遅刻・早退で給料はどうなる?減給の仕組みと注意点

従業員が遅刻や早退をした場合、給料がどのように扱われるのか、その減給の仕組みと注意点について、多くの人が疑問を抱いているのではないでしょうか。

この記事では、「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づいた給与計算の基本から、具体的な計算方法、さらには就業規則やアルバイト・パートにおける注意点、常習化を防ぐための対策まで、幅広く解説します。

企業の担当者の方も、従業員の方も、安心して勤怠管理を行うための知識を身につけましょう。

遅刻・早退による減給の基本:控除とは

遅刻や早退によって労働時間が短くなった場合、その分の給料が差し引かれることがあります。これは単なる罰則ではなく、給与計算の基本的な原則に基づいています。

遅刻・早退控除の「ノーワーク・ノーペイの原則」

遅刻・早退控除とは、従業員が実際に労働しなかった時間分の給与を、所定の給与から差し引く処理を指します。この根幹にあるのが、「ノーワーク・ノーペイの原則」です。これは「働かなかった分は支払わない」という労働契約の基本的な考え方であり、民法第624条や労働契約法第6条に法的根拠があります。

この控除は、決して懲戒処分ではありません。例えば、業務が始まる9時に間に合わず10分遅刻した場合、その10分間は労働提供がなかったとみなされ、その分の賃金が給与から差し引かれることになります。企業によっては「欠勤控除」や「勤怠控除」と呼ばれることもありますが、いずれも目的は同じです。

重要なのは、実際に働いた時間以上の控除は違法となる点であり、この原則を正しく理解することが、労使間のトラブルを防ぐ第一歩となります。

減給の制裁との明確な違い

遅刻・早退控除と混同されやすいのが、「減給の制裁」です。しかし、これらは全く異なる性質を持ちます。遅刻・早退控除は、前述の通り働かなかった時間分の給与を調整する、いわば給与計算上の処理に過ぎません。

一方、減給の制裁は、遅刻・早退を繰り返すなど、会社の規律違反に対する「懲戒処分」です。労働基準法第91条によってその上限が厳しく定められており、一回の事案につき平均賃金の半額、かつ一賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えることはできません。

例えば、10分の遅刻に対して1時間分の給料を差し引くといった行為は、控除の範囲を超え、違法な減給の制裁に該当する可能性があります。企業は、控除と制裁の違いを明確に理解し、法的な範囲内で適切に対応する必要があります。

控除が適用される賃金と適用されない賃金

遅刻・早退控除の対象となるのは、原則として「基本給」です。しかし、役職手当や職務手当など、月給を基礎として計算される一部の手当も、就業規則に明記されていれば控除の対象となることがあります。

一方で、住宅手当や通勤手当、扶養手当といった「生活給」としての性格が強い手当は、従業員の勤務実態に直接的な影響がない限り、控除の対象とならないことが一般的です。これらの手当は、労働の対価というよりは、従業員の生活を補助する目的で支給されるためです。

また、給与形態によっては控除が適用されないケースもあります。例えば、労働時間に関わらず一定額が支払われる「完全月給制」や「年俸制」の従業員に対しては、遅刻・早退を理由に給与を控除することが難しい場合があります。控除の対象となる賃金の種類は、就業規則に明確に記載し、従業員に周知することが重要です。

遅刻・早退による減給の計算方法と相場

遅刻や早退による給与の控除は、どのように計算されるのでしょうか。正確な計算方法を理解することは、従業員と会社双方にとって公平な賃金支払いを保証するために不可欠です。

控除額の基本的な計算式

遅刻・早退控除額の計算は、一般的に以下の計算式で行われます。

控除額 = (月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間) × 遅刻・早退時間

ここでいう「月給」には、基本給のほか、就業規則に定めがあれば役職手当なども含まれることがあります。「1ヶ月の平均所定労働時間」は、年間の所定労働時間を12ヶ月で割るなどして算出されます。例えば、月給30万円、1ヶ月の平均所定労働時間が160時間の従業員が30分遅刻した場合、時給換算は約1,875円(30万 ÷ 160)となり、30分(0.5時間)の遅刻であれば、控除額は937.5円となります。

この計算式を正確に適用することで、働かなかった時間分の賃金のみを適切に控除することが可能になります。企業は従業員に対して、この計算方法を具体的に説明できるようにしておくことが望ましいでしょう。

1分単位計算の重要性と法的遵守

控除額の計算において、特に注意が必要なのが「1分単位での正確な計算」です。労働基準法は、賃金の全額払いを原則としており、働かなかった時間分のみを正確に差し引くことを求めています。そのため、たとえ数分の遅刻であっても、その時間分だけを正確に計算し、控除しなければなりません。

例えば、「3分の遅刻でも15分単位で切り上げて控除する」といったルールは、労働基準法・民法違反となる可能性があります。実際に働いた時間以上に賃金を控除することは、違法な賃金カットに該当し、労働基準監督署からの是正勧告や、従業員とのトラブルに発展するリスクがあります。

正確な勤怠管理システムを導入し、1分単位での打刻と計算を徹底することが、企業の法的遵守と信頼維持のために極めて重要です。

残業との相殺禁止とその他の注意点

遅刻・早退による控除分を、残業時間で相殺することは、原則として認められていません。これは、残業が所定労働時間を超えて労働した場合に発生するものであり、割増賃金の支払い義務があるためです。例えば、午前中に1時間遅刻したからといって、午後に1時間残業しても、遅刻分の控除が免除されるわけではありません。遅刻分の控除は行われ、残業時間には別途割増賃金が適用されるのが一般的です。

また、企業は遅刻・早退に関する基準、連絡方法、そして控除額の計算方法などを就業規則に明確に記載し、従業員に周知する義務があります。これにより、予期せぬトラブルを避け、公平な運用が可能となります。

さらに、先述の通り、完全月給制や年俸制など、特定の給与形態では遅刻・早退控除が適用されないケースがあるため、自社の給与制度をよく確認し、適切な対応を取ることが求められます。

就業規則やアルバイト・パートにおける減給

遅刻・早退の際の減給ルールは、正社員だけでなく、アルバイトやパートを含む全ての従業員に適用されます。その運用には、就業規則の存在が非常に重要です。

就業規則が果たす役割と法的義務

遅刻・早退に関する給与控除や懲戒処分のルールは、就業規則に明確に記載され、従業員に周知されている必要があります。労働基準法では、常時10人以上の従業員を使用する事業場において、就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務付けています。就業規則は、労働条件や服務規律を定める「会社の法律」のようなものであり、従業員との間のトラブルを未然に防ぐ上で極めて重要な役割を果たします。

もし就業規則に遅刻・早退時の控除に関する規定がなければ、会社は従業員の給与を一方的に控除することが難しくなる可能性があります。また、仮にルールがあったとしても、従業員に周知されていない場合は、その有効性が問われることもあります。したがって、就業規則を適切に整備し、定期的に従業員に周知徹底することが、企業の法的義務であり、健全な労使関係を築くための基本となります。

アルバイト・パートの場合の控除ルール

アルバイトやパート従業員の場合も、「ノーワーク・ノーペイの原則」は同様に適用されます。時給制の場合、計算は比較的シンプルで、遅刻・早退した時間分に時給を乗じるだけで控除額が算出されます。

  • 例:時給1,000円のアルバイトが15分遅刻した場合、控除額は1,000円 ÷ 60分 × 15分 = 250円となります。

日給制の場合も、所定労働時間に対する賃金から、働かなかった時間分を控除する形になります。シフト制で働くアルバイト・パートの場合、自己都合によるシフトの穴開けも同様にノーワーク・ノーペイの原則が適用され、その分の賃金は支払われません。正社員、非正規雇用を問わず、労働時間に対する賃金支払いという基本原則は共通しています。企業は、雇用形態にかかわらず公平なルールを適用し、就業規則等で明示することが求められます。

減給の制裁が適用されるケースとその上限

遅刻・早退が一度や二度のものではなく、常習化したり、悪質なケースと判断されたりする場合、単なる給与控除では済まず、「減給の制裁」といった懲戒処分が検討されることがあります。これは、従業員が会社の規律を著しく乱したと判断される場合に課されるペナルティです。

減給の制裁には、労働基準法第91条によって明確な上限が設けられています。

  1. 一回の事案につき、平均賃金の1日分の半額を超えてはならない。
  2. 複数の事案があったとしても、一賃金支払期間における賃金総額の10分の1を超えてはならない。

例えば、平均賃金が1日1万円の従業員に対して、1回の遅刻で5,000円以上の減給はできません。また、月給30万円の従業員であれば、1ヶ月の減給総額は3万円(10分の1)が上限となります。企業が減給の制裁を行う場合は、就業規則にその根拠を明記し、適正な手続きと法定の上限を厳守することが不可欠です。

遅刻・早退の常習化を防ぐための始末書と改善策

従業員の遅刻・早退が常習化すると、業務に支障をきたし、他の従業員の士気にも影響を与えかねません。これを防ぐためには、単なる控除だけでなく、具体的な対策を講じることが重要です。

始末書の提出を求める意味と目的

遅刻・早退が頻繁に起こる場合、会社は従業員に「始末書」の提出を求めることがあります。始末書は、従業員に自身の行動を反省させ、原因を分析し、今後の改善策を具体的に記述させることを目的とします。これは、懲戒処分の一種である「譴責(けんせき)」に該当することもあります。

始末書を提出させることで、会社は以下の効果を期待できます。

  • 従業員に自己の行動を深く反省させる機会を与える。
  • 遅刻・早退の具体的な原因を把握し、会社側からの指導の参考にする。
  • 将来的に同様の問題が再発した場合の記録・証拠となる。

始末書は、単にペナルティを課すだけでなく、従業員の行動改善を促すための重要なツールとして活用されるべきです。

会社側が取るべき具体的な改善策

遅刻・早退の常習化を防ぐためには、会社側も積極的に対策を講じる必要があります。具体的な改善策としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 個別面談:従業員と個別に面談し、遅刻・早退の背景にある個人的な事情や問題を丁寧にヒアリングする。
  • 勤怠管理体制の見直し:最新の勤怠管理システムを導入し、打刻漏れや不正打刻を防ぎ、正確な労働時間を把握する。
  • 就業規則の再周知:遅刻・早退に関する会社のルールやペナルティについて、定期的に全従業員に再周知し、意識を高める。
  • 職場環境の改善:従業員のストレスや過労が原因となっている可能性も考慮し、業務負荷の軽減やハラスメント対策など、職場環境全体の改善を図る。

単に「遅刻するな」と命じるだけでなく、原因究明と根本的な解決に向けた具体的な支援を行うことが、長期的な改善につながります。

常習化に対する段階的な対応プロセス

遅刻・早退が常習化した場合、会社は段階的な対応プロセスを踏むことが重要です。これにより、従業員に改善の機会を与えつつ、最終的には会社秩序を維持するための措置を講じることができます。

段階 対応内容
初回・軽微な遅刻 口頭での注意、事実確認、原因のヒアリング。
数回の遅刻 書面での注意喚起、指導、改善計画の提案。必要に応じて始末書の提出を求める。
常習化・改善が見られない場合 減給の制裁、配置転換、または人事評価への反映。具体的な改善策と期限を提示。
最終段階 就業規則に基づいた最終的な懲戒処分(諭旨解雇、懲戒解雇など)。

各段階で就業規則に則った公正な手続きを踏み、従業員に弁明の機会を与えることが、不当な処分とみなされないために不可欠です。

遅刻・早退に関するよくある疑問を解決

遅刻・早退は、予期せぬ事態や個人の事情によって起こりうるため、様々な疑問が生じがちです。ここでは、特に多く寄せられる疑問について解説します。

遅刻・早退の原因が不可抗力の場合の扱い

通勤途中の公共交通機関の遅延、大規模な災害、予期せぬ事故など、従業員自身の責任では避けられない不可抗力による遅刻・早退の場合、どのように扱われるのでしょうか。

このようなケースでは、基本的には「ノーワーク・ノーペイの原則」が適用され、その時間分の賃金は支払われません。しかし、多くの企業では従業員の事情を考慮し、以下のような対応を取ることがあります。

  • 遅延証明書の提出:公共交通機関の遅延の場合、遅延証明書の提出を求め、これを根拠に通常の遅刻とは異なる扱いをする。
  • 有給休暇の推奨:時間単位有給休暇制度がある場合や、半日有給休暇の取得を促し、欠勤扱いを避ける。
  • 特別休暇の付与:災害など特別な事情の場合、会社独自の特別休暇を設けている場合がある。

ただし、これらは会社の判断や就業規則によるものであり、法的に義務付けられているわけではありません。日頃から、不可抗力時の対応について就業規則に明記し、従業員と認識を共有しておくことが重要です。

有給休暇を利用して遅刻・早退を回避できるか

「遅刻しそうだけど、有給を使えば給料が減らない?」と考える方もいるかもしれません。原則として、有給休暇は「労働日単位」での取得が基本とされています。

しかし、近年は柔軟な働き方を支援するため、「時間単位有給休暇」制度を導入している企業が増えています。これは、労使協定を締結し、年5日分を上限として、1時間単位で有給休暇を取得できる制度です。この制度があれば、遅刻・早退の際に時間単位有給休暇を利用することで、給与控除を回避することができます。

制度がない会社でも、半日有給休暇を適用して、遅刻・早退の時間をカバーするケースも見られます。自分の会社に時間単位有給休暇制度があるか、またその取得条件について、就業規則や人事担当者に確認してみましょう。

遅刻・早退が賞与や昇給に与える影響

遅刻・早退は、単にその時間分の給料が控除されるだけでなく、賞与(ボーナス)や昇給といった人事評価にも影響を与える可能性があります。

多くの企業では、人事評価項目の中に「勤怠状況」を含めています。特に常習的な遅刻や早退は、仕事への責任感や規律性の欠如と見なされ、評価が下がる原因となり得ます。その結果、賞与額が減額されたり、昇給が見送られたりする可能性があります。

これは直接的な「減給」とは異なり、評価システムを通じて間接的に給与に影響を及ぼすものです。就業規則や人事評価制度に、勤怠状況がどのように評価に反映されるかが明記されているかを確認することが大切です。日頃からの良好な勤怠は、自身の評価とキャリア形成において非常に重要であると認識しておきましょう。