概要: 不動産取引で必ず交わされる「重要事項説明書」。その中でも、擁壁や用途地域、ライフラインに関する項目は、物件の安全性や快適な暮らしに大きく関わってきます。本記事では、これらの重要項目に焦点を当て、見落としがちなポイントを解説します。
宅建業者が必ず説明する「重要事項説明書」とは
なぜ重要事項説明書は必須なのか
不動産を購入する際、多くの人にとって人生で最も高額な買い物となるでしょう。しかし、その取引は専門的な知識がなければ見落としがちなリスクや複雑な法律が絡み合っています。そこで、宅地建物取引業法では、買主が不当な不利益を被らないよう、宅建業者が契約締結前に必ず「重要事項説明書」を交付し、宅地建物取引士がその内容を詳細に説明することを義務付けています。この制度は、不動産取引の透明性を高め、買主が物件に関する重要な情報を事前に十分に理解した上で、納得して契約を結べるようにするためのものです。
重要事項説明書は、単に物件の価格や間取りといった表面的な情報だけを伝えるものではありません。むしろ、将来的なリスクや「落とし穴」となり得る情報が重点的に記載されています。例えば、物件の安全性に直結する「擁壁」の状況、都市計画による制限を定める「用途地域」、そして日々の生活に不可欠な「ライフライン」の整備状況と将来性など、購入後の生活や資産価値に大きく影響する事柄が網羅されています。
この書面は、買主が安心して不動産を所有し続けるための法的基盤となるため、その内容は極めて重要です。万が一、重要事項説明書に虚偽の説明があったり、説明義務違反があった場合には、宅建業者に対して行政処分や損害賠償請求が行われる可能性もあります。これらの法的措置は、買主を保護するためのものであり、重要事項説明書が不動産取引の公平性と透明性をどれほど強く担保しているかを示しています。この書面を正しく理解し、内容を吟味することが、賢明な不動産購入の第一歩となるでしょう。
記載されている情報の種類
重要事項説明書には、不動産取引に関わる多岐にわたる情報が記載されていますが、これらは大きく分けて以下のカテゴリーに分類できます。まず、最も基本的な情報として、「物件の権利関係」があります。これは、土地や建物の所有権に関する事項、抵当権などの担保権の有無、賃借権の有無など、法的な権利状況を示すものです。これらの情報から、物件に隠された法的リスクがないかを確認することができます。
次に重要なのが、「法令上の制限」です。これは、都市計画法や建築基準法などに基づき、物件の用途や建物の規模、構造に制限を設けるものです。例えば、特定の「用途地域」に指定されていれば、建てられる建物の種類や高さ、容積率、建ぺい率などが厳しく制限されます。この項目には、防火地域・準防火地域の指定、接道義務、日影規制なども含まれ、将来の増改築や再建築の可能性に直結する情報となります。特に、今回注目する「擁壁」に関する建築基準法上の適合性や、「がけ条例」による建築制限などもこのカテゴリーで説明されます。
さらに、日常生活に不可欠な「インフラ整備状況」も詳細に記載されます。電気、ガス、水道、排水(下水道や浄化槽)の引き込み状況、供給元が公営か私設か、そしてその口径や容量までが明示されます。私設のライフラインの場合、将来的に維持管理費用や更新費用が発生するリスクがあるため、特に注意が必要です。その他、周辺環境(嫌悪施設、造成工事の状況など)や特記事項(土壌汚染、アスベストの有無など)も含まれ、これら全てが総合的に、購入物件の価値とリスクを判断するための重要な情報源となります。
確認する際の心構えと注意点
重要事項説明書を受け取り、説明を聞く際には、いくつかの重要な心構えと注意点があります。まず第一に、「分からないことは必ず質問し、納得するまで説明を求める」ことです。宅地建物取引士は、買主の理解を深めるために丁寧に説明する義務がありますが、専門用語が多く、一度で全てを理解するのは困難です。少しでも疑問に感じた点や、不明瞭な表現があれば、遠慮せずにその場で質問し、具体的な事例を挙げてもらうなどして、完全に理解するまで確認しましょう。
次に、口頭での説明だけでなく、「記載内容と現地状況の一致」を自身の目で確認することも重要です。例えば、重要事項説明書に記載されている「擁壁」の状態や、近隣の状況(嫌悪施設の有無、騒音など)、ライフラインの引き込み位置などが、実際に現地と合致しているかを必ず確認してください。もし相違がある場合は、その理由を明確にしてもらい、必要に応じて現地を再調査してもらうことも検討すべきです。記載内容と現状とのギャップは、将来的なトラブルの温床となる可能性があります。
そして、最も重要な注意点の一つとして、「必要に応じて専門家への相談を躊躇しない」ことが挙げられます。特に、擁壁の安全性や用途地域の複雑な制限、ライフラインの老朽化といった専門性の高い事項については、不動産会社の説明だけでは不安が残ることもあるでしょう。そのような場合は、建築士、土地家屋調査士、弁護士など、それぞれの分野の専門家にセカンドオピニオンを求めることを強くお勧めします。専門家による客観的な視点や詳細な調査は、隠れたリスクを発見し、安心して不動産を購入するための強力なサポートとなります。
建物の安全性を左右する!擁壁・がけ条例の重要性
擁壁の安全性を確認するポイント
傾斜地や高低差のある土地に建つ物件において、その安全性を大きく左右するのが「擁壁(ようへき)」です。擁壁は土砂崩れを防ぐための重要な構造物ですが、その安全性を確認するにはいくつかの重要なポイントがあります。最も重要なのは、「法的適合性」です。建築基準法では、高さ2mを超える擁壁の設置には、建築確認申請と検査済証の取得が義務付けられています。しかし、法律施行前に設置されたものや、適切な確認申請を経ていない「不適格擁壁」も多数存在します。
重要事項説明書に擁壁に関する記載がない場合でも、不動産会社を通じてその擁壁が建築基準法に適合しているか、確認申請や検査済証の有無を必ず確認することが不可欠です。これらの書類がない場合や、擁壁が古い場合には、将来的な建て替えや大規模改修の際に、現行法規に適合する擁壁への作り直しが求められる可能性が高まります。
特に注意すべきは、「空石積み擁壁」や「大谷石擁壁」です。これらはかつて広く用いられましたが、現在の建築基準法が求める強度や構造基準を満たしていない場合がほとんどです。外見上問題なく見えても、地震などの自然災害に対して脆弱であるリスクを抱えています。これらの擁壁が存在する土地に新築住宅を建てる場合や、既存住宅を大幅にリフォームする際には、安全確保のため作り直しが必要となる可能性が非常に高いため、購入前に必ず専門家による事前調査を依頼し、その法的適合性と安全性を徹底的に確認するようにしましょう。
老朽化と劣化のサイン、そして費用
擁壁の安全性は、その構造や法的適合性だけでなく、経年劣化によっても大きく左右されます。擁壁の耐用年数は構造によって異なりますが、一般的には20年から50年が目安とされています。特に古い擁壁の場合、目に見える形で劣化のサインが現れていることがありますので、現地での確認が非常に重要です。具体的には、「ひび割れ」、擁壁が傾く「ずれ」、内部からの水圧を逃がすための「水抜き穴の詰まり」などが代表的な劣化の兆候です。これらのサインを見過ごすと、擁壁の崩壊につながる危険性があります。
劣化のサインが見られる場合、早期のメンテナンスや補修が必要となりますが、症状が進行している場合や、もともと不適格擁壁である場合は、根本的な「作り直し」が求められることもあります。擁壁の作り直しには、その規模や構造、土地の状況によって大きく費用が変動しますが、数十万円から数百万円単位の費用がかかることが一般的です。例えば、高さ2メートル、長さ10メートルの擁壁をRC(鉄筋コンクリート)で作り直す場合、数百万円以上の費用がかかることも珍しくありません。
購入を検討している土地に擁壁がある場合は、これらの費用負担を事前に把握しておくことが極めて重要です。必ず専門家(建築士、造成業者など)による事前調査を依頼し、擁壁の現状評価と、必要となる改修・作り直し工事の費用見積もりを取得しましょう。この費用は、物件価格に加えて発生する大きな初期投資となる可能性があり、不動産購入の総予算に大きな影響を与えます。劣化状況や費用を把握することで、「落とし穴」となる費用を回避し、安全な住まい選びが可能になります。
崖地と建築制限:がけ条例の落とし穴
不動産が崖地に隣接している場合、その土地には「がけ条例」が適用される可能性があり、これが建築に大きな制限をもたらすことがあります。「がけ条例」とは、都道府県や市町村が定めている建築基準法上の条例で、高さ2m~3m以上の崖の上下端から一定距離内(一般的には崖の高さの1.5倍~2倍)に建物を建てることを制限するものです。これは、崖地の崩壊による建物の倒壊や被害を防ぎ、住民の安全を確保するために設けられています。
がけ条例が適用される土地では、建物の建築が許可されない、あるいは特別な対策(擁壁の設置、地盤改良、建物の構造制限など)を講じることで初めて建築が可能となる場合があります。例えば、崖の高さの2倍の距離が建築できない区域とされている場合、崖から離れた位置にしか建物を建てられないため、利用できる敷地面積が大幅に制限されることになります。これは、希望する大きさや配置の建物を建てられないという、大きな「落とし穴」となり得ます。
重要事項説明書には、このがけ条例の適用状況が記載されるべき項目です。しかし、その記載内容を鵜呑みにせず、必ず所管の自治体(建築指導課など)に詳細を確認することが重要です。条例の具体的な内容や、適用される緩和規定、そして建築に必要な対策や費用について、専門家を交えて相談することをおすすめします。がけ条例に関する知識が不足していると、土地の購入後に計画通りの建物が建てられない、あるいは想定外の多額な費用が発生するといった事態に直面するリスクがあるため、購入前の徹底した調査が不可欠です。
快適な暮らしを左右する!用途地域・容積率・ライフライン
用途地域が定める土地利用のルール
不動産を選ぶ上で、物件の立地が「どのような用途地域」に指定されているかは、将来の暮らしやすさや資産価値、そして建てられる建物の種類や規模に直接影響を与える非常に重要な要素です。用途地域は、都市計画法に基づいて全国12種類に定められており、良好な市街地環境の保全や土地の有効活用を図ることを目的としています。例えば、「第一種低層住居専用地域」は、低層住宅の良好な住環境を守るための地域であり、高さ制限や建ぺい率・容積率の制限が厳しく、大きな建物や商業施設の建築はできません。
具体的な制限は用途地域によって大きく異なります。例えば、「工業専用地域」では、工場以外の住宅や店舗の建築が原則としてできません。また、「第一種低層住居専用地域」でも、床面積50㎡以下の小規模店舗のみ建築可能といった細かな制限が設けられています。これにより、住居専用地域に突然大型商業施設が建つといった事態が防がれ、その地域の景観や住環境が維持される仕組みです。自身のライフスタイルや将来の計画と、その地域の用途制限が合致しているかを確認することが重要です。
さらに、用途地域は都市計画の見直しなどにより、将来的に変更される可能性もあります。用途地域の変更は、その地域の資産価値を大きく変動させる要因となり得ます。例えば、商業地域に指定変更されれば、土地の価値が上がる一方で、住環境が変化する可能性もあります。そのため、現在の制限だけでなく、将来的な都市計画の動向についても、自治体の窓口や不動産会社を通じて情報収集を行うことが、賢い不動産選びのポイントとなります。用途地域は、まさにその土地の「ポテンシャル」を左右する決定的な情報なのです。
容積率と建ぺい率が示す建築規模
土地を購入し、その上にどのような規模の建物を建てられるかを決めるのが、「容積率」と「建ぺい率」です。これらは、用途地域と並んで、土地の利用価値を測る上で非常に重要な指標となります。まず、「容積率」とは、敷地面積に対する延べ床面積の割合を指します。例えば、敷地面積が100㎡で容積率が200%の場合、延べ床面積が200㎡までの建物を建てることが可能です。これは建物の階数や各フロアの広さに直結し、どのくらいの居住空間を確保できるかを決定します。
次に、「建ぺい率」とは、敷地面積に対する建築面積(建物を真上から見たときの面積)の割合です。敷地面積100㎡で建ぺい率が60%の場合、建築面積が60㎡までの建物を建てられます。これは主に、建物を建てることでできる「空地」の割合を確保するための規制であり、日当たりや通風、防災上の観点から重要視されます。建ぺい率によって、庭や駐車スペースの広さが決まるため、住環境の快適さに大きな影響を与えます。
これらの容積率と建ぺい率は、用途地域によってそれぞれ上限が定められています。例えば、良好な住環境を維持する「第一種低層住居専用地域」では、容積率が50%~200%、建ぺい率が30%~60%といった比較的厳しい制限が設けられています。一方、商業地域などでは、より高い容積率や建ぺい率が設定されています。これらの数値は、将来の建物の建て替えや増改築、あるいは土地の売却時における価値にも影響を及ぼします。重要事項説明書でこれらの数値をしっかり確認し、希望する建物の規模が実現可能かを判断することが、後悔しない不動産購入に繋がります。
ライフラインの現状と将来的なリスク
私たちの日常生活に不可欠な「ライフライン」は、電気、ガス、水道、通信などを指し、その整備状況は住まいの快適性だけでなく、購入後の経済的負担にも大きく影響します。重要事項説明書では、これらのライフラインが公営か私設か、そして上下水道やガスの引き込み口径、使用状況などが詳細に記載されます。特に、私設のライフラインの場合、将来的に維持管理費用や更新費用が発生したり、災害時の復旧に時間がかかったりするリスクがあるため、注意が必要です。
日本のライフライン設備は、高度経済成長期に整備されたものが多く、現在、「老朽化」が深刻な問題となっています。例えば、水道管の老朽化による濁水混入事故はすでに各地で発生しており、抜本的な設備更新には膨大な時間とコストがかかるとされています。購入を検討する物件のライフラインについても、将来的な整備計画や、それに伴う住民への負担金発生の有無などを、重要事項説明書だけでなく、所管の自治体や供給事業者にも確認しておくことが、長期的な安心につながります。
また、近年は「デジタルライフライン全国総合整備計画」が策定され、ドローン航路や自動運転支援道、インフラ管理DX(デジタルトランスフォーメーション)などが推進されています。これは将来のインフラ整備の方向性を示すものですが、現時点での不動産購入においては、まず既存のライフラインの整備状況と、その老朽化リスクや維持管理費用の有無がより重要となります。電気供給の安定性、ガス種別(都市ガスかプロパンガスか)、水道の飲料適性、下水処理の方法(公共下水道接続か浄化槽か)など、日々の生活に直結する項目を丁寧に確認し、隠れたリスクがないかを把握しておくことが賢明です。
重要事項説明書に記載される内容と確認のポイント
「物件の概要」と「権利関係」の確認
重要事項説明書の中で、最初に目を通すべきは「物件の概要」と「権利関係」の項目です。物件の概要には、所在地、地番、地目、面積(公簿と実測)、建物の構造、築年数といった基本的な情報が記載されています。これらの情報は、登記簿謄本や公図、建物図面といった公的資料と照合し、齟齬がないか確認することが不可欠です。特に、土地の実測面積と登記簿上の面積に差異がある場合、将来のトラブルの原因となることがありますので、その理由を明確にしてもらいましょう。
「権利関係」の項目では、物件の所有権に関する事項だけでなく、所有権以外の権利(抵当権、根抵当権、質権、地上権、賃借権など)の有無とその内容が記載されます。例えば、売主の住宅ローンに抵当権が設定されている場合は、売買によってその抵当権が抹消されることが説明されます。しかし、登記されていない権利(地役権や通行地役権など)が存在する場合もあり、これらは現地でしか分からない「慣習」として存在することも少なくありません。
これらの権利関係は、物件を完全に自分のものとして利用できるか、あるいは将来売却する際にスムーズに手放せるかに直結します。特に、隣地との境界や越境物、私道の通行権など、近隣との関係に影響する権利については、詳細な説明を求め、必要に応じて隣地所有者との合意書や覚書を確認することが望ましいです。物件の権利関係をしっかりと理解することで、購入後の予期せぬトラブルを未然に防ぎ、安心して不動産を所有するための基盤を築くことができます。
「法令上の制限」と「契約条件」の深掘り
「法令上の制限」は、不動産がどのような法律や条例によって利用が制限されているかを示す重要な項目です。都市計画法に基づく用途地域、防火地域・準防火地域、高度地区、日影規制、さらに建築基準法による建ぺい率・容積率、接道義務、構造制限などが詳細に記載されます。これらの制限は、将来の建物の増改築や再建築の可否、あるいは建物の規模や高さに直接影響するため、自身の建築計画と合致しているか、入念な確認が必要です。特に、接道義務を満たしていない「再建築不可」の物件は、将来的に資産価値が大きく下がるリスクがあるため、極めて慎重な判断が求められます。
次に「契約条件」は、売買契約の履行に関する重要な取り決めが記載される項目です。例えば、契約解除の条件、手付金の扱い、引渡し時期、物件の瑕疵担保責任(契約不適合責任)などが含まれます。特に瑕疵担保責任については、売主が負う責任の範囲や期間、免責事項などが明記されるため、物件に隠れた欠陥が見つかった場合の対応を事前に把握しておくことが不可欠です。新築住宅の場合は品確法に基づく保証期間が定められていますが、中古住宅では個別の契約内容が重要となります。
また、固定資産税・都市計画税の清算方法や、公共施設の負担金(下水道整備負担金など)に関する特約事項も、この項目で確認すべきポイントです。これらの金額や負担割合は、物件価格以外に発生する諸費用に影響します。重要事項説明書では、これらの法令上の制限と契約条件が、物件の法的・経済的な価値を大きく左右する要素として扱われます。記載された内容を深く理解し、自身の希望やリスク許容度と照らし合わせることで、「落とし穴」となる法的・経済的負担を回避し、安心して契約に臨むことができます。
現地確認と専門家への相談の重要性
重要事項説明書の内容を理解することも大切ですが、それと同時に「現地確認」と「専門家への相談」を怠らないことが、不動産購入の成功には不可欠です。書面上の情報だけでは伝わらない、物件の雰囲気や周辺環境、そして隠れた問題点を発見するためには、必ず自身の目で現地を複数回訪れることが重要です。例えば、日当たりや風通し、隣地との境界線の状況、騒音の有無、電車の振動など、実際にその場に身を置いてみなければ分からない情報は少なくありません。特に、重要事項説明書に記載された擁壁の状態や、ライフラインの引き込み口、私道の状況などが、実際の現地と一致しているかを念入りに確認しましょう。
さらに、重要事項説明書の内容に不明な点や、説明を聞いても不安が残る場合は、迷わず専門家に相談することを強くお勧めします。例えば、擁壁の法的適合性や劣化状況については建築士や土地家屋調査士、土地の境界や測量については土地家屋調査士、複雑な法令上の制限や契約内容については弁護士といった具合に、それぞれの専門分野を持つプロフェッショナルに意見を求めることができます。彼らのセカンドオピニオンは、不動産会社や売主からは得られない客観的な情報を提供し、隠れたリスクを洗い出す上で非常に有効です。
特に、私設のライフラインや不適格擁壁が存在する物件、あるいはがけ条例が適用される土地など、将来的に大きな費用負担や建築制限がかかる可能性のある物件では、専門家による事前調査やリスク評価が決定的な役割を果たします。これらの費用を惜しまず、複数の専門家の視点を取り入れることで、重要事項説明書に隠された「落とし穴」を回避し、将来にわたって安心できる住まい選びを実現することができます。契約後に後悔しないためにも、徹底した現地確認と専門的な知見の活用は、最も重要な確認ポイントと言えるでしょう。
専門家も注目!下水道法やガス自由化との関連性
下水道法改正と公共下水道の接続義務
私たちの生活に欠かせない下水道は、環境衛生と公衆衛生を守るための重要なインフラです。近年、下水道法の改正や各自治体の条例によって、公共下水道が整備された地域においては、個人の敷地に設置された浄化槽から公共下水道への接続が義務付けられるケースが増えています。これは、水質汚染の防止や、浄化槽の管理負担軽減を目的としたもので、環境保護の観点からも非常に重要な取り組みです。
もし購入を検討している物件が、公共下水道の整備区域内にあるにもかかわらず、まだ浄化槽を使用している場合、将来的に公共下水道への接続工事が必要となり、その費用負担が発生する可能性があります。接続工事の費用は、物件の状況や自治体によって異なりますが、一般的には数十万円から百万円程度かかることがあります。自治体によっては、接続工事に対する補助金制度を設けている場合もありますので、重要事項説明書で下水道の整備状況を確認するとともに、所管の自治体窓口で補助金制度の有無や工事の義務化状況を詳しく確認することが不可欠です。
重要事項説明書には、排水設備の整備状況(公共下水道、合併処理浄化槽、単独処理浄化槽、汲み取りなど)が明確に記載されています。この項目を深く読み込み、現在の状況だけでなく、将来的な法改正や自治体の施策によって、どのような義務や費用が発生しうるかを予測することが賢明です。特に、環境意識の高まりとともに、下水道への接続義務は今後さらに強化される傾向にあるため、購入後の「落とし穴」とならないよう、事前の情報収集を徹底しましょう。
ガス自由化がもたらす選択肢と注意点
2017年に施行されたガス小売り全面自由化は、消費者が自由にガス会社を選べるようになった画期的な制度です。これにより、各ガス会社が多様な料金プランやサービスを提供し、消費者は自身のライフスタイルに合った最適なガス会社を選択できるようになりました。電気とガスのセット割引や、ポイント還元など、お得なプランも登場し、賢く利用すれば光熱費の節約につながる可能性があります。
しかし、ガス自由化の恩恵を受けるためには、いくつかの注意点があります。まず、物件に引き込まれているガスが「都市ガス」か「プロパンガス(LPガス)」かを確認することが非常に重要です。都市ガスは地下の導管を通じて供給され、複数のガス会社から選択できますが、プロパンガスはガスボンベを通じて供給され、一般的に特定のガス供給会社との契約になります。プロパンガスの場合、ガス自由化の恩恵を受けにくいだけでなく、ガス供給設備の所有者がガス会社であることが多く、契約変更時に設備の買い取りや工事費用が発生するケースもあります。
重要事項説明書には、ガス設備の有無、ガスの種類(都市ガスまたはプロパンガス)、そして供給会社が記載されています。この情報を基に、現在の料金プランが適正か、他のガス会社に変更することでメリットがあるかなどを検討しましょう。また、プロパンガス物件の場合は、ガス会社の変更に伴う費用や手続きについても事前に確認しておくことが重要です。ガス自由化は選択肢を広げましたが、その仕組みと物件のガス環境を理解しなければ、かえって「落とし穴」となる可能性もあるため、注意が必要です。
不動産取引における最新法規・制度のチェックリスト
不動産を取り巻く法規や制度は、社会情勢や環境の変化に応じて常に改正されています。重要事項説明書は、契約時点での最新情報を反映しているはずですが、購入者自身も主要な法規や制度の動向に目を向けることで、より安心して不動産を所有し続けることができます。特に、耐震基準、省エネ基準、住宅ローン減税などの税制優遇制度の変更点は、不動産の価値や購入後の経済的負担に直接影響するため、定期的に情報をチェックすることが重要です。
近年では、地球温暖化対策の一環として、住宅の省エネルギー性能に対する関心が高まっています。高断熱・高気密住宅やZEH(ゼロエネルギーハウス)に対する補助金制度や、関連する税制優遇措置が拡充される傾向にあり、これらの制度を活用できる物件は将来的な資産価値の向上にも繋がります。また、土壌汚染対策法やアスベスト規制など、環境関連法規も、不動産の売買において重要なチェック項目です。これらの法規に違反している場合、多額の修繕費用や対策費用が発生するリスクがあるため、重要事項説明書で関連情報を確認し、必要であれば専門家による調査も検討すべきでしょう。
さらに、参考情報にもあるように、「デジタルライフライン全国総合整備計画」のような未来を見据えたインフラ整備の動向も、長期的な視点では考慮に入れるべき情報です。これらの最新の法規や制度を把握することは、単に現在の物件の価値を測るだけでなく、将来的なメンテナンス費用、建て替え費用、そして資産価値の変動リスクを予測するための重要な手がかりとなります。常にアンテナを張り、最新の情報を自ら収集する意識を持つことが、不動産という大きな資産を守り、活用していくための鍵となるでしょう。
まとめ
よくある質問
Q: 重要事項説明書で特に注意すべき擁壁に関する項目は何ですか?
A: 擁壁の構造、築年数、ひび割れなどの損傷の有無、およびがけ条例の適用有無などを確認しましょう。特に、がけ条例が適用される場合は、建築基準法に基づいた擁壁の設置や確認が重要です。
Q: 用途地域と容積率の制限について、具体的にどのような点を確認すべきですか?
A: 物件がどの用途地域に属するかで、建築できる建物の種類や規模が制限されます。容積率の制限は、延べ床面積の上限を示すため、将来的な増築や建替えを検討する際に重要となります。
Q: ライフライン(ガス・下水道)について、重要事項説明書では何が記載されますか?
A: ガスの供給状況(都市ガスかプロパンガスか、プロパンガスの場合は料金体系)、下水道の整備状況(公共下水道か、個別浄化槽か、未整備か)などが記載されます。下水道法との関連性も確認しましょう。
Q: ガス自由化は重要事項説明書にどのように影響しますか?
A: ガス自由化により、消費者が自由にガス会社を選べるようになりました。重要事項説明書では、現在契約しているガス会社や、料金プランについても確認しておくと良いでしょう。
Q: 重要事項説明書に記載されている「がけ条例」とは何ですか?
A: がけ条例とは、宅地造成等規制法における擁壁の設置基準などに関する条例です。がけ条例が適用される地域では、安全な建築や土地利用のために、擁壁の設置や補強に関する特別な規制が設けられています。
