミアム(割増金)を上乗せしてTOB価格が決定されることが多く、企業の規模によっては数百億円から数千億円に及ぶこともあります。
  2. MBO関連費用:
    これはMBOプロセスの実施に伴って発生する諸費用で、以下のものが含まれます。

    • 財務アドバイザリー費用: 証券会社やM&Aアドバイザリーファームなどに支払う報酬。企業価値評価やスキーム構築、資金調達支援など多岐にわたります。
    • 法務費用: 弁護士に支払う報酬。TOB手続き、契約書作成、法的なリスク評価など、複雑な法務対応が必要です。
    • 税務・会計費用: 公認会計士や税理士に支払う報酬。税務デューデリジェンス、会計処理、税務最適化のアドバイスなどが行われます。
    • 資金調達費用: 金融機関への手数料やMBOファンドへの成功報酬など。
    • デューデリジェンス費用: 財務、法務、事業、人事など多岐にわたる詳細調査の費用。
    • TOB関連費用: 公開買い付けの公告費用、株式事務代行費用など。

これらの費用は、MBOの規模や複雑性によって大きく変動するため、初期段階での詳細な見積もりと予算計画が不可欠です。

資金調達の主要な選択肢(デット、エクイティ)

MBOは通常、多額の資金を必要とするため、外部からの資金調達が不可欠です。資金調達の方法は、大きく「デットファイナンス(借入)」と「エクイティファイナンス(出資)」に分けられます。

  • デットファイナンス(借入):
    金融機関からの融資が主な選択肢となります。MBOでよく用いられるのがLBO(Leveraged Buyout:レバレッジド・バイアウト)と呼ばれる手法です。これは、買収対象企業が将来生み出すキャッシュフローや資産を担保に、多額の借入を行うものです。

    LBOでは、買収受け皿会社(SPC)が金融機関から借り入れた資金で株式を取得し、買収後にSPCと対象会社が合併することで、買収対象会社の負債として金融機関への返済義務が移転します。これにより、経営陣自身の少ない自己資金で大規模な買収が可能となります。

  • エクイティファイナンス(出資):
    経営陣自身による出資のほか、MBOファンド(プライベートエクイティファンド)からの出資が主要な選択肢となります。MBOファンドは、投資先企業の株式を取得し、非公開化後に企業価値を高めて売却することで利益を得ることを目的としています。

    ファンドからの出資は、資金供給だけでなく、MBO後の経営戦略立案やガバナンス強化に関するノウハウ提供といった側面もあります。経営陣とファンドが共同でSPCに出資する形が一般的です。

これらを組み合わせた資金調達スキームが構築されますが、デットとエクイティのバランスはMBO後の財務健全性に直結するため、慎重な検討が求められます。

資金調達における留意点とリスク

MBOにおける資金調達は、その後の経営に大きな影響を与えるため、慎重な検討とリスク管理が不可欠です。

  • 過剰な借入による財務健全性悪化のリスク:
    LBOを活用したMBOは、多額の借入を伴います。買収後の企業に過剰な借入金負担がのしかかると、金利支払いや元本返済が事業の重荷となり、経営の自由度を著しく奪う可能性があります。万一、想定通りに事業が進まなかった場合、債務不履行のリスクも高まります。
  • 返済計画の実現可能性:
    借入金の返済は、MBO後の事業計画に基づいています。計画が楽観的すぎたり、外部環境の変化によって事業収益が伸び悩んだりすると、返済計画が破綻する可能性があります。綿密な事業計画とストレステスト(厳しい状況を想定したシミュレーション)が重要です。
  • 金利上昇リスク:
    変動金利での借入が多い場合、金利が上昇すると利払い負担が増加し、企業収益を圧迫する可能性があります。金融政策の動向を注視し、金利リスクをヘッジする方策も検討すべきです。
  • MBOファンドとの関係性:
    MBOファンドからの出資を受ける場合、ファンドは将来の売却益を最大化するために、経営に対して一定の影響力を行使しようとします。経営陣の自由度が制約されたり、ファンドのリターン目標達成のために短期的な視点が優先されたりするリスクもあります。ファンドとの契約条件やガバナンス体制を十分に確認することが重要です。
  • 情報漏洩のリスク:
    資金調達の交渉過程でMBOの情報が漏洩すると、株価の変動や対抗買収の誘発につながる可能性があります。厳格な情報管理と秘密保持契約の締結が必須です。

これらのリスクを十分に理解し、専門家と連携しながら、MBO後の持続可能な成長を見据えた資金調達計画を策定することが成功の鍵となります。

MBO成功のための戦略と注意点

MBO成功の鍵となる戦略的要素

MBOを成功に導くためには、単に資金を集めて株式を買い取るだけでなく、多岐にわたる戦略的要素を周到に準備する必要があります。
参考情報にもある通り、以下の点が特に重要です。

  • 将来のビジョンを明確にする:
    MBO後の具体的な経営計画や戦略を策定し、将来の企業像を明確にすることが不可欠です。非公開化によって何を実現したいのか、どのように企業価値を高めるのかを具体的に描き、関係者に示す必要があります。
  • 株主との良好な関係構築:
    既存株主、特に少数株主の理解と協力を得ることが重要です。公正な企業価値評価に基づいた価格提示はもちろん、丁寧な説明とコミュニケーションを通じて、対立を避け円滑な合意形成を目指す必要があります。
  • 適切な資金調達戦略:
    前述の通り、MBOには多額の資金が必要です。金融機関や投資ファンドなどからの資金調達計画を慎重に立て、過剰な借入にならないよう財務健全性を維持できる構造を目指します。
  • 専門家への相談と連携:
    企業価値算定、資金調達、法的手続き、税務処理など、MBOは専門的な知識が広範にわたって必要です。証券会社、弁護士、税理士、M&Aアドバイザーなどの専門家チームを編成し、密に連携しながら進めることが成功確率を高めます。
  • 情報管理の徹底:
    MBOの検討中の情報漏洩は、株価の急騰や対抗買収の誘発など、深刻な事態を招く可能性があります。秘密保持契約の締結やアクセス制限の徹底など、厳格な情報管理が必須です。

これらの戦略的要素を抜け漏れなく実行することが、MBOを成功に導くための基盤となります。

MBO実施における法務・税務上の注意点

MBOは法務・税務の観点からも複雑な手続きを伴い、様々な注意点が存在します。

  1. 法務上の注意点:
    • TOB(株式公開買付け)規制:
      上場企業がMBOを実施する場合、金融商品取引法に基づき公開買い付け(TOB)が義務付けられます。TOBは厳格な手続きや情報開示が求められ、価格設定の公正性や情報管理の徹底が強く求められます。
    • 少数株主保護:
      MBOは経営陣による買収であるため、少数株主にとって不利益とならないよう、独立した第三者委員会の設置や公正性意見書(Fairness Opinion)の取得などが推奨されます。これにより、価格決定の公平性が担保され、株主からの訴訟リスクを低減できます。
    • 利益相反の回避:
      経営陣と既存株主の間で利益相反が生じる可能性があるため、取締役会での特別委員会の設置など、適切なガバナンス体制を構築し、透明性の高いプロセスを確保する必要があります。
    • MBO後の法的手続き:
      SPCと買収対象会社の合併、株式の併合など、非公開化に向けた一連の法的手続きを正確に行う必要があります。
  2. 税務上の注意点:
    • 株式譲渡益課税:
      株主が株式を売却することで得た利益には、譲渡所得税(所得税・住民税)が課税されます。これは株主側の問題ですが、MBO価格設定に影響を与える可能性があります。
    • LBOにおける課税関係:
      LBOスキームを用いる場合、SPCの設立や合併、借入金利子の損金算入など、複雑な税務処理が生じます。税務リスクを最小限に抑え、税務上の優遇措置を適切に活用するため、専門家によるアドバイスが不可欠です。
    • 組織再編税制:
      MBO後の企業統合や再編には、組織再編税制が適用される場合があります。適格要件を満たすことで税務上のメリットを享受できるため、事前に綿密な計画を立てる必要があります。

これらの法務・税務上の注意点を怠ると、MBO自体が失敗に終わったり、MBO後に予期せぬトラブルやコストが発生したりするリスクがあるため、専門家と連携しながら細心の注意を払って進めることが重要です。

株主、従業員、ステークホルダーとの円滑なコミュニケーション

MBOは企業の所有構造と経営体制に大きな変化をもたらすため、関係者との円滑なコミュニケーションが成功には不可欠です。参考情報にもあるように「株主との対立」や「経営判断の主観性」といったリスクを回避するためには、透明性と誠実さを持って対話を進める必要があります。

  • 株主への対応:
    MBOの発表は、株価に大きな影響を与える可能性があります。そのため、情報開示のタイミングや内容は非常に重要です。MBOの目的、背景、企業価値評価の根拠、そしてTOB価格の妥当性について、株主に対して十分に丁寧な説明を行い、納得を得る努力が必要です。特に、長期保有の個人株主や少数株主に対しては、きめ細やかな対応が求められます。
  • 従業員への配慮:
    MBOは従業員にとっても、経営陣の交代や将来の事業方針に対する不安を生じさせることがあります。MBO後の経営方針、事業計画、雇用条件などについて、早期に適切な情報共有を行い、不安を解消することが重要です。従業員のモチベーション維持や、MBO後のスムーズな事業運営のためにも、彼らの理解と協力を得ることが不可欠です。
  • その他のステークホルダーへの対応:
    顧客、取引先、地域社会、金融機関など、企業を取り巻く様々なステークホルダーに対しても、MBOの意図やMBO後の展望について適切に説明を行う必要があります。特に、MBOが企業価値向上に資するものであることを明確に伝え、彼らの信頼を損なわないよう配慮することが重要です。

MBOは、単なる資本取引ではなく、企業の未来を形作る一大プロジェクトです。そのため、全ての関係者がMBOの意義を理解し、前向きに受け入れられるよう、透明性の高いプロセスと誠実なコミュニケーションを徹底することが、長期的な成功につながります。

MBOファンドの活用とスキーム

MBOファンドとは?その役割と機能

MBOファンドとは、プライベートエクイティ(PE)ファンドの一種であり、MBO(マネジメント・バイアウト)を主な投資戦略とする投資ファンドのことです。これらのファンドは、機関投資家や富裕層から集めた資金を元手に、特定の企業の株式を買い取り、非公開化を通じて企業価値を高め、最終的に売却することで利益の最大化を目指します。

MBOファンドの役割は、単に買収資金を提供するだけではありません。彼らは以下のような機能も果たします。

  • 資金提供:
    MBOに必要な多額の買収資金を、エクイティ(出資)とデット(融資)の組み合わせで提供します。特に、LBO(レバレッジド・バイアウト)のスキームにおいて中心的な役割を担います。
  • 経営支援とガバナンス強化:
    ファンドの専門家が、投資先の経営戦略立案、業務効率化、財務体質の改善、M&A戦略の策定など、多岐にわたる経営支援を行います。また、MBO後の非公開企業におけるコーポレートガバナンス強化にも貢献します。
  • イグジット戦略の策定:
    数年後の株式再上場(IPO)や第三者への売却(トレードセール)など、企業価値を高めた後のイグジット(投資回収)戦略を経営陣と共に策定し、実行を支援します。

MBOファンドは、経営陣が単独では実行が難しい大規模なMBOを可能にし、企業の変革を加速させるパートナーとなり得ます。

MBOファンドを活用したスキームの具体例

MBOファンドを活用したMBOの典型的なスキームは、LBO(レバレッジド・バイアウト)の形を取ることが多く、主に以下のステップで進行します。

  1. 特別目的会社(SPC)の設立:
    MBOを実行するために、経営陣とMBOファンドが共同で、買収の受け皿となる特別目的会社(SPC)を設立します。このSPCは、買収後に買収対象会社と合併することが前提となります。
  2. 資金調達:
    SPCは、MBOファンドからの出資(エクイティ)と、金融機関からの融資(デット)を組み合わせて、買収資金を調達します。この際、金融機関は買収対象会社の将来キャッシュフローや資産を担保に融資を行うのが一般的で、これがLBOの肝となります。
  3. 株式の取得(TOBの実施):
    調達した資金を用いて、SPCが既存株主から買収対象会社の株式を買い取ります。上場企業の場合、公開買い付け(TOB)の形式で株式を取得し、非公開化を目指します。TOB価格は、企業価値評価にプレミアムを上乗せして設定されます。
  4. SPCと対象会社の合併:
    株式取得後、SPCと買収対象会社が合併します。これにより、SPCが負っていた借入金が、合併後の買収対象会社(事業会社)の負債となります。合併後の事業会社が、事業活動で得たキャッシュフローで借入金を返済していくことになります。
  5. 企業価値向上とイグジット:
    MBO後の事業会社は、経営陣とファンドの協力のもと、経営改善や成長戦略を実行し、企業価値を高めます。数年後(通常3~7年程度)に、株式の再上場(IPO)や戦略的な事業会社への売却(トレードセール)を通じて、ファンドは投資を回収し、利益を実現します。

このスキームにより、経営陣は比較的少ない自己資金で大規模なMBOを実現し、ファンドの資金力とノウハウを活用して企業価値の最大化を目指すことが可能になります。

ファンド活用のメリットとデメリット

MBOにおいてMBOファンドを活用することは、経営陣にとって強力な味方となる一方で、いくつかの留意点も伴います。

MBOファンド活用のメリット

  • 多額の資金調達が可能:
    経営陣単独では困難な大規模なMBOに必要な資金を調達できます。ファンドはエクイティとデットの両面で資金調達をサポートします。
  • 経営ノウハウとネットワークの提供:
    ファンドは多くの企業への投資経験から得た豊富な経営ノウハウや業界ネットワークを持っています。MBO後の経営戦略立案、事業改善、M&A、人材採用など、多岐にわたる支援が期待できます。
  • ガバナンス体制の強化:
    ファンドの投資家としての視点を取り入れることで、客観的で健全なガバナンス体制が構築されやすくなります。
  • リスク共有:
    ファンドが出資者としてリスクを共有することで、経営陣の個人的な負担を軽減できます。

MBOファンド活用のデメリット

  • 経営の自由度への影響:
    ファンドは投資を回収し利益を上げることを目的としているため、経営に対して一定の影響力を行使します。経営陣の意思決定がファンドの意向に左右される可能性があり、必ずしも経営陣が望む中長期的な視点での経営ができないケースもあります。
  • 高いリターン要求:
    ファンドは一般的に高い投資リターンを求めます。そのため、MBO後の企業は短期間での成果創出や厳しいコスト削減を迫られることがあります。
  • イグジットの圧力:
    ファンドは数年後(通常3~7年)に投資を回収する期限があるため、その時期に向けてMBO後の再上場や売却を強く意識した経営が求められます。
  • 情報開示と報告義務:
    ファンドに対して定期的な経営状況の報告や情報開示が求められるため、一定の管理コストが発生します。

MBOファンドを活用する際は、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、ファンドとの間で経営方針や将来のビジョンについて深く擦り合わせることが、成功に不可欠です。適切なパートナーを見つけることが、MBO後の成長を大きく左右すると言えるでしょう。