概要: 定年後の再雇用は、給与体系や社会保険料、税金に変化が生じます。源泉徴収票の枚数や月額変更届、退職金、失業保険など、再雇用後の税金・年金・退職金について、知っておくべきポイントを詳しく解説します。
再雇用後の税金・年金・退職金:損しないための完全ガイド
定年退職後の再雇用や、年金受給開始時期の選択、退職金の受け取り方など、老後の生活設計において「損をしたくない」と考えるのは当然のことです。
ここでは、税金、年金、退職金に関する最新情報と、賢く活用するためのポイントをまとめました。
再雇用で変わる?税金・年金・退職金の基本
再雇用後の税金の基本:給与所得と退職所得の違い
再雇用された場合、受け取る給与は通常の給与所得として所得税と住民税の課税対象となります。一方、退職金は「退職所得」として扱われ、他の所得とは分けて計算される「分離課税」の対象です。
退職所得には、「退職所得控除」という税制上の優遇措置が適用されます。これにより、勤続年数に応じた大きな控除額が設けられているため、税負担が大幅に軽減されるのが特徴です。
具体的には、勤続20年以下であれば「40万円 × 勤続年数」、勤続20年超であれば「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)」が控除されます。この控除を最大限に受けるためには、企業へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出することが不可欠です。提出し忘れると、控除が適用されずに一律20.42%が源泉徴収されてしまい、納めすぎた税金はご自身で確定申告をして還付を受けることになりますので、注意が必要です。
さらに、所得税には「復興特別所得税」が2037年まで上乗せされ、住民税は1月1日時点の住所地の自治体に納めます。これらの税金についても、退職金支給時に特別徴収されるのが一般的です。
年金受給、繰り上げと繰り下げどちらがお得?
公的年金(国民年金・厚生年金)の受給開始年齢は原則65歳ですが、ご自身のライフプランに合わせて60歳から75歳までの間で自由に選択できます。この選択が、生涯にわたる年金額に大きく影響します。
65歳より前に受給を開始する「繰上げ受給」を選ぶと、1ヶ月あたり0.4%(昭和37年4月1日以前生まれの方は0.5%)減額された年金額が生涯続きます。例えば、最も早く60歳から受給すると、年金額は最大24%も減額されてしまいます。早く年金を受け取りたい方や、平均寿命より早く亡くなる可能性が高いと考える方には有利になる場合もありますが、減額された年金額は取り戻せません。
一方、66歳以降に受給を開始する「繰下げ受給」を選ぶと、1ヶ月あたり0.7%増額された年金額が生涯続きます。75歳まで繰り下げた場合、年金額は最大で84%も増額され、長生きするほど生涯の受給総額を大きく増やせる可能性があります。どちらがお得かは、個人の健康状態、平均寿命の見込み、資金繰りの状況など、様々な要因によって異なります。
また、65歳以降も働き続ける場合、「在職老齢年金」制度により、年金の一部または全額が支給停止されることがあります。この支給停止された部分は、繰下げ受給による増額の対象外となるため、注意が必要です。ご自身の状況をよく検討し、最適な選択をしましょう。
退職金の受け取り方:一時金と年金形式の選択
退職金は、その受け取り方によって課税方式が大きく異なります。主に「一時金」として一括で受け取るか、「年金形式」で分割して受け取るかの2つの方法があります。
一時金で受け取る場合、先述の通り「退職所得」として分離課税の対象となり、退職所得控除が適用されます。この控除額が非常に大きいため、特に勤続年数が長い方は、課税所得を大幅に圧縮できるメリットがあります。
例えば、勤続30年で退職金900万円の場合、退職所得控除額は1,500万円となり、課税退職所得金額は0円になるため、所得税・住民税はかかりません。しかし、勤続10年1ヶ月で退職金900万円の場合では、退職所得控除額は440万円となり、課税退職所得金額が230万円となるため、所得税・復興特別所得税として約13万5千円、住民税として約23万円がかかります。このように、控除額を超える部分には税金が発生します。
年金形式で受け取る場合、受け取る年金は「雑所得」として他の所得と合算して課税される「総合課税」の対象となります。この場合は「公的年金等控除」が適用されますが、退職所得控除に比べて控除額が小さくなる傾向があります。
再雇用後に支払われる退職金も、退職所得として課税対象となりますが、同様に退職所得控除が適用され税負担は軽減されます。企業によっては退職金制度が異なるため、受け取り方や時期については就業規則を事前に確認し、ご自身の状況と照らし合わせて税負担が最も少なくなる方法を検討することが賢明です。
再雇用後の源泉徴収票、2枚になったらどうする?
再雇用時の退職所得と給与所得
再雇用に伴い、一度会社を退職し、退職金を受け取った場合、通常は「退職所得の源泉徴収票」が発行されます。これは、その名の通り退職金にかかる税金を証明する書類です。一方、再雇用後の給与に対しては、毎月の給与明細とともに、年末に「給与所得の源泉徴収票」が発行されます。
つまり、再雇用後の最初の年には、前職(定年退職時)の退職金に関する源泉徴収票と、再雇用後の給与に関する源泉徴収票の2種類を受け取ることになる可能性があります。
これらの所得は、税法上それぞれ異なる扱いを受けるため、両方の源泉徴収票をきちんと保管しておくことが非常に重要です。特に、退職所得は分離課税、給与所得は総合課税の対象となり、原則として別々に計算されます。この違いを理解しておくことで、今後の税務処理がスムーズに進むでしょう。
税務上の不明点があれば、管轄の税務署や税理士に相談することをお勧めします。
複数の源泉徴収票がある場合の確定申告
一般的に、会社員の場合、年末調整によって所得税の計算が完了するため、確定申告をする必要はありません。しかし、再雇用によって「退職所得の源泉徴収票」と「給与所得の源泉徴収票」の2枚を受け取った場合、あるいは1年間に複数の会社から給与を受け取った場合には、確定申告が必要になるケースがあります。
具体的には、前職で退職所得控除の適用を受けるための「退職所得の受給に関する申告書」を提出し忘れていた場合、税金が過徴収されている可能性があります。この場合、確定申告を行うことで、納めすぎた税金が還付されることになります。また、再雇用後の給与収入が年間2,000万円を超える場合や、副業など他の所得があった場合も確定申告が必要です。
年末調整は、その年の主たる給与支払者(再雇用後の会社)が行うのが一般的です。しかし、前職の退職所得とは合算されないため、ご自身の状況に応じて確定申告が必要かどうかを判断することが重要です。不明な場合は、税務署や税理士に確認し、適切な申告を行うようにしましょう。
注意!再雇用時の扶養控除等申告書
再雇用された際、新しい勤務先で改めて「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出する必要があります。この申告書は、配偶者控除や扶養控除、障害者控除など、所得税の計算に必要な各種控除を受けるために非常に重要な書類です。
もしこの申告書を提出し忘れると、会社側は扶養親族の状況などを把握できないため、各種控除が適用されず、所得税が通常より多く源泉徴収されてしまう可能性があります。その場合、年末調整では調整しきれず、ご自身で確定申告を行わなければ、税金の還付を受けることができなくなってしまいます。
また、再雇用によってご自身の収入が変化したり、配偶者やお子様の状況に変化があったりする可能性もあります。例えば、配偶者がこれまでご自身の扶養に入っていたが、再雇用後の収入によっては扶養から外れる、あるいは逆に配養に入る、といったケースも考えられます。必ず内容を確認し、正確に記入して提出するようにしましょう。
再雇用前の会社での年末調整がどのようになされていたかについても、事前に確認しておくと、スムーズな移行に役立ちます。
月額変更届(月変)と随時改定、再雇用で知っておくべきこと
再雇用と社会保険:標準報酬月額の決定
再雇用に伴い給与体系や賃金が変更されると、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)の計算基礎となる「標準報酬月額」が見直されることがあります。定年退職と再雇用が同月内に発生した場合、一度健康保険・厚生年金保険の資格を喪失し、すぐに再取得することで、同月中に新しい標準報酬月額が決定される特例措置があります。
この特例によって、再雇用後の給与に基づいた社会保険料が早期に適用されるため、保険料を適正な額に調整することができます。しかし、この際に標準報酬月額が大幅に下がると、将来受け取る厚生年金の額にも影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
再雇用時の給与設定は、単なる手取り額だけでなく、社会保険料、そして将来の年金額にまで影響を及ぼす重要な要素であることを理解し、慎重に検討することが求められます。会社の担当者や社会保険労務士とよく相談し、制度を正しく理解した上で判断しましょう。
月額変更届(月変)と随時改定の仕組み
社会保険料の計算基礎となる標準報酬月額は、毎年一度、4月・5月・6月の給与平均で決定される「定時決定」が原則です。しかし、再雇用によって給与が大幅に変動した場合には、定時決定を待たずに見直しが行われる「随時改定」、通称「月額変更届(月変)」という制度が適用されることがあります。
随時改定の要件は、固定的賃金(基本給や役職手当など、変動しない賃金)の変動があった後、連続する3ヶ月間の給与平均が、現在の標準報酬月額と比べて2等級以上の差が生じた場合です。この場合、4ヶ月目から新しい標準報酬月額が適用され、それに伴い社会保険料も変更されます。
再雇用によって給与水準が大きく変わることは珍しくないため、多くのケースでこの随時改定の対象となります。ご自身の給与がどのように変動するか、またそれが社会保険料にどう影響するかを把握しておくことが、適切な家計管理の上で非常に重要です。
社会保険料を最適化するためのポイント
再雇用後の給与設定は、手取り額だけでなく、健康保険料と厚生年金保険料といった社会保険料の負担に大きく影響します。これらの保険料は標準報酬月額に基づいて計算されるため、給与の額を調整することで、社会保険料の負担を最適化することが可能です。
例えば、給与を特定の水準に抑えることで、標準報酬月額の等級が下がり、社会保険料の負担を軽減できる場合があります。ただし、厚生年金保険料を抑えすぎると、将来受け取る年金額が減少してしまう可能性があるため、単に保険料を安くすることだけを考えるのではなく、長期的な視点でのバランスが重要です。
また、65歳以降も働き続ける場合、「在職老齢年金」制度によって年金の一部または全額が支給停止されることがあります。この支給停止基準額(令和6年度は月額50万円)を意識して給与額を設定することで、年金の支給停止を回避しつつ、収入を確保する戦略も考えられます。
再雇用時の給与交渉の際には、これらの社会保険料や年金制度の仕組みを理解し、会社の担当者と具体的な数字を交えて相談することをお勧めします。
退職金と再雇用、税金対策のポイント
退職所得控除を最大限活用する
退職金にかかる税金を軽減するために最も重要なのが「退職所得控除」です。この控除は勤続年数に応じて計算され、勤続年数が長いほど控除額が大きくなる仕組みになっています。
具体的には、勤続20年以下であれば「40万円 × 勤続年数」、勤続20年超であれば「800万円 + 70万円 ×(勤続年数 – 20年)」が控除されます。例えば、勤続30年の場合、控除額は1,500万円にもなります。この控除額が退職金支給額を上回る場合は、退職金にかかる税金は実質的にゼロになります。
再雇用される場合、定年時に一度退職金を受け取り、再雇用終了時にも再度退職金を受け取るケースがあります。それぞれの退職金に対して、その時点での勤続年数に応じた退職所得控除が適用されるのが一般的です。ご自身の勤続年数を正確に把握し、企業に提出する「退職所得の受給に関する申告書」の漏れがないよう、十分注意しましょう。この申告書がないと、控除が適用されず、高額な税金が源泉徴収されてしまうリスクがあります。
複数回の退職金支給と税金計算の注意点
再雇用制度を利用する方は、定年時に一度退職金を受け取り、再雇用期間の終了時にも再度退職金が支給される、といった複数回の退職金を受け取るケースがあります。このような場合、税金計算には特別な注意が必要です。
退職所得控除は、原則として一つの退職金に対して適用されますが、退職金が複数回にわたって支給される場合、その期間や間隔によって、前の退職金と合算して勤続年数を計算する場合と、それぞれ独立した退職金として計算する場合とがあります。例えば、同じ企業内で定年退職と再雇用が連続して行われ、実質的な勤続が継続しているとみなされる場合、控除の計算が複雑になることがあります。
特に、前の退職金の支給日から次の退職金の支給日までの期間が5年以内である場合など、特定の条件に該当すると、前後の退職金を合わせた勤続年数で退職所得控除額を計算し、合算した退職所得から控除額を差し引いて課税所得を算出することになります。この仕組みは非常に複雑であるため、ご自身の状況がどのように適用されるか、必ず会社の担当者や税理士に確認することが重要です。
退職金を受け取る時期と受け取り方の戦略
退職金の受け取り方は、税負担に直結するため、非常に重要な戦略的選択です。主な選択肢は、一時金として一括で受け取るか、年金形式で分割して受け取るか、あるいは両者を組み合わせるかです。
一時金で受け取る場合、「退職所得控除」が適用され、分離課税となるため、多くの場合、年金形式よりも税負担が少なくなります。特に勤続年数が長いほど控除額が大きくなり、税金がかからないケースも少なくありません。前述の通り、勤続30年で退職金900万円であれば、税金はかかりません。
一方、年金形式で受け取る場合は、「雑所得」として総合課税の対象となり、「公的年金等控除」が適用されます。この場合、他の年金収入などと合算されて課税されるため、総所得が高くなると税負担も大きくなる傾向があります。ただし、一度に大金を管理する不安がある方や、計画的に受け取りたい方には向いています。
どちらの受け取り方が有利かは、ご自身の退職金額、勤続年数、他の所得の有無、今後のライフプラン(年金受給開始時期など)によって異なります。最も税負担を抑え、かつご自身の生活設計に合った選択をするためには、企業の就業規則を詳細に確認し、必要に応じて税理士など専門家へ事前に相談することを強くお勧めします。
再雇用終了後の失業保険と第3号被保険者の注意点
再雇用終了後の失業保険(高年齢求職者給付金)
再雇用期間が終了し、再び退職する際にも、雇用保険の給付金を受け取れる可能性があります。特に、65歳以上で退職した場合は、「高年齢求職者給付金」という一時金が支給されます。
この給付金は、一般的な「基本手当」とは異なり、一時金としてまとめて支給されるのが特徴です。受給するためには、退職日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6ヶ月以上あること、などの要件を満たす必要があります。さらに、ハローワークで求職の申し込みを行い、積極的に就職活動を行っていることが求められます。
給付額は、退職時の賃金日額と雇用保険の加入期間によって異なります。例えば、被保険者期間が1年未満の場合は30日分、1年以上の場合は50日分が支給されます。再雇用期間も雇用保険の加入期間としてカウントされるため、受給資格を満たしているかを確認しておくことが重要です。
退職後にすぐに再就職する予定がない場合は、この高年齢求職者給付金を活用することで、経済的な支えとなるでしょう。手続きについては、離職票を受け取った後、速やかにハローワークに相談してください。
第3号被保険者制度の利用条件
再雇用期間の終了後、働き方を完全にリタイアし、配偶者の扶養に入ることを検討されている方もいらっしゃるかもしれません。その際に関わってくるのが、国民年金の「第3号被保険者制度」です。
第3号被保険者とは、厚生年金や共済年金に加入している第2号被保険者(会社員や公務員)の扶養に入っている配偶者(20歳以上60歳未満)で、自身の年収が一定額以下の場合に、国民年金保険料を自分で負担することなく国民年金に加入できる制度です。これにより、将来的に老齢基礎年金を受け取ることができます。
この制度を利用するには、いくつかの要件があります。最も重要なのは、配偶者の年収が130万円未満であることです。ただし、60歳以上または障害者の場合は、年収180万円未満となります。また、配偶者が健康保険の扶養に入っていることも条件となります。
再雇用終了後、ご自身の収入が減少し、配偶者の扶養に入れる場合は、この制度を利用することで国民年金保険料の負担をなくすことができます。扶養に入るための手続きは、配偶者の勤務先を通じて行われるのが一般的ですので、忘れずに確認しましょう。
年金受給と失業保険の調整
再雇用終了後、年金を受給しながら、同時に失業保険(高年齢求職者給付金)も受け取りたいと考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、原則として、公的年金と失業保険は同時に全額を受給することはできません。
具体的には、65歳未満で失業保険(基本手当)を受給する場合は、老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)が支給停止されます。一方、65歳以上で退職し「高年齢求職者給付金」を受給する場合は、基本手当とは異なり、老齢年金との調整は行われないため、年金が支給停止されることはありません。
しかし、高年齢求職者給付金は一時金であるため、受給期間中に年金が支給停止されるというよりは、求職の申し込みをした期間に応じて給付が計算される形となります。このため、年金と高年齢求職者給付金は同時に受給できるとされています。
ただし、制度は複雑であり、ご自身の状況によって適用されるルールが異なる場合があります。正確な情報は、年金事務所やハローワークに直接問い合わせて確認することが最も確実です。不明な点があれば、必ず専門機関に相談し、損をしないように注意しましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 再雇用されると、税金はどう変わりますか?
A: 給与体系が変わる場合、源泉徴収される税額も変動します。また、退職金を受け取る場合、その税金についても考慮が必要です。
Q: 源泉徴収票が2枚になった場合、何を確認すればいいですか?
A: 通常、1年間の所得に対して1枚の源泉徴収票が発行されます。2枚ある場合は、前の会社での源泉徴収票と再雇用後の給与に関する源泉徴収票のどちらにも注意が必要です。年末調整で合算して提出する必要があります。
Q: 再雇用後の「月変(月額変更届)」とは何ですか?
A: 月額変更届は、雇用保険の被保険者の標準報酬月額が著しく変動した場合に提出する書類です。再雇用後の給与が以前と大きく異なる場合に、手続きが必要となることがあります。
Q: 退職金を受け取った後、再雇用された場合の税金対策はありますか?
A: 退職金には「退職所得控除」があり、税金が優遇されます。再雇用後の給与との兼ね合いで、一時金で受け取るか、分割で受け取るかなどを検討すると良いでしょう。税務署や税理士に相談することをおすすめします。
Q: 再雇用が終了した後、失業保険はもらえますか?
A: 雇用保険の加入期間などの条件を満たしていれば、再雇用終了後も失業保険(基本手当)を受給できる可能性があります。自己都合退職か会社都合退職かによって、給付日数などが異なります。
