概要: 試用期間は、企業が新入社員の適性や能力を見極めるための期間です。しかし、残念ながら試用期間中に解雇や退職を告げられるケースも少なくありません。本記事では、試用期間で解雇・離職される主な理由や、その割合、労災が起きた場合の注意点、そして試用期間を無事に乗り越えるためのポイントを解説します。
試用期間で解雇・離職される主な理由とは
試用期間は、企業が新入社員の適性や能力、そして企業文化への順応性を見極めるための大切な期間です。しかし、「試用期間中だから」という理由だけで、企業が自由に解雇できるわけではありません。
法的に解雇が認められるためには、「客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由」が必要とされます。具体的にどのようなケースが解雇理由となり得るのか、詳しく見ていきましょう。
能力不足や勤務態度の問題
最も一般的な解雇理由の一つとして、期待される業務遂行能力が著しく欠けている「能力不足」が挙げられます。例えば、与えられた業務を期日までに完了できない、品質が著しく低い、あるいは何度指導しても改善が見られないといったケースです。
ただし、企業側には改善のための十分な指導や教育の機会を提供した上で、それでも改善が見られなかった場合にのみ解雇が認められるという前提があります。いきなり解雇という流れは、不当解雇とみなされる可能性が高いです。
また、「勤務態度不良」も解雇理由となることがあります。無断欠勤や遅刻、早退が頻繁に起こり、再三の注意にもかかわらず改善が見られない場合は問題視されます。過去の判例では、出社率が90%未満や、無断欠勤が3回以上などのケースで解雇が認められた事例もあります。協調性がなく、職場の和を乱したり、上司の指示に繰り返し従わなかったりする場合も、勤務態度不良として解雇の対象となり得ます。
経歴詐称や重大な規律違反
採用選考時に履歴書や職務経歴書に虚偽の情報を記載する「経歴詐称」は、解雇の有力な理由となります。特に、業務遂行に不可欠な資格や経験、学歴などに関する詐称は、企業と労働者の信頼関係を根底から揺るがす行為として、解雇が認められやすい傾向にあります。
例えば、特定の資格が必須の職種であるにもかかわらず、その資格を偽って申告していた場合などが該当します。
さらに、「重大な規律違反」も解雇の対象です。これには、企業内で犯罪行為を行った場合や、会社の財産を毀損する行為、情報漏洩、セクハラ・パワハラといったハラスメント行為、あるいは就業規則に明確に定められた懲戒事由に該当する行為などが含まれます。
これらの行為は、企業の秩序維持や他の従業員の安全・権利に関わるため、試用期間中であっても厳しく対処され、解雇に至ることが一般的です。
企業側が本採用を拒否できないケース
試用期間中であっても、企業が自由に本採用を拒否できるわけではありません。いくつかのケースでは、解雇が無効と判断される可能性が高まります。
まず、能力不足や勤務態度不良を理由とする場合でも、従業員に十分な指導や改善の機会を与えず、一方的に解雇することは不当解雇とみなされやすいです。企業側は、問題点を具体的に伝え、改善策を提示し、その後の経過を観察するといったプロセスを経る必要があります。
次に、試用期間中の解雇や本採用拒否に関する規定が、会社の就業規則に明確に定められていない場合も、解雇の有効性が問われるリスクがあります。トラブルを避けるためにも、企業は事前に就業規則を整備し、従業員に周知しておく義務があります。
また、「会社の方針と合わない」といった曖昧な理由や、「経費削減」のみを理由とした解雇は、「客観的・合理的な理由」とは認められにくいです。試用期間の目的は従業員の適性見極めであり、企業都合のリストラ手段として利用することは許されません。これらのケースでは、労働者側が不当解雇として争うことで、解雇が無効となる可能性が非常に高くなります。
試用期間中の解雇・リストラはどのくらいの割合?
試用期間中に解雇や本採用拒否が現実となるケースは、実際にどのくらいの割合で発生しているのでしょうか。多くの企業が試用期間を設けている一方で、実際に本採用されない割合は意外と少ないのが実情です。
ここでは、試用期間を巡る企業の現状と、解雇のハードルについて詳しく見ていきましょう。
試用期間を設ける企業の現状
現在の日本において、正社員を採用する際に試用期間を設ける企業は非常に一般的です。ある調査結果によると、実に87.4%の企業が正社員に対して試用期間を設けていると報告されています。
これは、採用段階だけでは見極めきれない、実際の業務における能力や適性、そして社風とのマッチングを重視する企業の姿勢が表れています。試用期間の長さとしては、「3ヶ月程度」が最も多く、次いで「6ヶ月程度」が一般的です。これは新卒採用、中途採用のいずれにも共通する傾向であり、企業と従業員がお互いに「お見合い」をするための重要な期間として機能しています。
この期間を通じて、企業は従業員が組織の一員として十分に活躍できるかを見極め、従業員もまた、自身の働き方やキャリアプランが企業と合致しているかを確認する機会を得ます。
実際に本採用されないケースの割合
多くの企業が試用期間を設けている一方で、実際に試用期間を理由に本採用を拒否するケースは、そこまで多くないのが現状です。
前述の調査では、「本採用しないことがあるが、ここ5年間に事例はない」と回答した企業が58.0%を占めています。これは、多くの企業が試用期間を設けつつも、最終的にはほとんどの従業員を本採用していることを示唆しています。
一方で、「本採用しないことがあり、ここ5年間に事例がある」と回答した企業も13.1%存在します。この数字は、試用期間中の解雇や本採用拒否が全くないわけではないことを示しています。
ただし、この13.1%の中には、経歴詐称や重大な規律違反など、従業員側に明確な問題があったケースも含まれていると考えられます。通常の業務遂行能力や勤務態度を誠実に示している限り、過度に解雇を心配する必要はないと言えるでしょう。
解雇理由が認められるハードル
試用期間中の解雇や本採用拒否は、通常の解雇と同様に「客観的に合理的かつ社会通念上相当な理由」が求められます。これは、企業が従業員を安易に解雇できないようにするための、労働者保護の観点に基づいています。
具体的には、前述の能力不足や勤務態度不良、経歴詐称などが理由となる場合でも、企業はその事実を具体的に立証し、さらに改善の機会を十分に与えたこと、そして解雇以外の手段を検討したことなどを説明する必要があります。単なる「期待外れだった」や「会社に合わない」といった曖昧な理由では、法的に解雇が認められる可能性は極めて低いのが実情です。
企業が試用期間中の解雇に踏み切る際には、不当解雇として訴訟に発展するリスクを考慮し、非常に慎重な判断と厳格な手続きが求められます。このため、企業側もよほどの理由がない限り、解雇という手段を取ることは避ける傾向にあります。
試用期間中に労災が起きたら?解雇の可能性は?
試用期間中に予期せぬ事故や病気で労災が発生した場合、雇用関係にどのような影響があるのか、不安に感じる方もいるかもしれません。試用期間中であっても、労災保険の適用は受けられますが、解雇の可能性については慎重な判断が必要です。
ここでは、労災発生時の会社の義務、解雇の可否、そして従業員が取るべき行動について解説します。
試用期間中の労災発生時の会社の義務
試用期間中の従業員であっても、労働者として保護される対象であるため、業務中や通勤途中に発生した事故や病気(労災)に対して、会社は通常の従業員と同様の義務を負います。
労災が発生した場合、会社は速やかに適切な医療機関への受診を促し、必要な治療費や休業中の賃金(休業補償給付)について、労災保険の申請手続きをサポートする責任があります。労災保険は、雇用形態や勤続年数に関わらず、労働者として働くすべての人に適用される制度です。
したがって、会社は試用期間中だからといって、労災の事実を隠蔽したり、適切な手続きを怠ったりすることは許されません。従業員は、自身が労災の対象となることを理解し、万が一の際には会社に報告する義務があります。
労災が発生した際には、まず治療と補償が最優先されるべき事項となります。
労災を理由とした解雇は可能か
結論から言えば、業務上の傷病によって休業している期間、およびその後30日間は、原則として会社は従業員を解雇することはできません。これは労働基準法第19条で明確に定められた解雇制限であり、試用期間中の従業員にも等しく適用されます。
この期間中に会社が解雇を行った場合、それは不当解雇とみなされます。会社が解雇できるのは、治療が終わり、復帰が可能な状態になった後、または傷病補償年金を受給することになった場合など、限られた状況下でのみ検討されます。
しかし、たとえ治療後であっても、業務への復帰が著しく困難であり、会社が代替の業務を用意できないなどの特別な事情がある場合に限り、解雇が検討される可能性があります。その際も、会社は解雇予告手当を支払うなど、法的な手続きを踏む必要があります。安易な労災を理由とした解雇は、労働者にとって極めて不利益なため、法律で厳しく制限されているのです。
労災発生時の従業員が取るべき行動
もし試用期間中に労災が発生してしまった場合、従業員は自身の権利を守るために、以下の行動を速やかに取るべきです。
- 速やかに会社に報告する: 事故の状況や怪我の内容を詳細に伝え、会社に労災の発生を報告しましょう。
- 医療機関を受診し、労災であることを伝える: 病院で診察を受ける際、それが労災によるものであることを伝え、診断書を取得してください。これは労災申請に不可欠な書類となります。
- 労災申請手続きを進める: 会社が申請手続きをサポートすることが一般的ですが、もし会社が協力的でない場合は、自身で所轄の労働基準監督署に相談し、手続きを進めることも可能です。
- 証拠を保全する: 事故現場の写真、目撃者の証言、医師の診断書、会社とのやり取りの記録など、可能な限り多くの証拠を保存しておきましょう。
- 相談窓口を利用する: 不安な点や疑問点があれば、労働基準監督署や弁護士、労働組合などの専門機関に相談することを検討してください。
これらの行動を通じて、自身の正当な権利を守り、適切な補償を受けられるようにすることが重要です。
試用期間終了間際の退職・解雇:会社都合退職と失業保険
試用期間が終了し、本採用となるか、それとも退職・解雇となるかは、今後のキャリアに大きな影響を与えます。特に、退職や解雇の区分が「会社都合」になるか「自己都合」になるかは、失業保険の受給条件に直結するため、非常に重要なポイントです。
ここでは、試用期間終了間際の退職・解雇がもたらす影響と、失業保険について詳しく解説します。
試用期間満了時の解雇は会社都合?
試用期間満了時に企業側から本採用を拒否され、解雇となった場合、原則としてこれは「会社都合退職」として扱われます。労働者が企業の提示した条件や期待に応えられなかったと企業が判断し、一方的に雇用契約を終了させるためです。
会社都合退職の最大のメリットは、失業保険(雇用保険の基本手当)の受給において、給付制限期間が適用されない点にあります。通常、自己都合退職では2ヶ月間(一部のケースでは5ヶ月間)の給付制限期間がありますが、会社都合退職の場合はこの期間なしに、ハローワークでの手続き後、比較的早く失業保険を受け取り始めることができます。
ただし、従業員側に経歴詐称や重大な規律違反など、解雇に値する明確な落ち度があった場合は、会社都合ではなく「自己都合」と判断される可能性もあります。この点は、離職票に記載される離職理由が重要となるため、離職票の内容をよく確認することが大切です。
失業保険の受給条件と試用期間
失業保険(雇用保険の基本手当)を受給するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。基本的な条件は、離職日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が「通算して12ヶ月以上」あることです。しかし、試用期間が短い場合、この条件を満たせない可能性があります。
例えば、試用期間が3ヶ月で退職・解雇となった場合、被保険者期間が3ヶ月しかないため、原則として失業保険の受給資格を満たしません。この点が、試用期間中の離職における大きな注意点の一つです。
しかし、会社都合退職の場合には特例が適用されることがあります。特定の事由(倒産、解雇など)による離職である「特定受給資格者」に該当する場合、離職日以前1年間に、被保険者期間が「通算して6ヶ月以上」あれば、失業保険の受給資格を満たすことが可能です。
試用期間満了による会社都合での解雇は、多くの場合、この特定受給資格者に該当するため、被保険者期間が6ヶ月以上あれば失業保険を受け取れる可能性があります。
会社都合退職がもたらすメリット・デメリット
試用期間満了時の解雇が会社都合となることには、主に以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- 失業保険の給付制限なし: 自己都合退職の場合と異なり、待機期間後すぐに失業保険を受け取れるため、生活の不安が軽減されます。
- 所定給付日数が長い場合がある: 会社都合退職は、自己都合退職に比べて所定給付日数が長く設定される傾向があります。
- 転職活動での説明が比較的容易: 試用期間満了に伴う解雇は、自身の能力や適性と企業とのミスマッチが原因と理解されやすく、必ずしも自身の責任とはみなされないため、次の転職活動で説明しやすくなります。
デメリット
- 「会社都合退職」の記載: 離職票や職務経歴書に会社都合退職と記載されることで、次の企業から退職理由を詳しく問われる可能性があります。
- 一部の補助金・給付金への影響: 会社都合退職であることが、特定の住宅ローンや公的補助金などの受給条件に影響を与える場合があります。
会社都合退職は、失業保険の観点では有利ですが、転職活動においては説明を求められる可能性があるため、自身の状況を正確に把握し、前向きに次のステップに進むための準備をしておくことが重要です。
試用期間を乗り越えるために知っておくべきこと
試用期間は、企業と従業員の双方にとって、お互いの相性を見極めるための重要な期間です。この期間を無事に乗り越え、本採用を勝ち取るためには、いくつかのポイントを理解し、意識して行動することが求められます。
また、もしも試用期間中に退職を検討する場合にも、知っておくべきことがあります。ここでは、試用期間を円滑に過ごすための心構えと、注意点について解説します。
試用期間の目的と期間を理解する
まず、試用期間が何のために設けられているのか、その本質を理解することが大切です。企業側は、履歴書や面接だけでは判断しきれない、実際の業務における能力、職務への適応力、チームワークや協調性、そして企業文化への順応性などを見ています。
従業員側もまた、入社前に抱いていた企業イメージと実際の業務内容や職場の雰囲気とのギャップを確認し、本当にこの会社で働き続けるべきかを見極める期間と捉えるべきです。
試用期間の長さは企業によって異なりますが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度が多いです。この期間中に、企業がどのような点を評価しているのかを早期に把握し、自身の強みを発揮しつつ、改善すべき点があれば積極的に取り組む姿勢を示すことが重要になります。
試用期間は「お試し期間」であると同時に、自身の価値を証明し、企業への貢献意欲を示す絶好の機会と捉えましょう。
早期に退職を検討する場合の注意点
もし試用期間中に「この会社は自分には合わない」と感じ、早期に退職を検討する場合でも、いくつかの注意点があります。
最も大きな点は、次の転職活動で「短期離職」と見なされる可能性があることです。短期間での離職は、採用担当者から「またすぐに辞めてしまうのではないか」という懸念を抱かれる原因となることがあります。そのため、転職活動時には、試用期間中に退職に至った理由を正直かつ前向きに説明する準備が必要です。
「社風や雰囲気が合わなかった」「求めていた環境や仕事内容と違った」といった、自身の責任に帰さない理由であれば、比較的理解を得やすいとされています。
また、失業保険の受給条件にも注意が必要です。原則として、雇用保険の被保険者期間が12ヶ月未満の場合、失業保険の受給資格を満たさない可能性があります。たとえ自己都合退職であっても、次の仕事が決まるまでの経済的な計画を立て、慎重に退職時期を検討することが大切です。
企業との円滑なコミュニケーションの重要性
試用期間を乗り越え、企業との良好な関係を築く上で、円滑なコミュニケーションは不可欠です。疑問点や不安な点があれば、一人で抱え込まず、積極的に上司や先輩、人事担当者に相談しましょう。
フィードバックを求め、自身の業務内容や勤務態度について客観的な意見を聞くことも有効です。そして、そのフィードバックを真摯に受け止め、改善に努める姿勢を示すことで、企業からの信頼を得ることができます。
また、自身が企業に対してどのような貢献ができるのか、将来的にどのようなキャリアパスを望んでいるのかを明確に伝えることも重要です。これにより、企業側も従業員の意欲や目標を理解し、適切なサポートや機会を提供しやすくなります。
定期的な1on1ミーティングなどを通じて、互いの期待値をすり合わせ、ミスマッチを防ぐ努力を続けることが、試用期間を成功裏に終えるための鍵となります。
まとめ
よくある質問
Q: 試用期間で解雇される主な理由は何ですか?
A: 能力不足、協調性の欠如、就業規則違反、企業文化への不適応などが主な理由として挙げられます。これらは、採用時の期待と実際の業務遂行能力に乖離がある場合に発生しやすいです。
Q: 試用期間中に解雇される確率(割合)はどのくらいですか?
A: 具体的な公表データは少ないですが、一般的に試用期間中の解雇率は新入社員全体の数パーセント程度と言われています。ただし、企業や職種によって変動します。
Q: 試用期間中に労災事故にあった場合、解雇されることはありますか?
A: 原則として、労災事故にあったことを理由に解雇することはできません。しかし、労災事故と直接関係のない、別の理由があれば解雇の可能性はゼロではありません。まずは会社に事実確認を行い、必要であれば専門家にご相談ください。
Q: 試用期間中に会社都合で退職する場合、失業保険はすぐに受け取れますか?
A: 試用期間中の会社都合退職でも、一定の条件を満たせば失業保険を受給できます。加入期間や離職理由など、ハローワークで詳細を確認してください。一般的に、試用期間後すぐに解雇された場合も、会社都合退職として扱われることが多いです。
Q: 試用期間を無事に合格・満了するために、どのような点に注意すべきですか?
A: 積極的に業務に取り組み、不明点はすぐに質問する姿勢が大切です。また、同僚や上司とのコミュニケーションを円滑にし、会社のルールや文化を理解しようと努めることも重要です。もし試用期間の延長や条件変更について合意が必要な場合は、内容をしっかり確認しましょう。
