自治体の財源は、私たち住民が納める税金によって支えられています。その大切な財源を有効活用するためには、日々の業務で使う備品や消耗品一つひとつを賢く管理し、活用することが不可欠です。

近年、デジタル変革(DX)の推進や持続可能な開発目標(SDGs)への意識の高まりとともに、自治体の備品・消耗品管理は大きな進化を遂げています。ただ購入して終わり、ではなく、どのように管理し、どう使っていくかという視点が、ますます重要になっているのです。

この記事では、自治体における備品・消耗品活用の最新事情から、意外と知られていない管理のルール、そして具体的な活用事例まで、幅広くご紹介します。あなたの自治体の「賢い」運営を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

自治体で「備品」と「消耗品」はどう違う?

会計上の分類と重要性

自治体の備品と消耗品は、会計上の扱いで明確に区別されます。一般的に、「備品」とは、長期間にわたって使用され、その価値が比較的高い物品を指し、資産として計上されます。これに対して、「消耗品」は、短期間で使い切るか、その価値が比較的低い物品を指し、購入時に費用として処理されます。

特に重要なのが、取得価額による区分です。多くの自治体では、取得価額が20万円以上か未満かで、その扱いが変わります。20万円以上の物品は固定資産(備品)として登録され、減価償却の対象となるのが一般的です。これは、地方自治法や会計基準に基づいたもので、適切な予算管理、資産管理、そして監査を正確に行うために極めて重要となります。この厳密な区分により、自治体の財産状況が正確に把握され、無駄のない財政運営へと繋がるのです。

この会計上の分類を理解することは、職員一人ひとりが物品を適切に管理し、自治体の財政健全化に貢献するための第一歩と言えるでしょう。

具体的な品目例と実務での課題

では、具体的にどのような品目が備品や消耗品に分類されるのでしょうか。例えば、パソコン、机、椅子、キャビネット、大型の複合機などは「備品」に該当します。これらは購入時に固定資産台帳に登録され、耐用年数に応じて管理されます。一方、ボールペン、コピー用紙、トナーカートリッジ、電球、清掃用品などは「消耗品」として扱われ、使い切るたびに費用計上されます。

しかし、中には境界線が曖昧な物品も存在し、自治体ごとに独自の解釈や運用ルールを設けている場合があります。例えば、比較的安価な事務機器や工具類、あるいは特定のプロジェクトのためだけに購入される特殊な物品などです。こうした曖昧さが、管理の属人化や部署ごとのルールのばらつきを生む原因となることも少なくありません。アナログな管理方法では、どの物品がどこにあり、誰が使っているのかといった情報が不透明になりがちで、結果として過剰な在庫や重複購入を引き起こすリスクがあります。

こうした実務上の課題を解決し、より効率的で透明性の高い管理体制を構築することが、自治体の財政を健全に保つ上で重要な課題となっています。

効率的な区分のためのDX活用

備品と消耗品の適切な区分と管理は、従来の紙やExcelベースの作業では膨大な手間と時間がかかり、ヒューマンエラーのリスクも伴いました。ここで真価を発揮するのが、デジタル技術を活用したDXです。

多くの自治体で導入が進む「備品管理システム」は、これらの課題を大きく改善します。システムを導入することで、物品の購入履歴、保管場所、使用者、耐用年数などの情報を一元的にデジタル管理できるようになります。これにより、備品と消耗品の区分が明確になり、担当者間で情報を共有しやすくなります。例えば、QRコードやバーコードを物品に付与し、スマートフォンやタブレットで読み取るだけで、入出庫処理や棚卸しを迅速かつ正確に行うことが可能です。これにより、管理の属人化が解消され、誰でも同じ品質で作業できるようになります。

また、システムによっては、購入金額に基づいて自動的に区分を提案したり、備品として登録すべきか消耗品として処理すべきかをガイドしたりする機能も備わっています。これにより、会計処理の正確性が向上し、監査対応もスムーズになります。DXは、単なるツールの導入に留まらず、自治体の財産管理における透明性と効率性を飛躍的に高めるための強力な手段なのです。

廃校になった学校の備品、どうなる?

遊休資産となった備品の行方

少子化の進行により、全国各地で学校の統廃合や閉校が進んでいます。閉校となった学校には、机や椅子、ロッカーといった一般的な備品の他に、理科室の実験器具、音楽室の楽器、図書室の本、体育館の運動用具など、その学校ならではの多様な備品が残されます。これらの備品は、もはや本来の目的で使用されることがなくなるため、自治体にとっては「遊休資産」となります。

遊休資産となった備品は、そのまま放置すればスペースを占有し、保管コストや最終的な廃棄コストが発生します。また、老朽化が進めば価値が低下し、廃棄物として処理するしかなくなってしまいます。特に、特殊な実験器具や大型の体育用具などは、通常の粗大ごみとして処理できない場合もあり、専門業者への依頼が必要となるため、高額な処理費用がかかることもあります。

これらの備品をいかに効率的かつ経済的に、そして持続可能な形で活用していくか。これは、閉校問題に直面する多くの自治体にとって喫緊の課題となっています。

地域内での再活用とリユースの推進

廃校備品を無駄にせず、新たな価値を見出すための取り組みが各地で進められています。最も一般的なのは、他の学校や公共施設への移管・譲渡です。まだ十分に使える机や椅子などは、新設の施設や備品が不足している学校で再活用されることで、新たな購入費用を抑えることができます。

また、地域住民やNPO法人への譲渡、バザーやフリマでの販売なども有効な手段です。例えば、地域のコミュニティセンターや公民館、子ども食堂などで机や椅子、棚などが利用されたり、絵画作品を飾るイーゼルや棚が文化団体に寄贈されたりする事例も多く見られます。これにより、地域資源の有効活用が進み、廃棄物の削減に貢献します。これは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」にも合致する取り組みであり、資源循環型社会の実現に向けた具体的な一歩となります。

経済産業省では、広域自治体における資源循環システムの構築に向けた実証事業も進められており、単なるリユースにとどまらず、再生材の供給源としての可能性も模索されています。地域全体で資源を循環させる仕組みを構築することは、持続可能な社会の実現に不可欠な視点と言えるでしょう。

DXを活用した情報共有とマッチング

廃校備品の再活用を効果的に進める上で、大きな力を発揮するのがDXです。これまでは、ある自治体で不要になった備品があっても、別の自治体や団体でそれを必要としている情報が届きにくいという課題がありました。

そこで有効なのが、遊休備品データベースの構築です。これは、閉校によって発生する備品の品目、数量、状態、保管場所などの情報をデジタル化し、一元的に管理するシステムです。このデータベースをオンラインプラットフォームとして公開することで、備品を必要とする他の自治体や教育機関、地域団体などが容易に検索し、スムーズにマッチングできるようになります。例えば、クラウド在庫管理ソフト「ZAICO」のようなシステムは、廃校備品の管理にも応用可能で、QRコードやバーコードを使って個々の備品を管理し、Web上で情報を共有するといった活用方法も考えられます。

情報の「見える化」は、遊休資産の存在を広く知らせるだけでなく、不要な備品の廃棄を減らし、必要な場所に届けることで、自治体のコスト削減と資源の有効活用を両立させます。DXは、閉校という課題を、地域資源を循環させるチャンスへと変えるための重要なカギとなるのです。

自治体の備品購入、20万円の壁とは?

「20万円の壁」の法的・会計的意味

自治体の備品購入における「20万円の壁」とは、地方自治体の会計において、取得価額が20万円以上となる物品が「備品」(固定資産)として計上され、それ未満の物品は「消耗品」として費用処理されるという会計上の区分を指します。この金額は、地方自治法やその関連規定、あるいは各自治体の財務規則などに基づいて設定されており、公金支出の透明性と適正性を保つ上で極めて重要な意味を持ちます。

20万円以上の備品は、固定資産台帳に登録され、耐用年数に応じた減価償却が行われることが一般的です。これにより、自治体の保有する財産の状況が正確に把握され、長期的な財政計画に反映されます。一方、20万円未満の消耗品は、購入時に一括で費用として計上されるため、比較的簡素な手続きで調達が可能です。

この区分は、予算編成時にも影響を及ぼします。固定資産購入費は一般的に投資的経費として、消耗品購入費は消費的経費として扱われるため、議会での審議や住民への説明責任を果たす上で、この「20万円の壁」は無視できない重要な基準となります。

調達プロセスの複雑化とコスト

「20万円の壁」は、単なる会計上の区分に留まらず、実際の調達プロセスにも大きな影響を与えます。特に20万円を超える備品を購入する際は、一般競争入札や指名競争入札といった、より厳格で複雑な調達手続きが必要となることが一般的です。

これらの入札プロセスは、公平性、透明性、競争性を確保するために詳細なルールが定められており、仕様書の作成、入札公告、参加資格審査、開札、落札者決定、契約締結など、多岐にわたる工程と膨大な事務作業を伴います。結果として、一つの備品を調達するだけでも、数週間から数ヶ月の期間と、多くの職員の人件費が発生することになります。これは、迅速な備品調達が必要な場面や、特定の部署で緊急に物品が必要となった場合に、大きなボトルネックとなり得ます。

一方で、20万円未満の消耗品については、比較的簡素な見積もり合わせや随意契約で調達できる場合が多く、調達プロセスの負荷は格段に軽くなります。この調達プロセスの違いが、自治体における事務コストや業務効率に大きな差を生む原因となっているのです。

「20万円の壁」を賢く乗り越えるDX戦略

20万円の壁による調達プロセスの複雑さは、自治体にとって長年の課題でした。しかし、DXの進化は、この壁を賢く乗り越え、調達業務を効率化するための新たな道を開いています。

その中心となるのが、一括購買システムやEコマースの活用です。例えば、「ソロエルアリーナ」「Amazonビジネス」といったシステムは、多様な事務用品や消耗品をオンラインで一元的に購入できるプラットフォームを提供します。これにより、部署ごとの小口購入を統合し、事前に登録されたサプライヤーから効率的に調達することが可能になります。これにより、見積もり取得、稟議、発注、請求処理といった一連の事務作業が大幅に簡略化され、担当者の負担を軽減できます。

具体例として、まんのう町では3町の合併を機に、備品購入の課題をDXで解決するため「ソロエルアリーナ」を導入し、スピード納品とコストダウンを実現しました。神津島村も「Amazonビジネス」を導入し、品揃えの幅広さや請求処理のしやすさを決め手として、購入の手間を減らし、庁内DXの足がかりとしています。これらのシステムは、購入品のデータを蓄積し、分析することで、より効率的な購買計画の策定にも貢献し、20万円の壁に縛られずに必要な物品をスムーズに手に入れるための強力な武器となるのです。

工場・店舗・選挙…様々な場面での備品活用

多様な現場と独自の備品ニーズ

自治体の業務は、一般的なオフィスワークだけではありません。消防署、給食センター、図書館、公民館、あるいは選挙の投票所など、多岐にわたる現場があり、それぞれに独自の備品ニーズが存在します。例えば、消防署では救急資器材や消火活動に必要な特殊装備、給食センターでは大型調理器具や衛生管理用品、図書館では貴重な書籍を守るための空調設備や資料保護用品が不可欠です。

これらの備品は、単に「使える」だけでなく、現場の安全性、効率性、専門性に直結するため、非常に高い品質と信頼性が求められます。また、投票箱や記載台といった選挙関連の備品は、選挙期間中に限られた時間で大量に、かつ確実に準備・設置される必要があります。これらの特殊な備品は、一般的な事務用品とは異なる専門知識と管理体制が必要であり、それぞれの現場の特性に応じたきめ細やかな管理が求められます。

自治体は、こうした多様な現場のニーズを正確に把握し、最適な備品を適切なタイミングで提供することで、円滑な行政サービスの提供を支えているのです。

特殊備品の管理とメンテナンス

多様な現場で使用される特殊備品は、一般的な事務備品とは異なり、高度な専門知識を要する管理とメンテナンスが不可欠です。例えば、消防署の救急資器材は、人命に関わるため、常に完璧な状態が保たれていなければなりません。定期的な点検、消耗部品の交換、そして適切な修理履歴の管理が必須となります。

このような特殊備品の管理において、DXは大きな力を発揮します。クラウド在庫管理ソフト「ZAICO」を導入した春日井市消防署では、紙・Excelベースのアナログ管理から脱却し、作業効率が7倍、棚卸時間は3分の1に短縮されました。また、池田市でもDX推進の一環として「ZAICO」を導入し、救急資器材や水道部品などをQRコードで管理することで、在庫管理の属人化解消、入出庫処理の効率化、リアルタイムな在庫状況の把握による欠品削減を実現しています。これにより、緊急時でも必要な資器材が迅速に手配できるようになり、市民サービス品質の向上に貢献しています。

DXによる管理システムの導入は、メンテナンススケジュールのアラート機能や履歴管理を通じて、予防保全を強化し、備品の長寿命化と安全性の確保に不可欠な役割を担っているのです。

備品情報を活用した業務改善とDX推進

特殊備品の管理をデジタル化し、その情報を効果的に活用することは、単なる在庫管理の効率化に留まらず、現場の業務改善や自治体全体のDX推進に大きく貢献します。備品の使用状況、稼働率、故障履歴、メンテナンス記録といったデータを蓄積・分析することで、より戦略的な備品購入計画や配置計画を策定することが可能になります。

例えば、特定の備品が頻繁に故障していることがデータから明らかになれば、その原因を究明し、より耐久性の高い製品への切り替えや、適切な使用方法の指導といった改善策を講じることができます。また、稼働率の低い備品があれば、他の部署や施設での有効活用を検討したり、レンタル導入の可能性を探ったりすることもできます。これにより、無駄な投資を避け、限られた予算を最大限に有効活用することが可能になります。

さらに、備品管理システムと他の業務システム(例えば、人事システムや会計システム)を連携させることで、業務プロセス全体の自動化・効率化を進めることもできます。サプライチェーンマネジメント(SCM)の考え方を自治体業務に応用し、備品の調達から使用、廃棄までのライフサイクル全体を見える化することで、自治体の運営基盤をより強固なものにし、住民サービスの向上へと繋がるのです。

賢い備品・消耗品管理のヒント

データに基づいた「見える化」の徹底

自治体の備品・消耗品管理を賢く行うための第一歩は、現状を正確に把握する「見える化」の徹底です。従来の紙やExcelに頼った管理では、リアルタイムな在庫状況や利用状況が不透明になりがちで、「過剰在庫」や「欠品」といった問題を引き起こす原因となっていました。これでは、無駄なコストが発生したり、必要な時に物品が手元になかったりする事態を招きかねません。

ここで重要なのが、クラウド在庫管理ソフト「ZAICO」のようなデジタルツールの活用です。春日井市消防署池田市の事例が示すように、QRコードやバーコードを使って個々の物品を登録し、スマートフォンで入出庫を記録するだけで、いつでもどこでもリアルタイムな在庫状況を把握できます。これにより、「過剰在庫・欠品をなくす」「管理の属人化を解消する」といった課題が解決され、必要な物品を必要な時に、必要な量だけ調達できるようになります。データに基づいた見える化は、無駄をなくし、財政の健全化に直結するだけでなく、意思決定の迅速化にも貢献するのです。

管理の見える化を徹底することで、職員の作業負担が軽減され、より本質的な業務に集中できる環境が整います。

持続可能な調達とSDGsへの貢献

賢い備品・消耗品管理は、単なるコスト削減に留まらず、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献という側面も持ち合わせています。自治体は、物品の調達において、経済性だけでなく、環境や社会への影響も考慮する「持続可能な調達」の考え方を取り入れるべきです。

具体的には、再生プラスチックやバイオマスプラスチックを使用した製品、リサイクル回収に配慮した製品など、環境対応型製品を積極的に採用することです。また、長期間使用できる耐久性の高い製品を選び、修理や再利用を促すことで、廃棄物の発生を抑制します。これは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に直接的に貢献する行動です。経済産業省が進める広域自治体における資源循環システムの構築に向けた実証事業のように、自治体が地域全体の資源循環の中核を担う可能性も秘めています。

備品・消耗品の選定一つひとつが、地球環境の保全と持続可能な社会の実現に繋がるという意識を持つことが、これからの自治体に求められる重要な視点です。

組織全体の意識改革とDXの継続的推進

どんなに優れたシステムを導入しても、それを活用する職員の意識や組織文化が変わらなければ、真の効果は得られません。賢い備品・消耗品管理を実現するためには、組織全体の意識改革と、DXの継続的な推進が不可欠です。

まずは、管理担当者だけでなく、物品を使用する全職員が「公金で買った大切なもの」という意識を持ち、適切に取り扱うことの重要性を理解する必要があります。そのためには、研修の実施や運用ルールの明確化が有効です。また、部署横断的な協力体制を構築し、備品管理に関する知見や課題を共有できる場を設けることも重要です。

DXは一度導入したら終わりではありません。システムの運用を通じて得られたデータを分析し、改善点を洗い出し、常に最適な管理方法を追求する「継続的な改善サイクル」を回すことが求められます。今後は、AI技術の活用や、備品管理システムと他の業務システムとのデータ連携によって、さらなる業務効率化や意思決定の高度化が期待されています。自治体が未来に向けて持続的に発展するためには、こうした意識改革とDXへの挑戦を止めないことが鍵となるでしょう。