2025年4月1日より、高年齢者雇用安定法の一部改正により、65歳までの雇用確保が全面的に義務化されました。これに伴い、企業は従業員が希望する場合、65歳まで雇用を継続する措置を講じる必要があります。本記事では、再雇用制度、役職手当、有給休暇に関する最新の制度と、企業・従業員双方にとっての注意点を解説します。

再雇用制度の概要と知っておきたいメリット・デメリット

2025年義務化!再雇用制度の基本

2025年4月1日より、高年齢者雇用安定法における経過措置が終了し、企業は「65歳までの雇用確保」が全面的に義務化されます。これは、希望する全ての従業員が65歳まで働き続けられる環境を整備する必要があることを意味します。企業は、定年を65歳まで引き上げる、定年制を廃止する、あるいは再雇用制度を含む継続雇用制度を導入するといった選択肢の中から、適切な措置を講じなければなりません。

この制度は、長年培ってきたスキルや経験を持つ従業員が定年後も活躍し続けられる機会を提供することで、高齢者の生活安定と企業の人材確保を両立させる狙いがあります。一方で、制度の詳細や待遇面については企業ごとに異なるため、事前にしっかりと内容を把握しておくことが重要です。特に、雇用形態や職務内容が変更される可能性も考慮に入れる必要があります。

従業員にとっては、定年後も収入を維持し、社会とのつながりを持ち続けることができる大きなメリットがあります。また、企業にとっては、ベテラン社員の豊富な知識や経験を若手社員への伝承に活かしたり、慢性的な人手不足の解消につなげたりすることが期待されます。

再雇用後の待遇変更とその影響

再雇用制度が導入されたとしても、定年前と全く同じ条件で働き続けられるとは限りません。多くのケースで、給与や待遇が見直される可能性があります。例えば、役職が外れることで役職手当が支給されなくなったり、労働時間や職務内容が変更されたりすることが考えられます。これにより、基本給や賞与額が減少し、結果として年収が大きく下がることも珍しくありません。

賃金の減少は、再雇用後の生活設計に直結するため、事前に自身の待遇がどのように変わるのかを会社に確認しておくことが不可欠です。また、賃金が大幅に減少した場合、社会保険料も変動する可能性があります。特に、再雇用後に給与が大きく下がった場合は、「同日得喪」と呼ばれる手続きを行うことで、社会保険料の負担を軽減できる場合があります。この手続きを適切に行えば、再雇用後の社会保険料が新しい給与に基づいた金額に早期に切り替わるため、手取り額の減少を抑える効果が期待できます。

自身の待遇や賃金体系がどのように変化するのか、具体的なシミュレーションを行い、納得のいく形で再雇用に応じることが重要です。

70歳までの就業機会確保に向けた動き

現行法では、70歳までの就業機会確保は企業の「努力義務」として位置づけられています。これは、65歳までの雇用確保とは異なり、直ちに義務化されているわけではありませんが、将来的な義務化を見据えた動きとして注目されています。企業は、70歳までの定年引き上げ、定年制の廃止、あるいは70歳まで継続雇用制度を導入するといった多様な選択肢を検討することが推奨されています。

政府がこの「努力義務」を設けている背景には、少子高齢化による労働力人口の減少や、高齢者の働く意欲の向上があります。より多くの高齢者が長く働き続けられる社会を実現することで、社会保障制度の維持や経済の活性化を図ることが目的です。従業員にとっても、70歳まで働き続けられる選択肢が増えることは、老後の生活設計に大きな安心をもたらします。

しかし、70歳までの就業確保においては、個々の健康状態や業務内容の適性、企業の事業継続性など、多角的な視点からの検討が必要です。企業と従業員双方にとって持続可能な働き方を模索していくことが、今後の社会においてますます重要となるでしょう。

役職手当と再雇用:役員再雇用の場合の注意点

役職定年の見直しと役職手当の動向

近年、多くの企業で導入されてきた役職定年制度は、一定の年齢に達すると役職を解かれ、一般職となる制度です。これに伴い、役職手当の支給が終了し、給与が大きく減少するケースが一般的でした。しかし、近年では、ベテラン社員の経験や知識を活かし続けるため、また、働きがいを維持する目的で、役職定年を廃止する企業や、その年齢を引き上げる企業が増加傾向にあります。

役職手当の取り扱いは、再雇用後の待遇を大きく左右する要素です。役職が維持されるか、あるいは新たな役職が与えられるかによって、手当の有無や金額が変動します。企業によっては、役職手当を廃止し、その分の報酬を基本給に組み込むといった見直しを行うこともあります。このような動向は、従業員のモチベーション維持や、同一労働同一賃金の原則に則った公平な評価体系構築を目指す企業努力の一環と言えるでしょう。自身のキャリアプランと照らし合わせ、企業の方針を事前に確認することが大切です。

同一労働同一賃金原則と役職手当

再雇用後の役職手当を考える上で、「同一労働同一賃金」の原則は非常に重要です。この原則は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、不合理な待遇差を設けることを禁止しています。もし再雇用によって雇用形態が変わり、以前と同じ職務内容であるにもかかわらず、役職手当が不支給になったり大幅に減額されたりした場合、この原則に抵触する可能性があります。

企業は、職務内容、責任の程度、配置の変更の範囲など、客観的な要素に基づいて賃金体系を設計する必要があります。単に「再雇用だから」という理由だけで役職手当を廃止することは、不合理な待遇差とみなされるリスクがあるため注意が必要です。従業員側も、自身の職務内容が定年前と変わらないにもかかわらず、手当に不合理な差が生じていないかを確認し、疑問があれば企業に説明を求める権利があります。透明性のある賃金制度が求められる時代において、企業はより慎重な対応が求められるでしょう。

役職手当の不利益変更と合意形成

役職手当の廃止や減額は、従業員にとって「不利益変更」にあたる可能性があります。労働契約法では、労働条件の不利益変更を行う場合、原則として従業員の個別同意を得るか、合理的な理由に基づく就業規則の変更が必要とされています。もし企業が一方的に役職手当を廃止・減額した場合、これは法律違反となるリスクを伴います。

そのため、企業は再雇用に際して、役職手当を含む賃金体系の変更について、従業員に対し十分に説明し、理解と合意を得ることが非常に重要です。変更の合理的な理由(例えば、役職定年制度の適用、職務内容の変更など)を明確に提示し、可能であれば代替案(基本給への上乗せなど)も検討すべきでしょう。従業員は、提示された条件を十分に検討し、不明な点があれば積極的に質問して、納得の上で労働契約を締結することが肝心です。円満な再雇用には、企業と従業員の丁寧なコミュニケーションが不可欠と言えます。

有給休暇の繰り越し・リセット:再雇用時の疑問を解消

再雇用時の有給休暇の取り扱い

再雇用制度を利用して継続雇用される場合、多くの人が気になるのが有給休暇の扱いです。一般的に、再雇用によって一度退職し、改めて労働契約を結び直す形になる場合、勤続年数がリセットされるとみなされ、有給休暇も新たに付与されることがあります。しかし、これは企業の就業規則や労働契約の内容によって異なります。例えば、実質的に雇用が継続しているとみなされる場合や、企業が特別に配慮する場合には、退職前の有給休暇が引き継がれる、または勤続年数が通算されるケースも存在します。

重要なのは、再雇用前の段階で、自身の有給休暇がどのように扱われるのかを会社の人事担当者や就業規則で明確に確認しておくことです。特に、消化しきれなかった有給休暇がある場合、再雇用後に消滅してしまうのか、それとも買い上げの対象になるのかなど、具体的な取り扱いを事前に把握しておくことで、不測の事態を避けることができます。労働基準法上、有給休暇は2年で時効消滅するため、再雇用までの期間にも注意が必要です。

有給休暇取得率の現状と柔軟な取得

日本の年次有給休暇取得率は、過去最高を記録し、2023年には平均65.3%に達しました。これは政府目標である「2025年までに取得率70%」に近づいているものの、国際的に見れば依然として低い水準にあります。取得しない理由として「人手不足など仕事の都合上難しいため」が挙げられる一方で、多くの日本人が毎月短期間の休暇を取得してリフレッシュしている傾向も見られます。

こうした状況を受けて、政府はより柔軟な有給休暇の取得を促進するための法改正を検討しています。特に、時間単位年休の上限を拡大する動きは注目に値します。現行では年5日以内と定められている時間単位年休の上限が緩和されれば、病院の通院や子どもの学校行事参加など、短い時間での休暇取得がより容易になり、従業員のワークライフバランスの向上に寄与すると期待されています。再雇用された従業員にとっても、体調管理やプライベートとの両立を図る上で、このような柔軟な制度は大きなメリットとなるでしょう。

年5日の有給休暇取得義務と企業の対応

2019年4月1日から、企業には年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対し、年5日の有給休暇を取得させることが義務付けられています。これは、従業員の心身の健康維持と、ワークライフバランスの改善を目的とした重要な制度です。この義務を果たさない場合、企業には罰金が科される可能性があるため、企業側は従業員一人ひとりの有給休暇の取得状況を適切に管理する必要があります。

再雇用された従業員も、この年5日の取得義務の対象となります。企業は、再雇用後の新しい基準日に基づいて有給休暇を付与し、その中で確実に5日間取得させるよう促す必要があります。従業員にとっては、この義務によって確実に休暇を取得できるため、安心して働くことができるでしょう。取得義務の対象期間は「基準日単位」で管理されるため、企業は従業員ごとの付与日を正確に把握し、計画的な取得を促す仕組みを整備することが求められます。従業員側も、自身の権利として積極的に休暇を取得し、健康的な働き方を維持するよう心がけましょう。

再雇用で気になる有給休暇の日数と付与日

再雇用後の有給休暇の付与日数

再雇用後の有給休暇の付与日数は、原則として再雇用時の勤続年数によって決まります。多くの場合、一度退職して新たに労働契約を結び直す形になるため、勤続年数がリセットされ、初年度は通常6ヶ月勤務後に10日付与されるという形になります。しかし、企業によっては、再雇用前の勤続年数を一定期間通算する、または特別に配慮して付与日数を増やすケースもあります。これは企業の就業規則や、継続雇用に関する協定の内容によって大きく左右されます。

労働基準法では、入社から6ヶ月が経過し、その間の全労働日の8割以上出勤した場合に、最初の10日の有給休暇が付与されます。その後は勤続年数に応じて付与日数が増えていき、最終的には最大で年間20日が付与されます。再雇用の場合、この「入社」が再雇用された日とみなされることが多いため、実質的な勤続年数が長くても、有給休暇の日数は初年度から数え直しになる可能性が高いことを認識しておく必要があります。

勤続期間 付与日数
6ヶ月 10日
1年6ヶ月 11日
2年6ヶ月 12日
3年6ヶ月 14日
4年6ヶ月 16日
5年6ヶ月 18日
6年6ヶ月以上 20日

(上記は一般的な労働者の例であり、再雇用時の条件は個別に確認が必要です。)

有給休暇の付与日と管理のポイント

有給休暇の付与日は、通常、労働者が雇い入れられた日(基準日)から6ヶ月後、そしてその後1年ごとになります。再雇用の場合、この「雇い入れられた日」が再雇用された日とみなされることが一般的です。したがって、再雇用される従業員は、自身の新しい有給休暇の基準日を正確に把握しておく必要があります。

企業側は、従業員ごとの基準日を正確に管理し、法律に基づいた適切な日数の有給休暇を付与する義務があります。特に、2019年4月からは年5日の有給休暇取得が義務化されているため、この管理はより重要性を増しています。従業員にとっては、自分の基準日を知ることで、計画的に有給休暇を消化し、体調管理やプライベートの充実を図ることができます。企業によっては、再雇用前の最後の有給休暇を使い切るよう促したり、残った有給休暇を買い取る制度を設けたりする場合もあるため、事前に確認し、有効活用を検討しましょう。

再雇用時の有給休暇に関する交渉術

再雇用に際して、有給休暇の取り扱いについて疑問や要望がある場合は、遠慮せずに会社と交渉することが重要です。特に、定年前の有給休暇がかなり残っている場合や、再雇用後も長く働き続けたいと考えている場合は、事前に話し合いの場を設けることをお勧めします。交渉の際には、以下の点を参考にすると良いでしょう。

  1. 就業規則の確認: まず、会社の就業規則において再雇用時の有給休暇の取り扱いがどのように定められているかを確認します。
  2. 勤続年数通算の可能性: 以前の勤続年数を再雇用後も通算してもらえるか、交渉の余地がないか打診してみます。企業によっては、制度として通算を認めているケースもあります。
  3. 残りの有給休暇の買い上げ: 定年前に使い切れなかった有給休暇について、会社に買い上げてもらえる可能性がないか確認します。労働基準法には買い上げ義務はありませんが、企業独自の制度として行われることがあります。
  4. 具体的な希望日の提示: 再雇用後、いつ頃休暇を取りたいか、具体的な希望があれば提示し、事前に調整を図ることで、スムーズな取得につなげることができます。

再雇用は新たなスタートです。自身の権利と会社の制度をしっかりと理解し、納得のいく条件で働くための積極的なコミュニケーションを心がけましょう。

再雇用されないケースと事前に確認すべきこと

再雇用されない可能性と法的根拠

高年齢者雇用安定法により、企業は原則として希望する従業員を65歳まで雇用する義務がありますが、残念ながら、全ての従業員が再雇用されるわけではありません。参考情報にもあるように、「心身の健康状態や勤務状況によっては、継続雇用されないケースもあります」。これは、企業の経営状況、業務遂行能力、職務遂行上の問題、あるいは健康上の理由など、客観的かつ合理的な理由がある場合に限られます。

具体的には、過去の勤務評価が著しく低い、度重なる規律違反がある、重大な健康問題を抱えており業務遂行が困難であるといった状況が挙げられます。企業が再雇用を拒否する際には、客観的な基準に基づき、かつ合理的な理由が求められます。安易な再雇用拒否は、違法と判断される可能性もあるため、企業側も慎重な判断が必要です。従業員としては、日頃から健康管理に努め、業務に真摯に取り組むことが、再雇用への道を開く上で最も重要だと言えるでしょう。

再雇用されないリスクを減らすための準備

再雇用を確実に勝ち取るためには、定年前からの準備が非常に重要です。まず、日頃の勤務状況や業務遂行能力を高く評価されるよう、積極的に業務に取り組み、成果を出し続けることが第一です。特に、若手社員の指導育成や、自身の持つ専門知識・スキルを組織内で共有する姿勢は、企業にとっての価値を高めます。

次に、健康状態の自己管理も不可欠です。定期的な健康診断の受診はもちろん、持病がある場合は適切な治療を継続し、業務に支障がないことを示すことが大切です。また、再雇用後の働き方について、自身の希望を明確にしておくことも有効です。例えば、フルタイム勤務を希望するのか、時短勤務や特定の業務への従事を希望するのかなど、具体的に会社に伝える準備をしておくことで、企業側も配置を検討しやすくなります。早めに上司や人事担当者と面談の機会を設け、再雇用に関する意向を確認し、自身のキャリアプランを共有することが、不安の解消とスムーズな再雇用につながります。

事前に確認すべき企業の方針と就業規則

再雇用に関する不安を解消し、納得のいく形で定年後も働き続けるためには、事前に会社の就業規則や関連規程を徹底的に確認することが最も重要です。特に、以下の点については必ず確認しておきましょう。

  1. 再雇用の対象者基準: どのような基準を満たせば再雇用されるのか、具体的な評価基準や健康状態に関する規定を確認します。
  2. 再雇用後の雇用形態・職務内容: 正社員、契約社員、パート・アルバイトなど、どのような雇用形態になるのか。また、定年前と同じ職務内容が継続されるのか、あるいは異なる職務になるのかを把握します。
  3. 賃金・待遇: 給与体系、賞与、退職金、各種手当(役職手当を含む)がどのように変更されるのか、具体的な例を基に確認します。特に、社会保険料への影響も考慮に入れましょう。
  4. 労働時間・勤務地: 労働時間や勤務地に変更があるのか、希望を伝える機会があるのかを確認します。
  5. 有給休暇の取り扱い: 未消化の有給休暇がどうなるのか、再雇用後の付与日数や取得方法について確認します。

これらの情報を早期に収集し、不明な点があれば人事担当者や上司に質問し、書面で回答を得るなどして、誤解のないように努めましょう。再雇用は人生の大きな節目です。自身と家族の将来のためにも、納得できる情報を得てから決断することが大切です。