概要: 「有給申請が拒否された」「いつまでに申請すればいいの?」そんな疑問にお答えします。有給休暇は労働者の権利であり、原則として拒否できません。この記事では、有給申請が拒否されるケースとその理由、そして拒否された場合の正しい対処法を解説します。
有給申請が拒否されるのは、どんな場合?
時季変更権とは?
有給休暇は、労働基準法で定められた労働者の権利であり、原則として会社がその取得を拒否することはできません。
しかし、会社には「時季変更権」という権利が認められています。
これは、労働者が指定した時期に有給休暇を取得されると、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、会社が他の時期に休暇を取得させるよう変更できる権利です。
重要なのは、あくまで「取得時期の変更」であり、有給休暇の取得自体を拒否する権利ではないという点です。
例えば、繁忙期で代替人員の確保が極めて困難であり、その労働者が休むことで業務に深刻な支障が出ることが客観的に証明できる場合などが該当します。
ただし、慢性的な人手不足や、安易な理由での変更権の行使は認められません。
会社は時季変更権を行使する際には、具体的な理由を提示し、労働者と代替日について協議する義務があります。
合理的な理由なく時季変更権を行使したり、代替日も提示せずに一方的に申請を却下することは、違法と判断される可能性が高いです。
拒否が違法となるケース
会社が正当な理由なく有給休暇の取得を拒否した場合、それは労働基準法違反にあたります。
労働基準法第119条に基づき、違反した事業主には「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。
これは、有給休暇が労働者の心身のリフレッシュを目的とした、重要な権利であるためです。
具体的に「正当な理由なく」とは、例えば以下のようなケースが挙げられます。
- 繁忙期ではないにもかかわらず、単に人手が足りないという理由で拒否する
- 他の従業員が既に休暇を取得していることを理由に、機械的に拒否する
- 退職予定の従業員が残りの有給休暇を消化しようとした際に、一方的に拒否する
- 業務の引き継ぎが不十分であるにもかかわらず、会社が適切な対応を怠った結果として拒否する
これらの場合、労働者は自らの権利を行使できなかっただけでなく、精神的な負担も被ることになります。
会社は労働者の権利を尊重し、適切に有給休暇を付与する義務があることを認識しておく必要があります。
パワハラと判断される可能性
有給休暇の申請拒否が繰り返される場合や、拒否の仕方が悪質である場合、それはパワーハラスメント(パワハラ)に該当する可能性があります。
労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、職場におけるパワハラを「優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されること」と定義しています。
有給申請の拒否が、特定の社員に対する嫌がらせや、退職を促す目的で行われる場合、これは業務上必要かつ相当な範囲を超えた行為とみなされ、パワハラに該当する可能性が高いです。
例えば、「こんな時期に休むなんて無責任だ」「休んだら評価を下げる」といった発言を伴う拒否は、パワハラと判断されやすいでしょう。
パワハラに該当する場合、会社はハラスメント対策としての義務を怠ったとして、使用者責任を問われる可能性があります。
労働者は、このような不当な扱いを受けた場合、社内外の相談窓口を通じて適切な対処を求めることができます。
自身の権利を守るためにも、拒否された経緯や言動を具体的に記録しておくことが重要です。
有給申請を拒否できないケースとは
原則として拒否できない労働者の権利
改めて強調しますが、有給休暇は労働基準法第39条で保障された、労働者の当然の権利です。
これは、労働者が一定期間勤続し、所定の要件を満たせば、法律に基づいて付与されるものです。
会社は、従業員が有給休暇の時季を指定した際には、原則として拒否することはできません。
前述の時季変更権は、あくまで「事業の正常な運営を妨げる」という限定的な状況下でのみ行使できる例外的な権利です。
例えば、人手不足が常態化している場合や、会社が適切な人員配置や業務調整を怠った結果として生じる業務支障は、時季変更権の正当な理由とは認められません。
「誰かが休むと困る」という漠然とした理由では、拒否することはできないのです。
労働者が病気や怪我で休暇を申請した場合も、基本的には拒否できません。
また、子どもの学校行事や冠婚葬祭など、個人的な事情による休暇申請も、原則として尊重されるべきです。
有給休暇は、労働者がリフレッシュし、心身の健康を保つために不可欠な制度であり、会社はその取得を最大限に尊重する義務があります。
時季変更権の限界と濫用
会社の時季変更権は、決して万能ではありません。
その行使には明確な条件と限界があります。
最高裁判所の判例においても、「事業の正常な運営を妨げる」とは、単に人員不足や業務の多忙だけでは足らず、事業活動に著しい支障をきたす客観的な事実がなければならないとされています。
例えば、製造業でラインが完全に停止してしまう、あるいは特定のプロジェクトにおいて、その担当者以外に代替が不可能な状態であるといった、本当に緊急かつ不可避な状況が想定されます。
しかし、多くの企業では、従業員が有給を取得することを前提とした人員配置や業務計画を立てることが可能です。
時季変更権を安易に行使したり、従業員への不当な圧力として利用したりすることは、権利の濫用とみなされます。
このような場合、たとえ会社が時季変更権を行使したと主張しても、その変更は無効となり、労働者は当初指定した時期に休暇を取得することができます。
また、会社が一方的に有給休暇の取得を認めない場合、労働者は賃金の請求権を失いません。
会社側の「年5日取得義務」
2019年4月1日より、労働基準法が改正され、企業には従業員への「年5日の時季指定義務」が課せられました。
これは、年10日以上の年次有給休暇が付与されるすべての労働者に対し、会社が年5日以上の有給休暇を、会社が指定した時期に取得させることが義務付けられたものです。
この制度の導入背景には、日本の有給休暇取得率が世界的に見て低いという課題がありました。
参考情報によると、2023年の日本の有給休暇取得率は65.3%で過去最高を記録しましたが、世界11カ国・地域の中では最下位という調査結果もあります。
政府目標である「2028年までに70%以上」にはまだ届いていません。
会社は、労働者自らが5日以上有給休暇を取得しない場合、労働者の意見を聴取した上で、時季を指定して取得させる必要があります。
この義務を怠った企業には、30万円以下の罰金が科される可能性があります。
この制度は、労働者が積極的に有給休暇を取得しにくい現状を改善し、確実に休暇を取得してもらうことを目的としています。
会社側は、この義務を果たすために、従業員の有給取得状況を適切に管理しなければなりません。
有給申請の「1ヶ月前」は必須?法律上のルール
申請期限の法的根拠
「有給休暇は1ヶ月前までに申請しなければならない」という話を耳にすることがありますが、実は労働基準法には、有給休暇の具体的な申請期限に関する規定は存在しません。
つまり、法律上は、労働者は原則としていつでも有給休暇の時季を指定して取得することができます。
極端な話、前日や当日であっても、法的には申請が可能です。
もちろん、これは会社の運営状況や業務の特性を無視してよいという意味ではありません。
しかし、労働者が有給休暇の時季を指定する権利(時季指定権)は、法的に強力な権利であり、その行使に際して、会社が不当な申請期限を設けることは認められません。
あくまで、会社が時季変更権を行使できるかどうかが判断の基準となります。
もし会社の就業規則に「1ヶ月前までに申請すること」と規定されていたとしても、それが過度な期間設定であったり、時季変更権の行使を容易にするためだけに設けられている場合は、その有効性が問われる可能性があります。
法律上の根拠がないため、あまりにも厳しい期限は、労働者の権利を不当に制限するとみなされる可能性があるのです。
就業規則と慣行
多くの会社では、円滑な業務運営のために就業規則で有給休暇の申請期限を定めている場合があります。
例えば、「有給休暇は取得希望日の○日前までに書面で申請すること」といった規定です。
これは、会社が業務調整を行い、時季変更権を行使する判断をするための準備期間を確保する目的で設けられています。
就業規則に定められた申請期限は、原則として労働者も守るべきものとされています。
しかし、この規則が合理的な範囲内であるかどうかが重要です。
例えば、急な体調不良や家庭の事情など、やむを得ない理由で申請期限を過ぎてしまった場合、会社は柔軟に対応するべきです。
もし、そのような緊急性の高い申請を、単に規則違反として一律に拒否することは、時季変更権の濫用とみなされる可能性があります。
また、会社内の慣行として「実質的には○日前までに申請すれば問題ない」といったルールが形成されている場合もあります。
規則に記載がなくても、過去の慣行が裁判で有効なものとして扱われることもあるため、自身の会社の慣行も確認しておくことが大切です。
就業規則を盾に一方的に拒否される場合は、その規則が本当に合理的かどうかも考えてみましょう。
円滑な取得のための工夫
法律上、明確な申請期限がないとはいえ、会社との良好な関係を保ち、円滑に有給休暇を取得するためには、いくつかの工夫が有効です。
最も推奨されるのは、早めの申請と丁寧な業務引継ぎです。
具体的な工夫としては、以下のような点が挙げられます。
- 余裕を持った申請:可能であれば、就業規則に定められた期限よりも早めに申請し、会社に業務調整の準備期間を与える。
- 書面での申請:口頭だけでなく、書面やメールなど形に残る形で申請し、証拠を残す。
- 業務引継ぎの準備:休暇中に支障が出ないよう、担当業務の進捗状況を整理し、必要な情報を同僚や上司に伝える準備をする。
- 代替日の提案:もし時季変更権の行使を打診された場合、代替日をいくつか提案できるように準備しておく。
これらの配慮は、会社側が時季変更権を行使する余地を減らし、円滑に有給休暇を取得できる可能性を高めます。
また、会社との良好なコミュニケーションを築く上でも重要です。
自身の権利を主張しつつも、周囲への配慮を忘れないことで、双方にとってより良い解決策を見つけることができるでしょう。
有給申請を拒否されたらどうする?具体的なステップ
まずは理由を確認する
有給休暇の申請が拒否された場合、最初に行うべきは会社に拒否理由を具体的に確認することです。
口頭だけでなく、可能であればメールや書面で理由の提示を求め、記録に残しましょう。
この際、「事業の正常な運営を妨げる」という時季変更権の行使であるならば、具体的にどのような業務に支障が出るのか、その理由を明確に説明してもらう必要があります。
単に「人手が足りない」「忙しいから」といった抽象的な理由では、時季変更権の正当な理由とは認められません。
また、もし会社側から代替日の提案があった場合は、自身でその代替日が適切かどうかを検討し、協議に応じましょう。
記録は、後に労働基準監督署や弁護士に相談する際の重要な証拠となります。
この段階での冷静な対話が、問題解決の第一歩です。
感情的にならず、事実に基づいたやり取りを心がけましょう。
理由の確認を通じて、会社側の認識不足や誤解が判明することもあります。
もし、会社が正当な理由なく拒否を続けるようであれば、次のステップに進む準備をします。
社内・社外の相談窓口を活用する
会社との直接交渉で解決しない場合や、不当な拒否だと判断した場合は、以下のような社内外の相談窓口を活用しましょう。
相談先によって、得られるアドバイスや解決策が異なります。
- 会社の相談窓口(人事部、ハラスメント相談窓口など):
社内に相談窓口が設置されている場合、まずはそこに相談してみましょう。社内での解決を目指すことで、円満な解決につながる可能性があります。特にパワハラに該当するような言動があった場合は、ハラスメント相談窓口が有効です。
- 労働組合:
労働組合に加入している場合は、組合に相談することが非常に有効です。労働組合は労働者の権利を守るための団体であり、会社との団体交渉を通じて問題解決を図ることができます。個人的な交渉よりも、組織としての交渉力があるため、問題が解決しやすい傾向があります。
- 労働基準監督署:
労働基準監督署は、労働基準法に違反する行為に対して指導や監督を行う国の機関です。会社との話し合いで解決しない場合や、不当な拒否だと判断した場合は、労働基準監督署に相談しましょう。労働基準法違反の疑いがある場合、匿名での申告も可能です。相談員が会社に対して行政指導を行うことで、問題が解決することもあります。
それぞれの相談窓口に、拒否された経緯や会社とのやり取りの記録などを具体的に伝えてください。
適切な相談窓口を選ぶことで、より迅速かつ効果的な解決が期待できます。
法的措置も視野に入れる
上記のような相談窓口を利用しても問題が解決しない場合や、より専門的なアドバイス、法的なサポートが必要な場合は、弁護士への相談を検討しましょう。
弁護士は、労働基準法や過去の判例に基づき、具体的な法的な見解を提示し、会社との交渉を代行したり、必要に応じて法的手続きを進めることができます。
弁護士に相談することで、以下のような法的措置を検討することが可能です。
- 内容証明郵便の送付:会社に対して有給取得の要求と拒否の違法性を主張し、改善を求める書面を送付します。
- 労働審判:裁判所において、労働者と会社の間で話し合いを行い、調停または審判によって迅速な解決を目指す手続きです。
- 訴訟(民事訴訟):会社を相手取り、有給休暇取得の権利の確認や、有給が取得できなかったことによる損害賠償などを求める訴訟を提起します。
これらの法的措置は最終手段となりますが、弁護士のサポートがあれば、より有利な条件で問題解決に導ける可能性があります。
弁護士費用が気になる場合は、無料相談を行っている法律事務所や、法テラスの制度を活用することも検討しましょう。
自身の権利を諦めず、必要であれば専門家の力を借りて、適切な対応を取ることが重要です。
有給取得を諦めない!退職時の有給消化について
退職時の有給消化の権利
退職が決まった際にも、まだ残っている有給休暇は、原則としてすべて消化する権利が労働者にはあります。
退職を理由に会社が有給休暇の取得を拒否することはできません。
なぜなら、有給休暇は労働者が在職中に取得する権利であり、退職後にはその権利自体が消滅するため、会社側が「時季変更権」を行使する余地がないからです。
時季変更権は、あくまで別の時期に休暇を取得させることを目的とした権利であるため、退職によって他に取得できる時期がなくなる場合は、時季変更権は行使できません。
もし会社が退職直前の有給消化を拒否した場合、それは労働基準法違反にあたります。
未消化の有給休暇を会社が買い取ることは、法律上の義務ではありません。
しかし、退職時に残っている有給休暇について、会社が任意で買い取りを提案するケースや、就業規則に買い取り制度が明記されているケースもあります。
ただし、これはあくまで例外的な措置であり、基本的に労働者は有給休暇を「消化する」権利を主張すべきです。
消化期間の調整と交渉
退職時の有給消化は、会社との間で円滑な交渉を行うことが重要です。
会社側も、退職する従業員の業務引き継ぎや、後任者の手配が必要となるため、早めに退職の意思と有給消化の希望を伝えることが望ましいです。
残りの有給休暇の日数と退職希望日を考慮し、具体的な有給消化計画を会社に提案しましょう。
例えば、以下のような提案が考えられます。
- 残りの有給休暇をすべて消化した場合の最終出社日と退職日を明確に伝える。
- 引き継ぎを丁寧に行い、会社に迷惑がかからないように最大限の努力をすること。
- もし、引き継ぎのために数日出社が必要な場合は、その間の日を勤務日とし、残りの日を有給消化期間とする。
会社との交渉が難航する場合は、まずは社内規定を確認し、必要であれば労働組合や労働基準監督署に相談することも有効です。
特に、円満退職を希望する場合には、双方にとって納得のいく形で有給消化のスケジュールを調整することが重要となります。
計画的な有給消化の重要性
退職時に慌てて有給消化をしようとするのではなく、普段から計画的に有給休暇を取得することの重要性を再認識しましょう。
参考情報でも触れられているように、日本の有給休暇取得率は年々上昇傾向にありますが、世界水準にはまだ及びません。
日本の労働者の半数近くが「休み不足を感じていない」と回答している一方で、3割が「毎月有給休暇を取得している」というデータは、取得状況に二極化が見られることを示唆しています。
計画的な有給消化は、労働者の心身の健康維持に貢献するだけでなく、会社にとってもメリットがあります。
従業員がリフレッシュすることで生産性が向上し、離職率の低下にもつながる可能性があります。
また、会社側も年5日の時季指定義務を果たすためにも、計画的な取得を促す必要があります。
日頃から「自分だけ休みにくい」という意識にとらわれず、与えられた権利として積極的に有給休暇を取得していくことが大切です。
自身の年間スケジュールや会社の繁忙期などを考慮し、早めに取得計画を立て、上司と共有することで、退職時だけでなく、年間を通じてストレスなく有給休暇を消化できる環境を整えましょう。
有給休暇は、働く私たちにとって非常に大切な権利です。ぜひ有効活用し、充実したワークライフバランスを実現してください。
まとめ
よくある質問
Q: 有給申請は、どんな理由で拒否されることがありますか?
A: 会社の事業運営に著しい支障が生じる場合(繁忙期、代わりがきかない業務など)に限り、有給申請を時季変更権を行使して拒否できることがあります。しかし、これはあくまで「時期の変更」であり、取得権自体を奪うものではありません。
Q: 有給申請を拒否できないケースはありますか?
A: 原則として、会社が労働者の有給休暇取得を拒否することはできません。特に、時季変更権を行使できるのは、あくまで「取得時期の変更」を提案する場合に限られます。取得自体を拒否することは違法となる可能性が高いです。
Q: 有給申請は、いつまでにすれば法律で決まっていますか?
A: 法律で「〇日前までに申請しなければならない」という具体的な期日は定められていません。ただし、会社が円滑に業務を遂行できるよう、就業規則などで事前の申請時期(例:1ヶ月前、2週間前など)を定めている場合が多いです。シフト制の場合も、早めの申請が望ましいでしょう。
Q: 有給申請を突然拒否されました。どうすれば良いですか?
A: まずは、拒否された理由を会社に確認しましょう。もし正当な理由がない、あるいは時季変更権の行使が不当だと考えられる場合は、改めて有給取得を希望する旨を伝え、話し合いを試みてください。それでも解決しない場合は、労働基準監督署や弁護士などの専門機関に相談することを検討しましょう。
Q: 退職する際に有給が残っています。消化できますか?
A: はい、退職する際に残っている有給休暇は、原則としてすべて消化できます。退職日までに有給休暇を使い切るように会社と交渉しましょう。もし退職日までに消化しきれない場合でも、買い取ってもらえるケースもありますが、法律上の義務ではありません。事前に確認することをおすすめします。
