稟議書とは?基本を理解しよう

稟議書の定義と役割

稟議書とは、企業や組織において、個人の権限では決定できない重要な事項について、関係部署や上層部から書面で正式な承認を得るための手続き、およびそのための書類を指します。

具体的には、高額な備品の購入、外部企業との契約締結、新しいシステムの導入、社員の採用活動、出張申請など、費用が発生する場合や組織全体の方針に関わる意思決定が必要な場面で用いられることが一般的です。

この制度は、日本特有の企業文化に深く根ざしており、合議制を重んじ、慎重な意思決定を求める日本のビジネス慣習を反映しています。

海外では、意思決定のスピードが重視される傾向が強く、稟議書のような多段階の承認プロセスはあまり一般的ではありません。

稟議書は、単に承認を得るだけでなく、提案内容の具体化、関連部署への情報共有、そして将来的な検証のための記録としての役割も果たします。

これにより、後々のトラブル防止や責任の明確化にも繋がり、組織運営の透明性と健全性を保つ上で重要な機能を持っているのです。

稟議のメリット・デメリット

稟議書を導入することには、多くのメリットがあります。

まず、意思決定プロセスの明確化が挙げられます。誰が、どのような基準で意思決定に関わるのかが文書として示されるため、透明性が高まります。

次に、ミスの防止です。複数の関係者が内容を確認することで、独断による誤った判断や書類の不備、判断ミスを防ぎ、組織としてのリスクを軽減できます。

また、提案内容が書面として整理され、承認ルートを回る過程で情報共有が促進されます。これにより、関係者間での認識の齟齬を防ぎ、スムーズな連携を可能にします。

さらに、関係者を集めて会議を開く手間やスケジュール調整の負担を軽減できるため、会議の手間削減にも繋がります。

そして、承認の経緯が記録として保管されるため、後々の確認や検証が容易となり、コンプライアンスの強化にも役立ちます。

一方で、稟議制度にはデメリットも存在します。

最も大きな点は、意思決定に時間がかかることです。複数の承認者を経由するため、迅速な判断が求められる緊急性の高い場面には不向きです。

また、内容よりも形式が重視され、本来の目的を見失い形式主義に陥りやすいという側面もあります。

承認ルートが複雑すぎると、文書が滞留したり、手戻りが発生したりして、かえって非効率になる可能性も指摘されています。

決裁・起案との違いを明確に

稟議書を理解する上で、関連する重要な用語である「決裁」と「起案」との違いを明確に把握しておくことは非常に重要です。

これらの用語は混同されがちですが、それぞれが異なるプロセスや役割を指しています。

決裁(けっさい)

決裁とは、提出された提案内容に対して、最終的な可否を決定することを指します。通常、組織内でその事項について最終的な責任と権限を持つ一人の役職者(社長、部長など)が行います。

稟議書が承認ルートを全て回り、最後の承認者が押印または電子承認することで、その提案は「決裁された」状態となります。

起案(きあん)

起案とは、ある提案や計画を最初に考え、それを文書として作成する行為そのものを指します。稟議書の作成者、つまり提案者が行う最初のステップです。

これは、問題提起、目的の設定、具体的な施策の検討、費用見積もりなど、提案内容を具体的に形にするプロセスです。

起案された文書が、稟議プロセスを経て決裁に至る、という一連の流れになります。

稟議(りんぎ)

稟議とは、起案された内容について、権限を持つ複数の関係者から承認を得るプロセス全体を指します。決裁を得るための一連の過程、またはその手続きそのものです。

稟議書が部署内、関連部署、そして最終的な決裁者へと回覧され、それぞれの段階で内容が確認・承認されていくことを「稟議を回す」などと表現します。

これらの関係性をまとめると、以下のようになります。

  • 起案者が提案内容を起案し、稟議書を作成する。
  • その稟議書が複数の関係者によって稟議され、承認プロセスを進む。
  • 最終的に、権限者によって決裁され、提案が実行に移される。

このように、起案、稟議、決裁は、それぞれが意思決定プロセスの異なる段階を担っているのです。

稟議書の種類とそれぞれの特徴

主な稟議書の種類

稟議書は、その目的や内容に応じて多岐にわたりますが、企業活動で頻繁に利用される主な種類を把握しておくことは、スムーズな業務遂行に不可欠です。

ここでは、代表的な稟議書の種類と、それぞれの基本的な目的について解説します。

まず、契約稟議書は、企業が他社との間で何らかの契約(売買契約、業務委託契約、秘密保持契約など)を締結する際に、その内容や条件について関係部署および上層部の承認を得るための書類です。

契約内容の妥当性、リスク、費用対効果などを検討し、組織として合意形成を図ることが目的となります。

次に、購買稟議書は、備品や設備、原材料などの購入に関する承認を得るために作成されます。これは、文房具のような小額なものから、高価なITシステムや生産設備まで、購入するものの種類や金額によって、承認ルートや必要な情報が異なります。

購入の必要性、製品の選定理由、費用対効果、予算との整合性などを明確にすることが求められます。

採用稟議書は、新しい人材を採用する際に、採用活動の開始、具体的な採用計画、求める人材像、採用にかかるコストなどについて承認を得るためのものです。

人員計画の妥当性や、採用が組織に与える影響などを総合的に判断するために用いられます。

また、経費精算稟議書は、出張費や交際費、会議費などの経費精算を行う際に、その費用が適切であるか、会社の規定に沿っているかを確認し、承認を得るための書類です。

これは、他の稟議書と比較して比較的ルーティンワークに近い性質を持つことが多いですが、不正防止や予算管理の観点から重要です。

最後に、システム導入稟議書は、新しいITシステムや業務ツールを導入する際に作成されます。

導入による業務改善効果、コスト、セキュリティリスク、既存システムとの連携など、専門的な知識も踏まえて多角的に検討されることが特徴です。

これらの稟議書は、企業の健全な運営とリスク管理のために不可欠な役割を担っています。

稟議書ごとのポイント

各稟議書は目的が異なるため、承認を得るために特に注力すべきポイントも異なります。

まず、購買稟議書では、購入するものの「購入理由」を明確にすることが最も重要です。

なぜその物品が必要なのか、導入しない場合にどのような不利益があるのか、といった背景を具体的に記述しましょう。

また、「種類」「必要数」「費用」を正確に記載し、可能であれば複数社の見積もりを添付して比較検討したことを示すと、コストの妥当性が伝わりやすくなります。

単なる「欲しい」ではなく、「事業目標達成のために不可欠」という視点で説明することが、承認への近道です。

次に、採用稟議書の場合、最も重要なのは「増員理由」と「求める人材像」です。

なぜ今、このポジションが必要なのか、既存メンバーでは対応できないのか、増員によってどのような効果が期待できるのかを具体的に説明する必要があります。

「採用計画」(募集方法、スケジュール)や「採用コスト」(人件費、募集費用など)も明記し、組織全体の人員計画と予算に合致していることを示しましょう。

また、契約稟議書では、契約内容の詳細(期間、金額、相手先、サービス内容など)はもちろんのこと、契約によって生じるメリットとリスクを明確に提示することが求められます。

法務部門や関連部署との事前協議を行い、問題がないことを確認した上で提出することが重要です。

最後に、システム導入稟議書では、導入による「業務改善効果」や「投資対効果(ROI)」を具体的に示すことが不可欠です。

既存の課題と、システム導入によってそれがどのように解決されるのかを数値目標を交えて説明し、導入コストに見合うメリットがあることを力説します。

また、セキュリティ面や既存システムとの連携についても触れ、懸念点を払拭する情報を提供することが承認に繋がります。

これらのポイントを押さえることで、各稟議書の承認プロセスをよりスムーズに進めることができるでしょう。

目的別活用例

具体的なシナリオを通じて、稟議書がどのように活用されるかを見ていきましょう。

例えば、あなたがマーケティング部門の責任者で、新しいキャンペーンのために高機能な動画編集ソフトウェアを導入したいと考えているとします。

この場合、購買稟議書を作成することになります。

稟議書には、まず「キャンペーンの質向上と制作期間短縮のため」といった導入目的を明記し、現在の課題(既存ソフトウェアの機能不足、外注コストなど)を具体的に示します。

次に、選定したソフトウェアの機能、価格、なぜこのソフトウェアが最適なのかを他社製品との比較を交えて説明します。費用対効果として、制作費削減やブランドイメージ向上への寄与を具体的に記述し、複数見積もりを添付します。

別の例として、あなたが総務部門で、社員のストレスチェック義務化に伴い、外部のカウンセリングサービスと契約する必要が生じたとします。

この場合は、契約稟議書を作成します。

「労働安全衛生法の改正によるストレスチェック義務化への対応」を目的とし、契約するサービスの具体的な内容(提供されるカウンセリングの種類、料金体系、報告体制)、契約期間、年間費用などを詳細に記載します。

契約相手の選定理由や、従業員のメンタルヘルス向上による生産性向上の期待効果なども盛り込み、契約によるメリットと潜在的なリスク(情報漏洩対策など)にも触れることが重要です。

さらに、事業拡大に伴い、営業部門の人員を増強したいという場合は、採用稟議書を作成します。

「新規顧客獲得数増加と既存顧客対応の強化」を増員理由とし、必要な人員数、求めるスキルセットや経験、採用手法(求人広告、人材紹介など)、おおよその採用スケジュールとコスト(初年度の人件費、採用費用)を明記します。

増員が売上拡大にどのように貢献するかを具体的に示し、部門の成長戦略に沿ったものであることを強調します。

このように、稟議書は単なる事務手続きではなく、提案の背景、目的、内容、期待効果を網羅的に説明し、関係者の理解と合意を得るための重要なコミュニケーションツールとして活用されます。

稟議書をスムーズに作成するコツ

稟議書作成の基本項目

稟議書をスムーズに作成し、承認を得るためには、その構成要素と記載すべき基本項目をしっかりと押さえることが大切です。

形式が整っていることは、読み手にとって内容を理解しやすくする第一歩となります。

まず、稟議書の冒頭には「件名」を記載します。これは、何の稟議かが一目でわかるように具体的に記述することが重要です。「〇〇購入の件」よりも「営業部向け新型ノートPC(5台)購入の件」のように具体性を持たせると良いでしょう。

次に、「申請者・所属」として、誰がどの部署から申請しているかを明確に記します。責任の所在をはっきりさせるため、役職名まで含めるのが一般的です。

「申請日」は、稟議を提出した日付を正確に記載します。これは、承認プロセスの期間を把握するためにも役立ちます。

社内規定によっては「決裁区分」の項目を設けている場合もあります。稟議、合議、回覧など、承認ルートの種類を記載することで、書類の取り扱いを明確にします。

そして、最も重要な部分が「起案理由・目的」です。なぜこの稟議が必要なのか、その背景にある課題や、達成したい目標を明確に説明します。

続く「提案内容」では、具体的な施策、購入する物品の仕様、契約の詳細などを詳細かつ具体的に記述します。読み手が疑問を持たないよう、客観的な事実に基づいた説明を心がけましょう。

「金額・予算」は、必要な費用を明確に記載し、可能であれば内訳も示します。関連予算科目との整合性も確認しておきましょう。

提案を実行することで、組織にとってどのようなメリットがあるのかを具体的に示すのが「期待される効果」の項目です。定量的・定性的な効果の両面から記述することで、説得力が増します。

判断材料となる「添付資料」(見積書、仕様書、参考データ、他社比較表など)がある場合は、忘れずに添付し、その旨を本文中に記載します。

最後に、「結論」として、承認してほしい内容を簡潔かつ明確に記載し、稟議書を締めくくります。

これらの基本項目を漏れなく、かつ分かりやすく記載することで、稟議書は格段に読みやすくなり、承認への道筋が拓かれるでしょう。

承認を得やすい書き方の秘訣

単に形式を整えるだけでなく、承認を得やすい稟議書を作成するには、いくつかの「秘訣」があります。

まず、最も重要なのは「簡潔かつ具体的に」記述することです。

承認者は多忙なため、長文や回りくどい表現は敬遠されます。要点を絞り、何を提案し、何を承認してほしいのかを明確な言葉で表現しましょう。

専門用語の多用は避け、誰もが理解できる平易な言葉で説明するよう心がけてください。

次に、「客観的なデータを示す」ことが説得力を高めます。

個人の意見や感覚だけでなく、統計データ、市場調査の結果、既存の社内データなどを引用することで、提案の根拠が強固になります。

例えば、「生産性が向上する」だけでなく、「現在の作業時間が20%削減され、年間で〇〇時間のコスト削減が見込める」といった具体的な数値を提示すると、より具体的なメリットが伝わります。

また、「懸念点も記載する」という視点も重要です。メリットだけでなく、リスクや注意点、潜在的なデメリットについても正確かつ客観的な情報を提供することで、提案者の誠実さを示すことができます。

それらに対する対処策も併記することで、承認者はより安心して判断を下せるでしょう。

例えば、新しいシステム導入に伴う運用上のリスクや、初期投資回収までの期間など、デメリットとなる情報も正直に開示し、その上で「しかし、〇〇の対策を講じることでリスクを最小限に抑えられます」と説明するのです。

さらに、承認者の視点に立って、「疑問に思いそうな点を先回りして説明する」ことも有効です。

例えば、「なぜこの時期に導入が必要なのか」「他社製品ではなく、この製品を選んだ理由は何か」といった、承認者が抱きやすい質問に対して、あらかじめ回答を記載しておくことで、手戻りや質疑応答の時間を削減できます。

これらの秘訣を実践することで、承認者は内容を素早く正確に理解し、納得感を持って承認に進むことができるはずです。

事前準備と活用ツール

稟議書を提出する前の「事前準備」は、スムーズな承認を得る上で非常に重要です。

特に、「事前確認(根回し)」は承認プロセスを円滑に進めるための重要なステップと言えます。

正式な提出前に、承認ルート上の主要な関係者や、内容に深く関わる部署の担当者へ個別に相談し、意見をヒアリングしておきましょう。

これにより、彼らの懸念点や要望を事前に把握し、稟議書に反映させることが可能になります。

また、事前に説明し合意形成を図ることで、本番の承認プロセスでの異論や質問を減らし、スムーズな承認に繋がりやすくなります。

「この案で問題なさそうか」「他に追記すべき点はないか」などを確認しておくことで、手戻りを防ぐことができるのです。

次に、「最新のフォーマットを使用する」ことも基本的ながら重要なポイントです。

社内で定められた稟議書のフォーマットがある場合は、必ず最新版を使用しましょう。古いフォーマットの使用は、内容が正しくても差し戻しの原因となる可能性があります。

不明な場合は、総務部門や関係部署に確認することが賢明です。

近年、稟議プロセスを効率化するための「ワークフローシステム」を導入する企業が急増しています。

2022年の調査では、稟議の形式として「ワークフローシステム」が41.3%、「Word、Excelに印刷して申請」が37.6%という結果が出ており、電子化が進んでいることが分かります。

ワークフローシステムを活用することで、稟議書の作成から承認までのプロセスがシステム上で一元管理され、現在の承認状況の可視化、承認ルートの自動化、通知機能による承認漏れの防止、そしてペーパーレス化によるコスト削減など、多大なメリットを享受できます。

手書きや紙ベースの運用に比べて、稟議書の回覧スピードが格段に向上し、どこで稟議が滞っているかが一目でわかるため、承認の遅延を防ぐ効果も期待できます。

これらの事前準備とツールの活用は、稟議書作成者の負担を軽減し、組織全体の意思決定スピードを向上させる上で欠かせない要素です。

稟議書と伺い書の意外な違い

伺い書とは何か?

稟議書と同様に、ビジネスシーンで使われる書類として「伺い書(うかがいしょ)」があります。

伺い書は、上司や関係部署に対して、承認を得るというよりは「意見を伺う」「了解を得る」「指示を仰ぐ」目的で作成される書類です。

稟議書が正式な意思決定を求めるものであるのに対し、伺い書は比較的軽微な事項や、判断に迷う内容について、上位者や専門部署の判断を仰ぐ際に用いられます。

例えば、業務上の些細な変更、社内イベント実施の可否、購入を検討している物品が予算内で適切かどうかの確認など、比較的少額で組織全体への影響が小さい事柄が対象となることが多いです。

伺い書には、対象となる事項の概要、現状、提案内容、考えられる選択肢などを記載し、上司や関係部署が判断を下しやすいように情報を提供します。

稟議書のように厳格な承認ルートを回ることは少なく、多くの場合、直属の上司や関連部門の責任者への報告・相談を目的とします。

また、伺い書に書かれた内容が、後の正式な稟議書作成の基礎情報となることもあります。

例えば、新しいプロジェクトの企画段階で複数のアイデアがあり、どれが良いか上司に意見を求める際に伺い書を用いることで、上司の指示を受けて、最終的に選ばれたアイデアで正式な稟議書を作成するといった流れです。

伺い書は、組織内の円滑なコミュニケーションと、上位者の経験や知見を活かした意思決定を支援する役割を担っています。

稟議書との違いを比較

稟議書と伺い書は、どちらも上司や関係者へ何かを伝えるための書類ですが、その目的、対象、影響範囲、そして承認プロセスにおいて明確な違いがあります。

これらの違いを理解することで、状況に応じて適切な書類を選択し、スムーズな業務遂行に繋げることができます。

項目 稟議書 伺い書
目的 正式な承認と決裁を求める 意見を伺う、了解を得る、指示を仰ぐ
対象事項 組織全体や部署横断的な影響、
高額な費用を伴う重要な決定
部署内、軽微な内容、
比較的少額な費用、確認事項
影響範囲 組織全体、複数部署に及ぶ 主に部署内、限定的
承認権限 複数人の関係者、最終的な
決裁権者による多段階承認
直属の上司、関係部署の責任者による
意見や了解の取得
法的拘束力 決裁されれば、原則として
組織として実行する義務が生じる
意見や指示を得るものであり、
それ自体に法的拘束力はない
(指示に従い次の行動に移る)
必要となる情報 詳細な計画、費用、効果、リスク、
具体的な実行内容など
現状の報告、提案の概要、
判断を仰ぐための情報など

このように、稟議書が「決める」ための書類であるのに対し、伺い書は「相談する」「確認する」ための書類と考えると、その違いが明確になります。

稟議書は、より大きな責任と影響を伴う決定プロセスの一部であり、伺い書は、より柔軟なコミュニケーションや初期段階の意思疎通を促す役割を果たすのです。

使い分けのポイント

稟議書と伺い書を適切に使い分けることは、業務効率を高め、不要な手続きを省く上で非常に重要です。

使い分けのポイントは、主に「事項の重要度」「影響範囲」「費用」「承認経路の複雑さ」の4つに集約されます。

まず「事項の重要度」です。企業にとって戦略的に重要な意味を持つ決定や、将来的に大きな影響を及ぼす可能性のある事項は、稟議書で申請すべきです。

例えば、新規事業の立ち上げ、大規模な設備投資、新たな人事制度の導入などがこれに該当します。

一方で、日常業務における小さな改善提案、社内イベントの実施可否、軽微な備品の購入検討など、重要度が比較的低い事項や、部署内の判断で事足りる内容は伺い書で対応するのが適切でしょう。

次に「影響範囲」です。複数の部署や会社全体に影響が及ぶような案件は、関係各所の承認を得る必要があるため、稟議書を使用します。

これに対し、特定の部署内のみで完結するような内容であれば、伺い書や口頭での相談で済ませることも可能です。

「費用」も重要な判断基準です。会社規定で稟議が必要とされる金額が定められていることが多く、その基準を超える費用が発生する場合は、必ず稟議書を作成します。

規定で定められた金額以下の小額な費用であれば、伺い書や精算手続きで対応できる場合があります。金額基準は企業によって異なるため、自社のルールを確認することが不可欠です。

最後に「承認経路の複雑さ」です。複数の役職者や部署の承認が必要な、複雑な承認経路を伴う案件は、透明性と記録の観点から稟議書が適しています。

一方、直属の上司一人からの承認で事足りるようなシンプルな案件であれば、伺い書の方が迅速な対応が可能です。

これらの判断基準は、多くの企業で社内規定として明文化されていることが多いです。

必ず自社の「稟議規程」や「業務マニュアル」を確認し、それに従って適切な書類を選択するようにしましょう。不明な場合は、上司や総務部門に確認することが、手戻りを防ぎ、円滑な業務遂行への第一歩となります。

稟議書に関するよくある疑問を解決!

稟議書はなぜ日本独特?

稟議書は、日本企業において非常に一般的ですが、海外の企業、特に欧米ではあまり見られない日本独特の企業文化であると言われています。

この背景には、日本の伝統的な社会構造や価値観が深く関係しています。

まず、「合議制と協調性を重んじる文化」が挙げられます。

日本では、組織内の関係者全員で意思決定に関わり、意見を調整しながら合意形成を図ることを重視する傾向があります。これは、個人が突出して決定を下すよりも、集団としての総意を尊重する考え方に基づいています。

稟議書は、この合議制を形式化したものであり、提案内容を複数の関係者が確認し、承認することで、組織としての「総意」を形成する役割を果たします。

次に、「責任の分散とリスク回避」の考え方です。

稟議書を通じて複数の関係者が承認印を押すことで、何か問題が発生した際に、責任が特定の個人に集中するのを防ぎ、組織全体で責任を分担するという意識が働きます。

これは、大きなリスクを伴う決定において、個人が単独で判断を下すことへの抵抗感や、失敗を恐れる心理が背景にあるとも言えます。

また、「情報共有と組織内の統制」の側面もあります。

稟議書は、提案内容を文書として整理し、承認ルートを回ることで、関連部署や上位層へ自動的に情報が共有される仕組みを提供します。

これにより、部門間の連携が促進され、組織全体としての統制が保たれやすくなります。

一方、海外、特に欧米企業では、個人の権限と責任が明確であり、「意思決定のスピード」が重視される傾向が強いです。

権限を持つ個人が迅速に判断を下し、その結果に対する責任を負う文化が根付いているため、多段階の承認プロセスを要する稟議書はあまり一般的ではありません。

しかし、近年は日本企業でもグローバル化や多様な働き方の進展に伴い、意思決定のスピードアップや効率化が求められるようになり、稟議書の運用方法も見直されつつあります。

電子化の進展と未来

稟議書は、かつて紙媒体で手書きやWord/Excelで作成され、各部署を物理的に回覧されるのが一般的でした。しかし、近年ではテクノロジーの進化に伴い、その運用方法が大きく変化しています。

最も顕著な動きが、「ワークフローシステムの導入」による電子化です。

前述の通り、2022年の調査では稟議の形式として「ワークフローシステム」が41.3%を占め、「Word、Excelに印刷して申請」の37.6%を上回っています。

これは、多くの企業がペーパーレス化と業務効率化の重要性を認識し、積極的にデジタルツールを活用している証拠と言えるでしょう。

ワークフローシステムを導入することで、稟議書の作成から申請、承認、決裁までのプロセスがすべてシステム上で完結します。

これにより、回覧時間の短縮、承認状況の可視化、承認漏れの防止、ペーパーコストの削減といったメリットが生まれます。

また、どこで稟議が滞っているかが明確になるため、遅延の原因を特定しやすくなり、迅速な対応が可能になります。

さらに、近年注目されているのが「AI技術の活用」です。

AIは、稟議書などのドキュメントレビューや、契約書の自動分析といった業務に導入され始めています。例えば、過去のデータや規定に基づいて稟議書の内容に不備がないか自動でチェックしたり、契約書にリスク条項がないかを瞬時に特定したりすることが可能です。

これにより、人間が行っていた確認作業の負担が軽減され、コスト削減、生産性向上、そしてより高度な経営判断が可能になると期待されています。

しかし、AI技術が進化しても、最終的な意思決定は人間が行う必要があります。

AIはあくまで判断をサポートするツールであり、倫理的な問題や状況判断など、人間が介在すべき領域は残ります。未来の稟議プロセスは、人とテクノロジーが協調し、より効率的かつ質の高い意思決定を実現する形へと進化していくでしょう。

承認ルートが複雑な時の対処法

稟議書制度のデメリットの一つとして、承認ルートの複雑さが挙げられます。特に大企業や歴史の長い組織では、関係者が多岐にわたり、承認ルートが非常に長くなりがちです。

これにより、稟議がなかなか進まなかったり、手戻りが発生したりして、業務の非効率化を招くことがあります。

このような状況に直面した際の対処法をいくつかご紹介します。

まず、最も有効なのは「事前の根回し(事前確認)」を徹底することです。

正式な稟議提出前に、承認ルート上の主要な関係者や、特に影響を受ける部署の担当者に対して、個別に提案内容を説明し、意見や懸念点をヒアリングしておきましょう。

これにより、彼らの同意を事前に取り付けるか、必要に応じて提案内容を修正することで、本番の承認プロセスでの異論や差し戻しを防ぐことができます。

「実は〇〇部長が反対する可能性があるから、事前に説明しておいた方が良い」といったアドバイスを得られることもあります。

次に、「ワークフローシステムの活用とルートの最適化」です。

電子ワークフローシステムを導入している場合は、承認ルートを可視化し、システム上で自動的に回覧されるように設定できます。これにより、どこで稟議が滞っているかが一目で分かり、担当者は迅速に催促などの対応を取ることができます。

また、この機会に、不要な承認者を減らすためのルートの見直しを行うことも重要です。本当にその役職者が承認する必要があるのか、または情報共有だけで良いのかを検討し、承認ルートを簡素化することで、全体のスピードアップが図れます。

さらに、稟議書の「情報提供の質を高める」ことも有効です。

複雑な稟議では、承認者が内容を理解するのに時間がかかります。件名を分かりやすく、目的と効果を明確に、必要な情報を網羅的かつ簡潔に記載することで、承認者が短時間で内容を把握し、判断しやすくなります。

関連資料や客観的なデータを添付し、疑問点を先回りして解説することも、スムーズな承認に繋がります。

最後に、「社内規定の見直し」も視野に入れましょう。

組織の成長や変化に合わせて、稟議規程自体が現状にそぐわなくなっている場合があります。どの程度の金額やどのような内容の稟議が、どの承認ルートを辿るべきか、定期的に見直しを行うことで、過度な承認プロセスを排除し、業務効率化を実現できるでしょう。