雇用保険の基本:失業給付(基本手当)とは?

失業給付(基本手当)の目的と役割

失業給付(基本手当)とは、会社を退職し、再就職の意思と能力があるにもかかわらず仕事が見つからない場合に、生活の安定を図りながら早期の再就職を支援するために支給される手当です。これは雇用保険制度の中核をなす給付の一つであり、不測の事態に備えるセーフティネットとしての役割を担っています。

2025年4月からの雇用保険法改正により、自己都合退職者の給付条件が緩和されるなど、制度はより利用しやすくなっています。この給付を通じて、求職者は経済的な不安を軽減し、じっくりと自分に合った仕事を探したり、スキルアップのための時間を確保したりすることが可能になります。

失業給付は、単に生活費を補填するだけでなく、再就職活動に専念できる環境を提供することで、労働市場全体の活性化にも寄与しています。

対象となる「失業状態」の具体的な定義

失業給付を受け取るためには、「失業状態であること」が必須条件となります。ここでいう「失業状態」とは、単に仕事をしていない状態を指すのではありません。

具体的には、「就職する意思と能力があり、求職活動を行っているにもかかわらず、職業に就けない状態」と定義されます。つまり、積極的に仕事を探しており、健康状態なども含めてすぐにでも働ける状況にあるにもかかわらず、まだ職を得られていない状態を指します。

例えば、病気や怪我で働くことができない期間、妊娠や出産、育児のためすぐに働けない場合、学業に専念している期間などは、この「失業状態」には該当せず、原則として失業給付の対象外となります。ハローワークでの求職申し込みや、定期的な求職活動の実績が、この「失業状態」の証明として求められます。

高年齢求職者給付金について

失業給付(基本手当)の対象は原則として65歳未満の方が中心となりますが、65歳以上で離職された方には「高年齢求職者給付金」が支給される場合があります。これは、通常の失業保険の受給要件を満たす場合でも、基本手当ではなく、別の制度として位置づけられています。

高年齢求職者給付金は、65歳以降も働き続けたいという意欲のある方を支援するための給付金です。基本的な受給資格は失業給付と似ていますが、支給される期間や金額の計算方法が異なります。

具体的な支給額は被保険者期間によって異なりますが、一時金としてまとめて支給されるのが特徴です。65歳以上で退職を検討されている方は、ご自身の雇用保険加入状況を確認し、高年齢求職者給付金の対象となるか、ハローワークで相談することをおすすめします。

失業給付の受給資格を確認!離職理由別で解説

共通の受給条件:求職活動と被保険者期間

失業給付を受け取るためには、離職理由にかかわらず、いくつかの共通した受給条件を満たす必要があります。まず大前提として、前述の「失業状態であること」、すなわち働く意思と能力があり、積極的に求職活動を行っていることが求められます。

次に重要なのが、「一定期間以上の雇用保険被保険者期間があること」です。これは、雇用保険料を納めていた期間がどれくらいあったかを示すもので、離職日以前の一定期間内に、雇用保険に加入していた期間が一定以上あることが条件となります。

そして、具体的な手続きとして、「ハローワークで求職の申し込みを行い、転職活動をしていること」が必要です。ハローワークでの登録を済ませ、求人への応募や面接を受けるなどの活動を継続的に行い、失業認定を受けることで給付が開始されます。

自己都合退職と会社都合退職の違い

失業給付の受給資格を判断する上で、離職理由が「自己都合退職」か「会社都合退職」かによって、必要な雇用保険被保険者期間が大きく異なります。

  • 自己都合退職の場合: 離職日以前2年間に、被保険者期間が通算12ヶ月以上必要です。転職や結婚、家庭の事情など、ご自身の意思で退職を選んだ場合に適用されます。
  • 会社都合退職の場合(特定受給資格者): 倒産や解雇など、会社側の都合で離職した場合は、離職日以前1年間に被保険者期間が通算6ヶ月以上あれば受給資格があります。

このように、会社都合退職の方が、より短い被保険者期間で受給資格を得られる仕組みとなっています。ご自身の退職理由がどちらに該当するかは、失業給付の申請において非常に重要なポイントとなるため、離職票などで確認が必要です。

詳細な違いを以下の表にまとめました。

離職理由 被保険者期間の条件
自己都合退職 離職日以前2年間に、通算12ヶ月以上
会社都合退職(特定受給資格者) 離職日以前1年間に、通算6ヶ月以上

特定理由離職者とは?特別な事情での離職

自己都合退職と会社都合退職の中間的な位置づけとして、「特定理由離職者」という区分があります。これは、自己都合退職ではあるものの、やむを得ない正当な理由によって離職した場合に適用されるものです。

例えば、契約期間満了による退職(契約更新の希望があったにもかかわらず更新されなかった場合)、病気や負傷による退職、家族の介護や転居を伴う配偶者の転勤、会社からの退職勧奨に応じた場合などがこれに該当します。

特定理由離職者の場合、被保険者期間の条件は「離職日以前2年間で被保険者期間が通算12ヶ月以上」と、原則として自己都合退職と同様になります。しかし、給付制限期間の有無など、自己都合退職よりも優遇されるケースがあります。自身が特定理由離職者に該当するかどうかは、ハローワークで個別に判断されるため、該当する可能性のある方は、具体的な事情を詳しく説明することが重要です。

雇用保険、いくらもらえる?計算方法と受給期間

基本手当日額の計算方法

失業給付の金額は、離職前の給与額や年齢、雇用保険の被保険者期間などによって異なり、一般的に「離職前の給与の50%〜80%」が支給されます。この1日あたりの支給額を「基本手当日額」と呼びます。

基本手当日額は、離職した日の直前の6ヶ月間に支払われた賃金(賞与などを除く)を180で割って算出される「賃金日額」に、一定の給付率を乗じて計算されます。給付率は年齢や賃金日額によって異なり、賃金が低いほど給付率が高くなる傾向があります。

例えば、月給30万円(ボーナスなし)の人が自己都合退職し、被保険者期間が10年の場合、賃金日額は概算で10,000円となり、基本手当日額は約5,400円程度となります。この計算は複雑なため、最終的な金額はハローワークで確認しましょう。

支給額の上限・下限と改定

失業給付の基本手当日額には、支給額の「上限額」と「下限額」が設定されており、極端に高額になったり低額になったりしないように調整されています。これらの金額は、景気動向や賃金水準に合わせて毎年8月1日に改定されます。

特に重要な情報として、2025年8月1日からは、基本手当日額の下限額が年齢に関係なく2,411円に統一される予定です。これは、すべての受給者が一定水準以上の生活保障を受けられるようにするための措置です。

上限額も年齢別に定められており、例えば60歳未満と60歳以上65歳未満では異なる上限が設定されています。ご自身の年齢や賃金日額がこれらの上限・下限に該当するかどうかによって、最終的な支給額が変わる可能性があるため、注意が必要です。

給付日数:離職理由・年齢・被保険者期間で変わる

失業給付を受け取れる期間、いわゆる「給付日数」は、離職理由、離職時の年齢、そして雇用保険の被保険者期間によって細かく定められています。

会社都合退職(特定受給資格者)の場合、給付日数は90日〜330日と長く、特に長期間雇用保険に加入していた方や、高齢で離職された方ほど長くなる傾向があります。これは、再就職が困難なケースへの手厚い支援を目的としています。

一方、自己都合退職の場合は、給付日数は90日〜150日程度が一般的です。被保険者期間が長くなるほど給付日数も増えますが、会社都合退職に比べると短くなります。具体的な給付日数は、ハローワークで受給資格決定の際に通知されることになります。

以下に、一般的な給付日数の目安をまとめました。

離職理由 被保険者期間 給付日数(目安)
自己都合退職 10年未満 90日
10年以上20年未満 120日
会社都合退職 1年未満 90日
1年以上5年未満 90日~180日
20年以上 150日~330日

※上記はあくまで目安であり、年齢などの要因によって変動します。

自己都合退職・月途中退職でも受給できる?

2025年4月からの給付制限期間短縮

自己都合退職で失業給付を受けようと考えている方にとって、大きな朗報があります。2025年4月1日より雇用保険法が改正され、自己都合退職者の給付制限期間が大幅に短縮されることになったのです。

これまでは、ハローワークでの受給資格決定後、7日間の待期期間に加えて、さらに2ヶ月間の給付制限期間がありました。つまり、実際に失業給付を受け取れるようになるまで、約2ヶ月半かかる計算でした。

しかし、改正後は7日間の待期期間に加え、給付制限期間が「1ヶ月」に短縮されます。これにより、自己都合退職の場合でも、申請から失業給付の受給開始までの期間が約1ヶ月半と、以前より約1ヶ月も早く給付を受け取れるようになります。これは、自己都合退職で再就職を目指す方にとって、経済的な負担を軽減し、よりスムーズな求職活動を後押しする大きな変更点と言えるでしょう。

教育訓練受講による給付制限解除の新制度

2025年4月からの改正では、給付制限期間の短縮だけでなく、さらに画期的な新制度が導入されます。それが、「教育訓練を受講することで給付制限期間が解除される」制度です。

この制度を活用すれば、失業期間中に国が指定する教育訓練(職業訓練や特定の資格取得講座など)を受講することで、自己都合退職であっても、本来1ヶ月ある給付制限期間が免除される可能性があります。

これは、求職者が単に手当を受け取るだけでなく、積極的にスキルアップやキャリアチェンジを目指すことを支援するための制度です。教育訓練を通じて新たな知識や技能を習得し、より有利な条件で再就職を目指しながら、経済的な支援も早期に受けられるという、まさに一石二鳥の仕組みと言えるでしょう。対象となる教育訓練や、解除の条件についてはハローワークで詳細を確認してください。

給付制限が3ヶ月になるケース

給付制限期間が短縮される一方で、特定のケースではこれまで通り、あるいはさらに長い給付制限が課される場合もありますので注意が必要です。

まず、「自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇(重責解雇)」の場合、例えば会社の金銭を横領したり、職務規律を著しく違反したりといったケースでは、自己都合退職であっても給付制限期間は3ヶ月となります。これは、故意または重大な過失による離職には厳しい措置を取るという方針に基づいています。

また、「退職日から遡って5年以内に2回以上、自己都合退職をして受給資格決定を受けた場合」も、給付制限期間が3ヶ月となります。これは、短期間での自己都合退職を繰り返すことで、安易に失業給付を利用することを防ぐための措置と考えられます。これらの例外に該当しないよう、退職理由やこれまでの受給履歴には十分注意しましょう。

雇用保険の残日数と、退職後の注意点

受給手続きの流れと必要書類

失業給付を受け取るためには、定められた手続きを順序通りに進める必要があります。まずは、退職後に会社から受け取る「離職票」を必ず準備してください。

その他、身分証明書、マイナンバーカード、証明写真(縦3cm×横2.5cm)、本人名義の預金通帳などが必要です。これらの書類を揃えたら、お住まいの地域を管轄するハローワークへ行き、求職の申し込みと失業給付の受給資格認定の手続きを行います。

手続き後、7日間の「待期期間」があります。この期間が終了すると、雇用保険説明会への参加が必須となり、その後は原則として4週間に1度、ハローワークで失業の認定を受けることで給付が開始されます。これらのステップをきちんと踏むことで、スムーズに失業給付を受け取ることができます。

待期期間中のアルバイトと収入に関する注意

失業給付の手続きを済ませた後、最初の7日間は「待期期間」と呼ばれ、この期間中にアルバイトなどで働いて収入を得ると、待期期間が延長される場合があるため、特に注意が必要です。

待期期間後、給付制限期間(自己都合退職の場合1ヶ月、2025年4月以降)や給付期間中についても、求職活動を妨げない程度のアルバイトであれば認められる場合がありますが、勤務時間や収入額によっては失業給付が減額されたり、支給対象外となったりすることがあります

例えば、1日の労働時間が4時間以上の場合や、一定額以上の収入があった場合は、失業給付の支給対象外となる日が発生します。アルバイトをする際は、必ず事前にハローワークに相談し、正直に申告することが重要です。不明な点があれば、自己判断せずハローワークの担当者に確認するようにしましょう。

再就職支援制度とスキルアップの活用

失業給付は、あくまで再就職までの生活を支えるためのものであり、「求職活動を行っていること」が受給の絶対条件です。この期間を有効活用し、早期の再就職を目指すことが大切です。

ハローワークでは、求人情報の提供だけでなく、職業相談や履歴書の書き方・面接対策セミナーなど、様々な再就職支援サービスを提供しています。積極的にこれらのサービスを利用しましょう。

さらに、「教育訓練給付金制度」の拡充など、失業中のスキルアップを支援する制度も充実しています。これらを活用すれば、給付を受けながら新たなスキルを習得し、再就職における自身の市場価値を高めることが可能です。最新の情報は、厚生労働省やハローワークのウェブサイトで随時更新されていますので、必ずご確認ください。