概要: 試用期間は、企業と応募者双方にとって、お互いを理解し、ミスマッチを防ぐための重要な期間です。期間や相場、そして知っておくべき権利や制限について詳しく解説します。違法となるケースも存在するので注意が必要です。
試用期間の本当の意味とは?期間や注意点を徹底解説
試用期間の基本的な定義と目的
試用期間とは、企業が採用した従業員を本採用する前に、その人の適性や能力、人柄などを評価・判断するために設けられる期間のことです。単に履歴書や面接での印象だけでは見極めきれない、実際の業務におけるパフォーマンスやチームとの協調性などを、実践を通して確認することが主な目的とされています。
この期間は、企業にとって新しい人材が自社の文化や業務にどれだけ適合できるかを見極める重要な機会であり、同時に従業員にとっても企業や仕事内容が自分に合っているかを確認できる機会でもあります。
多くの企業がこの制度を導入しており、労働政策研究・研修機構の調査によると、採用した従業員の87.4%に対して試用期間を設けているというデータがあります。これは、採用活動におけるミスマッチのリスクを軽減し、長期的な人材育成に繋げるための有効な手段として広く認識されている証拠と言えるでしょう。
試用期間を設けることで、企業は入社後のパフォーマンスギャップを早期に発見し、必要に応じて適切な対応を検討することが可能になります。
従業員側から見ても、試用期間は新たな職場環境に慣れ、自身の能力を存分に発揮できるかどうかを試す期間となります。この期間を通じて、業務内容が自分のスキルやキャリアプランに合致しているか、職場の雰囲気や人間関係に馴染めるかなどを冷静に判断することができます。双方にとって、より良い雇用関係を築くための「お試し期間」と捉えることができるでしょう。
試用期間の一般的な長さと法的背景
試用期間の長さに法的な定めは存在しませんが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度とされることが多く、長くても1年以内が目安とされています。これは、短期間では十分な評価ができない一方で、長すぎると労働者の雇用が不安定な状態に置かれるというバランスを考慮したものです。
企業によっては、年次有給休暇の取得要件である「6ヶ月の勤務期間」に合わせて試用期間を6ヶ月と設定するケースも少なくありません。
ただし、試用期間が不必要に長すぎる場合は注意が必要です。あまりに長期間にわたって労働者が不安定な立場に置かれることは、公序良俗違反とみなされ、その試用期間が無効となる可能性もあります。例えば、1年を超えるような試用期間は、合理的な理由がない限り、裁判で無効と判断されるリスクが高いと言われています。
企業は、試用期間を設定する際にはその期間に明確な根拠と目的を持たせ、就業規則や雇用契約書に明記することが求められます。
労働基準法は試用期間中であっても適用されるため、企業は試用期間中であることを理由に労働基準法上の権利を制限することはできません。期間の長さについては、職務の特性や見極めに要する時間などを総合的に考慮し、合理的な範囲で設定することが重要です。これにより、企業は適正な評価を行うことができ、労働者も安心して業務に取り組むことができる環境が整います。
試用期間中の労働者の権利と待遇
試用期間中であっても、原則として従業員は「労働者」としての権利を有し、労働基準法の適用対象となります。これは、試用期間が単なる「見習い」期間ではなく、正式な雇用契約が締結されている期間であるためです。
したがって、賃金や勤務時間、休日などの労働条件は、本採用時と同様とされるのが一般的です。もちろん、就業規則などで試用期間中の賃金を本採用時よりやや低く設定することも可能ですが、その場合でも最低賃金を下回ることは許されません。
また、社会保険への加入義務も試用期間中であっても発生します。具体的には、雇用保険、健康保険、厚生年金保険などがこれに該当します。労働時間や勤務日数が加入要件を満たしていれば、試用期間の開始と同時にこれらの保険に加入させる必要があります。これは、労働者の生活保障や医療、年金といった側面を支える重要な制度であり、企業側はこれを怠ってはなりません。
その他、ハラスメント対策や労働安全衛生なども、試用期間中の労働者に対して同様に適用されます。企業は、試用期間中であっても全ての従業員が安心して働ける環境を提供し、労働基準法をはじめとする関係法令を遵守する義務があります。
この期間中に起こり得るトラブルを避けるためにも、企業は試用期間の目的や条件、待遇などを、就業規則や雇用契約書に明記し、労働者に十分に説明することが不可欠です。
試用期間の相場は?期間別の特徴と注意点
一般的な試用期間と業界による違い
前述の通り、試用期間の長さに法的な定めはありませんが、一般的には3ヶ月から6ヶ月が最も多く見られる期間です。これは、多くの職種において、この期間があれば基本的な業務習熟度や適応能力、チームワークなどを評価するのに十分とされているためです。
例えば、事務職や一般的な営業職など、比較的短期間で業務の全体像を把握しやすい職種では、3ヶ月程度の試用期間が設定されることが多いでしょう。
一方で、専門性の高い職種や、大規模なプロジェクトに携わるエンジニア、研究開発職など、高度なスキルや深い知識、長期的なコミットメントが求められる職種では、6ヶ月から1年といった長めの試用期間が設定されることもあります。これらの職種では、実際の業務を通してしか見極められない能力や、長期的な視点での成果が重視されるため、評価に時間が必要となるからです。
試用期間の長さは、企業の文化や業界慣習によっても異なります。例えば、IT業界では変化が速く、新しい技術への順応性が重視されるため、比較的短期間で評価が行われることもあります。一方、製造業や建設業など、安全管理や熟練の技術が求められる業界では、より慎重な評価のため長めの期間を設定する傾向が見られるかもしれません。企業側は、自社の特性や職種の要求に応じて、最適な試用期間を設定することが求められます。
試用期間が長い場合のメリット・デメリット
試用期間を長く設定することには、企業と労働者双方にとってメリットとデメリットが存在します。企業側のメリットとしては、まずより詳細な適性や能力の見極めが可能になる点が挙げられます。特に複雑な業務や長期プロジェクトに携わる人材の場合、短期間では評価しきれない潜在能力や問題解決能力などをじっくりと観察することができます。
また、企業文化への適応度や、ストレス耐性など、入社初期には見えにくい側面も評価しやすくなります。
しかし、デメリットも無視できません。最も大きなものは、労働者が長期にわたり不安定な立場に置かれるという点です。これにより、労働者のモチベーション低下や、本採用への不安感が募りやすくなります。また、優秀な人材ほど、試用期間の長さや不安定さを嫌い、他社への転職を検討してしまうリスクも高まります。企業側も、試用期間が長いほど、万が一ミスマッチだった場合の採用コストや育成コストが無駄になる可能性も高まります。
労働者側のメリットとしては、企業文化や業務内容について深く理解する時間を確保できる点が挙げられます。焦らず自分のペースで業務を覚え、本当にこの会社で働きたいのかをじっくり考えることができるでしょう。
しかし、デメリットとしては、本採用されるまでの期間、常に評価されているというプレッシャーを感じ続けることや、万が一不採用になった場合のキャリアへの影響を心配する必要があることです。企業は、長期間の試用期間を設定する際には、その必要性と合理性を明確にし、労働者への適切なサポートを怠らないようにする必要があります。
試用期間中の評価基準と本採用への影響
試用期間中に企業が行う評価は、本採用の可否を決定する上で非常に重要です。評価基準は企業によって異なりますが、一般的には以下のような項目が挙げられます。
- 業務遂行能力: 指示された業務を正確に、かつ効率的に実行できるか。新しい知識やスキルを習得する意欲とスピードがあるか。
- 主体性・積極性: 自ら課題を見つけて改善提案を行うなど、積極的に業務に取り組む姿勢が見られるか。
- 協調性・コミュニケーション能力: チームメンバーや他部署の社員と円滑な人間関係を築き、協力して業務を進められるか。報告・連絡・相談が適切に行えるか。
- 責任感・規律性: 責任を持って業務を完遂する姿勢があるか。無断欠勤や遅刻がなく、就業規則を遵守できるか。
- 企業文化への適合性: 企業の理念やビジョン、行動規範に共感し、実践できるか。
これらの評価は、多くの場合、上長との定期的な面談やフィードバックを通じて行われます。企業側は、試用期間の開始時にこれらの評価基準を明確に労働者に伝え、期待するパフォーマンスレベルを具体的に示すことが重要です。これにより、労働者は何を目標にすれば良いか理解し、計画的に業務に取り組むことができます。
本採用への影響については、労働政策研究・研修機構の調査によると、「ここ5年間本採用しなかった事例はない」と回答した企業が58.0%、「企業側から本採用にしないことはない」と回答した企業が27.4%と、合計で85.4%の企業が試用期間後の本採用を基本としていることが示されています。これは、試用期間後の本採用拒否が非常に稀なケースであることを物語っています。
しかし、稀であるからこそ、もし本採用が見送られる場合は、明確で客観的な理由が求められます。企業は、評価の公平性と透明性を保ち、労働者にも納得感のある結果を伝える責任があります。
試用期間における「お互いの権利」と「制限」
企業側の解雇権とその制限
試用期間中であっても、企業が従業員を自由に解雇できるわけではありません。日本の労働法では、試用期間中の解雇(本採用拒否)は、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められる場合」にのみ認められます。
これは、通常の解雇よりもやや緩やかに判断される傾向にありますが、それでも正当な理由なく解雇することは原則できません。例えば、「なんとなく合わない」「気に入らない」といった主観的な理由での解雇は、不当解雇と判断される可能性が高いです。
具体的に解雇が認められやすいケースとしては、以下のような状況が挙げられます。
- 履歴書や職務経歴書に重大な経歴詐称があった場合:採用の前提となる情報が虚偽であったと判明した場合。
- 無断欠勤の常習化や頻繁な遅刻など、勤務態度が著しく不良である場合:改善の機会を与えても改善が見られない場合。
- 上司の指示に繰り返し従わない、反抗的な態度が続くなど、職場規律を著しく乱す行為があった場合。
- 著しい能力不足で業務に支障があり、指導・教育しても改善が見込めない場合:期待される最低限の業務遂行能力に達していない場合。
これらのケースにおいても、企業は解雇する前に、改善のための指導や注意喚起を複数回行い、その記録を残しておくなど、解雇回避の努力をした証拠が求められます。また、試用期間中の解雇であっても、労働基準法に基づき、解雇予告(少なくとも30日前)または解雇予告手当の支払いが必要です。企業は、解雇が労働者に与える影響の大きさを理解し、慎重かつ適法な手続きを踏む義務があります。
労働者側の退職の自由とその手続き
試用期間中であっても、労働者には「退職の自由」があります。つまり、企業に継続して雇用される義務はなく、いつでも自らの意思で退職を申し出ることが可能です。これは、憲法で保障された職業選択の自由に根ざすものです。もし試用期間中に、会社の文化や業務内容が自分に合わないと感じたり、より良いキャリアチャンスを見つけたりした場合は、退職を検討することができます。
ただし、退職を申し出る際には、民法の規定に基づき、退職日の2週間前までに会社に申し出るのが一般的です。就業規則に「退職の際は1ヶ月前までに申し出ること」などの規定がある場合も多いですが、これはあくまで民法の原則を超えるものではないと解釈されることがほとんどです。しかし、円満退職を目指すのであれば、就業規則に則って早めに申し出るのが賢明でしょう。
退職の意思表示は、口頭だけでなく、退職届を提出する形で行うことが望ましいです。これにより、後々のトラブルを防ぎ、証拠を残すことができます。また、会社との間で引き継ぎや残務処理についてしっかりと話し合い、円滑な退職に努めることが、今後のキャリアにも良い影響を与えます。試用期間中だからといって、無責任に突然辞めるような行動は避けるべきです。
試用期間の延長の正当性と同意
試用期間は、企業の判断だけで自由に延長できるものではありません。延長するためには、労働契約や就業規則に基づく正当な理由と、適切な手続きが必要です。具体的には、以下のようなケースで延長が検討されることがあります。
- 能力や適性の見極めに時間が必要な場合:当初の予定よりも業務習熟が遅れていたり、特定のスキルが未達であったりする場合。
- 病気や怪我による長期欠勤で判断材料が不足している場合:従業員が業務にほとんど従事できなかったため、本来の評価ができない場合。
しかし、単に「もう少し様子を見たい」といった漠然とした理由や、企業の都合だけで延長することは許されません。延長の際には、就業規則や雇用契約書に延長に関する根拠規定があることが前提となります。もしそうした規定がない場合や、規定があっても合理的な理由がない場合は、延長が無効とされる可能性があります。
最も重要なのは、試用期間を延長する際には、社員本人から個別の同意を得ることです。一方的な延長は、労働契約法に反する可能性があります。企業は、延長の理由、延長後の期間、評価基準などを明確に説明し、労働者の理解と同意を得る努力をする必要があります。
労働者側も、延長を打診された際には、その理由をしっかり確認し、納得できない場合は同意を拒否することも可能です。ただし、同意を拒否した場合、本採用拒否に繋がるリスクも考慮する必要があります。双方が納得できる形で合意に至ることが、健全な雇用関係を維持するためには不可欠です。
試用期間中の異動や運転に関する疑問を解消
試用期間中の職務内容の変更と異動
試用期間中であっても、企業が従業員の職務内容を変更したり、異動を命じたりすることは可能です。ただし、これは無制限に行えるわけではありません。まず、雇用契約書や就業規則に、職務内容の変更や異動の可能性が明記されているかが重要なポイントになります。これらの規定がない場合や、当初の合意内容から著しくかけ離れた異動は、労働者の同意なしには難しいでしょう。
試用期間中に職務内容の変更や異動が行われるケースとしては、以下のような状況が考えられます。
- 当初想定していた職務への適性が低いと判断されたが、別の部署や職務であれば活躍できる可能性が見込まれる場合。
- 会社の事業計画の変更や組織再編により、配置転換が必要になった場合。
特に試用期間中の異動は、企業が従業員の潜在能力を最大限に引き出そうとする意図がある場合もあります。しかし、従業員にとっては、採用時に聞いていた内容と異なる業務になることで、モチベーションの低下や、自身のキャリアプランとのズレを感じる可能性もあります。企業は、職務内容の変更や異動を命じる際には、その理由を丁寧に説明し、従業員の意見を十分に聴取することが求められます。
また、異動によって労働条件(賃金、勤務地、勤務時間など)が大きく変わる場合は、改めて労働条件を明確にし、必要であれば雇用契約の変更手続きを行うべきです。労働者側も、異動の打診があった場合は、その内容をよく理解し、自身のキャリアや生活への影響を考慮した上で判断することが大切です。
業務における運転免許の取り扱いと責任
業務で運転を伴う職種の場合、試用期間中の運転免許の取り扱いと責任についても注意が必要です。入社時に運転免許の有無を確認し、業務での運転を前提として採用されたのであれば、試用期間中であっても通常通り運転業務を遂行することになります。
この際、企業は従業員が安全に運転できる環境を整え、必要な研修や指導を行う責任があります。
万が一、試用期間中に業務中の交通事故を起こしてしまった場合、その責任は通常通り、使用者責任として企業も負うことになります。従業員個人も、過失の程度に応じて責任を負うことになりますが、試用期間中であるという理由で責任が免除されることはありません。このため、企業は試用期間中の従業員に対しても、運転に関する教育や安全管理を徹底する必要があります。
従業員側も、試用期間中であるかどうかに関わらず、安全運転を最優先し、交通ルールを遵守する義務があります。もし、自身の運転技術に不安がある場合や、特定の車両の運転経験がない場合は、正直に会社に伝え、必要な指導や研修を求めるべきです。
また、試用期間中に免許が取り消しになるなどの事態が発生した場合は、速やかに会社に報告し、業務への影響について相談することが求められます。業務で運転が必要不可欠な職種の場合、免許の取り消しは本採用拒否の正当な理由となる可能性もあります。
試用期間中の研修やスキルアップ機会
試用期間は、単に評価されるだけの期間ではありません。企業にとっても、新しい人材を育成し、戦力化するための投資期間と捉えるべきです。そのため、試用期間中に研修やスキルアップの機会を提供することは、企業と労働者双方にとって大きなメリットをもたらします。
企業側は、入社時のオリエンテーションやOJT(On-the-Job Training)はもちろんのこと、業務に必要な専門知識や技術を習得するための社内研修、外部セミナーへの参加機会などを積極的に提供することが望ましいでしょう。これにより、従業員は早期に業務に慣れ、能力を向上させることができ、結果として本採用後のパフォーマンス向上にも繋がります。また、研修を通じて会社の文化や価値観を理解することもできます。
労働者側も、試用期間中に与えられた研修や学習の機会を最大限に活用すべきです。積極的に質問し、新しいことを学び、自身のスキルアップに繋げることが、本採用への道を切り拓きます。また、自らも能動的に情報収集や学習を行い、業務に必要な知識や技術を身につける努力が求められます。
これらの機会は、試用期間中に企業と労働者の間に良好なコミュニケーションを築き、信頼関係を構築するためにも役立ちます。企業が育成に力を入れている姿勢を示すことで、労働者のエンゲージメントも高まり、長期的な定着に繋がる可能性が高まります。試用期間を「投資」と捉え、育成に力を入れる企業は、結果として優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。
試用期間は「意味ない」?違法になるケースも
形式的な試用期間の問題点
試用期間は、本来、企業が従業員の適性を見極め、従業員が企業環境に適合できるかを確認するための重要な期間です。しかし、中にはこの本来の目的が形骸化し、形式的な期間として運用されているケースも散見されます。例えば、採用当初から本採用がほぼ確定しており、試用期間中に一切評価が行われなかったり、フィードバックがなかったりする場合がこれに当たります。
このような形式的な試用期間は、以下のような問題を引き起こす可能性があります。
- 労働者のモチベーション低下: 評価の機会がない、あるいは評価基準が不明瞭であると、労働者は「自分は見られているのか」「この期間に頑張る意味があるのか」と疑問を感じ、モチベーションが低下する可能性があります。
- ミスマッチの放置: 形式的な運用では、企業も労働者もミスマッチを解消する機会を失ってしまいます。結果として、本採用後に早期離職に繋がるリスクが高まります。
- トラブル発生のリスク: 万が一、試用期間後に本採用を拒否する事態になった場合、評価プロセスが不透明であると、労働者から不当解雇だと訴えられるリスクが高まります。
企業は、「試用期間だから」と安易に採用し、ミスマッチがあれば解雇すれば良いと考えるのではなく、慎重な選考プロセスと、継続して勤務することを前提とした採用が求められます。試用期間は、あくまで採用プロセスの延長線上にある、お互いの最終確認の場として捉えるべきであり、そのための適切な評価制度やフィードバックの仕組みを構築することが重要です。
試用期間中の不当な扱いと違法性
試用期間中であっても、労働者は労働基準法によって保護されており、不当な扱いは許されません。以下のような行為は、試用期間中であるという理由であっても違法となる可能性があります。
- 最低賃金を下回る賃金設定: 就業規則で試用期間中の賃金を本採用時より低く設定することは可能ですが、最低賃金を下回ることは絶対に許されません。
- 社会保険の未加入: 雇用保険、健康保険、厚生年金保険の加入要件を満たしているにもかかわらず、試用期間中であることを理由に加入させないのは違法です。
- 不当な解雇: 前述の通り、客観的・合理的な理由なく、社会通念上相当性を欠く解雇は不当解雇となります。指導や改善の機会を与えず、一方的に解雇することは問題視されます。
- ハラスメント行為: パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、モラルハラスメントなど、あらゆるハラスメント行為は、試用期間中であっても許されません。
- 労働条件の不提示・変更: 試用期間の目的、期間、条件などを就業規則や雇用契約書に明記せず、口頭のみで説明を済ませたり、一方的に労働条件を変更したりする行為もトラブルの元となります。
企業は、試用期間中であっても全ての労働者に対して、労働基準法その他の関係法令を遵守し、公正かつ誠実な態度で接する義務があります。労働者側も、もしこのような不当な扱いを受けた場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談することを検討すべきです。試用期間は、企業が優位な立場にある期間ではなく、あくまで対等な労使関係が前提となります。
トラブルを避けるための企業と労働者の心得
試用期間中のトラブルを未然に防ぎ、双方にとって有意義な期間とするためには、企業と労働者の双方が適切な心得を持つことが重要です。
企業側の心得
- 明確な説明と書面化: 試用期間の目的、期間、待遇、評価基準、本採用の条件など、あらゆる情報を就業規則や雇用契約書に明記し、入社時に丁寧に説明することが不可欠です。これにより、認識のズレによるトラブルを防ぎます。特に、本採用の可否を判断する際の具体的な基準や、万が一の解雇の可能性についても、曖昧にせず伝えるべきです。透明性の高い情報提供は、信頼関係構築の第一歩となります。
- 継続的なコミュニケーションとフィードバック: 試用期間中も定期的に面談を設け、業務の進捗状況や課題について話し合い、具体的なフィードバックを提供します。改善点があれば具体的なアドバイスを行い、労働者が成長できるようサポートする姿勢を示しましょう。一方的な評価ではなく、対話を通じて双方向の理解を深めることが重要です。
- 公平な評価と育成: 試用期間は評価期間であると同時に育成期間でもあります。公正な評価基準に基づき、偏りのない評価を行うとともに、能力向上に必要な研修やサポートを提供し、本採用への努力を促します。企業が育成に力を入れることで、労働者も安心して業務に取り組むことができます。
- 法令遵守: 労働基準法を始めとする関連法令を遵守し、試用期間中であっても労働者の権利を尊重します。給与や社会保険、労働時間など、基本的な労働条件を適切に守ることは、企業の信頼性にも繋がります。不当な扱いを行わないことは、トラブル回避の絶対条件です。
労働者側の心得
- 契約内容の確認: 入社前に、雇用契約書や就業規則に記載された試用期間に関する条項を隅々まで確認し、不明点があれば入社前に企業に確認しておきましょう。自身の権利と義務を理解しておくことで、後々の認識のズレを防げます。
- 積極的に業務に取り組む: 試用期間は、自分の能力や適性をアピールする絶好の機会です。与えられた業務には積極的に取り組み、新しい知識やスキルを吸収する姿勢を示しましょう。不明な点は素直に質問し、早く会社に貢献できるよう努力することが、本採用への近道です。
- 良好な人間関係の構築: チームメンバーや上司、同僚とのコミュニケーションを大切にし、良好な人間関係を築くよう努めます。協調性やチームワークは多くの企業で重視される評価項目であり、円滑な人間関係は業務効率の向上にも繋がります。
- 疑問や不安は相談する: 業務内容や職場環境、評価に関して疑問や不安があれば、一人で抱え込まず、上司や人事担当者など信頼できる人に早めに相談しましょう。問題を早期に共有することで、解決策を見つけやすくなり、不必要なストレスを軽減できます。
試用期間は、企業と労働者がお互いを深く理解し、信頼関係を築くための貴重な期間です。この期間を有効に活用することで、長期的な視点での良好な雇用関係を築き、双方にとってのハッピーな未来に繋げることができるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 試用期間とは具体的にどのような制度ですか?
A: 試用期間とは、企業が採用した従業員が、実際の業務内容や職場の環境に適合するかどうかを見極めるための期間です。応募者側にとっても、入社後に「思っていたのと違った」というミスマッチを防ぐための期間となります。
Q: 試用期間の一般的な期間はどのくらいですか?
A: 試用期間の一般的な期間は、1ヶ月から3ヶ月程度が多いです。しかし、企業によっては6ヶ月、またはそれ以上の期間を設けている場合もあります。最長の試用期間については、法律上の明確な定めはありませんが、あまりに長すぎる場合は労働条件として不当とされる可能性もあります。
Q: 試用期間中、会社はどのような制限を設けることができますか?
A: 試用期間中でも、労働契約が成立していれば、試用期間だからといって大幅な労働条件の変更や、不当な解雇はできません。ただし、本採用後の従業員と比較して、一部の福利厚生(賞与の支給対象外など)に制限を設けることは一般的に認められています。
Q: 試用期間中に異動や運転を命じられることはありますか?
A: 業務内容の適性を判断するため、試用期間中に異動を命じられることはあり得ます。ただし、入社時の説明と著しく異なる業務への異動や、本人の適性と無関係な異動であれば、その妥当性が問われる場合があります。運転に関しても、業務に必要な場合は命じられることがありますが、その必要性や安全配慮義務は会社にあります。
Q: 試用期間が「意味ない」と感じる場合や、違法になるケースはどのような状況ですか?
A: 試用期間が「意味ない」と感じるのは、期間中の評価やフィードバックが適切に行われず、改善の機会がない場合などです。違法になるケースとしては、試用期間であることを理由に、本採用後の従業員と比べて著しく不利な労働条件を強いたり、解雇権の濫用にあたるような解雇を行ったりする場合などが挙げられます。
