労働保険料の負担割合と見直しポイントを徹底解説

労働保険料は、労災保険雇用保険を合わせたもので、働く人々の安全と健康を守り、失業や育児休業時の生活を支えるための重要な制度です。

企業にとっては、従業員を守る責任を果たす上で欠かせない法定福利費の一部となります。しかし、その負担割合や最新の料率、見直しのポイントについて、正確に把握することは容易ではありません。

この記事では、労働保険料の負担割合、最新の保険料率の動向、そして法定福利費を最適化するための見直しポイントを徹底的に解説します。企業の担当者様はもちろん、個人事業主の方々もぜひご一読ください。

労働保険料の保険料率、最新動向と変動要因

労働保険料の保険料率は、国の経済状況や各業界の労働災害発生率など、様々な要因によって変動します。

常に最新の情報を把握し、適切な対応をとることが企業には求められます。

労災保険料率の改定と影響

労災保険料率は、各業種の過去3年間の労働災害発生率に基づいて、原則3年ごとに見直されます。令和6年度(2024年度)は、6年ぶりに改定が行われました。

今回の改定では、業種平均の労災保険料率が4.5/1,000から4.4/1,000へと引き下げられ、多くの企業にとっては負担軽減となる可能性があります。しかし、全ての業種で引き下げられたわけではなく、一部の業種では引き上げられたケースもあります。

例えば、過去3年間で労働災害が減少した業種では料率が引き下げられ、反対に増加した業種では引き上げられる傾向にあります。建設業においては、労務費率の一部も見直されており、計算の際には注意が必要です。

この改定は、企業が従業員の安全衛生管理にどれだけ力を入れているかを反映するものであり、リスク管理の重要性を改めて浮き彫りにしています。料率の変更は直接的なコストに影響するため、自社の業種区分の確認と、最新の料率を把握しておくことが不可欠です。

雇用保険料率の現状と今後の見通し

雇用保険料率は、国の雇用情勢や失業給付金の支給状況によって変動します。令和6年度(2024年4月~2025年3月)の雇用保険料率は、令和5年度から変更されていません。

しかし、過去10年間の動向を見ると、雇用保険料率は上昇傾向にあり、特に2022年度以降は高止まりが続いています。厚生労働省は、2025年度以降も雇用保険料率を引き上げる方向で調整を進めているとされており、今後の動向には注意が必要です。

現在の雇用保険料率は以下の通りです。

事業区分 労働者負担 (1,000分の) 事業主負担 (1,000分の) 合計(事業主負担) (1,000分の)
一般の事業 6 9.5 (失業等給付・育児休業給付: 6 + 雇用保険二事業: 3.5) 9.5
農林水産・清酒製造の事業 7 10.5 (失業等給付・育児休業給付: 7 + 雇用保険二事業: 3.5) 10.5
建設の事業 7 11.5 (失業等給付・育児休業給付: 7 + 雇用保険二事業: 4.5) 11.5

※上記は労働者負担分と事業主負担分を合算した雇用保険料率(失業等給付・育児休業給付分+雇用保険二事業分)です。

この表からわかるように、雇用保険料は労働者と事業主が一定の割合で負担しますが、雇用保険二事業に関する保険料は事業主のみが負担します。今後の料率改定は、企業の法定福利費に直接影響を与えるため、継続的な情報収集が求められます。

変動要因と企業がとるべき対策

労働保険料率が変動する主な要因は多岐にわたります。

労災保険料率に関しては、各業種の労働災害発生率が最も大きな要因です。企業が安全衛生活動に力を入れ、労働災害を減らすことができれば、将来的に自社の保険料率の引き下げにつながる可能性もあります。

一方、雇用保険料率は、国の雇用情勢(失業率の動向、新規求人倍率など)や、失業給付金、育児休業給付金などの給付金の支払い状況に大きく左右されます。経済状況が不安定になると、失業者の増加に伴い給付金の支払いが増え、結果として保険料率が引き上げられる傾向にあります。

企業がこれらの変動要因に対してとるべき対策としては、まず最新の保険料率情報を常に確認することが挙げられます。また、安全衛生管理体制を強化し、労働災害の発生を未然に防ぐ努力も重要です。

さらに、法定福利費をコストとしてだけ捉えるのではなく、従業員の安心と定着を支える投資と捉え、適切な人事戦略や労務管理を行うことで、結果的に企業の持続的な成長に貢献することも可能になります。

労働保険料の負担はどう決まる?本人負担分と事業主負担分

労働保険料は、労災保険と雇用保険で負担割合が大きく異なります。それぞれの制度の目的を理解することで、なぜその負担割合なのかが明確になります。

企業と労働者、それぞれの視点から見ていきましょう。

労災保険料は全額事業主負担

労災保険料は、その全額が事業主負担となります。労働災害補償保険法に基づき、事業主は労働者の業務上や通勤中の負傷、疾病、障害、死亡に対して、必要な保険給付を行う責任を負っています。

この制度は、労働者の生命と健康を守ることを最優先しており、そのための費用は労働者を雇用する事業者側が負うべきであるという考えに基づいています。労働者は、いかなる場合でも自身の過失の有無にかかわらず、労災保険の保護を受けられるため、安心して働くことができます。

事業主にとっては、法定福利費の一部として労災保険料を納めることは義務であり、従業員の安全を確保するための重要な投資と言えます。労働災害が発生した場合の補償費用は非常に高額になる可能性があるため、労災保険は企業のリスクマネジメントにおいても極めて重要な役割を果たします。

適切な安全管理体制の構築や、定期的な安全衛生教育の実施は、労災保険料の負担軽減だけでなく、企業の社会的責任を果たす上でも不可欠です。

雇用保険料は労使で負担を分担

雇用保険料は、労働者と事業主が一定の割合で負担します。これは、雇用保険が「失業時の生活保障」や「育児休業中の生活支援」、さらには「雇用安定」「能力開発」といった、労働者と企業双方にメリットのある制度であるためです。

具体的には、以下の2つの保険料に分けられます。

  1. 失業等給付および育児休業給付に関する保険料労働者と事業主が共同で負担します。例えば、一般の事業の場合、労働者が6/1,000、事業主が6/1,000を負担します。
  2. 雇用保険二事業に関する保険料事業主のみが負担します。これは、失業の予防や雇用機会の増大、労働者の能力開発、福祉の増進を図るための事業にかかる費用であり、事業主の責任において負担されるものです。一般の事業の場合、事業主が3.5/1,000を負担します。

このように、雇用保険料は失業手当や育児休業給付といった直接的な給付に充てられる部分と、事業主が行うべき雇用維持・促進策に充てられる部分とで、負担の考え方が異なります。労働者側からすれば、毎月の給与から控除される雇用保険料は、将来の安心への投資と言えるでしょう。

法定福利費としての位置づけと重要性

労働保険料は、社会保険料(健康保険、厚生年金保険)と並んで「法定福利費」に分類されます。

法定福利費とは、法律で企業が負担することが義務付けられている福利厚生費のことであり、企業の人件費を構成する重要な要素の一つです。従業員を雇用するすべての企業に、その支払い義務が生じます。

法定福利費として労働保険料を適切に計上し、納付することは、企業の法的義務であると同時に、従業員の生活と労働環境を保障するための重要な責任でもあります。これを怠ると、罰則や追徴金が課されるだけでなく、企業の社会的信頼を失うことにもつながりかねません。

また、従業員にとっては、法定福利が充実している企業は、安心して長く働ける職場としての魅力が高まります。結果として、優秀な人材の確保や定着率の向上にも寄与し、企業の競争力強化にも繋がるでしょう。法定福利費は単なるコストではなく、企業の持続的な成長を支えるための戦略的な投資として捉えることが重要です。

知っておきたい!労働保険料の端数処理と年度更新の注意点

労働保険料の計算と納付は、年に一度の「年度更新」を通じて行われます。

この手続きは、企業の法定福利費の正確な把握と、適切な納税のために非常に重要です。特に、賃金集計の正確性や最新の料率確認、そして端数処理には細心の注意を払う必要があります。

正確な賃金集計の重要性

労働保険料の計算の基礎となるのは、企業が従業員に支払った「賃金総額」です。この賃金総額には、基本給はもちろんのこと、各種手当(通勤手当、住宅手当、役職手当など)、賞与、さらには現物支給されるもの(通勤定期券など)も含まれる場合があります。

年度更新の際に、この賃金総額を正確に集計することは極めて重要です。集計対象となる従業員の範囲(パート・アルバイトも含むかなど)や、賃金として算定すべき範囲を正しく理解していなければ、過少申告や過大申告のリスクが生じます。

もし賃金総額に誤りがあった場合、追徴金や延滞金が発生するだけでなく、企業は過去の申告内容を遡って修正する手間が生じます。日々の給与計算システムと連携させたり、専門家である社会保険労務士に相談したりすることで、集計の正確性を高めることができます。

年度末には、一年間の賃金データを慎重に確認し、不明点があれば管轄の労働基準監督署やハローワークに問い合わせるなど、確実な手続きを心がけましょう。

年度更新手続きの流れと確認ポイント

労働保険料の年度更新は、毎年6月1日から7月10日までの期間に行われる重要な手続きです。

この手続きでは、前年度(4月1日~3月31日)に納付した概算保険料と、確定した賃金総額に基づいて計算した確定保険料との差額を精算します。そして同時に、翌年度(4月1日~3月31日)の概算保険料を納付します。

年度更新における確認ポイントは以下の通りです。

  • 最新の保険料率の確認: 令和6年度は労災保険料率が改定されているため、申告書に印字されている料率だけでなく、事前に厚生労働省などの公式情報を確認し、変更の有無を必ずチェックしましょう。
  • 賃金総額の再確認: 前述の通り、対象となる賃金範囲や従業員を漏れなく集計できているか、再度確認が必要です。
  • 事業内容の変更有無: 事業内容に変更があった場合、業種区分が変わることで保険料率に影響が出る可能性があります。

万が一、申告期限を過ぎてしまうと、延滞金が発生したり、労働基準監督署による調査の対象になったりする可能性があります。計画的に準備を進め、余裕をもって手続きを完了させましょう。

端数処理と計算ミスを防ぐポイント

労働保険料を計算する際には、端数処理のルールを正しく適用することが重要です。一般的に、保険料の計算結果に生じる円未満の端数は「切り捨て」とされています。

しかし、賃金総額の計算や雇用保険の被保険者数の計算など、途中の計算過程で端数処理が必要な場合もあり、そのルールを誤ると最終的な保険料額に影響が出てしまいます。複雑な計算や多くの従業員を抱える企業では、計算ミスが発生しやすいため、以下のポイントに注意が必要です。

  • 計算ルールの確認: 労働保険料の計算ガイドラインや、関連法令を事前に確認し、端数処理を含む正確なルールを把握する。
  • 会計・給与計算ソフトの活用: 労働保険料の計算機能が搭載されている会計ソフトや給与計算ソフトを利用することで、自動的に計算が行われ、人為的なミスを減らすことができます。
  • 複数人でのチェック体制: 計算結果を一人で確認するだけでなく、複数人でクロスチェックを行うことで、誤りの早期発見につながります。
  • 専門家への相談: 不安な点や疑問点がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談し、正確なアドバイスを受けることをお勧めします。

正確な計算と適切な端数処理は、法令遵守はもちろんのこと、企業の資金繰りにも影響を与えるため、細心の注意を払うようにしましょう。

日雇いや一人親方など、ケース別の労働保険料の考え方

労働保険の適用は、一般的な正社員だけでなく、様々な雇用形態の労働者に及びます。

特に日雇い労働者や一人親方、パート・アルバイトなど、通常の労働者とは異なるケースについては、その適用条件や保険料の考え方に特有のルールが存在します。

一般的な労働者と異なる日雇い労働者のケース

日雇い労働者とは、日々雇用される者、または1ヶ月未満の期間を定めて雇用される者を指します。一般的な労働者とは異なり、日雇い労働者の労働保険の適用には特別なルールが存在します。

雇用保険においては、原則として「日雇特例被保険者」としての適用となり、通常の雇用保険とは異なる計算方法や給付要件が定められています。具体的には、適用されるためには所定の要件(例えば、ハローワークで日雇労働者として認定を受けることなど)を満たす必要があります。

労災保険については、日雇い労働者であっても、労働者として事業主に使用される以上、原則として一般の労働者と同様に適用されます。これは、業務上の災害から労働者を保護するという労災保険の目的を考えると当然のことです。

企業側は、日雇い労働者を雇用する際にも、労働保険の適用条件を正しく理解し、適切な手続きを行う義務があります。特に建設業など、日雇い労働者が多く働く現場では、その管理が複雑になりがちなので注意が必要です。

一人親方等、特別加入制度の利用

労災保険は、原則として労働者を保護する制度であり、事業主や自営業者、一人親方などは通常、適用対象外です。

しかし、業務の実態が労働者に近いにもかかわらず労災保険の保護を受けられないという不公平を解消するため、「特別加入制度」が設けられています。これにより、一人親方や中小事業主、特定の団体に所属する者などが、労災保険の適用を受けることが可能になります。

特別加入の主な対象は以下の通りです。

  • 一人親方等(建設業、運送業など)
  • 中小事業主等
  • 海外派遣者

特別加入することで、業務中の事故や病気に対して、労災保険の給付(療養補償、休業補償など)を受けることができるようになります。特に一人親方などは、事故がそのまま収入減に直結するため、この制度の利用は非常に重要です。

加入を希望する場合は、所定の団体を通じて手続きを行うのが一般的です。自身の労働実態に合わせて、特別加入制度の利用を検討する価値は十分にあります。

パート・アルバイトの適用条件

パートタイマーやアルバイトであっても、一定の条件を満たせば、正社員と同様に労働保険の適用対象となります。

これは、労働時間や雇用期間が短くても、労働者であることに変わりはないという考え方に基づいています。具体的な適用条件は、雇用保険と労災保険で異なります。

  • 雇用保険: 週の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある場合に適用されます。学生アルバイトについては原則として適用除外ですが、休学中や夜間学部の学生など、一部例外もあります。
  • 労災保険: 雇用形態や労働時間にかかわらず、労働者として事業主に使用されるすべての人が適用対象となります。したがって、短時間のアルバイトであっても、労災保険の保護を受けることができます。

企業は、パート・アルバイトを雇用する際にも、これらの条件を確認し、適切な時期に加入手続きを行う必要があります。社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用条件も併せて確認し、従業員の福利厚生を適切に管理することが求められます。

適用漏れがあった場合、従業員が給付を受けられないなどのトラブルにつながるだけでなく、企業側が遡って保険料を納付する義務が生じることもあるため、注意が必要です。

労働保険料の見直しで法定福利費を最適化しよう

労働保険料を含む法定福利費は、企業の人件費において大きな割合を占めます。これを単なるコストと捉えるのではなく、見直しを行うことで、経営を最適化し、さらに企業価値を高めることが可能です。

適切な見直しは、企業の負担を軽減し、同時に従業員の満足度向上にも寄与します。

法定福利費を見直すメリット

法定福利費、特に労働保険料を見直すことには、企業にとって多くのメリットがあります。

  1. コスト削減: 不要な保険料の支払いがないか、適用対象外の従業員が含まれていないかなどを確認することで、無駄な支出を削減できます。これは、企業の利益率向上に直接つながります。
  2. 経営の安定化: 法定福利費の適正化は、将来的なコストを予測しやすくし、経営計画の策定をより確実なものにします。予期せぬ費用の発生リスクを低減し、安定した企業運営に貢献します。
  3. コンプライアンスの強化: 正しい知識に基づいた見直しは、法令遵守を徹底することに繋がります。これにより、行政指導や罰則のリスクを回避し、企業の信頼性を高めることができます。
  4. 従業員満足度の向上: 適正な保険料負担と正確な手続きは、従業員が安心して働ける環境を提供します。これにより、従業員のエンゲージメントが高まり、生産性の向上にも寄与するでしょう。

法定福利費の見直しは、単なる節約術ではなく、企業の持続可能な成長を支えるための戦略的な取り組みと言えます。定期的なチェックと改善は、常に変化する制度に対応するためにも不可欠です。

労働保険料適正化のためのチェック項目

労働保険料を適正化するためには、自社の現状を正確に把握し、問題点がないか細かくチェックすることが重要です。

以下に、主要なチェック項目を挙げます。

  • 賃金計算の正確性:
    • 賃金総額に含めるべき手当や賞与、現物支給品が正しく計上されているか。
    • 対象外の賃金(例えば、役員報酬など)が含まれていないか。
  • 業種区分の確認:
    • 自社の事業内容が、労災保険の業種区分と正しく一致しているか。複数の事業を行っている場合、主たる事業の区分が適用されているか。
  • 適用除外者の有無:
    • 雇用保険や労災保険の適用対象外となる従業員(例:高齢者、学生アルバイトの一部など)が、誤って加入していないか。
  • 労災保険のメリット制適用可能性:
    • 一定規模以上の事業場で、過去3年間の労災の発生状況に応じて保険料率が変動する「メリット制」が適用されているか、または適用対象となる可能性がないか。
  • 年度更新手続きの正確性:
    • 毎年行われる年度更新の手続きが、最新の料率と正確な賃金情報に基づいて行われているか。

これらの項目を定期的に見直すことで、過払い・過少払いのリスクを避け、適切な労働保険料の納付に繋げることができます。

専門家によるアドバイスとサポート

労働保険制度は、頻繁な法改正や複雑な計算プロセスを伴うため、自社だけで完璧に対応することは難しい場合があります。

そこで有効なのが、社会保険労務士などの専門家によるアドバイスとサポートです。専門家を活用するメリットは以下の通りです。

  • 法改正への迅速な対応: 最新の法改正情報に基づき、適切な手続きや計算方法を提案してくれます。
  • 計算の正確性確保: 複雑な賃金計算や端数処理など、正確な保険料計算をサポートし、ミスを防ぎます。
  • 手続きの代行: 年度更新手続きや各種届出を代行することで、企業の人事・経理担当者の負担を大幅に軽減します。
  • リスクの軽減: 適用漏れや過少申告による追徴金のリスクを低減し、コンプライアンス体制を強化します。
  • 最適な法定福利費の提案: 企業の状況に応じた最適な労働保険料の考え方や、メリット制の活用など、コスト最適化に関する具体的なアドバイスを提供します。

専門家の知見を活用することで、企業は本業に集中しながら、労働保険料に関するリスクを管理し、法定福利費を効率的に最適化することが可能になります。まずは気軽に相談してみることをお勧めします。