概要: 労働保険料は、事業主の義務であり、従業員の安全と生活を保障するために不可欠です。労災保険料と雇用保険料の役割の違いを理解し、概算保険料の計算方法を把握することで、適切な保険料納付が可能になります。事業主と労働者の負担割合や業種による保険料率の違いも、この機会に確認しましょう。
労働保険料の基本を徹底解説!義務から計算方法まで
労働保険は、従業員を一人でも雇用している事業主にとって加入が義務付けられている、極めて重要な社会保険制度です。労働者の保護を主たる目的とし、万が一の事態から従業員とその家族の生活を守るとともに、事業主の経営安定にも寄与します。本記事では、この労働保険料の基本を徹底的に掘り下げ、加入義務、構成要素、計算方法、そして最新の料率まで、事業主が知っておくべき情報を網羅的に解説します。複雑に感じられがちな労働保険料ですが、一つずつ理解を深めることで、適切な手続きと事業運営が可能になります。
労働保険料とは?事業主の義務と重要性
労働保険とは何か?二つの柱、労災保険と雇用保険
労働保険とは、日本の社会保険制度の一つで、主に「労災保険」と「雇用保険」の二つの柱で構成されています。これらは、事業主が従業員を雇用する際に加入が義務付けられている制度であり、労働者の安全と生活の安定を図ることを目的としています。労災保険(労働者災害補償保険)は、従業員が業務中や通勤途中に発生した事故や災害、または業務に起因する病気によって負傷したり、障害を負ったり、死亡したりした場合に、労働者本人やその遺族に対して必要な保険給付を行う制度です。
これは労働者の健康と安全を保障し、万一の事態に備えるためのセーフティネットとして機能します。一方、雇用保険は、労働者が失業した場合にその生活を保障するための「失業等給付」や、再就職を促進するための職業訓練支援、育児休業給付、介護休業給付など、様々な形で労働者の雇用安定と能力開発を支援する制度です。このように、労働保険は、災害時や失業時といった特定の状況下で労働者の生活と雇用を守るという、それぞれ異なるが補完的な役割を担っています。これら二つの保険が一体となって、包括的な労働者保護の仕組みを形成しているのです。
事業主が負う「加入義務」の範囲と例外
労働保険の加入義務は、原則として「労働者を一人でも雇用している事業所」に課せられます。これは、正社員、パート、アルバイトといった雇用形態の区別なく適用されるため、多くの事業主にとって重要な責務となります。この義務は、労働基準法や労働保険の関連法令に基づいており、事業主は従業員を雇用した日から保険関係が成立し、所定の手続きを経て保険料を納付する責任を負います。加入義務を怠ると、遡及して保険料の徴収や追徴金が課されるだけでなく、企業としての社会的信頼を失うことにも繋がりかねません。
ただし、例外も存在します。例えば、個人経営で常時5人未満の労働者を使用する農林業や水産業の一部事業所など、特定の業種や規模の事業所においては、任意加入が認められているケースもあります。しかし、これらはあくまで限定的な例外であり、一般的な事業活動においては「従業員を一人でも雇用したら労働保険に加入する」という原則をしっかりと認識しておく必要があります。適切な加入手続きと保険料の納付は、法的な義務であると同時に、従業員が安心して働ける環境を提供し、事業活動を円滑に進める上で不可欠な要素と言えるでしょう。
労働保険がもたらす「労働者保護」と「事業の安定」
労働保険制度は、単なる法的な義務に留まらず、労働者と事業主双方にとって多大なメリットをもたらします。労働者にとっては、業務上の災害や通勤中の事故、または失業といった予期せぬ事態に直面した際に、経済的な保障を受けることができるという安心感が最大の恩恵です。労災保険による医療費の給付や休業補償、障害補償、遺族補償は、労働者本人やその家族の生活を支える大きな柱となります。また、雇用保険からの失業給付は、次の仕事を見つけるまでの間、生活の安定を助け、再就職に向けた訓練や支援を受けることで、キャリア形成の機会も提供されます。
一方、事業主にとっても、労働保険は事業の安定と持続可能性に貢献します。労災保険に加入していれば、労働災害が発生した場合に高額な補償責任を事業主が直接負うリスクを回避でき、経営上の予期せぬ負担を軽減することができます。これにより、事業主は安心して事業活動に専念することが可能になります。さらに、労働保険への適切な加入は、法令遵守の姿勢を示すものであり、企業イメージの向上にも繋がります。これは、優秀な人材の確保や、取引先からの信頼を得る上でも非常に重要です。労働保険は、労働者の「もしも」を支えるだけでなく、事業主の「もしも」も支え、健全な労使関係と持続可能な経済活動を支える基盤となっているのです。
労災保険料と雇用保険料の違いを理解しよう
労災保険と雇用保険、それぞれの役割と目的
労働保険を構成する労災保険と雇用保険は、それぞれ異なる役割と目的を持っています。労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が業務上の原因、または通勤中に負傷したり、病気にかかったり、障害を負ったり、死亡したりした場合に、労働者やその遺族に対して保険給付を行うことを目的とした制度です。その役割は、労働災害によって生じる経済的損失を補填し、労働者の生活保障と社会復帰を支援することにあります。この保険は、事業主が全額保険料を負担し、労働者に責任がない事故や病気に対しても、迅速かつ公正な補償を提供することで、労働者の安全と安心を確保します。
対照的に、雇用保険は、労働者が失業した場合に生活を安定させ、再就職を支援することを主な目的としています。具体的には、「失業等給付」として、求職者給付(基本手当など)、就職促進給付、教育訓練給付、雇用継続給付(育児休業給付、介護休業給付など)など、多岐にわたる給付金を提供します。その役割は、失業期間中の労働者の生活を保障し、円滑な再就職を促進することに加え、企業の雇用安定や労働者の能力開発を支援することにも及びます。雇用保険の財源は、事業主と労働者の双方からの保険料で賄われており、労使が協力して雇用社会の安定を支える制度と言えます。これら二つの保険は、労働者の生涯を通じて、リスクの種類に応じて異なる形でサポートを提供する、不可欠な社会保障の仕組みなのです。
保険料率の決定要因と特徴
労災保険料率と雇用保険料率は、それぞれ異なる決定要因と特徴を持っています。まず、労災保険料率は、事業の種類、すなわち「業種」によって細かく定められています。これは、業種ごとに労働災害の発生リスクが大きく異なるためです。例えば、建設業や製造業など、危険を伴う作業が多い業種では保険料率が高く設定される傾向にあります。事務職を主体とする事業所など、比較的労働災害のリスクが低い業種では、保険料率も低く設定されます。この料率は、厚生労働省によって3年に一度見直され、過去の労働災害発生状況や給付実績に基づいて改定されます。
例えば、2024年度の改定では、業種平均で4.5/1000から4.4/1000へと引き下げられましたが、特定の業種では据え置きとなる場合もあります。最新の料率は、厚生労働省のウェブサイトで公開されている「労災保険率表」で確認することができ、事業主はこの情報に基づいて自社の労災保険料を計算する必要があります。
一方、雇用保険料率は、労災保険料率とは異なり、主に「事業の種類(一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業)」と、国の雇用情勢や財政状況、政策的な判断によって決定されます。この料率は、労災保険料率よりも頻繁に見直される傾向にあり、社会情勢や保険制度の運営状況に応じて、引き上げや引き下げが実施されます。例えば、失業者が増加すれば失業等給付の財源が必要となるため、料率が引き上げられる可能性があります。
2024年度の雇用保険料率は前年度と同率が適用されましたが、2025年度には、一般の事業で労働者負担・事業主負担ともに5.5/1,000に変更されるなど、一部引き下げが予定されています。これは、育児休業給付の増加などにより、失業等給付等の保険料率が引き下げられる見込みであるためです。このように、労災保険料率が主に「業種のリスク」を反映するのに対し、雇用保険料率は「社会全体の雇用情勢や財政状況」をより強く反映するという違いがあります。
負担割合の違い:全額事業主か、労使折半か?
労働保険料の負担割合は、労災保険と雇用保険で大きく異なります。この違いを正確に理解することは、事業主が適切な会計処理を行う上で非常に重要です。
まず、**労災保険料**は、その全額を**事業主が負担**することが法律で定められています。労働者には労災保険料の負担は一切ありません。この背景には、労災保険が「業務上の災害や通勤途中の事故など、事業活動に伴うリスクから労働者を保護する」という性質を持っていることがあります。労働災害は、事業主の管理下で発生するリスクであるため、その責任と費用負担は事業主が負うべきである、という考え方に基づいています。したがって、事業主は、従業員の賃金総額に労災保険率を乗じて算出した保険料を、すべて自社の経費として納付します。
一方、**雇用保険料**は、**事業主と労働者の双方が負担**する「労使折半」の原則が適用されます。ただし、厳密には「折半」ではなく、事業主の方が労働者よりも負担割合が高く設定されています。この負担割合は、事業の種類によって異なります。
例えば、**2024年度の雇用保険料率**は以下の通りです。
| 事業の種類 | 労働者負担 | 事業主負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 一般の事業 | 6/1,000 | 6/1,000 | 12/1,000 |
| 農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 7/1,000 | 14/1,000 |
| 建設の事業 | 7/1,000 | 7/1,000 | 14/1,000 |
これに加えて、雇用保険には「雇用保険二事業」と呼ばれる、失業の予防、雇用構造の改善、労働者の能力開発などを目的とした事業があり、この保険料は**事業主のみが負担**します。2024年度の雇用保険二事業の保険料率は、一般の事業で3.5/1,000、建設の事業で4.5/1,000となっています。
したがって、雇用保険料の「事業主負担」は、上記表の事業主負担分と雇用保険二事業の保険料率を合算したものとなります。労働者は、自身の賃金から控除される雇用保険料(上記表の労働者負担分)を負担します。この負担割合の違いを正確に理解し、給与計算や年度更新手続きにおいて適切に反映させることが、事業主には求められます。
労働保険料の概算保険料とは?求め方と計算方法
概算保険料とは?年度更新との関係
労働保険料の納付は、一般的な税金や他の社会保険料とは異なり、「年度更新」と呼ばれる独自の手続きを通じて行われます。この年度更新の際に重要なのが、「概算保険料」という概念です。概算保険料とは、その年の4月1日から翌年3月31日までの1年間(保険年度)に、従業員に支払うと見込まれる「賃金総額」に基づいて算定される、いわば「見込み」の保険料のことです。
年度更新手続きは、毎年6月1日から7月10日までの間に実施されます。この期間に、事業主は前年度(前々年4月1日~前年3月31日)に実際に支払った賃金総額を確定させ、それに基づいて計算した「確定保険料」と、前年度に納付済みの「概算保険料」との差額を精算します。そして同時に、今年度(現在の4月1日~翌年3月31日)に支払う予定の賃金総額を予測し、その見込み額に基づいて「今年度の概算保険料」を算出して申告・納付するのです。
つまり、概算保険料は、その年度の保険料を先に納めておくためのものであり、年度末に実際の賃金総額が確定した際に、過不足を調整するという仕組みになっています。この年度更新制度と概算保険料の仕組みは、事業年度の途中で賃金総額が変動する可能性に対応し、保険料の適正な徴収を確保するために設けられています。事業主は、賃金の見込み額をできるだけ正確に算出し、適切な概算保険料を納めることが、年度更新時の精算の手間や追加徴収のリスクを減らす上で重要となります。
計算の基本:「賃金総額」の定義と範囲
労働保険料を計算する上で最も基本的な要素となるのが「賃金総額」です。この賃金総額とは、文字通り「従業員に支払われるすべての賃金」の合計額を指しますが、その定義と範囲には注意が必要です。労働保険における賃金総額とは、労働基準法に定められる賃金、給料、手当、賞与、その他名称の如何を問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものを指します。
具体的には、以下のようなものが含まれます。
* **基本給**: 月給、日給、時給など。
* **各種手当**: 残業手当、深夜手当、休日出勤手当、家族手当、住宅手当、役職手当、資格手当、通勤手当(課税・非課税問わず)など、名称を問わず労働の対価として支払われるもの。
* **賞与**: 年2回や3回など、定期的に支払われるボーナス。
* **その他**: インセンティブ、報奨金、報償金など。
一方で、賃金総額に含まれないものもあります。これらは、労働の対価として直接支払われるものではないとみなされるためです。
* **退職金**: 退職時に一度支払われるもので、通常の労働の対価とは性質が異なる。
* **慶弔見舞金**: 結婚祝い金、香典など、恩恵的な性格が強いもの。
* **出張旅費・宿泊費**: 実費弁償的な性格が強いもの。
* **役員報酬**: 会社の役員(取締役など)に支払われる報酬は、労働保険の対象となる「労働者」の賃金とは区別される。
* **恩恵的な給付**: 健康診断費用、社宅家賃補助の差額など、労働の対価性が低いもの。
賃金総額の正確な把握は、労働保険料を適正に計算するために不可欠です。特に、毎年実施される年度更新では、前年度の確定賃金総額と今年度の概算賃金総額を見積もる必要があるため、給与計算や経理部門はこれらの情報を正確に集計・管理する責任があります。不明な点があれば、所轄の労働基準監督署や労働局、または社会保険労務士に確認することが重要です。
実際の計算方法:労災保険料と雇用保険料
労働保険料の計算は、「賃金総額」にそれぞれの保険の「保険料率」を乗じて行われます。労災保険料と雇用保険料は、それぞれ異なる保険料率と負担割合が適用されるため、分けて計算する必要があります。
**1. 労災保険料の計算方法**
労災保険料は、事業主が全額負担します。計算式は以下の通りです。
労災保険料 = 賃金総額 × 労災保険率
* 賃金総額:前述の通り、労働者に支払われる給与、賞与、各種手当などの合計額です。年度更新時には、前年度の確定賃金総額と今年度の概算賃金総額を用います。
* 労災保険率:事業の種類(業種)によって異なり、厚生労働省が定める「労災保険率表」で確認できます。この料率は3年に一度見直されます。例えば、2024年度の業種平均は4.4/1000です。
**計算例**:
従業員全体の年間賃金総額が3,000万円で、事業所の労災保険率が4.5/1,000(0.0045)の場合。
労災保険料 = 3,000万円 × 0.0045 = 13万5,000円
この全額13万5,000円を事業主が負担し、納付します。
**2. 雇用保険料の計算方法**
雇用保険料は、労働者と事業主の双方で負担します。計算式は以下の通りです。
雇用保険料 = 賃金総額 × 雇用保険率
雇用保険料率は、事業の種類(一般の事業、農林水産・清酒製造の事業、建設の事業)によって異なります。さらに、この雇用保険料率は「失業等給付等の保険料率」と「雇用保険二事業の保険料率」に分けられ、それぞれ負担割合が設定されています。
**雇用保険料の内訳と負担割合(2024年度の例)**
| 事業の種類 | 賃金総額に乗じる率 | 労働者負担分 | 事業主負担分(失業等給付分) | 事業主負担分(二事業分) | 事業主負担合計 |
| :————————- | :———————– | :———– | :————————— | :———————– | :————- |
| 一般の事業 | 12/1,000(0.012) | 6/1,000 | 6/1,000 | 3.5/1,000 | 9.5/1,000 |
| 農林水産・清酒製造の事業 | 14/1,000(0.014) | 7/1,000 | 7/1,000 | 3.5/1,000 | 10.5/1,000 |
| 建設の事業 | 14/1,000(0.014) | 7/1,000 | 7/1,000 | 4.5/1,000 | 11.5/1,000 |
**計算例**:
従業員全体の年間賃金総額が3,000万円で、事業所が「一般の事業」に該当する場合(2024年度)。
* **労働者負担分の雇用保険料** = 3,000万円 × 6/1,000 = 18万円
* **事業主負担分の雇用保険料(失業等給付分)** = 3,000万円 × 6/1,000 = 18万円
* **事業主負担分の雇用保険料(二事業分)** = 3,000万円 × 3.5/1,000 = 10万5,000円
* **事業主が負担する雇用保険料合計** = 18万円 + 10万5,000円 = 28万5,000円
このように、労災保険料と雇用保険料はそれぞれ異なるロジックで計算され、事業主は両方を合算して納付します。正確な賃金総額の把握と、最新の保険料率の適用が、適切な労働保険料計算の鍵となります。
事業主負担と労働者負担の割合を把握する
労災保険料は「事業主全額負担」の原則
労災保険料は、その制度の根幹にある考え方として、「事業主が全額負担する」という原則が確立されています。これは、労働災害補償保険法に基づいて定められており、労働者には金銭的な負担が一切生じません。この原則の背景には、労働災害が事業活動に伴うリスクとして認識されていることがあります。事業主は、従業員を雇用し、事業活動を行う上で、その活動から発生しうる災害に対して責任を負うべきであるという理念に基づいています。
具体的には、業務中や通勤途中の事故、あるいは業務に起因する疾病は、事業主の管理下で発生する可能性のあるリスクであり、そのリスクに対する備えは事業主が講じるべきであるとされています。労働者自身がいくら注意を払っていても、職場環境や業務内容によっては避けられないリスクが存在するため、その責任を事業主が負うことで、労働者は安心して業務に専念できる環境が保障されます。
したがって、事業主は毎年、自社の従業員に支払われた賃金総額に、当該事業所の業種に応じた労災保険率を乗じて算出した保険料を、すべて自社の費用として国に納付します。この費用は、企業の事業経費として計上され、税務上の処理においても認識されます。労働者が給与明細などで労災保険料が控除されているのを見ることはありません。この全額事業主負担の原則は、労働者を保護するための国の強い意志の表れであり、事業主にとっては、労働安全衛生の確保と法令遵守の重要性を常に意識させる要因となっています。
雇用保険料の労使折半とその割合
雇用保険料は、労災保険料とは異なり、事業主と労働者の双方が負担する「労使折半」の原則が適用されます。しかし、厳密な意味での折半ではなく、事業主の方が労働者よりも高い割合を負担する構造になっています。これは、雇用保険が労働者の生活保障と雇用の安定に寄与するだけでなく、事業主の雇用維持や能力開発にも資するという、双方にとってのメリットを考慮しているためです。
雇用保険料は、以下の2つの要素から構成されています。
1. **失業等給付等の保険料率**: 失業手当や育児休業給付などの財源となる部分です。これは労働者と事業主が負担します。
2. **雇用保険二事業の保険料率**: 雇用安定事業や能力開発事業などの財源となる部分です。これは事業主のみが負担します。
したがって、事業主の負担割合は、「失業等給付等の保険料率の事業主負担分」と「雇用保険二事業の保険料率」を合算したものとなります。労働者は、自身の賃金から控除される失業等給付等の保険料率の労働者負担分を支払います。
**2024年度の雇用保険料率**は以下の通りです。
| 事業の種類 | 労働者負担 (失業等給付等) | 事業主負担 (失業等給付等) | 事業主負担 (二事業) | 事業主負担合計 |
| :————————- | :———————— | :———————— | :—————— | :————- |
| 一般の事業 | 6/1,000 | 6/1,000 | 3.5/1,000 | 9.5/1,000 |
| 農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 7/1,000 | 3.5/1,000 | 10.5/1,000 |
| 建設の事業 | 7/1,000 | 7/1,000 | 4.5/1,000 | 11.5/1,000 |
**2025年度からの雇用保険料率の変更(予定)**
2025年度からは、一部の料率が変更されます。
| 事業の種類 | 労働者負担 (失業等給付等) | 事業主負担 (失業等給付等) | 事業主負担 (二事業) | 事業主負担合計 |
| :————————- | :———————— | :———————— | :—————— | :————- |
| 一般の事業 | 5.5/1,000 | 5.5/1,000 | 3.5/1,000 | 9.0/1,000 |
| 農林水産・清酒製造の事業 | 6.5/1,000 | 6.5/1,000 | 3.5/1,000 | 10.0/1,000 |
| 建設の事業 | 6.5/1,000 | 6.5/1,000 | 4.5/1,000 | 11.0/1,000 |
このように、雇用保険料率は事業の種類によって異なるだけでなく、社会情勢や制度運営状況に応じて定期的に見直されるため、事業主は常に最新の料率情報を確認し、給与計算や年度更新に反映させる必要があります。労働者の給与から控除する際には、この負担割合を正確に計算し、明細に明記することが求められます。
雇用保険二事業とは?事業主のみの追加負担
雇用保険制度は、単に失業時の給付を提供するだけでなく、より広範な目的を達成するために「雇用保険二事業」という独自の枠組みを持っています。この二事業は、「雇用安定事業」と「能力開発事業」の二つを指し、これらの事業に必要な費用は、**事業主のみが保険料を負担する**ことになっています。労働者は、雇用保険二事業に関する保険料を負担する必要はありません。
**雇用安定事業**は、景気変動や産業構造の変化に対応し、事業主が労働者を解雇せずに雇用を維持するための助成金(例:雇用調整助成金)や、高齢者の再雇用支援、早期再就職支援などを通じて、雇用の安定を図るための事業です。これにより、企業は厳しい経済状況下でも従業員の雇用を守りやすくなり、労働者は突然の失業リスクを軽減することができます。
**能力開発事業**は、労働者の職業能力の向上を支援するための事業です。具体的には、事業主が行う従業員への職業訓練や、労働者自身が自発的に受講する教育訓練(例:専門実践教育訓練給付金)に対する助成などがあります。これにより、労働者は新たなスキルを習得し、キャリアアップを図ることができ、企業は競争力を高めるために必要な人材を育成することが可能になります。
これらの二事業は、労働者の生活安定とキャリア形成をサポートするとともに、企業の人材育成や雇用維持を後押しすることで、長期的な視点での労働市場全体の活性化と経済の安定に貢献しています。
**2024年度の雇用保険二事業の保険料率**は以下の通りです。
* **一般の事業**: 賃金総額の **3.5/1,000**
* **建設の事業**: 賃金総額の **4.5/1,000**
* 農林水産・清酒製造の事業も一般の事業と同じく3.5/1,000
この料率は、2025年度も据え置きとなる予定です。事業主は、通常の雇用保険料(失業等給付等)の事業主負担分に加えて、この雇用保険二事業の保険料も計算し、合算して納付する必要があります。これは、事業主が社会全体の雇用安定と労働者の能力開発に対し、重要な役割と責任を負っていることの表れと言えるでしょう。
業種別労災保険料率と月額概算の目安
労災保険率の「業種別」原則とその理由
労災保険料率が「業種別」に設定されているのは、労働災害の発生リスクが事業の種類によって大きく異なるためです。この原則は、公平な保険料負担を実現し、それぞれの事業が抱える固有のリスクを正確に反映させることを目的としています。例えば、高所作業が多い建設業や、重機を扱うことの多い製造業、あるいは危険物を扱う化学工業などでは、事務作業が中心の事務所と比較して、業務中の事故や災害が発生する確率が格段に高くなります。
そのため、労災保険料率は、過去の労働災害発生頻度、災害の重篤度、保険給付の実績などを詳細に分析し、それぞれの業種ごとに個別に設定されます。リスクが高い業種ほど保険料率も高く、リスクが低い業種ほど保険料率も低くなる仕組みです。この業種別料率は、厚生労働省によって「労災保険率表」として公開されており、約50種類の事業区分に細分化されています。
事業主は、自社の主要な事業活動がどの業種区分に該当するかを正確に判断し、その業種に定められた最新の労災保険率を適用して保険料を計算する必要があります。もし複数の事業を行っている場合は、主たる事業の業種に分類されるのが原則ですが、事業の実態に応じて異なる業種に分類される場合もあります。この業種別料率の適用は、事業主が自社のリスクに見合った適正な保険料を負担し、労災保険制度全体の公平性と持続可能性を保つ上で不可欠な要素となっています。
2024年度の労災保険率改定と傾向
労災保険率は、原則として3年に一度、労働災害の発生状況や保険給付の推移などを踏まえて見直されます。直近では、**2024年度(令和6年度)**に改定が行われました。この改定では、業種平均で労災保険率が引き下げられる傾向が見られました。具体的には、**業種平均で4.5/1,000から4.4/1,000へと0.1ポイント引き下げ**られています。
この引き下げは、近年の労働災害発生件数の減少傾向や、安全衛生活動の推進による労働災害防止の取り組みが一定の成果を上げていることを反映していると考えられます。しかし、全ての業種で一律に引き下げられたわけではありません。特定の業種においては、過去の災害発生状況や給付実績に応じて、料率が据え置かれたり、逆に引き上げられたりするケースもあります。これは、あくまで業種平均での変化であり、個々の事業所の労災リスクの実態を反映した調整が行われているためです。
例えば、建設業や製造業など、依然として労働災害リスクが高いとされる業種では、慎重な見直しが行われています。事業主は、自社が該当する業種の最新の労災保険率を厚生労働省のウェブサイトや労働局などで確認し、年度更新の手続きに適切に反映させる必要があります。
また、**2025年度(令和7年度)**の労災保険率については、現時点では**2024年度から変更はない**とされています。労災保険率の傾向としては、労働災害の予防努力が実を結び、全体としては緩やかに引き下げられる方向にある一方で、高齢化の進展による労働災害リスクの変化や、新たな技術導入に伴うリスクの出現など、社会情勢の変化に応じて今後も慎重な見直しが続けられることが予想されます。事業主は、これらの動向を注視し、常に最新の情報を把握しておくことが肝要です。
具体的な業種と月額概算の目安(仮定の賃金で計算)
労災保険料は業種によって料率が大きく異なるため、具体的な月額の目安を知るには、自社の業種と従業員の賃金総額を把握することが不可欠です。ここでは、いくつかの代表的な業種を例に挙げ、仮定の賃金総額に基づいた月額概算保険料の目安をシミュレーションします。
**前提条件**:
* 従業員の月額賃金総額(給与、手当、賞与の月平均など)を **30万円** と仮定します。
* 年間賃金総額は **30万円 × 12ヶ月 = 360万円** とします。
* 以下の労災保険率は、2024年度の一般的な水準を参考にしています。実際の料率は厚生労働省の「労災保険率表」で確認してください。
**労災保険料の月額概算シミュレーション例(年間賃金総額360万円の場合)**
| 業種カテゴリ | 代表的な業種 | 労災保険率 (例) | 年間労災保険料 | 月額労災保険料 (概算) |
| :——————————————— | :———————————————- | :————– | :————- | :——————– |
| **事務・金融・保険業** | 事務所、銀行、証券、保険会社など | 2.5/1,000 | 9,000円 | 750円 |
| **商業・小売業** | 小売店、飲食店、サービス業など | 3.0/1,000 | 10,800円 | 900円 |
| **情報通信業** | ソフトウェア開発、ウェブ制作、通信業など | 2.5/1,000 | 9,000円 | 750円 |
| **製造業 (軽作業)** | 繊維、衣料品、食品加工(一部)、印刷業など | 4.0/1,000 | 14,400円 | 1,200円 |
| **製造業 (重機械・危険物)** | 鉄鋼、金属加工、化学、機械器具製造など | 6.0/1,000 | 21,600円 | 1,800円 |
| **運輸業** | 貨物運送、倉庫業、旅客運送など | 8.0/1,000 | 28,800円 | 2,400円 |
| **建設業** | 建築工事、土木工事など(高所作業、重機作業含む) | 10.0/1,000 | 36,000円 | 3,000円 |
**【注意点】**
* 上記はあくまで「仮定の賃金総額」と「参考としての労災保険率」に基づいた概算です。
* 実際の賃金総額は従業員の人数や給与額によって大きく変動します。
* 労災保険率は同じ業種カテゴリ内でも細分化されており、事業内容によって異なる場合があります。
* 最新かつ正確な労災保険率は、厚生労働省のウェブサイトで公開されている「労災保険率表」で必ず確認してください。
このシミュレーションからわかるように、労災保険料は業種によって月数百円から数千円、場合によってはそれ以上の差が生じます。事業主は、自社の業種を正しく把握し、正確な賃金総額に基づいて、適切な労災保険料を計算・納付することが求められます。
まとめ
労働保険は、従業員を雇用するすべての事業主にとって、加入が義務付けられている極めて重要な制度です。労災保険と雇用保険という二つの柱から成り立ち、それぞれが労働者の安全確保、失業時の生活保障、そして雇用の安定と能力開発という異なる役割を担っています。
労働保険料の計算は、「賃金総額」に「労災保険率」と「雇用保険率」を乗じて行われますが、労災保険料は事業主が全額負担する一方、雇用保険料は事業主と労働者の双方で負担するという違いがあります。また、毎年6月1日から7月10日に行われる「年度更新」を通じて、概算保険料と確定保険料の精算・納付手続きが必要です。
労働保険料率は社会情勢や労働災害の発生状況に応じて定期的に見直されるため、事業主は常に最新の料率情報を確認し、正確な賃金総額に基づいて適切に保険料を計算・納付することが求められます。これにより、法令を遵守し、従業員が安心して働ける環境を提供するとともに、事業の安定的な運営にも繋がります。不明な点があれば、労働局や社会保険労務士などの専門家に相談し、適切な手続きを行いましょう。
まとめ
よくある質問
Q: 労働保険料を納める義務があるのは誰ですか?
A: 労働保険料は、原則として労働者を一人でも雇用している事業主が納める義務があります。一部例外もありますが、基本的には事業主が加入手続きを行い、保険料を納付します。
Q: 労災保険料と雇用保険料の違いは何ですか?
A: 労災保険料は、業務上の災害や通勤途中の事故による傷病に対する給付を行うための保険料です。一方、雇用保険料は、失業時の給付(失業保険)や、育児休業、介護休業中の給付、能力開発に関する給付などのために納められます。
Q: 概算保険料とは何ですか?どのように計算しますか?
A: 概算保険料とは、その年度の見込み保険料額のことです。前年度の確定保険料額などを基に、その年度の概算保険料を算定します。計算方法は、概ね「賃金総額の見込額 × 適用される保険料率」で求められます。
Q: 労働保険料の事業主負担と労働者負担の割合は決まっていますか?
A: 労働保険料のうち、労災保険料は全額事業主負担です。雇用保険料については、事業主と労働者で負担割合が定められており、一般的には事業主と労働者が折半(労使折半)または事業主の負担割合が大きくなっています。業種や保険の種類によって負担割合は異なります。
Q: 業種によって労災保険料率は変わりますか?
A: はい、労災保険料率は、事業の危険度に応じて業種ごとに細かく定められています。危険度が高い業種ほど保険料率が高くなります。例えば、建設業や林業などは比較的高く、事務処理が中心の業種は低くなります。
