概要: 出勤簿は、従業員の労働時間を正確に記録し、賃金計算の根拠となる重要な書類です。厚生労働省の指針に基づき、会社には作成・管理義務があり、記載すべき項目や保管期間などが定められています。本記事では、出勤簿の基本から法的な義務、関連書類との違いまでを解説します。
出勤簿とは?その根拠と目的
労働時間を記録する法定帳簿
出勤簿とは、従業員の正確な労働時間を把握し、日々の出勤・退勤時刻、労働日数などを記録するための重要な帳簿です。
これは、単なる記録用紙ではなく、労働基準法第108条に基づき、会社が作成・整備する義務がある「法定帳簿」の一つとされています。
具体的には、従業員名簿、賃金台帳と並び、企業が適切に労務管理を行う上で不可欠な三種の神器とも言える存在です。
この帳簿の主な目的は、従業員の働き方を客観的に記録し、労働基準法で定められた労働時間の上限規制や、時間外労働・休日労働に関するルールを遵守しているかを証明することにあります。
記録された情報をもとに、給与計算や健康管理、さらには業務改善のためのデータ分析など、多岐にわたる用途で活用されます。
そのため、出勤簿は、企業の法令遵守と健全な運営を支える基盤と言えるでしょう。
万が一、適切な出勤簿の作成・管理が怠られた場合、労働基準監督署からの指導や是正勧告に繋がり、最悪の場合には法的トラブルや罰則の対象となる可能性もあります。
このように、出勤簿は単なる事務処理ではなく、企業経営における重要なリスク管理の一環として位置づけられています。
正確な記録を継続的に行うことで、従業員と会社の双方にとって透明性の高い労働環境を構築することが可能になります。
出勤簿を作成・管理する法的・実務的理由
企業が出勤簿を作成・管理する最も重要な理由は、労働基準法を遵守し、法的リスクを回避するためです。
労働基準法では、労働時間の上限規制や休憩時間、そして時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払いが厳格に定められています。
出勤簿は、これらの法律を遵守していることを客観的に証明するための、唯一無二の証拠となります。
不適切な勤怠管理は、労働基準監督署による監査の際に指摘を受け、指導や是正勧告に繋がることが少なくありません。
さらに、従業員からの未払い賃金請求や、過重労働による健康被害に関する訴訟など、深刻な法的トラブルに発展する可能性も孕んでいます。
これらのリスクを回避するためにも、正確な出勤簿の作成と適切な管理は、企業の存続と信頼性に関わる極めて重要な業務なのです。
また、出勤簿は正確な賃金計算の根拠としても不可欠です。
特に、時間外労働(残業)や深夜労働、法定休日労働に対する割増賃金の計算には、正確な労働時間の把握が必須となります。
出勤簿の記録が曖昧であったり、不正確であったりすると、給与計算に誤りが生じ、従業員からの不信感を招くだけでなく、労働基準法違反となる恐れもあります。
正確な出勤簿は、従業員への公平な賃金支払いと、会社の信用維持のために必要不可欠なツールと言えるでしょう。
従業員の健康管理と労務管理の適正化
出勤簿は、単に法令遵守や賃金計算のためだけでなく、従業員の健康管理と過重労働防止という側面でも極めて重要な役割を担っています。
労働時間の把握は、従業員一人ひとりの勤務状況を可視化し、長時間労働が常態化していないか、休息が十分に取れているかなどをチェックする上で不可欠です。
過重労働は、従業員の心身の健康を損ねるだけでなく、最悪の場合には脳・心臓疾患などの労災に繋がる可能性もあります。
厚生労働省が公表するデータでは、令和5年度の業務災害における脳・心臓疾患の労災請求件数が1,023件と、前年度より220件も増加しています。
このような状況において、出勤簿に基づく客観的な労働時間管理は、過重労働による健康障害を未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を整備するための第一歩となります。
従業員の健康を守ることは、企業の社会的責任であり、生産性の維持向上にも直結する重要な経営課題です。
さらに、出勤簿のデータは労務管理の適正化と業務効率向上にも貢献します。
勤怠データを詳細に分析することで、特定の部署や個人に業務が集中していないか、残業時間が恒常的に発生している原因は何かなどを特定できます。
これにより、残業時間の削減策の検討、勤務シフトの最適化、人員配置の見直しなど、具体的な改善策を講じることが可能になります。
働き方改革が推進される中で、多様な働き方(テレワーク、フレックスタイム制など)に対応した柔軟な労務管理は、企業の競争力を高める上で不可欠であり、その基盤となるのが正確な出勤簿なのです。
出勤簿に記載すべき重要事項と厚生労働省の指針
必ず記録すべき基本項目
出勤簿の書式については、法律上の厳密な定めはありませんが、従業員の労働時間を正確かつ客観的に把握するために、必ず記載すべき基本項目がいくつか存在します。
これらの項目を漏れなく記録することで、法令遵守の証明や賃金計算の根拠としての役割を十分に果たすことができます。
具体的には、以下の項目が出勤簿に記載されることが一般的です。
- 氏名:従業員個人の特定に不可欠です。
- 出勤日:労働が発生した日付を正確に記録します。
- 労働日数:その月の総労働日数などを把握するために必要です。
- 出勤(始業)時刻:その日の業務を開始した正確な時刻を記録します。
- 退勤(終業)時刻:その日の業務を終了した正確な時刻を記録します。
- 休憩時間:労働時間から除外される休憩時間を明確に記録します。
- 日ごとの労働時間数:始業から終業までの時間から休憩時間を差し引いた、純粋な労働時間を算出します。
これらの基本項目は、月々の給与計算や年次有給休暇の管理、さらには従業員の健康状態を把握するための基礎情報となります。
特に、始業・終業時刻は、労働時間の客観的な証拠として最も重要であり、手書きであっても、タイムカードであっても、勤怠管理システムであっても、正確な打刻・入力が求められます。
これらの情報が不正確であると、後々労働時間に関するトラブルが発生した際に、企業が適切な対応を取ることが困難になるため、日々の正確な記録が肝心です。
割増賃金計算に必要な追加項目
労働基準法では、法定労働時間を超える労働(時間外労働)、法定休日の労働(休日労働)、そして深夜時間帯(原則として午後10時から午前5時まで)の労働(深夜労働)に対して、通常の賃金に一定の割合を上乗せした割増賃金を支払うことが義務付けられています。
これらの割増賃金を正確に計算するためには、基本項目に加えて、以下の追加項目を出勤簿に記録することが不可欠です。
- 時間外労働を行った日付・時刻・時間数:法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超過した労働の開始時刻、終了時刻、および合計時間を記録します。
- 休日労働(休日出勤)を行った日付・時刻・時間数:法定休日(原則週1回または4週4日)に労働した日付、開始時刻、終了時刻、および合計時間を記録します。
- 深夜労働を行った日付・時刻・時間数:深夜時間帯(午後10時から午前5時まで)に労働した開始時刻、終了時刻、および合計時間を記録します。時間外労働や休日労働が深夜に及んだ場合は、それぞれの割増率を適切に適用するため、区分して記録する必要があります。
これらの情報は、正確な割増賃金を計算し、従業員に適正な給与を支払うための根拠となります。
記録が不十分であったり、曖昧であったりすると、賃金未払いの問題に発展し、企業が多額の遡及支払いを求められるリスクや、労働基準監督署からの是正勧告を受ける可能性が高まります。
特に、近年の「働き方改革」の推進により、労働時間管理の厳格化が求められており、サービス残業の防止や長時間労働の是正が企業の喫緊の課題となっています。
出勤簿にこれらの追加項目を詳細に記録し、適切に管理することは、法令遵守だけでなく、従業員の納得感を高め、健全な労使関係を築く上でも極めて重要と言えるでしょう。
客観的な記録方法と証拠能力
厚生労働省は、労働時間の適正な把握のために、使用者は労働時間を客観的な方法で記録することを求めています。
これは、従業員による自己申告のみに頼るのではなく、事業主が適切な方法で始業・終業時刻を確認し、記録する義務があることを意味します。
客観的な記録方法としては、以下のものが挙げられます。
- タイムカード:従業員が物理的に打刻する最も一般的な方法です。
- ICカードや指紋認証などの生体認証システム:より正確で改ざんされにくい記録が可能です。
- パソコンのログデータ:PCの起動・シャットダウン時刻や稼働状況を記録し、労働時間と照合する方法です。テレワーク時などに特に有効です。
- 入退室記録:オフィスや事業所への入退室時刻を記録し、労働時間把握の補助とする方法です。
- 勤怠管理システム:クラウド型サービスなど、多様な方法で打刻・記録を行い、自動集計までできるシステムです。
これらの客観的な記録は、万が一、労働時間に関する紛争が生じた際に、その事実を証明する有力な証拠となります。
特に、サービス残業の有無を巡る問題では、従業員の証言だけでなく、客観的な記録に基づいた証拠が不可欠です。
例えば、オフィスへの入退室記録やPCの稼働時間なども、直接的な出勤簿の記録と合わせて、従業員が実際に労働していたことを示す補助的な証拠として役立つ場合があります。
自己申告制を導入する場合であっても、企業は従業員に対し、適正な申告を促すための十分な説明を行い、必要に応じて実態調査を行うなど、客観性を担保するための措置を講じる必要があります。
また、自己申告が実態と異なる場合は、速やかに是正措置を講じることが求められます。
このように、出勤簿の記録方法は多岐にわたりますが、いずれの方法を採用するにしても、その記録が「客観性」と「正確性」を担保しているかどうかが最も重要なポイントとなります。
出勤簿の作成・管理義務について
労働基準法に基づく企業の義務
企業には、労働基準法に基づき従業員の労働時間を正確に把握し、その記録を適切に管理する重大な義務があります。
具体的には、労働基準法第108条で「事業場ごとに賃金台帳を作成しなければならない」と定められており、この賃金台帳には労働時間数の記載が必須です。
また、同法第109条では、「労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない」と規定されています(当分の間は3年間とされていますが、将来的には5年となる見込みです)。
出勤簿は、この「労働関係に関する重要な書類」に該当するため、規定された期間の保存が義務付けられています。
この労働時間把握の義務は、単に帳簿を作成することだけにとどまりません。
厚生労働省のガイドラインでは、使用者は「客観的な方法その他適切な方法により」労働時間を記録すべきとされています。
これは、従業員の自己申告だけに頼るのではなく、タイムカードや勤怠管理システムなど、より客観性の高い方法で労働時間を把握・記録することが求められていることを意味します。
この義務を怠り、適切な出勤簿の作成・管理が行われていない場合、労働基準法違反として30万円以下の罰金が科される可能性があります。
加えて、労働契約法第5条では、使用者には従業員が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」が課せられています。
正確な労働時間管理は、長時間労働による従業員の健康被害を未然に防ぐ上で不可欠であり、この安全配慮義務を果たす上でも重要な基盤となります。
このように、出勤簿の作成・管理は、企業が法的な責任を果たすとともに、従業員の健康と安全を守るための、経営における最重要課題の一つと言えるでしょう。
勤怠管理システム導入の現状とメリット
近年、「働き方改革」や「テレワーク」の普及に伴い、勤怠管理の重要性は飛躍的に高まっています。
これに対応するため、多くの企業が従来のタイムカードや手書きの出勤簿から、勤怠管理システムへの移行を進めています。
参考情報によると、勤怠管理システムの導入率は企業規模によって大きく異なりますが、大企業(従業員数301名以上)では約8割~9割、特に従業員数1001人以上の企業では93.7%がシステムを利用しています。
一方、中小企業(従業員数100名以下)では約4割~6割、小規模企業・個人事業主では約2割~4割となっており、建設業を対象とした調査でも43.1%の企業が導入済みです。
勤怠管理システムを導入する最大のメリットは、圧倒的な業務効率化と正確性の向上です。
手作業による集計作業にかかる時間を大幅に短縮でき、ヒューマンエラーのリスクも低減します。
また、リアルタイムで従業員の勤務状況を把握できるため、長時間労働の兆候を早期に察知し、迅速な対応が可能となります。
これにより、過重労働の防止や残業時間の削減にも繋がり、従業員の健康管理体制が強化されます。
さらに、法改正への対応もシステムの大きな利点です。
労働基準法などの改正があった場合でも、クラウド型のシステムであれば自動的にアップデートされるため、アナログ管理のように法改正ごとに手作業で対応する手間が省け、法令遵守を容易に継続できます。
従業員による不正申告のリスクも低減されるため、透明性の高い公平な勤怠管理を実現できるのです。
このような多岐にわたるメリットから、企業規模を問わず、勤怠管理システムの導入は現代の労務管理において不可欠なツールとなりつつあります。
多様な働き方への対応と最新トレンド
現代社会における働き方は、テレワーク、フレックスタイム制、変形労働時間制など、多様化の一途を辿っています。
このような複雑な勤務形態において、従来の画一的な勤怠管理方法では対応しきれない課題が顕在化しています。
そこで注目されているのが、クラウド型の勤怠管理システムです。
市場ではSaaS(Software as a Service)型が主流となり、将来的には市場の8割以上を占めるという予測もあり、その利便性と柔軟性が高く評価されています。
クラウド型システムは、インターネット環境さえあれば場所を選ばずに打刻や勤怠申請が可能であり、テレワーク中の従業員でも正確な労働時間を記録できます。
また、フレックスタイム制におけるコアタイム・フレキシブルタイムの設定や、変形労働時間制における複雑な労働時間計算も自動で行う機能が進化しています。
これにより、人事担当者の集計負担が大幅に軽減され、勤怠管理のヒューマンエラーのリスクも最小限に抑えられます。
現在の市場では、「マネーフォワード クラウド勤怠」「ジョブカン勤怠管理」「KING OF TIME」「SmartHR」「ジンジャー勤怠」「HRMOS勤怠」などがシェア上位に位置しており、各社が多様なニーズに応えるべく、機能強化を図っています。
例えば、スマートフォンアプリからの打刻、GPS位置情報の取得、ICカード連携、プロジェクトごとの工数管理など、様々な機能が提供されています。
アナログ管理では困難だったリアルタイムでの勤務状況把握や、データに基づいた残業時間の削減策検討など、企業の労務管理を戦略的な視点からサポートする役割も果たしています。
働き方の多様化に対応し、効率的かつ正確な勤怠管理を実現するためには、自社の状況に合った最新の勤怠管理システムを導入することが、現代企業にとって不可欠な選択と言えるでしょう。
出勤簿とタイムカード、賃金台帳の関係性
タイムカードの役割と出勤簿との連携
タイムカードは、従業員の始業時刻と終業時刻を記録するための非常に一般的なツールです。
物理的なカードに機械で打刻することで、労働時間を客観的に記録できるという点で、労働基準法が求める「客観的な方法による労働時間把握」の一翼を担っています。
手書きの出勤簿と比較して、打刻による記録は改ざんが難しく、より証拠能力が高いとされています。
しかし、タイムカード自体が「出勤簿」の全ての要件を満たしているわけではありません。
多くの場合、タイムカードには出勤・退勤時刻の打刻しか記録されていません。
労働基準法が求める出勤簿には、休憩時間、日ごとの労働時間数、時間外労働や休日労働、深夜労働の具体的な時間数など、より詳細な情報が必要とされます。
そのため、タイムカードの打刻データを基に、これらの詳細な情報を加筆・集計して、最終的な「出勤簿」が作成されるのが一般的です。
近年では、従来の紙のタイムカードに代わり、ICカード、指紋認証や顔認証などの生体認証、スマートフォンアプリを利用した打刻など、多様なタイムレコーダーが登場しています。
これらのデジタル打刻システムは、打刻データを自動的に集計し、勤怠管理システムに連携することで、出勤簿作成の効率化と正確性向上に大きく貢献しています。
タイムカードは、あくまで出勤簿を構成する基礎データを提供するツールの一つであり、その情報を適切に整理・加工することで、完全な出勤簿へと昇華されます。
賃金台帳への情報連携の重要性
出勤簿が従業員の労働時間を記録する帳簿であるのに対し、賃金台帳は、その労働時間に基づいて計算された賃金の詳細を記録する法定帳簿です。
労働基準法第108条によって、企業には賃金台帳の作成と整備が義務付けられており、これには従業員ごとに賃金の計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数、基本給、各種手当、控除額などが詳細に記載される必要があります。
出勤簿で正確に把握された労働時間は、賃金台帳を作成する上での最も重要な根拠情報となります。
具体的には、出勤簿から集計された総労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数、休日労働時間数などが、賃金台帳の該当項目に転記され、これに基づいて基本給や割増賃金が計算されます。
もし出勤簿の記録に誤りがあれば、それがそのまま賃金台帳にも反映され、結果として不正確な給与計算が行われることになります。
このように、出勤簿と賃金台帳は密接に連携しており、どちらか一方でも不備があれば、法令違反や従業員からの不信感を招く原因となります。
特に、未払い賃金の問題が発生した場合、労働基準監督署や裁判所は、出勤簿と賃金台帳の内容を厳しくチェックします。
両者の情報が一致し、整合性が保たれていることが、企業が適正な賃金支払いを履行していることの客観的な証明となるのです。
正確な出勤簿が、適正な賃金計算と、それに伴う賃金台帳の信頼性を担保する上で不可欠な存在と言えるでしょう。
法定帳簿としての相互補完性
労働基準法では、企業に作成・整備・保存が義務付けられている主要な帳簿が三つあり、これらは「法定三帳簿」と呼ばれています。
具体的には、従業員名簿(労働基準法第107条)、賃金台帳(同法第108条)、そして出勤簿(同法第108条および第109条に基づく労働時間記録)です。
これら三つの帳簿は、それぞれ異なる役割を担いながらも、企業における労務管理の根幹をなし、相互に情報を補完し合う関係にあります。
従業員名簿は、従業員の氏名、生年月日、住所、入社年月日、業務内容などの基本情報を管理するものであり、その個人が企業に在籍していることを示します。
出勤簿は、その従業員がいつ、どれくらいの時間働いたかを時系列で記録し、労働の実態を明らかにします。
そして、賃金台帳は、従業員名簿の個人情報と出勤簿の労働時間記録を基に、支払われた賃金の詳細を明確にします。
この三つの帳簿が有機的に連携することで、「誰が」「いつ」「どれだけ働き」「いくら支払われたか」という一連の労働記録が完全に可視化されるのです。
労働基準監督署による監査(臨検)が行われた際、これらの法定三帳簿は必ずチェックされます。
それぞれの帳簿に記載漏れがないか、記録された情報が矛盾していないか、そして法令に則って適切に管理・保存されているかが厳しく確認されます。
一つでも不備があれば、企業の労務管理体制が不適切と判断され、指導や是正勧告の対象となるだけでなく、企業の社会的信用を失墜させる原因にもなりかねません。
したがって、これら法定三帳簿を正確かつ適切に管理することは、企業の法令遵守と健全な経営を維持するために、欠かすことのできない重要な義務と言えるでしょう。
出勤簿の開示義務と個人情報保護の注意点
従業員からの開示請求への対応
従業員には、自身の労働時間記録である出勤簿の開示を企業に求める権利があります。
これは、労働契約法や個人情報保護法に基づくとともに、自身の労働状況を把握し、企業が適切に賃金を支払っているかを確認するための正当な権利です。
企業は、原則として従業員からのこのような情報開示請求に対して応じる義務があります。
特に開示請求が多くなるのは、以下のようなケースです。
- 未払い賃金の請求:従業員が、残業代などが正確に支払われていないと感じた場合、自身の労働時間記録を確認するために開示を求めます。
- 労働災害の申請:長時間労働が原因とされる労災申請において、実際の労働時間を証明するために記録が必要となります。
- 退職時の履歴確認:退職後に自身の労働記録が必要となる場合もあります。
このような請求があった場合、企業は速やかに、正確な記録を提供する必要があります。
開示を拒否したり、遅延させたりすることは、従業員との間に不信感を生むだけでなく、法的な紛争に発展するリスクも高まります。
開示する際の範囲や形式については、あらかじめ社内規定などで明確化しておくことが望ましいでしょう。
例えば、閲覧のみとするのか、コピーを交付するのか、特定の期間に限定するのか、といった点を定めておくことで、スムーズな対応が可能になります。
ただし、他の従業員の個人情報が含まれる部分は、適切にマスキングするなど、個人情報保護への配慮も同時に必要となります。
透明性の高い情報開示体制を構築することは、従業員からの信頼を得る上で非常に重要です。
出勤簿に含まれる個人情報とその保護
出勤簿に記録される情報には、従業員の氏名、労働時間、出勤状況など、個人情報保護法の対象となる個人情報が多数含まれています。
これらの情報は、企業の管理下にある「個人情報」として、その取得、利用、保管、提供、廃棄に至るまで、個人情報保護法および関連ガイドラインに沿って適切に取り扱う義務があります。
情報の漏洩や不正利用があった場合、企業は社会的信用の失墜だけでなく、法的責任を問われる可能性があります。
そのため、出勤簿の管理においては、以下の点に特に注意を払う必要があります。
- アクセス権限の制限:出勤簿を閲覧・操作できる従業員を、人事担当者や上長など、業務上必要な最小限の者に限定します。
- パスワード管理と物理的セキュリティ:紙の出勤簿であれば施錠されたキャビネットで保管し、デジタルデータであれば強固なパスワード設定や暗号化を施します。
- システムのセキュリティ対策:勤怠管理システムを利用している場合は、そのシステムの提供元が適切なセキュリティ対策(不正アクセス対策、データ暗号化、定期的なバックアップなど)を講じているかを確認し、自社でも多層的なセキュリティ対策を実施します。
- 教育・研修:個人情報を取り扱う従業員に対し、定期的に個人情報保護に関する教育・研修を実施し、意識の向上を図ります。
出勤簿に含まれる個人情報は、従業員のプライバシーに関わる重要な情報であり、その管理体制は企業の信頼性に直結します。
万全な保護対策を講じることで、従業員が安心して働ける環境を確保するとともに、企業のコンプライアンス体制を強化することが求められています。
特に、サイバー攻撃のリスクが高まる現代において、デジタルデータのセキュリティ対策は最優先事項の一つと言えるでしょう。
退職者・休職者の記録管理とプライバシー配慮
出勤簿の管理義務は、現在在籍している従業員に限らず、退職した従業員に対しても及びます。
労働基準法第109条により、賃金台帳やその他労働関係に関する重要な書類(出勤簿を含む)は、退職日または死亡日から起算して5年間(当分の間は3年間)保存する義務があります。
これは、退職後に未払い賃金や年金記録に関する問題が発生した場合に、正確な労働実態を証明するために必要な措置です。
退職者の出勤簿も現職者と同様に、個人情報として厳重に管理し、不正アクセスや漏洩から保護しなければなりません。
また、休職中の従業員の記録管理についても配慮が必要です。
休職期間中は労働が発生しないため、出勤簿には「休職」と記録されることになりますが、休職に至った経緯や期間、復職に向けた状況なども、関連情報として適切に管理する必要があります。
ただし、これらの情報は非常にデリケートな個人情報であるため、アクセス権限を一層厳格に制限し、プライバシー保護に最大限配慮した取り扱いが求められます。
記録の保存期間が終了した際の適切な廃棄処理も重要です。
紙の出勤簿であればシュレッダー処理や専門業者による溶解処理を、デジタルデータであれば完全に復元できない形で消去するなどの対応が必要です。
これらの措置を怠ると、情報漏洩のリスクが生じるだけでなく、個人情報保護法に抵触する可能性もあります。
企業は、出勤簿が「従業員の個人情報」であるという認識を常に持ち、そのライフサイクル全体を通じて、適切かつ慎重な管理体制を構築・維持することが不可欠です。
まとめ
よくある質問
Q: 出勤簿を作成する義務はありますか?
A: はい、労働基準法に基づき、会社には従業員の労働時間を正確に記録し、出勤簿を作成・管理する義務があります。
Q: 出勤簿にはどのような事項を記載する必要がありますか?
A: 一般的には、氏名、所属部署、出勤・退勤時刻、休憩時間、時間外労働時間、休日労働時間、代休取得日などを記載します。厚生労働省は、これらの詳細な記載事項について指針を示しています。
Q: 出勤簿はどれくらいの期間保存する必要がありますか?
A: 出勤簿および賃金台帳は、労働基準法により、原則として5年間保存する義務があります。
Q: 出勤簿とタイムカード、賃金台帳の違いは何ですか?
A: タイムカードは出勤・退勤時刻を記録する機器であり、出勤簿はその記録を基に作成される書類です。賃金台帳は、労働時間や賃金、控除額などを記録し、給与計算の根拠となるものです。出勤簿は、これらの関連書類と密接に関わっています。
Q: 従業員から出勤簿の開示を求められた場合、応じる必要がありますか?
A: 原則として、従業員は自身の労働時間に関する記録(出勤簿など)の開示を求める権利があります。ただし、個人情報保護の観点から、第三者の情報などを除外する配慮も必要です。
